勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > アジア経済ニュース時評

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    中国経済の内需不振は深刻である。企業は「残業規制」の美名の下で休暇を増やして週「2.5日」にすると検討を始めた。名目は、生活に潤いを与えるとしているが、実態は「ワークシェアリング」だ。公務員へは、「ぜいたく禁止強化令」が出ている。官僚機構にまん延していると見なす快楽主義を抑え込むとしているが、経費節減が目的である。不動産バブル崩壊で地方政府の財政は赤字へ転落。経費節減の目的で、さらなる「ぜいたく禁止令」が出されている。

     

    『日本経済新聞』(6月11日付)は、「中国で広がる残業削減 一部地方政府、週休2.5日検討 長引く消費低迷、脱却狙う」

     

    中国で政府が主導し、消費拡大へ長時間労働を是正する取り組みが広がる。一部の地方政府は週休2.5日の検討を始め、美的集団など大手企業も残業の削減を進める。レジャーや買い物の機会を増やして長引く消費低迷からの脱却につなげたい考えだが、どこまで浸透するかは不透明だ。

     

    (1)「四川省綿陽市は地元企業などに、土日だけでなく金曜午後も休みにするよう促す政策を検討している。綿陽は人口約490万人で、域内総生産(GDP)は同省第2の都市にあたる。市の担当者は「商務局などの関係部署で調整中」としており、決まれば同市に本社を置く家電大手の四川長虹電器などが対応を迫られる可能性がある」

     

    休暇の増加は、苦肉の策である。生産性が上がった結果ではない。

     

    (2)「中国は、3月に開いた国会にあたる全国人民代表大会(全人代)で、「内需の活性化」を最重要政策課題に掲げた。中国共産党・政府は消費振興の行動計画を策定し「労働者の休む権利を保護し、勤務時間を違法に延ばしてはならない」と盛り込んだ。中国国家統計局によると都市部の平均労働時間は増加傾向で、2023年は週48.3時間と16年より5%延びた。年代別に見ると30~34歳が12%増と、消費意欲が大きいはずの働き盛り世代ほど労働時間が増えた。この傾向に歯止めをかける狙いがある」

     

    労働時間の延長は、業績好転の結果ではない。不況ゆえの「長時間労働」で禁止対象になる。

     

    (3)「国際的に競争が激しいテック企業も対応を余儀なくされている。ドローン大手のDJIは、今春から午後9時までに残業を切り上げる制度を導入した。広東省深圳市の本社では同時刻になると社員が一斉に出て来て地下鉄駅へ向かう。会社を出てからノートパソコンを開き同僚と議論を続ける社員もいる。ある男性社員は「経費削減の狙いもあると思う」と語っていた」

     

    残業時間の短縮は、業務の減少を反映している。経費節減狙いである。

     

    (4)「過去にも長時間労働が問題となったことはある。10年代後半からネット企業のエンジニアなどの働き方にちなみ、午前9時から午後9時まで週6日働く「996」という造語が流行した。いまの状況は異なる。景気減速による若者の就職難は深刻だ。懸命に仕事する姿勢を上司にアピールするため、長時間労働を余儀なくされる人も多い。週休2.5日の政策も、過去に別の地方政府が導入して立ち消えた例がある。働き手の消耗を防ぐため、内向きの過当競争を意味する「内巻」の解消は急務になっている」

     

    かつての長時間労働「996」は、好況を反映していた。現在の長時間労働は、国内の無駄な値下げ競争の結果だ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月11日付)は、「習氏が公務員のぜいたく禁止を強化『倹約は栄光』」と題する記事を掲載した。

     

    習氏による倹約強化の取り組みは、中国の経済的苦境が全国に波及していることを示している。成長の鈍化、不動産市場の落ち込み、雇用市場の低迷により、多くの人々がより少ない資源でより多くのことをしなければならない状況に追い込まれている。

     

    (5)「多くの地方政府は、長年にわたり多額の債務に苦しんできた。こうした困難は国民の不安をあおり、世界第2位の経済大国のかじ取りを担う習氏への不満を高めている。アジア社会政策研究所(ASPI)の中国政治担当フェロー、ニール・トーマス氏は、「倹約規定の改定は中国政府の財政的課題を解決しない」と述べた。その上で、「官僚機構に対する習氏の政治的支配を強化し、特に多くの一般市民が経済的な痛みを感じている時期に、汚職と浪費に立ち向かう指導者としての同氏のイメージを磨き上げることになる」との見方を示した」

