勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 経済ニュース時評

    a0960_008527_m
       

    米中対立激化の中で、韓国外交はどう舵を取るのか注目されている。李大統領自身は、これまで「中国へシェシェ(有り難う)、台湾へシェシェ(有り難う)」という中立発言を繰返してきた。内閣も米国同盟派と自主外交派が存在し、「ヌエ的」姿勢でカムフラージュしている。だが、こうした外交姿勢がいつまで保てるのか。

     

    『ニューズウィーク 日本語版オンライン』(7月17日付)は、「李在明外交に潜む『同盟派』vs『自主派』の路線対立とは?」と題する記事を掲載した。筆者は、木村幹氏である。

     

    韓国新大統領の李在明(イ・ジェミョン)は、6月16日~17日にカナダで行われたG7サミットに招待国代表の1人として参加し、外交デビューを果たした。中東情勢の激変によりトランプ米大統領が急きょ帰国し、念願の米韓首脳会談こそ果たせなかったものの、日本の石破首相をはじめとする各国要人との会談を順調にこなし、記念撮影などの場でも各国首脳と談笑するなど、まずは順調なデビューとなった。

     

    (1)「こうしてみると、李在明外交は今のところ大きな破綻なく始まったようにみえる。しかしそれは、外交に課題が存在しないことを意味しない。なぜならこの政権は外交路線において方向性を異にする2種類の人々を内部に抱え込んでいるからだ。1つのグループはアメリカとの関係を重視する「同盟派」であり、その中心は魏聖洛(ウィ・ソンラク)安全保障室長である。進歩派政権の内部にありながら、外交の基軸はあくまでアメリカとの同盟関係に置かれるべきだと考える彼らは、その延長線上で「同盟国の同盟国」である日本との関係も重視する」

     

    同盟派は、米国を重視することから、その延長線で日本との関係維持も必要としている。

     

    (2)「対して、政権内部には「自主派」と呼ばれるグループも存在する。その代表的人物は情報機関である国家情報院長に指名された李鍾奭(イ・ジョンソク)元統一部長官である。元祖「バランサー論者」として知られる彼は盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権期、既に対立を深めていた米中間で韓国が均衡を保つべきだと主張し、その外交政策に大きな影響力を行使した」

     

    自主派は、民族派というべき立場である。米中の間に立って「バランスを取る」という理想派である。だが、韓国は米国と同盟を結んでいる。この関係を無視して自主外交とは、夢のような話であろう。ならば、思い切って米韓同盟を切る覚悟を示すべきだ。

     

    (3)「異なる方向性を有する両勢力の間で、李在明がどのような外交政策を選択していくかは現段階では明らかではない。しかし、今後の政権の動向に大きな影響力を持つ世論に重要な変化が生まれている。大統領選挙直前の今年5月に韓国リサーチが行った世論調査によれば、「次期政府は米中間において均衡外交を展開しなければならない」と答えた人は実に65%に及び、「アメリカ優先の外交を展開しなければならない」の23%を圧倒した。とはいえ同時に注目しなければならないのは、「中国優先の外交を展開しなければならない」と答えた人がわずか2%にすぎないことである。2017年に勃発したTHAAD配備問題をめぐる対立以来、韓国では中国に対する忌避感情が広がり、中国を重視する人々が激減する状況が続いている」

     

    李大統領は、政権に両派を取り込み議論させ、「ガス抜き」を狙っているのであろう。後で不満が残らぬように言いたいことを言わせる。だが、結論が出たらこれに従わせるという手法だ。ただ、世論は米中間において均衡外交を展開するが、65%も占めている。世論重視の韓国政治では、「中立論」が圧倒的である。世論自体が、「どっちつかず」を目指しているのだ。

     

