あじさいのたまご
   

出光興産は12日、国内の製油所閉鎖の撤回を正式に発表した。石油需要の減速が緩やかなうえ、イラン軍事衝突でエネルギー安全保障上の重要性が高まった結果だ。具体的には、ASEANが先の首脳会議で、日本の「POWER Asia」(100億ドル支援)による原油政策へ乗り出すことを決めたことを受けた結果とみられる。出光は、閉鎖予定の製油所を中止してASEAN向けを請負うのであろう。

 

日本経済新聞』(5月13日付)は、「出光『国内精製守る』鮮明に 製油所閉鎖撤回を表明 操業維持へ投資3割増 エネ安保で現実路線に」と題する記事を掲載した。

 

出光興産は、30年までの中期経営計画を発表した。過去最大の1兆8000億円を30年度までの5年間で投じる。そのうち5900億円は、製油所を中心とした事業にあてる。製油所の操業維持に関わる投資は前回の中期計画と比べて3割増やす。出光は、日本の全製油所19カ所のうち6カ所を持ち、全拠点を30年までは稼働させる。

 

(1)「製油所は、輸入原油からガソリンや軽油、重油など燃料をつくる機能を持つ。加えて日常生活に不可欠な基礎化学品の原料「ナフサ」の供給源となってきた。日本では元売り各社が海外原油から石油製品を自前でつくる「消費地精製主義」を守る。輸入燃料に頼らずに、有事には石油から需要に応じて生産できる。一方、製油能力が不足するフィリピンやベトナム、インドネシアなどでは供給不足が生じた。オーストラリアも輸入比率が高いため燃料供給に混乱が生じた」

 

出光の「国内精製維持」は、ASEAN支援の「裏側の条件」である。出光は、製油所閉鎖を撤回、国内精製能力を維持、投資を3割増、エネ安保を理由に現実路線へ転換した。これは単なる出光の企業判断ではない。日本が、ASEANに100億ドルの石油調達支援を約束した以上、 日本自身が「精製能力を維持していること」が前提条件になるからだ。

 

なぜなら、ASEANは原油を買っても、精製能力が弱い。日本は、「精製+品質保証+物流」を担う立場である。日本が精製能力を落とすと、ASEAN支援の信頼性が崩れるのだ。つまり、出光の決断は、日本のASEAN石油安全保障の裏打ちである。

 

(2)「日本エネルギー経済研究所の大森嘉彦理事は、「石油製品の安定供給のために適正規模の精油能力を維持すべきだ」と指摘する。日本は原油の95%を中東に頼る。出光は、南米や北米などからの代替調達を急ぐが、適した製油所は産地ごとに異なる。酒井則明社長は、「少しでも製油所の数がある方が、それぞれの地域の原油の性状に合わせた運転ができる」と説明した。ホルムズ封鎖が解かれても、各社が原油調達を多角化する流れは続く見通しだ」

 

日本は、世界各地から原油を調達している。それぞれの特性に合わせた製油所が必要である。この意味で、数多い製油所を持つことのメリットが出てくる。

 

(3)「出光は、30年までに原油処理能力を日本全体の1割にあたる日量30万バレル減らす計画を22年に打ち出した。12カ所の閉鎖を想定していた。政府が掲げた30年に温暖化ガスを46%減らす目標に沿う表明だった。想定より脱炭素への移行が遅れ、米国・イスラエルのイラン攻撃で状況は一変した。石油運搬の要衝であるホルムズ海峡が事実上封鎖され、安全保障上の化石資源の重要性が再認識された」

 

日本の100億ドル支援は、「原油の確保」だけではない。POWER Asia(100億ドル支援)は、4つの柱で構成されている。①原油調達の金融支援、②中東との長期契約の仲介、③共同備蓄・緊急融通の制度設計、④精製・品質保証・物流の日本側サポートだ。この4番目が極めて重要で、 日本の精製能力が「ASEANの石油安全保障の後ろ盾」になる。だから出光は閉鎖を撤回したのだ。

 

出光の決断は、「日本がアジアの石油中枢になる」ための布石である。日本は今、静かに 「アジアの石油・エネルギーの司令塔」になりつつある。その条件は3つある。①中東との強固なパイプ、②ASEANへの金融支援(100億ドル)、③国内の精製能力の維持(出光・ENEOS)である。この3つが揃うと、 ASEANの石油フローは日本を経由する構造になる。出光の決断は、この構造の最後のピースだ。

 

(4)「資源に乏しい日本にとって、国内製造できる石油代替技術はエネルギー安全保障の観点から重要になる。出光は需要に合わせて生産できる体制を整える。同社は3月に中計を発表する予定だったが、中東情勢を受け延期した。安全保障の観点も踏まえつつ計画を点検。当初戦略の方向性は妥当と判断し、内容は大きく見直さずに公表した」

 

日本は、資源に乏しい「資源大国」の立場になった。多くの製油所を持ち、世界各国から原油を調達する能力(商社・輸送・保険・金融)でずば抜けている。これが、資源に乏しい資源大国へ押し上げた。ASEANの石油製品まで「面倒」みることにより、日本の経済圏が広がることになった。大きなメリットになる。