勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > アジア経済ニュース時評

    a0960_008532_m
       

    中国人民銀行元総裁であった周小川氏が、不動産バブル崩壊について微妙な発言をしている。5月23日、日本経済新聞のインタビューで、中国の不動産市況の行方について「長期的には楽観視している」と述べた。一方で中国当局は、不動産バブルの崩壊に対応してきた日本の経験を学ぶべきだとも訴えた。

     

    この周氏の発言は、習近平政権の手前もあり中国経済の悲観論を発言できないが、「不動産バブルの崩壊に対応してきた日本の経験を学ぶべきだ」と言っているのだ。つまり、不動産バブル崩壊の影響が長期に及ぶという前提である。一国の中央銀行総裁まで務めた人物が、根拠もなく「日本の経験を学ぶべきだ」と言うはずはない。事態を深刻視しているのであろう。

     

    『中央日報』(5月23日付)は、「中国経済はピークか、米国経済を追い越すのか」と題するコラムを掲載した。筆者は、トッド・リーS&Pグローバルマーケットインテリジェンス中国首席エコノミストである。

     

    中国が近いうちに米国を経済的に追い越すと予測した一部の経済専門家らは最近、その時期が遅れるか、追い越すのは難しいと予想している。中国のコロナ封鎖政策、不動産部門の問題、両国間の経済的競争が中国の長期経済見通しに対する不確実性を高めたからだ。

     

    1990-2019年の178カ国の年平均経済成長率をみると、約60%が3%以上成長した。中間値は3.6%だった。ところが中国の経済成長率は2000年代の後半以降、半分以上落ちた。急激な成長鈍化は、中国経済の長期成長見通しに対する疑問を提起する。こうした成長鈍化は異例の現象なのか、さらなる急激な長期成長下落の予告弾なのか。

     

    (1)「中国の成長率が5%、3%など何パーセントに定着するかによって世界経済の重心は変わるだろう。中国の国内総生産(GDP)が米国のGDPをいつ超えるかの目安となる成長シナリオは何を意味するだろうか。米国の潜在実質GDP成長率が2.0%で維持され、中国人民元-米ドル為替レートが両国の相対的なインフレ差を相殺するという仮定の下、中国が、現在の潜在成長率水準5%の実質GDP成長率を維持する場合、2038年に米国のGDPを上回る。4%成長なら2046年に、3%成長なら2068年に上回る。すなわち成長率が今より2%ポイント下がれば、世界1位になるのに30年多くかかるということだ」。

     

    こういう成長率予測は、人を惑わす手法である。過去の成長率をそのまま将来へ投影するのは、最も誤りが多いのだ。ジャーナリズムを賑わす議論は、こういう類いがほとんどである。米中経済予測で、ほとんどが間違えたのはこの限界によるものだ。そうではなくて、人口動態統計(合計特殊出生率や生産年齢人口比率)などを用いない推計を用いるべきである。それによれば、中国経済は米国を抜くことはない。今後、格差が広がるはずだ。

     

    (2)「中国は、人口高齢化のような長期経済成長阻害要因に直面しているが、規模が大きい農業労働力を含めて依然として活用度が低い資源を保有しているため、これを通じて強力な成長を維持できる。開発途上国の経済が強力な成長を遂げる核心動因の一つは、労働力を低付加価値の農業部門から高付加価値の産業・サービス部門へと効果的に再配置することだ。現在の中国の農業労働人口比率は、韓国・ポーランド・メキシコが2023年の中国の1人あたり実質所得水準に到達した時点の比率よりはるかに高い。「ピーク・チャイナ」、すなわち中国経済がピークに到達した可能性を無視するわけにはいかないが、誇張する必要もない

     

