勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > アジア経済ニュース時評

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    中国の人口政策は、全く無定見である。風のまにまに、という表現がぴったりである。将来の人口動態を見据えたものでなく、「気分しだい」である。遼寧省が、奨励金付きの「生めよ増やせ」の政策を始めた。

     

    新中国の建国以前は、約4億人の人口であった。毛沢東は、社会主義国に過剰人口は存在しない、という屁理屈で「人口調整」に反対。以後、人口急増を招いた。この放任人口政策を改め、厳重な「一人っ子政策」になったのは、毛沢東死後の1979年である。この政策が厳格を極めて問題を引き起こし、2016年1月から「二人っ子」まで認めたが、社会情勢の変化で、「一人っ子でたくさん」という家庭が増えている。ここに、早くも「出生率増加プラン」は壁に突き当たっている。

     

    こうなると、急速な「少子高齢化」である。この事態に陥ると、日本もそうだが、労働力不足が起こって将来の社会保障の根幹が揺らぐ懸念を強める。米国は、中国のこの弱点を知り抜いており、「中国経済衰退」を確信しているという。

     

    米国防総省には、滅多に人の訪れない「奥の院」があるという。その部屋の壁には、中国の人口動態の推移を示す大きなグラフが掲げられている。そのグラフは、総人口に占める生産年齢人口比率の将来動向だ。このグラフを眺めれば、中国経済の将来が占える。国防総省の高齢の担当官は、「中国打倒の秘策」を毎日、思索し続けているという。米国が、覇権防衛にかける意欲は、凄まじいものがある。この人口政策で、中国は大きく出遅れており、米国の相手ではないようだ。

     

    中国は、今になって「人口増加策」を打ち出している。

     

    『北京放送』(7月24日)は、次のような放送をした。

     

    遼寧省政府がこのほど印刷・配布した『遼寧省人口発展計画(2016-30年)』は、子供を2人出産した家庭により多くの褒賞を与える政策を模索することを打ち出している。これによると、『出産支援、幼児養育などを含む“全面二孩”(夫婦1組につき2人までの子供の出産を全面的に認める政策)の付帯政策を確立し、整備する。出産した家庭の税金、教育、社会保障、住宅などに関する政策を整備し、子供を2人出産した家庭により多くの褒賞を与える政策を模索し、出産・養育の負担を軽減する』と提起した」

     

    遼寧省では、子どもを二人出産した家庭に、税金、教育、社会保障、住宅などに関する報奨制度を整備するという。二人の子どもを出産すれば、あらゆる面での優遇措置を受けられるのだ。「子どもは宝」と言うが、文字通りの「子宝」になる。

     

    利に賢い中国人のことだから、この超優遇策に乗って政府の思惑通りの出産になるか。子どもを育てる喜びは、物質的な利益が得られるという即物的なものとは違うはずだ。これだけの優遇策を講じられると逆に、純粋に子どもが欲しい家族の愛を冒涜する感じがするのだが、どうだろうか。大きな実験が始まる。

     


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    5年間続いた世界の半導体景気が、ようやくピークの時期に差し掛かってきたと指摘されている。半導体と言えば、今や韓国を代表する唯一の産業だ。自動車、鉄鋼、造船が軒並み不調の中、韓国経済を健気に支えてきた。それが、警戒信号を灯すとなると、不吉な話だが、「韓国終焉」の始まりとなろう。

     

    韓国の半導体は、日本の技術を窃取したことで基礎を固めた歴史がある。今や「世界のサムスン」だが、日本の半導体技術者を金曜の最終便でソウルへ連れて行き、日曜の最終便で羽田へ帰す形で、日本の技術を窃取した。中国も、この韓国に見倣って同じようなことを米国でやっている。儒教国には、こういうずる賢いところがあるのだ。「論語」は立派な教えだが、経済倫理までは教えなかった。その報いが、堅実な研究を怠らせ、国の経済を左右する事態を招いている。

     

    『朝鮮日報』(7月25日付)は、「ポスト半導体に備えない韓国」と題する社説を掲載した。

     

    韓国最大紙の嘆きである。文政権の経済政策は「反企業」「親労組」である。このように一方に偏った政権の下で、韓国経済が窒息するのは当然だ。「保守」が、韓国における諸悪の根源という認識である。大企業が弱ってへとへとになれば、「いい気味だ」という程度の認識の政府が、韓国経済の危機を救うどころか、傷を深めるに違いない。非常識な政権が登場したものだ。

     

