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高市政権は、かねてから積極的財政政策が財政悪化をもたらすと懸念されてきた。それが、総選挙の公約で「食品関連消費税引下げ」を掲げたことで、一挙に40年物国債相場の下落(利回り上昇)として跳ね返った。果たして、市場が売り材料とするような悪い事態が日本経済に起るのか。海外メディアは、違った視点で眺めている。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月23日付)は、「日本経済、悲観的状況ばかりではないが」と題する記事を掲載した。

 

日本国債は20日、「節目」と呼べるかもしれない局面を迎えた。利回りが急上昇し、40年債では4%を上回り(ほぼ30年ぶりの高水準)、10年債では2.3%を大きく上回った(27年ぶりの高水準)。これに伴って、円相場は過去36年間で1回(2024年)しか越えたことがない1ドル=160円の水準に向けて下落した。こうした動きの組み合わせは通常、投資家が経済に対する信頼を失っていることを示す。

 

(1)「市場が、心配するのは無理もない。高市早苗首相は衆院を解散して来月上旬に総選挙を行うと表明しており、誰もが選挙戦で掲げようとしている経済政策は日本政府にはない資金の支出を伴うものばかりだ。高市氏が(一時的措置と主張する)一部品目の消費税引き下げという公約はメディアの注目を最も集めているが、それは問題の最も小さな部分にすぎない。その費用は数百億ドルで、高市氏がそれと共に求めている大規模な財政「刺激」策に比べれば小さい。いずれも経済成長を促進することはない」

 

高市首相は、財政大盤振る舞いというイメージがつきすぎている。債券投資家は、この「刷り込み現象」で動いている。IMF(国際通貨基金)のほうが、はるかに冷静だ。

 

(2)「日本政府は既に債務問題を抱えており、債務残高は国内総生産(GDP)比で約250%となっている。新たな支出はどんなものであれ、増え続ける政府の債務返済を巡る問題を悪化させるだろう。インフレ抑制のため日銀が進める段階的な金利正常化によって政府予算はますます圧迫されており、国債の利払い費は今や防衛費を上回っている。投資家がこれら全てを見て、日本国債と円を売ることに決めたとしても不思議ではない」

 

債券市場を安心させるには、緊縮財政が最も効果的である。高市首相は、怯えきっている市場動向に今少し関心を持った方がベターだが、そういう配慮はなさそう。市場との対話が必要だ。

 

(3)「他の面から見れば、日本経済に今週注目が集まったことは良くも悪くも、これまでのパターンとは異なるものだった。悲観的な説明は、日本に関する最近の一連の明るいニュースに合わない。アニマルスピリット(企業などの野心的な意欲)は数十年の休眠状態を経て動き出している。企業の倒産は近年、金利上昇に伴って急増しているが、これは差し引きでプラスの出来事だと考えられる。多数のゾンビ企業(売り上げが債務を返済するのに不十分で、債権者が猶予を与えなければ存続できない企業)は長年、日本経済停滞の原因となってきた。これらの半分死んだ企業を間引くことで資金や労働力は解放され、起業家精神のある生産性の高い企業に向かうようになる。同時に、こうしたより健全な企業の収益性改善が可能になる」

 

日本企業の行動は、野心に満ちた動きを強めている。金利上昇と共に倒産企業が増えているのは、企業の新陳代謝が活発化している証拠である。労働力の流動化が促進されて、より生産性の高い分野へ労働力が移動するからだ。

 

(4)「これとは別だが関連する動きとして、企業のM&A(合併・買収)が急速に拡大している。昨年のM&A件数は過去最多となり、取引総額は約3500億ドル(約55兆5000億円)に上る。合併や敵対的買収、上場企業の非公開化(経営陣らによる自社買収を含む)がいずれも動き出している。さまざまな形で物言う株主の活動も増加している。企業は株主への現金還元に関して新たな圧力に直面しており、迅速な増配や自社株買いを迫られている」

 

昨年のM&A件数は過去最多となった。これは、日本企業の再編成が本格化している結果である。

 

(5)「こうした状況に加え、日本の金融政策が段階的に正常化されつつあるため、経済がいずれ正常に機能するようになることが過去数十年よりも想像しやすくなっている。しかし今週の出来事は、経済正常化の過程がいかに危険に満ちたものになり得るのかを思い起こさせた。20日に国債市場で起きた動きの直接的原因は、選挙戦略とまずい財政政策の組み合わせかもしれないが、背景には、金融システムがニューノーマルへと転換していることがある。経済成長の持続的回復には通常、全般的な金利上昇が伴う。こうした転換の具体的影響の一つは、生命保険各社がここ12年の間に超長期国債の保有を減らし、10年債などの保有を増やすといったリバランスを進めてきたことが、40年債の利回り急上昇を悪化させたことだ」

 

今後の金利引き上げに合わせて、日本企業の再編は促進するだろう。「失われた30年」で惰眠を貪っていた日本企業が、内外で本格的に陣取り合戦を始めることは間違いない。その先兵として、技術革新が始まっている。僭越ながら、私が命名した「次世代技術3冠王」(フィジカルAI・IWON・化学的精錬法)は、世界の「OS」として君臨するはずだ。

 

(6)「こうした転換が、特定の債券利回りや円相場、日本と諸外国との間の資金の流れにどのような影響を及ぼすのかは、誰も予想できないだろう。それを考えると、解散総選挙は今の日本が直面する困難の中で、最も取るに足らないもののように思えてくる」

 

日本経済が、再び羽ばたくには、従来と異なる事態が生まれる。技術力を備えた日本企業が目覚めた以上、いたずらに悲観論にとりつかれるのはいかがなものか。