勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    上場企業で希望退職を募集する動きが広がっている。人手不足が叫ばれるなか、「黒字リストラ」に踏み切る企業も少なくない。特に目立つのが電機業界だ。背景には変わる産業構造への危機感がある。

     

    『毎日新聞 電子版』(11月11日付)は、「黒字でも人員削減 なぜ電機メーカーで希望退職募集が相次ぐのか」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「三菱電機は9月、早期希望退職を募集すると発表した。「ネクストステージ支援制度特別措置」と名付け、対象は53歳以上で勤続3年以上の正社員と定年後の再雇用者。人数は定めていないが、従業員約4万2000人のうち約1万人が条件に該当する。業績は堅調だ。データセンター向けの設備需要などが高まり、10月31日に2026年3月期の業績予想を上方修正した。連結最終(当期)利益は前期比14.2%増の3700億円と過去最高を見込む。そのうえで今期中に売上高で8000億円規模に相当する事業の撤退可能性を見極める。同時に戦略分野と位置づけるデジタル関連事業への投資を加速させ、事業の「選択と集中」を進めるという」

     

    三菱電機は、従業員約4万2000人のうち約1万人が早期希望退職の対象となる。対象は、53歳以上で勤続3年以上の正社員と定年後の再雇用者である。この人たちの転職先はあるだろうか。その方が気になる。

     

    (2)「目標達成に向けてネックになっていたのが、従業員の高年齢化だ。「ポストがつまっていて、課長、部長になる年齢がどんどん遅くなっている」。漆間啓社長はこう断じる。社内で優秀な中堅・若手の役職登用が遅れ、人材の新陳代謝が鈍っているというのだ。 日本では長らく終身雇用が当たり前だった。「人を切る」ことには今なお否定的な見方もある。経営が傾いているわけでもないなら、なおさらだろう。実際、三菱電機も今回のように部門や人数を限定せず希望退職を募るのは初めてだという」

     

    抜擢人事と言っても実際は難しい。後輩が、上司になるのはなかなか受入れられないもの。昨日まで「くん」と呼んでいた後輩へ、明日から「さん」へ変るからだ。そうなると、一気に希望退職という手段になるのだろう。

     

    (3)「阿部恵成最高人事責任者(CHRO)は「当然ながら葛藤はあった。優秀な人材の流出を懸念する意見もあり、役員間で何度も議論を重ねた」と明かす。それでも実施に踏み切ったのは、「事業環境の劇的な変化に対応するには次世代のパッション(情熱)や柔軟性が欠かせないからだ」と阿部さんは強調する。対象の約1万人が、すべて会社を去れば事業は成り立たなくなる。そのため申し出の状況は注視しながら、「業績が好調なこのタイミングで退職金の加算金を十分に用意し、長年貢献してくれた社員にしっかり報いる。一人一人がキャリア形成を自律的に考えるきっかけにもしたい」と語った」

     

    社員「一人一人がキャリア形成を自律的に考えるきっかけにもしたい」としている。「学び直し」で絶えず新しいスキルを身につける。そういう社員像が、これからは必要になるのだろう。

     

    (4)「中長期的な競争力強化やさらなる業績改善に向け、黒字下で人員構造改革に動く企業は少なくない。東京商工リサーチの調査によると、25年1月から9月までに希望退職募集が判明した上場企業は34社で、うち6割強に当たる22社は直近の通期最終損益(単体)が黒字だった。東京商工リサーチの本間浩介さんは、「賃上げ機運の高まりで人件費負担が増していることや、トランプ関税の影響に備える予防的な側面も理由として考えられる」と指摘する」

     

    最近の賃上げ機運の高まりで、企業の人件費負担が増している。中高年社員が多いと,それだけ負担が重くなるというソロバンが弾かれている。

     

