勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > アジア経済ニュース時評

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    中国の習近平国家主席は1月31日、次の第15次五カ年計画(2026年~2030年)について、経済の質の向上や技術革新、自立強化を重視し、持続可能な発展を目指す方針を示した。これまでの延長線であるが、世界の投資家は完全に中国市場を見放している。経済状況が不透明で長期投資が不可能であり、短期売買の「賭博場」という最悪な環境に陥っている。習氏のメンツは丸つぶれである。

    『ロイター』(2月1日付)は、「海外勢、中国株の戦略修正 長期投資から短期売買に」と題する記事を掲載した。

    これまで中国の経済発展に賭けてきた海外投資家の間で、長期的な繁栄という壮大な展望に見切りをつけ、中国を「少額投資で手早く利益が得られる市場」と位置付ける動きが広がっている。


    (1)「中国株式市場は昨年、景気対策への期待で一時的に急伸したものの、その後は政策に対する失望感や景気の先行き不透明感を背景に横ばい圏での値動きが続いている。ゴールドマン・サックスの中国株ストラテジスト、キンガー・ラウ氏は「中国市場は基本的にトレーディング(注:短期売買)の場と見なされている。投資家は何かきっかけがあれば市場に参入し、短期間で売り抜けていく」と述べた。トランプ米大統領の対中政策と中国政府の反応が明らかになるまでは、投資家の様子見姿勢が続く見通しという」

    中国市場は、肝心の中国経済の見通しがつかないことから、長期投資の場所でなく短期投資の対象へ成り下がった。

    (2)「主要株価指数のCSI300指数は昨年9月、共産党指導部と規制当局が景気対策の導入を示唆したことを受けて、2週間で40%急騰したが、その後発表された対策は具体性やスピード感に乏しく、株価は上昇分の半分を失った。ゴールドマンによると、一時的な急騰で利益を得たヘッジファンドの大半は昨年10月までに市場から撤退。バンク・オブ・アメリカのファンドマネジャー調査では、今後1年で中国経済が好転すると予想した回答者はわずか10%で、昨年10月の61%から減少した。ファンドマネジャーの4分の1近くが中国株をアンダーウエートにしているという」

    中国政府のテコ入れで、格式市場は一時的に活況を呈するが、本格的な対策が続かないことで失望売りを誘っている。要するに、「行って来い相場」に終っている。線香花火なのだ。


    (3)「長期投資家の悩みの種は、マクロ経済の見通しがますます不透明になっていることだ。トランプ氏が対中関税を発動するとの見方は多く、政府の景気対策の詳細も依然はっきりしない。HSBCのアジア調査責任者ジョーイ・チュー氏は、国内問題と外部のリスク要因で、人民元の見通しは「非常に厳しい」と指摘。「再び資本流出が起きており、財政刺激策導入の兆しが明確になれば支援材料になる」と述べた。BCAリサーチの新興市場・中国担当チーフストラテジスト、アーサー・ブダギャン氏は「中国は為替レートの安定、金利の低下、資本流出の阻止、景気回復を望んでいるが、全てを同時に達成するのは不可能だろう」との見方を示した」

    中国は、マクロ経済見通しがますます不透明になっていることが難点である。不動産バブル崩壊後遺症に加えて、「トランプ関税」を抱えている。これでは、踏んだり蹴ったりという最悪状態である。

    (4)「もっとも、一部の投資家は中国株の割安感を指摘している。上海総合指数の予想株価収益率(PER)は約11倍。米S&P総合500種指数は22倍だ。シティ・ウェルスのアジア太平洋投資戦略責任者ケン・ペン氏は、銘柄選定のチャンスが豊富にあるとの見方を示し、国内観光とオンライン教育の一部分野に期待が持てそうだと述べた。ただ、予測が不可能という理由で銘柄選定に慎重な姿勢を示す投資家もいる。J・サフラ・サラシンのチーフエコノミスト、カルステン・ジュニウス氏は「われわれが推奨するのは勝者を選ぼうとしないことだ。中国当局がどのセクターを優遇し、どのセクターを冷遇するか、事前に特定はできない」と述べた」

