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日米は「良縁」で結ばれる

日鉄の合併が新時代を生む

日米は戦略的統合の段階へ

米国市場が日本の「内庭」

 

米国の相互関税が生んだ、日本の対米直接投資5500億ドル(約85兆円)は、29年末までに実行する。対象業種は、半導体、医薬品、鉄鋼、造船、重要鉱物、航空、エネルギー、自動車、AI・量子技術など9業種だ。日本資本が,米国製造業の「中核分野」へ大手を振って参入する、過去にない偉業が始まる。日本の技術と資本が、米国を圧倒するという意味だ。出足は、好調である。

 

日米共同ファクトシートでは、10月末までに約3900億ドル(約71.5%)が事業候補として盛り込まれた模様だ。25年末までに、5500億ドルに達することは確実な情勢である。引き続いて、「二次募集」も検討されているほどの盛況ぶりである。米国では、日本企業「ウエルカム」という状況になっている。

 

大変な人気を集めている理由は何か。米国政府が、可能な限り、日本企業を外国企業よりも優先的に選定する方針を明らかにしている影響もある。州政府が、地元雇用創出と技術導入を両立させるため、日本企業との連携を歓迎しているのだ。この裏には、先に決定した日本製鉄とUSスチール合併が反響を呼んでいる。トランプ大統領は、この合併が米国経済活性化へ大きく資すること認識したのだ。雨降って地固まる、という状況である。

 

日本製鉄が、USスチール買収時にトランプ米政権に約束した巨額投資が動き出し始めている。これが、米国の日本企業への信頼を高めるテコになった。日鉄は、米国でデータセンターなどに使われる高級鋼の量産へ着手する。USスチールが、生産設備を新設する。

 

USスチールは、盛り上がっている人工知能(AI)ブームの取り込みに焦点を合わせている。巨大テクノロジー企業の投資需要を狙い、時流製品の需要獲得にいち早く動いているのだ。28年までに、合計110億ドル(約1兆7000億円)を投資する計画である。製鉄所の新設なども含めれば、最終的には140億ドル(約2兆2000億円)以上の大型投資となる見通しである。こういう動きを逐一知っているトランプ政権は、日本企業へさらに大きく肩入れする動機になっている。

 

日米は「良縁」で結ばれる

米国はまた、経済のアキレス腱であるレアアースで、日本の南鳥島で深海のレアアース資源によって救われる。こうした度重なる日本との縁によって、米国は緊急事態を乗り切れる見通しが強くなってきた。対米5500億ドル投資の枠が、年内に満杯になる見通しが立ち、26年には「二次募集」が取り沙汰されているのは、トランプ政権の「宣伝文句」が効果を現している。

 

例えばトランプ氏は、「利益の9割は米国が取る。日本は1割」というフレーズが米国世論を引きつけている。各州が競って、日本企業の誘致に名乗り出ている背景だ。この宣伝通りとしたら、日本企業は米国に搾取されるだけである。「現代の企業奴隷」に成り下がる。これは、米国の宣伝上手の結果であって、日本企業は国際会計基準通りの利益を保証されている。ならば、米国はなぜ利益の9割が米国という、突飛なことを言い始めたのか。そのカラクリは次のようなものだ。

 

米国政府は、日本企業の投資によって得られる利益(付加価値)のうち、90%は米国が享受すると説明している。これは、米国の労働者が受け取る賃金・税務署へ納められる税金・地域社会が受ける利益のようなものを意味している。この結果、日本側の利益は10%程度にとどまるという「概念図」である。日本側の利益10%程度が、「純利益」と理解すれば「なるほど」と納得できるのだ。米国が、「社会的利益」を強調する一方で、日本は「企業収益」を冷静に見ているという構図である。

 

日本企業が、競って米国進出を目指している背景は何か。

 

1) 手元資金が豊富でありリスクが取りやすい。

最新の法人企業統計(2025年4〜6月期)によると、製造業の現預金残高は約84兆2000億円に達している。前年同期比で約2.1%増だ。製造業全体として、これだけの資金余力がある以上、投資を見送る企業があるとすれば、それこそ「なぜ」という質問対象になるほどだ。

 

2)日本国内市場の成長余力に比べ、米国市場の持つ魅力は世界最高である。

米国は、世界最大の消費市場かつ技術インフラが整った環境であり、特にAI・半導体・エネルギー分野では成長余地が大きい。日本企業にとっては、国内の停滞を補う「成長の出口」として魅力的存在である。

 

日本企業は、米国での現地生産を進めることで、「Made in USA」ブランドを獲得し、米国政府の補助金や優遇制度を活用できる。これは、仮に利益の一部が米国へ帰属するとしてもその代わりに、安定した事業基盤を構築できる魅力は何物にも代えがたい戦略だ。トランプ政権は、関税引き上げや規制強化をちらつかせることで、海外企業に圧力をかけている。日本企業は、投資を通じて「友好国」としての立場を確保し、リスクを回避する意図もあろう。

 

こういう見通しの裏に、これまで30年間続いた「自由貿易」は、歴史的にみれば例外的な時期であったという認識が強まっている。自由貿易の行き過ぎが、中国のような「異端国家」を生んだとする痛烈な反省の弁も聞かれる。同じ価値観の国家が、同士国家として安定した経済圏を形成するのがベターな選択である。こういう認識が、自由主義国家の間に強まっているのだ。その原型は、米国が脱退したTPP(環太平洋経済連携協定)にある。米国も、いずれはTPPの価値に気付くであろう。(つづく)

 

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