勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    中国は、相手国が自国利益に反すると判断した場合、経済的威圧行為を発動して、相手国を屈服させようと強引な手を打ってくる。当然、WTO(世界貿易機関)ルールに違反した行為だ。中国は、それにお構いなく強行するのだ。

     

    中国の経済的威圧行為は、どのように防ぐか、だ。かつて、日本も被害にあった。中国が、レアアースの輸出禁止措置に出たのだ。日本は、レアアースの在庫が多く、かつ技術革新でレアアースの使用を減らすことに成功。逆に音を上げたのが中国で漫画的な結果に終わった。これは、日本だから成功した面もある。他国では、中国の一方的な威圧行為に泣き寝入りさせられる。これを防ぐには、西側パートナー国が協力するほかない。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月27日付け)は、「中国の経済的威圧を阻止 G7の課題 ―駐日米大使寄稿」と題する記事を掲載した。

     

    米国のラーム・エマニュエル駐日大使が日本経済新聞に寄稿した。中国の経済的な威圧行為について、日本や欧州などの友好国と団結して対抗すべきだと訴えた。

     

    国際貿易制度は、規則順守というたった一つの単純な約束の上に成り立っている。2001年に巨大な市場と人口を抱える中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した際、国際社会はこれで中国の人々が貧困から解放され、世界的な経済の統一が実現すると信じていた。

     

    (1)「(中国は)市場改革を受け入れるどころかそれを無視し、自国の経済的利益に資するWTOの規定のみに従った。WTOで禁止されているにもかかわらず、補助金により自国の企業を不当に優位に立たせ、外国企業の市場参入を阻む中国の慣習はひどいものだ。しかしさらにひどいのは、中国の最も悪質で不変の経済破壊手段である経済的威圧のまん延だ」

     

    WTOには、規則違反に対する処罰規定が存在しない。中国は、WTOルールの裏表を知り抜いており、ルール違反を繰り返してきた。「やり得」になっているのだ。それ故、西側諸国は自衛するほかない。

     

    (2)「中国は、国際貿易を武器とし、まん延する知的財産窃盗、企業秘密を盗み出すスパイ、企業のシステムに対するサイバー攻撃など、多くの不法な手段を駆使している。さらには市場レバレッジを使って貿易ルールをゆがめ、他国に政治的姿勢を強制している。経済的威圧は、一種の政治的な戦いである。中国は10年に尖閣問題をめぐりレアアースの対日輸出を停止し、日本の産業と消費者に大きな打撃を与えた。12年に南シナ海でフィリピンと対立すると、中国はフィリピンから輸入されるフルーツの検疫を強化し、中国の漁師を「保護」するため船舶を送りフィリピン船に対して妨害行為を行った」

     

    日本は、技術を持っているので中国へ対抗できた。そうでない国は、泣き寝入りするほかない。理不尽な話である。まさに、「強者の論理」である。

     

    (3)「16年には、対北朝鮮防衛策として韓国が米国の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)を配備すると、中国は国内で韓国に対するボイコット運動を主導し、韓国の自国防衛を批判した。オーストラリアとリトアニアも同様の被害を受けた。新型コロナウイルスの発生源について豪州が独立した調査を求めたことに反発した中国は、豪州産の石炭、大麦、牛肉、銅、小麦の輸入規制を行った。また台湾の代表機関開設を機に、リトアニアとの貿易を停止した」

     

    韓国は、中国の威圧行為に対して抵抗するのでなく、さらに融和姿勢に出て事態を悪化させた。中国の思う壺へはまり込んだ。豪州とリトアニアは、臆することなく中国へ対抗している。豪州は、AUKUS(米英豪)という軍事同盟を結成した。リトアニアは、相互の大使を引き上げて「全面対抗」し、台湾と密接な関係を構築している。

     

    (4)「国際社会が経済的威圧に対して結束しなければ、中国は引き続き国の規模、発展レベル、物理的距離を問わず、他国とその経済を食い物にするだろう。現在の対応では不十分だ。統一された計画もない。誰かが先頭に立ってこの問題に対応しなければならない。中国の経済的威圧を阻止するため、またその阻止が失敗した場合に国際社会は何ができるのだろうか。第一に、主要7カ国(G7)やインド太平洋経済枠組み(IPEF)のような正式なもの、またはパートナー国との非公式な取り決めなどのグループ化を通じて、各国は中国の経済的威圧から自国を守ることができる。日本は、経済的威圧を今年のG7サミットの最重要課題にしている」