    中国ではわずかに、国内観光とオンライン教育の一部分野に期待する向きもある。話題のEV(電気自動車)は、世界中から関税引き上げで包囲網が敷かれている。


    (5)「全体としては、市場の停滞ムードが買いを手控える要因となっている。中国政府は先週、投資信託会社と大手保険会社に株式投資を増やすよう指示。シティのアナリストによると、年間の資金流入額が少なくとも年間8200億元増える可能性があるが、この対策の発表後も上海総合指数はわずか0.5%しか上昇しなかった。MFSインターナショナルのグローバル投資ストラテジスト、ロブ・アルメイダ氏は「私にとって中国は投資の対象ではなく、トレーディングの対象だ」とし、不動産市場から人口動態に至るまでさまざまな問題を挙げた。同氏は「中国のビデオゲーム会社数社と生活必需品メーカー数社に投資しているが、非常に厳選した投資だ」と語った」

    中国政府は、市場振興目的で大号令をかけているが効果はわずかに止まっている。「狼少年」と同じで、一度や二度は効果があってもそれで終っているからだ。



    テイカカズラ
       

    サムスン電子は、韓国経済の屋台骨を支える存在である。2024年12月期の連結決算は全社で増収増益だったが、半導体の売上高営業利益率はピーク時から4分の1へ下落した。半導体などの主力事業が伸び悩むなか、新規部門でロボット事業を本格化させる。買収企業を通じて既存事業との相乗効果も目指すものだ。

    不振の半導体では、明るいニュースも出ている。だが、サムスンはあえて公表を見送っている。理由は不明である。米エヌビディアから、第5世代広帯域メモリー(HBM)の8層HBM3Eの供給で承認を得たというもの。『ブルームバーグ』(1月31日付)が報じた。それによると、サムスンの8層HBM3Eは12月、エヌビディアに承認されたというのだ。


    『日本経済新聞 電子版』(1月31日付)は、「サムスン、見えぬ本格回復『前期』半導体利益率戻らず」と題する記事を掲載した。

    前期の全社売上高は前の期比16%増の300兆8700億ウォン(約32兆円)、営業利益は5倍の32兆7200億ウォンだった。増収増益だったが、半導体の売上高営業利益率はピーク時から7割下落した。

    (1)「発表直後の同社の株価は前日比一時4%安の5万1700ウォンだった。直近の24年10〜12月期の同事業の営業利益も2兆9000億ウォンと市場予想平均を下回った。半導体事業の24年12月期の営業利益率も13.6%と低迷。11年に会計基準を変更して以来、ピークだった18年12月期の営業利益率51.7%と比べ見劣りした。楽天証券経済研究所の今中能夫チーフアナリストは、「売り上げの大半が旧型の汎用品。投資対象の人工知能(AI)関連で先端品のラインアップが乏しい」とみる」

    大山聡グロスバーグ合同会社代表によると、次のように分析している。
    24年10~12月期に注目すると、メモリー事業の売上は前年比46%増である。市場全体が約80%伸びていることを考えると、かなりシェアを落としている。デバイス部門の営業利益は、2.9兆ウォン、メモリー専業メーカーであるSKハイニクスの営業利益8.0兆ウォンに比べてかなり見劣りがすると指摘する。サムスンのメモリー事業は、黒字貢献しているものの、ファウンダリ(非メモリー)事業が1兆ウォン以上の赤字を計上していると推定される。同社の半導体事業は、HBMの出遅れとファウンダリ事業の低迷が大きな課題となっていることが懸念される。大山氏は、厳しい見方である。


    (2)「競合メーカーでは、先端品の販売が好調だ。演算用ロジック半導体を受託製造(ファウンドリー)する台湾積体電路製造(TSMC)は営業利益率が45.7%。生成AI向け半導体で世界首位の米エヌビディアから独占的に受注したことが寄与した。サムスンと同じ傾向で推移してきた韓国SKハイニックスも過去最高の35.5%。生成AIの駆動に使う広帯域メモリー「HBM」の量産でサムスンに先行する」

