勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    中国国家主席の習氏は、経済政策の的を間違えている。インフラ投資重視によって、国民の生活上の信頼感を得られるとみているのだ。インフラ投資は、景気刺激効果が落ちている。債務を増やすだけである。14億人の国民が、生活への自信を取戻すには、インフラ投資にだけ頼る訳にいかないのだ。中国経済を復活させる手がかりは唯一、国民に生活上での安心感を与えることにある。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月1日付)は、「中国経済の悪循環 断つすべはあるのか」と題する記事を掲載した。

     

    中国は恐らく、労働市場と消費者心理の改善なくして崩壊した住宅市場を立て直すことはできないだろう。だが、消費者の活力や労働市場の好調もまた、住宅部門の健全さに依存している。政府がこの悪循環を断ち切る方法を見つけるまでは、中国のさえない景気回復は続くとみたほうがよさそうだ。

     

    (1)「2023年の中国の成長は今なお一定しない。中国国家統計局が11月30日に発表した同月の購買担当者指数(PMI)はそれを痛感させるものだった。 建設業PMIがわずかに上昇した一方で、製造業とサービス業のPMIはさらに低下した。サービス業PMIは活動の拡大・縮小の分かれ目である50を今年初めて割り込んだ。経済成長は夏の終わり頃に一時改善したが、すでに息切れしているようだ。製造業の問題の一部は海外にある。サブインデックス(副指数)の新規輸出受注指数は0.5ポイント低下して46.3となり、今年最低だった7月の水準に逆戻りした

     

    下線部の新規輸出受注指数が、11月は0.5ポイント低下である。広州の貿易交易会での商談が不発に終わったことを示している。

     

    (2)「特にサービス業では、新型コロナウイルス流行中の消費者信頼感、借り入れ、雇用見通しの著しい悪化がいまだ回復への大きな障害となっている。家計は2021年末の住宅市場崩壊と「ゼロコロナ」政策に基づく22年のロックダウン(都市封鎖)という残酷なワンツーパンチを食らい、まだ立ち上がれていない。これらの要因が雇用市場と、家計にとって重要な富の源泉である住宅市場の致命傷になったも同然だ。

     

    ゼロコロナ期間の家計圧迫が現在も続いている。先進国は、家計へ現金を給付して購買力の直接支援をした。中国は、インフラ投資だけである。この差が、中国家計において信頼感低下として現れている。中国家計は、疲弊仕切っているのだ。国有企業が、インフラ投資で潤っただけである。

     

    (3)「振り返ってみると、21年末から22年初めの時期がいかに重要だったかが明白になる。サービス業の雇用は20年初めからすでに比較的低調だったが、21年初めは建設業の雇用、家計の借り入れ、信頼感はいずれも高水準にあった。21年終盤にはこの3つ全てが下降トレンドに転じ、上海などの主要都市のコロナ流行を受けて政府が経済の大部分を停止させた後の22年初めには、救いがたいほどの水準に落ち込んだ」

     

    現在の家計借り入れや信頼感は、大きく落ち込んでいる。この背景には、雇用状態の悪化がある。中国では、失業率が景気のバロメーターにはならず、製造業やサービス業のPMIの雇用状況を見るほかない。

     

    (4)「その後遺症は長引いた。2021年9月以降のサービス業と建設業の雇用に関するサブインデックスの平均は、それ以前の5年間の平均をそれぞれ1.4ポイント、4.3ポイント下回っている。コンサルティング会社ガベカル・ドラゴノミクスによると、23年の名目家計所得の伸びは約6%にとどまる。2017、18、19年と21年はおよそ9%だった。消費者信頼感と借り入れは、コロナ前のすう勢をはるかに下回る水準で推移している

     

    名目家計所得の伸び率は、従来の9%が23年に6%へ鈍化している。コロナ前の趨勢を下回っている。これでは、消費者信頼感が高くなるはずがない。景気停滞の元凶はここにある。

     

    (5)「理由はいくつかあるが、重要な点は以下に集約される労働市場の深刻な状況が続く限り、家計は借金したり住宅を購入したりする気になれず、不動産開発業者の財務に対する信頼も低い。だが、住宅部門が回復しない限り、労働市場の足場も安定しないだろう。なぜなら住宅部門は建設労働者だけでなく、不動産仲介や家具販売にかかわる人々、トラック運転手、技術者、その他多くの人々に対し、直接的または間接的に多数の雇用を提供しているからだ」

