勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    これまでの中国は、習近平国家主席がデフレを認めなかったことから積極的経済政策はタブーであった。ところが、習氏辞任説が出るに及んで、中国人民銀行の政策委員までが、積極論を発言する「解禁ムード」になっている。習氏という「重石」が外れた影響であるかは不明。

     

    『ブルームバーグ』(7月11日付)は、「中国は30兆円超の追加刺激策必要、米関税への対応で-人民銀顧問ら」と題する記事を掲載した。

     

    中国は消費を喚起し、為替相場の柔軟性を維持するため最大1兆5000億元(約30兆7000億円)規模の新たな景気刺激策を講じ、米国の関税が景気に及ぼす影響に対処すべきだ。中国人民銀行(中央銀行)顧問らがこう提言している。

     

    (1)「人民銀の黄益平貨幣政策委員ら3人は、11日のリポートで、中国経済は持続的なデフレ傾向に加え、4月以降「新たな混乱」に直面していると指摘。「これら進行中の課題に対処するには、中国は安定した成長を維持するため、より強力な景気循環への対応策を採用するとともに、構造改革を積極的に推し進める必要がある」と論じた」

     

    トランプ関税が大きな圧力になっていることを窺わせている。とくに、労働集約製品が高関税の影響を最も強く受けている。ただ、これら輸出用の労働集約型製品は、国内販売転用に不向きなだけに救済方法が難しい。

     

    国務院の通知によると、一部地域の地方政府が失業保険の還付率を、中小企業に対しては最大90%とし、従来の60%から拡充。大企業では最大50%とし、30%から引き上げる。経営難の企業では、失業などの保険料納付の申請を延期できるようにする。

     

    16~24歳の失業者を雇用して保険料を負担する企業は、1人当たり最大1500元(209ドル)の補助金が支給される。地方政府に対しては、若年失業者と出稼ぎ労働者が職業訓練校に入学できるよう、年齢制限を緩和し職業教育を受けやすくすることも求めた。中国当局は、失業者対策に全力をあげている。事態の深刻さが伝わって来る。

     

    (2)「リポートは、20~30%の米関税による経済への打撃を和らげるため、今後1年で家計の消費押し上げに向け1兆~1兆5000億元規模の追加措置を検討すべきだとしている。中国政府は今年、超長期特別国債発行で借り入れた3000億元を使い消費支出を促す補助金に充てる計画だが、これを大きく上回る規模となる」

     

    家計の消費押し上げに向けは、1兆(約20兆円)~1兆5000億元(約30兆円)規模の追加措置を提案している。習氏は、これまで家計消費刺激策を忌避していた。家計の無駄遣いを奨励するようなもの、という認識であった。中国では、末端の家計が最も疲弊している。

     

    (3)「トランプ米大統領の関税措置や、中国による第三国を経由した輸出に対する米国の監視強化で輸出が低迷するリスクを踏まえ、中国が今後数カ月でさらなる景気下支え策を打ち出すとみるエコノミストは多い。中国本土では不動産市場の低迷が続き、企業が顧客つなぎ留めを狙った値引きを行い、デフレ圧力も強まっている」

     

    中国のデフレ圧力は、半端なものではない。不動産価格は、すでに4年も下落が続いている。中国社会は、住宅相場の下落が持ち家の評価を下げているので、これが消費抑制につながっている。ソロバン勘定に敏感である。

     

     

    あじさいのたまご
       

    習近平中国国家主席は、2年前に「物価が下がることは良いこと」と言い放った。この一言が、中国当局にデフレ経済であることの認識を遅らせるという専制主義国家特有の失態を招いた。最近、中国は過剰生産に基づくデフレに陥っているとの認識が表明され始めている。奇しくも、習氏辞任説と軌を一にする。事実上、「習氏の重石」が取れた結果であろうか。

     

    『ブルームバーグ』(7月11日付)は、「中国、デフレ巡る論調変化-過剰生産に本格対応なら世界経済に朗報」と題する記事を掲載した。

     

    中国共産党指導部は国内経済を長年悩ませてきたデフレ懸念と激しい価格競争に対し、ようやく本格的な対応に乗り出す兆しを示している。

     