     

    G7やIPEFの場で、中国の経済的威圧行為に対抗するほかない。

     

    (5)「第二に、法治国家は供給網の回復力を強化するための独自の経済協力手段を備えている。我々は、中国の威圧的貿易の犠牲者に、輸出信用枠や迅速な許認可の供与など、実質的な救済をもたらさなくてはならない。例えば、欧州連合(EU)は抑止と報復政策を認める反威圧手段の採用を検討している。中国を阻止し、被害者を保護することができるのは、法の支配を支持し、経済的な関与は相互利益をもたらすべきだという考えを共有する国々による集団的な決意だけだ」

     

    中国から経済的威圧行為を受けた場合、パートナー国で相互支援して難局を切り抜けることだ。

     

    (6)「世界経済を主導する米国、日本、韓国、オーストラリア、英国、EUは、中国を阻止し、自国を守るため団結して行動しなくてはならない。どの国も傍観者ではいられない。統一された集団的行動が、中国による孤立と経済的威圧に立ち向かうための最大の攻撃であり防御である

     

    下線部分が、中国の不法行為へ対抗する手段であることは間違いない。中国は、こういう形で包囲網を作らせている。惜しいことをしているものだ。

     

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    米国は半導体武器に外交戦

    いずれ中国から撤退の韓国

    中国は半導体で手痛い打撃

    米後援で復活の日本半導体

     

    半導体が、戦略物資であることを改めて印象づけている。米国が発祥である半導体産業は、1991年のソ連崩壊後にコスト削減を狙って生産拠点を世界へ広げた。これにより、米国内の生産シェアが急速な低下に見舞われた。米国は、現在の米中対立をきっかけに、半導体技術を武器にして中国を包囲する体制を築き上げようとしている。その狙いは、ほぼ完成した段階だ。

     

    米国バイデン大統領は、上院議員時代から外交問題に精通し、8年間の副大統領時代の経験を基にして、素早い半導体の中国包囲網を立ち上げた。中国が、ゼロコロナ政策で「籠城」していた間に、半導体の世界地図は大きく塗り変わったのだ。

     

    最大の変化は、半導体で凋落した日本が再び、最先端半導体で世界トップへ踊り出ようとしていることである。1980年代後半に半導体世界シェア50%を握っていた日本が、米国との半導体摩擦で米国の術中に嵌められ、その後のシェアは大きく後退した。現在は10%程度にまで凋落している。その日本が、米国IBMと技術提携して最先端半導体(2ナノ以下)へ進出すべく、国策会社「ラピダス」が北海道で新工場を建設する。2025年に試作品、27年に量産化体制を樹立する。素早い復活劇である。

     

    米国は半導体武器に外交戦

    米国は、これまで半導体を「武器」に使って外交戦を切り開いてきた。最初の相手が日本である。米国は、GDPで迫り来る日本に対して、半導体規制と急速円高への煽動によって日本を突き放した。今度は中国が相手である。対日本と同じ半導体戦略を用い、米同盟国を結束させ、中国の先端半導体製造を窮地に追込もうとしている。米国の外交戦略は、海洋国家特有の手法である同盟国を束ねることだ。誰も反対できない、民主主義という「価値観」が旗印になっている。

     

    半導体による中国包囲網には、関係国が米国、日本、韓国、台湾、オランダと5ヶ国に過ぎないことで、結束しやすいことが背景にある。米国、日本、オランダは、半導体製造装置で寡占状態を維持する。この三カ国は、中国への先端半導体装置輸出を不可能にさせた。

     

    韓国と台湾は、半導体生産で抜きん出た存在である。だが、半導体製造装置や半導体素材を生産していない弱点を抱える。その中で唯一日本は、製造装置・素材・加工という全分野を擁している国だ。かつて半導体50%シェアを握った日本は、こうした潜在力が未だ健在なのだ。韓国が、旧徴用工賠償を国内で解決して、日本へ急接近している裏には、日本の半導体総合力への魅力がある。この問題については、後で取り上げることにする。

     