    (5)「オリンパスも7日、国内外で約2000人を削減すると発表した。9月末時点のグローバル従業員の約7%に相当する。シンプルな事業体制にすることで、年間約240億円のコスト削減を見込むという。26年3月期の連結業績は、減益となるものの940億円の最終黒字を予想している。24年にはリコーが国内で1000人程度の希望退職を募集すると発表した。ペーパーレス化で事務機器市場が縮小しており、オフィス向けのデジタルトランスフォーメーション(DX)支援などに投資を集中させる狙いがある」

     

    オリンパスは、人員削減でシンプルな事業体制にするとしている。AI(人工知能)の活用がいよいよ、定型業務を置き換える時代に入ったのだろう。

     

    (6)「電機業界に詳しい早稲田大の長内厚教授は、「この20年間で事業構造は大きく変化し、各社ともデジタル人材の不足が課題だ。世代間の従業員数のひずみを正し、能力の入れ替えを進めることが業界全体に求められている」とみる。現に大手電機各社では希望退職の募集のほか、経験者採用を拡大する動きも広がっている。富士通は25年度から「新卒一括採用」をやめ、必要な人材を通年採用する方針に改めた。長内教授は「人手不足のなか、即戦力となるデジタル人材も限られる」として、中高年層のリスキリング(学び直し)など、既存人材の活用がより重要になると指摘する」

     

    即戦力となるデジタル人材が求められている。社員構成を変える必要が出てくるのであろう。こうした時代的な要請が、今後は一段と強まる。

     

     

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    中国習近平国家主席は、26年から始まる15次五カ年計画の経済成長率について、4%台へ鈍化することを容認したようだ。すでに、5%ギリギリの成長率へ低下している以上、当然の結論であろう。中国最大の広東省は、今年19月成長率が4.%へ低下しており、中国の将来を暗示している。

     

    『ブルームバーグ』(11月11日付)は、「中国指導部、年4%への成長鈍化容認を示唆-今年の政府目標は5%前後」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の指導部が、経済成長の減速を受け入れる姿勢を強めている。習近平国家主席が広東省の成長が比較的低調であっても容認できるとの認識を示した。中国は今年、実質GDP(国内総生産)成長率で約5%の政府目標を達成する見込みだが、物価下落の影響で名目成長率はこれを下回っている」

     

    名目成長率は、7~9月期で3.7%である。4~6月期が3.9%であり、いずれも実質成長率を下回る「名実逆転」現象が起っている。本格的なデフレへ突入しているのだ。この状態で、「5%成長」などと言えば、笑われるところまで追詰められている。

     

    (2)「習氏に対し中国の省として最大の経済規模を誇る広東省の当局者が、同省の1~9月成長率が4.%にとどまり、全国平均の5.%を下回った一方で、前年同期よりは改善したと報告した際、習氏はこれを問題視しなかったという。国営の新華社通信によると、習氏は「広東省の経済規模は全国で依然として圧倒的な首位だ。この規模で現在の成長率を維持していること自体が引き続き大きな伸びを示している」と述べた」

     

    広東省は、製造業がメインである。労働集約型産業から技術集約型産業への転換が求められている。アパレル・玩具・雑貨などの低付加価値産業から、電子機器・新素材・バイオ・新エネルギー車などの高付加価値産業への移行である。

     

    広東省の産業再編は極めて困難な局面にある。現在の「輸出依存型・労働集約型モデルの限界」が明らかになっているからだ。米中対立で輸出が困難になっている。これを電子機器・新素材・バイオ・新エネルギー車などの「新たな成長軸」へ転換させるには環境が余りにも厳しすぎる。

    (3)「中国はデフレ圧力の長期化に直面。習氏のコメントは、内需と消費の拡大に重点を移し、成長率4%前後のペースを容認する最近の兆候をさらに裏付けている。習氏は先週、海南省と広東省を訪問した際にこうした発言を行った。李強首相は先週、GDPが5年後に170兆元(約3680兆円)を超えるとの見通しを明らかにした。これは、物価変動を考慮しないベースで2030年まで年平均約4%の成長率を意味する。また、中国共産党が発行した公式文書では、1人当たりのGDPを20~35年までの15年間で倍増させる目標を達成するには、今後10年にわたり年平均4.17%の成長を維持する必要があると説明している」