    (1)「中国政府が発信する内容はここ数週間で明らかに変化しており、習近平党総書記(国家主席)が率いる指導部は、鉄鋼や太陽光パネル、電気自動車(EV)といった幅広い業種で価格や利益を圧迫している激しい競争について、これまでで最も率直な分析をしている。中国人民銀行(中央銀行)も同様の懸念を示しており、価格低迷の継続を経済の主要課題として数年ぶりに挙げた。5月には物価下落圧力に関する詳細な分析を公表し、投資と供給に偏った成長モデルの下では、金融緩和による景気刺激には限界があると強調した」

     

    中国人民銀行が、価格低迷の継続を経済の主要課題として数年ぶりに挙げた。過剰生産下では、金融緩和しても効果に限界のあることを認めた。財政出動が、本番という言外の主張だ。銀行は、利ざやがレッドラインを割り込むほど悪化している。

     

    (2)「この問題に解決の道筋が見えれば、世界経済には朗報だ。長年、貿易相手国との摩擦要因となってきた過剰生産能力の抑制に成功すれば、貿易摩擦の緩和と信頼回復につながる可能性がある。ただし、先行きは不透明だ。習指導部は外需が鈍化し、米国との恒久的な貿易協定が依然として見通せない中、成長を阻害したり雇用を脅かしたりすることなく、供給過剰を抑制するという難題に直面している」

     

    今になってデフレ認識を深めたのは、習近平氏の圧力が消えかかってきた結果であろう。

     

    (3)「JPモルガン・チェースの劉鳴鏑チーフストラテジスト(アジア・中国株担当)はブルームバーグテレビジョンとの9日のインタビューで、対策が「適切に実行されれば、中国の過剰生産能力や輸出過剰がもたらす国際的な緊張を和らげるという点で、世界貿易にとってプラスになる」と指摘。その上で「ただし短期的には、GDP(国内総生産)や雇用に優しい政策ではないため、バランスの取れた対応が求められる」とも語った」

     

    過剰生産を止めれば、雇用問題を悪化させる。これをどう救済すかだ。失業対策で、莫大なコストが発生する。

     

    (4)「明確な政策が正式に発表されたわけではないが、総合的な対応策への期待が高まりつつある。今月開かれた共産党中央の経済政策を担当する最高機関の会合では、効率よりも生産量を重視する税制や地方政府による投資促進といった問題を引き起こしている根本的な要因が認識された。ただし、デフレへの直接的な言及はない。デフレは政府にとって長らくタブーとされてきたテーマだ」

     

    25年の公的債務は、GDP比8%台にも達している。公的債務残高は、26年に対GDP比100%を超える。米国と並んで財政悪化が目立つのだ。強気の習近平氏の座が揺らぐ背景である。

     

    (5)「それでも、パンテオン・マクロエコノミクスの中国担当チーフエコノミスト、ダンカン・リグリー氏は党中央の認識について、「中国の政策当局が自動車などの業種での無秩序な競争と価格競争の是正に乗り出す意思を示すこれまでで最も強いシグナルだ」と指摘。自己規制による生産抑制がほぼ失敗に終わった業界団体について触れられなかったことについては、「より強いトップダウンの姿勢を意味する可能性がある」との見方を示している」

     

    無秩序な企業間競争は、補助金政策の結果である。「自己規制による生産抑制がほぼ失敗」したのは、補助金という「エサ」があったからだ。

     

    (6)「業界団体や政府系メディアもこうした論調の変化に呼応し、価格競争の終結に向けた取り組みを呼びかけている。建設用の主要鋼材である鉄筋の価格が17年以来の安値に下落し、ガラスも9年ぶりの安値水準付近となる中で、鉄鋼やガラス製造などさまざまな業種の企業が生産削減を計画していると伝えられている。中国工業情報省は太陽光関連企業と会合を開いたほか、建設関連の約30社以上が「内巻式」競争に反対するイニシアチブに署名した。内巻式とは、生産能力の過剰がもたらす競争激化を指す中国独特の用語だ。政府はまた、不公正な商慣行の是正に向けた取り組みの一環として支払い遅延に関する取引先の苦情を受け付ける窓口を設けた」

