勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > アジア経済ニュース時評

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    中国の住宅販売に回復への動きは見られない。1~2月は例年、春節(旧正月)の大型連休で住宅展示場は賑わうが、今年は静かなものだったという。中国国家統計局が、18日発表した12月の新築住宅販売面積は、前年同期を24.%も下回った。2023年まで2年連続で減少した流れが続き、マイナス幅も拡大している。

     

    経営再建中の中国不動産大手、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)の法的整理を申し立てた債権者が18日、開発物件の譲渡などによって債務返済も可能だと提案し、碧桂園側に対話の継続を求めている。有り余る在庫住宅を債権として引き取るという提案だ。少しでも傷を浅くするという債権者側の戦術であろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月18日付)は、「中国新築住宅販売、12月24.8%減 地方予算にはや狂い」と題する記事を掲載した。

     

    かつて春節(旧正月)休暇の期間中は住宅展示場を訪れ、物件購入を考える人が多かった。不動産企業によってかき入れ時とされたが、過去の話となった。シンクタンクの中国指数研究院によると、2月中旬の春節休暇の新築取引面積は23年の休暇より3割近く少なかった。

     

    (1)「先行きへの懸念から購入をためらう人が多い。政府は20〜21年に不動産金融への規制を強め、不動産企業の資金繰りが悪化した。「青田売り」物件の工事停止や引き渡しの遅延が相次ぎ、消費者に不安を与えた。これが、今回の不動産バブルの引き金になった。不動産市場の低迷が長引き、地方都市を中心に値下がりが目立つ。「住宅は値上がりする」との神話が崩れ、資産運用として住宅を購入する需要もしぼんだ」

     

    住宅バブル崩壊が、中国経済の財政構造も脆弱化させている。住宅建設の不振が、地方政府の土地売却益の減少となり歳入減に拍車を掛けているからだ。

     

    (2)「中国人民銀行(中央銀行)は2月20日、事実上の政策金利と位置づける最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)のうち住宅ローンの指標金利を下げた。不動産調査の貝殻研究院によると、主要100都市の1軒目のローン金利は平均3.59%と最低を更新したが、需要を刺激する効果は読みにくい。オフィスビルの需要も冷え込む。企業収益の伸び悩みで賃貸などのニーズが減った。新たな供給も増え、空室率が上昇した。不動産コンサルタントの戴徳梁行の調べでは、23年末時点で上海の一級オフィスビルの空室率は21.%1年で5.1ポイント高まった。北京や深圳の空室率も上がった。

     

    住宅不況は、商業ビルの空室率を高めている。理由は、不動産バブル崩壊による過剰債務が、ビジネス活動全般を抑制しているからだ。

     

    (3)「マンションなどを建てても売りさばけない不動産企業は、新たな開発を抑制する。12月の不動産開発投資は前年同期より9.%少なかった。住宅販売と同じように23年まで2年連続で減少した流れが続く。国家統計局の劉愛華報道官は18日の記者会見で「不動産市場は現時点でなお調整・モデルチェンジの段階にある」と語った」

     

    12月の不動産開発投資は前年同期より9.%少なかった。これは、今後の住宅販売減となって現れる。

     

    (4)「不動産開発の停滞は地方財政を直撃する。中国は土地が国有制で、地方政府が国有地の使用権を不動産会社に売って貴重な財源としてきた。不動産企業が新たな開発を減らせば土地使用権の売買も低迷し、地方政府の歳入が減る。不動産開発投資が減少した22〜23年、使用権の売却収入も落ち込んだ。2年間で売却収入は33%の大幅減となった。売却収入を管理する特別会計の歳入は計2兆8000億元(約58兆円)の予算割れを記録した。不動産不況に対する財政当局の見通しが楽観的だったことは否めない」

     

    22〜23年の2年間で、土地売却収入は33%の大幅減となった。約58兆円の歳入減である。まさに「土地本位制」(学術用語でない)の象徴的事例だ。

     