     

    習氏は、不況の深化による人心離反を恐れて、公務員の粛清に力を入れている。

     

    (6)「習氏は、ここ数年で、政府の倹約政策の一環として当局者らに「質素な生活に慣れる」よう促してきた。一般市民に影響を及ぼす下級官僚によるぜいたく、贈収賄、その他の不正行為を標的とした軽度の汚職取り締まりを強化している。取り締まりにより、規律違反事例は記録的な水準に達している。党の汚職監視機関である中央規律検査委員会(CCDI)のデータによると、党は24年に「八項規定」に違反したとして約31万3000人を処分した。この規定は、習氏が12年に政権を握った直後に制定した、軽率な浪費を禁じる指令だ。24年の処分件数は前年の2倍以上、一年を通して習氏の指導体制が確立された最初の年である13年の10倍に当たる」

     

    浪費が、犯罪になる国である。「浪費」は、内需活性化に一役買うものの、今はそんな悠長なことを言っている余裕がないのだ。経済が、「浮くか沈むか」という瀨戸際では、緊縮しか方法がなくなっている。

     

     

     

     

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    韓国新大統領李在明氏は、韓国をAI(人工知能)で世界3大強国にすると公約した。高い志を立てることに異議を唱えるわけでないが、実現の可能性は極めて低い。

     

    資金100兆ウオン(約10兆円)、人材、電力の三つの壁が立ちはだかっている。韓国は、優秀な高校生は、ほとんどが医学部志望である。IT企業のサムスンやSKハイニックスが大学へ半導体学科を「寄付」して授業料無料の特典を付けても、学生が医学部へ流れている世界だ。こういう社会で、人材確保は至難のわざ。電力確保も困難である。李政権は脱原発を掲げている。「電力多消費」のAIセンターが実現できる条件はゼロに近いのだ。

     

    『中央日報』(6月10日付)は、「李在明政権の『AI3大強国』目標、電力対策がなければ夢にすぎない」と題する記事を掲載した。

     

    紆余曲折の末、3日に李在明(イ・ジェミョン)政権が発足した。米中技術覇権戦争の間で成長の限界にぶつかった大韓民国はもう一度飛躍できるのだろうか。隣国の日本のメディアが初めて指摘したという「ピークコリア」懸念が一時的な杞憂で終わるのだろうか。

     

    (1)「新政権の科学技術政策の傍点は、人工知能(AI)に打たれた。AI技術の発展が「特異点」に向かっている中、国家生存のためにも当然の選択だ。李在明大統領は大統領選挙期間中、「世界を先導する経済強国をつくる」というスローガンの下、「AI3大強国」を1号公約に掲げた。このように政府発足後に最初に発表された大統領室組織に「AI未来企画首席」が新たに登場した」

     

    韓国が、「AI立国」で燃えている。大統領直轄の事業にしようとしている。

     

    (2)「大統領室がAIを筆頭にした科学技術政策のコントロールタワーになる。李在明政権のAI公約には次のようなものがある。

    1)AI投資100兆ウォン(約10兆円)時代開幕

    2)国家SOC(注:24時間365日体制でネットワークやデバイスを監視し、サイバー攻撃の検出や分析)対応策のAIデータセンター構築

    3)韓国固有の「ソブリンAI」開発

    4)AI単科大学設立などの投資・インフラ構築

    5)AI兵役特例の推進

     

    AI単科大学を設立するという。就職保障の半導体学科ですら入学定員を埋めるのに3次試験・4次試験まで行うほど苦労しているのだ。「AI大学」へ入学するよりも、医学志望が圧倒的であるだけに、前途多難である。

     

     

    (3)「学界と産業界は、AI公約が実現する場合「過去最大の投資と発展」が実現すると期待している。カギは、やはり実践力だ。尹錫悦前大統領も当初、大統領選挙公約で「世界最大AIクラウドコンピューティングインフラ造成」を話していた。「光州(クァンジュ)AIデータセンター」などの施設が設置された。しかし、グローバルAI発展速度に追いつかず「世界最大」目標が色あせたうえ、資源さえもまともに運用できず活用率も落ちるという叱責を受けた」

     

    尹錫悦前大統領も、大統領選挙公約で「世界最大AIクラウドコンピューティングインフラ造成」をぶち上げたが失敗した。今回も、厳しい状況だ。100兆ウォンの資金調達が挙げられる。全額を国庫負担で済ますことは不可能だ。サムスンやSKハイニックスに出資させるのか。

     

