中味は働く家庭支援給付
中間層再建が発展のカギ
給付付き税額控除へ着手
肝心なのは可処分所得増
増税なしで必要財源調達
日本の税制改革準備が、すでに静かに始まっていることをご存じだろうか。政府が、実現を目指す「給付付き税額控除」(28年以降実施見込み)の前段に当る基礎控除額は、25年確定申告で95万円へ引き上げられている。この事実は、メディアもほとんど報じていないが、安堵と同時に戸惑いも大きいのだ。
現在、3月16日締め切りで25年確定申告の受け付け中である。25年の基礎控除は最大限95万円(課税所得金額132万円以下)まで拡大されている。従来は、課税所得金額2500万円以下が一律48万円であった。それが、一挙に2倍へ引上げられたことで、「税圧」から解放される人たちが増えることになった。
これは、「給付付き税額控除」導入への重要な一歩とみられる。米国では、1975年に実現した給付付き税額控除(名称は異なる)が、ようやく日本でも導入される。これから、AI(人工知能)社会へ進んでいく。これに伴い、所得格差がいやが上にも拡大される時代へ向う。AI活用による「社会的富」は増加するので、所得再分配による公正を期さねばならない。それには、給付付き税額控除による政策が不可欠だ。税制によって、一定所得を保障するのが制度の目的である。
この制度の狙いは、中間層の増加にある。社会の安定は、中間層が増えて厚みを増すことだ。日本の場合、「失われた30年」による経済低迷が、中間層を減らす結果になった。出生率の低下も、この中間層の先細りと深い関係がある。経済的に子供を育てる環境が不完全な場合、子供は欲しいが育てる自信のないという厳しい現実を生みかねない。むろん、子供を持つか否かは人それぞれの価値観による。ただ、子供の欲しい家庭では、経済面の心配をしないで育児できる環境整備は最も重要であろう。
中味は働く家庭支援給付
「給付付き税額控除」とは、余りにも専門用語で一般には馴染まない。それだけに、この制度の狙いが理解されにくい一面がある。この制度は、勤労者を対象にしている。分かりやすい名称としては、「働く家庭支援給付」が最適であろう。むろん、単身勤労者も給付対象になる。前述の通り、課税所得の税額控除ラインに満たない層へ、給付金を与える所得再分配制度だ。
25年確定申告で、既述のように最大95万円の基礎控除額が設定された。これは、課税所得(年収ではない:純然たる所得税対象金額)から95万円を差し引いてゼロであれば無税である。給付付き税額控除が実施されれば、後述のような給付金が支給されるであろう。
基礎控除額は従来、2400万円以下が48万円で一本であった。25年は、課税所得を2500万円以下、8段階に分けて基礎控除額が決められている。これだけ、きめ細かく分けているのは、給付付き税額控除制度への準備である。基礎控除額を小刻みに分類して、年収300~500万円の層へ徴税でなく、給付金を支給するという画期的税制への準備とみてよいである。
この税制の根本思想は、米国のノーベル経済学賞授賞のミルトン・フリードンが提唱した「負の所得税」という概念にある。日本も、ようやくこの税制を取り入れる準備が整った。フリードマンは、「新自由主義者」の元祖として批判されるが、変動為替相場制度を提唱した学者でもある。現実を分析して理論化するリアリストである。
経済学の父とされるアダムスミスも、リアリストであった。労働者への深い理解が、「労働者も麻のシャツを着て人前に出られる賃金が必要」と主張させた。スミスは、自由主義経済学者で重商主義論を批判する一方で、労働者の最低賃金底上げへの深い理解があった。給付付き税額控除は、市場経済の安全弁として不可欠の装置である。スミスの世界観が、日本でも通用する時代になった。人間尊重である。
「給付付き税額控除」は、痩せ細った中間層の「立直し策」である。中間層とは、中間所得層である。日本では統計上、全体の6割見当が該当する。問題は、中間層の充実である。これが、経済的・社会的にどういう意味合いがあるか、みておきたい。
中間層が厚い社会は、安定すると理解されている。理由は、「多数派が現状維持を望むから」である。その多数派が、所得分布の真ん中(6割前後)に位置することが最も重要である。これは、単なる統計上の「真ん中」という意味ではない。生活の安定感・将来への希望・社会参加の意欲を持つ層が、社会全体の過半を占めることにより、政治的にも安定するという意味が込められている。
中間層再建が発展のカギ
中間層の充実が、社会的・経済的に安定要因になる具体的理由を個別にみておきたい。それは、大きく分けて4つある。
1)中間層は「現状維持」を望む多数派になる。
中間層は、生活が成り立っていることや将来に一定の希望がある。また、社会制度の恩恵を受けているという立場にある。そのため、極端な変革(革命・暴動・急進政治)を望まず、社会の重石として機能する。
2)中間層は、「税を支え、消費を支える」という役割を果す。
国家財政の安定は、所得税・社会保険料・消費の3つに依存する。これらの中心を担うのが中間層だ。中間層が痩せると、税収が減るほかに消費が低下する。こうして、社会保障が維持できないという悪循環に陥るリスクが高まる。
3)中間層は、「社会規範」を形成する。
中間層は、教育・文化・価値観の中心でもある。この層が健全であるほど、社会全体の規範が安定し、極端な思想が広がりにくくなる。
4)中間層は「政治の穏健化」をもたらす。
政治的には、「中間層が厚い社会は穏健な政治が選ばれる」というのが定説である。逆に、中間層が薄くなると、格差が拡大してポピュリズム・急進主義・分断が起きやすくなる。社会の分裂現象である。
日本の中間層は、既述のように社会全体の6割である。これは、高度経済成長期の中間層が6割強であった事実と比較すれば、現在も比率的には大きな差が認められない。だが、高度経済成長期の中間層には夢があった。毎年、賃金が確実に上昇して先行きの見通が付いたのである。現在は、明日に期待が持てないという不透明感が漂う。この原因は、どこにあるのか。(つづく)
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