     

    純粋な市場経済国であれば、中国のような無益な値下げ競争など起らない。企業が倒産するからだ。中国には、そういう歯止めがない。政府が、企業活動へ補助金という形で介入している結果である。まさに、「無間地獄」である。

     

     

     

     

     

    テイカカズラ
       


    中国の労働者の5人に1人以上は、ギグワーカー(インターネット上で募集される労働者)と言われている。不正規雇用で2億人もの人々が、働かざるを得ない人たちだ。中国で、4年も続く住宅不況がもたらした事態である。不動産バブル崩壊後遺症は、これからさらに長く続く。中国共産主義は、「労働者が支配する社会」のはずである。その主役になるとされる人たちが、最も虐げられている。共産主義の矛盾が、ここに100%現れている。

     

    『ブルームバーグ』(7月10日付)は、「灼熱の中国にギグワーカー2億人、共産主義下で広がる格差あぶり出す」と題する記事を掲載した。

     

    焼けつくような暑さにさらされる北京の朝、ハオさんと十数人のフードデリバリー配達員は火鍋レストランの外で汗を流していた。たばこを吸い、スマートフォンで動画を見ながら、屋内にとどまる賢明な顧客から昼食の注文を待っていた。

     

    (1)「中国には2億人のギグワーカーがいるが、ハオさんもその一人だ。法律上は猛暑手当を受け取る資格がある。これは、極端な高温下で長時間働く人に支払われる危険手当の一種で、気温が35度を超えた場合には、月に最低180元(約3700円)の支給が義務付けられている。この週の北京はすでにその基準を超え、気温は40に迫る勢いだった。しかし、彼への支払いは一切ない。「猛暑で働いても手当を支払う会社があるなんて聞いたことがない」とハオさんは話す」

     

    法律上は、気温が35度を超えた場合、月に最低180元(約3700円)の支給が義務付けられている。実際は、ほとんど払われていない。月3700円では、1日当たり100円程度。ゼロに等しい金額でも払われないのだ。

     

    (2)「ハオさんは5年間にわたり1日10時間、電動スクーターで配達を続けている。雇用主からの報復を恐れ、フルネームを明かさない条件で取材に応じてくれた。彼だけではない。ほとんどの配達員が手当を受け取ったことはないという。デリバリー需要は猛暑時に急増する。気温が高ければ高いほど、注文が増える。アリババグループ傘下の餓了麼や美団JDドットコムといった中国最大級のフードデリバリープラットフォームにとって、汗をかく配達員がいれば、顧客は満足するというのは自明なことだ」

     

    デリバリー需要は、猛暑時に急増する。気温が高ければ高いほど、注文が増える仕組みだ。消費者が外出を控えてデリバリーへ依存する結果である。

     

    (3)「プラットフォーム各社は、配達員支援を行っていると主張している。JDドットコムは正社員の配達員に対し猛暑手当を支給していると明らかにしたが、その詳細には触れなかった。美団は、今月から熱中症予防保険の導入など、対策を講じている。餓了麼は夏季用冷却用品の配布などを実施したことがあるが、コメント要請に応じなかった。ハオさんのような数百万人の配達員にとって、注文が殺到しても時給が1元増える程度で、ペットボトルの水1本すら買えない」

     

    配達員は、注文が殺到しても時給が1元(約20円)増える程度で、ペットボトルの水1本すら買えない状況だ。

     

    (4)「猛暑手当は、法律を順守しようとする企業しか支給していない。中国経済の減速により、労働者の5人に1人以上がギグワークに就く中で、仕事を得る競争は激しく、被雇用者がより良い待遇を交渉する余地はほとんどない」

     

    労働者の5人に1人以上が、ギグワークに就いている現状は何を意味するか。経済構造の欠陥によるものだ。共産主義という未熟な経済システムが生む悲劇である。

     