    (4)「にもかかわらず、韓国の人々が対立する米中の間でアメリカではなく「均衡外交」を選択する背景にあるのは、トランプ政権成立以降、アメリカに対する忌避感情も次第に拡大しているからである。つまり、米中両国が共に信用できない存在なら、模範解答は両者から共に距離を置くことであり、その対立に巻き込まれないのが韓国にとって利益になる、というわけである」

     

    韓国世論は、米中対立に巻き込まれないのが国益という認識である。朝鮮戦争の苦い経験が、現在の韓国には全く生きていないのだ。

     

    (5)「このような韓国世論は、新政権関係者の発言にストレートに反映されている。例えば、李在明や李鍾奭は「韓国には台湾海峡問題に関与する意思が存在しない」と繰り返し明らかにしている。とはいえ、このような状況は、日本をはじめとする西側諸国にとって決して好ましいものではない。トランプ政権に対して不信が高まっても、韓国をいかにアメリカ中心の陣営側に引き留めるのか。奔放なトランプ政権を一方の側に置き、日本外交にとっては難しい局面が続きそうだ」

     

    自国の利益だけを考える韓国世論に対して、日本はどう向き合うのか。半島情勢が急変してから、日本へ支援を求めても「駄目だ」ということを事前に強く伝えるべきだろう。日本は、「韓国有事」も想定するようにしか言えない点がもどかしいのだ。

     

    あじさいのたまご
       

    「米国第一主義」は、トランプ大統領の専売特許になった感がする。だが、建国以来言われてきた言葉でもある。その歴史を辿れば、1816年に本格的な関税法が成立しているからだ。一方では、自由貿易の重要性が叫ばれ実施されてきた。現在は、関税派のトランプ氏が全盛時代を迎えているが、いずれはこの「熱病」も消えていく運命にある。後は、荒涼とした物価上昇の光景だ。高関税が、米国経済を蝕みインフレを定着させる。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月18日付)は、「米消費者物価を直撃したトランプ関税」と題する社説を掲載した。

     

    米連邦準備制度理事会(FRB)に利下げを強く迫っているトランプ米大統領は、「インフレは起きていない」と主張している。しかし、インフレの現実を否定しても現実は消えない。6月の消費者物価指数(CPI)の上昇が示すように、トランプ氏の関税のせいで、同氏が望むこと(注:利下げ)をFRBが実行するのが難しくなっている。

     

    (1)「米労働省が15日発表したCPI統計によれば、6月のインフレ率(CPI上昇率)は前月比で0.3%、前年同月比で2.7%と、いずれも前月から上昇した。インフレが賃金の上昇分を侵食し、実質平均時給は0.1%減少した。だが、関税は税金であり、関税が適用されるモノの価格を確かに上昇させる。こうした物価上昇は、関税の内容やサプライチェーン(供給網)がどのような影響を受けるかにもよるが、一時的なものかもしれない。それでも、こうした物価上昇を経験する米国人は自分の購買力の低下に気付くだろう」

     

    6月のインフレ率は、「カマ首」を持ち上げてきた。関税の国内転嫁が理由だ。

     

    (2)「それが6月のインフレ統計で示された状況だ。物価上昇は幅広く、特に輸入品で顕著だった。玩具(上昇率1.8%)、紙製品(同1.4%)、家電製品(同1.9%)などで、家電製品は2020年8月以来の高い上昇率だった。食品価格は、卵の価格が7.4%下落したにもかかわらず、0.3%上昇した。その一因は生鮮野菜・果物で、上昇率は1%とこの1年余りで最も高かった。生鮮果物の約60%、生鮮野菜の35%が輸入品だ」

     

    物価上昇は、特に輸入品で顕著になった。関税引上げが、国内物価へ転嫁されているのだ。米国は、生鮮果物の約60%、生鮮野菜の35%が輸入品である。トランプ氏は、こういう現実を忘れ、花火のように派手に関税を上げている。

     

