勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    あじさいのたまご
       

    中国国家統計局が、7月の主要70都市の新築住宅価格を発表した。38カ月連続で半数以上の都市で値下がりした。前月比で上昇したのは17都市で、6月から3都市減った。横ばいは6都市だった。70都市の価格変化率を単純平均すると、前月より0.%低かった。問題は、値下げ率が前月比で「マイナス0.1%」である。いかにも、「嘘っぽい数字」であり。常識から言っても何千万円単位の物件の変動率が「コンマ以下」とはあり得ないことだ。裏で操作されていることは確実であろう。

     

    『ロイター』(8月17日付)は、「中国新築住宅価格、7月も下落 支援策の効果見えず」と題する記事を掲載した

     

    中国の新築住宅価格は7月も下落した。長期にわたる不動産市場低迷は、経済全体への下押し圧力となっている。各都市が住宅需要回復に向けた対策を打ち出しているものの、目に見える効果は見られない。

     

    (1)「国家統計局が発表したデータに基づくロイターの算出で、7月の新築住宅価格は6月と同じく前月比0.1%下落。前年比では3.2%下落した。調査対象の70都市のうち、前月比で上昇したのは17都市にとどまった。6月に回復した大都市も勢いを失った。1線都市の新築住宅価格は6月に0.1%上昇したが、7月は横ばい。2線都市は前月の横ばいから0.1%の下落に転じ、3線都市は0.3%下落した」

     

    なぜ、「0.1%」という数字が出てくるのか。中国の住宅市場の中心は、中古住宅である。新築は、供給が少なく価格調整が遅い。しかも、「政府が価格を管理しやすい」という面が強い。つまり、最も下がりにくい部分だけを取り上げている。また、前月比は統計の中で最も操作しやすい指標である。成約件数が少ない、サンプルが偏る、政府が「価格維持の指導」をしやすいなどだ。結果として、市況実態は崩れていても数字が小さく見える

     

     地方都市の暴落を「平均」で薄めている。記事では、1線都市は横ばい、2線都市がマイナス0.1%、3線都市マイナス0.3% 。しかし実態は、3線都市がマイナス20〜40%、4線都市はマイナス50%以上。ゴーストタウン化した都市は、売買停止である。これらは、平均で薄めると「0.1%」になる。夏の怪談である。

     

    実態は、「0.1%どころではない」。中国の住宅市場は、すでに担保割れ(ローン残高>住宅価値)が広範囲で発生している。これは、統計には現れない。理由は、担保割れ物件は「取引が成立しない」。成約価格がないため統計に反映されない。売買停止=価格が「存在しない」のだ。取引の止まった都市は、価格が下がっても統計に出ない仕組みである。これが、「0.1%」の正体である。

     

    (2)「中原地産のアナリストは、「価格が上昇した都市は依然として全体の3分の1を下回っており、市場全体が調整局面から脱していないことを示すとともに、不動産市場の『K字型回復』のパターンが強まっている」と指摘した」

     

     危機の深刻さは、記事の中に読み取れる。支援策の効果なし、価格上昇都市は全体の3分の1未満、大都市の回復が止まった、中古価格も鈍化、などだ。これは、市場が完全に冷え込んでいることを示している。中古物件は、取引価格が比較的自由で市場の需給を反映しやすい。62都市で値下がりした。下落した都市の数は前月より2都市増えた。

     

     

     

    テイカカズラ
       


    中国の将来を占う上で、人口問題は最大要因である婚姻数の動向は、人口予測のカギを握っている。26年上期婚姻数は、327万5000組。前年同期比7%の減少で、過去最低となった。この結果、出生数のさらなる減少は不可避である。

     

    婚姻数の減少は、中国社会への「重大警告」を意味する。「一人っ子」の婚姻数が減ることは、「一家断絶」を意味する。非婚化は、中国の宗族制社会と儒教倫理に反する行動である。若者が、それでも敢えて行うのは、中国社会に婚姻を阻むおおきな要因があることを示唆している。

     

