勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 経済ニュース時評

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    インドの有力財閥タタが、半導体への進出を決断した。グループ内の電気自動車製造が軌道に乗っていることから、自前で半導体を製造するという遠大な計画である。インドには、半導体事業は存在しないだけに、一からのスタートになる。

     

    タタ財閥は、年間売上9兆6000億ルピー(約16兆3200億円)。93万5000人を雇用し、インドを代表する財閥企業に発展した。現在は傘下のタタ自動車、タタ製鉄、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)が、それぞれ主導する「自動車」「製鉄」「IT」が中核事業となっている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月9日付)は、「タタ、半導体の国内供給網強じん化 米中分断で集積狙う」と題する記事を掲載した。

     

    インド大手財閥タタ・グループが半導体の自国サプライチェーン(供給網)構築に乗り出す。タタにとって半導体は自動車やIT(情報技術)など既存の中核事業の成長に欠かせないが、現在は多くを輸入に頼る。官民挙げた産業育成で安定調達につなげるとともに、米中の技術デカップリング(分断)の間隙を突き、中国に代わる集積地づくりも狙う。

     

    (1)「タタは、数年以内に回路作製が終わった基板(ウエハー)を最終製品の半導体チップに仕上げる「後工程」の生産にまず参入。将来は回路をつくる「前工程」を手掛けることを検討する。半導体を含めた事業強化に向け、今後5年で900億ドル(約12兆円)を投資する計画も明らかにした。こうした事業と半導体は現時点でも密接に関わる。製造業の高度化に伴い、世界大手との競争を勝ち抜くには、その重要性はさらに高まる」

     

    半導体の「後工程」から参入する計画だ。事業資金は豊富であり、他の事業を含めて今後5年間に12兆円を投資する。

     

    (2)「タタの統括会社タタ・サンズのナタラジャン・チャンドラセカラン会長は、成長には「デジタル社会への対応とエネルギーの持続可能性、供給網のレジリエンス(強じん性)確立」が必要との認識を示した。なかでも、グループで最大の事業売上高である自動車分野は、半導体の安定調達が経営課題に浮上する。実際にインドの自動車産業は21年に世界的な半導体不足を受け、生産・販売の低迷に見舞われた。ガソリン車からの需要シフトへの対応では、その課題は一層大きくなる。チャンドラセカラン氏は、「グループの乗用車販売に占める電気自動車(EV)台数は、27年までに(ガソリン車などの)内燃機関(ICE)車を超える」とみる。EVでは1台あたりの半導体使用量が多いとされ、将来の主戦場となる自動運転分野でも、通信や遠隔操作に高性能な半導体が求められる」

     

    グループ内では、自動車産業(EV)に力を入れるので、その関連で半導体事業への参入が不可欠としている。

     

    (3)「インドの自動車市場では長らく、首位であるマルチ・スズキの独走状態が続いていた。21年度の乗用車販売のシェアはマルチ・スズキが4割以上に対し、タタ自は1割強にとどまる。タタ自はEV市場に狙いを定めて商品を投入し、EV販売では足元で9割近いシェアを握るようになった。EV化を加速してマルチ・スズキを追い抜くうえでも、半導体の供給網確立は急務といえる」

     

    インドでは、マルチ・スズキの独走状態が続いているが、タタはEV化でマルチ・スズキを追い抜く戦略である。

     

    (4)「インドの半導体産業はなお発展途上にある。業界団体のインド電子半導体協会(IESA)などによると、同国の2026年の半導体市場規模は640億ドルと21年の2倍以上になる見通し。多くは設計などの一部工程にとどまり、自国で半導体の完成品を供給する体制にはほど遠い。そこで、グループとして大型投資に踏み切り、半導体事業を自ら立ち上げることを決めた。チャンドラセカラン氏は、「複数のプレーヤーと協議することになる」とし、外国企業を念頭に連携していく姿勢を示した。既に6月にはルネッサンスエレクトロニクスと半導体の設計や開発などで協業すると発表している」

     

    インドの半導体産業は揺籃期にある。多くは半導体設計などの一部工程に止まっている。タタは、平原にビルを建てるような事業に取り組む。

     

