一皮むけた日本製造業
技術力で世界を支える
イノベーション実践国
日本が西側諸国の中軸
日本経済は、1990年代のバブル崩壊と冷戦終結という内外における激動で、それまでの成長推進力のすべてを失った。仮に、バブル崩壊だけでことが済み、冷戦構造が続いていたのであれば、打撃は半分程度であったはずだ。だが、世界は一挙に自由貿易体制へ移行した。日本の製造業は力を失い、代って中国が「世界の工場」として登場したのだ。
日本経済が味わった苦悩は今、そのまま中国へ舞台を移した。不動産バブル崩壊に加えて、過剰生産が価格を押下げている。同時に、中国の軍事的拡張が西側諸国との地政学的な摩擦を生んでいる。この結果、ある面では「デカップリング」(分断)や、「デリスキング」(リスク削減=依存度引下げ)という形で、脱中国が広がっている。ロシアがウクライナ侵攻を開始して以来、中国がロシアを支援していることもあって、西側とは修復し難い溝が生まれている。中国は、バブル崩壊と世界の市場喪失リスクという二重の負担に直面するであろう。
このように、日中は、攻守所を変える結果になった。これは、日本が西側市場において、極めて有利な地歩を得たことを意味する。日本の技術開発が、西側諸国をひとまとめにできる状況が生まれたのだ。特に、米国との協調が、大きな成果を生む局面になった。米国の技術的発想が、日本が製品化する「日米コンビ」が生まれるからだ。
現在のAIブームの先駆になったITブームは、1990年代前期から2000年代初期にかけて米国中心に起こった。日本は当時、これが世界の技術革命を起こすという予知能力を失っていた。日本の実用化したFAX(ファクシミリ)が、ITに代行するという思い込みが強かったからだ。FAXは、1960年代から1970年代にかけて、日本の電機メーカーが高性能でコンパクトなFAX機を開発し、商業利用を本格化させて世界市場を席巻していたのである。
日本のFAX「成功物語」が、ITという「非物質的な価値」や「抽象的な設計思想」への対応を遅らせた。日本の製造能力の高さが、「見えるもの」には強く、「見えないもの」(ソフトウェア、ネットワーク、UX設計など)への感度が鈍らせたのだ。それだけでなく、国産技術への「絶対的信頼感」が、見えない技術への関心を低めたことも事実であろう。日本は、世界技術の潮流に鈍感になっていた。
一皮むけた日本製造業
日本は、ITブームに乗り遅れことで、海外技術との提携がいかに重要であるかを痛感した。半導体が、世界王者から滑り落ちたのも「自信過剰」と経営戦略の失敗であった。「お宝技術」に固執しすぎて普及品の半導体へ転換できなかったのである。こうした失敗が、その後の日本の技術開発に生かされている。最初から、世界市場を目標にした技術開発であるからだ。それは、世界の有力研究機関と提携して視野を広げている結果である。
現在、日本の技術開発のエースとして「フィジカルAI」、「IWON」、「化学的精錬法」が世界の次世代技術として注目されている。これら三大技術については、これまで縷々取り上げてきたので、読者にはお馴染みのテーマになっていると思われる。
1)フィジカルAIは、現場AI(人工知能)が、状況を「見て・聞いて・判断」することによって、エッジ(端末)で行動を起こすという「筋肉と脳」の役割を担っている。現場AIである以上、現在の主流であるクラウド型でなく、現場という分散型情報処理でなければならない。この発想の転換をラピダスの手によって実現しようとしている。応用範囲は、あらゆる分野に広がっている。農業・機械・運搬・運転・医学などだ。実現の暁は、画期的は労働力代替が実現する。遠隔操作も可能になる。
2)IWONは、NTTが開発している。次世代通信網6Gの本命である。すでに、国連でも標準規格としての扱いが始まった。この技術は、これまでの電気による通信体系を光通信体系へ置き換えるという発想の大転換だ。IWONは、次の3つの特色を持っている。
省電力=最大100分の1の電力消費
超低遅延(遅速なし)=0.001秒未満の遅れ、まばたき(0.1~0.3秒)より短い
超大量情報=現在の100倍以上の通信容量を一括処理
応用分野は、都市交通、自動運転、遠隔医療、工場自動化などだ。IWONはマクロ的分野で、前記のフィジカルAIはミクロ的分野で相互補完の役割を果す。この日本生まれの技術が、次世代の世界を大きく変えると期待されている。
3)化学的精錬法は、レアアースの精錬法である。旧来の物理的精錬法に比べと「常温・常圧」で精錬できる点で、環境と極めて親和的である。つまり、環境を破壊しないのだ。かつて、米国は世界最大のレアアース生産国であったが、精錬過程で環境破壊をもたらすことから国内精錬を断念した。化学的精錬法は、分散型・モジュール型であるので、精錬設備が移動できる。精錬が終れば、他地域へ移設可能という「便利性」を持っている。すでに、インドなどで日本のODA(政府開発援助)資金を使って設置が始まっている。
レアアースは、風力発電の高効率モーター、EVの駆動装置、スマートグリッド(電力需給の調節機能)、さらには高性能バッテリーやAIチップの磁性材料など、脱炭素とデジタル化の両輪を支える不可欠な素材である。その精錬で、日本の化学的精錬法が環境親和的であることは「OS」としての資格を備えている。世界の小規模鉱山が、日本の化学的精錬法によって採算が好転し稼働できるメリットは大きいのだ。(つづく)
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コメント
その導入費用は電子計算機のハードウェアが主体で、ソフトウェアはオマケ扱いでした。何れはハードウェアとソフトウェアの費用が逆転するだろうと言われていましたが、遅々として進まず20年以上を用したような気がします。
夢を持って積極果敢に臨めば、夢は必ず実現できます。大いに期待し、成功を祈念します。
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