勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > アジア経済ニュース時評

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    日銀が23〜24日に開く金融政策決定会合で、政策を決める9人の政策委員の過半が追加利上げを支持する見通しであることが、確実になってきた。追加利上げが決まれば、政策金利は0.5%となる。17年ぶりの金利水準となる。

    植田和男総裁は15日、23〜24日に開く金融政策決定会合で「利上げを行うかどうか議論して判断する」と述べた。14日に、氷見野良三副総裁が同様の発言をしたのに続くものだ。金融市場では、日銀の正副総裁が決定会合直前に利上げの可能性を示唆するのは異例なものとして受け取っている。

    植田総裁は全国地方銀行協会が開いた会合で、2025年の金融政策運営について「経済・物価情勢の改善が続いていくのであれば、それに応じて政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と強調した。企業の賃上げに関しては「年初に各界の方々の発言や支店長会議で聞いた全国の状況は前向きな話が多かった」との認識を示していた。

    『日本経済新聞 電子版』(1月17日付)は、「日銀政策委員、過半が利上げ支持 市場見極め最終判断」と題する記事を掲載した。

    日銀が、23〜24日に開く金融政策決定会合で、政策を決める9人の政策委員の過半が追加利上げを支持する見通しであることが、複数の関係者への取材で分かった。追加利上げが決まれば政策金利は0.5%となる。20日に就任するトランプ次期米大統領の発信や、その後の国内外の市場の反応などを見極めたうえで最終判断する。

    (1)「日銀は、2024年7月末の決定会合で政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.25%へと引き上げた。今回、利上げすれば半年ぶりで、24年3月のマイナス金利解除以降で3回目となる。0.5%への利上げは07年2月以来である。0.5%の水準は08年10月まで続いたため、17年ぶりの金利水準となる」

    日本経済は、「失われた30」と自虐的に言われてきた。企業収益は良好でも、賃上げを渋ってきたことで浮揚力を付けられなかった結果である。それがようやく、国を挙げての「賃上げムード」を形成しており、賃上げ→消費者物価上昇という好循環過程を形成するまでになった。大卒採用は、かつての高度経済成長期を彷彿とさせるように、企業の「採用競争」が始まっている。長く忘れていた企業福祉が、採用の決め手になる時代へ戻っているのだ。人手不足の本格化は、日本経済を軌道へ乗せるテコになる。

    (2)「金融政策を決める政策委員は植田和男総裁、内田真一副総裁、氷見野良三副総裁のほか、6人の審議委員の合計9人で構成される。議案の決定は多数決でなされ、5人の政策委員が賛成すれば可決となる。関係者らへの取材によると、執行部が0.5%へ利上げする議案を出した場合、過半の政策委員が賛成する見通しだ。一部の委員は慎重な姿勢を示しているが、利上げが決まる公算だ」

    日銀は、物価安定目的で利上げが容認される環境だ。異常円安が、輸入物価を押上げており、まさに日銀の出番である。

    (3)「植田総裁は15日の全国地方銀行協会、16日の第二地方銀行協会が開いた会合で、23〜24日の決定会合で「利上げを行うかどうか議論して判断する」と述べた。氷見野副総裁も14日の講演で同様の発言をしていた。日銀正副総裁の度重なる発信を受け、市場でも1月会合での利上げ観測が強まっている。東短リサーチと東短ICAPによると、市場が織り込む1月会合での利上げ確率は17日時点で80%強となっている。14日は60%台だった」

    日銀は、市場との対話を十分に行った。昨年7月の利上げは「唐突感」を与えたが、市場の油断で「円売り」を行っていたもので「自業自得」というべきであろう。円売りは、日本の国力疲弊に力を貸すようなものだ。自らの行為に責任を持つべきで、日銀を恨むのは筋違いである。



