勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > アジア経済ニュース時評

    あじさいのたまご
       

    韓国経済を支えてきたサムスン電子が、昨年10~12月期の営業利益でSKハイニクスに抜かれる事態となった。SKハイニクスは、AI半導体の素材になる高帯域幅メモリー(HBM)が好調であったことが寄与した。サムスンは、技術的障壁でこの分野へ進出できずにいる。

    『ハンギョレ新聞』(1月24日付)は、「SKハイニックス、第4四半期の営業利益8800億円 サムスン電子を抜き首位浮上」と題する記事を掲載した。

    SKハイニックスのキム・ウヒョン最高財務責任者は、「(技術競争力さえあれば)メモリー企業も(業況と関係なく)安定した利益を創出できる可能性を確認したという点で、今回の実績は大きな意味を持つと思います」と胸を張った。

    (1)「SKハイニックスは昨年第4四半期、危うい業況の中でも史上最高実績の記録を塗り替えた。サムスン電子を抜いて韓国企業の中で第4四半期の営業利益1位も占めた。高帯域幅メモリー(HBM)をはじめとする人工知能(AI)メモリーの競争力が引き出した結果だ。新年にはメモリー業況の両極化が続き、両企業の半導体事業間の格差がさらに広がる見通しだ」

    SKハイニクスが、韓国企業の中でサムスンを抜いて第4四半期の営業利益1位に輝いたのは初めてだ。この傾向は、今後も続くとみられる。サムスンの凋落が明白になった。

    (2)「SKハイニックスは23日、昨年第4四半期(10~12月)に売上19兆7670億ウォン(約2.1兆円)、営業利益8兆828億ウォン(約8800億円)を記録した。直前四半期より売上は12.5%、営業利益は15.0%増え過去最大値だ。昨年は、年間でも売上66兆1930億ウォン(約7.2兆円)、営業利益23兆4673億ウォン(約2.55兆円)を上げ、史上最高記録を塗り替えた」

    SKハイニクスは、AI半導体エヌビディアへの納品が高収益を実現している。サムスンはかつて開発を中止したことが今や、社運を揺るがす事態になっている。

    (3)「韓国国内での「営業利益1位」の王冠も獲得した。昨年第3四半期にはサムスン電子が9兆1834億ウォン、ハイニックスが7兆300億ウォンを記録し、それぞれ1、2位を占めたが、第4四半期はハイニックスがサムスン電子(6兆5000億ウォン)を上回った。サムスン電子が第3四半期に続き、第4四半期にもマイナス成長を続けた結果だ。「半導体酷寒期」のような特殊な状況を除けば、サムスン電子が1位を譲るのは珍しいことだ」

    サムスンが、SKハイニクスから営業利益1位の座を奪回することは極めて困難になった。技術力が追いつかないからだ。

    (4)「両社の悲喜を交錯させた決定的要因は、AIメモリーに関する技術力だ。ハイニックスは第4世代高帯域幅メモリー(HBM3)を「AIチップの第1人者」であるNVIDIAに独占供給したのに続き、第5世代製品(HBM3E)の物量も大部分引き受けている。今やハイニックスの売上のうち、HBMの割合が20%を超えるほどだ。データセンターに使われる第5世代DRAM(DDR5)とNAND基盤保存装置(eSSD)もハイニックスの成長を牽引した高付加価値製品だ。中国発の物量攻勢とスマートフォン、パソコンの需要の萎縮で旧型メモリー価格が下がる局面でも実績が改善された背景だ」

    SKハイニクスは、高帯域幅メモリー(HBM)が稼ぎ頭になった。独占的な強みを発揮している。

    (5)「今年は旧型メモリーを中心に業況が悪化し続け、業界の両極化がさらに明確になる見通しだ。AIブームに乗ったハイニックスは、旧型メモリーへの依存度を急速に減らしている反面、サムスン電子は不確実性が高い状況だ。ハイニックスはDRAMの売上に占める旧型製品(DDR4・LPDDR4)の割合が昨年の20%から今年は一桁に縮小するとみている。サムスンはこの比重を明らかにしていない」

