勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > アジア経済ニュース時評

    テイカカズラ
       

    日本を訪れる外国人観光客が、今年は4000万人(24年は3687万人で過去最高)に達すると言われている。すでに、オーバーツーリズムになっており「観光公害」が指摘されている。静岡県の富士市では、富士山の写真を撮る外国人が殺到して交通渋滞を引き起す騒ぎになっている。

    一方で、外国人観光客が2024年に国内消費した金額は8兆1395億円で過去最高となった。国内アパレル業界の市場規模並みの消費額と言われる。こうなると、観光公害を避けつつ、経済的なメリットを増やす方法を考えた方が「生産的」という指摘もある。つまり、人数が増えなくても消費金額を増やす方法を考えつけば、悩みは消えるというのだ。

    『ブルームバーグ』(1月24日付)は、「観光大国日本、賢い政策で国民に利益還元を」と題する記事を掲載した。

    日本の観光戦略が功を奏していることが、かつてないほど鮮明に示されている。24年の訪日客数は前年比47%増となった。新型コロナウイルス禍前のピークだった19年から16%も増えたのだ。

    (1)「24年のインバウンド消費は、なんと19年比69%増の8兆1000億円に達した。ドル換算では500億ドル超えだ。30年代に入る前に1年で訪日客6000万人に1000億ドル近くを使ってもらうというのが政府の目標だ。その額を考えると、レストランなど混雑などわずかな不便は我慢していいのではと思う。批判的なコメントが増えているのは気になる。そうは言っても、1000億ドルを補うどのような産業を想定しているのだろうか」

    やがて外国人観光客は年間6000万人、消費額1000億ドル時代が来る。観光公害は、今より酷くなる。対策が急務である。

    (2)「同じ規模の外国と比べると、日本にやって来る外国人観光客の数が極端に多いとは言えない。訪日客3400万人が平均7日間滞在すると仮定すると、日本の人口が約65万人多くなる日もあるとの試算すらある。真の問題は3つだ。
    1)訪日客受け入れの恩恵が明確に示されていないこと。
    2)訪日客が特定の地域に集中し過ぎていること。
    3)訪日客の増加ペースが速過ぎること。
    解決策は、観光大国としてあずかる恩恵を経済全体に行き渡らせることだ。訪日客から得る価値をもっと高める余地は十分にあるが、急激な観光客増加に追われる地方行政の対応は遅々として進んでいない」

    外国人観光客の問題点は、前記の3点に絞られる。これに対して、対策を講じればよいのだ。

    (3)「京都市は最近、宿泊税の上限を1泊1000円から1万円に引き上げる方針を示した。1万円が課せられるのは、1泊10万円以上のホテルや旅館を利用した場合だ。観光客が物価高騰を理由に訪日を控えているという証拠は全くない。19年と比較してホテルへの支出は倍増。円安効果よりはるかに大きい。もし、京都や渋谷のホテルが高過ぎると訪日客が感じるのであれば、むしろ好都合だ。別の場所に行ってみようという気になるだろう」

    京都市は最近、宿泊税の上限を1泊1万円へ引き上げる方針だ。1泊10万円以上のホテルや旅館を利用する人は、痛くもかゆくもないという想定だ。

    (4)「京都のような宿泊税の引き上げに及び腰の自治体があるとすれば、日本の居住者に課税しなければ、住民の理解を得られるのではないだろうか。19年に導入された「国際観光旅客税」、つまり日本を出国する際に課される1000円の税金にも同じことが言える。この税は日本国民や居住者を対象にすべきではない。ビザ(査証)なしで入国できるという利便性の対価として、もっと金額を引き上げ、入国時に訪日観光客が支払う明示的な税金とすればいい」

    高い宿泊税を徴収できない自治体には、海外旅行者に「出国税」1000円を課す。これを、地方自治体へ分ければ良い。ビザなし入国への税金と位置づける。

    (5)「今のような免税制度は考え直そう。同一店舗における1日の購入額が5000円以上で、外国のパスポート(旅券)を提示すれば消費税が免除されるというこの仕組みは、免税基準額が低過ぎる上に抜け穴だらけだ。少なくとも、日本がもっと呼び込みたいと考えている富裕層には不要だ。政府は、観光収入が国民に目に見える恩恵をもたらすことを説明する必要がある。そして、賢く課税すべきだ。日本のオーバーツーリズム問題は、その多くが賢明な政策によって緩和もしくは解決できる。例外があるとすれば、巨大なスーツケースだけだろう」

