習近平氏の国粋主義では見通せなかった事態が、次々に起ころうとしている。米国は、対中関税を引き上げれば、中国に進出している外資系企業が中国を離れるだろうと計算していた。今、その目論見がまんまと的中しそうである。これが現実化すれば、「中国製造2025」でハイテク部品を製造しても、国内に購入先が減少するという新たな危機を迎える。
中国脱出を検討し始めたのは、台湾大手IT5社である。
『ブルームバーグ』(8月18日付)は、「投資先を南に、貿易戦争の影響回避へ、台湾EMS各社が中国拠点からの生産移管検討」と題する記事を掲載した。
(1)「米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」やパソコンなどの電子機器生産を請け負っている台湾の受託製造サービス(EMS)各社が、米中貿易戦争の影響を回避しようと、中国拠点からの生産移管を検討し始めた。生産の大部分を中東欧やメキシコ、東南アジアなどに移す準備を進めている。世界のIT産業の部品調達・供給網(サプライチェーン)計画にも影響しそうだ」
具体的には、次の各社である。仁宝電脳(コンパル)、鴻海精密工業(フォックスコン)、英業達(インベンテック)、広達電脳(クアンタ・コンピューター)、和硯聯合科技(ペガトロン)の台湾EMS大手5社だ。これら各社首脳は、過去1週間の決算発表の電話会議などの場で、貿易戦争の影響回避に向けた対策を相次いで説明した。
(2)「大手5社に緯創資通(ウィストロン)を加えた大手6社の昨年の売上高は、9兆1100億台湾元(約32兆7960億円)である。中国各地の生産拠点で電子機器を組み立て、米HPインクや米デルなどのブランド名で製品を供給するなど、ハイテク分野のグローバルサプライチェーンで重要な役割を果たしている。中国税関総署などの統計によると、16年に中国から米国に輸出した企業上位20社のうち、台湾のEMS大手6社傘下の企業が15社を占めた」
大手5社に緯創資通を加えた大手6社の昨年売上高は、約33兆円にも上っている。これら大手6社の傘下企業が、16年に中国で生産し米国へ輸出した金額は、上位20社のうち実に15社も占めている。これだけウエイトの高い台湾IT企業が、中国から脱出したならば、その影響は極めて大きい。中国当局が聞いたら、卒倒するほどの衝撃を受けるはずだ。
(3)「OEM(相手先ブランドによる生産)やODM(企画・設計を含めた委託生産)の利益は極めて低い。粗利益率でみると、4~6月期の仁宝電脳は3%をわずかに上回る水準。ライバルの広達電脳は約4.5%で、仮に米政府が中国からの輸入品に2000億ドル相当への追加関税を発動し、台湾企業の製品が対象となれば、利益は吹き飛ぶ」
台湾IT企業はOEMやODMゆえに祖利益率は5%以下である。ここへ、米国から20%の関税をかけられたら大赤字で倒産する。こうなると、中国脱出は死活問題になる。
(4)「英バークレイズ・バンクの地域担当エコノミスト、アンジェラ・シェイ氏(シンガポール在勤)は、「中国での生産インセンティブが次第に低下していることに加え、台湾当局は南への投資政策を推奨している。さらに、中国の労働コストが徐々に上昇しているからだ」と説明する。台湾では、米中の貿易戦争に対応し、生産移管を柱とする緊急対策策定の動きが加速している。鴻海精密工業の郭台銘会長兼最高経営責任者(CEO)はすでに米国で100億ドル規模の液晶パネル工場を開設している。台湾のシンクタンク、中華経済研究院の呉中書院長は、『米中通商摩擦はすぐには収まらない。台湾企業にとって生産拠点の分散は重要だ』と話した」
台湾当局は、東南アでの生産を勧めている。こうした後押しがあれば、いつまでも中国に止まる理由はなくなる。中国の「国粋派」は、思わざる事態の出現に頭を痛めるはずだ。中国は、「経済派」が実権を握らなければ国運を誤るだろう。