    『ブルームバーグ』によると、サムスンの8層HBM3Eは12月、エヌビディアに承認されたという。サムスンは、全くその素振りもみせていない。となると、このニュースはどうなるのか。

    (3)「サムスンは、先端品のHBMの開発を急ぐ構えだが、先行きが見通せている訳ではない。31日の決算会見でメモリー部門を統括する金在駿(キム・ジェジュン)副社長は、「1〜3月期にHBMの一時的な需要空白が発生する」と述べ、米国によるHBMへの対中規制が響く恐れがあると指摘した。業界関係者によると、同社製HBMの販売数量の十数%が中国向けだ。朴淳哲(パク・スンチョル)最高財務責任者(CFO)は、25年1〜3月期は「半導体部門の低迷が続き、全社業績の改善も限定的だ」と語る」

    25年1〜3月期は、半導体部門の低迷が続き、全社業績の改善も限定的という。


    (4)「それでもサムスンは、半導体事業の成長に向けて投資を続ける考えだ。25年のメモリー事業の投資額は24年とほぼ同水準になる見通しを示した。半導体事業の意思決定を速くするため、24年11月には最高経営責任者(CEO)を2人体制にすると発表した。半導体とそれ以外の事業で役割分担をするとみられる」

    サムスンは、メモリー事業へ集中している。ファンドリー事業を諦めた形だ。

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    メルマガ629号で、「習近平、『毛沢東』威光にすがる 『失われた12年』 危なくなった4期目」と題する記事を掲載した。これを裏付けるようなデータが、中国人民銀行(中央銀行)から発表された。24年の人民元の新規貸出が、20%(注:正しくは7.3%)も減ったのである。11年の新規貸出は前年比6.1%減であった。24年は、これを上回る減少率になった。端的に言えば、「恐慌状態」を示している。

    習近平氏が、国家主席に就任したのは2012年である。11年の新規貸出落込みを意識して、不動産バブルに依存する経済運営に走ったことは十分に想像できる。自らの経済運営能力の確かさを見せつけたかったのであろう。現実には、この間の政策がすべて否定される形で24年の新規貸出が急減する事態になった。金融緩和しても、新規に借りる意欲が消え失せているのだ。習氏の政策が、なんら効をなさなかったという意味である。「習近平氏よ、お分かりか」なのだ。


    『日本経済新聞 電子版』(1月30日付)は、「中国、24年銀行貸し出し13年ぶり減 金利負担の実感重く」と題する記事を掲載した。

    中国で銀行融資が落ち込んでいる。中国人民銀行(中央銀行)によると2024年の人民元建て新規貸し出しは前年を20%(注:正しくは7.3%減)下回った。13年ぶりに減少した。不動産不況に端を発した景気停滞が長引き、民間企業や家計が借り入れを伴う投資に慎重になっている。

    (1)「返済額を差し引いた24年の新規貸出額は18兆0900億元(約400兆円)だった。借入期間の長い中長期資金を銀行から調達する動きが鈍いためだ。借り入れ主体で分けてみると、企業が借りた中長期資金は26%減り、6年ぶりにマイナスとなった。とくに民間企業は景気停滞に加えて、国有企業が幅を利かせて民業を圧迫する「国進民退」のあおりを受けて先行き不安が強い。民間企業が手掛けた24年の固定資産投資は2年連続で前年を下回った」


    金融緩和を行いながら新規貸出が減っているのは、「流動性の罠」と呼ばれる現象である。これは、金利機能が働かない状況に陥っている証拠だ。こうなると、金融緩和よりも、財政支出が求められる緊急事態になっている。習氏には、その認識が欠如している。習氏が、財政赤字拡大を拒否しているので、側近も異を唱えられないのだ。「亭主が好きな赤烏帽子」という事態になっている。

    (2)「住宅や自動車のローンが大半を占める家計向けの中長期資金も12%減った。深刻な不動産市況で新築住宅の販売面積がピークの21年から半減。買い手が減って価格が下がり、「待てば住宅はもっと値下がりする」との予想から買い控えが広がった。人民銀行は景気下支えのために銀行融資を増やそうと、金融緩和を進めてきた。24年は3回の利下げに踏み切ったが、下げ幅は小さい。インフレ率を加味した実質の政策金利をみると、12月時点で3%と、日米欧より高い。中国の企業や家計が実感する金利負担は相対的に重いことも借り入れが伸びない一因とみられる」