     

    李強首相は先週、2030年まで年平均約4%の名目成長率目標を掲げた。これは、「過大」である。今年の名目成長率が、4%を大きく割り込んでいる状況で実現は難しいであろう。2019年に、国務院(政府)と世界銀行が共同で行った2030代の平均潜在成長率は、なんと1.7%である。これは、全く改革が行われないケースを想定しているが、現状ほぼこの状態である。人口減という大きな壁が中国経済を襲うのだ。改革開放路線から遠く離れている以上、最悪事態を覚悟すべきだろう。

     

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    世界各地で中国を相手にした反ダンピング(不当廉売)や相殺関税に関する調査が広がっている。過剰生産を背景にした中国の「デフレ輸出」から国内産業を守るためだ。調査を踏まえた制裁関税の発動が相次ぎ、新たな貿易摩擦に発展するおそれがある。中国は、「新質生産力」を旗印に掲げているが、地方政府の補助金で過剰性が止まらず、その捌け口がデフレ輸出になっている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月10日付)は、「中国『デフレ輸出』にNo! 世界で不当廉売調査、新たな摩擦のおそれ」と題する記事を掲載した。

     

    反ダンピング関税や相殺関税は、世界貿易機関(WTO)が認める貿易救済措置だ。輸出国が国内向け製品に比べて輸出品の価格を不当に安くしている場合、輸入国はその差を埋めるために反ダンピング関税を課せる。輸出国が、補助金で外国向け製品の価格を引き下げている場合の対抗措置を相殺関税と呼ぶ。

     

    (1)「WTOによると、2025年1〜6月に各国が始めた中国製品に対する反ダンピングや相殺関税の調査は79件だった。半年ごとの件数は、21年から23年1〜6月まで20〜30件台にとどまっていたが、24年7〜12月には125件まで増えた。25年に入っても高水準で推移している。25年1〜6月の状況を国別にみると、米国が21件で最も多かった。第2次トランプ米政権の発足で米中の貿易対立が深まった影響とみられる。インドが10県で続いたほか、メキシコやブラジルなど経済規模が大きい新興国の動きも目立った。ブラジルは6月に中国から調達する鋼材への調査を始めた。インドは9月から中国産の太陽光発電の部品と携帯電話カバーを調べ始めた。日本も7月以降、中国製のステンレス冷延鋼板や亜鉛めっき鋼板への調査に入った」

     

    中国は、自由貿易の旗手のごとく振る舞っているが、実は「ダンピング王」である。2025年1〜6月に各国が始めた中国製品に対する反ダンピングや相殺関税の調査は79件だった。半年ごとの件数は、21年から23年1〜6月まで20〜30件台にとどまっていたが、24年7〜12月には125件まで増えている。中国の国内不況の裏返しである。

     

    (2)「背景にあるのが、中国によるデフレ輸出だ。不動産不況で内需がしぼんでも過大な生産能力を維持し、余剰分を輸出に回している。中国税関総署が毎月発表する貿易統計の速報値をもとに主要輸出品17品目の単価をみると、前年同月より下落した品目の割合は25年1〜10月の平均で68%に達した。23年に7割弱まで上昇し、その後は高止まりしている。習近平指導部は、国内で強まるデフレ圧力に対応するため、過剰生産の是正に動く。電気自動車(EV)や鉄鋼といった産業に対して過度な値下げや生産、投資を抑えるよう指示したものの、肝心の内需はさえずデフレ輸出が収まるには時間がかかりそうだ」

     

    中国は、企業への補助金が支給されているので、いつまでも過剰生産が続く構図になっている。ダンピング輸出が増えて当然だ。

     