    婚姻数が減れば、出生数も減って当然である。合計特殊出生率は、23年が1.0とみられるので、その後は1を割ったはずである。中国は、合計特殊出生率について未発表だが婚姻数からの推計で、24年0.9前後、25年0.8と見られる。26年は、婚姻数から逆算する出生率モデルから推計して、「0.6~0.8」まで低下が見込まれている。ここまで落込むと、韓国を下回って世界「ワースト・ワン」である。

     

    『レコードチャイナ』(8月13日付)は、「仏国際放送局『ラジオ・フランス・アンテルナショナル(RFI)』(8月12日付)の中国語版サイトは、2026年1~6月の中国における婚姻届出件数が327万5000組となり、1980年の統計化以降で過去最低を記録したと報じた。

     

    (1)「記事は、中国で婚姻届出などを管轄する民政部が公表したデータとして、今年上半期(16月)の全国の婚姻届出数が327万5000組と前年同期比で約7%(26万4000組)減少した一方、離婚届出数は138万3000組と同約4%(5万2000組)増加したことを紹介した。また、中国では旧正月の休みに結婚を選択するカップルが多く、例年下半期(712月)よりも上半期に婚姻届出が集中する傾向があることに触れ、その上半期に婚姻数が大きく減少したことが一定の意味を持つことを示唆した」

     

    中国の初婚年齢は、「全国平均で約29歳、都市部では30〜32歳」へ移行したと見られる。これは、大学(短大を含)進学率の上昇を反映している。2020年に61.6%へ上昇し、22年は71.6%、24年に76.9%とウナギ登りだ。不況による就職難が、逆に大学進学へ拍車を掛けている。不況は、婚姻を妨げる要因でもあるので、初婚年齢はさらに遅れるであろう。それは、合計特殊出生率にマイナスの影響を与える。

     

    (2)「今年上半期の婚姻数は、過去最低だった24年上半期の343万組をも下回ったと指摘。下半期に婚姻数が少なくなる傾向を踏まえれば、26年通年の婚姻届出総数が600万組の大台を割り込む可能性があるとも伝えた。記事は、中国の婚姻届出数が13年に1346万9000組のピークを記録して以降、長期間にわたり減少傾向にあると紹介。19年に1000万組の大台を割り込んで以降、20年に900万組、21年に800万組、22年に700万組と毎年、大台を割り続けているとした」

     

    婚姻数は、毎年100万組も減っている。これは、もはや止めようがない動きになっている。若者の価値観によって、非婚主義を選んでいる面が大きい。非婚主義は、中国のような宗族制社会の色彩を強く残している社会構造では、「反逆的」なものである。中国文明の構造では、宗族制が結婚=家同士の結合を意味し、儒教倫理によって結婚=義務になっている。現代の若者の価値観は、非婚主義によって宗族制と儒教倫理へ抵抗しているのだ。これは、高等教育を受けた者特有の行動様式である。

     

    この非婚主義が広まると、中国共産党の基盤事態へ影響する。共産党組織原理は、宗族制と儒教倫理によって支えられている古い体質だ。共産党への忠誠や個人崇拝は、近代政党ではありない現象で、宗族制と儒教倫理そのものである。

     

    (3)「23年には新型コロナ後の「反動的な結婚ラッシュ」により768万組に一時回復したものの、24年にはさらなる反動で前年比約21%減の610万6000組と大きく落ち込んだと指摘。25年には前年比65万7000組増の676万3000組へと再び持ち直したが、今年は再び大きく減少する見通しであることを伝えている」

     

    若者は、大学4年間で「人間とは何か」と言った根源的な問題を考えているはずだ。その結果、理想と現実との不一致で絶望しているだろう。そこで、唯一の選択は「非婚主義」という自らを犠牲にした「世直し」を始めているとみられる。共産党を追詰める方法は、現行の価値観である宗族制と儒教倫理への無言の抵抗(非婚主義)をして、共産党のよって立つ価値基盤を崩すことであろう。人口減は、中国共産党基盤へ打撃を与える。社会規模の縮小によって、持ち堪えられなくからだ。


