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国策半導体企業ラピダスについては、これまで種々の批判がされてきた。技術問題・ユーザー問題など、大方は失敗論である。経済安全保障上において、成功させなければないという視点の議論は少なく、「お手並み拝見」という消極論が支配的であった。

 

一方、かつて世界をリードした日本半導体の歴史に連なるわずかな人々が、勇敢にも立ち上がり技術の灯は受け継がれた。日本政府の全面的バックアップという高い信頼度を背景に、米IBMやベルギーの世界的半導体研究所imecの支援を受けて、27年の「2ナノ」量産化にもメドがついた。さらに、「1.4ナノ」の最先端半導体製造で、第二工場を29年稼働目標で建設するという矢継ぎ早な展開である。

 

これは、NTTの開発した次世代通信網6G「IWON=アイオン」が、28年以降国際標準化の見通しがついた結果だ。IWONには、1.4ナノ半導体が不可欠であり、ラピダスが生産を担うことになった。こうした経緯で、ラピダスは第二工場建設の必要性が生じたのだ。これまで、巷間で囁かれてきた「ラピダス失敗論」とは、逆の展開になっている。

 

『ブルームバーグ』(12月4日付)は、「ラピダスは『アポロ計画』、地政学の岐路に立つ日本」と題する記事を掲載した。

 

日本の半導体メーカー、ラピダスは、「アポロ計画」に匹敵する技術的精密さと政府支援を必要とする取り組みに挑もうとしている。創業からまだ3年ほどの国策ベンチャーは、複数世代分のイノベーション(技術革新)を一気に飛び越え、最先端の2ナノメートル(2nm)ロジックチップの量産を目指している。

 

(1)「2ナノはデジタル機器の中核部品として最も先端的な製品であり、その製造は極めて複雑かつ膨大な費用を要するため、挑戦できる半導体メーカーは世界でもほんのわずかだ。不可能への挑戦に加え、巨額の政府資金を積み上げていることが、懐疑派に豊富な攻撃材料を与えている。それでもラピダスが成功すれば、この「月面着陸」は日本の技術産業の歴史を書き換える可能性がある」

 

ここでは、ラピダスの成功を「アポロ計画」の月面着陸になぞらえている。それほど、国家事業として成功させなければならない、重大使命を帯びている。

 

(2)「現在、世界は最先端半導体の供給を台湾積体電路製造(TSMC)に依存している。同社は実質的に独占状態にあるが、その優位があらかじめ決まっていたわけではない。創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏は15年ほど前、当時としては最先端だった28nmの量産に全面的に賭ける決断を振り返り、シェイクスピアを引用した。「人の営みには潮の満ち引きがあり、満ち潮を捉えれば幸運へと導かれる」と述べ、「28nmこそ、われわれの満ち潮だと判断した」と打ち明けた」

 

TSMCは現在、世界最高峰の最先端半導体企業である。だが、この地位に駆け上がるまでには、大きな冒険を重ねてきた。

 

(3)「この決断が、TSMCの運命を決定付ける一手となった。スマートフォンの急拡大と微細化チップ需要の爆発が重なり、台湾に地政学的・経済的な正統性を支える「シリコンシールド半導体の盾)」が築かれた。TSMCはその後、市場から多くの競合を退場させた。日本の野心は、これをさらに上回る規模だが、同じような岐路に立っている。何もしないことは容易だが、傍観するだけでは、わずかに開いたチャンスの窓を逃すことになる」

 

TSMCが、一大決断をしたお陰で現在の栄光が与えられた。ラピダスも同じ、大きな決断をしなければ勝ち残れないのだ。

 

(4)「日本に2nm技術の重要なノウハウをもたらしたきっかけは、一本の電話だった。IBMの伝説的研究者からラピダスの現会長にかかってきた電話だ。これによって資金だけでは得られない提携と知的先行投資を日本は手にし、数十年前に失った国内半導体エコシステム(生態系)を再構築するチャンスが開かれた。さらに地政学的な風向きも変わりつつある。とはいえ、ラピダスには依然として巨大な難関が立ちはだかる。ただ、日本企業はすでに半導体の製造に必要な多くの材料を供給しており、TSMC自らが九州・熊本で進める事業も日本の製造拠点としての魅力を裏付けている」

 

日本には、半導体で輝かしき歴史がある。関連産業も発展している。ラピダスが、「野原の一本杉」であるわけでない。過去の歴史の恩恵を受けられる強みがある。

 

(5)「ラピダスの成功には、国民の理解を得ることも重要だ。TSMCが、世界最先端の半導体を製造する地位を確立したことは台湾人の誇りとなった。中国の拡張主義への抑止力にもなっていると考えている人も多い。巨額の政府支援を受けているラピダスが、国民の目に長期にわたり耐えるには、日本政府は国家安全保障上の利害を率直かつ繰り返し訴える必要がある。小さなシリコン片の製造は月面着陸ほど華やかではないが、地政学的なリターンはそれに勝るとも劣らない。政府が、国内で半導体を製造することの地政学的意義を強調するほど、支持は広がりやすくなる。今は上げ潮だ。これに日本が乗るのか、押し流されるのかが、数十年先のテクノロジー的未来を左右する。半導体製造においても、シェイクスピアが言うようにタイミングこそが全てだ」

 

日本政府は、ラピダスの成長発展が地政学的意味からも不可欠という認識を強調することで、国民の支持が広がるとしている。「成功か失敗か」という次元を超えた、不可欠の産業という認識が必要である。

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