    あじさいのたまご
       

    韓国政治は、感情丸出しの「報復合戦」に陥っている。特に、最大野党「共に民主党」は、国会の最大議席を利用して「占領軍気取り」であり、暴言の数々を発している。世論調査で、与党「国民の力」の支持率が「共に民主党」と拮抗し始めると、世論調査会社を「不正調査」容疑で告発するなど、目に余る振舞をしている。こうした「暴走」が、若者から反発をうけており、最新の世論調査では、「国民の力」が「共に民主党」を逆転する事態になっている。のべつ幕なしで繰り広げてきた野党の「弾劾戦術」が、明らかに行き詰まりをみせている。

    『朝鮮日報』(1月17日付け)は、「韓国20・30代の与党支持率、1カ月間で急上昇 最新世論調査」と題する記事を掲載した。

    尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、今月15日に高位公職者犯罪捜査処(公捜処)に拘束される前、訪ねてきた人物に対して、最近の与党・国民の力の支持率上昇を話題にし、20~30代の与党支持に言及したとのことだ。

    (1)「最近の世論調査の推移を見ると、国民の力の支持率は昨年12月3日の非常戒厳宣布前の水準に回復し、共に民主党を誤差の範囲内でリードする結果も出ている。世論調査の専門家らは「政党支持率が変動している主な要因の一つは20~30代の変化だ。20~30代は、非常戒厳宣布という局面で野党支持の傾向が強まった。それから1ヶ月たって野党離れの流れが見えてきた」と話す」

    韓国政界は、絶えず「喧嘩腰」で相手陣営を批判している。冷静な議論は、極めて少ないのだ。こういう政治土壌で起こった今回の大統領弾劾→大統領拘束では、野党が政権を奪還したような興奮に陥っている。韓国政治の混乱を憂えるという雰囲気はゼロなのだ。こうしたことに、若者が反発するのは当然であろう。韓国政治が、正常化できるかも知れないわずかな希望はここにあるようだ。

    (2)「今月13日~15日に電話面接100%で実施された全国指標調査(NBS)では、20台(満18歳・19歳を含む)の31%が共に民主党を、22%が国民の力を支持しているとの結果が出た。30代では、共に民主党支持が31%、国民の力支持が28%だった。先月16~18日のNBS調査では、20代の37%が共に民主党、19%が国民の力を支持していた。30代では37%が共に民主党、20%が国民の力を支持していた。つまり、この1カ月間に20代の共に民主党支持は6ポイント減り、国民の力支持は3ポイント増えたということだ。また、30代の共に民主党支持は6ポイント減り、国民の力支持は8ポイント増えたことになる」

    ここ1カ月間で、与野党の支持率の顕著な変化が起こっている。電話面接100%の調査では、20代の共に民主党支持が6ポイント減り、国民の力支持は3ポイント増えたこと。また、30代の共に民主党支持は6ポイント減り、国民の力支持が8ポイント増えた点である。韓国政治の未来は、若者に託すほかない。与野党の支持率が変動していることは、問題の本質がどこにあるかを冷静にみつめようとしている結果であろう。

    (3)「こうした傾向は、積極的な支持層の回答傾向が強いとされる自動回答(ARS)世論調査よりも顕著になっている。世論調査会社リアルメーターが、エネルギー経済新聞の依頼で実施した今月9~10日の調査と先月12~13日の調査を比較すると、20~30代の国民の力支持は1カ月間に20ポイント以上も上昇した。20代の国民の力支持は21.6%から43.0%へと21.4ポイントも上がり、共に民主党支持は53.7%から31.7%へと22ポイント下がった。また、30代の国民の力支持は16.5%から38.5%へと22ポイント上がり、共に民主党支持は54.4%から46.9%へと7.5ポイント下がっている」

    世論調査会社リアルメーターが、ここ1ヶ月間に行った自動回答(ARS)世論調査でも、若者の間で支持率が大きく変動している。20~30代の国民の力支持は、1カ月間に20ポイント以上も上昇した。共に民主党支持は22ポイント下がった。30代の国民の力支持は、22ポイント上がった。共に民主党支持は7.5ポイント下がっている。