     

    住宅部門の回復がない限り、労働市場の安定はない。これが、消費者信頼感を引下げており、消費も回復しないのだ。となると、住宅部門の未完成工事をどうやって完成させるかが、景気対策の基本になる。中国指導部は、この肝心な部分を行わないで、道路や橋の建設ばかりに夢中になっている。的外れである。 

     

    (6)「政府が、何らかの形で不動産開発業者の大がかりな救済に乗り出さない限り、経済がこのわなから効果的に逃れられるとは考えがたいしかし、ここ数年は住宅市場での投機や不動産業者の放漫経営を律することが政府のスローガンのようになっており、救済は政治的に至難の業だ。大規模な金融危機が起きない限り、最も抵抗に遭いにくいのは、遅々とした足取りで前進し続けることなのかもしれない」

     

    政府は、住宅の未完成工事を優先して完成させなければ、民心が安定しないだろう。この微妙な点が、習氏は理解できずに堂々巡りをしている。

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    G20の一員であるアルゼンチンのモンディノ次期外相は11月30日、新興5カ国(BRICS)に加盟しないとX(旧ツイッター)で表明した。BRICSは8月の首脳会議で、アルゼンチンを含む6カ国の新規加盟を決定していた。『ロイター』(12月1日付)が報じた。

     

    これは、中国にとって衝撃である。中国は、BRICSを基盤にして西側諸国へ対抗する遠大な計画を立てていた。BRICS加盟国を増やす計画は、中国の発案であっただけに、アルゼンチンの離脱が中国へ打撃である。

     

    『ロイター』(11月21日付)は、「中国、アルゼンチンが関係断絶すれば『重大な過ち』と指摘」と題する記事を掲載した。

     

    中国外務省は21日、同国やブラジルのような主要国との関係を断ち切ることはアルゼンチン外交の「重大な過ち」になると表明した。

     

    (1)「毛寧報道官は定例記者会見で、中国はアルゼンチンにとって重要な貿易相手国であり、アルゼンチン次期政権は中国との関係を非常に重視していると指摘。「中国は2国間関係の安定と長期的な発展を促進するためにアルゼンチンと協力し続けることに前向きだ」と述べた。リバタリアン(自由至上主義者)で右派のミレイ次期アルゼンチン大統領は中国とブラジルを批判、「共産主義者」とは取引しないとし、米国との関係強化の意向を示している。また、ロシアの通信社RIAノーボスチによると、ミレイ政権下で外相に就任する見込みのエコノミスト、ディアナ・モンディーノ氏は新興5カ国(BRICS)の枠組みに参加しない方針を示した」

     

    中国は、アルゼンチンのBRICS加盟取り止めは痛手だ。BRICS加盟決定国が、脱落することはメンツにも関わる問題である。それゆえ、中国外交部は「重大な過ち」と牽制するほかない。

     

    アルゼンチンのミレイ次期大統領は選挙運動中、自国通貨アルゼンチン・ペソを廃して、米ドルを通貨にすると過激な発言をしてきた。経済は危機的状況にあり、インフレ率は143%に達している。ドル化の魅力は明らかだ。アルゼンチンでは製造業が主要な輸入品を購入するのに十分なドルを持たず、生産を削減し、貿易金融を強化する必要があった。アルゼンチン政府は外国債権者に670億ドル(約10兆円)、国際通貨基金(IMF)に360億ドルの債務を負っている。外貨準備を使い果たして、返済のために中国から人民元を借りなければならなくなっていた。以上は、『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』(11月23日付)が報じた。

     

    中国は、中国圏に入るとみていたアルゼンチンが、土壇場で新政権登場によって米国を頼りにする「大逆転」が起こったのだ。

     

    『ロイター』(11月29日付)は、「アルゼンチン次期大統領、米大統領補佐官と会談」と題する記事を掲載した。

     

    アルゼンチンのミレイ次期大統領は28日、米首都ワシントンでサリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)などと会談した。また同氏の経済担当者らが国際通貨基金(IMF)当局者と会談した。

     