    (4)「李在明政権のAI政策自体に対する懸念の声も聞こえる。AIに対する全幅的な投資には同意するが、米国や中国と比べて人材と予算が大きく不足する韓国でOpenAIのように大規模言語モデル(LLM)をつくる方式でAI強国に追いつくのは非現実的という批判だ。代わりに政府は産業・製造のための応用AI育成に注力するのがよいという話だ」

     

    現実的には、産業・製造のための応用AI育成に力を入れるのがベターだろう。

     

    (5)「AI3大強国とともに考慮するべき点はエネルギーだ。AIモデル開発とデータセンターなどサービス運営には莫大な電気エネルギーが必要となる。李在明政府は全南(チョンナム)海岸地域に風力と太陽光発電団地を大規模に設置し、ここにデータセンターを設置するという計画を提示した。気候危機の中、風力・太陽光のような再生可能エネルギーを拡大すれば、電気料金が現在よりさらに高くなるしかないのが問題だ。再生可能エネルギーを安定的に供給するにはエネルギー貯蔵システム(ESS)と系統連結、非常時のためのLNG発電など二重・三重の施設が必要となる。脱原発の末に「欧州の病人」に転落したドイツが反面教師だ」

     

    李政権は、脱原発を目指している。自然エネルギーだけでAIセンターの電力を賄えるはずがない。

     

    (6)「韓国の産業用電気料金は、2023年から米国より高くなった。再生可能エネルギーの比率を大幅に増やす場合、AI3大強国公約の実現が難しくなることも考慮する必要がある。いま始まった李在明政権の5年は、歴史の本にどう記録されるだろうか」

     

    韓国の産業用電気料金は、かつて最も安かった。現在は、米国よりも高くなっている。文政権時代の、「脱原発」の混乱が尾を引いている。李政権で、さらに電力コストは上がる。AIセンターなどの大量電力消費を賄えるはずがない。「絵に描いた餅」で終る懸念が大きい。

     

     

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    日本の国策半導体企業ラピダスは、7月に最先端「2ナノ」半導体試作品を発表する。その直前の時期に、ホンダがラピダスへ出資を決めたことは極めて示唆に富むニュースだ。ラピダスは、技術情報開示について厳しく管理している。ホンダは、そういう中で開発実態を確認して出資を決めたのであろう。

     

    昨秋、ラピダス出資企業の一つであるソフトバンク宮川社長は、ラピダスへ極めて「投げやり的発言」をしていた。それが、今年に入ってがらりと「前向き評価」へ変わった。ラピダスから開発実態を知らされたからであろう。外部でも、断片的な情報を丹念に積み上げれば、ラピダスが確実に開発精度を挙げていることは分るものだ。要は、情報への「詮索力」の強弱でラピダスへの認識で差がつくのであろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月10日付)は、「ホンダ、ラピダスに出資へ トヨタに続き国策半導体を支援」と題する記事を掲載した。

     

    ホンダは、最先端半導体の国産化を目指すラピダスに出資する。自動運転車など、次世代車の頭脳となる半導体の調達を検討する。トヨタ自動車もラピダスに出資しており、二大自動車メーカーが国産半導体の確保に道筋をつける。ラピダスの最先端半導体の量産や顧客開拓に弾みがつく。

     

    (1)「ホンダは、2025年度後半の出資を想定している。詳細は今後詰めるが、出資額は数十億円規模になるとみられる。ホンダは半導体を次世代車技術の中核に位置付けており、ラピダスへの出資で製品の安定調達につなげる。ホンダは23年に世界最大の受託生産会社、台湾積体電路製造(TSMC)と車載半導体の調達で協業した。TSMCは最先端の2ナノ(ナノは10億分の1)メートル半導体を25年後半から量産する。ホンダはTSMCとの協業に加えてラピダスに出資することで、中国と台湾の関係緊張などの地政学リスクにも備える」

     

    ホンダは、ラピダスがTSMCと変わらない開発力を積んでいることを確認したのであろう。仮に、ラピダスがTSMCと比べて相当な差があれば、あえてラピダスへ出資するはずもない。ラピダスが、TSMCの地政学的リスクを完全にカバーできると踏んだのであろう。

     

    (2)「ラピダスは、資本増強に向けてトヨタなどの既存株主や銀行団に出資を求めている。ホンダは新たに株主に加わり、国策半導体の生産計画を支援することになる。ラピダスは22年8月に設立され、トヨタのほかNTTやソフトバンク、ソニーグループデンソー、NEC、キオクシア、三菱UFJ銀行の8社が計73億円を出資している。8社はラピダスへ追加出資することも決めている」

