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トランプ米大統領は、高関税措置を自画自賛してきたがここへきて揺れている。米国内で高まる物価上昇への不満に対応するため、14日に多くの農産物・食品の関税を大幅に引き下げる方針転換を余儀なくされているからだ。さらに、「トランプ関税」の収入を原資に、富裕層を除く米国民に1人当たり2000ドル(約30万円)を支給するバラマキ構想までぶち上げている。実現には多くの壁が立ちはだかる。

 

『毎日新聞』(11月17日付)は、「正反対に振れた『トランプ関税』 バラマキ構想も『実行困難』か」と題する記事を掲載した。

 

トランプ氏は14日夜、「一部の食品価格を引き下げたい。我々がやろうとしているのは関税の引き下げだ。場合によっては、店頭価格がかなり下がるだろう」と大統領専用機内で記者団に説明した。

 

(1)「トランプ氏はこの日、牛肉やバナナ、トマトなど幅広い農産物・食品について、世界各国に対する「相互関税」の対象から外し、関税を大幅に引き下げる大統領令に署名した。米紙『ワシントン・ポスト』とABCニュース、調査会社イプソスが10月24~28日に実施した世論調査によると、トランプ政権の関税政策の支持率は33%にとどまった。不支持率は65%で、主要政策別で最大。トランプ政権は「関税はインフレを招かない」とかねて主張してきたが、11月4日のニューヨーク市長選などでライバルの民主党候補が勝利する中で焦りを深めた模様で、結局、関税引き下げで物価抑制を図る正反対の措置を取ることになった」

 

トランプ氏は、物価上昇による国民の生活圧迫が顕著になると共に、相互関税の一部撤回を行わざるを得なかった。これは、トランプ氏の支持率低下となって表れている。

 

(2)「実は、「トランプ関税」を巡って世論の支持を得ようとするトランプ氏の試みは、他にもある。発端は、9日の自身のソーシャルメディアへの投稿だった。「関税に反対する人々は愚か者だ」と記したうえで、巨額の関税収入や大規模な対米投資、史上最高値を更新する株価を経済政策の「成果」として誇った。そして、1人当たり最低2000ドルの「配当金」を支払う構想を打ち出した。支給対象や方法ははっきりしない。ベッセント財務長官は米メディアで「年収10万ドル(約1540万円)未満」の人に支払う可能性に触れたが、子供も対象となるかは示さなかった。「配当金」の規模感は定まっていない」

 

トランプ氏は、関税を財源に国民一人当たり2000ドルを支給するとぶち上げた。本来は、財政赤字削減目的で相互関税を実施したはずが、バラマキ財源に化けようとしている。

 

(3)「トランプ氏は14日、支給時期について「今年ではなく、来年のある時期になる」との見通しを記者団に示した。来秋の中間選挙を前に、世論の支持向上につなげる思惑が透ける。だが、実現のハードルは高そうだ。米シンクタンク「タックス・ファンデーション」のエリカ・ヨーク氏はX(ツイッター)で、ベッセント氏が示した「年収10万ドル」で線引きして子供を除外した場合でも、対象は約1億5000万人にも上り、約3000億ドルが必要だと指摘する。米財務省によると、9月末時点の関税関連収入は1950億ドル。必要額と大きな開きがあり、ヨーク氏は「実行困難」とみる」

 

トランプ氏は、2000ドル支給時期は来年になるとしている。中間選挙目当てである。現実にはこの2000ドル支給は実現困難とみられている。

 

(4)「さらに、今回の農産物関税の大幅引き下げで、関税収入は当初の設計より減少すると見込まれる。将来の収入を元手に国債発行などで賄う選択肢も考えられるが、財政悪化につながる懸念もある。2000ドルの「配当金」は家計に「恩恵」と思えるが、かえってインフレを助長する恐れもある。セントルイス連銀の推計によると、コロナ禍での米国の景気刺激策はインフレ率を年間2.6ポイント押し上げた。経済の状況は当時と現在で異なるが、英調査会社オックスフォード・エコノミクスのエコノミストは米CNNの取材に、過度の「配当金」によって「景気を過熱させるリスクがある」と警鐘を鳴らした」

 

2000ドル支給案は、かえってインフレを助長する恐れがあると指摘されている。こうなると、トランプ構想は宙に浮いてしまうだろう。

 

(5)「トランプ政権が、一方的に推し進めることも難しそうだ。ベッセント氏や国家経済会議(NEC)のハセット委員長は今回の構想を実行に移す場合、立法措置が必要になるとの認識を示している。懸念点が拭えない中、すんなりと議会の承認を得られる見通しは立っていない。トランプ関税の枠組み自体が崩れる懸念も強まっている。連邦最高裁が5日に実施した「相互関税」を巡る訴訟の口頭弁論では、リベラル派だけでなく多数派を占める保守派の判事からも、大統領権限で全世界一律の高関税措置を講じる正当性に懐疑的な見方が示された。早ければ年内に下される判決でトランプ政権側の敗訴となれば、自動車や鉄鋼・アルミニウムなどを対象とした品目別関税は残るが、「数百億ドルの資金源を失うことになる」(米ニュースサイト「アクシオス」)」

 

2000ドル支給案は、国会承認が必要になる。中間選挙を前に、インフレ気味の案に共和党がすんなり賛成するかも不明である。最高裁の相互関税判決も決め手になる。違憲となれば、トランプ氏の立場は一層追い込められるであろう。