勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > アジア経済ニュース時評

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    韓国の政策金利は現在、3.5%である。21年7月までは0.5%であったが、高物価抑制で引上げられてきた。これに最も苦しんでいるのが低所得者である。政府の庶民金融商品「ヘッサルローン15」は、低所得者がヤミ金融に走らぬようにという「救済融資」を目的にしている。その金利が、なんと「15.9%」だ。日本の感覚から言えば、これこそ「ヤミ金融」並みである。

     

    韓国の資本蓄積が、いかに低レベルであるかを証明する話である。少しでも政策金利を引上げると低所得者へは低い信用度で高金利となって跳ね返るのだ。日本は、政策的意図で事実上1999年からゼロ金利である。この日韓の差は、資本蓄積の厚みの差を示すものだ。

     

    『ハンギョレ新聞』(3月17日付)は、「韓国『物価高・高金利ショック』庶民向け融資の延滞率が一斉急騰」と題する記事を掲載した。

     

    韓国で高金利・高物価が持続しているため低信用庶民層家計の借金負担が加重されていることが分かった。政府が庶民の高金利負担を減らすために供給する各種の庶民金融商品の延滞率が昨年急騰したことが明らかになった。

     

    (1)「17日、国会政務委員会所属の改革新党ヤン・ジョンスク議員室が金融監督院と庶民金融振興院から受け取った資料によれば、信用等級が低い庶民のための政策金融商品「ヘッサル(陽光)ローン15」の昨年の代位弁済率が21.3%となり、2022年(15.5%)より5.8ポイント急騰したことが分かった。代位弁済とは、融資を受けた借主が元金を返済できなかった時、庶民金融振興院などの政策機関が銀行に対し代わりに弁済することを意味する。ヘッサルローン15の代位弁済率が20%台に跳ね上がったのは昨年が初めてだ」

     

    庶民のための政策金融商品「ヘッサル(陽光)ローン15」は、年利15.9%である。これだけの高金利は、日本でも払えぬ高利である。代位弁済が急増しているのは当然であろう。政府が、代わって金融機関へ支払っているのだ。

     

    (2)「特に、ヘッサルローン15は闇金融に頼らざるを得ない低信用者が正常な経済生活を継続できるように、相対的に高い年15.9%の金利で政策資金を融資する庶民金融商品だ。この商品の延滞率が高くなっていることは、低信用庶民層の償還能力が限界状況に達し、再び私債市場などに追い込まれる可能性が高くなっているという意味だ」

     

    低所得者で「ヘッサルローン」を延滞する状態では、後はヤミ金融へ行く以外の道はなくなる。悲劇が、待っているような事態だ。

     

    (3)「ヘッサルローン15のみならず、他の庶民金融商品も一斉に延滞率が上昇したことが分かった。満34歳以下の青年層を対象にした「ヘッサルローンユース」の代位弁済率は2022年(4.8%)の2倍水準である9.4%に急騰し、低信用勤労所得者のための「勤労者ヘッサルローン」の代位弁済率も2022年の10.4%から昨年は12.1%に上がった。低所得・低信用者の中で償還能力が相対的に良好で第1金融圏に移れるよう支援する「ヘッサルローンバンク」の代位弁済率は8.4%で前年(1.1%)より7.3ポイント急騰した」

     

    韓国経済の根本的問題は、金融構造が脆弱であることだ。ウォン安が頻繁に起こっており、そのたびに「日本との通貨スワップ」が叫ばれてきた。この問題は現在、日韓の友好ムードで「日韓通貨スワップ協定」が結ばれて解決した。だが、庶民は不況のたびごとに大揺れである。

     

    (4)「この他にも医療費・食事代など、それこそ急にお金が必要な脆弱階層に最大100万ウォン(約11万円)を当日貸すマイクロクレジット商品「小額生計費貸出」の昨年の延滞率は11.7%だった。信用評点下位10%の最低信用者のための最低信用者特例保証の代位弁済率も14.5%となった」

     

    マイクロクレジットは、当日貸しだけに高金利を取るのであろう。ここでも、延滞率は11.7%にも及んでいる。

     