     

    これまでのメディア情報では、ラピダスの新規株主になり手がいないとニュアンスで報じてきた。そういう中で、政府系金融機関の日本政策投資銀行が株主として名乗り出た。これは、管轄の財務省がラピダスへ首を縦に振ったという意味だ。財務省はそれまで、ラピダス消極論の立場であった。それを、一掃する狙いがあったのであろう。

     

    (3)「加えて、富士通北洋銀行のほか、三井住友銀行、みずほ銀行、日本政策投資銀行も出資の意向を示している。ラピダスは各社と協議して計1000億円の調達を目指している。1社当たりの出資額は数十億〜200億円前後になる見通しだ。ラピダスは、27年の量産開始までに5兆円の資金が必要と試算している。経済産業省が約1兆7200億円を支援するが、なお3兆円超の資金が必要だ。政府の支援頼みという批判もあるなか、ラピダスは民間資金の調達にめどをつけることで政府から長期的な支援を受けやすくする狙いもある」

     

    北海道の北洋銀行までが、出資することになった。北洋の前身は昔の相互銀行である。倒産した拓銀(北海道拓殖銀行)を引き受けただけに、地元経済振興への強い責任感に基づいて出資したのであろう。

     

    (4)「もっともラピダスは、技術的な課題や顧客開拓の不安を解消し切れておらず、出資にはリスクも伴う。ラピダスはこのほど複数の大手商社にも出資を依頼したが、商社側は出資に慎重な姿勢を示したもようだ。ラピダスは4月から北海道で2ナノ半導体の試作を開始し、順調にいけば7月にも試作品ができるとしている。

     

    メディアは、必ず「技術的な課題や顧客開拓の不安を解消し切れておらず」という常套句を使って、「ラピダス不安」を煽っている。「2ナノ」という最先端部門だけに、いろいろと不安要素はあるが、客観的なこれまでの開発推移とIBMや日本政府という強力なバックがついている意味を理解していないようだ。それほど、ラピダスの先行きに不安を持つのならば、さらに深い取材によって疑問点を究明すべきだ。さらなる取材努力をしないで、ただ不安を煽るのは正しい報道と言えないだろう。一種の責任回避である。

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    中国は、補助金政策の弊害によって過剰設備を生んでいる。これによる値引き競争が、際限なくつづくドロ沼状態に陥ってきた。こうした中で、中国の新車市場で過度な価格競争を見直す動きが出ている。大手の比亜迪(BYD)が、5月下旬に始めた値引きに対し、政府や業界団体が批判を強めているためだ。自動車製造業の収益が悪化するなか、過当競争を避ける思惑も秘められている。「共倒れ防止」というギリギリの限界にきている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月9日付)は、「中国・吉利、『車工場新設せず』 生産能力余剰の他社と協業拡大へ」と題する記事を掲載した。

     

    中国民営自動車大手、浙江吉利控股集団の李書福董事長は7日、重慶市で開かれた自動車の国際会議で「新たな自動車工場を建設しない」と述べた。世界的に余剰となっている生産能力を活用するなどして他の完成車メーカーとの協業に前向きな姿勢を示した。

     

    (1)「李氏は、動画でのスピーチの中で「現在の世界の自動車産業は深刻な過剰生産能力問題に直面している」と指摘した。2月には仏ルノーのブラジル工場で吉利の車両をつくることで合意したと発表した。「自動車産業は終わりなきマラソンのようなもので、短距離走とは本質的に異なる」とも述べ、専門人材の育成に力を入れるなど持久力を高める努力をしていると強調した。吉利は2027年までにグループ販売台数を24年実績比5割増の500万台に増やす目標を掲げている。米コンサルティング会社のアリックス・パートナーズによると、中国では24年時点で146の自動車ブランドがひしめく。過当競争による価格競争が激しさを増しているほか、生産能力の過剰問題も指摘されている」

     

    これまで2027年までにグループ販売台数を24年実績比5割増の500万台に増やす目標を掲げてきた。だが、業界は深刻な過剰生産問題に直面している。吉利は、こうした事情によって「新たな自動車工場を建設しない」と発言せざるを得ない状況になった。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月9日付)は、「中国車市場、値引き競争に官が『待った』 けん引役のBYDに反発」と題する記事を掲載した。

     

