あじさいのたまご
   

米国とイランが、休戦条件を巡って対面で直接交渉することになった。これは、8年ぶりのことである。米トランプ大統領が2018年、イラン核交渉を破棄した後、イランのハメネイ師(当時)は、米国とは絶対に対面交渉をするなとの禁令を出した。このため、バイデン政権でまた交渉が始まった当時も、米国とイランの代表団が同じホテルに宿泊し交渉をしても、対面することはなかった。今回は、その禁令を破ってイランが米国と対座する。イラン側の真剣味が伝わって来るのだ。

 

『中央日報』(4月10日付)は、「ハメネイ師が禁止した対米対面交渉、イランが応じたのが前向きな信号」と題する記事を掲載した。尹鉉(ユン・ガンヒョン)元駐イラン大使が9日、中央日報のインタビューで答えた内容だ。

 

交渉の代表が誰であるかも極めて重要だ。米国でナンバー2、未来の権力と見なされ、戦争に反対したというJD・バンス副大統領が交渉代表として出てくれば誠意を見せることになる。イラン側も格を合わせようとするはずだが、ガリバフ議長が出てくれば悪くない信号だ。ザリフ元外相も同じだ。

 

(1)「短期的にはホルムズ海峡問題に関連した信頼の回復がカギになるようだ。イランが最小限の物流の流れを保障しながら原油価格の安定につながるシグナルを送れば、誠意を示すことができる。ただ、イランがホルムズ海峡を開くと言いながらもイラン軍と協議しなければならないと条件を付けるのは、依然として統制権を行使するということだ。米国が望むのは自由な航行であり、まだ隔たりが大きい」


イランは、経済制裁を受けている上に、今回の戦争被害で戦後復興は及びもつかない状態だ。そこで、ホルムズ海峡通航料問題が持ち上がっている。これが実行された場合、イランは、ホルムズ海峡の通航船舶から通航料を取るので、安全に通航させる義務を行うことになる。これまで公海を理由に無料であったものが、有料とは納得し難い面はある。だが、海峡封鎖にともなう世界経済への混乱を防ぐには、一種の「保険料」という考えも成り立つであろう。

 

通航料が、1バレル1~2ドルと仮定すると、日本の負担はどのくらいか。日本の原油輸入量は、約300万バレル/日である。1バレル1ドルで、年間は約11億ドル(=約1700億円)となる。仮に、1バレル2ドルとしても約3400億円になる。つまり、1700~3400億円の負担増になるが、輸入途絶や価格高騰リスクを計算に入れれば、決して法外は金額ではない。イランは、この通航料によって安全管理の責任を負うのだ。

 

(2)「イランが実際にホルムズ海峡を完全封鎖し、通行料を徴収する力があると考えるか。事実上の封鎖をするにはすべての船を攻撃する必要はない。海軍力がまひしたとしても、タンカー23隻は攻撃できる。その場合、封鎖と同じ効果を得ることができる。このようにホルムズ海峡で事故が発生すれば、船舶は保険にも入ることができない。それを無視して入れば会社は破産するだろう。物流はふさがるしかない。トランプ大統領が強調する完全な航行の自由とは、保険サービスの円滑な提供、船舶の正常通過をすべて包括する概念だ。」

 

イランは、通航料という手数料ビジネスに手を染めることで、これまでの教条主義的な硬直性が、少しずつ消える期待も出てくるであろう。強硬派の革命防衛隊員も、全てがガチガチのタイプではないとされている。どっちつかずの通俗派も結構いるのだ。周辺国から孤立していることが一層、強硬派へ駆り立てている面もあろう。言葉は悪いが、通航料によってイランを「飼い慣らす」ことが必要かも知れない。

 

(3)「短期的にホルムズ海峡での信頼回復措置が重要なら、長期的にはやはりイランの核廃棄と制裁解除パッケージの構成がカギになるが。2月の交渉でも双方が核と関連して相当な意見の接近があったと聞いた。すでに2015年に妥結した合意がある。膨大な分量で、すでに難しい細部事項は合意していて、空いている部分だけを埋めればよい。双方の政治的意志さえあれば妥結は可能だ。2015年の核合意という教本があるが、今回はむしろビッグディールを目標にする可能性があり、それが双方に利益と見る。イランは2018年の核合意破棄後、米国の資本をさらに積極的に誘致できなかったことを失策と判断する内部報告書を作成したことがある。今回ビッグディールが妥結して米国資本の直接投資があれば、それがイランの望む実質的な不可侵保障となる可能性がある」

 

イランは、核開発を続ければ、確実にイスラエルが「草刈り」の急襲を行うだろう。こういうリスクを考えに入れれば、通航料ビジネスにも大きな影響が出るのだ。つまり、イスラエルの攻撃で海峡が混乱すれば、通航料ゼロで国家財政が崩壊という結末が見えるだろう。イスラエルの軍事力が、イランの経済的利益を守る抑止力に転化するという逆説的な構造が生まれるであろう。結論は、通航料モデルが「核開発抑制メカニズム」として機能する可能性が生まれるのだ。これまでの発想法を変えると、意外な展望が開けるであろう。

 

中国が、台湾侵攻に慎重なのは、経済制裁を受けるリスクを計算に入れ初めているからだ。食糧や原油など大きく海外依存している中国が、軍備以外に考慮しなければならないことの多さを、今回のイラン戦争で学んだはずだ。