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TSMCが、熊本県で建設を進める新工場で、人工知能(AI)向けの最先端半導体を生産する見通しとなった。ラピダスも北海道で最先端品の量産を目指す。実現すれば国内の南北2拠点からAI向け半導体が安定調達できる。素材や装置各社も積極投資に動き、半導体供給網の厚みが増す。

 

『日本経済新聞 電子版』(2月7日付)は、「AI半導体の国内供給、南北2拠点に TSMCが熊本に『3ナノ品』」

 

TSMCの魏哲家・董事長(会長)兼最高経営責任者(CEO)は5日、高市早苗首相と会談した。魏氏は熊本第2工場(熊本県菊陽町)の生産計画を変更し、回路線幅3ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体の生産を検討していると説明した。

 

(1)「従来計画は、自動車やデジタル品に使う6〜40ナノを2027年から量産する予定だった。生産品目の変更に伴い、当初計画よりも高性能な製造装置の導入が必要になる。122億ドル(約1兆9000億円)と見込んでいた総投資額は膨らむ公算が大きい。3ナノ品は米エヌビディアが開発する画像処理半導体(GPU)などに使われる。AIの基盤となるデータセンターの新増設が相次ぐ日本でも最先端半導体の確保が大きな課題となっている」

 

TSMCが、第2工場での半導体生産品目を「3ナノ」へ格上げした裏には、先端半導体需要が急速に伸びているという事情がある。同時に、ラピダスが「2ナノ」の他に「1.4ナノ」への触手を伸していることに刺戟されたのだろう。ラピダスは、「後工程」の全自動化に取組んでいると会社側は正式に説明しており、TSMCを技術的に追い抜く姿勢を鮮明にしている。

 

(2)「ラピダスも、北海道で2027年度に最先端の2ナノ品の量産を目指している。従来は12ナノまでしか生産できなかった日本で一気に先端品の生産能力が整うことになる。一般的に半導体の微細化が進むと高性能の製造装置や素材がより多く必要となる。日本企業は装置で3割、素材では5割の世界シェアを持つ。国内で先端半導体が生産され工場稼働率も高まっていけば、日本の関連企業に恩恵が広がる」

 

先端半導体製造に合わせて、半導体設備などの需要も高度化する。設備メーカーは、これに合せた投資が迫られている。

 

(3)「装置では、東京エレクトロンが29年3月期までの5年で7000億円の設備投資を計画し、さらに前倒ししようとしている。熊本県合志市で新棟を26年春に稼働させ、開発能力を従来比4倍に引き上げる。キヤノンは25年9月に500億円を投じてAI半導体の組み立て工程などに使う半導体露光装置の新製造棟を稼働させた。素材では富士フイルムホールディングス(HD)が25年11月、静岡県吉田町で材料の開発や評価を手掛ける新棟を稼働させた。半導体基板上に微細な回路を描くのに使うフォトレジスト(感光材料)などの次世代品を開発する」

 

関連産業が、一斉に設備投資へ踏み切る。

 

(4)「イビデンは26年度から3年間で総額5000億円を投資してAIサーバー用チップを載せるパッケージ基板を増産する。生産能力は28年度に足元の2.5倍程度に増える見通しだ。TSMCは、自社全体で生産品目を見直し、AI半導体の組み立て工程などへの投資を増やしている。香港カウンターポイントはTSMCが28年までに台湾南部・台南の工場「Fab14」で成熟技術にあたる40〜90ナノの生産能力を15〜20%削減すると予測する。台湾の龔明鑫・経済部長(経済相)は5日の記者会見で、TSMCの計画変更を巡り、同社が熊本で先端半導体を生産しても台湾の産業空洞化にはつながらないとの見方を示した。台湾ではすでに回路線幅2ナノメートルの半導体を量産しているとも指摘した」

 

TSMCは、成熟技術にあたる40〜90ナノの生産能力を15〜20%削減する方向にある。最先端半導体生産へシフトして、さらなる高付加価値化を目指すものであろう。

 

(5)「日本政府は、30年度までに半導体とAI分野に10兆円以上を支援する方針を掲げ、先端半導体の供給網構築を急ぐ。これまでTSMCには第1工場と第2工場を合わせて約1兆2000億円、ラピダスには累計約2兆9000億円の支援を決めた。TSMCに対しては需給逼迫時に半導体を増産し日本企業への供給拡大に向けた協議に応じることを支援条件に盛り込んだ。ラピダスの試算では、30年時点で2ナノ品は世界全体の需要に対して供給が10〜30%不足する。米政府は米アリゾナ州でTSMCの2ナノ工場の誘致を進める」

 

先端半導体では、TSMCとラピダスの競争になるのだろう。サムスンは、「5ナノ」で歩留まり率が上がらす足踏みだ。30年時点で、2ナノ品は世界全体の需要に対して供給が10〜30%不足するという。ラピダスにとっては、「好スタート」が切れる。