    (3)「チリ産のサクランボやグアテマラ産のバナナに関税を課したからと言って、米国での生産が増えるわけではない。農家が労働者を見つけられない状況では、特にそうだ。ほぼすべてを輸入に頼っているコーヒーの価格は2.2%上昇した。ブラジルからの輸入品に50%の関税を課すというトランプ氏の脅しが現実になれば、コーヒー1杯の価格はもっと高くなるだろう」

     

    米国で、生産していないサクランボやバナナにまで、関税を課している。だからと言って、米国での生産が増えるわけではない。どう見ても、不合理なことを行なっている。

     

    (4)「米国の消費支出のうち輸入品が占める割合はわずか11%だが、国内の生産者が関税に便乗して値上げすることも予想される。トランプ氏が大統領1期目に洗濯機に関税をかけた際に、まさにこうしたことが起きた。関税発動後の1年間で洗濯機と乾燥機の輸入が3分の1減った一方、価格は12%上昇した」

     

    国内では、便乗値上げが始まっている。インフレ基調にあるから、当然の動きである。トランプ氏は、それを予測できないのだ。

     

    (5)「トランプ氏の関税措置の対象になっている物品のうち、自動車など一部品目の価格上昇が6月のCPI統計で示されなかったという事実は、これら品目の価格が上昇しないことを意味するものではない。経済学者ミルトン・フリードマン氏の金融政策に関する有名な表現を借用すれば、関税の影響は、長くて変動する時間差を伴って表れる可能性がある。しかし関税の影響は人々が購入する物品の価格に明らかに表れ始めており、いずれサービス分野にも広がる可能性がある。サービス分野のインフレには、やや粘着性がある。医療サービスと介護サービスの料金は6月にそれぞれ0.6%上昇した。ドライクリーニング店、病院、自動車修理工場なども輸入品に依存している」

     

    関税の影響は、長くて変動する時間差を伴って物価上昇に表れるもの。これが、米国物価史の教訓だ。

     

    (7)「FRBは、利下げの時期と利下げ幅を決める際に、関税とインフレの関係を検討する。トランプ氏は、FRBのパウエル議長の対応が「遅過ぎる」と激しく非難してきたが、6月のCPI統計はパウエル議長の慎重な姿勢が正しかったことを示している。7月の利下げの可能性も恐らく消滅しただろう。米国民は、実質賃金を増やしインフレ率を低下させる人物としてトランプ氏を大統領に選んだ。しかしこれまでのところ、彼はどちらも達成していない。関税はどちらの目標にも役立っていない」

     

    関税に時間差はあるが、確実に消費者へ転嫁される。インフレの定着だ。トランプ氏は、国民の期待である実質賃金を増やし、インフレ率を低下させることに応えていないのだ。看板政策である3兆4000億ドル(約505兆円)規模の税制・歳出法は、最新の世論調査で約61%の国民が反対している。賛成派は39%だった。トランプ氏は、経済政策で躓いている。26年11月の中間選挙がどうなるか。厳しい情勢だ。



    a0070_000030_m
       

    国策半導体ラピダスが18日、最先端半導体「2ナノ」の試作に成功したと発表した。これまでの計画が、寸分なく進んでいることを示したもの。ラピダスほど、これまで批判にさらされてきた例もないであろう。日本では、最先端半導体を製造する能力がないとする著書まで現れた。これに賛同する学者、評論家が後に続く騒ぎになったのだ。マスコミもこれに乗った。これら一連の「狂想曲」は、今回の試作成功発表で幕を引くことになろう。

     

    今度は、「歩留まり率」問題を取り上げて批判の声を上げている。ラピダスは、前行程と後工程を世界で初めて全自動化に成功している。こういう事実を知らないで、「ラピダス批判第二弾」を始めようとする批評家も現れたのだ。これまで反対してきただけに、ここでラピダスを認めたならば、辻褄が合わなくなるのであろう。事実は事実として認め、ラピダス支援の声を送れないのだろうか。余りにも、狭量という印象だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月18日付)は、「ラピダス、2ナノ半導体の試作品初公開 27年量産へ顧客開拓託す」と題する記事を掲載した。