    (5)「対照的なのが、政府機関や国有企業で働く職員・社員らだ。彼らは自身の「熱中症予防手当」について誇らしげにSNSで伝えている。現金ボーナスの支給や早退、さらには国有の海辺リゾートでの休暇を楽しむことができるケースまであるという。世界最大の共産主義国である中国において、若年層を中心に増えつつあるギグワーカーが、最も保護されていない働き手であるという矛盾は隠しようがない。中国を代表するSNSの一つ、微博(ウェイボ)上では、「猛暑を『味わう』人には手当がなく、手当をもらう人は猛暑を知らない」という皮肉を込めた投稿も見られた」

     

    公務員や国有企業で働く人たちは、共産主義を守る「戦士」ゆえに保護を受けている。地方政府職員には、給料遅配や減給など厳しい局面だが、ギグワーカーに比べれば天国だ。

     

    (6)「医学誌ランセットによると、中国における年間の熱波関連死者数は、1986~2005年の平均と比べて2倍近くに増え、直近の年間データがある23年には3万7000人以上が亡くなっている。中国国民にとって、そうしたリスクは平等ではない。最も過酷な状況に置かれているのは、デリバリーサービスの配達員や路上の販売業者、建設作業員たちだ。彼らが倒れたとしても、支援を提供するようなセーフティーネットもほとんどない」

     

    23年には、熱波で3万7000人以上が亡くなっている。北京が位置する華北平原は、地下水の過剰くみ上げによって、すでに異常熱波になっている。米国マサチューセッツ工科大学によれば、2070年以降の戸外作業が不可能になると予測されるほどだ。その前兆現象に見舞われているのだろう。 

     

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    中国経済は、不況の坩堝でもがき苦しんでいる。6月の生産者物価指数(PPI)は、前年同月比3.6%低下と、33カ月連続のマイナスに落込んでいる。5月は、同3.3%の低下であった。「いつまで続くぬかるみぞ」の状況にある。原因は、過剰生産が止まらないからだ。地方政府が、補助金を付けて支援するから、企業は赤字でも操業を続ける。これが、「中国式社会主義経済」の実態である。

     

    習近平国家主席の辞任説が飛び交っている。ドロ沼経済の責任を問われているからだ。習氏は、破竹の勢いでトウ小平一派を追放したが、今や風向きは逆転した。習氏が、追われる立場になっている。それは、習氏の身辺に起る人事の異変が示唆している。「絶対的権力は絶対的に腐敗する」とされるが、習氏にも同じケースがあてはまるのか。

     

    この習氏が、中国で不況の底に沈む山西省を訪問した。「実体経済と、その中に含まれる重工業を放棄すべきではない」と発言したという。何か、「引かれ者の小唄」に聞こえて哀れさを感じるのだ。

     

    『ロイター』(7月9日付)は、「習主席、新産業発展とともに重工業維持の必要性改めて強調」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席は、新産業を発展させつつも工業生産力を維持する必要性を改めて強調した。国営新華社は8日伝えた。新華社によると、習氏は視察に訪れた北部山西省で「実体経済と、その中に含まれる重工業を放棄すべきではない」と発言。「技術革新を通じた工業の変革と刷新」を強調する一方で、変革や発展は安全保障と安定の範囲を決して超えてはならないとくぎを刺した。

     

    (1)「習氏は、今年に入って行った6回の地方視察で、人工知能(AI)や新エネルギーといった「戦略的新産業」を積極的に取り込みながら、重工業分野における中国の強みを保持し、さまざまな製品の自給態勢を強化する必要を訴えてきた。いずれも米国との貿易と地政学上の緊張が高まっていることが背景にある。これらの視察で習氏は、既存産業を解体せず、秩序的に改善を進めていくよう訴えている」

     

    習氏は、「戦略的新産業」を強調している。「EV(電気自動車)・電池・太陽光パネル」の育成強化は、その代表的なものだ。しかし、補助金をたっぷりと付けた結果、過剰投資を招き過剰生産を引き起して、ダンピング輸出に走るという世界を巻き込む事態となっている。習氏の言う「戦略的新産業」育成は重要である。だが、無差別な補助金政策は中国のみならず、世界にとって迷惑な話なのだ。習氏には、その限界が分らないのだろう。国家主席として失格である。単なる「アジテーター」に成り下がるのだ。

     

