勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > アジア経済ニュース時評

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    習近平氏が、口を開けば必ず言うのは「中国製造2025」と「一帯一路」である。前
    者は、米国との貿易戦争が激化の気配を見せたので封印している。これ以上、米国を怒らせまいという配慮だ。後者の「一帯一路」の対象国は、財政上に難点がある国々である。中国マネーを高利で融資して工事を受注するという「ダブル・インカム」を狙ってきた。だが、「債務トラップ」という芳しくない評判を立てられている。習氏にとっては散々な状態だ。

     

    現実に、中国企業の「一帯一路」向け直接投資が減少に転じている。「債務トラップ」と噂が出るほどの国々へ直接投資してもリターンが得られる保証はない。こういう背景から、表題のように今年上半期の直接投資は、微減どころかかなりの落ち込みになった。

     

    『レコードチャイナ』(8月1日付)は、「一帯一路ブームに陰り? 中国企業の対沿線国投資16月は15%減」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国メディアの『人民網』(7月30日付)は、中国が進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の沿線55カ国に対する中国企業の16月の直接投資は前年同期比で15%減少し、76億8000万ドル(約8526億円)と報じた。対外投資全体に占める割合は12.3%で、主な投資国はシンガポール、ラオス、マレーシア、ベトナム、パキスタン、インドネシア、タイ、カンボジアだった」

    中国は、対米直接投資(今年上半期)が21億ドルに落込んだ。昨年通年で294億ドルである。今年上半期を通年換算しても42億ドルに過ぎない。前年比で86%減になる。対米投資は、米国が中国のスパイ活動を警戒して拒否している結果だ。こういう特殊事情はあるにせよ、「一帯一路」直接投資の減少は、中国の外貨資金繰りと無関係ではない。習氏は、「大言壮語」しているが、懐状態はかなり悪化していると見るべきだ。

     

    (2)「仏『RFI』(中国語版サイト)は、『一帯一路をめぐっては、世界中で困難に直面していると疑いの目が向けられている』とした上で、『中国商務部が最近発表したデータは、一帯一路ブームに陰りが見られることを別の面から証明するものだ』と伝えた。報道によると、英紙フ『ィナンシャル・タイムズ』は7月、『一帯一路』関連プロジェクトをめぐり、『沿線国では市民の反対や労働政策への抗議、施工延期、国の安全への懸念など多くのトラブルが発生している』とし、『一帯一路は世界中で困難に直面している』などと報じた。これに対し、中国外交部の報道官は『偏った見方であり、事実に合わない無責任な言論だ』などと反発していた」

     

    「一帯一路」は、汚職も輸出している点が厳しく問われている。「債務トラップ」に陥った国は、採算を無視して工事を強行した結果だ。この際、中国政府が相手国首脳に賄賂を掴ませたケースが指摘されている。「債務トラップ」は、「賄賂トラップ」でもある。

     

    パキスタンが、中国から50億ドルの債務で「一帯一路」工事を行なっている。このままでは財政が困窮するので、IMFへ緊急融資を依頼するだろうと見られる。これが、実現するとIMF筆頭出資国の米国が乗り出し、「一帯一路」がはらむ不明朗関係を洗い出すと宣言した。これに驚いているのが、中国政府とパキスタン軍部といわれている。中国は、自らの悪事が露見する。パキスタン軍部は、「一帯一路」工事で甘い汁を吸っているからだ。要するに、中国は叩けば埃の出る身なのだ。ご立派なことを臆面もなく仰るが、その裏ではどす黒い計画を練っている国である。


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    水害現場からの映像では、水が引いており消毒が始まっている。ダム決壊の原因調査が始まる見込みだ。事故を大きくした理由として、現場に復旧用設備がなかったという致命的な問題が明らかになっている。特に、工事を請け負ったSK建設は、韓国でダム建設1位の実績を持つ企業であるだけに、その対応に疑問符がついている。

     

    『レコードチャイナ』(7月31日付)は、「ラオスのダム決壊、現場に復旧用装備がなかったと判明」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「韓国『SBS』は、韓国のSK建設が建設中だったラオスのダムが決壊した事故をめぐり『事故前に沈下現象が確認された際、現場には復旧用の装備がほぼなかったという証言が出た』と報じた。ラオス・ダム建設の韓国の合弁会社は、国会報告で『ダムの沈下が確認された後に急いで復旧装備を手配した』と述べた。また、ダムの工事現場で働いていた従業員『2013年の工事開始時から、現場には施工会社であるSK建設の装備はなかった』と話したという」

