勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 経済ニュース時評

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    中国は、相手国が自国利益に反すると判断した場合、経済的威圧行為を発動して、相手国を屈服させようと強引な手を打ってくる。当然、WTO(世界貿易機関)ルールに違反した行為だ。中国は、それにお構いなく強行するのだ。

     

    中国の経済的威圧行為は、どのように防ぐか、だ。かつて、日本も被害にあった。中国が、レアアースの輸出禁止措置に出たのだ。日本は、レアアースの在庫が多く、かつ技術革新でレアアースの使用を減らすことに成功。逆に音を上げたのが中国で漫画的な結果に終わった。これは、日本だから成功した面もある。他国では、中国の一方的な威圧行為に泣き寝入りさせられる。これを防ぐには、西側パートナー国が協力するほかない。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月27日付け)は、「中国の経済的威圧を阻止 G7の課題 ―駐日米大使寄稿」と題する記事を掲載した。

     

    米国のラーム・エマニュエル駐日大使が日本経済新聞に寄稿した。中国の経済的な威圧行為について、日本や欧州などの友好国と団結して対抗すべきだと訴えた。

     

    国際貿易制度は、規則順守というたった一つの単純な約束の上に成り立っている。2001年に巨大な市場と人口を抱える中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した際、国際社会はこれで中国の人々が貧困から解放され、世界的な経済の統一が実現すると信じていた。

     

    (1)「(中国は)市場改革を受け入れるどころかそれを無視し、自国の経済的利益に資するWTOの規定のみに従った。WTOで禁止されているにもかかわらず、補助金により自国の企業を不当に優位に立たせ、外国企業の市場参入を阻む中国の慣習はひどいものだ。しかしさらにひどいのは、中国の最も悪質で不変の経済破壊手段である経済的威圧のまん延だ」

     

    WTOには、規則違反に対する処罰規定が存在しない。中国は、WTOルールの裏表を知り抜いており、ルール違反を繰り返してきた。「やり得」になっているのだ。それ故、西側諸国は自衛するほかない。

     

    (2)「中国は、国際貿易を武器とし、まん延する知的財産窃盗、企業秘密を盗み出すスパイ、企業のシステムに対するサイバー攻撃など、多くの不法な手段を駆使している。さらには市場レバレッジを使って貿易ルールをゆがめ、他国に政治的姿勢を強制している。経済的威圧は、一種の政治的な戦いである。中国は10年に尖閣問題をめぐりレアアースの対日輸出を停止し、日本の産業と消費者に大きな打撃を与えた。12年に南シナ海でフィリピンと対立すると、中国はフィリピンから輸入されるフルーツの検疫を強化し、中国の漁師を「保護」するため船舶を送りフィリピン船に対して妨害行為を行った」

     

    日本は、技術を持っているので中国へ対抗できた。そうでない国は、泣き寝入りするほかない。理不尽な話である。まさに、「強者の論理」である。

     

    (3)「16年には、対北朝鮮防衛策として韓国が米国の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)を配備すると、中国は国内で韓国に対するボイコット運動を主導し、韓国の自国防衛を批判した。オーストラリアとリトアニアも同様の被害を受けた。新型コロナウイルスの発生源について豪州が独立した調査を求めたことに反発した中国は、豪州産の石炭、大麦、牛肉、銅、小麦の輸入規制を行った。また台湾の代表機関開設を機に、リトアニアとの貿易を停止した」

     

    韓国は、中国の威圧行為に対して抵抗するのでなく、さらに融和姿勢に出て事態を悪化させた。中国の思う壺へはまり込んだ。豪州とリトアニアは、臆することなく中国へ対抗している。豪州は、AUKUS(米英豪)という軍事同盟を結成した。リトアニアは、相互の大使を引き上げて「全面対抗」し、台湾と密接な関係を構築している。

     

    (4)「国際社会が経済的威圧に対して結束しなければ、中国は引き続き国の規模、発展レベル、物理的距離を問わず、他国とその経済を食い物にするだろう。現在の対応では不十分だ。統一された計画もない。誰かが先頭に立ってこの問題に対応しなければならない。中国の経済的威圧を阻止するため、またその阻止が失敗した場合に国際社会は何ができるのだろうか。第一に、主要7カ国(G7)やインド太平洋経済枠組み(IPEF)のような正式なもの、またはパートナー国との非公式な取り決めなどのグループ化を通じて、各国は中国の経済的威圧から自国を守ることができる。日本は、経済的威圧を今年のG7サミットの最重要課題にしている」