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    中国商用機C919は、米国の認証を受けずに「ローカル商用機」として飛行している。受注は、約1500機、確定注文が約1150機と豪語しているが、納入は3年半で42機、月平均では1機という極めて遅いペースである。これは、「紙の上では巨大産業、現実は試作機レベル」というギャップを象徴している。製造が遅いのは、自国でエンジンを製造できないという悩みに直面しているからだ。

     

    中国は、エンジンなどの精密工業に弱点を抱えている。中国の精密工業が、歴史的に弱い理由は、次の点にある。

     

    「手順・再現性」より「量・速度」を重視する文明だ。中国文明は古代から、大規模土木、大量生産、権力による動員を得意とし、精密・微細・再現性の文化が育ちにくい構造にある。精密工業は、0.1ミクロンの誤差を検出し、手順の厳密性が極めて重要である。不具合な点は共有して、改善を積み重ねることが必要でもある。中国の組織文化では、これと極めて相性が悪いのだ。

     

    「基礎科学」も体系的に育たなかった。中国は歴史的に、数学、物理、材料科学、計測学の体系化が遅れてきた。理由は、科挙が「暗記型」であり、科学的思考を育てなかったことだ。日本や欧州のように、実験、観察―再現性を重視する科学文化が育たなかったという致命的欠陥を抱えている。中国に、「化学的精錬法」が根付かないのは、実験、観察―再現性という習慣がないからだ。すべて、「アバウト」である。

     

    要するに、「失敗を共有する文化」がないのだ。精密工業は、失敗の記録改善標準化の循環が生命線である。中国は、失敗を隠す、データを改ざんするなど、トラブルを共有しない文化が根強く、品質の再現性が永遠に安定しないという欠陥を抱えている。本質的に、近代科学に不向きな性向である。

     

    『レコードチャイナ』(8月14日付)は、「中国『C919』、受注は1000機突破も納入は3年半でわずか42香港メディア」と題する記事を掲載した。

     

    香港メディア『香港01』(8月13日付)は、中国国産旅客機「C919」について、受注は1000機を突破しているものの納入は3年半でわずか42機にとどまっていると指摘した。

    記事によると、20267月までに対外的に公表されたC919の受注数は約1500機に上り、このうち確定している注文は約1150機に達している。

     

    (1)「航空会社に実際に引き渡された機体は、42機にとどまる。2212月の初号機引き渡しから37カ月が経過しているが、月平均の引き渡しは約1機、引き渡し率は約42%となっている。航空会社別では、中国東方航空の105機、中国国際航空の100機、中国南方航空の105機の計310機をはじめ、海南航空集団60機、チベット航空40機、春秋航空30機、吉祥航空20機など、注文は確実に積み上がっている。リース会社経由の注文も500機を超えている」

     

    凄い受注数である。実際に、受注があったかどうか不明だが、それにしては、生産が遅いものだ。

     

    (2)「生産・引き渡しは22年に1機、23年に2機だったが、24年以降は2桁となり、26年上半期はすでに910機と徐々に増加している。製造元の中国商用飛機(COMAC)は26年に45機、27年に55機、28年に80機の引き渡し目標を掲げているが、現時点では目標との差が大きい。記事によると、生産のボトルネックの一つになっているのがエンジンだ」

     

    大きな生産目標だが、現実の生産は微々たるものだ。

     

    (3)「C919は現在、米仏合弁のCFMインターナショナル製LEAP-1Cを搭載しているが、255月に米政府が中国向け輸出許可を一時停止した。同7月に制限は解除されたが、同年の納入は15機にとどまった。他方、国産エンジン「長江-1000A」は25年末に型式証明取得、26年第1四半期に搭載試験が行われており、輸入・国産の二本立て供給体制の構築が進められている。記事は、「235月に商業運航を開始したばかりで、現在は量産化の立ち上げ段階にある」と言及。C919の最終組立ラインは現在、上海・浦東の1本のみで、浦東臨港で建設中のもう1本の組み立てラインが完成・フル稼働すれば、年間150機の生産が可能になる見込みだとした」