    (3)「中国は、高関税政策を打ち出すトランプ政権を横目に、国際社会に自由貿易の旗振り役をアピールしてきた。ただ貿易拡大の結果としてデフレ輸出の受け皿となる新興国などは反発を強めている。対抗関税の導入など具体的な制裁を打ち出す国も出てきた。タイは7月までにクエン酸などへの課税を決定した。ベトナムも7月以降、中国産鋼板などへの反ダンピング関税を決めた」

     

    中国は、ダブルスタンダードが際立っている。自国の信頼を失うだけだ。

     

    (4)「中国も同じように、反ダンピング関税などで対抗する可能性がある。直近では9月に欧州連合(EU)産の豚肉とその関連商品を不当廉売と認定した。中国の貿易会社が輸入する場合、最大で輸入額の6割超に相当する保証金を納めるよう義務付けた。EUが中国製EVに課す追加関税への対抗措置とみられる。第一生命経済研究所の西浜徹主席エコノミストは、「グローバルサウス(新興・途上国)の国々との間で新たなあつれきが生まれる可能性がある」と指摘する。トランプ関税が世界貿易をかき乱すなか、中国のデフレ輸出を巡る対立が新たな貿易摩擦の火種となるおそれがある」

     

    EUと中国は、EVと豚肉で互いに反ダンピング関税で応酬している。EUが、中国のEVを反ダンピングやり玉に挙げれば、中国はEUの豚肉をやり玉に挙げている。

     

     

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    日本経済は、高市政権が打出す積極財政と金融緩和基調で解決できない事態を迎えている。人手不足によって、サービスを供給できない段階へ向っているからだ。労働生産性をいかに高めるかという問題を抱えているのだ。24年、人手不足で失った商機は16兆円という試算が出てきた。静岡県1県分というから驚かされる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月9日付)は、「人手不足が奪った年16兆円の商機 需要刺激だけで成長できない現実」

     

    人手不足が日本の経済成長を脅かしている。日本経済新聞が日本総合研究所と人手不足で生じた機会損失を試算したところ、その規模は年16兆円に達した。新政権は「積極財政」を掲げるが、需要を喚起するだけでは経済は回らない。労働生産性の改善など多様な政策が欠かせない。

     

    (1)「日本総研の西岡慎一主席研究員の計算モデルに基づき、過去の経済統計から、企業が生み出した付加価値と従業員に支払った賃金、雇用量の3要素の関係を分析した。人手不足の結果、押し下げられた実際の付加価値額と、賃上げで人手不足を補うことで生み出される想定付加価値額との差を機会損失と定義した。影響は年々大きくなっている」

     

    人手不足によって低下した付加価値額と、賃上げで生み出され付加価値額との差額は、機会損失(ビジネスチャンスを逸した損失)と定義している。つまり、前年の従業員数が減らずにいたならば、今年はこれだけの付加価値が上げられたという前提だ。

     

    (2)「2024年の機会損失は16兆円。過去5年で4倍に増え、名目GDP(国内総生産)の2.%に達した。最新の22年度の県民経済計算でみると、茨城県(14兆円)を上回り、人口約350万人、自動車などの産業が集積する静岡県(18兆円)へ迫る規模だ。16兆円のうち、13兆円がホテルや介護などの非製造業で5年前から10兆円増えた。非製造業には機械化が遅れている産業が多い。西岡氏は、「人手不足の下では積極財政の効果も損なわれる」と話す」

     

    2024年の機会損失は、16兆円にも上っている。茨城県(14兆円)と静岡県)18兆円)の中間である。人手不足下では、積極財政の効果は失われる。供給力増加に財政支出を振り向けることだ。

     

    (2)「10月6日夜、国慶節の祝日で多くの中国人旅行客が来日し、稼ぎ時のはずの栃木県日光市の大型旅館を訪れると、フロアの明かりはまばらだった。「これ以上さばけない。食事付きの申し込みは12割取りこぼしている」。日光市の鬼怒川パークホテルズの小野真社長は人手不足の苦しさを打ち明ける。従業員数は新型コロナウイルス禍前より4割少ない60人程度。約130室ある客室の稼働率は50%程度が限界だ。この日稼働できた宴会場は7つのうち2つだけだ」