    このパラグラフは、中国が完全な市場経済システムにあれば、市場の調整力によって資源の有効活用が行われる。現実は、政治が経済を支配しており市場機能が著しく制限されているのだ。例えば、IT関連産業が抑制されているのが好例である。学習塾も禁止されている。第三次産業を抑制して、第二次産業が補助金で支援される現状では、労働のミスマッチが起こり大量の失業者を生むのだ。こういう中国の経済システムでは、「中所得国の罠」が発生するはずである。「ピーク・チャイナ」は、不可避となっている。これを是正するにはどうすべきか。経済政策の改善提案をするのが義務であろう。

     

    a0005_000022_m
       

    メモリー半導体で世界トップのサムスンが、AI(人工知能)半導体への進出が遅れてピンチに立たされている。米エヌビディアのグラフィック処理装置(GPU)用HBMを納品できず、AI半導体ブームに乗れないからだ。 

    サムスンは、今年1~3月期の半導体部門の営業利益が、SKハイニックスを下回る結果となった。売上規模は、サムスンが2倍もあるにも関わらず、営業利益で下回るという事態は異常である。SKハイニックスは、好業績に沸くエヌビディアへGPUに使われるHBM(高帯域幅メモリー)を納品している。だが、サムスンは未だ「性能検査中」という屈辱をあじわされている。こうした背景から、サムスンは「半導体トップ」を突然交替した。人事交代の裏には、サムスンの苦悩が表れている。 

    『ハンギョレ新聞』(5月21日付)は、「半導体競争力『急場に立った』サムスン 『技術通オールドボーイ』が復帰」と題する記事を掲載した。 

    21日のサムスン電子の発表によれば、チョン・ヨンヒョン副会長(64)は、未来事業企画団長を務めて6ヶ月も経たずに半導体(DS)部門長に移ることになった。未来事業企画団は昨年11月末、サムスン電子が「既存事業の延長線上にない新事業を発掘する」として新しく作った組織だ。高帯域幅メモリー(HBM)をはじめとする半導体事業の状況が、知られている水準よりもっと悪いのではないかという噂が出ているのもそのためだ。この日の人事からは焦りが読み取れるという評価が出ている。

     

    (1)「これには、サムスン電子の半導体がそれだけ危急な状況だという判断が作用したと分析されている。昨年までは業況悪化で実績不振な側面が大きかったが、今年に入ってサムスン電子の半導体は、激化した人工知能(AI)ブームのなか「取り残されている」という評価を受けている。AIの必須材として浮上した高帯域幅メモリー競争で後れを取ったためだ。ライバル会社(注:SKハイニックス)は今年3月ごろにはNVIDIAに第5世代(HBM3E)製品の供給を開始したのに対し、サムスン電子はいまだにNVIDIAに第4世代(HBM3)と第5世代のサンプルの検証を受けている。今回の発表をめぐり、キョン・ゲヒョン社長に対する「問責人事」ではないかという裏話が出ている」 

    サムスンは、半導体で「格下」とみていたSKハイニックスに利益面で逆転された。大きな衝撃であろう。抜かれた原因が、AI半導体に使われるHBM(高帯域幅メモリー)である。元々サムスンが開発していたものだ。2019年の開発中止によって、サムスン担当者がSKハイニックスへ移籍して完成させた経緯がある。サムスンには二重の意味で屈辱であろう。 

    (2)「サムスン半導体事業全般においても暗雲が立ち込めている。今年第1四半期にも赤字が続いたファウンドリ事業は、シェアも下り坂を辿っている。台湾の市場調査機関「トレンドフォース」の集計によれば、サムスン電子のファウンドリ市場シェアは、2021年の15.5%から昨年は11.3%へていかした。このようなムードは、今年第1四半期の実績にもそのまま表れている。サムスン電子の半導体部門は、今年第1四半期の業況改善に支えられ黒字に転換したが、営業利益の規模はSKハイニックス(2兆8900億ウォン=約3300億円)より小さい1兆9100億ウォン(約2200億円)にとどまった。ハイニックスの2倍にのぼる売上規模を考慮すれば、収益性は大きく劣ることになる」 