    (4)「インサイトケイ研究所のペ・ジョンチャン所長は、「韓悳洙(ハン・ドクス)首相に対する弾劾訴追、安保問題政争化、『カカオトーク検閲』など、李在明(イ・ジェミョン)共に民主党代表が主導する対与党攻勢、同代表に対する反感、『共に民主党は親中派だ』という認識などが若者層の支持率変動に影響を与えたようだ」と話す。世論調査会社オピニオンズのユン・ヒウン代表は、「20~30代における非常戒厳宣布に対する否定的認識や弾劾賛成の割合は依然として高い。今後、与野党がどうするかによって変動性があるだろう」と語った」

    尹大統領による「戒厳令」は、民主主義の破壊である。だが、最大野党「共に民主党」は、それを誘発するような行為を繰返していたことも事実だ。両者は、ともに国民の審判を受けなければならないであろう。「共に民主党」には、そういう反省はゼロであり、次期政権が近い」と小躍りしている。不健全な現象をみせているのだ。支持率が下がるのは、やむを得ないことであろう。

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    中国の25年GDP成長率は5.0%と、政府目標の「5%前後」を達成した形である。立役者は、輸出の急増である。トランプ政権復帰を見込んで、駆け込み輸出が増えた結果である。トランプ氏は、「中国へ最大60%関税をかける」と発言しただけに、これを忌避するために輸出を繰上げたものだ。

    中国税関総署が13日発表した2024年の貿易黒字は前年比21%増の9920億ドル(約156兆30000億円)。輸出が過去最高を記録する一方、輸入が伸び悩んだことが背景にある。輸出は昨年、ほぼ毎月増加し、年間ベースで新型コロナウイルス流行期の22年に付けた従来の最高記録を上回った。長引く住宅危機と消費低迷で苦戦している中国経済が、力強い外需によって支えられた。25年は、こうした輸出下支えが「トランプ・リスク」にさらされている。

    『ブルームバーグ』(1月17日付け)は、「中国経済、25年は米追加関税が成長率の脅威にー昨年の目標達成でも」と題する記事を掲載した。

    中国の2024年のGDP成長率は5%と、5%前後に設定されていた政府目標を達成した。当局が昨年後半に講じた土壇場での刺激策に加え、堅調だった輸出の後押しで景気が押し上げられた。だが、トランプ次期米大統領は対中関税を引き上げる考えを示唆しており、中国経済にとって主要な成長のけん引役である輸出の勢いが奪われる恐れもある。

    (1)「17日発表された24年のGDPは前年比5%増加。ブルームバーグ調査のエコノミスト予想中央値(4.9%増)をやや上回った。習近平国家主席は昨年末に24年のGDP成長率目標を達成するとの見通しを示していた。昨年10~12月のGDPは前年同期比5.4%増と、6四半期ぶりの高い伸び。市場予想の5%増を上回った。前期比では1.6%増と回復ぶりが顕著で、伸び率としては23年1~3月以来の大きさだった」

    昨年10~12月のGDPが、前年同期比5.4%増と6四半期ぶりの高い伸びをみせたのは、輸出の駆け込み需要であろう。昨年12月の輸出は、前年同月比で約11%増の3360億ドルと、月間ベースで21年12月に次ぐ過去2番目の高水準を記録した。

    (2)「BNPパリバの中国担当チーフエコノミスト、ジャクリーン・ロン氏は、「昨年の中国経済にとって最大の明るい材料は輸出で、特に価格要因を除くと非常に堅調だった」と指摘。「これは今年最大の問題が米国の関税になることも意味する」と話す。トランプ次期米政権の発足を控え、共産党指導部は今年に金融緩和を進め、公的支出を拡大する方針を示している。トランプ次期大統領は中国製品に最大60%の関税を賦課する考えを示唆しており、対中貿易に大きな打撃となる可能性がある。こうした状況はグローバル企業に出荷の前倒しを促し、昨年の成長率を押し上げた」

    企業は、トランプ氏の最大60%関税を回避すべく、繰上げ輸出を行った。これが、24年のGDP成長率を押上げたとみられる。

    (3)「中国のGDP成長率目標は、これまでほとんどの場合で達成されており、これについては疑問視されることが多い。だが、昨年9月下旬からの当局の政策転換が長引く不動産不況や物価低迷による逆風に対抗するのに寄与したことを示唆する幅広いデータもある。24年12月の工業生産は前年同月比6.2%増と予想を上回り、昨年4月以来の高い伸びとなった。内需の動向はまちまちだ。失業率は昨年8月以来の上昇となり、不動産販売も引き続き低調だったが、消費は刺激策による後押しを受けたカテゴリーで持ち直しの兆しを見せた」