     

    栃木県日光市の大型旅館では、人手不足で宿泊客を能力一杯まで受入れられず、1~2割も減らしている。この状態をどうカバーするか。新たなソフトが売られている。神奈川県陣屋ホテルが始めている。

     

    (3)「縮小均衡に陥った企業には「人手不足倒産」のリスクがはらむ。東京商工リサーチによると、24年度に求人難や従業員の退職、人件費高騰などを原因とする倒産は前年度比6割増の309件で過去最多となった。調査対象の約54万社のうち2.%が予備軍で、5年で0.3ポイント上昇した。10年前に「予備軍」だった企業はその後、4分の1が倒産や廃業などで事業を停止した。足元の状況はより深刻で、東京商工リサーチの原田三寛情報部長は「人手不足倒産企業についても今後急増する懸念は強い」と指摘する」

     

    人手不足による倒産予備軍は、2.%にも上がっている。10年前に「予備軍」だった企業はその後、4分の1が倒産や廃業などで事業を停止した。倒産を防ぐには、経営の意識改革が基本である。それができなければ、最悪事態を迎える

     

    (4)「人手不足などの影響で実行できない設備投資も積み上がっている。日本政策投資銀行によると、19働き方改革年度以降に主要企業の投資計画と実績の乖離(かいり)は10%前後で推移。24年度中に実行されなかった投資は1.9兆円になる。高市早苗首相は10月、労働時間規制の緩和検討に動いた。19年施行の働き方改革関連法は残業時間の上限を年720時間と定める。働き方改革で1人当たり労働時間が縮小する中、規制緩和で一定程度は労働供給を増やすことができる」

     

    働き方改革には、生産性向上の投資が連動している。その連関の輪が切れていたのでは、倒産事態と直結する。これまでは、財政支出や金融緩和で需要を喚起する政策がとられてきた。この政策ではもはや、効果を上げられない時代だ。供給力向上が、人的投資や生産性改善などを通じて求められている。アベノミクスは、終ったのだ。

     

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    日本企業の「現預金ため込み(キャッシュ・ホーディング)」問題への関心がにわかに高まっている。大企業の現預金残高は、2024年度末に約80兆円と20年前と比べて約2倍に増えた一方、成長投資に十分に資金が行き届いていないとの指摘が根強く、金融庁は、資金活用の説明責任を企業に求める方向で議論を開始した。

     

    『ロイター』(11月6日付)は、「大企業に眠る『現預金』80兆円、国がメス 賃上げ後押しか」

     

    高市早苗首相も著書などで同問題に注目している。企業への働きかけを通じて、人的投資に資金がより多く回るようになれば、持続的な賃上げの実現につながる可能性がある。「日本企業は海外企業と比べて現預金を多く保有する傾向がある」。大和総研の神尾篤史・主任研究員はこう指摘する。デフレが長年続いた日本では、現金の実質的価値が目減りしないため、経営者が急いで投資を実行するインセンティブ(動機付け)が働きづらい。

     

    (1)「財務省の法人企業統計調査によると、07年度に30兆円超だった大企業(金融保険業除く全産業、資本金10億円以上)が保有する現預金は、14年度に50兆円を突破。20年度以降は80兆円前後で推移する。日本では、バブル崩壊後の「貸し渋り」で資金繰りに苦しんだ企業が多いことからも、万が一に備えた保守的な財務戦略が元々根付いている。そうした傾向は、金融市場が機能不全に陥ったリーマン・ショックを境に拍車がかかり、最近では「新型コロナウイルス流行に伴う不確実性の高まりから、現預金を積み増す動きが一段と広がった」(神尾氏)。今や日本企業の総資産に占める現預金比率は、欧米企業の約2倍に達している」

     

