軽視できない自動車ローン
1970年代と現在を比較
高い企業退出率の意味は?
今後3~5年は危険期間へ
米国経済は、株価の高騰によって一点の曇りもないような錯覚を与えていたが、底流には次第に大きな黒い塊が生まれつつある。それは、サブプライムローンという低所得層向けローンで不良債権が発生し、ローン貸付企業の倒産が目立ってきたことだ。サブプライムローンは、一般の銀行ローンと異なり融資条件が緩和されている一方で、高金利という壁が立ちはだかっている。景気実勢が悪化して所得が伸び悩む状況になると、元利金を払えない債務者が増えて貸主が破綻する。
サブプライムローンといえば、誰でも頭に浮かぶのは2008年のリーマンショックであろう。原因は、住宅向けサブプライムローン債権の焦げ付きであった。この債権が、証券化されて世界中へ売りさばかれたことで、サブプライムローンは一躍、「悪役」となって名をとどろかせた。これを機に、金融機関の融資基準が厳格化された。今度は、住宅販売金融でなく、自動車販売金融や中小企業金融としてサブプライムローンで焦げ付きが増えている。貸主は、ノンバンクのプライベートクレジットである。
現在、プライベートクレジットが危機の矢面に立たされている。前回の住宅サブプライムローンは資金源が金融機関であった。今回のサブプライムローンは、プライベートクレジットである。同じサブプライムローンでも、今回の方が深刻度は大きくなっている。前回の融資規模は、1兆3000億ドル程度とされた。今回は、2兆ドルとも言われるように、規模が大きくなっている。
プライベートクレジット危機論は突然、持ち上がったのではない。今年の春頃から、その危険性が指摘されてきた。例えば、英誌『エコノミスト』(2025年5月31日号)は、「姿変えた米金融に迫る危機」と題して、ノンバンクの資産運用会社やヘッジファンド、未公開企業に特化した投資会社、トレーディング会社などが貸出を急激に増やしていることの危険性に注目していた。『フィナンシャル・タイムズ』(11月12日付)は、社説で「プライベートクレジット市場に鳴る警鐘」と論じている。
最近では、米国の著名債券投資家であるガンドラッグ氏が、プライベートクレジット市場が次の世界的な混乱を引き起こす可能性を指摘している。『ブルームバーグ』(11月17日付)で、「1兆7000億ドル(約273兆円)規模に膨らんだプライベートクレジット市場が『ごみのような融資』に手を染め、2008年当時のサブプライム住宅ローン証券化と同様のあやうさをはらんでいる」と指摘したのだ。
軽視できない自動車ローン
2008年のサブプライムローンは、融資対象が住宅であった。今回のサブプライムの融資対象は自動車販売などである。一見すると、融資対象金額が全く異なっている。自動車価格は、住宅価格の1割程度であろう。となれば、誰でも「破綻しても大した影響はないだろう」と思いがちである。だが、住宅に比べた「小口融資」であることから、高い金利を課していたことが十分に想像できるのである。
例えば、プライベートクレジットが資金を提供する自動車ローンは、サブプライム層向けで、金利は10%〜20%と極めて高いのだ。気軽に融資を受けられるが、これだけの高い金利を払うには、少しでも所得に齟齬を来すとすぐに支払の滞るリスクが高まる。現在(25年10月)の延滞率は、6.65%(統計開始以来最高)だ。これに関連した他の延滞率を参考までに挙げると、クレジットが3.05%(25年7~9月期)と危険ラインを超えている。
米国経済を裏側からみると、庶民の暮らしの悪化が明瞭に読み取れるのだ。米国市民の生活実態が悪化していることは、トランプ大統領への支持率低下にハッキリと読み取れる。理由は、物価高による生活圧迫だ。
トランプ氏の大統領職支持率は10月末から急落し、11月に入ると平均40%台前半にまで落ち込んでいる。不支持の割合が50%前半に達した。世論調査を総合するリアルクリアポリティクスの指数によると、支持と不支持の差はマイナス11.3ポイントに達する。不支持の拡大は、「生活苦指標」とも読めるのだ。トランプ氏は、食品220品目の相互関税を撤廃するほか、年収10万ドル(約1540万円)以下の国民へ、1人当たり2000ドル(約29万円)の現金支給を行うと発言するまでになった。
米国は、自動車社会である。自動車がなければ日々の暮らしに響くお国柄だけに、自動車ローンを払えないことが、どれだけ日々の生活に不都合を生じるか分るであろう。この問題の根源へ焦点を合わせると、米国経済はすでに「スタグフレーション」(不況下の物価高)へ足を踏み入れているリスクが大きくなっていることだ。プライベートクレジット危機論の裏には、こうした事態の発生を窺わせている。
スタグフレーションの定義は今、記したように不況にも関わらず物価が下がりにくい状況へ落込むことだ。普通の不況下であれば、政策金利の引下げが正しい「政策対応」である。現状は、金利を下げると物価が上がりやすい。こういう極めて政策的に扱いにくい状態へ陥っている。これが、金利の高止まりになって、自動車サブプライムローンの延滞をふやすという悪条件をもたらしている。現在は、スタグフレーション下特有の現象とみるべきであろう。(つづく)
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