(5)「3つのシナリオを分ける要因はさまざまだが、最大の焦点は国力の推移だ。そして、国力を左右する巨大な変数の一つが、軍事や経済、社会基盤を支える人工知能(AI)分野の取り組みだろう。米国は、AIインフラを構成する基盤モデルやクラウド、先端半導体で世界をリードしている。25年、米国の民間AI投資は2859億ドルと中国の約23倍だ。とはいえ、米国の優位は盤石ではない。中国はAIモデルの性能で急速に迫っており、米国との能力差は数カ月程度との説が有力だ。中国は国家主導により、AIインフラに莫大な投資を注ぐ」
AIは、半導体の能力によって規定される。中国は、先端半導体製造能力がない以上、AIでの競争は不可能である。AIは、具体的に人的ロボットの能力に表れるはずだ。米国の労働力不足は、人的ロボットによってカバーされる。中国とは、大差を付けるであろう。世界レベルで言えば、日本が分散型フィジカルAIを完成させてトップに立つので、米国はその流れを受けるはずだ。
(6)「こうしたなか、中期的に米中の勝敗を分けるのはAIの性能以上に、それを産業や軍事、行政にうまく組み込み、社会の発展につなげられるかどうかだろう。失業や格差、分断の拡大といったAIのリスクを抑え、その恩恵を引き出す実装力の競争になる。「トランプ後」を視野に入れるバンス米副大統領も、そんな問題意識を抱いているようだ。彼の思想に影響を与えた知識人の一人で、バンス氏と数回面会した米ノートルダム大学のパトリック・デニーン教授は、こう話す。「バンス氏は早くから、(格差是正などを求める)MAGAの大衆的な基盤と、技術革新に動かされる世界をどう結びつけるかを考えていた」。具体的にはビッグテックと連携してAIを米国社会に取り込み、教育水準や技能の向上によって中流層を底上げすることを想定している」
米国のような先進国経済は、ペティの「産業発展段階説」に則った発展を遂げてきた。一次産業→二次産業→三次産業のコースである。こういう正常な発展過程を経ている国家の産業構造において、人型ロボットが導入されることは、労働力不足を解消し格差を縮小させる効果がある。だが、中国は、ペティ型産業構造の発展コースを辿らず、一次産業・二次産業・三次産業が全て未発達な段階で、人型ロボットを導入しようとしている。これは、人型ロボットが雇用を奪うという逆効果をもたらす。格差を拡大して、収拾がつかなくなる社会的混乱をもたらすであろう。
(7)「むろん、AIは社会の不安を深めかねず、実現は簡単ではない。デニーン氏も「AIの台頭で、MAGA内部ではテック界への疑念が強まっている」と指摘する。中国はAIを社会の監視や産業に使い、共産党の統治をさらに強めようとしている。権威主義国家のお手本にはなっても、民主主義の流れとは逆行する。米国が、個人の権利と自由、公権力の説明責任などを損なわずにAIを社会に活用できれば、民主主義国家のモデルになれる。逆に、米国の政府や企業、軍によってAIが悪用され、社会から民主主義的な価値が失われていけば、米国は他の西側諸国にとって反面教師になる。世界における指導力はさらに弱まるだろう」
AIが、人型ロボットとしてその恩恵を全ての業種に及ぼすとき、AIに対する認識はかなり変るである。現状は、AIがどういう形で人類に貢献するか具体像が分からず、ただ恐怖感を持っているのであろう。
(8)「最終的に、米国が覇権を保つにはAIだけでは足りない。ソフトパワーを回復する必要がある。魅力を欠いた超大国は「嫌われる覇権国家」になれても、世界のリーダーにはなれないからだ。トランプ政権が米国を再び、偉大にしたいのであれば、強いだけでなく、敬愛される国家をめざした方がいい。米国は超大国としての年齢は、まだ若い。今からでも手遅れではないはずだ」
トランプ氏は、高齢での大統領就任である。それだけに「功を焦っている」面もある。中国包囲網を確立して、米国覇権を強固なものにするという焦りだ。ベネズエラとイランへの急襲は、褒められることでないが、中国の影響力を南米と中東から排除する目的である。中国の影響範囲をできるだけ狭めて、アジアに閉じ込める。これが、トランプ構想である。ただ、対中戦略はソフトに行い、中国が軍事力を使わぬように真綿で絞めている感じだ。この戦略は、中国の経済構造の弱体化と共に静かに進んでいる。トランプ氏は、もはや軍事行動を起こす場所はなくなったであろう。今後の米国外交は、同盟国の信頼回復に向う時期となる可能性が大きい。


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