    (5)「年齢帯に分けてみると、20代以下の青年層の代位弁済率が最も高いことが分かった。まだ資産形成ができていない青年層の償還能力が最も脆弱なわけだ。2018年以後6年間、これら庶民金融商品の支援を受けた人は計287万人で、貸出総額は19兆9000億ウォン(約2.2兆円)と集計された。このうち約10%に該当する1兆9922億ウォンが延滞され、昨年末基準で未回収金は1兆8058億ウォン(約2000億円)に達した。ヤン・ジョンスク議員は「高金利・高物価が持続し、家計負債負担に押しつぶされた庶民層の苦痛が政策金融商品の延滞率増加に現れている」とし「庶民用政策金融商品の金利適用に勤労所得増加率を連動させるなど金利設計方式を全面再検討しなければならない」と話した」

     

    20代以下の青年層は、代位弁済率が最も高いという。住宅ローンを目一杯借りて、返済余力がなくなっている結果であろう。オール借金漬けの韓国の若者は、未来に夢を失い結婚や出産から遠ざかっている。この矛盾を解決するにはどうすべきか。過去においても、矛盾を抱えながら解決せず先送りしてきたのだ。

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    大企業製造業は8割満額

    国内はM&A時代へ突入

    GDP3位転落巻返しへ

    日本経済取巻く環境好転

     

    24年春闘は、日本経済の将来を占う試金石となった。これまで、賃金をコストとしてみてきた企業が、180度の転換で「人材投資」という認識に変わったことだ。賃金が、コストであれば切下げるほど企業の利益になる。今や、本格的な労働力不足に直面して、賃金は人材投資であることに気づかされたのである。優秀な人材を集めて能力を発揮させるには、よりよい待遇が前提条件になった。賃金は、将来を見据えた投資なのだ。

     

    24年春闘は、3月15日現在の連合による第一次集計で、平均賃上げ率が5.28%となった。前年同時点を1.48ポイントも上回った。昨年に引き続く2年連続の高い賃上げ率は、一過性でないことを示している。日本企業が、賃金コスト論を脱却して人材投資という視点に転換したことを意味している。その意味では、日本企業の「経営革命」と呼んで差し支えなかろう。

     

    連合は、従業員数300人以下の中小企業の賃上げ率も発表した。それによると、4.42%に達し、32年ぶりの高水準となった。前年同時期を0.97ポイント上回ったのだ。賃金引き上げ機運は、こうして中小企業にも広がっており、物価と賃金が持続的に上がる好循環の基盤が形成されてきたとみてよかろう。

     

    24年春闘は成功した。問題は、零細企業の賃上げがどこまで可能か、である。下請け企業の場合、発注先の企業が人件費上昇分を受入れるかがポイントになる。政府は、「下請法」によって正当な人件費上昇を受入れるように公正取引委員会が監視している。先頃、下請法違反の企業10社の社名が公表された。「一罰百戒」の意味を込めた発表だが、こうした違反は絶対に防がなければならない。

     

    年央の実質賃金は、プラスに転じる可能性が強まっている。長かった「冬の季節」が終わりを迎えるであろう。

     

    大企業製造業は8割満額回答

    大企業製造業は、24年春闘で8割が労組要求に対して満額以上の回答をした。中でも圧巻は、日本製鉄である。月3万円の賃金改善要求を上回る、月3万5000円と回答した。この結果、定期昇給(定昇)などを含めた賃上げ率は14.%である。回答の狙いについて、日鉄は「今後の生産性向上を前提とした、将来に向けた人への投資」と説明している。

     

    鉄鋼業界は、これまで他社と「横並び」の賃上げを行ってきた。だが、日鉄はこの慣例を破って14%もの大幅賃上げへ踏み切った。狙いは何か。一つは、同業間での競争である。従来は、同業間では暗黙の了解で横並びの賃上げであった。これでは、日鉄に優秀な人材を集められないという危機感であろう。もう一つは、他産業との競争である。その一つが日本の半導体勃興である。台湾半導体企業TSMCの熊本進出が導火線になった。

     

    TSMCは、大卒で28万円の初任給を出す。日鉄は、TSMCへ流れる人材も取り込みたいのであろう。それには、これに対抗する初任給引上げが必要である。日鉄の24年初任給は、賃上げで26万5000円だ。前年よりも18.3%増になる。初任給が、2割近い引上げは高度成長期並みである。日鉄は、今後とも賃上げできる企業体質強化への青写真を持っているはずだ。