    (1)「韓国の主力産業のうち、半導体は圧倒的な世界首位を維持する唯一の品目だ。世界市場を席巻していた造船業が没落し、自動車、鉄鋼、スマートフォン、ITなどが限界に直面した状況でも半導体はトップを守っている。韓国経済がそれでも23%台の成長を成し遂げられるのは半導体のおかげだ。昨年の韓国経済の成長率3.1%のうち、0.4ポイントは半導体によるものだった。半導体は輸出の20%、企業の営業利益の約4分の1、設備投資の20%を占める。半導体なき韓国経済は想像しにくい」

     

    半導体産業は、韓国経済の屋台骨である。それが、ピークを過ぎて傾きかけている。大変な事態だが、危機感はない。日本の技術を窃取して「高級アルバイト代」を払っただけで手にした宝物である。有難味がないのだろう。基礎研究から地道に築き上げたものなら、研究の副産物があるはず。技術窃取という「移植」だから、その副産物もないのだ。

     

    (2)「半導体好況が終わりゆくにもかかわらず、誰も『ポスト半導体』に備えていない『革新成長』『規制革新』は言葉だけで、政府は『反企業』『反市場』政策を相次いで繰り出している。未来の収益源を育成する産業戦略と競争力強化対策を考えている官庁はない。与党の院内代表という人物は、サムスン電子の成功を『下請け業者を搾取したおかげ』だとして、『積弊』と決め付けた。こんな国で世界トップを守れること自体が奇跡に近い」

     

    韓国財閥に共通しているのは下請け虐めである。その中で最近のサムスンは、下請けの保護に努め、買い叩きや代金支払い遅延防止などに努めてきたのは事実だ。与党の「アンチ企業派」は、大企業と聞けば蛇蝎のように嫌っている。こういう認識が、韓国経済を衰退に導くに違いない。同じ韓国国民としての連帯感がなく、企業を敵視する異常な精神状態だ。「感情8割:理性2割」の社会である。


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    きょう25日は、パキスタン下院選挙の日だ。今月上旬の世論調査では、反汚職を掲げる第3党パキスタン正義運動(PTI)と、軍の政治介入を批判する第1党イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)が伯仲していという。結果は、25日中に判明する。

     

    パキスタン新政権が、最初に取り組まなければならない問題は、IMF(国際通貨基金)からの緊急支援である。中国の主導する「一帯一路」計画にのめり込み過ぎ財政破綻の瀬戸際に立たされている。IMFは、緊急支援に当って「中パ経済回廊」プロジェクトの見直しを示唆している。中国にとって、「中パ経済回廊」が一帯一路の主要部分でもある。仮に、見直し対象になれば、大きな痛手を受ける。

     

    中パ経済回廊とは、中国が中東からの原油や物資をウイグル自治区まで陸路やパイプラインで輸送する上で、生命線と言える重要ルートである。つまり、中国北西部の新疆ウイグル自治区カシュガルから、アラビア海に面するパキスタン南西部のグワダルを結ぶ経済回廊だ。総延長は3000キロメートルにも達する。中国にとっては悲願の「中東への玄関口」確保である。将来、米中が軍事衝突して海洋封鎖されても、エネルギー確保が可能という狙いもある。IMFが、この重要プロジェクトにメスを入れると大変な影響を被る。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月24日付)は、「中国、一帯一路構想、パキスタンで暗雲」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の目指す現代版シルクロード経済圏構想『一帯一路』に、想定外のつまずきが生じていることを示す象徴的事例となった。中国による計画開始から3年、パキスタンは債務危機に近づいている。中国国営企業が資金を融通し、建設も手掛けるオレンジラインは、同国北東部の都市ラホールを高架で走る路線。中国はパキスタンで計画する総額620億ドル(約6兆9000億円)のインフラ計画の第一弾として、建設費用20億ドルを投じて空調完備の地下鉄を開通させる予定。このオレンジラインのような大規模事業のために中国からのローンや輸入が急増したことが債務危機の一因だ。パキスタン当局は、オレンジラインを運営するには政府の補助金が必要になると話す」

     


    を履行する能力が損なわれる可能性がある」状態だ。中国は、この状況を承知で巨額貸出を行なった。高架鉄道のオレンジラインは、最初から採算が採れないことを前提に建設している。運営費を政府が補助しなければ赤字に陥る問題路線だ。この路線の建設に20億ドルを投入している。これを含め、パキスタンは、総額620億ドル(約6兆9000億円)のインフラ投資を計画する。格付け「B-」では、支払い能力に疑問符がついて当然であろう。

     

