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EV企業の生き残り1割

普及率10%で需要屈折

企業のリコール認識希薄

トヨタが全固体電池発売

 

急成長を遂げてきた中国自動車市場は今、大きな転換点に立たされている。これまでの成長過程は、技術基盤が未熟なまま政府補助金だけに支えられたものであった。EV(電気自動車)は、内燃機関のエンジン車に比べて「車づくり」がはるかに容易である。こうした背景もあって、補助金をテコにして大量のEVメーカーを生み出した。「スマホに車輪を付けた」といわれるように、スマホ熱がEV進出欲を刺戟したのだ。こうした安易な動機が、結果的に中国自動車市場に大きな混乱をもたらすことになった。

 

中国EVは、次のような構造的欠陥を抱えている。

1)品質劣化=EVの事故多発

2)過剰設備=需要の2倍もの設備

3)内巻競争=コスト割れ販売価格

 

中国自動車市場は世界一の販売台数だが、上記のような3大問題点を抱えている。決して健全な発展を遂げたものでなく、あちこちに「落し穴」がみられ、「図体」だけが大きい市場である。中国政府は、これまでメーカーと消費者の両方に補助金を与えて、速成の「自動車大国」に育てたが、26年からはこの育成政策を大転換させることになった。ようやく「補助金」頼りの自動車政策に危惧の念を持つに至ったのであろう。具体的には,次の3点である

 

1)補助金の打切り

2)EV輸出の許可制

3)支払手形60日規制(25年6月実施)

 

これら3点は、中国自動車業界の「アキレス腱」でもある。野放図な補助金による企業進出支援や設備増強支援が、過剰生産をもたらしたからだ。国内需要以上の過剰な生産により、弱小メーカーは輸出中心戦略を展開したが、技術的未熟さから海外での信用を落とす結果となった。関西大阪万博では、中国から大量のEVバスを導入したが、多くの故障を引き起した。こうした事態で、中国政府はEV輸出で認可制をとることになった。技術面での不備を事前にふるい落とすのだろう。

 

中国自動車業界にとっては、「支払手形60日規制」が最も痛手である。中国の支払手形は、200日以上が一般的である。サプライヤーは、製品を納入してから早くても半年先にしか、換金できない支払手形を受け取らされてきた。メーカーは、製品を販売して資金を回収しながら、サプライヤーへの支払を半年先へずらせて、金融利益を得てきたのである。この「手形決済遅らせ」が、60日間へ短縮させるのは、自動車企業にとって金利負担を増すことになる。これが、過剰生産を止める大きな理由になった。

 

EV企業の生き残り1割

中国政府は、上記のように補助金政策の打切りなどによって,自動車業界の「病巣」切開へ踏み出すが、現在の中国EV業界を一瞥しておく必要があろう。

 

中国で事業展開している自動車メーカー169社のうち、市場シェア0.1%未満の企業は93社に上る。今年前半、中国の上場自動車メーカー17社のうち、黒字は11社だけだった。つまり、169社のうち黒字は11社と推定される。未上場で黒字企業の存在は考えにくい。黒字体質であれば、競って上場しているはずだ。

 

補助金が打ち切られると、最初に市場シェア0.1%未満の企業93社が整理淘汰の対象になろう。最終的に生き延びられるのは、上場企業17社程度になるとすれば、生存率は10%である。これは、「EVバブル崩壊」と呼んで差し支えない現象である。EVが、バブル崩壊する点では、不動産バブルと双璧になる。

 

ここで、不動産バブルとEVバブルの崩壊過程を比較して共通要因を摘出しておきたい。

 

項   目       不動産バブル         EVバブル

 

1)成長の原動力   土地売却・融資拡大・都市化  補助金・支払手形・政策誘導

2)地方政府の役割  土地供給・財源確保      補助金交付・産業誘導

3)資金調達モデル  借入れ・シャドーバンキング  手形・延べ払い・信用膨張

4)崩壊の引き金   借入規制・恒大危機      手形60日規制・値下げ競争

 

不動産バブル崩壊とEVバブル崩壊の両要因を取り出すと、この両者には奇妙な点で共通する。地方政府が、「バブルの生みの親」である点だ。不動産バブルでは、歳入を増やす目的で地価を煽った。EVバブルでは、不動作バブルで得た歳入増を補助金として支給した。こうみてくると、不動産バブルもEVバブルも、「勧進元」が地方政府で共通するのは必然の結果である。

 

崩壊の引き金は、両バブルともに金融措置である。不動産は政府の借入れ規制の発動によって、急速に企業の借入れが困難になった。EVバブルは、支払手形の期限60日規制の発動である。平均的なEV業界の支払手形サイトは、200日をはるかに超えていた。それを一挙に60日規制に切替えたので、現金回収を急がざるを得なくさせて、新車の値下げ競争に拍車をかけた。まさに、中国政府が言うところの「内巻」という下落一方の危機的な値下がりをみせたのである。

 

普及率10%で需要屈折

中国政府には、EV市場をじっくりと育てる発想がなかった。メーカーと消費者へ「ダブル」補助金を与えて、強引な成長策を採用した。これによって、中国の国威発揚目的を実現させるという、政治目的が隠されていたのだ。それが、大きな誤算を生んだ理由である。耐久消費財の場合、普及率は一本調子で上昇し続けるものではない。普及率16%までの「初期市場」から、次の本格的な息の長い「主流期」へ入る前に「深い溝」(キャズム)が存在する。これはマーケッティング理論では常識とされている。(つづく)

 

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