    (5)「インド政府も、中国などに後れをとってきた半導体産業の誘致や育成に本腰を入れている。21年12月には半導体や液晶生産で7600億ルピーの支援策を打ち出した。米中の覇権争いという地政学リスクも、インドは追い風とみる。米アップルは中国に集中するiPhone生産の一部を、インドなどに移し始めている。チャンドラセカラン氏は、「すべて(のメーカー)が最もコストの低い場所に集まるわけではなくなっている」とし、地政学リスクの高まりが企業の経営判断に影響を与えていると指摘した。インド政府やタタは、中国に代わる半導体産業の集積地としての地位確立を狙う。モディ首相は4月、半導体産業振興イベントで「新たな世界秩序がつくられようとしている。この機会をわれわれはつかまねばならない」とメッセージを寄せた」

     

    アップルは今後、インドで4~5割の製品を生産する意向を見せている。これまでの中国中心から脱却する計画だ。そうなると、インドでの半導体需要が高まるのは必至である。タタの狙い通りに、インドが中国に代わる半導体産業の集積地としての地位を確立できる可能性が生まれる。中国は、みすみす大きな成長チャンスを手放している感じだ。もったいないことである。

     

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    EV(電気自動車)普及では、バッテリー価格の引下げが鍵を握っている。世は、EV信仰で突き進んでいるだけに、バッテリー素材として使われる鉱物の価格が大幅に上昇している。昨年初めと比べてリチウムの価格は10倍に、ニッケル価格も75%も上昇。コバルト価格は2020年の平均価格の2倍以上になっている。

     

    トヨタ自動車はこれまで、バッテリー価格の急激な下落は相当先のことと予測してきたが、現実もこうした動きになっている。トヨタは、バッテリー核心原料のリチウムとニッケルの供給が今後5~10年間は円滑でないと予想してきた。1997年からハイブリッド車を量産してきたトヨタは、バッテリーとモーターに関する技術も蓄積し、原料不足による価格上昇の懸念を誰よりも強調している。世界4位のステランティスも5月、2024~25年に電気自動車用バッテリー、27~28年には電気自動車専用原材料がそれぞれ不足すると予想しているほどだ。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(12月6日付)は、「リチウムイオン電池の価格上昇、EV普及にハードル」と題する記事を掲載した。

     

    リチウムイオン電池の価格が2022年、ここ10年超で初めて上昇した。原材料価格の急騰が、電気自動車(EV)を大衆市場向け商品にしようとする自動車産業の取り組みを難しくしそうだ。

     

    (1)「電池に使われるリチウム、コバルト、ニッケルなどの金属や電池部品の価格上昇により、電池パックの価格は1キロワット時(kWh)あたり151ドル(約2万1000円)まで押し上げられた。1年前から7%の上昇で、値上がりは米調査会社のブルームバーグNEF(BNEF)が年次調査を開始した10年以降で初めてだ。同社は23年には1kWhあたり152ドルに上昇すると予測している。10年は平均1160ドルだった」

     

    EVが、ガソリン車と対抗して競争力を持つには、バッテリーで1kWh100ドルを割込むのを前提としている。22年は151ドル、23年は152ドルと値上りが予想されている。この状態では、EV普及は足踏みすると見られる。

     

    (2)「自動車産業は、電池パックの価格で1kWあたり100ドルになることがEVとエンジン車が同等の競争力を持つようになる水準と長期的に考えてきた。だが、リチウムの価格は21年初比で10倍に高騰しているほか、ニッケルも75%上昇している。22年のコバルトの価格も20年平均の2倍超になっている。この結果、BNEFの見通しでは1kWhあたり100ドルまで下がる時期を26年までの期間として、以前の予測から2年遅らせた。「自動車メーカーにとって、補助金のない地域での大衆向けEVの製造と販売に悪影響を及ぼす」と指摘した」

     

    BNEFは、バッテリーが1kWh当り100ドルまで下がるのは2026年としている。トヨタは、実務経験に基づきずっと以前から厳しい見方をしてきた。ビジネス経験が貴重なのだ。

     

    (3)「22年のリチウムイオン電池の需要は603ギガワット時となり、21年の約2倍に増加した。サプライチェーン(供給網)は需要に追いつくのに苦労している。リチウムイオン電池の価格は地域ごとに大きく異なる。中国では1kWhあたり平均127ドルだが、米国ではそれより24%、欧州では33%高い。欧米は市場が発展していないことに伴って生産コストが高いことや、走行距離がより長いニッケルやコバルトを使った電池が好まれることが理由に挙げられる」