    (2)「パキスタンの新政権は国際通貨基金(IMF)に2013年以来となる緊急支援を要請する公算が大きい。救済が行われる場合、借り入れや支出に制限が課されることとなり、一帯一路構想の中核をなす『中国パキスタン経済回廊(CPEC)』が計画縮小に追い込まれる可能性がある。そうなれば、中国としては大いに当惑する事態となる。中国は慢性的な政情不安を抱える人口2億人のパキスタンにとって、この計画がゲームチェンジャーになると信じ、諸外国に対して中国の進める開発モデルの有益性を証明するチャンスだと期待していた」

     

    IMFの緊急支援を仰げば、不要不急の「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」は見直し対象にされる。計画の大幅な縮小は避けられまい。IMFは、国家財政の立て直しによる債務返済を指導するので、CPECが棚上げされる可能性も出よう。もともと、中国の利益が大部分を占める開発計画である。中国が無償で資金提供するべき工事である。それを、パキスタンの負担で工事させるという「図々しさ」が、パキスタンの批判を浴びるはずだ。

     

     


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    北朝鮮は、米国の心変わりを最も心配しているという。11月の中間選挙が終われば、態度を変えて緊張状態に持ち込むのでないか。そう疑っているのだ。この話は、スウェーデン安全保障開発研究所(ISDP)コリア・センターのイ・サンス所長が『朝鮮日報』で明かした。

     

    一般には、米国が北朝鮮に騙されているのでないか。米国は、それを知りつつ11月の中間選挙を乗り切ろうと策しているのでないか。こう疑っている。色眼鏡を外して北朝鮮の動きを見ると、核を放棄して終戦宣言を欲しがっているのは北朝鮮だ。その証として最近、弾道ミサイル試験場の西海(ソヘ、黄海)衛星発射場を解体し、人工衛星で確認できたとの報道が出てきた。これらを総合すると、北朝鮮が米国の動きを警戒しながらも、一歩前へ出てきた感じだ。

     

    『朝鮮日報』(7月22日付)は、「スウェーデンの韓半島専門家、北朝鮮は米国の心変わりを懸念」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「スウェーデン安全保障開発研究所(ISDP)コリア・センターのイ・サンス所長は本紙とのインタビューに応じ『北朝鮮外務省など外交政策担当者は今の対話局面を前向きに受け止めているが、一方で朝鮮労働党や朝鮮人民軍は今後の交渉を決して楽観視していない』と述べた。イ氏は、『とりわけ北朝鮮内部では、米国のトランプ大統領は非核化の最初の段階では対話に応じたものの、11月の中間選挙後は突然態度を変えるのではないかと懸念している』『そのため終戦宣言など、まずは体制の安全に関する保証を取り付けるまでは、絶対に先には動き出さないだろう』との見方を示した」

     

    北朝鮮は、体制の安全保証を取り付けることが目的で、そのためには終戦宣言が必要である。米国が、これを認めない限り絶対に先には動き出さない。こういう主旨である。

     

    (2)「イ氏は、『北朝鮮が今望んでいるのは制裁の緩和ではなく、体制の安全が保証されることだ』との見方を示した。その証拠に今回の訪朝でもイ氏と制裁問題について議論する関係者はいなかったそうだ。イ氏は『北朝鮮は制裁緩和については米国との交渉過程で自然に達成されると考えている。そのため、むしろ終戦宣言締結の方に力を入れているようだ』と指摘する。また、北朝鮮の関係者らは『われわれ(北朝鮮)は他国と違って世論による対立もなく、野党によるけん制もない。最高指導者が決めれば何でもやるので、米国も韓国もわれわれを疑ってはならない』との考えを持っているという」

     

    北朝鮮が最も望んでいることは、制裁の緩和ではない。終戦宣言による体制の保証である。これが確立できれば、制裁緩和は自然に進む。北朝鮮は、最高指導者(金正恩氏)が決めたことを何でも実行する国である。だから、北朝鮮を疑ってはならない。

     

    北朝鮮は、以上の点を強調している。金正恩氏の発言を信用しろと言うのだが、過去二回も騙された経験がある以上、「ハイ、分りました」とも言えない不信感がある。

     

    米朝が、じっと相手の動きを見ているだけでは話が進まない。こう見た北朝鮮が動き出した。

     

    『中央日報』(7月24日付)は、「北朝鮮、米国との約束を履行? 西海衛星発射場の解体に着手」題する記事を掲載した。

     

