日本ではレアアースの生産コストが、中国の「20倍」という俗説が定着している。ならば最近、三井金属や信越化学がレアアース工場を建設するのは「常識外」の行動と言われるはずだ。現実には,そのような批判はどこからも聞かれない。こういう現実をみると、報道する側が日本のレアアース精錬は世界水準を抜いているという現実を理解せずにいるのだ。
中国のレアアース精錬コストが、日本に比べて安いのは、環境コストを計算に入れていない結果だ。中国の「安」は、廃液垂れ流し、放射性物質の放置、政府補助金、労働安全ゼロ
という 「外部不経済化されたコスト」の上に成り立っている。日本の化学的精錬法は、溶媒抽出の自動制御、AIによる工程最適化、廃液ゼロ化、放射性物質の安全管理、高純度化技術。それにロボット化による全自動化である。中国の精錬法に比べて、格段の差がある。競争比較のレベルが異なるのだ。日本の精錬法が,世界標準になる時期が近いとされる理由である。こういう現実をぜひ、早く知って欲しいものである。
『日本経済新聞 電子版』(6月10日付)は、「信越化学、福井に18年ぶりレアアース工場 脱中国の供給網へ前進」と題する記事を掲載した。
信越化学工業は福井県にレアアース(希土類)の生産設備を新設する。日本は鉱石だけでなくレアアース製錬も中国に依存する。中国外からの原料確保に加え、国内の製錬能力を高めて量産体制を整える。脱中国のサプライチェーン(供給網)を築き、電気自動車(EV)にも不可欠なレアアースを日本企業に安定供給する。
(1)「中国はレアアース鉱石の採掘量で世界の7割を占める。中国は鉱石採掘から製錬までの国内一貫体制を構築しており、精製された磁石用レアアースの総生産量での世界シェアは9割を超える。一方、日本の生産シェアは1%に満たない。レアアース製錬は信越化学のほか三井金属や住友金属鉱山なども手掛けるが、現状では製錬についても国内需要のほぼすべてを中国に頼っている状況だ」
中国は、環境コストを内部化せずに外部不経済化(公害垂れ流し)にしている。日本はすべて内部化(企業負担)するので一見、日本が高く見えるだけである。だが、日本は化学的精錬法によって、精錬過程が全自動化されている。人件費は、掛らず日本の優位性が高まっている。世界的に日本の化学的精錬法が普及し始めている。
(2)「日中関係悪化で規制対象となっているレアアースの中国からの輸入量は3〜4月に前年実績比8割減に落ち込んだ。南鳥島沖に加え、オーストラリアや東南アジアなどでも資源確保に向けた取り組みが進む中、中国外から調達した鉱石を国内で製錬する設備の増強が急務だった。信越化学は福井県で少なくとも350億円を投じてレアアースの製錬設備を新設する。このうち175億円については政府の補助金を活用する。既に福井県内に2カ所のレアアースの製錬拠点を持ち、生産能力は国内トップクラスだ。同社が日本でレアアース製錬拠点を新設するのは2008年以来となる。レアアースを生産するには17種類あるレアアース元素を複数含む原料の鉱石を専用設備で製錬し、それぞれの元素を取り出す必要がある」
これも誤解である。世界共通の貿易品目分類であるHSコードに抵触しないように、レアアースを加工させて、別のHSコードに付け替えさせて輸出させている。だから、これまでのHSコード分類でみると、レアアースは急減している。だが、他のHSコードでは急増しているという「チグハグ」状況が起っている。従来のHSコードでの減少が、実態を表わさなくなっている。
(3)「信越化学は16種類の元素を取り出す技術を持つ。製錬設備の増強でEVモーターに使うネオジム磁石に不可欠なジスプロシウムやテルビウム、半導体製造装置に使うイットリウムなどの供給力を引き上げるとみられる。レアアースは製錬過程で強酸性の廃液や重金属を含む廃棄物が出るため、適切な対策をしなければ環境汚染につながる。かつてはこうした対策を徹底した上で日本でも多くの企業がレアアース製錬を手掛けていた。
信越化学は化学的精錬法によって、製錬過程での強酸性の廃液や重金属を含む廃棄物を出ないように処理して環境汚染を防止している。信越化学は、このコストを内部化している。中国は、環境汚染を放置して外部不経済化させている。
(4)「1990年代以降、鉱石の産出国である中国が十分な環境対策をしないまま製錬に乗り出し、レアアース市況が悪化した。採算確保が難しくなり日本でも三菱ケミカルグループやDOWAホールディングスなどが相次いでレアアース事業から撤退した。米国など海外勢の多くも手を引き、中国が世界市場をほぼ独占する今の構図が出来上がった。中国は独占的な地位を背景にレアアースを経済的威圧に使っている。中国商務省は25年4月にジスプロシウムやテルビウムなど7種のレアアースに関する輸出規制を導入した。26年1月からはデュアルユース(軍民両用)の規制に基づき日本への輸出規制をさらに厳しくした」
このパラグラグは、全てこの通りである。
(5)「こうした中で日本では三井金属や住友金属鉱山も国内におけるレアアース生産・開発基盤の拡大に動く。三井金属は100億円を投じ、28年度までに福岡県内にレアアースの開発拠点を新設する。住友金属鉱山も燃料電池向けの材料に使うレアアースを26年度中に増産する。現在は、中国も環境対策をした上でレアアース製錬を手掛けているもようだ。それでも巨大設備で大量のレアアースを鉱石から一貫生産する体制が確立されており、競争力は高い。第一ライフ資産運用経済研究所の嶌峰義清氏は「中国での製錬にかかるコストは日本よりも圧倒的に安く、現状では日本は勝てない」と語る」
中国は、化学的精錬法のほかに、物理的精錬法も採用されている。いずれも、環境コストの垂れ流しは抜本的に収まっていない。品質も不純物を含んでおり、高級品とは言えない状況である。日本の化学的精錬法には足下にも及ばないとされている。


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