中国経済の内需不振は深刻である。企業は「残業規制」の美名の下で休暇を増やして週「2.5日」にすると検討を始めた。名目は、生活に潤いを与えるとしているが、実態は「ワークシェアリング」だ。公務員へは、「ぜいたく禁止強化令」が出ている。官僚機構にまん延していると見なす快楽主義を抑え込むとしているが、経費節減が目的である。不動産バブル崩壊で地方政府の財政は赤字へ転落。経費節減の目的で、さらなる「ぜいたく禁止令」が出されている。
『日本経済新聞』(6月11日付)は、「中国で広がる残業削減 一部地方政府、週休2.5日検討 長引く消費低迷、脱却狙う」
中国で政府が主導し、消費拡大へ長時間労働を是正する取り組みが広がる。一部の地方政府は週休2.5日の検討を始め、美的集団など大手企業も残業の削減を進める。レジャーや買い物の機会を増やして長引く消費低迷からの脱却につなげたい考えだが、どこまで浸透するかは不透明だ。
(1)「四川省綿陽市は地元企業などに、土日だけでなく金曜午後も休みにするよう促す政策を検討している。綿陽は人口約490万人で、域内総生産(GDP)は同省第2の都市にあたる。市の担当者は「商務局などの関係部署で調整中」としており、決まれば同市に本社を置く家電大手の四川長虹電器などが対応を迫られる可能性がある」
休暇の増加は、苦肉の策である。生産性が上がった結果ではない。
(2)「中国は、3月に開いた国会にあたる全国人民代表大会(全人代)で、「内需の活性化」を最重要政策課題に掲げた。中国共産党・政府は消費振興の行動計画を策定し「労働者の休む権利を保護し、勤務時間を違法に延ばしてはならない」と盛り込んだ。中国国家統計局によると都市部の平均労働時間は増加傾向で、2023年は週48.3時間と16年より5%延びた。年代別に見ると30~34歳が12%増と、消費意欲が大きいはずの働き盛り世代ほど労働時間が増えた。この傾向に歯止めをかける狙いがある」
労働時間の延長は、業績好転の結果ではない。不況ゆえの「長時間労働」で禁止対象になる。
(3)「国際的に競争が激しいテック企業も対応を余儀なくされている。ドローン大手のDJIは、今春から午後9時までに残業を切り上げる制度を導入した。広東省深圳市の本社では同時刻になると社員が一斉に出て来て地下鉄駅へ向かう。会社を出てからノートパソコンを開き同僚と議論を続ける社員もいる。ある男性社員は「経費削減の狙いもあると思う」と語っていた」
残業時間の短縮は、業務の減少を反映している。経費節減狙いである。
(4)「過去にも長時間労働が問題となったことはある。10年代後半からネット企業のエンジニアなどの働き方にちなみ、午前9時から午後9時まで週6日働く「996」という造語が流行した。いまの状況は異なる。景気減速による若者の就職難は深刻だ。懸命に仕事する姿勢を上司にアピールするため、長時間労働を余儀なくされる人も多い。週休2.5日の政策も、過去に別の地方政府が導入して立ち消えた例がある。働き手の消耗を防ぐため、内向きの過当競争を意味する「内巻」の解消は急務になっている」
かつての長時間労働「996」は、好況を反映していた。現在の長時間労働は、国内の無駄な値下げ競争の結果だ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月11日付)は、「習氏が公務員のぜいたく禁止を強化『倹約は栄光』」と題する記事を掲載した。
習氏による倹約強化の取り組みは、中国の経済的苦境が全国に波及していることを示している。成長の鈍化、不動産市場の落ち込み、雇用市場の低迷により、多くの人々がより少ない資源でより多くのことをしなければならない状況に追い込まれている。
(5)「多くの地方政府は、長年にわたり多額の債務に苦しんできた。こうした困難は国民の不安をあおり、世界第2位の経済大国のかじ取りを担う習氏への不満を高めている。アジア社会政策研究所(ASPI)の中国政治担当フェロー、ニール・トーマス氏は、「倹約規定の改定は中国政府の財政的課題を解決しない」と述べた。その上で、「官僚機構に対する習氏の政治的支配を強化し、特に多くの一般市民が経済的な痛みを感じている時期に、汚職と浪費に立ち向かう指導者としての同氏のイメージを磨き上げることになる」との見方を示した」
習氏は、不況の深化による人心離反を恐れて、公務員の粛清に力を入れている。
(6)「習氏は、ここ数年で、政府の倹約政策の一環として当局者らに「質素な生活に慣れる」よう促してきた。一般市民に影響を及ぼす下級官僚によるぜいたく、贈収賄、その他の不正行為を標的とした軽度の汚職取り締まりを強化している。取り締まりにより、規律違反事例は記録的な水準に達している。党の汚職監視機関である中央規律検査委員会(CCDI)のデータによると、党は24年に「八項規定」に違反したとして約31万3000人を処分した。この規定は、習氏が12年に政権を握った直後に制定した、軽率な浪費を禁じる指令だ。24年の処分件数は前年の2倍以上、一年を通して習氏の指導体制が確立された最初の年である13年の10倍に当たる」
浪費が、犯罪になる国である。「浪費」は、内需活性化に一役買うものの、今はそんな悠長なことを言っている余裕がないのだ。経済が、「浮くか沈むか」という瀨戸際では、緊縮しか方法がなくなっている。