米中対立激化の中で、韓国外交はどう舵を取るのか注目されている。李大統領自身は、これまで「中国へシェシェ(有り難う)、台湾へシェシェ(有り難う)」という中立発言を繰返してきた。内閣も米国同盟派と自主外交派が存在し、「ヌエ的」姿勢でカムフラージュしている。だが、こうした外交姿勢がいつまで保てるのか。
『ニューズウィーク 日本語版オンライン』(7月17日付)は、「李在明外交に潜む『同盟派』vs『自主派』の路線対立とは?」と題する記事を掲載した。筆者は、木村幹氏である。
韓国新大統領の李在明(イ・ジェミョン)は、6月16日~17日にカナダで行われたG7サミットに招待国代表の1人として参加し、外交デビューを果たした。中東情勢の激変によりトランプ米大統領が急きょ帰国し、念願の米韓首脳会談こそ果たせなかったものの、日本の石破首相をはじめとする各国要人との会談を順調にこなし、記念撮影などの場でも各国首脳と談笑するなど、まずは順調なデビューとなった。
(1)「こうしてみると、李在明外交は今のところ大きな破綻なく始まったようにみえる。しかしそれは、外交に課題が存在しないことを意味しない。なぜならこの政権は外交路線において方向性を異にする2種類の人々を内部に抱え込んでいるからだ。1つのグループはアメリカとの関係を重視する「同盟派」であり、その中心は魏聖洛(ウィ・ソンラク)安全保障室長である。進歩派政権の内部にありながら、外交の基軸はあくまでアメリカとの同盟関係に置かれるべきだと考える彼らは、その延長線上で「同盟国の同盟国」である日本との関係も重視する」
同盟派は、米国を重視することから、その延長線で日本との関係維持も必要としている。
(2)「対して、政権内部には「自主派」と呼ばれるグループも存在する。その代表的人物は情報機関である国家情報院長に指名された李鍾奭(イ・ジョンソク)元統一部長官である。元祖「バランサー論者」として知られる彼は盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権期、既に対立を深めていた米中間で韓国が均衡を保つべきだと主張し、その外交政策に大きな影響力を行使した」
自主派は、民族派というべき立場である。米中の間に立って「バランスを取る」という理想派である。だが、韓国は米国と同盟を結んでいる。この関係を無視して自主外交とは、夢のような話であろう。ならば、思い切って米韓同盟を切る覚悟を示すべきだ。
(3)「異なる方向性を有する両勢力の間で、李在明がどのような外交政策を選択していくかは現段階では明らかではない。しかし、今後の政権の動向に大きな影響力を持つ世論に重要な変化が生まれている。大統領選挙直前の今年5月に韓国リサーチが行った世論調査によれば、「次期政府は米中間において均衡外交を展開しなければならない」と答えた人は実に65%に及び、「アメリカ優先の外交を展開しなければならない」の23%を圧倒した。とはいえ同時に注目しなければならないのは、「中国優先の外交を展開しなければならない」と答えた人がわずか2%にすぎないことである。2017年に勃発したTHAAD配備問題をめぐる対立以来、韓国では中国に対する忌避感情が広がり、中国を重視する人々が激減する状況が続いている」
李大統領は、政権に両派を取り込み議論させ、「ガス抜き」を狙っているのであろう。後で不満が残らぬように言いたいことを言わせる。だが、結論が出たらこれに従わせるという手法だ。ただ、世論は米中間において均衡外交を展開するが、65%も占めている。世論重視の韓国政治では、「中立論」が圧倒的である。世論自体が、「どっちつかず」を目指しているのだ。
(4)「にもかかわらず、韓国の人々が対立する米中の間でアメリカではなく「均衡外交」を選択する背景にあるのは、トランプ政権成立以降、アメリカに対する忌避感情も次第に拡大しているからである。つまり、米中両国が共に信用できない存在なら、模範解答は両者から共に距離を置くことであり、その対立に巻き込まれないのが韓国にとって利益になる、というわけである」
韓国世論は、米中対立に巻き込まれないのが国益という認識である。朝鮮戦争の苦い経験が、現在の韓国には全く生きていないのだ。
(5)「このような韓国世論は、新政権関係者の発言にストレートに反映されている。例えば、李在明や李鍾奭は「韓国には台湾海峡問題に関与する意思が存在しない」と繰り返し明らかにしている。とはいえ、このような状況は、日本をはじめとする西側諸国にとって決して好ましいものではない。トランプ政権に対して不信が高まっても、韓国をいかにアメリカ中心の陣営側に引き留めるのか。奔放なトランプ政権を一方の側に置き、日本外交にとっては難しい局面が続きそうだ」
自国の利益だけを考える韓国世論に対して、日本はどう向き合うのか。半島情勢が急変してから、日本へ支援を求めても「駄目だ」ということを事前に強く伝えるべきだろう。日本は、「韓国有事」も想定するようにしか言えない点がもどかしいのだ。