    サムスンは、ファウンドリ事業(非メモリー半導体の受託生産)で、トップのTSMCに大きく水を開けられている。その上、メモリー半導体でも利益はSKハイニックスの軍門に降る事態である。八方塞がり状態に落込んでいる。

     

    (3)「サムスン電子の内外では、チョン副会長がバッテリー事業で展開した戦略を再び駆使するかに注目している。サムスン内部では、チョン副会長がサムスンSDIの代表取締役として在職した際に無理な「規模拡大」ではなく安定した成長を導いたという評価を受けて抜擢されたといわれている。積極的な受注と大規模な投資で顧客企業を確保した他の二次電池メーカーとは異なり、サムスンSDIはシェアの拡大をあきらめ、事業を再点検するなど、内実を固めることに注力した」 

    今回、半導体部門トップに座ったチョン副会長は、バッテリー事業で好成績を上げた。だが、その手法は半導体部門で通用するのか未知数である。 

    (4)「ただ、最近の急激なAI技術の発展や米中紛争で急変している半導体産業にも、このような戦略が通じるかは未知数だ。「オールドボーイ」を呼び戻したことに対する期待と懸念が共存している。チョン副会長は、サムスン電子の最高齢役員であり、会社が昨年末の人事の際「若いリーダー」と「世代交代加速化」を強調したのとは相反する人物だ。ある業界関係者は「人事はメッセージというが、今回の人事では明確なメッセージを見出しにくい状況」だとし、「危機的局面であるだけに、人事も保守的に行なったのではないか」と述べた」 

    鉄壁とみられてきたサムスンが、意外なところで弱点を表している。AI半導体に使われるHBM(高帯域幅メモリー)の開発を継続していたならば、こういう悲運に遭わなかったであろう。その点で、トヨタ自動車は全方位の研究開発を続けている。技術開発は突然、波が変わるだけにその備えが必要である。

    a1320_000159_m
       

    焼け石に水の6.5兆円融資

    過剰在庫の元凶「青田売り」

    高水準在庫が減らない背景

    不良債権で悲鳴上げる銀行

     

    中国の経済政策は、混迷の一語に尽きる。習近平政権3期目の経済政策を決める「3中全会」は、通常ならば昨秋に開催されなければならなかった。それが、遅れに遅れてこの7月に開かれる。3中全会が遅延した最大の理由は、党内で経済政策の大綱が決まらなかったとされている。

     

    習近平国家主席は、経済よりも国家の安全を重視する姿勢を鮮明にしている。その一環として「三種の神器」(EV・電池・ソーラーパネル)は、軍事面にも役立つとして企業へ補助金を支給してテコ入れしている。だが、国内経済不振の最大要因である不動産不況には、金融措置で乗り切れるという安易さである。「三種の神器」へ財政資金を投じるが、不動産不況対策は金融任せで財政資金を使わない差別をしているのだ。

     

    習氏が、製造業と不動産業で異なった対応をしているのは、財政赤字を増やさないという原則を立てているからだ。23年の財政赤字は、対GDP比で3.9%になったが、24年は3%へ引下げる。理由は、世界3大格付け会社のうち、2社が格付け引下を予告しているからだ。格付けを引き下げられれば、中国企業は海外での資金調達で金利が上がることや、メンツの問題に拘っているのであろう。

     

    すでに、格付け引下予告をしているフィッチ(もう1社ムーディーズ)は、不動産バブルに伴う過剰負債が中国の支払い能力に突然の変化をもたらすリスクをあげている。ここまで処方箋が明らかにされている以上、中国の取るべき政策は過剰債務の処理を優先させることだ。習氏は、これに逆らって「三種の神器」重視政策を推進している。住宅問題は、片手間なのだ。

     

    焼け石に水の6.5兆円融資

    中央銀行である中国人民銀行は、国有不動産企業対象に売れ残り住宅購入を支援するため、3000億元(約6兆5000億円)相当の低利資金を供給するプログラムを発表した。政策銀行、国有商業銀行、株式制銀行など21の機関に、低利資金が提供される。金利は1.75%だ。