     

    中国では、1kWhあたり平均127ドルという。国を挙げてEVに取り組んでいるので、バッテリーも量産化が進んでいる。中国のEV普及の裏には、トヨタがEV特許を無料公開したことが寄与している。

     

    (4)「BNEFのエネルギー貯蔵担当者、エベリナ・ストイコウ氏によれば、原材料と部品の価格上昇が自動車メーカーに資源確保とコスト削減の対応を迫っている。「電池に使う金属の価格が上昇するなか、大手の電池メーカーや自動車メーカーは採掘・精錬プロジェクトへの直接投資を含め、価格変動に対するより積極的な戦略を立て始めている」と同氏は解説した。電池の原材料となる金属の価格が、いつ落ち着くかは非常に不透明だ。欧米などが中国への依存度低下に取り組むなか、リチウム生産の世界大手は急増する需要に対応するための増産は困難だと警鐘を鳴らしている

     

    下線のように、リチウム生産の世界大手は増産が困難としている。この点も、トヨタの予測通りである。リチウム電池に代わる電池として全固体電池の開発が、日本中心に進んでいる。これは、夢の電池で生活環境が一変するとされている。リチウム電池も日本発技術だが、全固体電池も日本発技術である。トヨタが、研究の最先端を走っている。

     

     

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    中国武漢で3年前、新型コロナが最初に登場した時は治療法も分からず、ただ、都市封鎖するしか道はなかった。これが、成功したことでその後のワクチン登場も無視し、同じ方法にこだわってきた。これが、中国のゼロコロナ対策の経緯である。一度決めた方針は、いかなる矛楯があろうと続ける。こうした硬直したやり方は、毛沢東の「大躍進運動」の失敗と瓜二つという指摘が出てきた。

     

    独裁体制であるからこそ、こういう愚かなことが行えるとしても、その犠牲になる国民は泣き寝入りである。だが、先ごろの若者たちの不満と不安の声が、指導者のいない「突発的デモ」になって世界中に知れ渡った。さすが、当局もこういう愚行を訂正せざるを得なかったのだろう。それが、7日に発表された緩和策である。この裏には、深刻な経済疲弊の事実が横たわっている。背に腹はかえられなかった面も強い。

    大躍進運動の失敗、ゼロコロナ政策の失敗となると、次は台湾侵攻問題に繋がる。一度決めたことは頑なに行なう「習性」から見て、台湾侵攻の可能性は99%あろう。「残り1%」で、これをいかに食止めるかだ。深く考えさせられる問題である。

     

    『朝鮮日報』(12月8日付)は、「大躍進運動にそっくりの中国ゼロコロナ政策」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のキム・ミンチョル論説委員である。

     

    中国で「ゼロコロナ政策」に反対するデモが拡大した。3年近く続く厳しい感染対策に疲れた市民の怒りがウルムチの火災をきっかけに爆発したのだ。

     

    (1)「毛沢東は1958年「7年以内に英国を抜き、15年以内に米国に追い付く」という目標を掲げ「大躍進運動」を行った。現実離れした過度な経済成長率を目標にスピード戦を無理強いし、国民を追い込んでいったのだ。ありとあらゆる非科学的な方法が登場したが、その典型例が「スズメとの戦争」だった。スズメが穀物の粒を食べるという理由で掃討を命じたのだ」

     

    「スズメとの戦争」は、現代に置換えると「台湾統一」となろう。トップが決めたことは、必ず行なう中国共産党の「党是」から言えば、台湾侵攻は確実に行なう。世界は、これを再認識することだ。

     

    (2)「実際は、スズメが減少し食物連鎖が崩壊すると逆に米の収穫量が減り、これに自然災害まで重なったことで最悪の大飢饉を招いた。数千万人が餓死する生き地獄となったが、地方政府は穀物生産量などについて上部に虚偽の報告を行った。それでも誰も正しいことを言えず、この政策は4年以上にわたり続いた。政治指導者が間違った判断と政策を押し通し、これに正しいことを言える勢力が存在しない場合、いかに深刻な事態を招くかを示す事例だった

     