    中国の新車市場で過度な価格競争を見直す動きが出てきた。大手の比亜迪(BYD)が5月下旬に始めた値引きに対し、政府機関や業界団体が批判を強めているためだ。自動車製造業の収益が悪化するなか、過当競争を避ける思惑がある。ただ採算が向上するメドはたたず、厳しい経営環境が続く。

     

    (2)「中国内陸部の重慶市で開かれた自動車の国際会議。政府系経済団体、中国国際貿易促進委員会で自動車分野トップを務める王俠会長は6日、「際限のない価格競争などは企業の合理的な利潤を圧迫し、製品やサービスの質に悪影響を与え、長期的には企業と消費者に不利益をもたらす」と強調した。自動車メーカーからも価格競争に反対する声が相次いだ。国有大手、重慶長安汽車の朱華栄董事長は、「際限なく、道徳もない、法律も守らない悪性の競争に反対する」と表明。中堅の賽力斯集団(セレス・グループ)の張興海董事長も「サプライチェーン(供給網)の協力に悪影響を与え、産業の強靱(きょうじん)性を弱める」と述べた」

     

    自動車業界全体が、過剰生産と値引き競争で疲弊しきっている。背景には、政府補助金がドロ沼競争を強いてきたのだ。地方政府の支援がなければ、無駄な競争がここまで続かなかったであろう。計画経済の無駄が現れている。

     

    (3)「各社が念頭に置くのは、BYDが先導する形で始まった価格競争だ。同社は「夏だけの一律価格」と打ち出し、5月23日から期間限定の値引きを始めた。主力ブランド「海洋」「王朝」で計22モデルを対象とする。海洋の小型EV(電気自動車)「海鷗」は最安モデルの価格を5万5800元(約110万円)と従来より2割引き下げた。競合も反応し、浙江吉利控股集団傘下でEVなど新エネルギー車のブランド「吉利銀河(ギャラクシー)」や新興EVの浙江零跑科技(リープモーター・テクノロジー)、国有大手の上海汽車集団の高級EVブランド「智己汽車」などが値引きに踏み切った」

     

    BYDが、徹底的な価格競争を巻き起こした。経営に余裕をもった競争でなく、ライバルを追い落とす狙いだ。BYDも、手厚い政府補助金が支給されている。純粋な競争ではなかった。

     

    (4)「BYDは24年2月にもモデル刷新に伴う形で複数車種を値下げし、中国各社や米テスラが追随した経緯がある。新興勢の参入が多く競争が激しい中国の車市場で、シェアを奪うため値下げに乗り出すことは珍しくなかった。ただ、今回の値下げに対する反発は大きい。業界団体の中国汽車工業協会は5月30日付けで発表した声明で、「5月23日以来、ある企業が率先して価格を下げ、多くの企業も追随したことでパニックを引き起こした」と言及した。実質的にBYDを名指しで批判した形で、企業名を示唆するのは異例だ」

     

    企業は、補助金を支給されていなければ、ここまでドロ沼競争にならず、途中で撤退したであろう。補助金漬けが、無益な競争を行わせた。中国経済の無駄が、ここに現れている。

     

    (5)「背景には、内向きな過当競争で消耗戦を強いられている状態を示す「内巻」への警戒がある。中国の乗用車業界団体幹部の崔東樹氏によると、中国のEVの平均価格は25年14月に23年から15%下がり14万3000元となった。ガソリン車を含む新車全体でも7%下がった。価格下落は販売台数の拡大につながる一方で採算悪化をまねく。

    中国の自動車製造業全体の純利益額の合計は24年に23年比8%減の4622億元だった。25年1〜4月も前年同期比5.%減で、製造業全体が1.%増であるのに比べ厳しい状況だ」

     

    価格下落は、販売台数の拡大につながる一方で、企業の採算悪化をまねいてきた。こうした事態は自動車だけでなく、他産業でも起こっている。矛盾の連鎖だ。

     

     

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    米価を下げるには、増産が最大の条件になる。年々10万トンも需要が減少する中で、政策としては増産どころか「減産」が優先されてきた。これが、日本農政の現状だ。こうした減反政策のもたらした今回のコメ不足の発生で、コメ輸出を前提にする「増産」が、コメ不足の解消になるという結論になった。今後は、攻めの農政へ転換する。

     

    コメの増産=輸出には、大企業で組織する経団連が窓口にならなければ効果があがらない。農相は、経団連へ協力を求めて「コメ輸出」へ向けた基盤作りに取組む。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月9日付)は、「小泉農相、コメ輸出促進で経団連と協力 海外需要開拓で増産地ならし」と題する記事を掲載した。