    昨年12月の工業生産が、前年同月比6.2%増と予想を上回り、昨年4月以来の高い伸びとなった。これは、輸出急増に支えられている。

    (4)「マッコーリー・グループの中国経済責任者、胡偉俊氏は「輸出受注の前倒しが確かに寄与したが、輸出だけでなく、消費にも改善が見られた。これは主に購入補助金による成果だ」と語る。モルガン・スタンレーの邢自強氏率いるエコノミストチームは、年間成長率の持ち直しの約60%は消費と製造業投資を促進する政策によるもので、残りは出荷の前倒しによるものだと推計した」

    消費は、購入補助金が支えた。製造業投資増は、企業の過当競争を反映したもので、この跳ね返りが25年GDPを押下げるであろう。

    (5)「消費の喚起を最優先課題とする中国当局が、年内に拡充する方針を示している消費財の下取りプログラムにとって、こうした改善は良い兆しとなる。ブルームバーグが公式データを基に計算したところ、中国の24年の名目GDP成長率は4.2%だった。20年以降で最も小さな伸びにとどまり、物価低迷による影響を反映した。GDPデフレーターは2年連続のマイナスとなった」

    24年の名目GDP成長率は4.2%だった。20年以降で最も小さな伸びにとどまり、GDPデフレーターは2年連続のマイナスとなった。名目成長率が、実質成長率を下回る「名実逆転」が起こっている。要するに、デフレ経済下にあるのだ。

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    中国の2024年のGDP成長率は5%と、政府目標の5%前後と一致した。昨年後半の刺激策が寄与した形である。だが、有力エコノミストが昨年秋、「実態は2~3%成長」と発言して、習国家主席から発言を禁じられている事実と重ね合わせると、「はてな」という疑問符がつくのだ。5%成長という経済の勢いではない。その証拠として、相変わらず「無駄な」インフラ投資や住宅投資を続けているからだ。瞬間的にGDPを押上げても、継続的な付加価値を生まないので「線香花火」に終っている。

    『日本経済新聞 電子版』(1月17日付)は、「中国、未完インフラ野ざらし GDP減速の現場を行く」と題する記事を掲載した。

    中国の2024年の実質経済成長率は5.0%と、23年の5.2%から減速した。住宅不況が景気の足を引っ張った。不動産収入に依存してきた地方政府の財政難は極まり、停止に追い込まれた公共事業も多い。未完成のままのインフラが放置された地方都市の現場を取材した。

    (1)「中国南部に位置する広西チワン族自治区の柳州市。市街地にある公園内の展望台から見渡すと、市中心部を走る幹線道路に鉄道用の橋脚が数キロメートルにわたって等間隔で並んでいた。肝心の線路はない。近くに住む女性、李さん(76)は「何年もこのままの状態でさらされている。何の役にもたたないまま、遺構になっちゃったね」と憤った。市中心部を走る全長45キロメートルの鉄道建設は16年に始まった。25年に運行開始を予定していた。同市は総工費126億元(約2700億円)と見積もったが、市の予算不足で21年に工事が止まり、橋脚や駅だけが残された。「毎朝通う公園を整備した方が安上がりだし、たくさんの人に使ってもらえたのにね」。李さんはあきれ顔だった。鉄道建設の効果と言えば、「遺構」をSNSで紹介しようと展望台を訪れ撮影する観光客が少し増えたくらいだと笑う」

    25年に運行開始を予定していた鉄道が、橋脚建設まで済ませて野ざらしである。柳州市は総工費126億元(約2700億円)の予算が息切れしたのだ。「もったいない」話である。橋脚まで建設が進んだ以上、あとわずかな資金が続かなかったのだろう。