     

    過剰住宅在庫買上げ責任は、国有不動産企業に押しつけられた。国有不動産企業は、住宅在庫を買付け割安価格で消費者へ売却して、借入金を人民銀行へ返済するシステムである。国有不動産企業にとっては、利益の出るビジネスでなく、むしろ、自社の潜在的な住宅需要を先食いする恐れが強いであろう。こうなると、最初から効果は疑わしいと言うほかない。政府は、あくまでも財政資金を使わないで、逃げ切ろうという戦術なのだ。

     

    過剰住宅在庫買上げ計画のきっかけは、浙江省杭州市とされている。同市は臨安区にあるマンション(最大10万平方フィート=約9300平方メートル=約103戸:1戸平均90平方メートルで換算)を市場価格で買い取り、手頃な価格で賃貸する計画を発表した。これが今回、中国人民銀行が発表したモデルになっているという。杭州市の買取り住宅を賃貸住宅に回す計画は、資金を完全回収するまでに相当の長期間になる。同時に、新規住宅需要がこれによって確実に減ることである。

     

    公式データによると、国内の売れ残り住宅の床面積は、昨年末時点で最大36億平方フィート(約3億3480平方メートル=約372万戸)である。天風証券のアナリストは、全住宅在庫を買い取るには7兆元(約1兆ドル)が必要だと推計している。全ての在庫買取りに、約155兆円も必要となれば、人民銀行融資の約6兆5000億円相当を低利で貸付けて買い取っても、在庫全体の4%程度に過ぎないのだ。焼け石に水である。これで、中国の過剰な住宅在庫が整理されるとはとうてい考えられない。

     

    もっとも経済には「呼び水」効果という言葉がある。これは、在庫が減っていくことで新たな需要を生み、先行きの住宅相場が回復するという期待である。だが、中国の不動産業界ではこの「呼び水」効果が成立しない特殊構造になっている。不動産開発企業が、マンション着工前に図面で売り出す「青田売り」を今も続けていることだ。青田売りは、開発企業にとっては大きなメリットがある。建築資金は、住宅購入契約者が支払うローン代金で賄えるからだ。十分な運転資金がなくても、開発企業はマンション建築が可能になる。

     

    だが、この青田売りは好況時のみに成立する特殊な販売方法である。現在のように長期不況下では、青田売りが開発企業の経営を圧迫する逆の現象を起こしている。マンション1棟の販売契約が、半分以下でも建築しなければならない。最初から、在庫になることが分っていても建築するのだ。こうした悪循環に陥る矛盾した販売方法を中止しなければ、中国不動産業界は「永遠」に在庫圧迫から逃れられないであろう。(つづく)

     

    この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です。

    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

    a0960_008532_m
       

    中国は、地方政府の重要財源である土地売却収入が4月、8年ぶりの減少になった。住宅不況を反映したものだ。国家統計局によれば、4月は70都市の新築住宅価格は前月比0.58%の下落である。中古住宅価格は、同0.94%も値下がりした。いずれも、ここ10年間で最大の下落率だった。土地売却収入と住宅価格動向は、こうして密接な関係がある。住宅不況が続く限り、土地売却収入は減り続けるのだ。

     

    『ブルームバーグ』(5月21日付)は、「中国の土地売却収入8年ぶり低水準-住宅危機の深刻さ浮き彫り」と題する記事を掲載した。

     

    中国で地方政府の土地売却収入が8年ぶりの低水準に落ち込んだ。住宅危機の深刻さがあらためて浮き彫りとなっている。

     

    (1)「地方政府が不動産開発会社に土地を売却することで得た4月の収入は前年同月比21%減の2389億元(約5兆1700億円)と、2016年5月以来の低水準を記録。財政省が20日発表したデータに基づきブルームバーグが算出した。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の朱懌エコノミストは、「4月の住宅販売・投資データが悪かったことに加え、住宅不況が深刻化していることを示す新たな証拠だ。政府による追加資金投入の緊急性を高めるもので、政府はそれに対処している」との見方を示した」

