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習近平氏は、中国を台頭勢力と位置づけ、米国を衰退勢力と考えている。この見方が、ハッキリと打出されたのが、先の米中首脳会談における初日の「オープニング挨拶」である。古代ギリシャ史のいわゆる「トゥキディデスのわな」について警鐘を鳴らしたからだ。この発言の裏には、中国共産党中央常務委員、序列4位の王 滬寧(ワン・フーニン)氏が控えている。王氏は、かねてから「米国衰退・中国発展」論を唱える「物語」をつくって、習氏に吹き込んできたからだ。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月15日付)は、「台湾巡る『トゥキディデスのわな』」と題する社説を掲載した。

 

中国の習近平国家主席が古代ギリシャ史を学んでいたとは意外だった。習氏は14日の首脳会談でドナルド・トランプ米大統領に対し、いわゆる「トゥキディデスのわな」について警鐘を鳴らしたが、この歴史への言及にだまされてはならない。習氏の真意は、必要なら武力を用いて台湾を奪取するという中国のもくろみに干渉し、戦争を引き起こすリスクを冒さないようトランプ氏に警告することにあった。

 

(1)「古代の偉大な歴史家トゥキディデスはペロポネソス戦争を分析し、勃興してきた新興国アテネが大国スパルタに恐怖を抱かせたことが戦争につながったと主張した。ハーバード大学の政治学者グレアム・アリソン氏は、台頭する国が既存の覇権国を脅かした結果、戦争が起きたことがこれまでの歴史の中で十数回あると指摘し、それを「トゥキディデスのわな」と呼んで注目を集めた。第1次世界大戦はその一例で、勢力を増しつつあったドイツが、欧州の覇権国だった英国を脅かした結果だとされた」

 

習氏が、トゥキディデスの主張を持ち出したのは、習氏の思想指南役である王 滬寧氏が控えている。王氏はかねてから「米国衰退・中国覇権」論を打出して出世してきた人物である。その意味で、「トゥキディデスのわな」は王氏の思想と整合性が取れている。王氏は、

米国研究の専門家であり、米中関係を文明史レベルで捉える人物である。日本の明治維新研究にも精通している。王氏は、米国の制度疲労・社会分裂・覇権の限界を一貫して論じてきた。その結果、「米国は衰退しつつあるが、制度の柔軟性ゆえに完全には崩れない」という二重構造論を打ち出した。この視点はまさに「覇権国 vs 新興国」というトゥキディデスの構図に重なる。

 

(2)「習氏が、この主張のどのような点が気に入っているかが分かるだろうか。彼の見立てによれば、中国は台頭しつつある国、米国は追い抜かれるのを恐れている覇権国である。彼はトランプ氏に対し、中国の野心に干渉しないよう求め、そうした場合は破壊的な戦争になる可能性があることをあからさまに警告している。戦争になれば、大惨事になるとみられるため、それを望んでいる人は誰もいない。だが、米国は中国に対し、武力を行使すると脅すようなことはしていない。米国は長い間、中国による世界貿易機関(WTO)加盟を容認したり、中国がリベラルな国際規範に従うことを期待したりして、中国を支援してきた。習氏こそが、アジア太平洋地域、特に台湾に関して、武力行使の脅しをかけている指導者だ」

 

中国が、世界の工場と言われるまでに発展してきた裏には、日米の強力なバックアップがあった。米国は、中国をWTOへ加盟促進した国である。米国は、技術などを惜しげもなく供与してきた。日本は、ODA(政府開発援助)によって、中国のインフラ整備に累積2兆円強の支援と、企業進出をはかって現場技術の伝授を行ってきた。こうした経緯を経てGDPは、世界2位まで進出してから姿勢が一変した。日米敵視に転じたのである。その裏で「物語」をつくって鼓舞してきたのが王氏である。習氏の振り付け役は、紛れもなく王氏である。