    もはや、免税措置は不要という。日本が目指している富裕層には、免税措置は不要であるからだ。日本は、富裕層へターゲットを絞った戦略に徹すれば、観光公害を減らせるであろう。

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    日本の労使は、今や賃上げ「共闘」でウイン・ウインの関係になっている。賃上げが、コスト・プッシュでなく、ディマンド・プッシュになるという共通認識に達したからだ。企業は、賃上げが新たな需要生み出し、それが回り回って自社にプラスになるという「循環構造」を認識したことだ。近江商法の「三方よし」(「売り手によし、買い手によし、世間によし」)の実践である。

    『ロイター』(1月22日付)は、「春闘スタート、経団連と連合が懇談会 賃上げ『定着』目指す」と題する記事を掲載した。

    経団連と連合が22日、都内で懇談会を開き、2025年春季労使交渉(春闘)が事実上始まった。労使ともに力強い賃上げの流れの「定着」を目指すことで方向性は一致しており、中小・小規模事業者や非正規労働者まで幅広く賃上げが広がるよう機運醸成を目指す。

    (1)「経団連の十倉雅和会長は懇談会後、記者団の取材に応じ、賃上げの「定着」とは持続的な賃金と分配の好循環が始まることだと説明。コスト・プッシュ型の賃上げではなく、ディマンド・プル型の循環としていかなければならないと語った。その上で、連合と経済界は社会保障や政府・民間の役割などで「驚くほど考え方が似ている」と指摘。労使が春に行う共闘という意味で「春闘」としたいと述べた」

    連合と経済界は、社会保障や政府・民間の役割などで「驚くほど考え方が似ている」と意見の一致をみたという。従来とは、全く異なる認識であり日本経済のためには良いことだ。

    (2)「連合の集計によると、24年は基本給を底上げするベースアップ(ベア)と定期昇給(定昇)を合わせた平均賃上げ率が5.1%と、33年ぶりの高水準だった。ベア率は3.56%で、集計を開始した15年以降で最も高かった。連合は、25年春闘は要求水準を「5%以上」で据え置き、それを最低ラインとして取り組むことで賃上げの定着を図る。24年に4.4%だった中小組合の賃上げ率の引き上げも目指し、中小組合は企業規模による格差を是正するため「1万8000円以上・6%以上」を目安とした」

    中小企業の賃上げが課題である。それには、賃上げに伴う設備投資に対して、補助金を出すなど生産性向上への支援も必要であろう。

    (3)「経団連は、この中小組合の要求水準について「目安、かつ労働運動であることを考慮しても極めて高い水準といわざるを得ない」との認識を示す。中小企業の賃上げ原資の安定的な確保には、中小企業自身による生産性向上や、サプライチェーン全体を通じた取り組みが必要となる。また、小売業など消費者と接点の多い業種では、価格転嫁に消費者が理解を示し受け入れることも重要となる。日本経済研究センターが15日に公表した「ESPフォーキャスト」1月調査によると、25年春闘の賃上げ率(厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」ベース)の予想値平均値は4.74%と、24年実績(5.33%)から鈍化する見通しとなっている」

    25年春闘の賃上げ率は、24年実績(5.33%)から若干減って、4.74%という見方も出ている。

    (4)「十倉会長は、懇談会の冒頭あいさつで、賃金引き上げのモメンタムを定着させる年にすると強調。ベアを念頭に置いた結果を呼び掛けていくとし、適正な価格転嫁と販売価格アップを受け入れることを社会的規範として浸透させることが重要との認識を示した。連合の芳野友子会長は「昨年は賃金も物価も経済も安定的に上昇する経済社会のステージ転換が図られたが、物価上昇はコスト・プッシュ型の要因が続いており、決して『上げ潮』とは言えない」と指摘。その上で、日本経済を底上げするには「隅々まで」賃上げが波及しなければならないと語った。懇談後、芳野会長は官邸で石破茂首相と面会。政労会見の開催を要請し、首相は前向きに検討すると応じたことを面会後、記者団に明らかにした。政労使会議については、具体的な日程は出なかったという」

    社会が、ルールとして適正な価格転嫁と販売価格アップを受け入れるようになれば、日本経済も様相が変わるであろう。一定の賃上げが実現すれば、年金支給額もアップする。こういう意味で、賃上げは「国民行事」になってきた。