    利下げしても、それによって貸出が増える状況ではない。国債利回りの上昇が、顕著に示すように先行きに不安感が充満している。


    (3)「習近平指導部は24年12月に開いた中央経済工作会議で、25年の経済運営方針として金融政策は「適度に緩和的」な姿勢をとると決めた。利下げの幅を拡大させるとの予測も浮上しているが、追加の金融緩和は銀行の利ざやをさらに圧迫しかねない。国家金融監督管理総局によると、24年9月時点の利ざやは1.53%で過去最低を更新した。利ざやが縮小し銀行の収益力が落ち込むと、不動産不況で膨らんだ不良債権の処理に手間取り、金融リスクの抑制に支障を来す恐れがある」

    24年9月時点の利ざや1.53%は、利ざやの下限である1.8%を下回っている。銀行自身に利下げの余地がなくなっている証明だ。後は、財政支出拡大しか道がない。


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    最先端半導体の国産化を目指すラピダスは、国内の無理解によって「いずれ倒産してTSMCへ吸収される」というデマで飛び交っている。日本の技術開発力を全く信用しない「暴論」と言うほかない。最近の特色である「非公式情報」が、あたかも信頼度100%の威力を持って通用しているから驚くのだ。最近は、農業専門家までが「参戦」しており、ラピダスがTSMCに買収されるのが「オチ」としているから驚く。

    こういう俗説・珍説をよそに、半導体人材養成は着実に進んでいる。ラピダス進出先の北海道大学は、政府支援で半導体ラボを設置する。実際の製造装置を使った半導体教育を行うもの。国策事業である半導体育成は、雑音をよそに確実に進んでいる。

    『日本経済新聞 電子版』(1月28日付)は、「北大に半導体製造の試作ラボ、国が採択 人材育成拠点」と題する記事を掲載した。

    北海道や札幌市などは1月28日、内閣府の「地方大学・地域産業創生交付金」の対象事業に採択されたと発表した。千歳市や北海道大学、公立千歳科学技術大学とも連携し、半導体の製造や研究、人材育成を一体的に手掛ける複合拠点の形成を目指す。



    (1)「北大内に、半導体の一連の製造工程を再現して試作する「半導体プロトタイピングラボ」を新設する。専用のスペースに機材などを順次導入し、2027年度をめどに本格的な体制を整える。ラボを使った実習プログラムもつくり、道内の他大学や高等専門学校(高専)にも提供することを想定している」

    日本政府が、半導体人材教育支援体制を組むのは、2030年までに半導体育成で10兆円を投入する一環である。半導体が、日本産業の強化の上で大きな柱になることを見込んでいるからだ。これまで北海道は、半導体ビジネスと無縁の地域であっただけに、人材育成の種まきを行う。

    (2)「北大は学内の半導体リソースを一元化し、半導体教育研究の司令塔となる「半導体フロンティア教育研究機構」を25年4月に開設予定だ。同機構を中心に大学院まで一貫して半導体を学べる体制を構築する計画で、今回の交付金も活用する。千歳科技大とも連携し、千歳市に進出した最先端半導体の量産を目指すラピダスを含めた関連企業との共同研究にもつなげる」

    北大が、半導体技術教育のセンターになればその波及効果は大きい。クラーク博士の「少年よ、大志を抱け」(1877年)から147年で、北海道に最先端技術の種が蒔かれる。


    (3)「同交付金は地方創生のため、魅力的な地域産業や雇用を創出することなどを狙いとした事業にあてる。事業開始から5年間、国から事業費の一部として年間5000万〜7億円を目安に補助を受ける。道などの事業は25年度から29年度までが補助の対象。詳細な支援額は当該自治体の予算編成の進捗によって決まる」

    北海道には、高専4校が設立されている。半導体教育の底辺を担う優位な人材が育てられる。このように、人材供給のきめ細かい計画が作られているが、ラピダスを軌道に乗せるには4つの要素が必要である。