    米国は、国内で半導体を生産する企業に補助金を支給する。これは「アメ玉」である。だが、補助金を支給された企業は、中国で先端半導体生産について制約条件がつく。「ムチ」も用意されているのだ。これが、半導体中国包囲網の中身である。先端半導体製造装置については、米・日・オランダによる輸出禁止令がすでに出されている。

     

    米商務省が、半導体法ガードレール(投資制限装置)規定を3月21日に発表した。要約すると、次のような内容だ。10年間に生産能力が5%以上増えない限り、技術のアップグレードを許容する。これを越える生産能力の拡大投資は、10万ドル以上が禁止される。技術開発でウェハーあたりのチップ数が増えることは生産能力拡大とみなさない。この半導体法ガードレールが、日進月歩の半導体産業にとって大きな障害になることは明らかだ。

     

    韓国半導体企業は、これまで中国で数兆円規模の投資をしてきた。この巨額投資が、これからは大きな制約を受けることで、経営上の負担となろう。いずれは、中国半導体工場を中国へ売却して引揚げる事態も想定されるのだ。

     

    いずれ中国から撤退の韓国

    サムスンは3月15日、こうした米国半導体法のガードレールによる中国投資への制約を忌避すべく、韓国国内でこれまでにない大規模投資計画を発表した。今後20年間で総額300兆ウォン(約31兆円)を投じ、ソウル市近郊に受託生産の新拠点を建設すると発表した。サムスンは、半導体工場として韓国国内のほかに米国に2拠点、中国に1拠点を構える。今回、新拠点を自国に整備する背景には、米中対立の影響が大きいと見るべきだ。

     

    サムスンにとっては、国内4カ所目となる半導体生産拠点は、ソウル近郊の龍仁市に710万平方メートルの敷地を確保。2026年に着工し、29年ごろの稼働を目指すとしている。その後も、受託生産とメモリーの先端半導体を量産する工場を計5棟建設する計画である。

     

    サムスンは、この大計画を実現する上で、日本との関係強化を最も重視している。半導体製造装置や素材の供給面で、日本企業との関係を蜜にすることが不可欠であるからだ。サムスンにとって永遠のライバル企業は、台湾のTSMCである。このTSMCは、日本の半導体製造装置や素材のメーカーと共同研究を行なっている。それだけに、この日台共同研究の成果が、TSMCの業績に反映されることは間違いない。製品歩留まりで、TSMCがすでにサムスンを大幅に上回っており、これも両社の業績格差に現れている。(つづく) 

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    北京の日本人ビジネスコミュニティで、重要なポジションにあるとされる50代の男性が、国内法(反スパイ法)違反容疑で拘束された。中国当局は、拘束理由を説明していない。かつて同様の容疑で拘束・逮捕され収監された人物によると、容疑内容は食事の際に北朝鮮の話を質問しただけという。その時の食事相手が、密告したと言うから、中国社会には至るところに「罠」が仕掛けられている。危険ゾーンになった。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月25日付)は、「北京で50代邦人男性拘束 日系企業幹部、国内法違反で」と題する記事を掲載した。

     

    日系企業幹部の50代の日本人男性が3月、北京市で当局に拘束されたことが25日わかった。中国当局は国内法に違反したと主張している。日本政府は早期の解放を中国政府に求めている。日中関係筋が明らかにした。

     

    (1)「日本政府は、在中国日本大使館を通じて領事面会や関係者との連絡などの支援を試みている。現時点で面会はできていない。中国側は男性の拘束に至る経緯について日本側に十分に説明していないとみられる。中国は2014年以降、反スパイ法や国家安全法の制定を通じ国内の統制を強め、外国人を厳しく監視するようになった。その後、今回を除き少なくとも16人の邦人がスパイ行為に関わったとして拘束されたことが判明している」

     

    中国は2014年以降、反スパイ法や国家安全法の制定を通じ国内の統制を強めている。だが、それ以前から外国人への警戒感は極めて強かった。電話盗聴は当たり前であったのだ。日本の有力都市の上海駐在員は1990年代、盗聴前提で日本へ中国の不便な部分を伝え、現地での業務が遂行できないので引揚げると連絡した。そうしたら、上海市担当者が飛んできて直ぐに改善したという。盗聴の結果だ。