    下線部分は、台湾侵攻に当てはまる。習近平氏の判断に反対できる勢力がなければ、台湾侵攻は現実化する。これに失敗すれば、中国共産党は瓦解する。その過程で、中国は大混乱に陥るだろう。同時に世界経済も巻き込まれる。習近平氏の存命中は、中国も世界も気の休まる時が来ないのだ。

     

    (3)「ゼロコロナ政策はさまざまな面でこの大躍進運動とよく似ている。中国がゼロコロナ政策を推進すると、世界中が「不可能だ」と懸念の声を上げた。過去3年間に米国でコロナ対策のトップだったファウチ首席医療顧問も「中国は何の目的も最終目標もなく長期の封鎖にはいったが、これは公衆保健のためには正しくない政策だ」と批判した。しかしトップが一度方向を定めると誰もこれに異議を唱えることはできなかった。あり得ない目標を掲げて納得しがたい方法(長期封鎖)を使い、さらには信じられない統計まで広がり、住民の苦痛など意に介さずひどい政策を長期にわたり続けた点でゼロコロナは大躍進運動とさまざまな面でそっくりだ」

     

    今回のゼロコロナ対策緩和は、若者たちの不満デモと経済の困窮を理由にして突如起こった。台湾侵攻方針を撤回する条件は、民主主義陣営の同盟強化と、西側からの無謀な戦いを思いとどませるコミュニケーション強化であろう。

     

    (4)「人類は、新型コロナと3年にわたり闘った結果、単純だが貴重な教訓を得た。優れたワクチンを選択して接種を増やし、徐々に日常を回復する方法しかないということだ。幸い新型コロナも今なお感染力は強いが重症化率や致命率は下がりつつある。それでも中国は驚くべきことに3年前に武漢で新型コロナが最初に登場した時と同じ方法にこだわっているのだ」

     

    優れたワクチンは、台湾侵攻に当てはめれば、西側諸国の同盟強化であろう。米中デカップリングを徹底化させることも不可欠である。

     

    (5)「習近平・国家主席が3期連続で主席に就任すれば封鎖も徐々に解除されると考えられてきたが、実際はそうではなかったため中国国民の不満も限界に達したようだ。韓国も隣国であることから、中国が不可能な政策を数年にわたり続けたことによる直接・間接の被害は決して小さくない。それでも今後しばらくはこの巨大な隣国が愚かにも時限爆弾を抱いてふらつく様子をただ不安な思いで見守るしかなさそうだ

     

    下線部は、韓国の本音であろう。陸続きであるだけに、台湾侵攻が始まるか、まさに時限爆弾を抱えた状況だ。これを回避するには、強力なワクチンに相当する米韓同盟の強化であろう。平和が、同盟によって守られると指摘したのは、あのドイツ哲学者カントである。


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    中国経済は、これまで輸出で息をついできたが、それもついに限界にぶつかった。11月の輸出は、前年比8.7%減に落込んだ。2020年2月(41%減)以来の大きなマイナスである。対米輸出は、3割近い落込みである。

     

    10月の海上運賃は、2月のピークに比べて8分の1にまで下落する局面もあった。輸出不振の前兆であったのだ。欧米景気が振るわないことが、中国の輸出減になって現れているもの。早期の回復などあり得ない状況である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月7日付)は、「中国ふるわぬ輸出、米国向け11月3割減 20年以来の下落」と題する記事を掲載した。

     

    中国の輸出が失速している。税関総署が7日発表した11月のドル建て輸出は前年同月比8.%減少した。新型コロナウイルスの流行初期である2020年2月(41%減)以来の大きなマイナスとなった。米欧の景気減速が直撃した。外需の落ち込みは、新型コロナ対策の移動制限で低迷が長引く中国経済の回復を遅らせかねない。

     

    (1)「主要国・地域で米国向けの落ち込みが目立つ。4カ月連続のマイナスで11月は前年同月を3割近く下回った。減少率は輸出全体と同じように、20年2月以来の大きさとなった。当時はコロナ禍で中国のサプライチェーン(供給網)が混乱した影響が大きかった。中国経済が正常化に動き出すと、米国向け輸出も回復し、20年夏からは2ケタ増が続いた。最近の輸出減少は、急速な利上げで米国経済が減速しているためだ。欧州も同様で、欧州連合(EU)向けは1割超減り、2カ月連続で減少した。このほか日本向けが6%落ち込んだほか、10月まで2ケタ増が続いた東南アジア諸国連合(ASEAN)向けも5%の伸びにとどまった」