     

    地方政府は、土地売却収入を主要財源にしている。「土地本位制」(学術用語でない)という安易な方法を採用した結果が招いたことである。毛沢東が、土地国有制を決めたことに始まるが、辛亥革命(1911年)を導いた孫文の土地制度は私有制であった。地価値上がり分は全て税金として収納させるものだ。孫文案を採用していれば、「土地本位制」という劇薬に走ることもなかった。中国のアキレス腱である。

     

    (2)「不動産不況は家計支出を押し下げ、公有地使用権の売却を通じ収入の大半を得ている地方当局の予算収支を悪化させている。中国当局は先週、住宅ローン規制を緩和し、売れ残った住宅を地方政府に買い取らせる計画を発表。不動産市場の救済を狙ったこれまでで最も強力な試みだが、当局がこの計画をどのように実行に移すかについては疑問も呈されている」

     

    習近平氏は、不動産バブル崩壊の後始末に財政資金投入を渋っている。その代わりに、銀行に不良債権処理をさせている。一見、妙案にみえるが間違いだ。


    銀行は、資本毀損を起こしており信用機構にひびが入る寸前にまで来ている。利ザヤが、危険ラインを割ったからだ。銀行は、自ら生き延びるために不動産企業への危険な融資を忌避している。政府が、いくら命令を発しても「自己保身」「御身大切」で塹壕から出ようとしないのだ。まさに、敗戦寸前の旧日本軍と同様に、陸軍と海軍は敗戦の責任をなすりあっている。中国では、財政部門と金融部門がこの状態である。

     

    (3)「中国の不動産危機が長期化している。ゴールドマン・サックス・グループは、土地売却収入が今後数四半期あるいは数年続く長期的な減少圧力に直面すると予想。エコノミストやアナリストが執筆した21日のリポートで、継続的な政策支援にもかかわらず、不動産デベロッパーの資金繰りが依然として改善されず、政策の優先度は引き続き建設が滞っている住宅の完成が上位だと説明し、そのため、土地購入や新規着工に向けたファイナンスの減少が示唆されていると指摘した」

     

    中国経済は、不動産不況を背景とする景気悪化が深刻化している。中国指導部は、経済政策の基本方針として「先立後破(先に確立、後に破壊)」を掲げている。新たな成長産業育成の道筋を立てたうえで、最後に不動産依存度を下げるというのだ。これは、緊急手術を必要とする患者に対して、体力をつけるためにボディービルを勧めるようなものだろう。政策の緊急度の優先度を間違えている。

     

    ゴールドマン・サックス・グループは、土地売却収入が今後数四半期あるいは数年続く長期的な減少局面になると予想している。その通りである。中国は、不動産バブル崩壊という歴史的「事件」の対応を完全に間違えているからだ。

     

    習氏があえて、「先立後破」を立てたのは、台湾侵攻準備をして国内体制を引締める目的であろう。実際に台湾を侵攻しなくても、その「ポーズ」をとり続けることは必要という判断だ。台湾問題は、中国経済にとって成長抑制要因になっている。緊張緩和が、中国自身にとって不可欠になった。 

     

     

     

     

    a0005_000022_m
       

    中国金融界では、常識で考えられないことが起こっている。大口預金受入れを断っているのだ。大口預金は割増し金利がつくので、預金コストが上がることを忌避しているもの。預金は、貸出の原資になる、いわば「仕入れ」である。それを断ったのでは、「売上」(貸出)が増やせないのだが、肝心の貸出増も期待できない事態に追込まれている。

     

    『日本経済新聞』(5月21日付)は、「中国の商業銀行 大口預金受け入れ制限」と題する記事を掲載した。

     

    中国の商業銀行で、大口預金の受け入れをやめる動きが広がる。預金金利が比較的高いためで、コストの軽減を狙う。中国人民銀行(中央銀行)も20日、事実上の政策金利である最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)を据え置き、銀行の収益力に配慮した。