     

    日本メディアの中国特派員の苦労話も読んだことがある。中国当局から濡れ衣を着せられないように、公共交通機関では鞄を常に手に抱えて移動したという。これは、車中でうっかり居眠りでもしていると、その隙に鞄へ機密資料を忍び込ませておき、逮捕するという「汚い手」を使うからだ。驚くべき手を使って、スパイ容疑者に仕立てる凄腕なのだ。陰謀渦巻く中国で、外国人が安全に生き延びるのは極めて難しい。

     

    中国は、スパイ行為を摘発するための「反スパイ法」を改正する。現行法よりスパイ行為の定義を広げ、国家の安全や利益に関わる情報を取ったり漏らしたりする行為に幅広く網をかけるのが特徴とされる。あいまいな規定も多く、当局による恣意的な運用が懸念されるのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月13日付)は、「中国、スパイ行為の対象拡大 資料やデータに幅広く網」と題する記事を掲載した。

     

    2022年12月までに2回の審議を終え、可決する段階にある。反スパイ法は14年の施行以来、初めての改正。これまで同法関連で少なくとも16人の日本人が拘束され、改正案が施行すれば取り締まりがさらに強化されそうだ。中国の公務員や国有企業職員がさらに萎縮し、外国人との交流に影響が出る事態も懸念される。

     

    (2)「改正案は、「国家安全や利益にかかわる文書、データ、資料、物品」をこっそり探ったり、提供したりする行動を「スパイ行為」と定めた。現行法は「国家機密」の提供に絞っていた。どこまでが国家の安全や利益にかかわる内容なのか定めはなく、不明確さはぬぐえない。中国で事業展開する外資系企業が競合相手となる中国国有企業の情報収集をする場合も、スパイ行為に認定されるリスクがある」

     

    問題は、「こっそり」と重要な国家の安全に関わる文書、データ、資料、物品を探り出す行為がスパイ行為とされる。こういう規定だと、メディア取材は極めて危険になる。個別取材は、スパイ行為と紙一重になるからだ。

     

    日本には中国人スパイが、1000人単位で潜伏していると言われる。だが、肝心の強力な取締法が存在しない。日本では中国にスパイを自由にやられているのだ。日本人は、中国でちょっとした言動でも収監される。余りにも不公平な扱いである。日本では、戦前の苦い経験で「スパイ取締」が、日本人の言論弾圧に利用されることを警戒している。

     

    (3)「摘発機関である国家安全当局の権限も大幅に強めた。スパイ行為の疑いがある人物の手荷物検査をできるようにした。国家の安全に危害を加える可能性がある者の出国を禁じる権限も与えた。スパイ行為の疑いがある個人や組織が利用する「電子機器や設備、プログラムやツール」も調査できるとした。会社や個人が所有するパソコンやスマホ、インストールしたアプリなどにも捜査の手が及ぶ可能性がある

    下線部は、中国によって日本企業のビジネス情報を抜き取ることに悪用される危険性が高い。これでは、もはや安心して公正なビジネスは不可能になってくる。現地駐在員の安全を考えれば、「利益より人命優先」という時代になってきた。

     

    ムシトリナデシコ
       

    中国の習近平国家主席は3月20、21日の両日、ロシアを公式訪問。プーチン大統領と会談し、ウクライナ危機について「中国は平和と対話を求めていく」と発言した。これを額面通りに受け取れば、中国が殺傷性にある武器をロシアへ供与しないことになる。だが20日、中ロ首脳は二人きりで4時間もウクライナ問題について討議したと見られている。何らかの「密約」が交わされたのでないかという憶測は消えないのだ。

     

    中ロの首脳会談前、米国は活発な両国へのけん制を行なった。中国が武器供与に踏み切れば、戦線が拡大するという懸念を表明していた。中国は、ここで武器供与へ踏み切れば、経済制裁を受けて、「ゼロコロナ」による病み上がり経済が徹底的なダメージを受けることは明らか。こうした状況から、「中国は平和と対話を求めていく」という和平路線を守らざるを得ないであろうという見方も強い。西側は今後も、中国の豹変を封じなければならないことに変わりない。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月25日付)は、「仏EU首脳、一緒に訪中へ『結束した欧州の声』伝える」と題する記事を掲載した。