     

    対欧米輸出が、揃って落込んでいる。厳しい金利引上げの影響が強く出ている。ASEAN向けも伸びが鈍化している。ASEANは、対米輸出が大幅に増えていたので、その部材が中国から輸出されているもの。ASEANの対米輸出にもブレーキがかかってきた証拠であろう。

     

    (2)「新型コロナがまん延して以降、外需は経済成長の重要なエンジンとなってきた。22年19月の実質国内総生産(GDP)は前年同期比3.%増えたが、このうち1.%分が外需の寄与だ。コロナ前は外需が成長の足を引っ張ることもあった。20年以降は経済成長の2~3割が外需による押し上げで説明できた。こうした外需拡大の追い風が急速に弱まっている。国際通貨基金(IMF)が10月に示した予測によると、世界経済の成長率は22年の3.%から、23年には2.%に減速する。中国のシンクタンクでも「23年の輸出は前年比マイナスに陥る」との分析が多く、外需に依存しにくい状況が続きそうだ」

     

    中国経済は20年以降、輸出が経済成長に2~3割も寄与してきた。その成長エンジンに、ヒビが入ったと言える。中国としては事態を深刻に受け止めなければならなくなっている。IMFは、来年の世界経済の伸び率が2%を割るリスクを警告している。そうなれば、中国の輸出はさらに落込む。

     

    (3)「輸出の失速は、国内経済に影を落とす。11月の輸出を品目別にみると、金額が大きいパソコンが前年同月より28%少なかった。労働集約的な衣類や玩具も12割減っており、雇用情勢の回復にも重荷となる。輸入も大きく落ち込んでいる。11月は10.%減と、2カ月連続のマイナスとなった。価格の上昇で調達が増えた原油を除くと、減少率は15%と20年1月以来の大きさに拡大する。新型コロナを徹底して封じ込める「ゼロコロナ」政策による移動制限で、国内の民需が冷え込んでいるためだ。海外製品の人気が高い化粧品は2割減った。地方経済が依存する不動産業も住宅不況の出口が見えていない。中国の内需不振は海外の対中輸出を押し下げ、世界経済にも重くのしかかる

     

    中国が、12月7日にゼロコロナ緩和策を発表した。輸出の前途が怪しくなっていることから、せめて内需活性化をしなければどうにもならなくなるという危機感の表われであろう。

     

    中国共産党は6日、中央政治局会議を開き「防疫措置を合理化する」ことを確認した。党の会議を経て、政府が7日緩和策を公表した。同会議からは景気停滞への危機感がにじむ。「重大な経済金融リスクを未然に防ぎ取り除かなければいけない」と強調した。これまで重大リスクは金融のみを指してきた。これに経済も加えたのは、高止まりする若年失業率への警戒感などがうかがえる。

     

    先のゼロコロナ反対デモが、今回の緩和方針を引き出した一つの要因である。この裏には、中国経済がこのまま推移すれば、のっぴきなる事態へ落込むことを察知した結果であろう。瀬戸際に来ていたのだ。

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    大きい中国依存の反動

    潜在能力を使い果たす

    掠め取る「労働貴族」

     

    IMF(国際通貨基金)は、23年の世界経済成長率を2%以下と予測している。3%を割れば「世界不況」とされるのだ。輸出依存度の高い韓国は、来年の自国の経済成長率に大きな影響が出ると覚悟を決めなければならない。

     

    韓国の輸出依存度は36.14%(2021年)とドイツに次ぐ高さである。ドイツは、EU(欧州連合)という強力な地盤を持つ。韓国の場合は、多くが新興国向け。この差が大きいのだ。韓国が、世界経済の波に大きく揺さぶられる理由である。

     

    困ったことに、韓国の政策金利が3.25%へと引上げられている。米国の利上げに伴う「追随利上げ」だ。米韓の金利差が拡大することで、外貨流出が起こればウォン安を招き、消費者物価にはね返る。こういう悪循環を回避するには、韓国の政策金利引上げが不可避だ。政策金利は、昨年7月の0.5%の低金利から、その引上げ幅は2.75%ポイントにもなった。資金の借入れ側は、金利負担増がきついのだ。