     

    最先端半導体の国産化を目指すラピダスは18日、回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートル半導体の試作品を報道陣に初公開した。4月に稼働した北海道千歳市の工場で生産し動作を確認した。2027年の量産開始を目指し、海外の競合を追う。スタートラインに立ったが完成度を高めていけるかはラピダスの最大の課題の一つである顧客獲得の成否を占う。

     

    (1)「千歳市内のホテルにサプライヤーや顧客候補約200人を招いた。4月の工場稼働以来、千歳で開く初の公式イベントで、いわば開所式だ。小池淳義社長が開始の2時間前から受け付けに立ち、来訪者を迎えた。イベントの前に開いた記者会見で、小池社長は直径30センチメートルの金色に光るウエハー(基板)を披露した。7月10日に2ナノのトランジスタ(半導体素子)の動作を確認したことを明かし「顧客候補が十分に満足していただける動作性能を確認できた」と語った。東哲郎会長は「世界でもまれに見る異例の(工場立ち上げの)スピードに世界が驚いている」と話した」

     

    7月10日に2ナノ半導体の試作が完成した。顧客候補が、十分に満足する動作性能を確認できたという。

     

    (2)「披露したウエハーは、まだ必要な機能の一部を盛り込んだ途中経過だ。トランジスタの特性をさらに改善し、年内の完成を目指す。試作品が期待通りの演算能力や電力性能を示すことができれば、顧客獲得にも弾みがつく。量産までにさらに3兆円超の資金が必要とされ、その調達への影響も大きい。年度内にチップ設計に必要な情報を入れた「PDK(プロセス・デザイン・キット)」の最新版を顧客候補に配る。顧客候補のメーカーはPDKを基にラピダスの技術を評価できるようになる。小池社長は「25年末には顧客の顔が見える」としている」

     

    試作版は、年内の完成を目指す。来年3月までに、チップ設計に必要な情報を入れた「PDK(プロセス・デザイン・キット)」最新版を顧客候補に配る予定だ。ここから、顧客獲得の営業に入る。IBMは、購入契約第1号となろう。25年末には顧客の顔が見えるという。

     

    (3)「ラピダスが量産を軌道に乗せれば、国内企業が人工知能(AI)データセンターや自動運転に使う半導体を安定調達できる環境が整う。世界は先を行く。受託生産最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は25年後半に2ナノ品の量産を始め、28年には次世代の1.4ナノの量産にも乗り出す。韓国サムスン電子も年内に2ナノを、米インテルは1.8ナノの量産を開始するとしている」

     

    TSMCはともかくとして、サムスンの2ナノは困難であろう。「5ナノ」の歩留まり率すら20~30%の赤字ゾーンに嵌まっている。「2ナノ」の商業化は困難だ。米インテルは1.8ナノの量産も同じような事情だ。後行程の自動化を日本企業に依頼しているほど。遅れているのだ。

     

    (5)「米調査会社オムディアの試算では、ラピダスの現状の生産能力が、12インチウエハーで月産7000枚程度。量産時には2.5万〜3万枚程度に増える。TSMCの主力工場は10万以上とみられ、規模ではかなわない。小池社長は「米国の顧客は米中の分断を意識し、セカンドベンダー(代替の供給元)を必要としている」と話し、「GAFA」のような巨大テック企業の開拓にも意欲をみせる」

     

    ラピダスはTSMCと量産規模で競う考えはない。小ロットでも短期に納品する小回り経営を思考している。その意味で、ラピダスとTSMCの量産規模比較論はナンセンスである。

     