     

    欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は、4月上旬にフランスのマクロン大統領とともに中国を訪問する。マクロン氏が3月24日、フォンデアライエン氏に一部日程の同行を提案したと明らかにした。「結束した欧州の声」を中国に伝えるのが目的としている。

     

    (1)「24日のEU首脳会議後の記者会見では、ロシアのウクライナ侵攻に関して中国に協調を求めると述べた。「ロシアに対して化学兵器や核兵器の使用を控え、紛争をやめるよう」中国が圧力をかけることを要望する。フォンデアライエン氏の同行は、フランス単独ではなくEUとしての要請である点を強調する狙いがあるとみられる。マクロン氏はかねて4月上旬に中国を訪問する予定を明らかにしていた。ロイター通信によると、EUの報道官はフォンデアライエン氏が4月の第1週にマクロン氏とともに中国を訪れると認めた」

     

    中国にとって、EUは貴重な「外交窓口」である。米国との対立が激化している中で、EUとの関係が希薄になると、文字通り「世界の孤児」になりかねないのだ。EUは、この中国の苦しい立場を見抜いており、EUのフォンデアライエン欧州委員長とフランスのマクロン大統領が、ともに中国を訪問して欧州の厳しい声を伝える。

     

    これとは別に、スペインのサンチェス首相は3月30日から中国を訪問する。ロシアとウクライナの仲裁役に意欲を示す中国に対し、ウクライナの意向尊重を求める欧州の立場を説明する目的だ。スペインは7月からEU議長国を務める予定で、欧州の代表としての意見交換を意識しているとみられる。

     

    今回の訪問はスペインと中国の国交50周年を記念し、習近平国家主席がサンチェス氏を招待したもの。サンチェス氏は、「ウクライナの和平に関する習氏の立場を理解したうえで、和平の条件を決めるのはウクライナであることを伝えるのは重要だ」と語っている。

     

    このように3~4月にかけてEU欧州委員長(EU首相に当る)やフランス、スペインの首脳による相次ぐ訪中は、中国にとって正念場になろう。適当にあしらうような返事をしておきながら、後でロシアへの武器供与が発覚した場合、中国はEUからも「破門」されるリスクを背負う。外交に「二枚舌」は禁物なのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(2月24日付)は、「NATO事務総長『中国信用されていない』 仲裁案巡り」と題する記事を掲載した。

     

    北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は2月24日、中国が公表したロシアのウクライナ侵攻に関する文書に関し「中国は信用されていない」と述べ、ロシア寄りとされる中国は仲介役として信用できないとの見方を示した。

     

    (2)「ストルテンベルグ氏は、「中国は違法なウクライナ侵攻を非難できないのであまり信用されていない」と指摘。「中国がロシアに軍事支援を供与しようとしている兆候が見られるが、すべきではない」と警告した」

     

    NATO事務総長は、これまでも一貫して中国への信頼欠如を表明してきた。これは、NATO内での中国スパイの露骨な動きから起こっている。ファーウェイを使った組織的スパイ活動は、大きな非難を浴びたのだ。こういう伏線があるので、中国の武器供与が明らかになれば、EUは一挙に「反中国」へ動き出すであろう。

    テイカカズラ
       


    中国不動産バブル崩壊の象徴的な存在である中国恒大は、外債返済に対してドルでなく、恒大の関連会社株式で充当するという不誠意な回答を出してきた。倒産すれば無価値になるよりも、関連会社株式の方が未だ良いであろうという話である。外債に対してはドル返済が原則。これを破棄した動きだ。これによって、中国企業の外債発行は、有担保でない限り、大きなブレーキになろう。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月24日付)は、「中国恒大の債務再編、他社債権者への警鐘に」と題する記事を掲載した。

     

    中国の不動産開発大手、中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)が中国本土外(オフショア)の債権者に対してようやく債務再編計画を発表した。だが、つらい思いをしてきた債券投資家が痛みから解放されるのは、まだ先のようだ。

     

    (1)「これは、恒大の同業他社がオフショアで発行した債券を保有する投資家への警鐘でもある。多くの投資家はこれらの債券を大量に購入した。中国では住宅の所有が政治的な問題であるため、広範囲にわたる本格的な不動産不況に陥るのを中国政府が容認するはずはないと考えたためだ。ところが、その考えは間違いだったことが明らかになり、投資家は今後、大きな代償を払うことになる可能性が高い」