     

    国産エンジン「長江-1000A」は、25年末に型式証明取得とされているが、国内機関によるもので、海外では通用しない。

     

    (4)「一方で、「客観的に考えれば、新しい生産ラインが初年度から成熟した生産ラインと同じ速度で稼働することは不可能だ」とも指摘した。そして、「製造できる」ことと「大量に製造できる」ことの間には大きな隔たりがあるとし、「生産ラインの立ち上がりが遅いという現実と、紙面上で積み上がる注文の盛況さとの間には、依然として大きな緊張関係が続くことになる」と論じた」

     

    中国が、欧米に負けまいと必死で「背伸び」している。何か、痛々しく映るのだ。権威主義国家とは、国民に対しても「見栄」を張らなければならないのだろう。

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    中国の7月の新規人民元建て融資は、4月以来となる今年2回目のマイナスとなり、減少幅は過去最大となった。季節要因や家計の借り入れ需要低迷が重石となった。これは、「季節要因」で説明できない現象だ。家計・企業の両方が、金融機関から借りない(=需要が消えた)という構造的現象になった。

     

    26年7月は、中国が信用収縮過程へ「突入」したことを示している。日本経済の1998~2003年と同じ現象が始まった。もはや、「泥沼」から脱出するにはどうするか、という深刻な事態である。

     

    『ロイター』(8月14日付)は、「中国新規銀行融資、過去最大のマイナス 需要弱く個人・法人とも減少」と題する記事を掲載した。

     

    7月の新規融資は、中国人民銀行(中央銀行)が14日発表した統計に基づくロイターの算出で3400億元(504億3000万ドル)の純減となった。4月は100億元減少していた。

     

    (1)「キャピタル・エコノミクスは、リポートで「銀行の名目貸出金利が引き続き低下しているが融資需要は弱い」と指摘。「最近のインフレ率上昇により今年の銀行貸出金利は実質ベースで入って大幅に低下している」と述べた。中国の銀行は通常、第2・四半期末に向けて融資を前倒しした後、減速させる。人民銀は月次の内訳を公表していない。ロイターは17月データを16月データと比較し7月の数値を算出した」

     

    金利を下げても、貸出が減るどころか減っている。明らかに、信用収縮過程へ「飛び込んで」いる。最悪事態へ向っているのだ。

     

    (2)「人民銀によると、17月の新規融資は10兆3800億元。前年同期の12兆8700億元を下回った。7月末時点の融資残高は前年比5.1%増。伸び率は6月の5.2%増から鈍化し過去最低となった。市場予想の5.3%増も下回った。家計が、債務圧縮(デレバレッジ)を続け、民間部門の借り入れ需要が低迷する中で、融資回復の兆しは乏しい。7月の住宅ローンを含む家計向け融資はロイターの算出で4603億元の純減、企業向け融資は1300億元の純減。6月はそれぞれ2646億元増、1兆5000億元増だった」

     

    7月の新規貸出は、3400億元の純減(過去最大)である。家計向けは、4603億元の純減で住宅ローンが落込んだ。企業向けは、1300億元の純減で投資が止まったことを意味する。こうして、7月の融資残高伸び率が、前年比5.1%増(過去最低)となった。

     

    (3)「人民銀は12日、適度に緩和的な金融姿勢を維持し、必要に応じて実効性のある追加措置を導入する方針を示した。ただ具体論には踏み込まず、政策金利や銀行預金準備率の引き下げを明示しなかった。キャピタル・エコノミクスは、「人民銀は最近の信用データの弱さについて特に懸念していないようだ」としたが、今後1年で約30ベーシスポイント(bp)の利下げが実施されるとの見方を維持した」

     

    金利を下げたら、人民元は売られる。金利を下げても貸出が増える訳でもない。既に、「流動性の罠」にはまっているからだ。

     