    旧型メモリー市況の回復が遅れている。サムスンは、これに足を引っ張られる。SKハイニクスは、受注品のHBMが高収益を支える。対照的な動きだ。

    (6)「ハイニックスの成長を牽引したAIブームは今年も続くとみられる。ビックテック企業に加え、最近、米国をはじめとする主要国では政府レベルのAI投資の熱気も現れている。ハイニックスは「長期的なHBM需要の成長は疑いの余地がない」と語った。ハイニックスの技術優位も当分維持される見通しだ。ハイニックスは第6世代高帯域幅メモリー(HBM4)の基盤となる11~12ナノメートル工程でもサムスンをリードしているとの評価を受けている」

    SKハイニクスは、11~12ナノメートル工程の歩留まり率でサムスンを上回っている様子だ。こうなると、サムスンの凋落は決定的になる。サムスンは危機だ。

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    日銀は先週、政策金利を0.5%へ引上げた。この裏には、日本に本格的な賃上げ時代が来たという見通しを持っていることが分った。労働受給の逼迫が起こっているからだ。大手企業は、新入社員寮を建設して割安料金で入居させるなど、福祉厚生施設に力を入れ始めている。高度経済成長時代は、福祉厚生施設が企業の魅力を付けるポイントとなっていた。その後の長期低迷期には、これら福祉厚生施設は売却されてしまったが再び、脚光を浴びている。時代は、繰返ししている。

    『ロイター』(1月27日付)は、「労働需給ひっ迫は『バブル期以上』、サービス価格の上昇明確にー日銀展望全文」と題する記事を掲載した。

    (1)「日銀は27日、23~24日の金融政策決定会合で議論した展望リポートの全文の中で、労働需給が均衡する「構造失業率」が3%程度との推計を示し、労働需給のひっ迫度合いは「バブル期より強まっている」と指摘した。その上で、労務費の価格転嫁が期初以外の月でも行われていることに触れ、「サービス価格のトレンドについても、賃金上昇が定着するにつれて上昇トレンドがはっきりしてきている」とした」

    構造失業率(自然失業率)とは、雇用のミスマッチや求職・転職で起きる失業率を指している。これは、好不況の景気変動とは関係なく独立して起こるものだ。いわゆる「完全失業率」とは異なる概念だ。日本の構造失業率は、約3%と推計されている。他国と比較して低い水準である。欧州の多くの国々や米国では、構造失業率が日本よりも高い傾向にある。

    日本の構造失業率が欧米よりも低い理由は、企業が教育と訓練など労働者のスキルを向上させる努力しており、新しい産業や職種に適応できるようになっていることだ。この構造失業率の低下が、完全失業率を引下げている背景である。

    (2)「日銀は、決定会合で政策金利を0.5%に引き上げることを決めた。今年の春闘で「しっかりとした賃上げ」が実現することへの確度の高まりが利上げの1つの決め手になったが、展望リポートでは労働需給、賃金上昇、サービス価格の上昇を巡る分析が展開された。まず、構造失業率が3.0%付近だとする推計を示した。昨年11月の失業率は2.5%で、失業率ギャップのマイナス0.5%ポイントは、バブル期よりもマイナス幅が大きいことが示された」

    日本の構造失業率は欧米よりも低いが、昨年11月の失業率は2.5%で、構造失業率よりもマイナス0.5%ポイントと、バブル期よりもマイナス幅が大きくなっている。日本経済は、本来であれば3%失業率でも問題ないが、2.5%と「超完全雇用」状態になっている。これは、40年前の高度経済成長時代を上回る人手不足時代になっているとしている。凄い時代がきたものだ。「日本経済自虐論」など言っていると恥ずかしい状況である。