     

    日鉄は、米国のUSスチールとの合併を進めていたが、米国バイデン大統領の反対声明で実現に時間がかかりそうな情勢になった。だが、日鉄は海外でのM&A(合併・買収)を積極的に行う意思を示したことで、他産業にも大きな刺激を与えたはずだ。実は、M&A候補が海外だけでなく、日本国内に多数存在している。

     

    国内はM&A時代へ突入

    日本政府は、長年の懸案だった国内企業の統合について、一気に進められる明確なゴーサインを出している。経済産業省が昨年8月、05年以来となる企業買収の行動指針を策定したからだ。今年2月、日本で開催されたM&A関連会議では、世界各地のファンドマネジャーが大挙して押しかける盛況ぶりであった。日本が、M&A市場として有望とみられているのである。

     

    経産省の新たな行動指針では、敵対的買収防衛策が緩和されている。経営陣は、合理的理由がなく買収提案を拒んだり、敵対的として退けたりできなくなったのだ。これまで、高い壁があった敵対的買収に対する防御策が消えたと言えよう。最も大きな効果は、M&Aによって日本経済全体の効率性(生産性向上)が高まることである。非効率な経営を続け、従業員へ満足な賃上げもできない企業は、M&Aによって経営主体が変わる時代になった。M&Aは、こうした重要な役割を果たすのだ。

     

    日本企業はこれまで行き過ぎた経営多角化を行ってきた。ビジネスチャンスを求めた結果である。これが、効率的経営実現の障害になっている。そこで、国内企業同士の事業統合を進める有効手段として、M&Aがテコとして浮上してきた。(つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

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    中国では、住宅神話に踊らされて新居を購入したものの、その後の失職でローンが支払えない人たちが増えている。競売物件が増えているのだ。住宅相場の下落が顕著な結果、競売は成立せず不調に終わっている。こうした不運な人たちの増加は、住宅販売や個人消費へ悪影響を与えている。

     

    『ロイター』(3月17日付)は、「増える中国の住宅ローン延滞、不動産・消費に一段の下方圧力」と題する記事を掲載した。

     

    中国南部の恵州市で金融関係の仕事を失ったレイ・ジャオユさん(38)は今、住宅ローンの返済が滞っており、取立人に追い回される境遇にある。避けられない破局を少しでも先延ばししようと、電話には一切出ないようにしている。

     

    (1)「2022年末に失業し、130万元(約2730万円)で買った住宅のローンとクレジットカードの借金の返済ができなくなったレイさんは、「私にとって唯一の家で、差し押さえされたくない。でも、何ができるのか」と途方に暮れる。7年前に家を購入したことを悔やみながら「私は自分の若さを無駄にしたような気がする」とつぶやいた。レイさんのような状況に陥った人は、中国ではまだ少ない。だが、その数は急速に増え続けている」

     

    中国では、住宅への執着が極めて強い。住宅神話が生まれた背景でもある。こうした状況下で失業に陥ると住宅ローンの重圧が一挙にかかってくる。

     

    (2)「背景には、不動産危機や地方政府の債務増大、デフレ懸念などに伴って経済全体が依然として部分的な回復にとどまり、足場がもろいことがある。複数の専門家は、住宅ローン延滞件数の増加は不動産価格と消費者信頼感の双方にとって悪影響を及ぼしかねず、家計需要を促進して経済基盤をより強化しようという政府の努力に一層の冷や水を浴びせる恐れが出ている」

     

    住宅ローン延滞件数の増加は、これから住宅販売や個人消費へとジワリと悪影響を及ぼす。

     

    (3)「中国の民間不動産調査大手、中国指数研究院(チャイナ・インデックス・アカデミー)の分析では、23年に差し押さえられた物件数は前年比43%増の38万9000件。今年1月はさらに5万件以上が差し押さえとなり、前年比増加率は64.4%に達した。華宝信託のエコノミスト、ニー・ウェン氏は、延滞と差し押さえ増加は消費を萎縮させているだけでなく、過剰な不動産投資は避けるべきという警鐘にもなっていると述べた。

    レイさんも到底、消費などできる気分ではない」

     

