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ロシアとウクライナの戦争は、ロシアのプロパガンダが吹聴する筋書きとは逆に、これまでのところウクライナが勝ち続けている。トランプ米大統領でさえ9月23日、自身のSNSで「ウクライナは欧州連合(EU)の支援を受けて戦いに勝利する立場にある」と表明した。ロシア寄りであったトランプ氏が、米情報部門からの報告でようやく真相を知ったと指摘されている。

 

『日本経済新聞』(10月15日付)は、「ウクライナは勝利している」と題する歴史学者ハラリ氏の寄稿を掲載した。ハラリ氏は、1976年イスラエル生まれ。歴史学者、哲学者。著書に『サピエンス全史』『NEXUS 情報の人類史』など。

 

ロシアとウクライナの戦争は、ロシアのプロパガンダが吹聴する筋書きとは逆に、これまでのところウクライナが勝ち続けている。ロシアは22年2月24日、ウクライナの全土を制圧して独立国家としての存在に終止符を打つべく全面攻撃に乗り出し、戦争は激しい局面へと入った。

 

(1)「ウクライナ軍は戦力で劣るにもかかわらず、ロシア軍のキーウ攻撃を退け、世界を驚かせた。その後22年の夏の終わり頃、反撃に転じた。東部ハルキウ州と南部ヘルソン州の2カ所で大きな勝利を収め、22年の侵攻当初にロシア側に占領された領土の多くを解放した。それ以降、両陣営とも限定的な前進はあったにせよ前線はほとんど動かなくなった。ロシアは絶え間なく前進しているという印象を与えようとしているが、22年春以降、キーウやハルキウ、ヘルソンといった戦略的に重要な大都市の攻撃目標を一つとして制圧できていない」

 

軍備で劣勢のウクライナ軍が、ロシア軍の侵略に対抗して戦える源泉は、「戦闘方式」にある。NATO軍仕込みで、前線部隊に作戦指揮を任せる自主性だ。ロシア軍は、作戦司令部の命令で戦うので前線部隊には何の自主性も与えられていない。中国軍も、全く同様だ。

 

(2)「25年に入ってから、兵士の死傷者数20万~30万人という代償を払ってロシア軍がなんとか獲得できたのは、前線周辺のわずかな領土だ。その面積は最も信頼できる複数の情報源によると、ウクライナ全土の約0.%にすぎない。ロシア軍が、25年のスピードで侵攻を続けるとすると、ウクライナの残りの領土すべてを征服するのに理論上、約100年の歳月と数百万人の死傷者が必要となる。それどころか、ロシアが25年8月時点で支配していたウクライナ領土は、22年8月時点より小さい」

 

ロシア軍が、無謀な作戦命令で多くの犠牲者を出している。旧日本軍と同じで、司令部の作戦命令で戦っているからだ。

 

(3)「ウクライナにとって適切な場面で戦術的に撤退して軍の体力と兵士の命を温存することは、軍事的に理にかなっている。ロシア側はその間、あまり意味のない前進を勝ち取ろうと高い代償を払って攻撃を仕掛け、自ら流血と疲弊を繰り返すことになるからだ。ウクライナは徹底抗戦でロシアを膠着状態に追い詰めた、というのが本当のところだ。オーストラリア軍の退役少将ミック・ライアン氏は近著の中で、こう記している。もし03年にイラクに侵攻した米軍が3年以上かけてもイラク全土の20%しか制圧できず、死傷者が100万人に達していたとしたら、これを米軍の勝利と呼ぶ人はいるだろうか。ロシアが置かれた状況はそのようなものだ、と」

 

ウクライナは、前線指揮官の判断で戦術的に撤退し、軍の体力と兵士の命を温存している。言うならば、義経がみせた壇ノ浦での「八艘飛び(はっそうとび)」である。現場に合せた戦い方を採用している。

 

(4)「北大西洋条約機構(NATO)はウクライナに兵器や他の物資を大量に供与しているが、NATO軍が公式に実際の戦闘に加わったことはない。ウクライナ軍は22年、限られた兵器だけでキーウ、ハルキウ、ヘルソンの勝利を手にしたのだ。当初から全面支援を受けていれば、ロシアが軍隊と戦時経済を立て直すいとまを与えず、22年末か23年夏には勝利していたかもしれない」

 

NATOは、ロシア軍の動向を逐次、ウクライナ軍へ通報している。これが、ウクライナ軍が敏捷に動ける要因である。

 

(5)「ウクライナ防衛の最大の弱点は今も、同国を支援する西側諸国の考えだ。制空権と制海権の掌握に失敗したロシアは、地上でもウクライナの防衛線を突破できない以上、米欧各国の意志をくじいてウクライナを窮地に追い込むしかない。「自国の勝利は必然」とのプロパガンダで米欧各国の意欲をそぎ、各国がウクライナ支援から手を引けば、ウクライナが降伏を余儀なくされると期待している。こんなプロパガンダに屈すれば、ウクライナにとっては悲劇だ。またNATOの信頼も失墜し、強まるロシアの脅威に対して最も優れた防衛力を持つウクライナを失うことになる」

 

ウクライナ軍100万は現在、欧州で最強軍隊とされる。NATOは、このウクライナ軍がロシアに屈することになれば、どれだけ痛手であるか明白だ。ウクライナ軍への軍備支援は、NATO自身の防衛にもなっている。