     

    (1)「中国メディアによると、民営の中国民生銀行は5月上旬、大口預金の新規受け入れを停止した。最低20万元(約430万円)を6ヶ月以上預かっていた。準大手銀行の招商銀行や中信銀行、山東省を地盤とする恒豊銀行も一部の大口預金を取り扱わなくした。大口預金は銀行にとって重要な資金調達手段だが、企業など顧客に払う利子は普通預金などより多い。一部の銀行はコスト負担を和らげるため大口預金の受け入れを見直した」

     

    中国の商業銀行は、利ザヤの圧縮に苦悩している。不良債権の多額発生で貸出利息が減っているからだ。習近平国家主席は、不動産開発企業の不良債権を銀行負担で処理させているが、すでにその限界を超えた。

     

    中国は、経済政策の基本方針として掲げられたのが「先立後破(先に確立、後に破壊)」だ。新たな成長産業育成の道筋を立てたうえで、不動産依存度を下げるとしている。だが「後破」の対象である不動産開発企業は、不良債権「垂れ流し」状況で、銀行が処理できる限界を超えた。これが、銀行の大口預金「お断り」の理由である。「先立後破」は破綻しつつある。

     

    (2)「銀行は、収益源となる新規の貸し出しが伸び悩む。民間企業や家計の先行き不安が根強いためだ。設備投資や住宅購入に充てる融資期間が長い資金の貸し出しは4月、前年同月より56%少なかった。このため銀行の収益力を示す利ざやは縮小が止まらない。国家金融監督管理総局によると、商業銀行全体の利ざやは23年12月時点で1.69%にとどまる。2022年から過去最低の更新が続く」

     

    銀行の貸出が減ったのは、「流動性の罠」という最悪事態が起こっている証拠である。貸出金利を下げても新規の資金需要が起こらないのだ。金融機関は、貸付資金が必ず返済される見通しがつかなければ貸出さない。現状の貸出状況は、こういう事態に陥っていることを示唆している。人間に喩えれば、「食欲」が出ない状況である。病人なのだ。

     

    (3)「銀行業界団体の「市場金利設定自主機構」は銀行の健全性を保つうえで1.%を利ざやの「警戒ライン」と定める。23年12月期決算で、中国工商銀行など四大銀行すべてで利ざやが1.%を下回った。人民銀行は20日発表した5月のLPRを巡り、優良企業に適用する貸出金利の参考となる1年物を年3.45%とした。住宅ローンの基準金利となる期間5年超のLPRは年3.95%だった。いずれも4月と同じ水準だ」

     

    昨年12月末の平均銀行利ザヤ(貸出-預金)は、1.69%へ縮小した。これは、「警戒ライン」1.8%を下回るものである。つまり、銀行の「稼ぐ力」が急速に低下していることを示している。この事態を改善するには、貸出を増やすことだがそれも不可能である。となれば、預金コストを引下げるほかない。つまり、高利の大口預金を断ることだ。中国経済では、こういう緊迫した事態が起こっている。

     

    (4)「利下げに踏み切れば資金需要を刺激できるが、銀行の貸出金利が全般的に下がり利ざやを圧迫する。銀行の収益力低下は不良債権処理のハードルを上げる。政策金利の据え置きは銀行経営への配慮という面もある。中国政府は17日、不動産市場への追加支援策を公表した。銀行からの借り入れを活用して、地方政府に売れ残った住宅を買い取らせる。低所得者向けに割安で提供させる計画だが、収益にならなければ地方政府の借金返済が滞り、銀行の不良債権が膨らみかねない」

     

    貸出金利を下げても、それに見合った貸出増は期待できない。となれば、利下げは銀行の利ザヤを圧迫するだけだ。銀行の稼ぐ力を衰えさせるのである。中国の金融機関は、進退に窮している。

    このページのトップヘ