現在、75歳以上の高齢者の過半は、医療費の保険料や窓口負担が1割り負担となっている。これが、現役世代の保険料負担を大きくしているという理由から見直しが進んでいる。
政府は株式の配当など金融所得を高齢者の医療費の保険料や窓口負担に反映する方針を固めた。損益通算のための確定申告をしなければ、保険料負担などが軽くなる不公正を是正する。2020年代後半(28年度)の開始を目指す。金融資産を多く持つ高齢者の医療給付費を抑え、現役世代の負担軽減につなげる目的だ。
『日本経済新聞 電子版』(11月18日付)は、「高齢者の配当・利子、2020年代後半に保険料反映へ 現役世代の負担軽く」と題する記事を掲載した。
政府が月内にまとめる経済対策に「具体的な法制上の措置を2025年度中に講じる」と明記する。26年の通常国会に関連法の改正案を提出する方針だ。
(1)「自民党と日本維新の会が10月に結んだ連立合意書で、25年度中に制度設計を実現すると明記していた。まずは、75歳以上が入る後期高齢者医療制度への反映を目指す見通しだ。働き方の違いによる加入保険の差がない75歳以上から始めた方が、不公平感を生まないとの見方がある。医療やマイナンバーなどに絡む複数の法改正が必要となる。自営業者らが入る国民健康保険や介護保険への反映も検討する。会社員らが入る健康保険は対象外とする。確定申告と関係なく給与をもとに保険料が決まり、労使折半で負担するため反映のハードルが高いからだ。現役世代の資産形成を促す少額投資非課税制度(NISA)の口座も算定対象から外す」
現行の窓口負担は、70~74歳は2割、75歳以上の後期高齢者は1割が原則だ。ただ、70歳以上でも「現役並み所得」があれば3割負担となる。75歳以上では、課税所得が145万円以上で、年収が単身世帯で383万円以上、複数人世帯で520万円以上を基準としている。こういう大雑把な基準が廃止されて、配当・利子が所得へ加えられる。
(2)「後期高齢者医療制度や介護の保険料は、給与や年金といった所得に応じて決まる。上場株式の配当や社債の利子といった金融所得は、損益通算のために確定申告をすればいまも翌年度の社会保険料に反映されている。ただ医療保険を運営する自治体などが、未申告の金融所得を把握するルートはない。保険料や窓口負担が軽くなるケースがあり、不公平さが指摘されていた。厚労省は対象となる金融所得のうち、金額ベースで約9割が算定から外れているとみる」
厚労省は、対象となる金融所得のうち、金額ベースで約9割が算定から外れているとみる。この未申告の9割が、今後は保険料算定基準に加えられる。保険料の窓口負担1割の人たちがかなり減るであろう。
(3)「申告の有無によるひずみは金融所得を多く持つ高齢者の方が大きいとみられる。総務省の全国家計構造調査(2人以上の世帯)によると、60代以上の金融資産は2019年で平均1800〜2000万円台に上る。30代では資産が500万円台まで下がる。データ把握には証券会社などが国税庁に提出する税務調書を使う。市町村などが把握できるよう専用の「法定調書データベース(仮称)」をつくる方向だ。厚労省所管で医療費請求書の審査を手掛ける社会保険診療報酬支払基金(東京・港)に置く案がある。金融と保険データの照合を自治体が担うのは荷が重く、負担軽減にも配慮する」
毎年、証券会社などが国税庁に提出する税務調書が渡されている。市町村は、このデータを使えば自動的に金融所得が把握される。
(4)「財務省の試算によると、75歳以上で配当収入が同じ年500万円でも申告をしなければ医療保険料は年1万5000円ほどで済む。確定申告をすると、およそ35倍の約52万円に跳ね上がる。医療費の窓口負担も原則の1割から3割に上昇する。75歳以上が入る後期高齢者医療制度の給付費は、総額の4割を現役世代らの保険料を原資とする「仕送り」が支える。所得のある高齢者が能力に見合った負担をすれば、結果的に現役世代からの支援は抑えられる」
75歳以上が入る後期高齢者医療制度の給付費は、総額の4割が現役世代らの保険料で賄われる。金融所得が健康保険料に加算されると、現役世代の負担が減ることは確かだ。内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査」によると、65歳以上の高齢者世帯のうち、約27.3%が「配当・利子収入あり」である。そのうち、年間配当収入が50万円以上の世帯は約8.6%を占めている。
この前提で荒っぽい計算だが、100万高齢者世帯あたり「追加財源約9億円」規模の効果が見込める。制度の設計次第では、現役世代の負担比率が数%単位で軽減される可能性があるという。これは、大きな改善効果かも知れない。「負担公平」という時代の波が、高齢者へ押し寄せてきた。





