日米が、協調介入に踏み切りましたが、為替市場ではその目的について真剣に考えようという雰囲気がありません。円買いの協調介入は、1998年のアジア危機以来です。それが、なぜこの時点に行われたのか。そういう構造的な考察は皆無でした。多くは、介入は対症療法でもあり、市場は日米当局の協調介入への温度差を意識しつつ、その持続力を見極めようとしている、という技術論が支配的です。
為替相場は、理論(ファンダメンタルズ)と投機によって説明可能とされています。理論で説明できない部分は、投機によるものと言えるでしょう。ファンダメンタルズでは、日米実質金利差が大きな影響力を持っていることが明らかにされています。
日米実質金利差と円相場の相関係数は、2010~25年の15年間で0.75〜0.85かなり高いのです。こういう分析結果からいえば、現在の円相場は介入後の156円でも「異常円安」という烙印を押しても何ら不都合はありません。現在の日米実質金利差からみた円相場は、120円~130円台になるのです。長期の「円の理論値」では、110〜120円が中心帯です。これは、ぜひ記憶に止めて欲しいものです。
円相場が、現在のように凧の糸が切れたように宙を舞い始めたのは、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻がきっかけとなりました。米国が金利を引上げる一方、日本はマイナス金利で手足が出せない状況でした。これが、「円キャリートレード」を生んで、円が「オモチャ」にされ始めたのです。日本にとってこれ以上の屈辱はありません。異常円安によって、輸入物価が上がって国民生活を追い込んでいるのです。こういう矛盾を感じるならば、為替相場について構造的に考えることは当然でしょう。
残念ながら、8月3日に為替関連報道の中で、こういう分析はゼロでした。市場は「草木もなびく」という風情で、一様に「介入効果を見極める」としています。市場感覚から言えばその通りですが、二つの重要な点を見落としているようです。
一つは、日銀が「展望レポート」において、初めて金融政策の目標に「為替」を入れたことです。これまで、金融政策の目的は「物価安定」として、為替安定に触れませんでした。植田総裁は、経済学者出身であるだけに、金融政策の目標に忠実な「答弁」を記者会見で行ってきました。これが、どれだけ円相場に悪影響を及ぼしたか知れません。利上げをしても円安基調が収まらないという「信じがたい」結果を招いてきたのです。
物価安定の前提は、為替の安定です。これが実現せずに、どうやって物価を安定させるのか。そんな魔法のような手段はありません。日銀が、これまで敢えて「為替」を避けて来たのは理由があります。「金融のトリレンマ」という難問があるからでしょう。金融政策は、「自由な資本移動・独立した金融政策・為替の安定」の三つを同時に達成できないとされています。このうちのどれか二つだけとされています。そこで、日銀は為替の安定を除外して、自由な資本移動・独立した金融政策を守ってきたのです。
しかし今回、為替の安定を金融政策の目標に挙げた以上、独立した金融政策を捨てて、金利の引上げを鮮明にしたのです。日銀にとっては、まさに背水の陣です。日銀の存在を賭けて利上げして円相場を安定させると「宣言」したのです。市場は、ここを軽視してはいけません。
もう一つの注目点は、ベッセンと財務長官がFRB(連邦準備制度理事会)に日本との間で「外国・国際通貨当局向けレポ・ファシリティ」(FIMAレポ・ファシリティ)を重要なセーフティネットとして、数カ月以内に規模拡大促すと記者発表しました。これは、日本保有の米国債を担保に7日間ドルを融資するというものです。日本にとっては、外貨準備高を取り崩すことなく、借り換えで何回でも利用して為替介入が可能となります。むろん、米国も協調介入します。これだけの「防護網」が敷かれたのです。
為替市場では、異常円安是正がこのように「制度化」された現実を見落としているように思えます。市場は、先見性が売り物です。現状は、メガネが曇ったままにみえるのです。


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