     

    中国社会主義を信じていた向きには、大きなしっぺ返しが起こっている。債務を履行しないのだ。

     

    (2)「恒大は22日、オフショア債190億ドル(約2兆4800億円)の再編計画を発表した。債権者には二つの選択肢が与えられた。保有債券を新たな10~12年債と交換するか、恒大とその香港上場2部門(不動産サービス部門など)の株式に転換可能な証券および新たな59年債と交換するか、を選ぶことができる。どちらの選択肢も特に魅力的なものではない。恒大は新発10~12年債のクーポンについて(現金ではなく)追加債券で支払う方法を選べる。新発5~9年債についても部分的にそうすることが可能だ。恒大株などに転換可能な証券には、もっとうまみがあるかもしれない。ただそれも非常に不確かだ」

     

    オフショア債190億ドルは、新たな10~12年債と交換するか、恒大関連企業の株式に転換可能な5~9年債に交換する案が出された。だが、中国の不動産市場に本格回復の希望はない。単なる気休めである。

     

    (3)「恒大の不動産サービス部門は理論上、集合住宅の管理業務から比較的安定した収入を得ることができる。だが昨年、同部門の預金を恒大が自社の借り入れの担保として不正流用していたことが発覚。これを受けて、銀行が同部門の預金約20億ドルを差し押さえた。香港に上場している恒大の電気自動車(EV)部門も、実質的には不動産開発会社だ。EV事業とは名ばかりで、これまでの納入台数は約900台にとどまる。同部門は22日、少なくとも43億ドルの追加資金を確保できなければ生産停止もあり得ると発表した。恒大の香港上場株と香港上場2部門の株式は、財務報告書を期限までに提出できなかったことを受けて約1年にわたり取引停止となっている」

     

    恒大が提案している代替案の中身は、いずれもパッとしないもの。とても安心して新規提案には乗れそうもない。

     

    (4)「もっとも債権者にとって、これ以上の選択肢はないだろう。香港上場2部門の株式の価値は、恒大が中国本土外で所有する資産の中ですでに上位クラスだ。恒大が委託したデロイトの試算によると、会社を清算した場合、既発オフショア債の回収可能額は元本の2~9%にとどまる。このような回収率の低さに驚きはない。恒大のドル建て債が額面1ドル当たり10セントを割り込んでから久しいためだ」

     

    恒大のドル建て債は、すでに額面1ドル当たり10セントを割り込んだ状態だ。債権者は、ここまで落込んでいる状況では、代替案を飲むか飲まないかは、もうどうにでもよい状況かも知れない。

     

    (5)「根本的な問題は、恒大の資産の大部分が中国本土の事業会社にあり、その事業会社も負債を抱えていることだ。本土外の債権者は持ち株会社に融資しており、本土の債権者よりも弁済順位が低くなってしまう。恒大は2021年末時点で、中国本土に約6130億元(約11兆7500億円)、本土外に約1410億元の負債を抱えていた」

     

    恒大は、21年末で合計7540億ドルの債務を抱える。本土外債権者(外債)は、弁済順位が国内よりも低くなる。海外債権者は、踏んだり蹴ったりの状態である。

     

    (6)「しかも、悪いニュースはこれで終わりではない。恒大の債務再編計画は最終的に、本土外に多くの負債を抱え、恒大のように苦境に陥っている他の中国不動産開発会社の「ひな型」になる可能性がある。例えば、融創中国(サナック・チャイナ)や佳兆業集団(カイサ・グループ)などだ。オフショア投資家は恒大のケースと同様、資産を直接保有する本土企業ではなく本土外の持ち株会社に融資している。つまり、これらの投資家も弁済順位が最下位になる可能性があるのだ。中国企業の本土外からの借り入れ能力は長期的に大きなダメージを負うかもしれない。だがその一方で、外国の債権者は全ての責任を押し付けられる羽目になる」

     

    中国政府は、恒大の外債返済について不干渉である。国内債権者優遇に動いている。こういう実態を見れば、もはや中国企業の外債購入は危険極まりないことが分かる。中国は今後、企業の外債発行が難しくなろう。

     

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