    (6)「TSMCは、25年に世界で9工場を着工・稼働し、米アリゾナ州で28年に2ナノ半導体の量産を目指すなど台湾に偏っていた生産拠点を分散しようとしている。台湾依存を避けたい企業の受け皿となるというラピダスの意義の一つが揺らぎかねない。ラピダスは18日のイベントを「カスタマーイベント」と呼んだものの、参加者はパートナー企業が目立ち、海外大手の顧客候補は限られた。この現実を見つめ、顧客獲得、量産、資金調達の3つの課題をクリアしていく必要がある」

     

    TSMCが、海外工場の建設を急いでいるのは、ラピダスが強力なライバルになるとみる結果であろう。TSMCはこれまで、米国工場の建設にそれほど乗り気でなかった。それが、ラピダスの技術開発成功のニュースが流れて以来、急ピッチの建設にギアを切替えている。TSMCは、筑波に研究所を開設している。日本企業が主体だが、この技術は当然、ラピダスへ流れる。TSMCが、海外で必死になっている理由は、ラピダスの存在だ。これが、私の「読み」である。

     

    a0960_008527_m
       

    セブン&アイ・ホールディングスの買収をカナダのアリマンタシォン・クシュタール(ACT)が断念したことは、日本企業絡みのM&A(企業の合併・買収)を目指す外国企業にとってどのような教訓となるのか、議論を呼んでいる。

     

    それは、日本経済が長期不況から脱して再び世界戦略をリードする余裕を持ってきたことと強い関係がある。日本企業はこれまで萎縮しきってきた。内部留保に努めて、企業防衛を迫られてきたのである。だが、そういう時代は終ったという認識を深めている。新たな世界戦略を立て始めているのだ。こういう曲がり角にあることを認識しないで、ACTは、セブンへM&Aを申入れ、自ら撤退表明するほかなかった。

     

    『ブルームバーグ』(7月18日付)は、「クシュタールのセブン&アイ買収失敗、外国企業にとっての教訓は何か」と題する記事を掲載した。

     

    クシュタールの買収提案は、当初から大胆な試みだった。セブン&アイが展開するコンビニエンスストアのセブン-イレブンは、日本での認知度が極めて高いブランドだ。セブン&アイは、外為法の規制対象企業で同法に基づく事前審査の対象となる可能性があった。

     

    (1)「クシュタール側は、買収が頓挫した原因がセブン&アイ経営陣の強硬姿勢にあると非難している。CLSAのストラテジスト、ニコラス・スミス氏によれば、買収失敗は日本市場全体に見られる投資環境の変化に逆行している。同氏は「セブン&アイは、進行中の成功物語の中の一つの障害物に過ぎない」と指摘する」

     

    セブンは、海外事業を成功させる自信を持っている。コンビニは、海外で未開拓分野である。そこへ、セブン方式の「飲食」を持ち込めば勝機があると踏んでいる。現状は、国内需要の伸び悩みに直面しているが、それは成長過程の一プロセスとみているのであろう。

     

    (2)「マネックスグループのエキスパートディレクター、イェスパー・コール氏は、セブン&アイが今回の買収提案を拒否したことは、日本企業が攻勢に出ている兆候だと言う。同氏は、「これは古い日本的な保護主義の表れではなく、むしろその逆だ」と述べた上で、「実際には、日本主導の経営陣にエネルギーと競争精神が注入されたということであり、経営陣は実は非常に国際的だ」と指摘した」

     

    セブンに限らず、日本企業が自信を取り戻している。日鉄のUSスチール合併が象徴的だが、これから海外市場をさらに強化するという強いシグナルをみせている。セブンも、今は足踏みでも海外戦略を成功させる自信を持っているのであろう。

     

    (3)「買収を提案する企業の国籍にかかわらず、敵対的買収は強い抵抗に遭うことが多い。ニデックが、牧野フライス製作所に対して株式公開買い付け(TOB)を仕掛けたことは、多くの日本企業に衝撃を与えた。しかし、ニデックもクシュタール同様、強い反発に直面し、提案を撤回した。注目されるもう一つは、台湾のヤゲオが芝浦電子に対して進めるTOBだが、これには日本のミネベアミツミが対抗して買収合戦に名乗りを上げている」