     

    SBSは、ソウルを中心とする民放である。この報道によると、現場での復旧用の設備がなかったという。また、工事開始時からSK建設の建設機械装備がなかったという証言がある。これは、SK建設が下請けに「丸投げ」したとも受け取れる。こうなると、仮に手抜き工事があったとすれば、監督できなかったSK側の責任は免れまい。

     

    (2)「SBSが2013年にSK建設が結んだラオス・ダム工事の下請け契約書を確認したところ、ダム2つと補助ダム5つの大規模な工事であるにもかかわらず、下請け会社は1社だった。同社は昨年6月、請け負った土木工事とダム構造の工事を終え契約が終了したため撤収した。その際に主要な建設装備も運び出されたため、今回の緊急の状況で復旧装備がないという事態が発生したという。建設業界では『大規模な工事で一括下請負が行われることは異例』と指摘する声が上がっている。SBSは『大規模な工事を行っているにもかかわらず、問題発生時にすぐに投入できる装備を用意していなかった』と批判的に伝えている」

    7つのダムで、一つの下請け企業に工事を任せたことが疑問視されている。このような大規模工事では、複数の下請けが入るものと指摘されている。競争原理を働かせる意味で、複数の下請けは必要でなかったか、という点は再検討が必要かも知れない。


    (3)「これに対し、SK建設は『残るは仕上げの作業だけという状況だったため下請会社は撤収した』とし、『ダムの上部が流失した翌日に現地の業者に依頼してダンプトラックなど12台の装備を投入した』と説明したという」

    SK建設の弁解は、苦しいように見える。竣工して発注先に手渡すまでは、受注業者の責任である。経費削減という意味もあったのだろうが、現在が雨期であることを配慮すべきであった。こうした事故が起こって見ると、「事故は起こるべくして起こる」という昔ながら教訓が生きるはずだ。

     

     

     

     


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    中国の長年にわたる住宅バブルは、最後の爪痕を名もない庶民の家庭にハッキリと刻印している。目の飛び出るような高い住宅を手にした庶民は、毎月の債務返済に必死である。月々の返済が精一杯で消費を切り詰める日々の生活が続いている。

     

    考えてみれば、住宅バブルで最大の受益者になったのは中国政府である。地方政府に充分な財源を与えず、土地売却益(土地利用権売却益)で財源を賄わせる前近代的な財政構造である。中央政府が負うべき責任を果たさないで、地方政府に財源を押しつける清国時代の財政を彷彿とさせるのだ。中央政府は何をしてきたのか。軍備増強に励み、周辺国を威嚇することに全勢力を費やしてきた。不思議な政府である。

     

    ここで取り上げるアモイ市は、これから中国全土で起こる住宅バブル後遺症がいかなるものかを典型的に示している。その意味で、アモイ市はバブル後に起こる混乱の「ショウ・ウインドウ」である。中国政府は、この状況を認識しているはずだ。昨年末から突然、「農村Uターン運動」を始めた動機が、都市への人口集中抑制=住宅高騰の抑制にあることを窺わせている。中国の経済政策が、場当たり的であると思われる点はここだ。あれだけ、人口の都市化が、中国近代化の証であると笛と太鼓で騒いできた。それが一転、「農村Uターン運動」である。大きな矛楯にぶつかっているはずである。

     

    『ロイター』(7月25日付)は、「中国、厦門で消費失速、家計債務が米住宅危機直前の水準に」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の住宅価格は、所得比でみると世界で最も高い部類に入っており、何百万もの世帯が抱える債務はすでに、住宅危機直前の米国に匹敵する水準に達していることが、上海財経大学の高等研究院の調査で明らかになった。米国との貿易摩擦が熱を帯びる中、こうした債務が消費に悪影響を及ぼし、内需主導の成長を目指している中国政府の障害になる、とエコノミストは警鐘を鳴らす。中原銀行(北京)首席エコノミストのワン・ジュン氏は、減速する所得の伸びと高水準の家計債務により、短期的に消費者が経済成長に寄与するレベルが限られると指摘する。『住宅ローンの重荷が、それ以外の用途に支出できる可処分所得の額に影響を及ぼしている』。特に目立っているのが、福建省の豊かな沿岸都市、厦門市だ」

     

