韓国は、儒教社会ゆえに「長幼の秩序」が厳格である。企業で、先輩が後輩の部下になることなどあり得ない。先輩は永遠に先輩であり、後輩の下風に立つことはメンツが許さないのだ。こういう年功序列が、技術漏洩の動機になっている。出世できなかった恨みとして、会社に機密情報を持ち出し漏洩させるのだ。
『日本経済新聞 電子版』(3月26日付)は、「サムスンなど技術流出、5年で96件 中国に漏れる競争力」と題する記事を掲載した。
サムスン半導体部門の元常務(66)らが半導体工場の図面資料を入手して中国に流出させた。検察は韓国の産業技術保護法違反にあたるとして2023年6月に元常務ら7人を起訴した。
(1)「元常務はサムスン退職後、ライバルのSKハイニックス(当時はハイニックス半導体)に移って最高技術責任者(CTO)まで務めた人物だ。中国・陝西省で半導体工場を建設するために、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業から8000億円規模の資金を受ける約束を交わしていた。さらに200人ほどの韓国人技術者を採用していたとされる。半導体が米中対立の焦点となり、鴻海は資金拠出を断念して計画は頓挫した。中国に台湾資本によるサムスンのコピー工場が稼働していた可能性もある。3月20日の第9回の公判まで被告らは一貫して無罪を主張し、裁判の行方は見通せない。国家が技術者の外国就業を制限できるのかといった論点も浮上している」
サムスン出身の元役員は、鴻海からの出資によってサムスン中国半導体工場の近くに、全く同じサイズの半導体工場を建設する計画であった。これが現在、技術漏洩で裁判が行われている一件である。
(2)「サムスンは技術流出に目を光らせてきた。社内の複合機で使う印刷用紙には特殊な金属箔を埋め込み、情報を印刷して持ち出そうとするとゲートで探知機が作動する。新型コロナウイルスの感染拡大期でも技術職の在宅勤務を認めなかった。それでも転職者などを介しての技術流出は止まらない。米政府主導で対中包囲網が狭まり、正攻法で技術の蓄積が難しくなった中国企業が暗躍しているためだ」
サムスンは、技術流出阻止に全力を挙げている。かつてサムスンは、日本の半導体技術者をソウルへ招き、「闇アルバイト」という形で直接指導を受けた。こういう「のどかな時代」と異なって、現在の中国はスパイもどきの戦術を使ってくる。油断も隙もならないのだ。
(3)「韓国産業通商資源省によると、23年まで過去5年間で半導体や電池、有機ELパネル、造船分野など産業技術の海外流出案件は96件にのぼった。うち半導体は38件と最も多く、ディスプレー(16件)、自動車(9件)が続く。流出先の大半は中国だ。所属企業で出世競争に敗れた技術者らが中国に渡る。液晶パネルで世界首位に立った京東方科技集団(BOE)は100人超の韓国人が在籍し、有機ELパネルの技術開発を担った。摘発された技術流出は「氷山の一角である可能性が高い」(同省関係者)」
韓国技術漏洩先の大半は、中国である。韓国技術者を大量に採用して、ノウハウを習得している。
(4)「韓国が、基幹産業と位置付けてきたディスプレーや造船、石油化学、電池、鉄鋼など幅広い産業で中国企業が世界首位に立つ。国家主導で規模拡大にまい進する中国製造業と同じ土俵で戦っていては勝ち筋が見えない。韓国の貿易統計には長期停滞の予兆が表れる。最大貿易相手国である中国向けの輸出23年に1248億ドル(約19兆円)で、前年比20%減と過去最大の減少幅を記録した。半導体不況や中国の景気低迷という要因もある。それでも自動車や鉄鋼、化学などで中国企業が技術力を高め、韓国製品を必要としなくなった構造変化は見逃せない」
中国と韓国の産業構造は極めてよく似ている。だが、これまでは相互補完であった。現在は競争関係へと変わっている。中国の技術力が上がってきたからだ。違法な摂取方法であろうと、韓国の技術をマスターしている。
(5)「弘益大学のシン・ミンヨン教授は「中国が質的な経済成長をなし遂げたため、韓中は補完関係から競争関係へと変貌した」と指摘する。韓国では労働組合を支持基盤とした文在寅(ムン・ジェイン)前政権下で法整備された「週52時間労働」によって仕事への姿勢、働き方が大きく変わった。財閥大手の幹部は「働く意欲を持つ若手には帰宅を促さなければならず、定時帰りに慣れて『時間を会社に売る』意識も根付いてしまった」と話す。かつての出世競争を戦い抜く「モーレツ文化」は様変わりした」
「週52時間労働」は、韓国の長時間労働を是正する手段であったが、弾力的な運用ができず、「紋ギリ型」になっている。繁忙期に残業時間を延長することが困難になっているからだ。
(6)「輸出産業を多く抱える財閥企業の競争力が低下すれば韓国経済も減速する。23年の国内総生産(GDP、実質ベース)成長率は1.4%にとどまり、日本の成長率(IMF見通しで2.0%)を25年ぶりに下回った。1970年代から急速に経済発展を遂げた韓国も成長率1〜2%の停滞期に入ったとみるアナリストも多い。日本以上に少子高齢化が進む5170万人の内需は力強さを欠き、このままでは2020年の名目GDP世界10位をピークに後退していく懸念もある」
韓国経済は、技術的な行き詰まり問題も抱えている。GDP世界10位が、韓国の最高位であってこれからは、13位以下に落ちる可能性が強まっている。