    (3)「労働需給のひっ迫を反映し、コロナ禍以降、一般労働者もパート労働者も名目賃金は上昇率を拡大し、日銀は賃上げの広がりがサービス価格に反映していくのか注視してきた。展望リポートでは、年間を通じたサービス価格の上方改定のタイミングについて、年度ベースの上半期と下半期の期初に当たる4月と10月が多いと指摘。「サービス価格が全般的に上昇していた1990年代前半と同程度の改定頻度となっている」とした。4月・10月に上方改定が多かった年は、ほかの月も上方改定の頻度が高くなっていることが分かるとも述べた」

    賃上げは、サービス部門で顕著になっている。賃上げに耐える経営体質になるには、積極的な設備投資によって生産性を引上げることである。TFP(全要素生産性)上昇率と労働生産性上昇率の関係には、正の相関関係がみられ、その傾向は、2000年代以降更に強くなっている。TFP上昇は、技術革新や経営面の効率化、労働者の能力の向上など労働投入や資本投入では説明できないあらゆる生産の増加要因を表している。このことから、TFPの上昇は、労働生産性の上昇にも重要な要素であると指摘されている。日本経済は、こういう総合的な視点で考えることが求められている。


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    中国国家統計局は27日、1月の製造業の購買担当者景気指数(PMI)が49.1と発表した。前月より1.0ポイントもの急低下となった。4カ月ぶりに好調・不調の境目である50を下回った。生産や受注不振が、響いたものだ。

    24年のGDP成長率は、5.0%と政府見通し通りの伸びとなったが、25年1月の製造業PMIは、24年GDP成長率の足下を突き崩すような「低調」な内容である。これに刺激されたのか、習氏は27日、2026〜30年の新たな5カ年計画をまとめる意向を示した。「25年は(現在の)第14次5カ年計画の最終年だ」と述べ、「第15次5カ年計画の制定へ(党の)建議をまとめ、野心的な目標に向かってまい進する」としている。これで、不動産バブル崩壊後遺症を棚上げするのであろう。

    『日本経済新聞 電子版』(1月27日付)は、「1月の中国景況感、4ヶ月ぶり50割れ 春節で工場稼働鈍く」と題する記事を掲載した。

    中国国家統計局が、27日発表した1月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は、4ヶ月ぶりに好調・不調の境目である50を下回った。長引く需要不足が重荷となった。28日からの春節(旧正月)休暇を前に労働者が早めに帰省し、工場稼働率が低下した影響も出た。PMIは、製造業3200社を対象に調べる。新規受注や生産、従業員数など項目ごとに数値化し合成する。50を上回れば前月より拡大、下回れば縮小を示す。

    (1)「1月は、49.1で前月より1.0ポイント下がった。下げ幅は2023年4月以来の大きさとなった。PMIの内訳をみると、指数全体への影響が大きい新規受注が4ヶ月ぶりに節目の50を割り込んだ。生産も、24年8月以来の50割れとなった。回答企業の6割超が「需要が不足している」と答えた」

    PMIが、1ヶ月で1ポイントも下落することは珍しい。新規受注が、4ヶ月ぶりに節目の50を割り込んだ影響が強く出ている。これまでは、「トランプ関税」を恐れて、米国へ駆け込み輸出をしてきた。25年に入って、これが剥落したことでPMIは急落したのであろう。とすれば、これからのPMIは、50割れが継続しかねないであろう。

    (2)「企業業績は、国内需要の低迷で振るわない。製造業など工業企業が、24年に稼いだ利益総額は前年を3.3%下回った。不動産不況が始まった21年をピークに3年連続で減少した。春節を挟んだ連休も指数が下振れする要因となった。国家統計局は「春節休暇を前に従業員が集中して帰省したことが響いた」と説明した。PMI統計は、毎月22〜25日に調査する。25年の法定上の春節休暇は1月28日〜2月4日だが、その前後も有給休暇を取得して休む労働者は多い。調査時期に工場の稼働がすでに落ちていたとみられる」