     

    小泉進次郎農相は、コメの輸出促進に向けて経団連に協力を要請する。官民一体で海外の需要を開拓することで、コメを増産しやすい環境を整える。不測のコメ不足や米価の高騰を招いた内向きの農政からの脱却を急ぐ。

     

    (1)「すでに経団連の十倉雅和名誉会長らに協力を打診し、内諾を得た。近く都内で経団連の農業活性化委員会との会合を開く。小泉氏はこのほど日本経済新聞のインタビューで「日本は需要が間違いなく減るので世界のマーケットをとっていく」と述べ、輸出体制の強化を掲げた。JAグループの取り組みは不十分だと唱え「金融機関や商社などの経済界の協力をいただきたい」とも話していた」

     

    コメ輸出は、「オール日本」で取組まなければ効果が上がらない。日本企業の海外進出ルートを辿るなど、開拓方法はいくらでもあるはずだ。これまで、「コメ輸出」で大きな成果が出なかったのは、努力不足が理由であろう。

     

    (2)「足元の米価の高騰は、従来の農政のひずみをあらわにした。価格の下落を防ぐために生産調整を続けてきた結果として供給力が衰え、コメ不足に対応できなくなっている懸念がある。経団連の農業活性化委はコマツの小川啓之会長、みずほフィナンシャルグループの木原正裕社長、キリンホールディングスの磯崎功典会長の3人が委員長を務める。小川氏と木原氏は5月から経団連の副会長も担っている」

      

    経団連には、農業活性化委員会が存在する。こういう組織がありながら、JAとの協議が軌道に乗らなかったのは、コメ問題が今回のような「国民的課題」にならなかった結果であろう。コメ不足が、社会的騒ぎになることにより、国民の意識が一つにまとまりつつある。「雨降って地固まる」という方向へ進むことを願いたい。

     

    (3)「経団連は、2024年12月にまとめた提言で「農業の成長産業化を進める上で輸出の強化は必須だ」と記し、官民連携の必要性を説いた。コメ価格高騰の原因を究明し「コメ政策のあり方を従前以上に多面的に検討する」よう促してもいた」

     

    経団連は2012年以降、農業の成長産業化を掲げてきた。農水省が、コメ輸出で経団連と組むのは当然と指摘されている。経団連のシンクタンク「21世紀政策研究所」は、早くからこの「コメ輸出路線」を提唱してきた。すでに、政府も積極的な「コメ輸出」計画を立てている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月11日付)は、「コメ輸出の目標、30年に8倍 農業基本計画を改定」と題する記事を掲載した。

     

    政府は11日、中長期の農政指針となる「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定した。

     

    (4)「コメの輸出目標について2030年までに35万トンとする目標を掲げた。24年実績(4.6万トン)の8倍近くに引き上げる。輸出拡大を通じて国内のコメの生産量を増やし、農家の生産基盤の強化や生産性の向上につなげる。農産品全体の30年までの輸出額目標は5兆円を据え置いた。コメやパックご飯などの輸出額は、24年の136億円から30年に922億円に引き上げることを目指す。輸入に依存する小麦と大豆の生産量は、それぞれ109万トンから137万トン、26万トンから39万トンに増やす。食料自給率は現状の38%から45%を目指す」

     

    コメの輸出目標が、2030年までに30万トンと24年比で8倍近い大幅な増加目標を立てた。これは、日本農政がコメ増産へ転換する象徴である。歓迎すべきことだ。こうして、食料自給率が現状の38%から45%を目指すとしている。攻めの農政である。

     

    (5)「江藤拓農相は11日の閣議後記者会見で「食料システムの関係者や団体間の相互理解と連携が重要だ。15ヘクタール以上の生産基盤がないと、コメ価格も一定以上には下がらない。目標の達成へ責任感をもって農政を展開しなければいけない」と述べた。全国農業協同組合中央会(JA全中)の山野徹会長は、10日の定例記者会見で基本計画について「目標達成に向けて着実に自給率を向上することが何より重要だ。前向きに取り組んでいきたい」と述べた」

     

    コメの輸出には、生産コストの引下げが前提になる。それには、圃場面積が、一カ所15ヘクタール以上を必要とする。当然、農地の集約化が前提だ。農家の跡継ぎ問題が厳しくなっている現在、単一経営へとまとめることで労働力不足を解消できるメリットがある。JAも、こうした政府の方針に協力する姿勢である。 

     

     

     

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