    大企業が保有する現預金は、14年度に50兆円を突破。20年度以降は80兆円前後と巨額に達している最大要因は、法人税減税効果だ。日本は、2011年の30%から現在の23.%まで段階的に引き下げてきた。しかし、設備投資も人件費も目立った増加にならなかった。これは、企業を「丸儲け」させただけである。本欄は、10月2日付メルマガ709号で「日本『大改造計画!』、法人税率元へ戻し 所得再配分へ『経済底上げ』」を掲載した。内部留保を膨らませるだけの法人減税は、社会正義に反する問題だ。次の記事もご参考に。

    2025-10-02メルマガ709号 日本「大改造計画!」、法人税率元へ戻し 所得再配分へ「経済底上げ」



    (2)「日本の経営者には、キャッシュリッチの自覚はあまりないようだ。生命保険協会が昨年実施したアンケートによると、約7割の国内上場企業は自社の手元資金について「適正水準」と答えた。たしかに危機を想定した貯えは一定程度必要とはいえ、現預金を過剰に保有すると、総資産利益率(ROA)や総資産回転率の低下など、経営効率の悪化につながりやすい。成長投資に充てないのならば株主還元に力を入れてほしいと考える投資家も多く、アンケートでは、機関投資家の8割が手元資金は適正を上回る「余裕のある水準」に映ると回答している」

     

    「キャッシュリッチ」は、個人の財布感覚である。手元に、現金が十分あれば安心という類いの話だ。過剰な現預金保有は、総資産利益率(ROA)や総資産回転率を低下させるだけである。株価にはマイナスである。

     

    (3)「こうした中、金融庁は先月下旬、上場企業の行動原則を示した「コーポレートガバナンス・コード」改訂に向けた有識者会議を開催。人的資本や設備投資・研究開発への投資を促すために、現預金を有効活用できているか検証を求めていく方向性を打ち出した。とりわけ今回の改訂では、人的投資が大きな焦点の一つとなる。近年、日本企業の稼ぐ力は大きく改善している反面、総人件費の伸びは小幅にとどまっており、金融庁は従業員の給与・報酬に関する方針や、平均給与額の前年比増減率の開示を求めることも検討する」

     

    金融庁は、上場企業の行動原則を示した「コーポレートガバナンス・コード」改訂に向けて動き出した。現預金の有効活用を求めるというのだ。金融庁は、従業員の給与・報酬に関する方針や、平均給与額の前年比増減率の開示を求めることも検討するという。

     

    (4)「高市首相も、企業内に貯まった現預金の活用に強い関心を寄せる。昨年の自民党総裁選時には、ガバナンス・コードを改定し、内部留保の使途を明示させるべきと主張した。21年に出版した著書では、賃上げに向けて企業の現預金に課税する案を提言。「昇給を計画している企業については、現預金課税を免除する方法もある」と記した」

     

    高市氏は、賃上げに向けて企業の現預金に課税するというが、正統な手法ではない。すでに法人税を払っているから二重課税になる。それよりも、賃上げを渋っている企業には法人税率を引上げることだ。法人税率は、かつての30%へもどし、設備投資と十分な賃上げ行った企業に減税を認める方法に変えるべきだ。

     

    (5)「物価上昇を差し引いた実質賃金上昇率のマイナスが続き、国民の経済的不満が募る中、高市政権がキャッシュリッチ企業への働きかけを今後強める展開も考えられる。連合は先月、26年の春季労使交渉(春闘)の目標賃上げ率を前年と同じ「5%以上」にすると発表したが、米関税などに伴う景気の不透明感が漂う中、実現を懸念する声も出ている。ただ、大企業だけでなく「コロナ禍後は、中堅・中小企業の現預金保有規模が増加し続けている」(日本政策投資銀行)といい、キャッシュ・ホーディング問題を巡る議論が熱を帯びれば、国内企業全体の賃上げ余力の拡大につながる可能性もありそうだ」

     

    企業は、目立った投資も賃上げもしないにもかかわらず、減税を認めていることが失敗の原因である。投資と賃上げを十分に行う企業だけが、法人減税を認められるべきだ。

     

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