    24年の工業利益は、前年比3.3%減となった。こうなると、24年GDPの「5%成長率」がにわかに疑わしくなってくる。中国GDPは、すっかり信頼性を失っている。習近平氏が、「かさ上げ」を命じているとみられている。習氏の政治生命を護るためにも、GDP操作は不可欠な要因となっている。

    25年の春節休暇は1月28日〜2月4日だが、その前後も有給休暇を取得して休む労働者がふえているという。経営者であれば、こういう季節要因は、景気見通しから除外して基調で判断しているはず。「有給休暇」うんぬんの理由は、付け足しとみるべきだ。

    (3)「PMIを企業の規模別でみると大企業、中堅企業、中小零細企業の全てで50を下回った。民間企業が多い中小零細企業の先行き不安は、雇用の悪化を招きやすい。24年12月の都市部失業率は、5.1%と前年同月と同じだった。だが、16〜24歳の若年層に限ると15.7%と高く、1年前から0.8ポイント上昇した」

    大企業、中堅企業、中小零細企業の全てでPMIが50を下回った点に注目すべきである。つまり、中国経済は企業規模を問わずすべてが不振へ落込んでいる。さあ、習近平氏がどういう対策を打つのか、だ。





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    感情論一辺倒の弾劾成立
    李健煕嘆く「政治4流」
    韓国碩学の洞察力に敬意
    李在明氏は立候補辞退を

    韓国政治は、不安の坩堝と化している。国家元首である大統領が、「内乱罪」容疑で逮捕される異常事態へ突入したからだ。

    身柄拘束中の尹錫悦大統領の勾留期間満了は、1月27日である。地裁は、検察による拘束延長申請を二度も却下した。検察は26日、尹氏への事情聴取を一度も行わないで起訴を決定した。これにより、最長6カ月間の身柄拘束が可能となる。尹氏側の弁護団は、非常戒厳が「統治行為で内乱罪にあたらない」として争う構えだ。

    地裁は当初、尹氏の逮捕を認めたがその後は、検察による拘束延長を二度も却下するなど、微妙な変化をみせている。この間に、国内でどのような事態が起こったか。それを整理しておく。韓国司法は、世論の変化に機敏であるからだ。

    1月19日、尹錫悦大統領に対する逮捕状が発行されるや、興奮した大統領支持者数百人がソウル西部地方裁判所へ乱入する事態へ発展した。暴徒は、同地裁の事務用機器や施設物を壊し、警察の盾や警棒で警察官に暴行を加える事態となった。この結果、80人余が逮捕された。

    韓国では過去4回、こうした裁判所乱入事件が起っている。裁判所の決定に対する民衆の不満が爆発したものである。デモ隊が、暴徒化する事態は異常である。法治主義国家ではあり得ないことなのだ。

    今回、尹大統領を逮捕した際の令状は、「被疑者が証拠隠滅する恐れがある」とする15文字だけであった。法律専門家は、「この短い令状発布理由だけを見れば、ほぼコソ泥レベルだ」とされ、「容疑に対する理由を明確にすべきだった」と指摘されるほどだ。国家元首逮捕令状が「15文字」とは、ある種の意図を感じるほかない。野党「共に民主党」の李在明代表は2023年9月、ソウル中央地裁が逮捕状を棄却した際に、逮捕棄却理由をなんと「600字」もつかって説明したほどだ。

    こうした、地裁判事による異なる対応に対して、国民が「真実の解明ではなく、判事の考えによって極と極を行ったり来たりする」と受け取るっている。司法への不満と怒りが、今回の乱入事件の背景にあるのだ。

    日本敗戦の際、米占領軍総司令官マッカーサーは「天皇逮捕」を回避した。日本国民における天皇の地位が絶対的なものであることを知っていたからだ。同時に、天皇が戦後復興で地方行脚し、国民の絶望感へ希望を持たせることも理解していた。どこの国でも、国家元首とはこういう役割を担っている。韓国は、なんと15文字で逮捕を決めたのである。

