習近平中国国家主席は、これまで家庭へ現金を給付する政策に対して徹底的に拒否する姿勢をみせてきた。ところが、政府は出生率対策として子どもを持つ世帯に、2025年から始まる全国的な取り組みの一環として、子供1人につき年間3600元(約7万3000円)を支給する方針という。この政策転換は、習氏の基本方針と相容れない決定だ。さては、習氏の辞任を前提にしたものか、注目されるところだ。
『ブルームバーグ』(7月4日付)は、「中国、子供を持つ世帯に現金給付方針と関係者-出生率向上狙う」と題する記事を掲載した。
中国政府は子供を持つ世帯への現金給付を全国規模で計画している。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。人口減少で世界2位の規模を誇る中国経済が脅かされており、出産を促す。
(1)「情報が公になっていないとして匿名を条件に話した関係者によると、政府は2025年から始まる全国的な取り組みの一環として、子供1人につき年間3600元(約7万3000円)を支給する方針。子供が3歳になるまで続けられる見込みだという。国務院新聞弁公室にファクスでコメントを求めたが、返答がなかった」
中国社会は、ソロバン勘定に敏感である。子どもを少なく産んで、徹底的に家庭教師などを付けて名門校へ入学させることが共通認識である。塾の費用などを計算して、それに見合うかどうかを計算するであろう。第一、就職難でまともな就職ができない時代だ。先ずは、就職難解決が大きな課題であろう。
(2)「中国は、約10年前に「一人っ子政策」を廃止したが、人口は24年まで3年連続で減少している。23年の出生数は954万人と、同政策撤廃直後の16年に記録した1880万人の約半分にとどまる。出生率の低下は、生産年齢人口の減少を通じて労働力供給や生産性を脅かすため、中国経済にとって課題だ。中国の総人口は23年に世界首位の座をインドに明け渡したが、国連の人口推計モデルによれば、中国の人口は50年までに13億人、2100年にはさらに8億人を割り込む可能性がある」
「一人っ子政策」は、1979~2014年と実に35年間も続いた。「子どもは一人」というのが、既成概念としてすり込まれているほど。こういう中で、今になって子どもを持つ世帯に現金を支給しても効果があるのか。この資金は、どこから捻出するのかも大きな問題だ。「土地本位制」(学術用語でない)によって、地価とリンクした地方政府には、財源的ゆとりがないのだ。
(3)「こうした見通しの背景には、婚姻率の著しい低下がある。婚姻件数はほぼ50年ぶりの低水準にとどまっており、出生数のさらなる減少につながる恐れもある。このため、多くの地方政府はすでに現金給付や住宅補助金など、家計負担を軽減し、出産を促す独自の取り組みを始めている。例えば、内モンゴル自治区フフホトでは、第2子を持つ世帯に5万元、第3子以降には10万元を支給する制度が3月に注目を集めた」
先ず、婚姻率の低下を食止めなければならない。それには、就職難を改善させることが前提条件になる。習氏が辞任して、これまでの抑制社会が変わるという認識の改善こそ求められる。「習神格化」という時代錯誤が打ち破られない限り、出生率増加は望めまい。
(4)「ソシエテ・ジェネラルの大中華圏担当エコノミスト、ミシェル・ラム氏は今回の現金給付案について、実現すれば国内総生産(GDP)の約0.1%に相当すると試算。規模としては「小さいものの、政策上の認識変化を示すものであり、さらなる刺激策への道を開く」と評価し、「正しい方向への一歩だ」と述べた」
今回の現金給付案が実現すれば、GDPの約0.1%に相当するという。比率的には微々たるものだが、全国一律の支給ではあるまい。いつもの通り、地方政府任せになろう。つまる、「尻つぼみ」になる公算が大きいのだ。