逃亡官僚の防止法立案へ
住宅在庫1億戸が重圧に
政策修正の対象にならず
長征を模した籠城作戦へ
中国当局は、景気悪化が循環的に繰り返される現象のように振る舞っている。現実は、そのような生ぬるいものではなく、「構造不況」へ落込んだ深刻なものだ。不動産バブル崩壊後遺症が、これから本格化することを意味する。
世界三大格付け会社のS&Pは8月28日、中国のソブリン信用格付けを「A+(Aプラス)」に据え置いた。同国が今後1~2年間、4%以上の成長を続ける可能性が高いことを理由に挙げた。格付け見通しも、引き続き「安定的」とした。この評価は、果たして中国へ「お墨付き」を与えるだろうか。
多くの疑問点を抱えている。S&Pは、「財政支援で4%成長維持」としている。だが、その財政支援の「源泉」である地方政府財政がすでに壊れているのだ。成長維持の前提条件が崩れているのに、格付けは据え置きである。これは明らかに甘いと言うほかない。
既に、S&P評価を覆すような事態が起っている。具体的には、官僚逃亡という事態が増えていることだ。中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)常務委員会は8月25日、海外へ逃げた官僚らの汚職摘発を強める「反越境腐敗法」の草案の審議を始めた。逃亡者の追跡や不正資金の回収にかかわる法制度を拡充するものだ。『日本経済新聞』(8月26日付)が報じた。
中国では官僚や国有企業経営者、その家族らが海外へ不正に資金を移したり、外国で贈収賄に関わったりする事件が相次ぐ。中国共産党の中央規律検査委員会は26年1月、こうした越境犯罪の立件が25年に505件あり、国外逃亡者963人を拘束したと報告した。
逃亡官僚の防止法立案へ
「反越境腐敗法」の本質は、「海外逃亡の封鎖」である。中国の官僚・企業幹部は、不正資金を海外へ移す、家族を先に海外へ逃がす、自分も海外へ逃亡する行動が増えている。これは、政権への忠誠崩壊の前兆である。忠誠崩壊の原因は、地方財政や国有企業経営の悪化である。その原因は、不動産バブル後遺症の重圧が大きく膨らんで、のっぴきならない状態へ追い込まれ、「責任追及される」立場の人間であろう。海外逃亡が、身の安全を保証すると判断しているに違いない。
中国が、反越境腐敗法を制定しようとしているのは、党内の逃亡を本気で恐れている証拠である。中国の歴史では、官僚が海外へ逃げ始めると政権は崩壊する。清末には、官僚が上海租界へ逃亡した。国民党末期は、台湾へ逃亡した。ソ連崩壊前は、幹部が欧州へ逃亡。こうした実例があることから、中国は逃亡を封じる法体系を急ぐものであろう。この法案は、「習近平政権の権力弱体化」の裏返しと読めるのだ。
逃亡官僚は、「内陸部の財政破綻の現場」にいた人達だ。逃亡しているのは、地方財政の破綻を知っている。地方融資平台の債務を把握している。不動産税収の崩壊を理解している。公共事業の未払いを知っている。また、地方銀行の不良債権を把握している面々であろう。中国経済の崩壊現場にいる人間が、危機到来を予知して逃げ出したのだ。これは、習近平政権にとって、最悪のシグナルである。
逃亡官僚が増加している地域のトップは、東北(遼寧・吉林・黒竜江)である。次いで多いのが、内陸(貴州・雲南・甘粛・青海・四川の一部)。さらに、沿海の中小都市(江蘇・山東・福建・広東の二線都市)も官僚が逃亡している。こういう、逃亡官僚が増加している地域の特色は、不動産バブル崩壊後の地価値下がり率が極めて高いという特色がある。地価下落が、地方財政の歳入減をもたらしているからだ。
前記の個人レベルとは別に、湖北省共産党委員会の機関紙『湖北日報』は、8月17日の紙面で掲げた論文で、中国内にはびこる政治・経済を巡る暗い雰囲気、産業の「内巻」(内に籠もり、意味のない過当競争で疲弊する様子)に対する異例の厳しい批判を展開した。同20日には、同系のインターネット上のアカウント『東湖有理』が、17日に注目された批判部分を再度、取り上げて解説したほどだ。『日本経済新聞 電子版』(8月26日付)は報じた。
これは、明らかに習政権への批判である。バブル崩壊後のなかで、続けられる無意味な企業競争への批判だ。「門を閉ざしての(経済)建設は不可能で発展できない」と主張した。これは、改革・開放の総設計師であった鄧小平が、1980年代前半に強調した有名な言葉である。習近平氏の「国内大循環」「自力更生」路線を真っ向から否定する言葉である。
中国の地方党機関紙が、習路線を批判して鄧小平路線を称揚する。『湖北日報』は、これを繰り返し発信している。意図的な政治メッセージであろう。湖北の省都は武漢市だ。武漢は、コロナ初期の隠蔽で世界的批判を浴びた。長期封鎖で経済が壊滅した。また、半導体産業の拠点であり、中国内陸の交通の要衝である。習氏が唱える「国内大循環」の象徴地域だ。習路線の失敗が、最も集中して現れた地域である。その湖北が、「開放に戻れ」と叫ぶのは、習路線の失敗で地方経済が耐えられなくなった証拠であろう。
住宅在庫1億戸が重圧に
以上のように、中国では地方の官僚が逃亡し、地方党機関紙が公然と習政策へ批判の声を上げている背景は、不動産バブル後遺症である地価下落が依然として続き、さらに下落圧力が高まっていることだ。ここで、習政権が敢えて無視している不動産バブル後遺症による地価下落が、中国経済へどのような根本的なダメージを与えているかを取り上げたい。
中国では、住宅で「在庫1億戸」が指摘されている。これは、「売れ残り在庫」だけでなく、建設済み未販売、建設中で既に販売済みだが、未入居などゴーストタウン化した物件を含む潜在供給の総量である。中国の住宅ストックは約3億戸だ。そのうち1億戸が「余剰」というのは、世界史上例がない巨大規模になる。(つづく)
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