    中国沿岸部は、中国繁栄のシンボルである。林立する高層マンション群がそれを示している。だが、ここへ入居するには莫大な住宅ローンを背負わされている。家計から見れば、繁栄のシンボルでなく債務のくびきにあえぐ人々である。こうして、家計は債務返済を優先し、消費を切り詰める哀れな一群の人々に一変した。その理由は、中国の住宅価格が所得比でみると、世界で最も高い部類に入っているからだ。何百万もの世帯が抱える債務はすでに、住宅危機直前の米国に匹敵する水準に達している。この悲惨な状態が、上海財経大学の高等研究院の調査で明らかになった。

     

    (2)「約400万人の厦門(アモイ)市住民は、他のどの中国都市と比べても、債務水準が最も高くなっていることが、ロイターによる中銀データの分析で明らかになった。温暖な気候と豊富な魚介類、のんびりとしたライフスタイルで知られる厦門市は、不動産価格の高さでは全国第4位だが、住宅価格が同じレベルにある他の都市と比べると、所得はかなり低い。『厦門のライフスタイルに魅せられて、他の都市から福建省に不動産投機の波が押し寄せ、不動産価格を過去最高の水準に押し上げてしまい、地元住民の間でパニック買いが生じた』と厦門大学経済学大学院のWang Yanwu准教授は語る」

     

    アモイ市は、アヘン戦争で1841年にイギリス軍により占領され、翌年の南京条約によって外国人に開港された土地である。華僑発祥の地としても有名で、日本への華僑第一号はこの地域の人々とされている。開放的な雰囲気を持つ土地柄で、他の都市からの移住者も多く、これが住宅価格を押上げる要因になった。こうして、他のどの都市よりも債務水準が最も高くなっていることが、ロイターの分析で明らかにされた。このことは、アモイの住民が住宅バブルの重圧にあえぐ「貧乏くじ」を引く結果になったことを意味する。

     

    (詳細は、「勝又壽良の経済時評」8月3日に掲載します)


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    中国政府は、「台湾」の文字が現れただけで猛反発する神経過敏症に陥っている。それだけに、ベトナムで台湾企業が「中華民国旗」(台湾国旗)の掲揚を始めたことに抗議している。発端は、台湾企業がベトナム市民の「対中抗議デモ」で被害が及ばぬよう、自衛措置で台湾国旗の掲揚を始めたもの。中国外交部は早速、「抗議した」と記者会見で述べている。

     

    中国の「台湾」に対する意識は、病的なまでに高まっている。中国進出の外資系企業が、台湾を「国」と表記しただけで、「謝罪せよ」「書換えろ」という騒ぎだ。外国航空会社にも台湾表記は、「中国・台湾」と要求して書換えさせている。

     

    こういう中で起こったベトナムでの「台湾国旗」の掲揚である。単なる表記の問題を超えた「実力行使」に当る。この間の事情は、次のようなものだ。

     

    『大紀元』(7月30日付)は、「ベトナム、台湾企業の国旗掲揚を容認、反中デモ被害の対策で」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ベトナム政府がこのほど、現地台湾企業に対して中華民国の国旗『青天白日満地紅旗』の掲揚を容認したことが分かった。台湾メディア『中央社』が7月28日に報じた。ベトナムでは近年、国民の反中感情が高まっている。2014年5月、中国企業が南シナ海で石油を掘削し、これに抗議する大規模なデモが、ベトナム各地で起きた。一部の抗議者が暴徒化し、漢字の看板を掲げる企業を標的に破壊行為を繰り返した。中国企業のほかに、台湾、香港と日本の企業も大きな被害を受けた」

     

    ベトナムでは6月上旬、経済特区設置で中国資本の流入と、外国企業による経済特区での99年間土地租借に反発し、ハノイ市やホーチミン市など各地でデモが行われた。ベトナム人には、中国人、韓国人、日本人の区別がしにくいので、韓国系企業や日系企業がデモの被害に遭っている。台湾企業は、中国系企業でないことを表わすべく、「中華民国旗」の掲揚を始めた。

     

    (2)「中央社の報道によると、同国に拠点を置く台湾家具メーカー、凱勝家具の羅子文総裁は、ベトナム人が中台企業を区別できるよう、ベトナム政府が同社に対して台湾の国旗の掲揚を容認したと話した。同社の工場は145月反中デモで、暴徒化となった市民の襲撃を受け、約100万ドル(約1億1100万円)の被害が出たという。羅氏によると、これまで台湾の国旗を掲げた場合、ベトナムの警察当局が、中国当局からの圧力で、国旗降ろしを要求してきた。『現在、このようなことは起きていない』という」