    (2)「広西チワン族自治区に隣接する貴州省にも財政難で行き詰まった公共事業がある。省都の貴陽市には、21年に完成するはずだった幹線道路が建設途中のまま残っていた。アスファルトはところどころはがれ、雑草が生えたり水たまりが点在したりしていた。同市は当初、市中心部と新たな開発区を結ぶ全長12キロのバイパス道の完成に、52億元の費用を見込み建設を始めた。資材高でコストが膨らみ工期が遅れるなか、マンションバブルが崩壊した。税収に匹敵する規模だった不動産収入が大きく落ち込み、追加費用を捻出できなくなった」

    貴陽市には、21年に完成するはずの幹線道路が未完成のまま放置されている。不動産バブル崩壊で土地売却益が急減し、建設資金を調達できなくなったのだ。

    (3)「土地が国有である中国では、地方政府が国有地の使用権を不動産開発会社に売り渡す。不動産バブルに沸いた頃は使用権の価値も右肩上がりで、売却収入は地方税収に並ぶ規模まで拡大した。地方政府はその不動産マネーを公共インフラの整備などに充てた。21年半ばに住宅不況へ陥ると、状況が暗転した。バブル崩壊から3年あまりがたち、国有地使用権の売却収入は半減した。かつてインフラ開発のために発行した地方政府の「隠れ債務」の返済負担も重くのしかかり、財政が逼迫。未完成のまま放棄された公共事業が増えた」

    地方政府のインフラ投資が、21年以降に滞る事態になったのは、不動産バブル崩壊の結果だ。不動産バブルが、どれだけ中国経済を支えてきたかが分る。

    (4)「それでも中央政府は景気下支えのため、地方政府に「公共事業を加速せよ」と指示する。地方政府にインフラ建設のために地方債を発行させて、公共事業を上積みするようせかす。バイパス道の建設を停止した貴陽市も23年に79億元のインフラ債券を新規に発行した。調達した資金を使って、ダムや病院など61件の開発に着手した。そのうちの一つにオフィスと住居を一体開発した省エネ企業向けの開発区がある。雪がちらつくなか労働者らが工事を急いでいたが、1月初旬時点で入居予定の企業はないという。地元住民の反応は冷ややかだ。タクシー運転手の雷さん(35)は「どうせ借金するなら、今ある道路を舗装してほしい。道路がきれいになれば速く走れてお金も多く稼げるのに」とぼやいた」

    中国政府は、惰性で政策を進めている。インフラ投資と企業補助金の継続である。政策見直しが、全く行われないという「不思議な国」である。

    (5)「借金を抱えてまでインフラ整備を進めても、景気回復という実感は市民に生まれない。国有地使用権の売却収入という自主財源が細るなか、地方政府には将来の返済リスクだけが残る」

    今後も、雪だるま式の負債残高を抱えて行く中国経済に展望があるわけでない。習氏は、自己の国家主席継続が最大目標になっている。



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    中国自動車業界の平均稼働率は、5割見当と最悪局面である。政府補助金を貰い、生残りを賭けた死闘を続けている。何とも資源の無駄使いで時間を空費している。習近平国家主席は、生き残った企業が世界企業になれると「公認」しているのだ。ここだけは、「市場競争派」である。すべては、中国の世界覇権の前哨戦という見立てなのだろう。

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月16日付)は、「中国の自動車業界、『淘汰』の段階に」と題する記事を掲載した。

    中国の自動車メーカーが過剰生産能力を抱えた結果、世界最大の自動車市場が淘汰の段階に入っている。中国乗用車協会(CPCA)が、9日発表した昨年の国内自動車販売台数は、前年比5.5%増の2290万台だった。しかし、この需要は各社が構築した生産能力をはるかに下回っており、メーカーは生き残りをかけて値下げや国外市場への進出を迫られている。