    (5)「全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が承認した24年の政府予算は、特別会計の歳入を前年比0.%増と見込んだ。不動産開発投資の底打ちに時間がかかるなか、同歳入の8割を占める売却収入も減少し、予算で見込んだほどの歳入を確保できない恐れがある。歳入が下振れすれば、追加の歳出削減が必要になる。公共工事の進捗に響くと、地方経済の停滞感が強まる」

     

    24年の政府予算は、土地売却益を示す特別会計の歳入を前年比0.%増と見込んでいるが、完全な計算違いとなろう。12月の不動産開発投資が、前年同期より9.%少なかったことからもわかるように、マイナスは確実だ。

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    中国は、不動産バブル崩壊による衝撃をEV(電気自動車)・電池・太陽光発電の3業種の輸出で乗切る基本方針を立てている。だが、EVの過剰生産につづき、太陽光発電も過剰生産に陥っている。世界最大の太陽電池メーカー隆基緑能科技は、従業員の3分の1を削減するという「大手術」に出る。

     

    『ブルームバーグ』(3月18日付)は、「太陽電池世界最大手の隆基緑能、従業員の約3分の1削減計画ー関係者」と題する記事を掲載した。

     

    世界最大の太陽電池メーカー、中国の隆基緑能科技はコスト削減を図るため、従業員の約3分の1を削減する計画だ。事情に詳しい関係者が明らかにした。太陽光産業は過剰生産能力や激しい競争に見舞われている。

     

    (1)「経営陣から説明を受けた人物を含む複数の関係者によると、隆基緑能はピーク時に約8万人いた従業員の最大30%を削減する方針。計画が公になっていないとして匿名を条件に話した。この動きは、隆基緑能が昨年11月に開始した人員削減の加速を示す。今回の決定前にどの程度減らされていたのかは明らかになっていない。隆基緑能の担当者に人員削減についてコメントを求めたが、すぐに返答が得られなか」

     

    太陽光発電パネルは、世界的な過剰生産に陥っている。2022年現在で、世界の平均操業度は2割程度と大赤字状態に陥っている。中国の隆基緑能科技が、世界最大企業といえども耐えられる限界を超えているのだ。過剰生産は、2015年頃から始まっていた。すでに8年もこういう状態であり、ますます悪化している。それにも関わらず、習氏は、太陽光発電パネルを中国の先端産業に位置づけるという見誤りを冒してしまった。

     

    『ブルームバーグ』(3月18日付)は、「習主席の新スローガン『新質生産力』、技術革新で中国経済の再生狙う」と題する記事を掲載した。

     

    (2)「中国ではスローガンが極めて重要だ。「中国の特色ある社会主義」から「共同富裕」に至るまで、新たなキャッチフレーズの採用は政策の重大な転換を告げることがある。そうした意味では、3月5日に公表された今年の政府活動任務の筆頭に、「新質生産力(新たな質の生産力)」が挙げられた際、習近平国家主席が昨年9月に初めて言及していたこの表現が意味するところを読み解こうとする動きは強まった。2014年以降、産業政策のスローガンがトップとなったのは他に1度しかなく、通常、この枠にはマクロ経済政策に関する方針が充てられてきた」

     

    これは、「質の高い成長」という意味で技術革新を前提にする。EV・電池・太陽光発電パネルが「三種の神器」になっている。

     

    (3)「政府支出の増加や市場の拡大による恩恵を受けるとの思惑から、人型ロボットから航空機部品のメーカーに至るまで、関連銘柄が大きく値上がりした。このスローガンは「中国製造2025」や「デジタルトランスフォーメーション(DX)」など、バリューチェーンの向上を視野にここ数年行われてきた呼びかけの再パッケージに過ぎないとの見方がある。新たな表現は、経済面の課題が山積しているにもかかわらず、これまでの路線を堅持する決意を固めていることを地方の当局者らに強調するのに役立つとの受け止めも目立つ」

     

    習氏は、「新質生産力」が魔法のような力を持っているように振る舞っている。不動産バブル崩壊による過剰債務が、この新質生産力」によって解消されるような幻想を与えているのだ。これが、現実認識を誤らせる大きな原因である。

     