     

    来年の韓国経済は、以上のように世界経済成長率の低下と高金利に挟撃されて停滞が予想されている。韓国銀行(中央銀行)は、1.7%を予測しているが、これは楽観的な予測となっている。11月末基準で世界の主要投資銀行が予想した来年の韓国経済の成長見通し平均は1.1%である。銀行別では、バークレイズが1.3%、シティーが1.0%など。ノムラはマイナス1.3%と厳しい予測だ。

     

    韓国経済が過去、1%を下回る成長率を記録したのはこれまでに4回ある。

    1)2020年 マイナス0.7%(新型コロナウイルスが拡散)

    2)2009年 0.8%(金融危機当時)

    3)1998年 マイナス5.1%(通貨危機当時)

    4)1980年 マイナス1.6%(第2次オイルショック当時)

    大きい中国依存の反動

    23年の経済成長率は、前記のいずれかと近似したものになるのではと危惧されている。仮に、韓国銀行が予測するように1%台の成長率を実現したとしても、その後は過去のような高目の成長率に戻れる可能性が低くなっている。その要因には、次の2つが上げられる。

     

    1)韓国の輸出依存度でトップの中国経済が、これから停滞局面に入る恐れが強まっていることである。習氏が、国家主席3期目に入るとともに、改革開放政策を放棄して、「共同富裕論」という分配政策に重点を置く政策に舵を切ることだ。米中対立の激化もマイナス要因である。

     

    2)韓国の高齢化が急ピッチで進んでいる。2025年には「超高齢社会」(65歳以上人口が21%以上を占める)入りである。だが、高齢者対策はゼロ同然である。「反日」には異常な熱を入れたが、肝心の国内対策ではスッポリ抜けていたのだ。歴代政権は、年金問題の解決を避けて先送りした。その咎めが今、噴出しているのである。

     

    これら2点は、韓国の抱える構造的な問題として横たわっている。私のコメントを付したい。

     

    1)韓国の対中輸出比率は、香港を含めた3割を上回る。輸出市場の3分の1が中国関連であるだけに、習氏の改革開放政策の放棄が、韓国にとっては切実な問題になるのだ。習氏はなぜ、改革開放政策を放棄するのか。これは、習氏個人の事情にある。

     

    習氏は、永久国家主席を目指している。ロシアのプーチン大統領と同じ発想法だ。個人の権威を確立するには、政敵の存在が目障りである。習氏は、反対派を抹殺するために民営企業の成長にタガをはめた。すなわち、「資本の無制限な発展を規制する」という大義名分である。資本である民間企業側には、故人となった江沢民元国家主席の一派(上海閥)が結集している。上海閥を叩くには、民営企業の発展を抑制すれば可能になる。これが、改革開放政策を放棄した理由である。

     

    習氏は、共産党革命で戦った元老の子弟である。「紅二代」とされているグループだ。中国共産党では、「本家筋」に当る。この本家が、「分家」の上海閥を排除するのは共産党の権力確立から見て「当然」と考えているにちがいない。習氏は、この本家意識によって中国の政策を毛沢東路線に戻そうとしている。習氏の権力掌握は、これによって終身にできるのである。

     

    改革開放政策は、毛沢東論理から言えば邪道と見られている。資本の跋扈は許しがたいという感情論でもある。習氏や毛沢東派は、賄賂・汚職が改革開放政策を行なった過程で増殖したと見ている。毛沢東の指揮した革命戦争中は、農民を苦しめないという規律が徹底していた。そういう「清廉」な時代を取り戻すには、改革開放政策を放棄するしかない。この心情が、「共同富裕論」にはあるのだ。

     

    習氏は、折りに触れて「乏しきを憂えず、等しからざるを憂う」と漏らしている。経済成長を第一義としていないというポーズである。これが、「本意」と思えない節があるのだ。習氏の在任10年間、不動産バブルを放置したのである。土地売却収入を軍事費拡大に投入してきたと見られる。バブルという「あぶく銭」をたっぷり吸収した後で、「共同富裕論」という大義を持出し、自らの失政を隠そうとしている。私には、こう映るのである。習氏は、政治家に多い便宜主義者(オポチュニスト)なのだ。(つづく)

     

     

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