     

    G7やIPEFの場で、中国の経済的威圧行為に対抗するほかない。

     

    (5)「第二に、法治国家は供給網の回復力を強化するための独自の経済協力手段を備えている。我々は、中国の威圧的貿易の犠牲者に、輸出信用枠や迅速な許認可の供与など、実質的な救済をもたらさなくてはならない。例えば、欧州連合(EU)は抑止と報復政策を認める反威圧手段の採用を検討している。中国を阻止し、被害者を保護することができるのは、法の支配を支持し、経済的な関与は相互利益をもたらすべきだという考えを共有する国々による集団的な決意だけだ」

     

    中国から経済的威圧行為を受けた場合、パートナー国で相互支援して難局を切り抜けることだ。

     

    (6)「世界経済を主導する米国、日本、韓国、オーストラリア、英国、EUは、中国を阻止し、自国を守るため団結して行動しなくてはならない。どの国も傍観者ではいられない。統一された集団的行動が、中国による孤立と経済的威圧に立ち向かうための最大の攻撃であり防御である

     

    下線部分が、中国の不法行為へ対抗する手段であることは間違いない。中国は、こういう形で包囲網を作らせている。惜しいことをしているものだ。

     

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    米国は半導体武器に外交戦

    いずれ中国から撤退の韓国

    中国は半導体で手痛い打撃

    米後援で復活の日本半導体

     

    半導体が、戦略物資であることを改めて印象づけている。米国が発祥である半導体産業は、1991年のソ連崩壊後にコスト削減を狙って生産拠点を世界へ広げた。これにより、米国内の生産シェアが急速な低下に見舞われた。米国は、現在の米中対立をきっかけに、半導体技術を武器にして中国を包囲する体制を築き上げようとしている。その狙いは、ほぼ完成した段階だ。

     

    米国バイデン大統領は、上院議員時代から外交問題に精通し、8年間の副大統領時代の経験を基にして、素早い半導体の中国包囲網を立ち上げた。中国が、ゼロコロナ政策で「籠城」していた間に、半導体の世界地図は大きく塗り変わったのだ。

     

    最大の変化は、半導体で凋落した日本が再び、最先端半導体で世界トップへ踊り出ようとしていることである。1980年代後半に半導体世界シェア50%を握っていた日本が、米国との半導体摩擦で米国の術中に嵌められ、その後のシェアは大きく後退した。現在は10%程度にまで凋落している。その日本が、米国IBMと技術提携して最先端半導体(2ナノ以下)へ進出すべく、国策会社「ラピダス」が北海道で新工場を建設する。2025年に試作品、27年に量産化体制を樹立する。素早い復活劇である。

     

    米国は半導体武器に外交戦

    米国は、これまで半導体を「武器」に使って外交戦を切り開いてきた。最初の相手が日本である。米国は、GDPで迫り来る日本に対して、半導体規制と急速円高への煽動によって日本を突き放した。今度は中国が相手である。対日本と同じ半導体戦略を用い、米同盟国を結束させ、中国の先端半導体製造を窮地に追込もうとしている。米国の外交戦略は、海洋国家特有の手法である同盟国を束ねることだ。誰も反対できない、民主主義という「価値観」が旗印になっている。

     

    半導体による中国包囲網には、関係国が米国、日本、韓国、台湾、オランダと5ヶ国に過ぎないことで、結束しやすいことが背景にある。米国、日本、オランダは、半導体製造装置で寡占状態を維持する。この三カ国は、中国への先端半導体装置輸出を不可能にさせた。

     

    韓国と台湾は、半導体生産で抜きん出た存在である。だが、半導体製造装置や半導体素材を生産していない弱点を抱える。その中で唯一日本は、製造装置・素材・加工という全分野を擁している国だ。かつて半導体50%シェアを握った日本は、こうした潜在力が未だ健在なのだ。韓国が、旧徴用工賠償を国内で解決して、日本へ急接近している裏には、日本の半導体総合力への魅力がある。この問題については、後で取り上げることにする。

     