    あじさいのたまご
       

    尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の内乱罪容疑捜査が行き詰まっている。尹氏は、独立捜査機関「高位公職者犯罪捜査処(公捜処)の取調べに対して、無言を貫いたので全く捜査が進まなかった。そこで、起訴権を持つ検察が再捜査しようとしたが、地裁が認めなかったもの。弁護団は24日、拘束期間延長を申請した検察に対し、「直ちに大統領の逮捕を取り消し、弾劾審判を見守りながら慎重に判断すべきだ」と求めた。

    現職大統領逮捕という異例の事態に対して、地裁は「拘束延長を認めない」という判断で対応したともみられる。公捜処は、文在寅(ムンジェイン)前大統領が、自身への捜査を防ぐべく設置した捜査機関ともされている。それだけに、捜査と起訴を分離して防御を固めたが、皮肉にも尹氏を起訴できず検察に委ねるほかなかった。こういう盲点が、現在の事態を生んでいる。

    『朝鮮日報』(1月25日付)は、「『捜査・起訴分離原則』、ソウル中央地裁 検察が要請した尹大統領の勾留延長を認めず」と題する記事を掲載した。

    ソウル中央地裁は24日、「尹大統領の勾留期限を来月6日まで延長してほしい」という検察の非常戒厳特別捜査本部の要請を受け入れなかった。捜査と起訴を分離する公捜処法の条項の趣旨に照らしてみると、公捜処が起訴意見を付けて送付した尹大統領の事件を検察が継続捜査することはできない、とみなしたわけだ。

    (1)「今月23日に公捜処から事件送付を受けた検察は、当初、裁判所から勾留期限を延長してもらった後に尹大統領を直接取り調べる方針だった。今週末中にソウル拘置所を訪れて尹大統領を対面で取り調べる案を有力に検討した。しかし勾留期限の延長不許可という裁判所の決定が出たことで、検察の計画は狂うことになった。検察は、ひとまず裁判所に勾留期限延長を再び求める方法を検討している。再申請もやはり不許可となった場合、尹大統領を取り調べることなく今週末にそのまま拘束起訴するか、釈放後に不拘束起訴することもあり得る。または、公捜処に事件を戻し、「勾留期限延長申請をせよ」と要求する方法もあるという」

    尹大統領が、これまでの取調べに応じないために本人捜査は事実上、「白紙」状態である。こうした事情で検察が拘束延長を求めたが、地裁が公捜処で捜査したはずとして、「再捜査」が認めなかった形だ。そこで、検察は再び拘束延長を要請しているが、却下の可能性が高いとみられている。

    (2)「この日、ソウル中央地裁は「捜査・起訴分離原則」を指摘しつつ尹大統領の勾留期限延長を不許可とした。公捜処が起訴を要求した事件を検察がなぜ追加で捜査するのか、というわけだ。先に検察と公捜処は、尹大統領の勾留期限最長20日をそれぞれ10日ずつ分けて使おう、と協議したが、裁判所はこの協議も法的根拠なしと判断したものとみられる。これは、そもそも公捜処法で検察・公捜処間の業務分担が明確に規定されていないからだ。公捜処法は、公捜処が直接起訴できない事件はソウル中央地検に送って起訴を要求せよ、と定めているだけだ。検察が補充捜査できるかどうか等についての具体的な規程はない」

    公捜処法は、文・前政権が大慌てで作った法律である。それだけに、肝心の部分が抜けていたのだ。検察が、補充捜査できるかどうか等についての具体的な規程はない、という。文氏は今頃、歯ぎしりしているだろう。

    (3)「公捜処は、今月15日に尹大統領を拘束し、続いて19日にソウル西部地裁で尹大統領の逮捕状の発付を認められた。1次勾留期限は逮捕期間を含めて計10日だが、そのうち、逮捕適否審と令状実質審査に要した時間は除外される。検察は、これを考慮すると尹大統領の勾留期限は26日頃満了する、と計算している。最終的に、今週末中に尹大統領の身辺処理案を決定しなければならないのだ」

    尹大統領の勾留期限は、26日頃満了になるという。それ以上は、拘束不可能となろう。釈放となれば、世論の「尹大統領支持率」が高まる可能性もある。韓国政治に新たな問題が持ち上がるだろう。

    (4)「法曹界では、検察が公捜処に事件を戻す可能性は低いとみている。尹大統領が公捜処の取調べに応じないので、実益がないのだ。検察は、尹大統領を取り調べることなく直ちに拘束起訴するか、ひとまず釈放して不拘束状態で起訴する案を検討するものと見込まれる。そうした中、尹大統領の捜査を巡る違法性の問題が幾つかあった。内乱罪の捜査権がない公捜処が職権乱用の「関連犯罪」として尹大統領の内乱容疑を捜査したこと、後に裁判を担当することになる中央地裁を差し置いて、西部地裁に尹大統領の逮捕状を請求したこと-などが論争になった。尹大統領側の弁護人団は24日、裁判所の決定が出た後、「尹大統領を即刻釈放せよ」と要求した」