     

    海外では、日本を「失われた30年」の延長で捉えている節がある。クシュタールもその一社であろう。だが、経営再建中の日産自動車も、台湾・鴻海とのEV(電気自動車)協業化案に乗らず、ホンダとの協力路線を継続させている。日産も最後の「矜持」を維持している裏に、日本経済復活への期待があるのであろう。

     

    (4)「クシュタールによるセブン&アイ買収失敗は、企業の国籍や文化の違いとは無関係だという見方もある。問題は単純に金額であり、クシュタールが提示した6兆7700億円の買収額が不十分だったという意見だ。オーストラリアの投資会社センジン・キャピタルのCEO兼最高投資責任者(CIO)、ジェイミー・ハルス氏は「セブン&アイは、普通の米企業がしたであろう対応をしただけだ」と述べ、「クシュタールには圧倒的な条件を提示するという選択肢があった」と付け加えた」

     

    クシュタールは、セブンを100%の子会社にするのでなく、次のような提案をした。セブンの海外事業を100%、日本事業の40%を取得する案である。セブンが、日本の外為法の指定企業に気づいた結果、日本事業へ40%出資へと提案を切下げたのであろう。

     

    セブンは逆に、「クシュタールがセブン株式を取得するのと引き換えに、クシュタールの米国コンビニの運営会社へ出資する」案を出した。クシュタールは、このセブン側の逆提案に驚いたのだ。場合によっては、セブンに買収されかねないリスクを感じたのであろう。セブンが、こういう逆提案をしたところに「国際感覚の復活」を感じるのだ。やられっぱなしでなく、やり返すというセブンの「反撃力」に警戒したに違いない。

     

     

    a1320_000159_m
       

    トランプ米大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領に対し、ロシア領内の奥深くに対しての攻撃強化を内々に働きかけるとともに、米国が長距離射程兵器を供与した場合にモスクワを攻撃できるかと尋ねたことが明らかになった。英紙フィナンシャル・タイムズが報じた。これらのやりとりは7月4日の両者間の電話会議で交わされた。ロシアによるウクライナ侵略に対するこれまでのトランプ氏の姿勢や、米国は外国の紛争に関与しないという米大統領選での公約からの明確な方針転換を示している。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月15日付)は、「モスクワは攻撃可能か? トランプ氏がウクライナに問いかけ」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「トランプ氏とゼレンスキー氏の4日の電話会談について知る2人の人物によると、トランプ氏は米国が必要な兵器を供与した場合に、ウクライナはロシア領内奥深くの軍事目標を攻撃できるかと尋ねたという。これらの人物はトランプ氏が、「君はモスクワを攻撃できるか。(プーチン氏の地元の)サンクトペテルブルクを攻撃できるか」と問いかけたと明かした。これに対しゼレンスキー氏は「もちろんだ。兵器を供与してもらえれば可能だ」と答えたという。トランプ氏はこの考えに賛同するとともに、これはロシア側に「痛みを与え」、ロシア政府を交渉のテーブルに引きずり出すための戦略であると説明したという」

     

    トランプ氏は、ロシア側へ長距離砲により「痛みを与え」ることで、停戦交渉のテーブルへ引出す戦略だ。

     

    (2)「この電話会談について知る西側のある関係者は、ウクライナを支援する西側諸国の間に長射程兵器を供与して「モスクワ市民を戦争に巻き込む」べきだとの考えが広がっていることの表れだと説明する。同様の考えはここ数週間、米国政府当局者の間でもひそかにささやかれていたという」

     

    西側諸国にも、ロシアへ痛みを与えるべきとの考えが広がっている。ロシアが、一方的にウクライナ市民を苦しめているだけでは、停戦交渉が始まらないからだ。

     