    感情論一辺倒の弾劾成立
    大統領による「戒厳令」は、異常事態である。民主政治の根本を揺るがす事態であるからだ。1987年の民主化以来、初めての事態で国中が驚きと不安のどん底へ突き落とされたことは紛れもない事実であろう。国民が、こぞって尹大統領弾劾賛成へ走ったのも無理からぬところだ。左派陣営は、これまで「平時になぜ、こういう異常事態が発生したのか」という根源的な問いかけを一切していない。ただ、「けしからぬ大統領」の一言で片付け、早急な大統領選を要求しているだけである。

    左派陣営は、再び大統領ポストを握る「好機到来」という認識だけが先行している。最大野党「共に民主党」は、これまで気に入らない閣僚に対してことごとく弾劾を成立させて、尹政権を追い詰めてきた事実に「頬被り」している。国民が、こういう現実を見聞した今、「悪いのは、尹大統領だけでなく、共に民主党にも応分の責任がある」という認識に変わりつつある。これが、世論調査結果に表れてきたのだ。

    最近、複数の世論調査で与野党の支持率が逆転する結果が相次いでいる。与党「国民の力」が、最大野党「共に民主党」を上回るようになっているのだ。大手調査会社のリアルメーターが1月20日に発表した世論調査で、「政権与党による政権延長を求める」との回答が48.6%を記録した。「野党による政権交代を求める」の46.2%を上回った。リアルメーターが、1週間前に行った同様の調査と比較すると、「政権延長を求める」は7.4ポイント増え、「政権交代を求める」は6.7ポイントも下落した。

    韓国の世論が、しだいに冷静さを取戻しつつあることは事実だ。経済不安が、じわりじわりと迫っているからだろう。国内消費は、政治不安が広がった結果、消費者心理を縮小へ向わせている。韓国は、政治不安に対して極めて敏感である。すぐに財布の紐を締めるパターンだ。過去の大統領弾劾時と異なるのは、経済不振を輸出でカバーできない点である。中国は、不動産バブル崩壊の渦中にある。それだけでない。輸入代替を積極的に進めており、韓国からの中間財輸入に依存しない「自立体制」が整ってきた。

    韓国経済は、こうして内外で「袋小路」へ入り込んでいる。政府は1月早々に、25年のGDP成長率を1.8%へと引き下げた。昨年7月時点の予測では2.2%であった。韓国銀行(中央銀行)は、2025年のGDP成長率は1.6~1.7%とした。昨年11月時点の1.9%からの下方修正だ。理由は、12月の非常戒厳宣言に端を発した政治的不確実性と内需後退を挙げた。

    世界の3大信用格付け会社のうちムーディーズとフィッチの2社が、非常戒厳に伴う「政治的混乱が長引けば、国の信用格付けが下落する可能性がある」と警告した。韓国の信用格付けは、アジア通貨危機が起きた1997年に投機的等級(ダブルB格以下)まで下落し、以前の水準を回復するのに18年もかかった経緯がある。(つづく)

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    テイカカズラ
       

    中国経済は、かつて日本経済が歩んできた「ケチ・ケチ・ムード」が若者世代に広がっている。消費よりも貯蓄をと節約に励んでいるのだ。日本では今、若者が率先して消費に励んでいる。海外旅行にも積極的である。日中が入れ替わった感じである。それぞれの国が示唆する将来展望が、若者の消費高度に反映している。

    『ロイター』(1月26日付)は、「節約志向強める中国Z世代、経済成長にリスク」と題する記事を掲載した。

    中国では、新型コロナ禍に始まり不動産危機によって深まった倹約志向が一段と強まっている。Z世代が政府の消費奨励策に背を向け、ますます貯蓄を増やしているのだ。中国版インスタグラムの「小紅書」では、30歳未満の多くの若者がオフィスでのランチ代や買い物代を節約する方法について意見交換をしている。