    捜査側は、大きなミスを犯したようだ。内乱罪の捜査権がない公捜処が、尹大統領を捜査したこと。裁判を担当する中央地裁を差し置いて、尹大統領の逮捕状を西部地裁に請求したこと、などだ。功名心を焦って結果ともみられる。公捜処の捜査陣容は、文氏の息のかかった経験の浅い人物を集めていた。そこへ、「敵方」の尹大統領という絶好の対象者が現れて小躍りしたことは想像に難くない。喜んだ余りに手抜かりも多かったのだ。






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    日本の政策金利が、17年ぶりに0.50%へと引上げられる。17年ぶりの「金融正常化」だ。これまでの「金利のない」世界から、「金利のある」世界へと復帰する。0.50%の金利水準は、日本の潜在成長率とほぼ見合っている。つまり、日本経済が、この程度の金利であれば、問題なく支払える水準である。仮に、この0.50%金利に耐えられない企業は、自らの経営に問題があることを自覚するほかない。

    日本は、政策金利と潜在成長率がほぼ均衡しているので、経済が安定していることを示している。政策金利が潜在成長率と一致することで、インフレやデフレのリスクを抑えつつ、経済成長を促進できるからだ。このような状況では、日銀の金融政策が効果的に機能し、経済の安定と持続的な成長が期待される環境になった。

    『日本経済新聞 電子版』(1月24日付)は、「日銀・植田和男総裁、利上げペース『予断持たず』」と題する記事を掲載した。

    日銀は24日開いた金融政策決定会合で追加利上げを決めた。政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を、0.25%から0.5%に引き上げる。利上げは2024年7月会合以来で、政策金利は17年ぶりの水準に乗せる。

    (1)「植田和男総裁は24日午後の記者会見の冒頭、経済・物価の状況について「これまで示してきた見通しに沿って推移しており、先行き、見通しが実現していく確度は高まってきている」と発言。「本年の春季労使交渉において、昨年に続きしっかりとした賃上げを実施するといった声が多く聞かれている」とも述べた。「国際金融資本市場は全体として落ち着いている」などと、利上げの判断に至った理由を説明した。その上で「企業の賃金価格設定行動が積極化し、過去と比べると為替変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある」と指摘した。

    日銀は、ここまでこぎつけて内心、「ホット」しているであろう。25年春闘は、昨年以上の賃上げ目標が掲げられているので、賃上げは「押せ、押せ」ムードになっている。

    (2)「政策金利が、0.5%に達するのは17年ぶりとなる。過去との違いについて問われ、「一番大きな違いは2006〜07年はインフレ率がゼロ近辺だった。今回は(生鮮品を除いたベースで)2%を超える物価上昇率が3年前後続いており、その点は非常に大きな違いだ」と指摘した。「だからといってポンポン上げるかというと安易に考えずに、注意深く進めていきたい」と説明した。物価の先行きや日銀の利上げペースが遅れる(ビハインド・ザ・カーブの状況に陥る)との懸念に対しては、「(物価の見通しは)今年の半ばくらいまでの上方修正で、その後は落ち着いてくるものとみている。深刻なビハインド・ザ・カーブの状況にあるとは今のところ見ていない」と説明した」

    今回、17年ぶりに0.5%の金利水準になったのは、賃上げを背景に消費者物価上層が続いていることだ。日本経済にとって、「待望」の現象である。

    (3)「トランプ米大統領の関税政策については、「非常に不確実性が高い」として、「ある程度かたまり次第、私たちの見通しにも反映して政策運営に生かしていきたい」と述べた。トランプ政権の政策の不確実性が残るなかで今回利上げを決めた点に関して、「これまでのところ米国の新政権の動きは予想の範囲内にとどまっていて、マーケットも大きな混乱は発生していない」と指摘。そうした中で、「国内の経済・物価が見通し通りに動いており、ここで動かないということにはならないのではないかという判断だった」と説明した」