    米国は、国内で半導体を生産する企業に補助金を支給する。これは「アメ玉」である。だが、補助金を支給された企業は、中国で先端半導体生産について制約条件がつく。「ムチ」も用意されているのだ。これが、半導体中国包囲網の中身である。先端半導体製造装置については、米・日・オランダによる輸出禁止令がすでに出されている。

     

    米商務省が、半導体法ガードレール(投資制限装置)規定を3月21日に発表した。要約すると、次のような内容だ。10年間に生産能力が5%以上増えない限り、技術のアップグレードを許容する。これを越える生産能力の拡大投資は、10万ドル以上が禁止される。技術開発でウェハーあたりのチップ数が増えることは生産能力拡大とみなさない。この半導体法ガードレールが、日進月歩の半導体産業にとって大きな障害になることは明らかだ。

     

    韓国半導体企業は、これまで中国で数兆円規模の投資をしてきた。この巨額投資が、これからは大きな制約を受けることで、経営上の負担となろう。いずれは、中国半導体工場を中国へ売却して引揚げる事態も想定されるのだ。

     

    いずれ中国から撤退の韓国

    サムスンは3月15日、こうした米国半導体法のガードレールによる中国投資への制約を忌避すべく、韓国国内でこれまでにない大規模投資計画を発表した。今後20年間で総額300兆ウォン(約31兆円)を投じ、ソウル市近郊に受託生産の新拠点を建設すると発表した。サムスンは、半導体工場として韓国国内のほかに米国に2拠点、中国に1拠点を構える。今回、新拠点を自国に整備する背景には、米中対立の影響が大きいと見るべきだ。

     

    サムスンにとっては、国内4カ所目となる半導体生産拠点は、ソウル近郊の龍仁市に710万平方メートルの敷地を確保。2026年に着工し、29年ごろの稼働を目指すとしている。その後も、受託生産とメモリーの先端半導体を量産する工場を計5棟建設する計画である。

     

    サムスンは、この大計画を実現する上で、日本との関係強化を最も重視している。半導体製造装置や素材の供給面で、日本企業との関係を蜜にすることが不可欠であるからだ。サムスンにとって永遠のライバル企業は、台湾のTSMCである。このTSMCは、日本の半導体製造装置や素材のメーカーと共同研究を行なっている。それだけに、この日台共同研究の成果が、TSMCの業績に反映されることは間違いない。製品歩留まりで、TSMCがすでにサムスンを大幅に上回っており、これも両社の業績格差に現れている。(つづく) 

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    韓国は、日本を非難するときの常套句として、自国を「道徳の国」と称して日本を下に見て満足する風潮がある。その道徳の国で、最大野党「共に民主党」代表の李在明氏は、検察からいくつかの罪名で起訴されている。毎週、法廷に通わざるをえない被告の身だ。前の大統領選で、候補者にもなった人物である。

     

    李氏は、日本では全く想像もできない行動を取っている。党代表を辞任するとか、党を離党するとか、そういう行動を取らずに、過激な反日言動で自らの疑惑を覆い隠す勢いである。韓国の政治倫理では、こういう政治行動が容認されるのか。自ずと限界というものがあろう。

     

    『中央日報』(3月23日付)は、「起訴された韓国野党代表、もう自身の進退を真剣に悩む時と題する社説を掲載した。

     

    検察が、慰礼(ウィレ)新都市・大庄洞(テジャンドン)開発特恵不正と城南(ソンナム)FC後援金の疑惑で、共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表を昨日裁判にかけた。主な容疑は背任と収賄だ。

     

    (1)「大庄洞に関しては、城南市長時代に民間業者に有利な事業構造を承認し、城南都市開発公社に4895億ウォン(約498億円)の損害を与え、その過程で内部秘密を民間業者に流して7886億ウォンを手に入れた疑いだ。慰礼新都市事業では民間業者に内部の情報を知らせて不当利得211億ウォンを得た疑い、城南FC球団のオーナーとして4社の後援金133億5000万ウォンを受け取る代価として各種便宜を提供した疑いだ」

     

    背任と収賄という罪名である。李氏は、与党の政治報復として済ませている。すべて、他人のせいにする韓国である。しかし、これだけ巨額資金が、本人の預かり知らぬところで動くとは思えないのだ。本人は、ともかく逃げ切る方針のようだ。

     

