中国は今、「AI」が合い言葉になっています。その陰で人々は、仕事を奪われることへの不安を高めていると報じられています。SNSでは数年前から、AIの進化を不安に感じることを意味する「AI焦慮」のハッシュタグを付けた投稿が流行しているそうです。
米シティグループの分析によると、中国では雇用の30%がAIの強い影響にさらされ、9.6%に当たる約7000万人分が代替される可能性がある、としています。特にサービス業や若者が打撃を受け、「雇用なき成長」が現実になるというのです。
これに対して、米国では「雇用なき成長」到来と『ウォール・ストリート・ジャーナル』)8月14日付)が報じています。先週発表された米雇用統計によると、7月は過去12ヶ月で5回目の減少となった。過去1年間の民間部門就業者数の伸びは、月平均で5万人強にとどまる。こうした傾向は、リセッション(景気後退)期以外では実質的に前例がない」としています。
中国では、AI化が全雇用9.6%に当たる約7000万人分が職を奪われる。米国は、雇用増が鈍っても経済成長は続くとしています。この米中によるAIの影響差は、どこから来ているのでしょうか。これは、米中の経済発展の段階に大きな差があることに原因が求められます。
話の順序として、中国をベースに進めて行きます。中国は、革命によって農業社会が一挙に工業化社会へ「ジャンプ・アップ」しました。この過程は、市場経済にすべて委ねた成長過程でなく、政府の補助金と計画経済による「上からの誘導経済」でした。これが、未成熟経済をもたらしたのです。米国のような市場経済を軸とした発展過程であれば、競争によって企業体質は「筋肉質」になります。中国の場合、政治誘導で補助金がたっぷりつく結果、「ぶよぶよ体質」になっています。これが、不完全雇用経済を生んでいるのです。
中国経済は、「不完全雇用均衡」といわれる状況がずっと続いてきました。中国の失業者概念は、「1週間に1時間働けば失業者でない」と信じられない「緩い規定」です。1週に1時間働いて生きていける人間はいません。こういう、「失業者隠し」の規定が、中国経済で慢性的な内需不足を生みました。不完全雇用経済で、2.9億人もの「出稼ぎ労働者」を抱えていた背景です。
こういう状況で、AIが導入されたならばどうなるか。これまで、低賃金で働いてきた雇用先が、AIに切り替わります。大量の失業者が出るでしょう。結論を言えば、不完全雇用均衡で危うく保たれた中国経済が、AIの導入によって失業者が急増して、根底からひっくり返されるという厳しい事態が想定されるのです。
一方、米国はどうでしょうか。AI導入が、労働力不足をカバーします。米国経済は、市場経済の権化です。すべてが市場を軸に回ります。企業は、ギリギリの限界まで無駄を省く経営を行っています。現在、雇用増が鈍化しているのはAIの影響でなく、高金利の影響とみられます。金利を下げて正常化が進めば雇用への需要が増えるでしょう。その場合、AIが労働不足をカバーして、賃上げを緩やかなものにするでしょう。インフレへの緩衝材になります。
AIは、正常な経済発展をしてきた国家には人手不足を緩和させます。中国のように、正常な経済発展段階を踏まずに、計画経済による強引な経済運営を行ってきた国は、AIが不完全雇用均衡を破壊して、大量の失業者を生む危険性があるのです。


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