    (1)「インフルエンサーも、倹約をライフスタイルに取り入れるためのヒントを共有している。節約術に関する投稿は150万件を超え、閲覧数は1億3000万回を突破した。「経済状況はかなり悪いと感じている。お金を稼ぐのはだれにとっても難しそうだから自分の財布は自分で守ることが重要だと思う」と語るのは、6カ月前に大学を卒業して電子商取引(EC)大手アリババに入社し、比較的高給を得ているアバ・スーさん(26)だ。インターネット業界を「不安定」だと考えるスーさんは衝動買いを控え、月給の100倍に当たる200万元(4260万円)を貯金する長期計画を立てていると語った」

    中国は、「稼ぐよりも節約」という消極的な時代に入っている。消費不振が不可避である。

    (2)「一部のエコノミストは、貯蓄傾向が根を張れば需要を空洞化させかねないと警告している。折しも政策当局は、国内総生産(GDP)の押し上げを国内消費に頼ろうとしているところだ。根強い悲観論は既に、自動車からタピオカミルクティーに至るまで消費者物価の下落を招いており、中国の長期的な潜在成長力にも打撃を及ぼすだろう。この状況は、いわゆる「月光族」世代の浪費的な態度とは対照的だ。月光族とは1980年代から90年代生まれの世代を指す。米ジョンズ・ホプキンス大学の政治経済学教授、ホーフン・フン氏によると、この世代は雇用機会の拡大、所得の増加、生活水準の向上しか経験せずに育っており、月給をその月に使い切ってしまうことで知られている」

    根強い悲観論は既に、消費者物価の下落を招いている。中国の長期的な潜在成長力にも打撃を及ぼしているのだ。中国の個人消費は、対GDP比で37.01%(2022年)だ。この低い個人消費がさらにシュリンクしている。

    (3)「新型コロナウイルスや景気後退、政府によるハイテク企業など民間セクターへの締め付けを経て、今日の若者は最悪の事態に備える必要があると実感していると、フン氏は語る。「楽観主義が失われるのは、1978年に改革解放政策が開始してから初めてのことだ」という。悲観論が広がる中、多くの若者は政府機関や国有企業などで「鉄飯碗(安定した雇用)」の仕事を求めている。スーさんは将来、公務員試験を受けるつもりだと語った」

    中国社会から楽観主義が失われるのは、1978年に改革解放政策以来である。これが、不動産バブル崩壊後遺症というものだ。

    (4)「16歳から24歳までの約1億人の失業率は過去2年間、高止まりしている。2023年6月には若年層の失業率が21.3%と過去最高を記録。これを受けて当局はデータの公表を停止して算出方法の「再評価」に乗り出し、調整を経て発表された昨年12月の同失業率は15.7%だった。深セン市在住の高校英語教師、リリー・リーさん(26)は、9月に現在の職に就いたばかりだが、1万元を超える月給の80%を貯金し、洋服やコンサートチケットなど不要不急の支出を大幅に減らしている」

    若者が、多く失業している。中国経済の矛盾が凝縮されているのだ。これでは、「社会主義の勝利」とはほど遠い。

    (5)「彼女は会社勤務を希望していたが、安定性を求めて学校の教師になった。2、3年後には別の仕事を探そうと考えているが、見つかるかどうかは分からないと語る。人生を最大限に楽しむというミレニアル世代の哲学とは異なり、中国のZ世代は「実存的不安」を抱えており、その不安は同国の経済停滞とともに深まるばかりだ」

    実存的不安とは、人間の存在そのものに関する究極の不安である。「死が不可避である」ことに対する不安、「自分の人生には意味がない」という不安、「人間は所詮一人である」という根本的な孤独感などをさす。こういう「究極の不安」が、無差別殺人などを引き起している背景にある。中国社会は、完全に行き詰まっている。


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