    技術・人材・資金・需要である。「ラピダス否定派」は、これまですべてを「不可能」としてきた。だが、現実は次々と難問が解決されている。
    1)技術:25年4月から「2ナノ」半導体の試作が始まる。実は、すでにラピダス千歳工場隣接設備を利用し、試作準備過程が始まっている。
    2)人材:北大中心に準備が始まる。
    3)資金:政府が全面的責任を果すことを公表している。
    4)需要:試作品をユーザーへ提供されてから具体化する。現在、すでに40社と交渉中とされる。


    『日本経済新聞 電子版』(1月30日付)は、「中国AIと開発競争、ASMLのCEO『勝者はまだ見えず』」と題する記事を掲載した。

    オランダの半導体製造装置大手、ASMLホールディングのクリストフ・フーケ最高経営責任者(CEO)は29日、日本経済新聞の取材にも応じた。フーケ氏は、日本市場への期待を口にしながらも、復活には「早期の顧客獲得が課題になる」との見解を述べた。

    (4)「24年にCEOへ就任したフーケ氏は、ラピダスのEUV露光装置の導入を「重要なマイルストーン」とした。さらに長い半導体産業の歴史や、多くの技術者がいる点を強みとして挙げ、「日本には(成長の)機会がある」と話した」

    ASMLは、ラピダスが独自の製造技術を確立していることを認識している。これは、重要な点だ。世間のラピダス否定派は、これすら認めようとしていない。

    (5)「フーケ氏は、ラピダスが量産を目指す最先端のロジック半導体は、「先行企業に追いつくための困難が非常に大きい」と現時点での見方を語った。ラピダスが成功する上では厳しい競争の中でも他社に打ち勝ち、早期に顧客を確保することが必要になるとの認識を示した。実際に、「今の段階では日本に研究開発(R&D)拠点などを設ける計画はない」とも明かすなど、日本での一層の体制強化はラピダスが率いる復活の行方次第だという」

    ラピダスは、すでにTSMCより進んだ技術体系を確立している。ラピダス半導体は、TSMCと分野の異なるAI半導体(CPUとアクセラレータを結合)製品分野を追求している。ラピダスは、TSMCと製造技術も需要先も異なる。ラピダスは、TSMCを上回る技術体系を確立したのだ。5月には、ラピダスの製品納入先が明らかになる。大泉一貫宮城大学名誉教授は、「ラピダスのTSMC売却もあり得る」と悲観論を言い立てている。専門分野の異なる農業専門家・大泉氏の見立ては、外れるであろう。


    あじさいのたまご
       

    土地本位制崩壊の後遺症
    習氏の経済音痴が命取り
    権力強化に12年間費消
    毛沢東追随は「死の道」

    中国経済は、日本が過去に辿った苦しい道を歩んでいる。不動産バブル崩壊という条件が同じである以上、中国経済の足跡が日本に似ることは当然だ。しかも、合計特殊出生率の低下まで同じという瓜二つの経済構造になった。中国は、こういう状況で現実から何をつかみ取るか、である。それが、中国の今後を大きく左右することは間違いない。

    習近平国家主席は、毛沢東路線の追随者である。習氏は、毛沢東が思い描いた世界覇権の夢を、「中華の夢」として実現を期す。中国に、それを現実化できる経済的要因が備わっているどうか。そういう根本的な議論を忌避し、危機に臨めば「統制強化」で乗切る強硬策を採用している。国内で妥協することが、習氏自らの権力基盤を弱体化させることになるのでは、と恐れているのだ。毛沢東が晩年、冒した多くの政策ミスを習氏もすでに嵌まり込んでいる。

    トウ小平は、こうした毛沢東の独善主義を戒めて集団指導体制へ切替えた。だが、習氏は「聞く耳持たず」である。独善路線を歩み続けている。不動産バブル崩壊も合計特殊出生率の低下も、中国経済の根幹を揺るがす厳しい現実に目を塞ぎ、「世界覇権」の夢に酔っているのだ。毛沢東の「妄想」と実によく似ているのである。