    (4)「テクノロジーの利用を巡り米国との対立が激しくなる中、中国は技術革新の強化に取り組んでいる。米政府は中国による半導体へのアクセス制限をさらに強化するよう同盟国に迫っており、中国は人工知能(AI)化を進める上で先端半導体の調達は不可欠だ。13日には、李強首相が中国AI大手の百度(バイドゥ)を訪れ、政府による支援強化を示唆した。アジア・ソサエティー政策研究所の中国分析センターで中国政治担当フェローを務めるニール・トーマス氏は、「このフレーズは共産党と政府の官僚機構への新たなかけ声だ」と指摘。「中国経済の成長軌道を巡り先行きがより不透明になる中、生産性を高める技術革新に対する習氏の大きな賭けはますます重要になっている」と述べた」

     

    新質生産力」の推進には、先端半導体が不可欠である。だが、米国との政治的な対決が「中国包囲網」をつくり出している。原因は、習氏が台湾侵攻方針を捨てない点にある。台湾侵攻方針を捨てれば、習氏の国内権力基盤は弱体化する。一方、これを強調すれば、包囲網を強められるという二律背反に遭遇しているのだ。二進も三進もいかない状況に追込まれている。

     

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    韓国の政策金利は現在、3.5%である。21年7月までは0.5%であったが、高物価抑制で引上げられてきた。これに最も苦しんでいるのが低所得者である。政府の庶民金融商品「ヘッサルローン15」は、低所得者がヤミ金融に走らぬようにという「救済融資」を目的にしている。その金利が、なんと「15.9%」だ。日本の感覚から言えば、これこそ「ヤミ金融」並みである。

     

    韓国の資本蓄積が、いかに低レベルであるかを証明する話である。少しでも政策金利を引上げると低所得者へは低い信用度で高金利となって跳ね返るのだ。日本は、政策的意図で事実上1999年からゼロ金利である。この日韓の差は、資本蓄積の厚みの差を示すものだ。

     

    『ハンギョレ新聞』(3月17日付)は、「韓国『物価高・高金利ショック』庶民向け融資の延滞率が一斉急騰」と題する記事を掲載した。

     

    韓国で高金利・高物価が持続しているため低信用庶民層家計の借金負担が加重されていることが分かった。政府が庶民の高金利負担を減らすために供給する各種の庶民金融商品の延滞率が昨年急騰したことが明らかになった。

     

    (1)「17日、国会政務委員会所属の改革新党ヤン・ジョンスク議員室が金融監督院と庶民金融振興院から受け取った資料によれば、信用等級が低い庶民のための政策金融商品「ヘッサル(陽光)ローン15」の昨年の代位弁済率が21.3%となり、2022年(15.5%)より5.8ポイント急騰したことが分かった。代位弁済とは、融資を受けた借主が元金を返済できなかった時、庶民金融振興院などの政策機関が銀行に対し代わりに弁済することを意味する。ヘッサルローン15の代位弁済率が20%台に跳ね上がったのは昨年が初めてだ」

     

    庶民のための政策金融商品「ヘッサル(陽光)ローン15」は、年利15.9%である。これだけの高金利は、日本でも払えぬ高利である。代位弁済が急増しているのは当然であろう。政府が、代わって金融機関へ支払っているのだ。

     

    (2)「特に、ヘッサルローン15は闇金融に頼らざるを得ない低信用者が正常な経済生活を継続できるように、相対的に高い年15.9%の金利で政策資金を融資する庶民金融商品だ。この商品の延滞率が高くなっていることは、低信用庶民層の償還能力が限界状況に達し、再び私債市場などに追い込まれる可能性が高くなっているという意味だ」

     

    低所得者で「ヘッサルローン」を延滞する状態では、後はヤミ金融へ行く以外の道はなくなる。悲劇が、待っているような事態だ。

     

    (3)「ヘッサルローン15のみならず、他の庶民金融商品も一斉に延滞率が上昇したことが分かった。満34歳以下の青年層を対象にした「ヘッサルローンユース」の代位弁済率は2022年(4.8%)の2倍水準である9.4%に急騰し、低信用勤労所得者のための「勤労者ヘッサルローン」の代位弁済率も2022年の10.4%から昨年は12.1%に上がった。低所得・低信用者の中で償還能力が相対的に良好で第1金融圏に移れるよう支援する「ヘッサルローンバンク」の代位弁済率は8.4%で前年(1.1%)より7.3ポイント急騰した」

