あじさいのたまご
   

タイ自動車市場は長年、日本車が9割近いシェアを誇ってきた。だが、近年は中国EV(電気自動車)の攻勢が激しくなっている。中国EVが、タイ市場へ本格的に進出したのは23年だが、同年の新車登録で前年から倍増の13.%のシェアを獲得した。大幅な値引きが原因だ。こうして日本の独占状態が揺らぎかけたが、中国EV企業は倒産騒ぎを起こして信用失墜。「やっぱりトヨタ」と、さらに評価が高まっているという。

 

『日本経済新聞 電子版』(10月14日付)は、「トヨタ、タイに最安HV投入し攻勢 中国EV信用低下の隙を突く」と題する記事を掲載した。

 

トヨタ自動車は2025年8月下旬、タイで小型セダン「ヤリスエイティブ」のハイブリッド車(HV)を発売した。年内は限定価格の71万9000バーツ(約333万円)で販売する予定で、これまでタイ市場に投入しているHVの中で最安だった小型多目的スポーツ車(SUV)「ヤリスクロス」よりも約1割安い。出足は好調だ。関係者によれば、発売後の8月末に現地で開かれた展示即売会でも、計画を上回る受注を得ている。

 

(1)「日本車が、寡占状態で安定して高い利益率を確保してきたタイ市場に、中国メーカーは中国国内で抱える大量の在庫のはけ口を求めて上陸し、値下げ合戦を展開してきた。中国メーカーの引き起こした価格破壊によって市場が荒れると同時に、市場規模の縮小もタイでは進んでいる。原因は家計債務の膨張とローン審査の厳格化だ。トヨタ自動車のタイ法人のまとめによれば、24年の新車販売台数は57万2675台と前年比で26.%も減少。25年17月の販売台数も0.%減の35万1997台と低迷が続いている」

 

タイ自動車市場は従来、日本車の天国であった。そこへ中国が異常なまでの値引きで参入してきた。折からの家計債務抑止の政策もかさなって、タイ市場は一転して厳しい競争市場に変った。

 

(2)「逆境の中で、スズキSUBARU(スバル)は現地生産からの撤退を、ホンダ日産自動車はタイでの生産能力の縮小を決めた。巨大市場インドへのシフトなどグローバル戦略の見直しもあって、日本勢の多くが撤退や縮小に踏み切る一方で、トヨタは粘り強い防戦をタイで展開している。中国EVが、薄利多売を繰り広げる縮小市場においてもシェアを微増させ、首位を維持してきた」

 

中国車の常識を超える値引き競争の煽りを受けて、スズキSUBARU(スバル)は現地生産から撤退。ホンダ日産自動車は、タイでの生産能力の縮小を決めた。こうした中で、トヨタは巻返しを図って逆にシェアを高めている。

 

(3)「トヨタの強さの源泉の一つに、網羅的に車種を用意するフルラインアップ戦略がある。ユーザーにトヨタの用意する多種多様なクルマの中で、より上位車種へと乗り換えていってもらうのが狙いだ。今回、その入り口となる小型セダンで、「ハイブリッド最安値」という明確なメッセージを打ち出した。野村総合研究所タイの山本肇プリンシパルは、「中国EVのこれ以上のシェア拡大に歯止めをかけるきっかけになり、トヨタが首位を維持することにつながる」と注目する」

 

トヨタの強みは、抜群の財務力によってびくともしない経営体質にある。これが、フルラインアップ戦略を可能にさせている。顧客の取りこぼしがないのだ。

 

(4)「タイ市場でシェアを急拡大させてきた中国EVだが、このところは勢いより粗さが目立つようになっている。代表的なのは「哪咤汽車(NETA)」ブランドのEVを展開する合衆新能源汽車の破産に伴う混乱だ。NETAは、主力商品のコンパクトハッチバック「NETA V」で50万バーツ(約232万円)程度という手頃な価格で支持を集めてきたが、6月に合衆新能源汽車の経営難のニュースが流れ、タイ法人も事業を停止。24年に始めたばかりの現地生産も取りやめた。ディーラーへのインセンティブ(販売奨励金)の支払いが止まり、修理用部品の不足からユーザーがアフターサービスを拒否されるなど、社会問題化している」

 

中国EVは、過剰な値引き競争で体力を疲弊している。タイで中国EVの代表的ブランドであったNETAが、経営難に陥る事態となって、中国EVの信用力はガタ落ちだ。

 

(5)「23年以来、NETAを1500台余り販売してきたという首都バンコク近郊パトゥムターニー県でディーラーを営むケーさん(54)は天を仰ぐ。本来なら修理代はNETA側が100%負担する枠組みなのだが、現在はユーザーからの修理依頼に費用を持ち出して応じているという。「中国系とのビジネスはもっと慎重に考えるべきだった。やはり日本や韓国のブランドの方が、安心感がある」(ケーさん)。中国系EVのタイ市場開拓の先頭を走る比亜迪(BYD)にも逆風が吹く。当初は歓迎されていた大胆な値引きが、反発の対象になっているのだ」

 

NETAの販売代理店は、NETAの経営難に伴い修理代費用を負担させられる羽目になった。本来なら修理代は、NETA側が100%負担する契約であった。とんだ事態に飛び込む結果になった。BYDにも逆風が吹いている。

 

(6)「BYDは、主力商品のSUV「ATTO3(アットスリー)」では、タイに進出した22年11月時点で標準モデルが約119万バーツ(約552万円)だったのが、25年9月時点には約70万バーツ(約325万円)になっている。値引きが繰り返され3年足らずで4割以上も販売価格が下がったことに、購入者は反発を覚えている。24年には再販価格の低下という悪影響を受けたとして、集団訴訟の可能性を探る動きも一部に現れた」

 

BYDは、中国本土でも値引きの筆頭である。過剰在庫を抱えて現金化を迫られている結果だ。値引きが繰り返されて、3年足らずで4割以上も販売価格が下がるという異常さである。購入者の間には、集団訴訟の可能性を探る動きもあるほどだ。