    (2)「大庄洞事件関連起訴は、2021年9月本格的な捜査開始以来1年6カ月ぶりだ。李代表としては選挙法(違反)に続き、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政府発足後2度目の起訴だ。李代表は「家宅捜索、逮捕令状ショーを政治的に活用して決まった答えどおりに起訴した」と反発した。全国を騒がせた事件の真実は、今や法廷で明らかになっている」

     

    韓国は、こういう疑惑を引き起している人物が、政党代表に止まっていることの非常識さを認識することだ。日本から見た韓国政治は、決して褒められた状況にない。これが、日本人の韓国観に反映されている。

     

    (3)「問題は、169議席の巨大野党を率いる李代表の進退だ。民主党党務委員会は「政治報復捜査なので党役員停止の対象ではない」と議決した。党役員が不正腐敗の疑いで起訴された場合は党職を停止するが、該当捜査が政治報復として認められれば党務委議決でこれを取り消すという党憲第80条によるものだ。従来の党憲は、「外部の人々が主軸である中央党倫理審判院が政治報復の可否を判断する」とした。しかし、昨年8月の李代表就任直前、党代表が議長を務める党務委に判断の主体を変えた。当時「特定人のための防弾改正」という批判が出てきたが、その心配が7カ月ぶりに現実化した。このようなやり方では、党憲第80条を放っておくことに何の意味があるだろうか」

     

    李氏の行動は、「絶対多数に胡座をかいている」というものだ。「共に民主党」は、国会で300議席中169席を占める。56.3%にもなるので、多少の造反が出ても李氏は守られるという計算をしているのであろう。だが、来年4月には総選挙を迎える。議席が増えるよりも減る公算の方が強い。その際に、李氏の責任が問われる場面がくるだろう。そこまで辞任時期を引き延ばすとすれば、余りにも無責任という非難を浴びるに違いない。

     

    (4)「李代表は、すでに選挙法違反で2週間に1回は裁判を受けている。今回の起訴でもっと頻繁に法廷に立つことになった。サンバンウルグループの北朝鮮送金疑惑、柏ヒョン洞(ペクヒョンドン)特恵疑惑など捜査線上に上がっている他の事件も数え切れない。裁判と捜査で席を随時空けるしかない代表が、(国会議席)数字の力を背負って主要法案の運命を決める現実が果たして正しいのか疑問に思うばかりだ」

     

    李氏は毎週、法廷に通う身である。未だ疑惑事件が控えている。北朝鮮送金疑惑など捜査線上に上がっている事件は数え切れないという。これもすべて、「他人のせい」にする積もりであろう。世にも不思議な党代表が生まれたものだ。

     

     

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    EV(電気自動車)は、地球に優しいとされるが泣き所もある。衝突事故で電池に少しでも傷が生じれば、使用不能になる「キワモノ」であるのだ。損保会社は、衝突のEVをほぼ「全損」扱いにしており、EV保険料も高くなるのだ。EVユーザーやこれから購入する向きは、知っておくべき知識のようだ。

     

    『ロイター』(3月25日付)は、「電池にかすり傷で全損も、エコには程遠いEV保険事情」と題する記事を掲載した。

     

    電気自動車(EV)の多くは、事故によりバッテリーに軽微な損傷があっただけでも修理や評価が不可能になる。保険会社としては、たいした距離も走っていない車両を全損扱いとせざるをえない。すると、保険料は高くなり、EV移行のメリットも薄れてしまう。そして今、一部の国ではこうしたバッテリーパックが廃棄物として山をなしている。これまで報道されていなかったが、想定されていた「循環型経済」にとって手痛い落し穴だ。

     

    (1)「『EV購入の動機は持続可能性だ』と語るのは、自動車リスク情報を扱う調査会社サッチャム・リサーチの調査ディレクター、マシュー・エブリー氏。「だが、ちょっとした衝突事故でもバッテリーを廃棄せざるをえないとすれば、EVはあまりサステナブルとは言えない」。バッテリーパックのコストは数万ドルに達することがあり、EV価格に占める比率は50%にも至る。交換するのは不経済である場合も多い。フォードやゼネラル・モーターズ(GM)など一部の自動車メーカーは、バッテリーパックを修理しやすいものにしていると話しているが、テスラは、テキサス工場で製造する「モデルY」について逆の戦術を選んだ。構造材化された新たなバッテリーパックは、専門家に言わせれば「修理可能性ゼロ」だ」