     

    韓国経済の根本的問題は、金融構造が脆弱であることだ。ウォン安が頻繁に起こっており、そのたびに「日本との通貨スワップ」が叫ばれてきた。この問題は現在、日韓の友好ムードで「日韓通貨スワップ協定」が結ばれて解決した。だが、庶民は不況のたびごとに大揺れである。

     

    (4)「この他にも医療費・食事代など、それこそ急にお金が必要な脆弱階層に最大100万ウォン(約11万円)を当日貸すマイクロクレジット商品「小額生計費貸出」の昨年の延滞率は11.7%だった。信用評点下位10%の最低信用者のための最低信用者特例保証の代位弁済率も14.5%となった」

     

    マイクロクレジットは、当日貸しだけに高金利を取るのであろう。ここでも、延滞率は11.7%にも及んでいる。

     

    (5)「年齢帯に分けてみると、20代以下の青年層の代位弁済率が最も高いことが分かった。まだ資産形成ができていない青年層の償還能力が最も脆弱なわけだ。2018年以後6年間、これら庶民金融商品の支援を受けた人は計287万人で、貸出総額は19兆9000億ウォン(約2.2兆円)と集計された。このうち約10%に該当する1兆9922億ウォンが延滞され、昨年末基準で未回収金は1兆8058億ウォン(約2000億円)に達した。ヤン・ジョンスク議員は「高金利・高物価が持続し、家計負債負担に押しつぶされた庶民層の苦痛が政策金融商品の延滞率増加に現れている」とし「庶民用政策金融商品の金利適用に勤労所得増加率を連動させるなど金利設計方式を全面再検討しなければならない」と話した」

     

    20代以下の青年層は、代位弁済率が最も高いという。住宅ローンを目一杯借りて、返済余力がなくなっている結果であろう。オール借金漬けの韓国の若者は、未来に夢を失い結婚や出産から遠ざかっている。この矛盾を解決するにはどうすべきか。過去においても、矛盾を抱えながら解決せず先送りしてきたのだ。

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    大企業製造業は8割満額

    国内はM&A時代へ突入

    GDP3位転落巻返しへ

    日本経済取巻く環境好転

     

    24年春闘は、日本経済の将来を占う試金石となった。これまで、賃金をコストとしてみてきた企業が、180度の転換で「人材投資」という認識に変わったことだ。賃金が、コストであれば切下げるほど企業の利益になる。今や、本格的な労働力不足に直面して、賃金は人材投資であることに気づかされたのである。優秀な人材を集めて能力を発揮させるには、よりよい待遇が前提条件になった。賃金は、将来を見据えた投資なのだ。

     

    24年春闘は、3月15日現在の連合による第一次集計で、平均賃上げ率が5.28%となった。前年同時点を1.48ポイントも上回った。昨年に引き続く2年連続の高い賃上げ率は、一過性でないことを示している。日本企業が、賃金コスト論を脱却して人材投資という視点に転換したことを意味している。その意味では、日本企業の「経営革命」と呼んで差し支えなかろう。

     

    連合は、従業員数300人以下の中小企業の賃上げ率も発表した。それによると、4.42%に達し、32年ぶりの高水準となった。前年同時期を0.97ポイント上回ったのだ。賃金引き上げ機運は、こうして中小企業にも広がっており、物価と賃金が持続的に上がる好循環の基盤が形成されてきたとみてよかろう。

     

    24年春闘は成功した。問題は、零細企業の賃上げがどこまで可能か、である。下請け企業の場合、発注先の企業が人件費上昇分を受入れるかがポイントになる。政府は、「下請法」によって正当な人件費上昇を受入れるように公正取引委員会が監視している。先頃、下請法違反の企業10社の社名が公表された。「一罰百戒」の意味を込めた発表だが、こうした違反は絶対に防がなければならない。

     