    (3)「北朝鮮が弾道ミサイル試験場の西海(黄海)衛星発射場を解体する動きを見せていると、米国の北朝鮮分析サイト『38ノース』が7月23日(現地時間)報じた。6・12米朝首脳会談で、北朝鮮の金正恩国務委員長がトランプ米大統領に『近いうちに破壊する』と約束した場所である。『38ノース』は、報告書『北朝鮮西海衛星発射場の核心施設解体開始』で、『北朝鮮が西海衛星発射場の解体作業に入った』と分析した。『解体が進行中の主要施設は北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)プログラムの開発に主な役割をした。このような解体作業は北朝鮮が米国との信頼を築くための努力とみられる』とし、『金正恩委員長がシンガポール首脳会談の約束を履行する重要な最初の段階とも見ることができる』と評価した」

    米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」は、国際関係論研究で最も信頼性の高い米ジョンズ・ホプキンズ大学付属研究施設のサイトである。そこが、「金正恩委員長が、シンガポール首脳会談の約束を履行する重要な最初の段階とも見ることができる」と踏み込んだ分析をした点は注目される。北朝鮮が一歩動き出した。次は、米国の番である。終戦宣言か。


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    今から10年前、中国河北省でメラミン入り粉ミルクが販売され、世界中を騒がせた大事件が起こった。メラミンによってたんぱく質を偽装する事件だ。今度は、吉林省と四川省で検査不合格ワクチンが乳児に接種されて中国社会に衝撃を与えている。

     

    事件の概要は次のようなものだ。『大紀元』(7月24日付)が報じた。

     

    (1)「7月20日、吉林省の薬品管理当局は、ワクチンメーカーの長生生物科技(長生生物)が2017年に製造したDPTワクチンが品質基準に満たさないまま、山東省疾病予防センターに販売して接種された。このワクチンの対象は、3カ月の乳児から6歳の幼児までだ。販売した数は25万2600本という。吉林省当局は昨年10月27日にすでに、同社の製造状況について調査していた。しかし、中国国家薬品管理当局によると、吉林省当局が最近まで調査結果を伏せており、不正ワクチンの自主回収を実施しなかった」

     

    吉林省当局は、ワクチンが検査で不合格にもかかわらず、回収命令を出さなかったこと。調査結果を公表しなかったことなで、明らかにワクチンメーカー側に立って行政を行なっている。これは、メーカーとの癒着結果であり、補助金が絡んだ問題であろう。中国の当局と企業は補助金で結ばれ、今回の事件を誘発した要因と見られる。

     

    (2)「吉林省薬品当局は、長生生物に対して在庫のDPTワクチン186本を没収し、罰金344万2900元(約5853万円)の処分を科したに留まった。中国メディア『澎湃新聞』の22日の報道によると、山東省薬品管理当局の責任者は問題発覚直後、不適合ワクチンが省内に『どれぐらい残っているのか、どこの市・県に流通したのか、またすでに接種を受けた子供はどれくらいいるのかを、全く把握していない』と話した。中国国内メディアによると、他のワクチンメーカー、武漢生物が製造するDPTワクチンも当局の出荷基準に不合格であった。昨年11月に問題発覚にもかかわらず、ワクチン40万本が四川省重慶市、河北省各地に流通した。そのうち、144万本がすでに乳児に接種した。長生生物と武漢生物2社の問題ワクチンを接種した乳児は39万人に上る」

     

    他のワクチンメーカーの武漢生物でも長生生物と同様な事件を引き起こしている。検査不合格ワクチンは、流通しないように処分するはずだが、それを行なわなかった点で、全く同じである。官民癒着が背景にある。長生生物と武漢生物2社の問題ワクチンを接種した乳児は39万人にも上がる。今後、副作用が発生した場合、不合格ワクチンを処分せず流通を黙認した政府の責任が問われよう。

     

    中国政府が現在、取り組んでいる「中国製造2025」は、前記のワクチン同様に補助金が絡んでいる。中国ではあらゆる部門で補助金が湯水のように使われ、企業において緊張感を欠く原因になっている。補助金頼りの起業活動は、最終的な起業リスクを招かれるという甘えを許す結果になっている。この点が、中国経済を脆弱化させる大きな要因だ。甘えを許すことになっている。

     

    冒頭で取り上げた「メラミン入り粉ミルク」事件では、官は関係していなかった。個人の酪農家がミルクのタンパク質比率を高めるために行なった犯罪である。この悪事によって、毒粉ミルクを購入した家庭では、幼児が痛ましい犠牲になった。毒入り牛乳を知らずに購入した粉ミルクメーカーはその後、毒牛乳混入事実を知ったが伏せていた。秘かに回収に動いていたことが被害を拡大する結果となった。

     

    今回の不合格ワクチン問題では、地方政府がその事実を公表せず、流通させている。この点では、毒入りミルク製造企業と全く同じ対応をしている。「一般に知られなければ」という隠蔽体質が、中国の特質であることを示した事件である。


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