     

    EVは、少しの衝突事故でも電池を廃棄するとすれば、環境に優しい持続的自動車とは言えない。テスラの「モデルY」は、電池が構造と一体化されているので取り外しが不可能という。少しの事故でも廃車だ。テスラは、コスト半減でEV「330万円」を目標にする。一方、修理不可能という現実が待っている。

     

    (2)「テスラなどの自動車メーカーがもっと修理しやすいバッテリーパックを製造し、バッテリーセルに関するデータに第三者がアクセスできるようにしない限り、EV販売台数が増えるにつれて、ただでさえ高い保険料は上昇を続け、衝突事故後に廃車となる高年式車は増えていく――これが保険会社や自動車産業の専門家の見方だ。アリアンツ・センター・フォー・テクノロジーでマネージングディレクターを務めるクリストフ・ラウターワッサー氏の指摘によれば、EV用バッテリーの製造においては化石燃料車の製造よりもはるかに多くの二酸化炭素が排出され、何千マイルも走行しなければ、そうした追加の排出量は相殺できないという。「たいして走りもしないうちに廃車にしてしまえば、二酸化炭素排出量におけるEVの利点はほぼすべて失われてしまう」とラウターワッサー氏は言う」

     

    EV用バッテリー製造では、ガソリン車製造よりもはるかに多くの二酸化炭素が排出される。EVは、何千マイルも走行しなければ、こうした追加の排出量は相殺できない。EV電池が、ちょっとした衝突でも使用不能に陥るのは最大の環境負荷だ。

     

    (3)「大半の自動車メーカーはバッテリーパックを修理可能としているものの、バッテリーに関するデータへのアクセスを提供する意志のあるメーカーはほとんどないようだ。EU圏では、すでに保険会社やリース会社、自動車修理工場が、自動車メーカーを相手に、利益率の高いコネクテッドカー(ネットに接続される車)に関するデータへのアクセスをめぐる争いを展開している」

     

    EVメーカーは、バッテリーに関するデータを開示していない。これが、保険会社やリース会社、自動車修理工場との紛争を引き起している。

     

    (4)「前記のクリストフ・ラウターワッサー氏は、争点の1つがEV用バッテリーのデータへのアクセスだと述べる。アリアンツでは、バッテリーパックに傷があっても内部のセルは無事である可能性が高い事例を確認しているが、診断データがないため、そうした車両も全損扱いにするしかないという。なお保険会社と自動車産業の専門家によれば、EVは最新の安全機能を搭載しているため、これまでのところ従来タイプの車に比べて事故の確率が低くなっているという

     

    EVメーカーは電池情報を開示していない。この結果、電池の表面に傷があっても内部のセルは無事である可能性もあるものの、情報不足で修理できず全損になる。壮大な無駄を作っているのだ。

     

    (5)「EV用バッテリーの問題が明らかにしているのは、自動車メーカーが喧伝する環境に優しい「循環型経済」に潜む落し穴だ。英国の解体事業者最大手サイネティックのマイケル・ヒル事業部長は、同社ドンカスター工場では、火災リスクを避けるための点検を行う「アイソレーション・ベイ」に収容されるEVの台数が過去12カ月間で急増しており、3日で12台程度のペースだったのが、1日最高20台にまで上昇していると話す」

     

    EVは、循環型経済のエースである。だが、肝心のバッテリーは衝突事故で修理不可能という事態に陥っている。「テスラの構造的バッテリーパックは、何かあったらスクラップ直行だ」と指摘されている。テスラ車に潜む意外な落し穴である。

     

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    北京の日本人ビジネスコミュニティで、重要なポジションにあるとされる50代の男性が、国内法(反スパイ法)違反容疑で拘束された。中国当局は、拘束理由を説明していない。かつて同様の容疑で拘束・逮捕され収監された人物によると、容疑内容は食事の際に北朝鮮の話を質問しただけという。その時の食事相手が、密告したと言うから、中国社会には至るところに「罠」が仕掛けられている。危険ゾーンになった。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月25日付)は、「北京で50代邦人男性拘束 日系企業幹部、国内法違反で」と題する記事を掲載した。

     