    年央の実質賃金は、プラスに転じる可能性が強まっている。長かった「冬の季節」が終わりを迎えるであろう。

     

    大企業製造業は8割満額回答

    大企業製造業は、24年春闘で8割が労組要求に対して満額以上の回答をした。中でも圧巻は、日本製鉄である。月3万円の賃金改善要求を上回る、月3万5000円と回答した。この結果、定期昇給(定昇)などを含めた賃上げ率は14.%である。回答の狙いについて、日鉄は「今後の生産性向上を前提とした、将来に向けた人への投資」と説明している。

     

    鉄鋼業界は、これまで他社と「横並び」の賃上げを行ってきた。だが、日鉄はこの慣例を破って14%もの大幅賃上げへ踏み切った。狙いは何か。一つは、同業間での競争である。従来は、同業間では暗黙の了解で横並びの賃上げであった。これでは、日鉄に優秀な人材を集められないという危機感であろう。もう一つは、他産業との競争である。その一つが日本の半導体勃興である。台湾半導体企業TSMCの熊本進出が導火線になった。

     

    TSMCは、大卒で28万円の初任給を出す。日鉄は、TSMCへ流れる人材も取り込みたいのであろう。それには、これに対抗する初任給引上げが必要である。日鉄の24年初任給は、賃上げで26万5000円だ。前年よりも18.3%増になる。初任給が、2割近い引上げは高度成長期並みである。日鉄は、今後とも賃上げできる企業体質強化への青写真を持っているはずだ。

     

    日鉄は、米国のUSスチールとの合併を進めていたが、米国バイデン大統領の反対声明で実現に時間がかかりそうな情勢になった。だが、日鉄は海外でのM&A(合併・買収)を積極的に行う意思を示したことで、他産業にも大きな刺激を与えたはずだ。実は、M&A候補が海外だけでなく、日本国内に多数存在している。

     

    国内はM&A時代へ突入

    日本政府は、長年の懸案だった国内企業の統合について、一気に進められる明確なゴーサインを出している。経済産業省が昨年8月、05年以来となる企業買収の行動指針を策定したからだ。今年2月、日本で開催されたM&A関連会議では、世界各地のファンドマネジャーが大挙して押しかける盛況ぶりであった。日本が、M&A市場として有望とみられているのである。

     

    経産省の新たな行動指針では、敵対的買収防衛策が緩和されている。経営陣は、合理的理由がなく買収提案を拒んだり、敵対的として退けたりできなくなったのだ。これまで、高い壁があった敵対的買収に対する防御策が消えたと言えよう。最も大きな効果は、M&Aによって日本経済全体の効率性(生産性向上)が高まることである。非効率な経営を続け、従業員へ満足な賃上げもできない企業は、M&Aによって経営主体が変わる時代になった。M&Aは、こうした重要な役割を果たすのだ。

     

    日本企業はこれまで行き過ぎた経営多角化を行ってきた。ビジネスチャンスを求めた結果である。これが、効率的経営実現の障害になっている。そこで、国内企業同士の事業統合を進める有効手段として、M&Aがテコとして浮上してきた。(つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

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    中国では、住宅神話に踊らされて新居を購入したものの、その後の失職でローンが支払えない人たちが増えている。競売物件が増えているのだ。住宅相場の下落が顕著な結果、競売は成立せず不調に終わっている。こうした不運な人たちの増加は、住宅販売や個人消費へ悪影響を与えている。

     

    『ロイター』(3月17日付)は、「増える中国の住宅ローン延滞、不動産・消費に一段の下方圧力」と題する記事を掲載した。

     

    中国南部の恵州市で金融関係の仕事を失ったレイ・ジャオユさん(38)は今、住宅ローンの返済が滞っており、取立人に追い回される境遇にある。避けられない破局を少しでも先延ばししようと、電話には一切出ないようにしている。

     

    (1)「2022年末に失業し、130万元(約2730万円)で買った住宅のローンとクレジットカードの借金の返済ができなくなったレイさんは、「私にとって唯一の家で、差し押さえされたくない。でも、何ができるのか」と途方に暮れる。7年前に家を購入したことを悔やみながら「私は自分の若さを無駄にしたような気がする」とつぶやいた。レイさんのような状況に陥った人は、中国ではまだ少ない。だが、その数は急速に増え続けている」