    23年の差し押さえ物件は38万9000戸だが、今年1月だけで5万件以上になった。年率換算で60万戸にもある。前年比で5割増という事態である。

     

    (4)「(前記のレイさんは)昨年、ライブ配信経由でさまざまな所有品を売って稼いだ合計額は約4万元。毎月の住宅ローン返済額の4200元に充てるには不十分で、毎日の基本的な生活費すらおぼつかない。「私が着ているのは全て5年前の服だが、体重が増えたので、その多くはもう合わなくなってきている。友人からはお古のコートをもらった。旅行は17年以降、一度も行っていない」という。レイさんにとって最も心苦しいのは、毎月3000元の年金で暮らす母親を支えてあげられないことだ」

     

    住宅高騰が、庶民生活を破綻に追いやった事例がここにある。

     

    (5)「中国指数研究院のデータからは、23年に9万9000件の差し押さえ物件が競売に付され、売却総額が1500億元(約3兆1500億円)だったことが分かる。北京の差し押さえ専門会社幹部のデュアン・チェンロン氏は、これらの競売は2~3年前に発生した債務問題の結末なので、競売物件の増加ペースは今後、加速する公算が大きいとの見方を示した。デュアン氏は「新型コロナウイルスのパンデミック後の経済環境は良好でなく、失業などが原因で住宅ローンでは多くのデフォルト(債務不履行)が起きている。まだ、競売物件と返済がままならなくなっている資産の規模にはギャップがある」と指摘。将来的に競売が増えれば、通常の市場での買い手候補の目がそちらに向くことで、新築住宅や中古住宅の価格が圧迫されてもおかしくないと付け加えた」

     

    23年の差押物件の売却総額は、約3兆1500億円にも及んだ。これら競売は、2~3年前に発生した債務問題の結末である。今後、競売物件の増加ペースは加速するとみられる。

     

    (6)「中国の幾つかの都市では、差し押さえ物件の競売が何度も不調に終わるケースも見られる。河南省の駐馬店市出身のシングルマザー、シンさん(30)は、起業のため自宅マンションを担保に借金をしたものの、20年のロックダウンであっという間に廃業を強いられ、家を失った。19年当時で31万元と評価された物件は過去1年間で2回、シンさんが銀行から借りている17万元で競売が行われたが、買い手は現れなかった」。シンさんは「誰が買うのか。同じマンションでほかに10戸以上も競売に出されているのに」とため息をついた」

     

    住宅相場の急落で、競売物件の売却が成立せず不調に終わっている。いずれは、売却価格の引き下げとなろう。これが、新規住宅販売の足を引っ張ることになろう。

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    中国EV(電気自動車)は、市場シェアが急速に拡大すると同時に、リコール対象台数も急増している。2023年のEV生産台数は958万7000台だが、リコール台数は160万3000台に及んだ。リコール率は、16.7%である。粗製濫造という表現がピッタリである。

     

    中国自動車メーカーの開発スピードは、老舗メーカーより30%ほど速い。時間のかかる物理的なテストは、多くの仮想テストを取り入れて代替している。中国新興EVメーカーの上海蔚来汽車(NIO)では、プロジェクト開始から顧客への納車まで3年しかかからないほど短縮している。従来の自動車メーカーは、4年ほどかけることが多いのだ。速さの一因は、予備のチップなどをあらかじめ車両に搭載することで、ソフトウエアを更新して新機能を逐次追加できるようにしている結果である。以上は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』が報じた驚くべき実態だ。

     

    『レコードチャイナ』(3月15日付)は、「2023年、中国のEV車リコール対象台数は前年比32.3%増の160万3000台」と題する記事を掲載した。

     

    中国の電気自動車(EV)の市場シェアが急速に拡大するのと同時に、リコール対象台数も前年同期に比べて著しく増加している。

     

    (1)「データによると、2023年のEVの生産台数は前年同期比35.8%増の958万7000台、販売台数は同37.9%増の949万5000台となり、市場シェアは8カ月連続で30%を超えた。これと同時に、2023年にリコールされたEVは160万3000台で、通年のリコール対象台数全体の23.8%を占め、EVのリコール対象台数は前年同期比32.3%増加した。中国自動車流通協会によると、EVのリコール原因は、主に「電気」に関する問題やスマート化の進展に関する問題に集中している」

