中国が、台湾国民党へ「アメ」を与えた。台湾頼政権へは厳しい非難をする一方で、野党国民党へは手厚い配慮をしている。習政権は、台湾最大野党・国民党の鄭麗文主席(党首)の訪中終了に合わせて、観光規制の緩和、「健全な」テレビドラマの放映容認、食品販売の促進など、台湾に対する新たな10項目の措置を発表した。中国は、露骨に台湾政治へ介入している。
国営新華社通信が公表した10項目の措置には、国民党と中国共産党の定期的な意思疎通の仕組みの確立、双方間の航空便の全面再開、上海市と福建省の住民による台湾への個人旅行の許可を「模索する」内容が盛り込まれた。食品・水産物の検査基準緩和の仕組みも設ける。ただし、「台湾独立に反対する」という政治的基盤が前提条件となる。
台湾頼政権は、これらの10項目について政府間の話合いでない以上、「架空」の話という扱いだ。実効性ゼロである。これほど中国のメンツ丸潰れの話もないがやむを得ないことである。政府間という公的ルートでないから「それだけのこと」だ。
今回の措置は、台湾国民党党首・鄭麗文氏の訪中に合わせて発表されたもので、公的な取り決めではない。政治的成果を狙ったアドバルーンである。これによって、国民党に「成果」を与える目的であることはあきらかだ。台湾国内で「国民党なら中国と話せる」という印象を作って、民進党政権を相対的に弱める政治的意図が露骨に出ている。
効果は、極めて限定的であろう。中国は過去にパイナップル輸入停止など恣意的な経済制裁を繰り返してきた国だ。台湾の一般市民の反応は冷ややかである。「どうせまた気に入らなければ止める」、「政治的条件付きの“飴”は信用できない」、「中国の観光客依存は危険」といった認識が、台湾社会に広く浸透しているのだ。
台湾の若者は、特に反発している。台湾の若い世代は、民主主義、自由、台湾アイデンティティを重視しており、
中国の「懐柔策」は逆効果になる。
中国は現在、経済減速、外資流出、国際的孤立の進行、米国の対中包囲網強化
という四重苦に直面している。その中で、台湾問題だけは「柔らかいカード」を使う余地があると判断したのであろう。つまり、軍事圧力だけでは台湾を動かせない以上、経済・文化の「懐柔」に切替えたものだ。しかし、台湾はもう懐柔される時代ではない。台湾社会は、香港の変貌やかつてのパイナップル禁輸問題。それに、日常化している軍事圧力を見ており、
中国の「飴と鞭」戦略を完全に見抜いている。そのため、今回の措置は「政治的演出」以上の効果は出ないというのが現実だ。中国の措置は「新国共合作」的な政治演出である。
中国の対台湾政策が、なぜ効果を失ったのか。
1)中国の政策には、常に「飴と鞭」が用意されている。鞭がバレたら経済優遇(飴)→不満が出たら制裁(パイナップル・魚介類・観光客停止)というパターンの繰り返しである。この結果、「中国に依存すると、いつでも締め上げられる」という学習が台湾社会に定着している。
2)香港の「崩壊」が決定打になったことだ。「一国二制度」の約束が香港で反故にされたことで、台湾人は「香港ですらああなるなら、台湾はもっとひどい」と確信した。以後、「平和統一」や「経済融合」の言葉は完全に説得力を失った。
3)軍事威嚇と懐柔策を同時にやる矛盾である。ミサイル演習・軍機の越境・サイバー攻撃。一方では、観光緩和・ドラマ解禁・経済優遇を同時にやろうとしている。これは、「殴りながら、笑顔で握手を求めてくる」状態で、信頼を完全に破壊した。
4)台湾の世論が中国をどう見ているか(世代別)。若い層ほど「中国=リスク」、年長ほど「中国=複雑」という反応をみせている。
高齢層(〜60代後半)は、中国を「同じ民族」「商売相手」と見る感覚がまだ残っている。ただし香港・ウクライナ問題以降は、「統一歓迎」が急減した。国民党支持層でも「統一は現実的でない」が主流である。
中年層(30〜50代)は、経済的には中国と付き合ってきた世代である。しかし、子どもの世代の将来を考えると「民主主義は手放せない」という意識が強い。「中国とビジネスはするが、政治的には距離を取る」が基本姿勢である。
若年層(10〜30代)は、物心ついたときから「台湾=民主主義」「中国=威圧」の構図に染まっている。香港の映像・ネット世論・ポップカルチャーを通じて、中国を「別世界」と見ているのだ。「中国に行きたい」より「日本・欧米・東南アジアに行きたい」が主流である。中国の懐柔策は、若者ほど逆効果になりやすのが現状だ。
中国は、香港で「一国二制度」を破棄するという背信行為を行ったことで、台湾の信頼は地に墜ちている。この状態で「国共合作」を行ったところで、波及効果はゼロだ。自ら蒔いた種に苦しむであろう。


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