    (2)「今回訪問した石炭産出量が中国で最も多い山西省については、「資源ベースの経済」の変革を呼びかけた。習氏は、「山西省は石炭産業を高付加価値で高価格の製品に転換し、太陽光や水素、風力発電産業を構築すると同時に、国家の石炭供給にも責任を負わなければならない」と主張した」

     

    中国の内陸部、特にかつて石炭の一大生産地だった山西省は、赤字企業が集中する地域として深刻さを浮き彫りにしている。24年には工業企業の約4割が赤字を計上し、全国平均の2倍近くに達している。山西省では、電気自動車(EV)、リチウムイオン電池、太陽光発電の「三種の神器」が成長分野として位置付けられた。習氏が強調する「戦略的新産業」を育成した挙げ句が、工業企業の約4割は赤字という事態を招いたのだ。

     

    今回、習氏がわざわざ山西省を訪問した目的も「お詫び行脚」であろう。山西省でトラックメーカーの大運汽車は、そうした方針の犠牲になっている。EV分野へと転換を図ったが、「三種の神器」政策の犠牲になった一社である。各省がEV事業に取組んだので、内陸部の山西省は競争条件で劣ったのだ。

     

    山西省は内陸部なので、部品調達と完成車輸送に高コストがかかる上、部品のサプライチェーンも未成熟。EV製造に向いていなかった。唯一の利点は政府支援だけだったが、大運は昨年11月、支払い遅延を巡る訴訟を受け、裁判所の管理下で再建手続きに入った。全従業員の約半数を削減した後、大運はトラックの生産を再開している。『ブルームバーグ』(6月19日付)が報じた。習氏による今回の山西省訪問は、どうしても「お詫び行脚」にみえるのだ。

     


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    中国共産党指導部は、党中央の調整機関運営に関する新しい規定の審議を行った。習近平国家主席はこれまで、これら調整機関を使って個人独裁志向を強めてきたが、新規定はこれに事実上の歯止めをかけるものである。トウ小平路線の集団指導体制へ回帰する動きとみられる。幹部人事に続き、制度面でも「非習近平化」が始まったと指摘されている。

     

    『時事通信』(7月8日付)は、「習主席の個人独裁に歯止め党指導部が新規定審議」と題する記事を掲載した。

     

    党指導部である政治局は6月30日、会議を開き、新規定の「党中央政策決定議事調整機関工作条例」を審議した。遠くない時期に制定されるのは確実。同機関は、習政権が1期目(2012~17年)に新設した中央国家安全委員会や、2期目(17~22年)に「指導小組」から格上げした中央外事工作委、中央財経委などを指す。

     

    (1)「これらの調整機関の大半は、習主席がトップを兼任。習政権1~2期目の李克強首相(退任後の23年死去)が管轄する国務院(内閣)から権限を奪う形で、習主席率いる党中央が権限を拡大した。社会主義体制の中国ではもともと、共産党が政治の実権を握り、国家機関はすべて同党の指導下にある。習政権下の機構改革では、首相や国務院の影響力が縮小された」

     

    調整機関の大半は、習主席がトップを兼任して権力を一手に集める手段につかった。習氏はこれによって、首相や国務院の影響力が縮小した。巧妙にライバルを排除して権力の集中をはかった。これは、習氏一人の知恵で行ったものではあるまい。序列4位の王滬寧(ワン・フーニン)氏が黒幕とみられる。

     

    (2)「習政権1~2期目の最高幹部(党政治局常務委員)は、政治家としてのキャリアが習主席とほぼ同等の大物が多かった。しかし、各調整機関は政治局常務委員7人の一部しか加わらないので、習主席の発言権が自然に大きくなる仕組みとなった。習主席は、市場経済化の改革に消極的な保守派(左派)なので、経済政策がアンチビジネス傾向を強め、政策の実務を担う国務院の機能も低下し、国内経済は混乱して失速。公式統計では、直近の経済成長率は5%超とされているが、実際にはそれよりはるかに低いと思われる」

     

    習氏は、調整委員会を乱立させてそのトップに収まった。これが、独裁制を敷く上で大きな力になった。少人数で固め、習氏がそのトップに就いたのだ。この過程で、ライバルを排除した。