    理念のみに酔う人間は、独裁者になると言われている。「原理主義者」であるからだ。毛沢東も習近平氏もこの部類に入る。中国経済の現実は、もはや妄想を許す事態にはない。庶民の生活は、消費よりも貯蓄を重視する切り詰めた生活を余儀なくされている。特に、この傾向は若者に顕著だ。根強い悲観論は既に、自動車からタピオカミルクティーに至るまで消費者物価の下落を招いており、中国の長期的な潜在成長力に打撃を及ぼしている。

    中国社会から現在、楽観主義が失われている。1978年の改革解放政策以来だ。中国の若者世代は「実存的不安」を抱えており、その不安が経済停滞とともに深まるばかりだ。実存的不安とは、自己の存在そのものに関する究極の不安である。「自分の人生には意味がない」という根本的な孤独感だ。こういう不安が、無差別殺人などを引き起している背景にある。中国社会は、完全に行き詰まっているのだ。習氏は、これを統制強化で鎮めようとしている。こうして、悪循環が始まっている。

    習氏が、根本的な解決策である「人間性回復策」を取らない限り、事態はさらに悪化しよう。経済政策の180度転換が不可欠な局面である。こうして、習氏の国家主席4期目を阻む要因が増えているのだ。

    土地本位制崩壊の後遺症
    中国は、不動産バブル崩壊の渦中にある。地価が下落し続けているからだ。土地国有制の中国では、地方政府が民間などへ売り渡した土地売却収入が、地方政府の貴重な歳入源になっている。その土地売却収入が24年は、前年比16.0%の減少になった。3年連続の減少で、16年以来8年ぶりの低水準である。23年は、同13.2%減であったから、落込み幅が拡大している。

    土地売却収入の減少は、地方政府の行政執行上で大きなブレーキになっている。公務員の給料支払まで支障を来す事態である。こうした事態は、なぜ起こったのか。それは、「土地本位制」(学術用語でない)が経済の骨格を形成しているからだ。中国は今、土地が「通貨」の役割を果すという、かつてどこの国も経験しない暴走を演じた咎めを受けている。

    日本も不動産バブルが崩壊した。だが、地方自治体はほとんど無傷であった。土地売却益に依存する税収構造でないからだ。銀行貸出でも不動産担保は、決して安全でないことが理解されている。地価が変動する結果である。不動産担保では、時価の6割程度が担保の限度とされる。日本の不動産バブル時は、6割どころか10割以上という異常貸付もあって、金融機関が大きな痛手を被った。

    日本の場合は、企業と金融機関にバブル崩壊の傷跡を残した。中国はこれに加えて、地方政府が土地売却益を歳入減にしたことから、日本以上の大きなダメージを受けている。それが今、始まったばかりである。習氏には、こうした「土地本位制」のからくりが理解できず、毛沢東の見果てぬ夢を追いかけている。この空想に浸るよりも今は、足下の揺らぐ経済基盤を見つめ直すべき貴重な時期なのだ。

    習氏は、多くの経済顧問を抱えている。彼らは、西側経済学を履修した優秀なスタッフとされている。だが、習氏の「聞く耳持たぬ」事態によって、経済顧問の役割が果たせずにいるのだ。例えば、物価が下落していることは、需要不足と供給過剰の結果である。習氏には、この構造が理解できないという。「物価が下がれば国民は喜ぶはず」という認識である。

    この一言で、経済顧問は物価問題を議論する空しさを悟ったというのだ。現状は、供給過剰経済に陥っている。この現実を、経済政策によってどのように改めるか。こういう構造改革論が、習氏によって封じ込められている。悲劇的と言うほかない現状である。

    習氏の経済音痴が命取り
    習近平氏の認識によれば、物価は小幅上昇にとどまっており、「歓迎」すべき事態であろう。24年の消費者物価上昇率は、0.2%である。23年は、0.4%であったから、24年はさらに鈍化している。消費者物価上昇率が、ほぼ「ゼロ圏」に止まっているのは、生産者物価上昇率がマイナスへ落込んでいる結果でもある。生産者物価上昇率は、2年連続のマイナスに終わった。27ヶ月連続でマイナスである。過剰生産の結果である。
    (つづく)

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