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中国の習近平国家主席が抱く野心の中核は、台湾との「祖国統一」である。攻撃を仕掛け失敗すれば、中国側が負う代償も甚大だ。死傷者や経済への打撃、人民解放軍の信頼性低下、国内の不安定化など、いずれもその悪影響は計り知れない。それでも、こうしたリスクが、習氏の行動を確実に抑止する保証はない。侵攻しない政治コストが、習氏に降りかかるからだ。

 

『ブルームバーグ』(1月17日付)は、「台湾有事、起こり得ないとの決め付けこそ危険」と題する記事を掲載した。

 

台湾を自国領土の一部だと主張する中国は、平和的統一を望んでいるとしているが、武力行使の可能性を否定したことはない。ワシントンのシンクタンク、ジャーマン・マーシャル財団(GMF)は新たなリポートで、中国にとっての最悪のシナリオを示した。

 

(1「学術的なウォーゲーム(戦争を想定したシミュレーション)の多くはこれまで、台湾や米国のリスクに焦点を絞ってきたが、中国・台湾問題の専門家が執筆し、GMFインド太平洋担当マネジングディレクターのボニー・グレイザー氏が編集したこのリポートは、中国の弱点分析で注目される。リポートによれば、人民解放軍は台湾の制圧に失敗した場合、約10万人の兵力を失う可能性がある。こうした軍事衝突は輸出依存の中国経済を壊滅させ、軍は数年にわたり弱体化したままとなる。そうした高コストにもかかわらず、習氏が攻撃に踏み切らざるを得なくなる恐れがあるという」

 

中国が台湾侵攻似失敗すれば、約10万人の兵力を失うという。むろん、経済制裁によって中国経済は壊滅的打撃を受けて、世界経済から排除される。

 

(2)「GMFのリポート「If China Attacks Taiwan(もし中国が台湾を攻撃すれば)」は、2026年から30年にかけての限定的な衝突から全面戦争までのシナリオをモデル化している。最も極端なケースでは、戦闘は陸海空軍による台湾上陸作戦と、台湾と在日米軍、グアムに駐留する米軍へのミサイル攻撃で始まる。人民解放軍部隊は台湾の海岸に到達するが、台湾軍と米軍による継続的な反撃で、中国の兵たんと補給線は壊滅的な打撃を受ける。数カ月に及ぶ戦闘の末、中国は甚大な損失を被り、撤退を余儀なくされると、リポートは想定している」

 

中国軍の最大の問題は、兵力が台湾海峡を渡るという「兵站能力」の維持である。米軍の潜水艦部隊の攻撃を受けるからだ。もう一つ重大な欠陥は、中国の「電子戦」の弱さだ。今回の中国製ベネズエラ防空網が、簡単に米軍にぶち破られたように、大きな弱点を抱えている。さらに、戦闘機のエンジンにも問題がある。こうなると、制空権を米軍に奪われて、「ハチの巣」になるという無様な結果が待っている。

 

(2)「台湾も無傷では済まない。推計で軍の死者は5万人、民間人の犠牲も同程度に上る。米国は軍人約5000人と民間人1000人を失う可能性があり、日本も自衛隊員約1000人、民間人500人が死亡する恐れがある。たとえ中国が統一に失敗しても、台湾の離島、金門馬祖を占領するとリポートは指摘。敗北は、中国にとって国家的屈辱と受け止められ、再度の攻撃につながる可能性があるという」

 

台湾軍も5万人の損失になるという。日本も被害を受ける。中国軍は、それ以上の被害を受けるが、敗北による屈辱で再び侵攻するリスクがあるという。

 

(3)「中国には経済的な余波も同様に深刻で、限定的な衝突であっても損失は数兆ドル規模に達する。数万人規模の犠牲者は、人口減少と成長鈍化に直面する中国の社会的安定を圧迫する。数十年にわたり、中国共産党への服従と引き換えに生活水準の継続的な向上を国民に約束してきた後だけに、その影響は一段と大きい。紛争が差し迫っているとの予測はしばしば、人民解放軍創設100年に当たる27年と結び付けられてきた。それでも、中国を抑止できないとすれば、それは、中国が自ら被るコストを認識していないからではない」

 

中国経済は、すでに落勢を強める過程へ突入している。台湾侵攻が始まれば、もはや回復不能なダメージを受ける。それでも習氏が、国家主席にとどまれるだろうか。当然、国内に大波乱が起っても不思議はない。

 

(4)「習氏は単にそうしたコストを無視する決断を下すか、行動しないことの政治的リスクが戦争の代償より大きいと結論付ける可能性がある。とりわけ、台湾の頼政権が米国の後押しを受け、独立志向へ傾いていると見なされる場合はなおさらだ。中国による台湾攻撃を抑止するには、代償の大きさを突き付けるだけでは不十分だ。勝利する公算が小さく、エスカレートすればコントロールが困難になることを、習氏に理解させる必要がある」

 

習氏は、自己の政治生命が台湾侵攻と深く絡み合っていることを認識している。大敗の軍事コストと、台湾侵攻しない習氏にからむ政治コストと比較して、習氏は「一か八か」の博打に出る危険性も存在するという。だが、習氏にはもう一つの選択があろう。「瀬戸際政策」を続けて自らの政治生命を護るということだ。戦争構えの姿勢を続けて、結局は開戦しないことだ。これは、習氏が「終身国家主席」であり続けるという前提の話であるが。