あじさいのたまご
   


14日の米中首脳会議初日を終えて、報道は事実だけを伝えるだけで論評に至っていない。こうした中で、中国政治が専門の小嶋華津子・慶大教授はラジオNIKKEIのポッドキャスト番組「中国経済の真相」に出演。今後の米中関係について、「冷静に客観的な状況を観察するならば、主導権を握るのは習氏のほうではないか」との見方を示した。

 

政治論の議論では、往々にして経済論を見落としている。例の上部構造(政治)と下部構造(経済)という現実を置去りにしている。経済あっての政治なのだ。もう一点、独裁政治は民主政治にはみられない「制度疲労」現象がある。独裁政治は、選挙と無縁であり政策修正の機会がない。民主政治は、定期的に訪れる選挙によって政策変更を迫られ、結果として制度疲労は最小限に抑えられる。以上のような視点からみると、今後の米中関係で主導権を握るのは、中国ではないであろう。これが、経済と政治を合わせ鏡にした結論だ。

 

『日本経済新聞 電子版』(5月15日付)は、「『米中関係、主導権は中国に』小嶋華津子・慶大教授」と題する記事を掲載した。

 

トランプ米大統領がおよそ9年ぶりに北京を訪問し、14日に中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談しました。トランプ氏が首脳会談で「かつてないほどに良くなる」と評した米中関係は、これからどうなるのでしょうか。

 

(1)「中国政治が専門の小嶋華津子・慶大教授はラジオNIKKEIのポッドキャスト番組「中国経済の真相」に出演し、今後の米中関係について「冷静に客観的な状況を観察するならば、主導権を握るのは習氏のほうではないか」との見方を示しました。小嶋氏がそう考える理由は2つあります。第一に、米中の相互依存の状況です。中国はここ10年でサプライチェーン(供給網)の多元化や、レアアースをはじめとする戦略物資の生産拡大を進めてきました。一方、米国は製造業の空洞化が深刻なままで、ハイテク製品に不可欠なレアアースも中国からの供給に頼らざるをえません。小嶋氏は「米国のほうが中国なしでは困ってしまう状況にある」とみています」

 

レアアース(希土)問題は、中国の築いてきた「独占」状態は、間もなく綻びが始まる。8月から日米豪加とEUが軸になって55ヶ国が参加する「重要鉱物特恵市場」が稼働する。26年末をメドに日仏合弁で重希土の生産が始まる。これは、リサイクルと精錬の2工場が同時稼働である。いずれも、日本の化学的精錬法が基軸になっている。重要鉱物特恵市場への鉱物も化学的精錬法が原則である。28~29年には、日本の南鳥島レアアースが世界市場へ登場する。

 

西側諸国は、中国の採用している物理的精錬法が公害垂れ流しであるので、ESG基準によって中国製レアアースを流通から排除する方針だ。2030年以降には、全面的実施となろう。こうなると、中国製レアアースとこれを使った製品全てが、西側諸国で流通経路から排除という劇的事態が始まる。困るのは、米国でなく中国になるのだ。

 

(2)「もう一つは、トランプ氏と習氏が意識する時間軸の違いです。トランプ氏は今年秋の中間選挙までに、何らかの成果を出さなければならない立場にあります。特に経済面で、中国に大量の米国製品を買ってもらうといったわかりやすいかたちで、米国民にアピールしたいはずです。物価高を抑制するにはイランとの戦争に区切りを付ける必要もあり、中国に協力を求めざるを得ない場面が出てくるかもしれません。その点、選挙の洗礼を受けない習氏は有利です。中華人民共和国の建国100年にあたる2049年までに「社会主義現代化強国」を実現するという長期目標に基づき、10年後、20年後を見据えて交渉ができます。「習氏は時間を味方につけて対応する発想ができる点で、トランプ氏との交渉で主導権を握れる」というのが小嶋氏の考えです」

 

政治学が、独裁政治の末路を研究していないはずがない。政治史という長いスパンの中で、現状をどう分析するか。これは、政治学者の日常の研究過程で欠かせない視点である。中国政治は、独裁政治というジャンルの中での分析対象である。独裁政治特有の「制度疲労」が重なって、永遠の発展はないのだ。その適例として、ソ連の崩壊がある。清国崩壊過程も十分な比較研究対象である。現代中国が、ソ連末期や清朝末期とどのように類似しているか分析すれば、単純に10年後、20年後を延長することは不可能であろう。屈折点があるのだ。それを見抜くのが、政治学に課せられた重大な務めである。

 

(3)「習氏の時間軸でいま最も近いところにある重要イベントは、2027年秋に開く5年に1度の共産党大会でしょう。人民解放軍の制服組トップをはじめとする軍や政府高官の相次ぐ失脚は、党大会に向けた人事刷新の動きとも見て取れます。習氏は人事のことで頭がいっぱいかもしれません。習氏が党大会を無事に乗り切るためには、安定した国際環境が必要です。小嶋氏は「中国が軍事的なオプションを台湾に対して取る可能性はもともと高くないが、よりいっそう低くなる」と判断しています」

 

中国経済は、不動産バブル崩壊に伴う過剰債務と一帯一路の不良債権の重圧に苦しんでいる。これらは、最終的に金融問題へ発展する。金融破綻は、国家破綻へ繋がる要因である。ソ連も清朝も財政破綻=金融破綻が引き金になった。とりわけ注目すべきは、一帯一路関連の不良債権が約6000億ドルもある。中国は、国際金融市場からの借入れた資金を、一帯一路で貸付けた「又貸し」である。10年先、20年先を安穏に予測できない緊急事態を抱えているのだ。台湾問題の前に、国内経済問題が焦点になろう。

 

つぎの記事もご参考に 

2026-05-14メルマガ771号 中国「金融破綻リスク」、一帯一路の不良債権0.6兆ドル 台湾侵攻で欧