中国は、住宅不況の影響で鉄鋼需要は年間で約4500万トンも縮小しており、過剰設備の圧力が鉄鋼市況の低下をもたらしている。現在(9月時点)の鉄鋼業界の稼働率(操業度)は、約74.6%である。とくに中小の民間製鉄所では、不動産不況の影響を強く受けており、稼働率が60%台に落ち込んでいる。
かつては、強制的に鉄鋼設備の廃棄を行なったが、現在はそういう強制性はないものの、新規の鉄鋼投資では、1.5倍の旧設備廃棄を義務づけることになった。新規投資による過剰設備を防ぐ目的である。
『ロイター』(10月25日付)は、「中国、鉄鋼生産抑制へ対策強化 電炉や水素還元技術を奨励」と題する記事を掲載した。
中国工業情報化省は24日、鉄鋼生産能力の抑制に向けた強化案を発表した。新たに鉄鋼生産能力を追加する際、それを上回る既存生産能力の削減を義務付けることなどが柱。温室効果ガスの排出削減につながる電炉の導入促進や水素還元製鉄の技術開発を奨励することも打ち出した。
(1)「中国は2024年8月、鉄鋼業界の過剰生産能力を抑制する従来のプログラムについて、見直しのため一時停止すると発表した。このプログラムでは、鉄鋼生産能力を追加する際に、既存の生産能力を少なくとも同量減らすことを義務付けていた。工業情報化省の声明によると、鉄鋼の総生産量に明確な目標が設定されている省・市では、他地域からの生産能力移転を受け入れることができないとされた。また、新規生産能力1トンに対して、少なくとも1.5トンの既存生産能力を削減することを義務付ける」
鉄鋼産業は、温室効果ガス削減の観点から、電炉の導入促進や水素還元製鉄技術の開発が奨励されている。単なる能力削減ではなく、技術革新と環境対応を含めた構造改革の色合いが濃くなっている。
(2)「北京、天津、河北およびその周辺、長江デルタ地域といった重点地域では、新規の鉄鋼生産能力を追加することや、非重点地域から重点地域への生産能力の移転、重点地域間の生産能力の移転について、いずれも禁止する。このほか、鉄スクラップの利用を促進して電炉を計画的に展開することや、水素還元の製鉄技術を開発することを奨励するとした」
鉄鋼産業は、多量の二酸化炭素の排出で問題を起こしている。それだけに新規設備投資では、過剰設備の削減も同時に行なう。2025年時点での中国の鉄鋼生産能力は、約10億トンに達している。これは、世界全体の粗鋼生産の約半分を占めるので、過剰設備であることは間違いない。操業度80%が「適正」とすれば、現在の能力のうち約2億トンが過剰と見なされている。設備が稼働していなくても、「存在している限り」市場の供給圧力となり、価格や需給バランスに影響を与え続ける。早急な設備調整が必要な背景である。




