欧米では、軒並みAIインフラ株が2~4割も急騰している。中国の場合、逆に1~3割も下落だ。この差はなにか。中国は、AIサーバーに必要な特殊変圧器が供給不足で、輸入したAIサーバーが在庫として山積みになっていることにある。原因は、電磁鋼板の製造能力が極端に少ないのだ。第二の「先端半導体」と同じ苦境に立たされている。
AIサーバーは、瞬間的に電力負荷が跳ねるので、通常の変圧器では発熱し焼損リスクが高まるので特殊変圧器が必須条件である。欧米・日本は、この領域で数十年の電力工学・材料工学の蓄積があるから問題なく解決した。中国は、「形だけの変圧器メーカー」が多く、「AI向け特殊変圧器」を作れる企業が少ないのだ。その結果、サーバーが倉庫に積み上がっている。これは、「基礎技術のない国がAI大国を演じた結果の破綻」である。
『日本経済新聞 電子版』(9月22日付)は、「中国株『国策=買い』にあらず? 計算力6倍計画でもさえぬAIインフラ銘柄」と題する記事を掲載した
中国の電力インフラ株が伸び悩んでいる。人工知能(AI)データセンター建設で世界的に電力設備がボトルネックとなり、欧米市場で新たなAI関連として脚光を浴びている状況とは対照的だ。中国政府もAIの「算力(計算能力)」を6倍強とする計画を打ち出しているが、需要拡大が見込まれる中での関連株の値動きの鈍さはなぜか。
(1)「変圧器が、AI計算力の「ラストワンマイル」を阻んでいる――。中国経済紙の経済観察報は8日、江蘇省南通市のAIデータセンター計画でサーバーが4ヶ月以上も倉庫に積み上げられ、保管料だけで十数万元が費やされたと報じた。原因は、AIサーバーが生む電流のひずみに強い特殊な変圧器が調達できていないためだ。瞬時に電力負荷が大きく変わる画像処理半導体(GPU)を組み込んだAIサーバーは電流の波形を乱し、変圧器を通常以上に発熱させる。サーバーはこうした変圧器がなければ通電できず動作確認もできないという」
江蘇省南通市のAIデータセンター計画で、サーバーが4ヶ月以上も倉庫に積み上げられ、保管料だけで十数万元も掛っているという。計画性のない話で、いかにも中国的な思いつきに見える。
(2)「問題は、南通市だけでなく複数のデータセンター案件で発生しているという。別のプロジェクトの責任者は、同紙に対し「変圧器がなくて動作確認できないと残金を受け取れない。サーバーに不具合があっても責任の所在が分からなくなるので梱包を開けずに顧客の倉庫に山積みになっている」と話す。これまでAIサプライチェーン(供給網)では、半導体や光・電子部品、その部材、さらに電力そのものと、様々なボトルネックが指摘されてきた。今回の事案は、変圧器というAIデータセンターが稼働するうえで最後のパーツが不足していたというわけだ。
AIデータセンターが儲かるという話に飛びついた結果、特殊変圧器不足で頓挫している。中国経済の実態は、計画経済と異なり「目標数字」が先行して、後追いが始まるのであろう。AIデータセンターなど、日頃の中国経済の現実とは余りにもかけ離れた内容である。だから、特殊変圧器不足という事態に見舞われるのだ。
(3)「AIデータセンター向け変圧器不足は、電力設備各社に追い風となる。火災リスクが低い乾式変圧器大手の海南金盤智能科技は、AI関連の電力インフラ企業として注目されている1社だ。同社の2026年6月末の受注残は、前年同期末比で4割強増の106億元と、1〜6月期の売上高の3倍に達した。中でも海外からの新規受注額は41億元と前年同期比3.7倍となり、受注残は全体の約6割を海外が占めた」
乾式変圧器大手の海南金盤智能科技は、AI用の変圧器を製造できるが、輸出に向けている。採算が良いからだ。
(4)「習近平政権は、AIの計算能力を大幅に増強する計画を打ち出した。中国工業情報化省が9月7日に公表した情報通信業の5カ年計画では、30年にAIの計算能力を9800EFLOPS(エクサフロップス、1秒間に100京回の浮動小数点演算を行う能力)と25年の6倍強にする目標を掲げた。電力インフラ株にとって、足元の事業環境は本来なら買い材料だ。だが、金盤科技の株価は発表前の4日終値から17日までに6%下落。送電網や変電所も含めた電力インフラ株では思源電気は9%安、新疆特変電工は5%安だった。中国も米欧日も、電力設備各社の受注残がAIデータセンター向けなどで膨らんでいる点は変わらない。それにもかかわらず、中国の電力インフラ株の失速が目立つ」
中国工業情報化省が9月7日、AIの計算能力を30年に25年の6倍強にする目標を掲げた。皮肉にも、電力インフラ株は値下がりである。電力インフラ企業へしわ寄せが行くとみられているからだ。
(5)「中国の電力設備業界全体の増益率は、さらに縮小する。中国証券大手の国金証券によると、中国の主な送電関連の電力設備メーカー65社の26年1〜6月期の売上高合計は3272億元と前年同期比15%増えた一方、純利益は224億元と1%増にとどまった。受注の増加が利益成長につながっていない。成長が鈍いのは、中国の市場構造によるところが大きい。中国の電力設備各社の主要な取引先は、送配電網を担う国有の国家電網だ。加えてAIデータセンターを手掛ける国有通信会社や地方政府系の投資会社も顧客となる。いずれも国有・公的な大口需要家が相手で、価格転嫁が進みにくい構造が利益成長を抑えている可能性がある」
AIデータセンター建設では、国有の国家電網に加えて、国有通信会社や地方政府系の投資会社も関わる。この需要先メンバーから想定できるのは、「価格引下げ要求」である。これが、電力インフラ企業との価格交渉で不利になるという予測である。官需優先思想が滲み出ている。