     

    中国では、住宅への執着が極めて強い。住宅神話が生まれた背景でもある。こうした状況下で失業に陥ると住宅ローンの重圧が一挙にかかってくる。

     

    (2)「背景には、不動産危機や地方政府の債務増大、デフレ懸念などに伴って経済全体が依然として部分的な回復にとどまり、足場がもろいことがある。複数の専門家は、住宅ローン延滞件数の増加は不動産価格と消費者信頼感の双方にとって悪影響を及ぼしかねず、家計需要を促進して経済基盤をより強化しようという政府の努力に一層の冷や水を浴びせる恐れが出ている」

     

    住宅ローン延滞件数の増加は、これから住宅販売や個人消費へとジワリと悪影響を及ぼす。

     

    (3)「中国の民間不動産調査大手、中国指数研究院(チャイナ・インデックス・アカデミー)の分析では、23年に差し押さえられた物件数は前年比43%増の38万9000件。今年1月はさらに5万件以上が差し押さえとなり、前年比増加率は64.4%に達した。華宝信託のエコノミスト、ニー・ウェン氏は、延滞と差し押さえ増加は消費を萎縮させているだけでなく、過剰な不動産投資は避けるべきという警鐘にもなっていると述べた。

    レイさんも到底、消費などできる気分ではない」

     

    23年の差し押さえ物件は38万9000戸だが、今年1月だけで5万件以上になった。年率換算で60万戸にもある。前年比で5割増という事態である。

     

    (4)「(前記のレイさんは)昨年、ライブ配信経由でさまざまな所有品を売って稼いだ合計額は約4万元。毎月の住宅ローン返済額の4200元に充てるには不十分で、毎日の基本的な生活費すらおぼつかない。「私が着ているのは全て5年前の服だが、体重が増えたので、その多くはもう合わなくなってきている。友人からはお古のコートをもらった。旅行は17年以降、一度も行っていない」という。レイさんにとって最も心苦しいのは、毎月3000元の年金で暮らす母親を支えてあげられないことだ」

     

    住宅高騰が、庶民生活を破綻に追いやった事例がここにある。

     

    (5)「中国指数研究院のデータからは、23年に9万9000件の差し押さえ物件が競売に付され、売却総額が1500億元(約3兆1500億円)だったことが分かる。北京の差し押さえ専門会社幹部のデュアン・チェンロン氏は、これらの競売は2~3年前に発生した債務問題の結末なので、競売物件の増加ペースは今後、加速する公算が大きいとの見方を示した。デュアン氏は「新型コロナウイルスのパンデミック後の経済環境は良好でなく、失業などが原因で住宅ローンでは多くのデフォルト(債務不履行)が起きている。まだ、競売物件と返済がままならなくなっている資産の規模にはギャップがある」と指摘。将来的に競売が増えれば、通常の市場での買い手候補の目がそちらに向くことで、新築住宅や中古住宅の価格が圧迫されてもおかしくないと付け加えた」

     

    23年の差押物件の売却総額は、約3兆1500億円にも及んだ。これら競売は、2~3年前に発生した債務問題の結末である。今後、競売物件の増加ペースは加速するとみられる。

     

    (6)「中国の幾つかの都市では、差し押さえ物件の競売が何度も不調に終わるケースも見られる。河南省の駐馬店市出身のシングルマザー、シンさん(30)は、起業のため自宅マンションを担保に借金をしたものの、20年のロックダウンであっという間に廃業を強いられ、家を失った。19年当時で31万元と評価された物件は過去1年間で2回、シンさんが銀行から借りている17万元で競売が行われたが、買い手は現れなかった」。シンさんは「誰が買うのか。同じマンションでほかに10戸以上も競売に出されているのに」とため息をついた」

     

    住宅相場の急落で、競売物件の売却が成立せず不調に終わっている。いずれは、売却価格の引き下げとなろう。これが、新規住宅販売の足を引っ張ることになろう。

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