    トランプ関税はまだ、世界経済に波乱を引き起していない。日本が、利上げするには「絶好の機会」であった。

    (4)「企業の賃上げが、「単純に今年どれくらいにするかという視点だけでなく、中期的に賃金が上がるということを企業の中期経営計画に取り込みつつ、今年の賃金を決めていかないといけないという言及が増えている」と指摘。その上で、「これこそある種のノルム(社会通念)の変化だ」と説明した。日銀は24日、潜在成長率の推計値を引き下げた。その背景や理由を問われ「人手不足だ」と答えた。現状、ホテルなどが余っている設備を十分に使えていない課題があると指摘し、人手不足が日本経済のボトルネックになっているとの認識を示した」

    賃上げは、人手不足を反映して中期的に進むとみている。ただ、人手不足が潜在成長率の推計でマイナス要因になるほどだ。

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    世界的格付け3大企業の一角であるムーディーズが、サムスン電子の格付けを今後、引下げる可能性があると発表した。韓国経済を背負っている企業だけに、衝撃的なニュースである。ムーディーズは、半導体市場におけるサムスン電子の技術リーダーシップが弱まったという理由で信用格付け見通しを「否定的」に下方修正した。

    『ハンギョレ新聞』(1月24日付)は、「ムーディーズ、サムスン電子の信用等級展望を「否定的」に下方修正」と題する記事を掲載した。

    ムーディーズは24日、サムスン電子の無担保債券に対する信用等級について、現在のAa2で維持しながらも、等級展望を「安定的」から「否定的」に下げた。格付け展望は今後の変化の可能性に対するもので、格付け変更とは異なる。

    (1)「ムーディーズは、等級評価理由として「最近数年間、サムスン電子の半導体市場技術リーダーシップが弱まった」として「人工知能および最先端メモリー、ファウンドリ製品でリーダーシップを回復しようと努力しているが、激しい競争と急速に変わる市場環境の中で実行上の困難に直面していると見られる。特に、人工知能半導体に対する需要が急速に増加し、顧客オーダーメード型半導体を適時に開発する技術的難度が高まっている」と指摘した。サムスン電子が、世界的な半導体設計企業であるNVIDIAに第5世代高帯域幅メモリー(HBM3E)を供給することと関連して支障をきたぃている状況を指したものとみられる」

    李在鎔(イ・ジェヨンイ)会長は、2014年からサムスングループの経営支配権を握ってきた。2018年「180兆ウォン投資、4万人採用」、2019年「システム半導体ビジョン2030」など経営拡大策を発表してきた。だが、非メモリー半導体でライバルの台湾TSMCに、大きく水を開けられたままである。第5世代高帯域幅メモリー(HBM3E)では、未だに技術的壁によって、NVIDIAへ納品できない状況が続いている。「5ナノ」半導体も、製品歩留まり率が30%未満で大赤字が続いている。こうして、技術的に「八方塞がり」状態へ陥っている。

    (2)「収益性の悪化も同様に、格付け展望の下方修正に影響を及ぼした。ムーディーズの説明によると、中国企業との低価格メモリー製品競争が増え、サムスン電子のマージンは今後12~18カ月間、昨年同様に約11%水準を維持すると展望される。パソコンとモバイル市場の需要不振も収益性を制約する要因だ。これは2012~2022年の平均マージン(約16%)より低い水準に該当し、Aa2等級基準で弱い収益性と評価されるというのがムーディーズの判断だ」

    非メモリー半導体の製品歩留まり率が低い結果、大赤字に陥っている。高い技術的障壁を抱えており、解決のめどがついていない。こうして、格付けの現行Aa2等級を、今後とも維持できる見通しが立たなくなってきた。

    (3)「ムーディーズは、今後の等級上方修正条件として、サムスン電子が「半導体部門で技術リーダーシップを回復」し、「経営マージンを13~14%水準に回復」、「強力な財務状態を維持する場合」と提示した。だが、経営マージンが該当水準を下回ったり、キャッシュフロー弱化、純現金ポジション悪化、市場占有率弱化および技術リーダーシップ損失、より攻撃的な株主還元政策を導入する場合には、下方修正される可能性があると話した」

    ムーディーズが提示している条件は、いずれも厳しいものである。サムスンが、高収益力を回復しないかぎり、現状維持は不可能なものばかりである。現在の状況では、格下げになる公算が強まろう。

    (4)「これに対して、サムスン電子側は「信用等級展望下落だけで会社の財務状態に及ぼす影響はない」として、「根源的技術力を回復するために努力している。早く競争力を取り戻すために邁進する」という立場を明らかにした」

    格付けの低下は、社債発行条件引上げとして響いてくる。それは、金融費用の増大を意味する。企業として、「根源的技術力を回復するために努力」とは、なんとも気の毒に映るのだ。


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