     

    23年にリコールされたEVは、160万3000台である。前年比32.3%も増えた。販売台数に対するリコール率は、16.7%である。リコール原因は、「電気」とされている。

     

    (2)「専門家によると、「電気」に関するクレームは、主に電気自動車の実際の走行距離が公表されている航続距離を下回っていることに集中している。また、EV車のスマート化仕様が急速に進んでいるのに伴い、この面のクレームも増加している」

     

    リコール原因は「電気」である。実際の航続距離が、カタログ表示のように長くないことだ。電池の問題よりも、EV製造上でのメカニックの問題であろう。カーメーカーとして、最も恥ずかしいことだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月8日付)は、「中国EVメーカー急躍進、開発の『極意』」と題する記事を掲載した。

     

    中国は電気自動車(EV)の開発レースで先頭を走っている。国内のEVブームに乗る新興メーカーは、開発スピードやスマート技術の応用、ラインアップの豊富さにおいて世界でも群を抜いている。

     

    (3)「中国でもEV需要は鈍化しており、国内メーカーは頻繁にモデルチェンジや新型車を発表している。同国の乗用車協会によると、昨年は乗用車販売台数の伸びの90%が新型車によるものだった。中国の消費者は新型車を好む傾向があるため、人気は長くは続かない。コンサルティング会社アリックスパートナーズの分析によると、国内EVメーカーが新型車のマイナーチェンジやフルモデルチェンジを行うまで平均1.3年であるのに対し、外国ブランドは4.2年だ」

     

    中国EVの開発期間は、平均1.3年である。外国ブランドは、4.2年と3倍強の時間を掛けている。時間をかけて安全を期すのが順当であろう。中国EVのリコール率が高い理由である。

     

    (4)「外国メーカーは、中国各社が投資を拡大する中で投資を縮小すれば、技術面で遅れをとりかねない。米アップルはEV開発を中止した。マスク氏は、数年遅れとなる新型ロードスターの出荷を来年開始すると発表。最近は伸び悩んでいるものの、世界自動車販売台数に占めるEVの割合は、2027年には40%に達すると予想されている。

     

    中国は、短期間に開発して発売している。この過程で、多くのミスが出ている。それでも27年のEVシェアは、世界の40%に達するとしている。これは、過大予測である。米国・EUは、需要が大幅に鈍化している。

     

    (5)「中国でEVブームが起きてから日が浅いため、開発が早い裏で安全性や品質が犠牲になっていないかはまだ分からない。中国メーカーは、手抜きがないと主張しているものの、業界からは成長が最優先されているとの指摘もある」

     

    EVリコール率が、23年で16.7%とは異常であろう。開発期間に十分なテストが行われていない証拠とみられる。

     

    (6)「業界幹部らによると、中国メーカーはソフトを使うスマートEVに移行したことで、多くの開発段階を並行して進められるようになった。ガソリン車の製造工程は直線的だった。設計から製造まで各工程が完了して認証されてから次に進む必要があった。中国EV企業は、シミュレーションソフトを使って仮想の試作品を作り、テストをより短時間で繰り返し行う。ジーカーとNIOの幹部によると、仮想の部品と実物大模型を各チームで共有し、3D印刷した試作品を使ってエンジニアが短時間で試行錯誤を繰り返すことができる

     

    中国EVは、下線のような短期開発方式である。耐用年数が、10年以上もあるEVが、こういう安直な開発で安全性を担保できるのか疑問である。

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    中国は、世界最大のCO2排出国で35%も占めている。国際社会が、気候変動問題でもっと積極的な姿勢を見せるよう求めている理由だ。しかし、中国は既にほとんどの急成長国よりも多くの対策を実行していると主張している。だが、2023年に行われた温暖化対策の主要指標は、見通しを下回った。この背景には、EV(電気自動車)増産にともないリチウム増産や、国内雇用維持で石炭減産ができない事情もある。 