    (4)「中銀系の金融時報は、国内の信用システムが多様化しているとし、銀行融資だけでなく債券発行やその他の資金調達チャネルと併せて融資動向を投資家は評価すべきと論じた。中銀によると、2025年の社会融資総量の増加分に占める割合は、融資が45%、債券と株式による資金調達が合わせて47%と、初めて融資を上回った」

     

    これは、「信用システムの多様化」ではない。銀行が融資を渋っている結果、債券発行や株式発行に頼らざるを得なかっただけである。中国経済の現状が、資金調達多様化をさせるほど、まだ発展していないからだ。資金調達コストの一番安いのは銀行借入である。そこが貸出を渋っているのだ。要するに、銀行借入は最も安いが、銀行は貸さない。だから、企業は高コストの債券・株式へ依存せざるを得ないのだ。その結果、比率が逆転しただけである。これは、資金調達の「多様化」ではなく。「信用収縮の表れ」である。現実を見誤ってはならない。

     

    (5)「人民銀のデータによると、7月の広義マネーサプライ(M2)残高は前年同月比7.7%増と、アナリスト予想(7.9%増)を下回り、6月(8%増)から伸びが鈍化した。信用と流動性を示す広範な指標である社会融資総量残高は、前年比7.4%増で6月から変わらずだった。政府債の発行が加速すれば、こうした資金調達額が押し上げられる可能性がある」

     

    7月のM2増加率が、ついに8%割れの7.7%になった。中国経済の現状では、5~6%がM2の適正増加率とされてきた。この過剰供給分が、資金の海外流出原因とみられている。M2増加率鈍化は、7月の手形市場の閉鎖による当局の意図した結果とも言えよう。人民元相場維持という「最終防衛ライン」を守る準備である。第二次世界大戦の「ダンケルク」の戦いである。

     

     

     

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    中国の元首相朱鎔基氏が、8月12日に亡くなった。中国が、台頭する重要な時期に最も大きな影響力を振るった経済政策の立案者である。朱氏は、大規模な改革開放政策を実施したが、地方財政の土地依存、輸出依存、内需の弱さなど、現在抱える諸問題の発端をつくった人物としても記憶される。しかし、朱鎔基政策は、市場化を進める方向で改革した。問題は、朱氏の後継に当たる習近平氏が「改革続行」でなく、「改革阻止」した責任は重大である。

     

    習近平氏の政策は、朱鎔基氏とは「逆方向」であった。民間企業の締め付け、国有企業の強化、不動産規制の急ブレーキなどだ。これは、改革が既得権益と党支配を揺るがすことを理解していたからだ。党支配力を強める方向で、経済政策の舵取りを行ったのである。習近平氏は、改革ではなく統制を、市場ではなく党支配を、分配ではなく締め付けを選んだ。つまり、朱氏は改革方向を追及したが、習近平氏は改革そのものを拒否するという、「改革阻止」に動いた。こういう意味で、習近平氏こそ批判されるべき立場にある。朱鎔基改革は「構造的欠陥」を残したが、習近平氏はそれを「悪化」させたのである。

     

    『ロイター』(8月13日付)は、「中国悩ます朱鎔基改革の光と影、習指導部に迫る『棺おけ』の覚悟」と題するコラムを掲載した。。

     

    朱氏は中央政府の税収基盤を強化し、後に世界貿易機関(WTO)加盟を実現させた。この二つの功績は数十年にわたる経済成長を促した半面、不動産の売却と輸出に過度に依存する経済モデルを生んだ。20兆ドル規模の中国経済がこうした構造的欠陥を克服するには、朱氏に劣らぬ大胆さが求められる。

     

    (1)「朱氏は1991年に副首相に就任し、その後、中国人民銀行(中央銀行)総裁も兼務。危機的な局面にあった中国経済の事実上のかじ取り役となった。インフレ率は20%近くまで上昇し、中国は1989年の天安門事件がもたらした外交的打撃と、それに伴う経済的余波になお苦しんでいた。市場重視の改革は共産党内の保守派から激しい抵抗に遭い、当時の最高指導者トウ小平氏は政治的な行き詰まりを打開するため、92年に南巡講話に踏み切らざるを得なかった」