     

    (3)「国営通信社の新華社電によると、これまでの調整機関の職責・運営に混乱があり、越権行為や非現実的な政策提言もあったことを強く示唆している。中国共産党の組織運営に関する公式報道としては非常に珍しい。要するに、調整機関は指導機関である政治局や政治局常務委の方針に基づく本来の調整作業に集中すべきであり、その乱用は許されないということだろう。調整機関の役割を大幅に拡大したのは7年前である。それが今、改めて工作条例をつくること自体が、党指導部の姿勢の大きな変化を示している」

     

    新華社は、こうした調整機関を批判的に報道している。調整機関の役割は、政治局や政治局常務委の方針に基づく本来の調整作業に集中すべきと縮小を示唆している。習氏の権力基盤を「粉砕する」に等しい動きだ。

     

    (4)「習主席の個人独裁路線で、最も邪魔者扱いされた李克強氏は、もし存命であれば、7月3日に70歳となっていた。党機関紙『人民日報』はこの日、李氏生誕70年の記念論文を掲載した。論文の主な内容は、23年10月に党中央や国務院などが共同で発表した訃告と同じ。ただ、わざわざ「李克強同志は党の集団指導を堅持した」という新しい見解が目を引く。集団指導を否定した習主席の考えには合わない文章だ。「異なる意見によく耳を傾けた」「各レベルの政府機関は批判を含む各方面の意見を広く聴く必要があると言った」といった評価も、独断専行型の習主席との違いを強調するかのようだ」

     

    習氏のライバルとされていた李克強前首相は、李氏生誕70年の記念論文が、『人民日報』に掲載された。「異なる意見によく耳を傾けた」などと、習氏を当てこする注釈記事も。

     

    (5)「人事面の習派粛清も続いている。全人代常務委は6月27日、苗華上将(大将に相当)の国家中央軍事委員解任を決めた。昨年11月、規律違反の疑いで中央軍事委の委員と政治工作部主任の停職処分を受けていた。これにより、軍内で習主席の代理人として強大な権力を振るっていた苗上将は完全に失脚した。苗上将と同じ軍内福建閥の筆頭格だった何衛東中央軍事委副主席(政治局員)も3月の全人代閉幕後、公の場に全く姿を見せておらず、失脚が確実」

     

    人民解放軍で、習氏の人脈に連なる将軍が追放されている。

     

    (6)「福建省の部隊出身で海軍政治委員も務めた苗上将の福建閥や海軍人脈に連なる軍人は、OBも含めて次々と粛清されており、先の全人代常務委会議でも、李漢軍海軍参謀長の全人代代表(国会議員)罷免が発表され、その失脚が確定した。中国軍でこれほど激しい粛清が行われるのは改革・開放時代になって初めて。軍内の習派は、全滅状態になったと言ってよい」

     

    人民解放軍の習派は、全滅状態と言うほどの粛清になっている。

     

    (7)「7月1日には、新疆ウイグル自治区党委書記の交代が発表された。6月末の政治局会議で決まったとみられる。4月に明らかになった党中央組織部長と党中央統一戦線(統戦)工作部長の入れ替え人事に続く政治局員レベルの異動だ。前書記の馬瑞興氏(政治局員)の転出先は不明。新書記の陳小江氏は、中央統戦部副部長(閣僚級)から栄転した。政治局入りする可能性がある。陳氏は水利省出身で、習政権1期目に王岐山氏が率いていた党中央規律検査委の宣伝部長(次官級)に抜てきされた。王氏は現役時代、習主席の盟友といわれたが、近年は不仲との見方が多い。王氏の中央規律検査委時代の部下の石氏は最近、アジアインフラ投資銀行(AIIB)次期総裁に起用された石氏は、胡前主席との縁が深い関係にある」

     

    党内人事では、習派が一掃されている。代って、「非習派」が登場。かつて、習氏の幼なじみでもある王岐山氏は最近、関係疎遠と報じられてきたが、今や「反習派」のトップとなって動いている。人事面で、王氏の人脈に連なる人たちが踊り出ている。

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