    『ロイター』(3月16日付)は、「中国、昨年は温暖化対策の重要目標が未達 実行力に疑問の目」と題する記事を掲載した。 

    中国は昨年、温暖化対策の重要な指標が目標を達成できなかった。このため政府が取り組みを大幅に強化し、対策を再び軌道に乗せなければ、気候変動を巡る国際協議の場で中国に対する信頼が揺らぎかねないと専門家は指摘している。中国はこれまで目標を達成できないことがほとんどなかった。しかし、最近では主にエネルギー安全保障への懸念から、目標達成に向けた政治的意志をほとんど示していないと、アナリストは指摘する。

     

    (1)「中国国家発展改革委員会(NDRC)は先週、2023年に温暖化対策の主要指標が「見通しを下回った」ことから、今年は「省エネと二酸化炭素(CO2)削減の努力を倍加する」と表明した。アナリストによると、2125年にエネルギー強度(一定の国内総生産を創出するために必要なエネルギー量)を13.5%、炭素強度(一定の国内総生産を創出するために必要なCO2排出量)を18%引き下げるという目標は進展が大幅に遅れている」 

    世界最大の二酸化炭素排出国・中国は、すでに激化する異常気象の被害が急増している。それでも、二酸化炭素対策で真剣にならないのは、経済要因が大きく影響している。対策を予定通り行えば、経済成長に響くのだ。 

    (2)「エネルギー強度と炭素強度の目標は、30年までにCO2排出量をピークアウトさせ、60年までに実質ゼロにするという政府公約の柱だ。NDRCが打ち出した24年の目標は、エネルギー強度が2.5%の引き下げで、炭素強度については新たな目標が設定されず、いずれも必要な水準に遠く及ばなかった。また最も温暖化の影響が大きい化石燃料である石炭も使用の抑制に向けた新たな動きがなかった」 

    中国は、石炭依存国である。自国で生産しているので雇用対策もあり生産を削減できない事情がある。

     

    (3)「コンサルタント会社ウッド・マッケンジーのシニア・リサーチ・アナリスト、ジョム・マダン氏は、中国の省エネの取り組みについて、「目標に近づくが、達成には至らないだろう」と予想。25年の目標を達成できなければ、排出量を抑制に向けた中国の実行力について世界中で疑念が広がると懸念を示したセンター・フォー・リサーチ・オン・エナジー・アンド・クリーンエアの首席アナリスト、ラウリ・マイリビルタ氏は、「中国が外交面の信用を著しく損なう」リスクもあると指摘。「中国は長い間、自国の公約実行能力を強調する一方、他国が高い目標を掲げていることを批判してきた」と言う」

    中国は、発展途上国のリーダーを目指し、脱炭素がその外交手段になってきた。それが、事実と異なれば、信頼失墜は免れない。 

    (4)「中国は排出量が増えており、全世界の年間総排出量に占める比率は35%に達している。国際エネルギー機関(IEA)の先週の発表によると、中国は国民1人当たりの排出量が経済協力開発機構(OECD)加盟国平均より15%多い。マダン氏によると、中国が目標を達成するためには、鉱工業と建設業における省エネに重点を置き、老朽化した施設の建て替えや改修を行う企業に対してより多くの財政支援を行う必要がある。また炭素市場の拡大も有効だという」 

    中国は、EV・電池・太陽光発電パネルの3種類を輸出産業として育成しているが、いずれも鉱工業と密接な関係がある。建設業は、インフラ投資の核である。こうみると、経済成長パターンと密接に関わっていることが分る。脱炭素の実現に大きな壁があるのだ。

     

    (5)「中国の統計局が先月発表したところによると、2023年のエネルギー強度は0.5%の低下で、目標の2%低下に届かなかった。しかし中国は先月、化石燃料への取り組みに焦点を当てるため、原子力や再生可能エネルギーといった非化石燃料をエネルギー強度の算定から除外している。マイリビルタ氏によると、中国は昨年のエネルギー強度算定の際にこの手法変更をさかのぼって適用している。変更がなかったとすればエネルギー強度は0.5%の上昇だった。マイリビルタ氏の試算によると、中国が2125年の目標を達成するためには、24年と25年にエネルギー強度を6%引き下げる必要がある。中国は炭素強度について新たな目標を設定していないが、経済成長に伴って炭素強度は今年約3%低下すると専門家は見ている 

    下線部は、今年の炭素強度が3%低下するとみられる。これは、経済成長率の低下による「自然減」であろう。皮肉な話である。

     

     

     

     

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