中国経済は、心臓病に罹っている。預金の伸びが急落することは、脈拍の低下にも喩えられるからだ。預金残高は、銀行が貸出する場合の「原資」になる重要な存在である。それが細ってきたことは、脈拍低下と同じようなものだ。「経済の貧血」が起こっていると見なければならない。
先ず、金融の仕組みを若干、説明しておきたい。
現在の日本は、ゼロ金利時代で銀行貸出が少ない。銀行は、預金を余り歓迎しない「狂った」時代だ。これは標準形でない。中国では、企業も個人も銀行貸出に依存している。ここからはみ出た層は、シャドーバンキング(影の銀行)に駆け込んで資金調達してきた。
この構造から言えば、銀行預金残高の伸び率低下は、それだけ「信用創造機能」を脆弱化させるので、銀行の貸出し能力が減退することになる。こういうメカニズムを理解すれば、銀行預金残高の伸び率鈍化は、銀行の貸出し能力を低下させるので、経済活動を抑制するというマイナス作用をもたらす。
個人名義の貯蓄残高は、2008年に18%程度の伸びが、現在は7%前後にまで落ち込んでいる。銀行は、この預金を原資にその何倍かの貸出をして、利益を上げるシステムである。この「信用創造機能」が損なわれれば、中国経済は循環しないリスクに直面する。
中国人民銀行は、信用創造機能低下を補うべく、預金準備率の引下げに踏み切った。銀行は、預金全部を貸出に回せず一定比率は現金で保有しなければならない。それを預金準備率というが、それを今回引下げて、貸出額を増やせる措置を取ったもの。
『日本経済新聞 電子版』(10月7日付)は、「中国景気先行きに危機感、準備率下げ、放出資金は今年最大」と題する記事を掲載した。
(1)「中国が2018年に入って3回目の金融緩和に動いた。習近平(シー・ジンピン)指導部が米国との貿易戦争による打撃で景気の先行きに危機感を抱いていることを裏付けた。海外上場する中国企業の株価急落も懸念したとみられる。米国と欧州が利上げや金融政策の正常化に動く中での追加金融緩和は通貨人民元の下落圧力を高めそうだ。準備率の下げ幅は1ポイントと7月の2倍。4月も1ポイントだ」
今年3回目の預金準備率引き下げだ。引下げ幅は1%ポイントである。これによって実際に市中へ供給される資金は、今回も一部は人民銀への返済に回るが、差し引き7500億元(約12兆1875億円)が市中に出回る計算という。この金額は今年最大だ。
(2)「習指導部が懸念するのは、輸出依存の高い民間企業の経営である。もともと中国では国有企業は低金利で大量のお金を調達できる一方、民間企業は高金利でも貸し手がみつからない。当局が民間の資金調達先だった『影の銀行』を締めつけたところに貿易戦争の打撃が加わり、民間企業の資金繰り倒産がじわりと広がる。米国向けの輸出は1~8月に13%増と好調だが、これは7~9月の追加関税前の駆け込みが大きい。10月以降は反動減が予想され、民間企業の苦境は深まりそう。李克強(リー・クォーチャン)首相も9月に民間企業が集まる浙江省を訪れ、経営者に調達金利下げを約束していた。準備率下げで銀行が民間企業にお金を貸し出すよう促す」
中国では、国有企業は国有銀行から融資を受けやすいが、民間企業は冷遇されている。共産党政権は、国有企業から始った歴史もあり、民間企業の融資はシャドーバンキングに依存するというチグハグナ形になっている。このシャドーバンキングは、政府の誤算で4~7月まで厳しい貸出抑制を受けたので、民間企業は資金調達で難儀を強いられている。今回の預金準備率引き下げ目的は、これを緩和させるものと指摘されている。
中国経済の問題点は、民間企業が国有企業に比べあらゆる面でウエイトが高いにもかかわらず、金融面で不利な立場に立たされていることだ。シャドーバンキングなどという胡散臭いものに金融を依存する意味である。現在、この金融上の矛楯が噴出しており、中国経済の命取りになる懸念が付きまとっている。共産主義経済は、物量中心で金融を無視するという共通要因がある。中国が、まさにこの弱点にはまっている。
中国は、金融機能の重要性をどこまで理解しているか。金融が、統制経済と全く異質であることを理解しないようだ。中国が、ここまで過剰債務を背負った背景には、市場機能を封印したことが上げられる。市場には、モノとマネーの適正配分を行なう機能が備わっている。中国はこの市場機能を棚上げして、計画経済が最善の経済システムと信じている。その意味で、視野狭窄症的な欠陥が付きまとっている。繰り返せば、過剰債務と金利機能の軽視である。
中国政府が、民間企業の資金調達先をシャドーバンキングという非正規金融機関に押しつけていること自体、経済の総合的な設計に著しい欠陥があることを示している。木に竹を継ぐに等しいことをしているのだ。この点が、日本と全く異なる点である。とりわけ、金融の制度設計での未成熟さが、大きな蹉跌をもたらすとみられる。