    (1)「中国の電気自動車(EV)メーカー、小鵬汽車(シャオペン)の何小鵬CEO(最高経営責任者)は昨年12月31日付けの社内文書で、「自動車業界は2025~27年に淘汰の時期を迎える」とし、「2025年の競争はかつてないほど激しいものになる」と述べた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はこの文書を確認した。早々に「負け組」に名を連ねているのは外国ブランドだ。米ゼネラル・モーターズ(GM)や独フォルクスワーゲンは、地場メーカーにシェアを奪われている。CPCAによると、中国市場では昨年、国産ブランドのシェアが61%となり、前年から8.6ポイント上昇した」

    中国の地場メーカーは、補助金に助けられて値下げ競争を行っている。海外メーカーは、この煽りを食ってシェアを奪われている。

    (2)「とはいえ、国産ブランドも試練に直面している。コンサルティング会社アリックスパートナーズのマネジングディレクター、スティーブン・ダイヤー氏によると、昨年、23のEVブランドが中国市場から撤退したか他のブランドに統合された一方で、12の新ブランドが市場に参入した。昨年の1~9月に少なくとも1台のEVを販売したブランドは112に上るという。同氏の推計では、中国の自動車メーカーは24年、生産能力の半分程度しか使用しなかったとみられる」

    国産ブランドも過激な競争を繰り広げている。これが、生産者物価指数をマイナスへ引き込む逆効果を生んでおり、デフレマインドを増幅する事態へ落込んでいるのだ。この一方で、国債を発行して耐久消費財購入促進を行っている。中国に、総合的視点の経済政策が存在しないのだ。

    (3)「調査会社オートフォーキャスト・ソリューションズで世界の自動車生産・販売予測を担当しているサム・フィオラニ氏は、「国有企業や大手民間企業は生き残れるだろうが、小規模企業、特に輸出実績のない企業の間では再編と淘汰が進むだろう」と指摘する。こうした淘汰は、中国政府の産業政策の結末としてよくあることだ。中央・地方政府はまず、補助金や政策支援で特定の産業を奨励する。一定の規模に達すると、生存競争を繰り広げさせる。同様の動きは、最近では太陽光パネルや風力タービンで、過去には鉄鋼や電子機器でも見られた」

    中国は、他産業でも過当競争させて生き残った企業を保護するというスタイルとっている。自動車も同じだ。

    (4)「競争に生き残った企業は世界トップ企業になることも多く、国の誇りの源となる。EV大手の比亜迪(BYD)をはじめとする中国の自動車メーカーは、すでに世界のEVメーカーの上位に入っている。中国の新車販売台数の半分超を占めるのは、フルEVかPHV(プラグインハイブリッド車)だ。同国の習近平国家主席は新年の演説で、2024年にこれらの車両の生産台数が1000万台の節目に達したことを強調した」

    民間企業BYDが、EV勝者になったことは確実だ。だが、支払手形の期限を延長するなど、苦しい経営事情も伺わせている。

    (5)「テスラは、欧米や日本の競合他社の多くよりも健闘している。調査会社グローバルデータによると、テスラの昨年の中国での販売台数は前年比8%増の約66万2000台だった。それでも、BYDをはじめとする国内ライバルに後れを取っている。BYDは昨年、中国で約400万台を販売した。GMの中国合弁会社の販売台数は、2018年から24年にかけて5割余り減少した。オートフォーキャストのフィオラニ氏は、GMの工場は中国に6カ所あり、過剰だと指摘する。GMは先月、中国事業の不振により50億ドル超の非現金費用を計上するとの見通しを示した」

    GMは、中国国内に工場を6カ所も持っている。過剰と指摘されている。

    (6)「資金力のある後ろ盾があっても、(中国)企業の将来は保証されない。中国のソーシャルメディアに昨年12月、国内のあるEV新興企業の従業員が上司を取り囲み、給与などが確実に支払われるのか懸念を伝える動画が投稿された。中国の高級EVメーカー、上海蔚来汽車(NIO)のウィリアム・リー(李斌)CEOは先月、「自動車会社には欠点が許されない」とし、自動車業界は「最も激しく残酷な競争の段階に入った」と述べた」

    中国EVでは、賃金未払いが起こっている。それでも、販売競争を続けている。補助金政策の空恐ろしさを感じるのだ。市場競争の限界をはるかに超え、「野蛮な競争」へ突入している。

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