    (3)「トランプ氏とゼレンスキー氏との電話会談の内容を受けて、10日からローマで開催されたウクライナ復興会議に合わせてゼレンスキー氏と米国側当局者が会談し、今後ウクライナに供与することが検討される兵器のリストを共有したという。これについて知る3人の人物が明かした。ゼレンスキー氏は米国の国防関係者と北大西洋条約機構(NATO)加盟国政府の代理人と協議し、第三国を経由してウクライナに供与されることが可能な長射程攻撃システムのリストを受け取ったという」

     

    米国が、第三国を経由してウクライナに供与されることが可能な、長射程攻撃システムリストをNATOへ渡した。

     

    (4)「欧州の同盟国である第三国を経由することで、トランプ氏はウクライナに直接軍事支援をする場合に必要な議会の承認を得なくてもよくなり、欧州の同盟国への兵器輸出を認可するだけですむ。そのうえで、この第三国がウクライナに兵器を渡す。兵器リストについて詳しい人物によると、ウクライナ側は射程約1600キロメートルの精密誘導攻撃巡航ミサイル「トマホーク」を要請した。しかし、トランプ政権には以前のバイデン政権と同様、ウクライナの自制がきかなくなるかもしれないとの懸念が残っているという」

     

    ウクライナ側は、射程約1600キロメートルの精密誘導攻撃巡航ミサイル「トマホーク」を要請している。これが、モスクワを攻撃してはいけないというトランプ発言の裏付けだ。

     

    (5)「トランプ氏とゼレンスキー氏との電話会談や、米国とウクライナの間の軍事戦略に関する協議に詳しい人物2人は、両国で話し合われた兵器の一つが米の長距離地対地ミサイル「ATACMS」だったという。ウクライナは米から供与された最大射程300キロのATACMSミサイルを使ってロシア占領地にある標的を攻撃し、場合によってはロシア領土のより奥にある場所も攻撃してきた。ATACMSはバイデン政権がウクライナに供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース」から発射することができる。だが、射程が短いためモスクワやサンクトペテルブルクには届かない。ロシアは、西側諸国からウクライナに高度な兵器が供与されればウクライナ西部の目標を攻撃すると繰り返し脅しをかけているが、今のところ実際に行動に移したことはない」

     

    米ウ両国間では、米の長距離地対地ミサイル「ATACMS」についても話し合われている。ロシアが最も嫌っているミサイルである。ロシアは、西側諸国からウクライナに高度な兵器が供与されれば、ウクライナ西部の目標を攻撃すると繰り返し脅しをかけている。

     

    (6)「ATACMSによる攻撃を受けてロシア政府は、さらに「核抑止力の国家政策指針」(核ドクトリン)を改定し、核攻撃に踏み切る条件を緩和した。この変更によってロシアはウクライナがATACMSや英国製の空中発射型巡航ミサイル「ストームシャドー」でロシア領内を攻撃した場合の対抗措置として、NATO加盟の3つの核保有国である米国、英国、フランスに対して核の先制攻撃に踏み切る可能性が出てきた。米政府は折に触れてウクライナに対しロシア領の奥深くを攻撃するのを控えるよう警告してきたが、こうした足かせも今では緩まりつつあるようだ」

     

    ロシアは、ウクライナがATACMSや英国製の空中発射型巡航ミサイルを発射すれば、米国、英国、フランスに対して核の先制攻撃に踏み切る可能性があると脅している。この脅しは次第に効果が消えている。米国が、これを無視していることに表れている。トランプ氏は、ウクライナにモスクワ以外の都市攻撃を承認する形で、プーチン氏へ圧力を掛ける。トランプ氏が、停戦後の交渉をリードする姿勢だ。ウクライナは、39歳の女性首相に変え、駐米ウクライナ大使に副首相を当てるなど、停戦交渉に備える布陣を整えた。

    このページのトップヘ