     

    朱鎔基氏が始めた市場重視の改革は、共産党内の保守派から激しい抵抗に遭った。これを救ったのが、トウ小平による「南巡講話」である。こういう苦闘を経てきた中国経済が、習氏によって簡単に「市場軽視」政策へ切替えられた。民営企業への抑圧である。

     

    (2)「機能不全に陥った中国経済に処方箋を示した医師がトウ氏だとすれば、執刀医は朱氏だった。その大胆な手術の影響は今も残る。朱氏が94年に実施した財政改革は中央政府の財政を立て直し、その力を強めた。一方、税収を中央に集中させながら、歳出の多くを省や市に負担させたため、地方当局は土地売却や簿外融資を収入源として頼るようになった。このため、習近平国家主席が2021年に不動産開発業者の債務削減を進めると、既に不安定だった地方財政は窮地に陥った」

     

    朱氏が94年に実施した財政改革で、地方当局は土地売却や簿外融資を収入源として頼るようになった。いわゆる「土地本位制」を構築するきっかけである。これが、不動産バブルを引き起すテコになったが、習氏はこれを利用して軍事費拡大を行った。

     

    (3)「朱氏が、国際舞台で成し遂げた最大の功績は、01年に中国のWTO加盟を実現し、その後数十年にわたる輸出主導の成長に道を開いたことだ。しかし、その代償として中国経済は海外市場と外国からの投資に大きく依存するようになり、25年の貿易黒字は過去最大の1兆2000億ドルに膨らんだ。内需が低迷する中、この成長モデルの弊害は一段と鮮明になっている。政府が「内巻」と呼ばれる消耗的な過当競争の抑制に乗り出しているにもかかわらず、企業は必死に値下げを続けている。一方、中国国内で行き場を失い海外に向かう製品に対し、貿易相手国の反発も強まっている」

     

    中国は、WTO加盟で一挙に工業国家へ仲間入りした。だが、WTO規定にないダンピングを使って、相手国市場を攪乱する手法を多用した。これが、中国製品を締め出す「デカップリング」を正統化させるきっかけになった。先進国と中国の「付加価値構造」を比較すると、中国は、「低賃金・低付加価値」であり、先進国の「高賃金・高付加価値」と全く相容れないことが判明した。

     

    このまま、中国製品の輸入を認めることは、先進国の「文明崩壊」招きかねず、デカップリングは正しい政策として位置づけられる。その意味で、米国は最初から中国工業製品を締め出してきた。正解であった。欧州が今、その分岐点に立たされている。日本は、中国製品を寄せ付けない深層構造になっている。

     

    (4)「中国政府が今日直面する問題は、多くの点で朱氏の経済改革が残した課題だ。当局は、不動産不況に歯止めをかけ、債務を抱えた地方政府の新たな財源を確保し、消費主導型の成長への転換を目指している。しかしこれらの目標を達成するには、朱氏が得意とした専門官僚的な政策対応だけでは不十分だ。富裕層と貧困層、中央政府と地方政府、国有部門と民間部門の間で資源と権限を再配分するという、政治的に困難な改革が必要になる」

     

    朱鎔基氏の残した課題について、習近平氏は見向きもせずに国有企業復活を推進した。朱氏の政策に反することを行った。その財源調達で、土地依存を一段と深めた。朱氏に従って民営化を推進すれば、現在のような経済不振を招くことはなかった。

     

    (5)「こうした改革は、既得権益層を動揺させかねない。朱氏はそのことをよく理解しており、かつて敵のために99個、自分のために1個の棺おけを用意したと語ったことで知られる。後継者たちが現在の難題に立ち向かうには、朱氏と同様の決意が求められる」

     

    習氏は、粛清という強圧手法で立ち向かってきた。「自分用」の棺おけなど、全く存在せず責任をすべて他人へ押し付けてきた。これ一つ取っても、朱鎔基氏と習近平氏は別次元の人間である。

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