     

    台湾家具メーカーは、「中華民国旗」と同時に米国国旗を掲げているという。ベトナム・デモ隊は、この二つの国旗を見ればおとなしく引き下がるのだろう。米国国旗の威力は絶大である。

     

    この事態を受けて、中国は面白いはずがない。中国外交部は、記者会見で次のような抗議をした。

     

    『レコードチャイナ』(7月31日付)は、「中華民国国旗掲揚をベトナムが容認、中国外交部コメント」と題する記事を掲載した。

     

    (3)「中国外交部の耿爽(グン・シュアン)報道官は、『台湾は中国の一部』と述べた上で、『中国はいかなる形式の“台湾独立”分裂活動にも断固反対する。ベトナム側にはすでに申し入れを行っており、ベトナムは誤ったやり方を是正するよう関係企業に命じている』と説明した」

     

    中国外交部の報道官は、ベトナム側が台湾企業に台湾国旗の掲揚を中止するように命じた、としている。だが、上記の通り台湾企業は掲揚を認められている。ベトナム政府の姿勢が変わったことを示唆している。中国の威力は低下してきたのだろう。


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    ラオスは、5~10月が雨期である。この最中に起こったダム決壊だけに、敏捷な救援活動を迫られている。韓国政府は、29日、ラオスのセピアン・セナムノイダム事故の被害支援に向け救護隊を派遣した。

     

    『韓国経済新聞』(7月30日付)は、「韓国政府緊急救護隊がラオス行き、ダム施工の韓国企業は被災者臨時宿舎の建設着手」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「韓国政府は29日、ラオスのセピアン・セナムノイダム事故の被害支援に向け救護隊を派遣した。輸送機2機に分乗してソウル空港を出発した韓国海外緊急救護隊(KDRT)は内科、小児科、救急医療、耳鼻咽喉科分野の医療陣15人と支援スタッフ5人で構成された。救護隊は10日間にわたり現地で被害地域住民の感染病予防と治療活動をする。ラオス救護隊第2陣の派遣は今後話し合われるという」

     

    韓国政府は7月29日、韓国軍の輸送機2機で医師やスタッフが現地へ到着した。今回のダム決壊では、日本の黒部ダムの貯水量(2億トン)の25倍、50億立方メートルもの大量の水が一気に流れ込んできたという。甚大な被害が出ているが、この程度の対応でいいのかと批判の声が上がっている。事故発生が7月23日。韓国の政府救援隊に出動が遅いと言われる理由だ。ただ、後のパラグラフにあるように、ダム建設を請け負ったSK建設が200人ほどの救援体制を組んでいる。

     

    (2)「SK側では、救護団長のチェ・グァンチョルSKグループ社会貢献委員長と、アン・ジェヒョンSK建設社長ら経営陣も、救護団員200人ほどとともに復旧作業をしている。救護団は被災者の健康管理と疾病予防に向け韓国政府が派遣した医療支援団と協調することにした。チェ委員長は『被災者が早く生活基盤に復帰できるよう努力している。被災者に救護品が不足しないよう支援する』と話した」

     

    今回の政府派遣の救援隊と協調するというが、政府救援隊の第2陣は今後の状況次第とされている。韓国政府が前面に出ることを控えているのか。今後に予想される賠償問題を意識して「半身に」構え始めたとすれば、本末転倒であろう。何が起ころうと、韓国政府が後に控えているという安心感を現地側に与えることが、国家としての信頼感を高める要因と思うのだが。

     

     

    (3)「セナムノイダムの施工を担当したSKグループも被害復旧に積極的に乗り出している。SKグループは29日にアッタプー県政府の要請を受け緊急救護団が被災者臨時宿舎建設工事に入ったと明らかにした。1万平方メートルの敷地に150世帯が生活できる宿舎を1カ月以内に完工する予定だ。工事が終われば学校などで生活する被災者が基礎便宜施設を備えた所で暮らせる」

     

    緊急住宅建設が150世帯で足りるはずがない。罹災家屋は3500棟ともいわれから、この程度では焼け石に水だ。それに、10月までは雨期にあたる。家屋復旧は最優先するべき事項だが、どうなっているだろうか。日本には、震災で使われた家屋が多数あるはず。日本政府も支援可能である。これも、韓国政府が動かなければどうにもならない話だ。


     


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