    日系企業幹部の50代の日本人男性が3月、北京市で当局に拘束されたことが25日わかった。中国当局は国内法に違反したと主張している。日本政府は早期の解放を中国政府に求めている。日中関係筋が明らかにした。

     

    (1)「日本政府は、在中国日本大使館を通じて領事面会や関係者との連絡などの支援を試みている。現時点で面会はできていない。中国側は男性の拘束に至る経緯について日本側に十分に説明していないとみられる。中国は2014年以降、反スパイ法や国家安全法の制定を通じ国内の統制を強め、外国人を厳しく監視するようになった。その後、今回を除き少なくとも16人の邦人がスパイ行為に関わったとして拘束されたことが判明している」

     

    中国は2014年以降、反スパイ法や国家安全法の制定を通じ国内の統制を強めている。だが、それ以前から外国人への警戒感は極めて強かった。電話盗聴は当たり前であったのだ。日本の有力都市の上海駐在員は1990年代、盗聴前提で日本へ中国の不便な部分を伝え、現地での業務が遂行できないので引揚げると連絡した。そうしたら、上海市担当者が飛んできて直ぐに改善したという。盗聴の結果だ。

     

    日本メディアの中国特派員の苦労話も読んだことがある。中国当局から濡れ衣を着せられないように、公共交通機関では鞄を常に手に抱えて移動したという。これは、車中でうっかり居眠りでもしていると、その隙に鞄へ機密資料を忍び込ませておき、逮捕するという「汚い手」を使うからだ。驚くべき手を使って、スパイ容疑者に仕立てる凄腕なのだ。陰謀渦巻く中国で、外国人が安全に生き延びるのは極めて難しい。

     

    中国は、スパイ行為を摘発するための「反スパイ法」を改正する。現行法よりスパイ行為の定義を広げ、国家の安全や利益に関わる情報を取ったり漏らしたりする行為に幅広く網をかけるのが特徴とされる。あいまいな規定も多く、当局による恣意的な運用が懸念されるのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月13日付)は、「中国、スパイ行為の対象拡大 資料やデータに幅広く網」と題する記事を掲載した。

     

    2022年12月までに2回の審議を終え、可決する段階にある。反スパイ法は14年の施行以来、初めての改正。これまで同法関連で少なくとも16人の日本人が拘束され、改正案が施行すれば取り締まりがさらに強化されそうだ。中国の公務員や国有企業職員がさらに萎縮し、外国人との交流に影響が出る事態も懸念される。

     

    (2)「改正案は、「国家安全や利益にかかわる文書、データ、資料、物品」をこっそり探ったり、提供したりする行動を「スパイ行為」と定めた。現行法は「国家機密」の提供に絞っていた。どこまでが国家の安全や利益にかかわる内容なのか定めはなく、不明確さはぬぐえない。中国で事業展開する外資系企業が競合相手となる中国国有企業の情報収集をする場合も、スパイ行為に認定されるリスクがある」

     

    問題は、「こっそり」と重要な国家の安全に関わる文書、データ、資料、物品を探り出す行為がスパイ行為とされる。こういう規定だと、メディア取材は極めて危険になる。個別取材は、スパイ行為と紙一重になるからだ。

     

    日本には中国人スパイが、1000人単位で潜伏していると言われる。だが、肝心の強力な取締法が存在しない。日本では中国にスパイを自由にやられているのだ。日本人は、中国でちょっとした言動でも収監される。余りにも不公平な扱いである。日本では、戦前の苦い経験で「スパイ取締」が、日本人の言論弾圧に利用されることを警戒している。

     

    (3)「摘発機関である国家安全当局の権限も大幅に強めた。スパイ行為の疑いがある人物の手荷物検査をできるようにした。国家の安全に危害を加える可能性がある者の出国を禁じる権限も与えた。スパイ行為の疑いがある個人や組織が利用する「電子機器や設備、プログラムやツール」も調査できるとした。会社や個人が所有するパソコンやスマホ、インストールしたアプリなどにも捜査の手が及ぶ可能性がある

    下線部は、中国によって日本企業のビジネス情報を抜き取ることに悪用される危険性が高い。これでは、もはや安心して公正なビジネスは不可能になってくる。現地駐在員の安全を考えれば、「利益より人命優先」という時代になってきた。

     

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