    (2)「ミレイ氏は会談後、ホワイトハウスで記者団に「素晴らしい会談だった」とし、アルゼンチンの経済や社会状況について協議したと述べた。ミレイ氏は国内経済の立て直しに向け通貨ペソの廃止や痛みを伴う緊縮財政など抜本的な改革を訴えて今月の選挙で勝利した。国内のインフレ率は足元150%近くに達し、外貨準備もマイナスを記録、景気後退(リセッション)懸念が高まっている。外交政策では、米国との関係を重視する姿勢を示しており、主要貿易相手国である中国やブラジルには批判的だ。アルゼンチンはIMFとの間で債務問題を抱えている。ミレイ氏の経済アドバイザーは、IMF当局者と会談した」

     

    ミレイ氏は、サリバン米大統領補佐官との会談で「素晴らしい会談だった」と満足の意を示した。アルゼンチンは、G20参加国である。人口46235万人(2022年)の中堅国だ。一人当たり平均GDPは、1万3620ドル(22年)である。典型的な、「中所得国の罠」に落ち込んでいる。主要産業は、農牧業と製造業である。この経済をどのように立て直すかだ。

     

    アルゼンチンは、BRICS加盟を取り止めてまで米国との関係強化を目指している。自国通貨を米ドルに切り替えるというほどの熱の入れ方だ。インフレを治すには、為替相場を安定させる必要がある。ドル化が効果的なのは明白だ。ドルを法定通貨とするエクアドル、エルサルバドル、パナマのインフレは管理可能な水準にある。アルゼンチンが、米ドル化を目指す理由でもある。

     

    しかし、誤った為替レートを選択することは致命傷となり得る。ペソの非公式レートに基づくと、全てのペソを交換するのに必要なドルは90億ドルを超える可能性がある。アルゼンチンは、すでに債務の意返済が滞っているのに、新たに90億ドルもの資金を借りるのは不可能に思えると、前記のWSJは指摘するのだ。

     

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    11月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は、好不調の境目である50を2カ月連続で下回った。不動産不況や輸出低迷で需要が縮小しているためだ。サービス業も消費者の節約志向が根強く2022年12月以来の50割れとなった。個人消費も停滞している。

     

    OECD(経済協力開発機構)は、11月29日公表した経済見通しで、中国経済について、79月期に「底入れした」との見解を公表した。これは、中国政府が1兆元(約21兆円)をインフラ投資することを根拠に、「底入れする」との見方に立ったもの。だが、製造業PMIに響かなかったことで、「1兆元効果」は帳消しになった形だ。

     

    『ロイター』(11月30日付)は、「中国製造業PMI、11月は49.4に予想外の低下 2ヶ月連続50割れ」と題する記事を掲載した。

     

    中国国家統計局が30日発表した11月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.4と、10月の49.5から低下し、景況拡大・悪化の分かれ目となる50を2カ月連続で下回った。当局が追加の景気支援策を講じる必要性を示した。ロイター調査によると、アナリストは49.7に上昇すると見込んでいた。

     

    (1)「新規受注指数は2カ月連続の50割れ。新規輸出受注指数は9カ月連続の50割れとなった。中国では第3・四半期の指標が予想を上回り、エコノミストが経済予測を上方修正しているが、一連の政策支援にもかかわらず、製造業者の間では内需と外需の低迷を受けて悲観的な見方が定着しているようだ

     

    中国の7~9月期GDPが比較的高い数値であったことから、エコノミストは23年のGDP予測を引き上げた。だが、これに水を浴びせる結果の11月PMIである。エコのミストは、計量モデルを「盲目的」に動かしただけで、景気実態をつぶさにウォッチしていなかったのであろう。

     

    (2)「ハンセン銀行(中国)のチーフエコノミストは、「欧米の落ち込みを国内市場で補えない状態だ。製造業は生産と人員の採用を減らしている」と指摘。「政府の政策への信頼喪失を示している可能性もある」とし、「現在の優先課題が地方政府の債務リスクと地方銀行のリスクの抑制であることは明らか」で、製造業の活動が近く改善する可能性は低いと述べた。キャピタル・エコノミクスの中国担当エコノミストは、「ハードデータは最近、調査ベースの指標に比べて底堅く推移しており、心理的な影響で減速の規模が誇張されている可能性がある」とした上で「状況が変わり始めるためには、経済の逆行を防ぐ政策支援の強化が必要だ」と語った。国泰君安国際のエコノミストは「今日のPMI統計を受けて、政策支援への期待が一段と高まるだろう。財政政策に注目が集まっており、来年は財政政策が主役になるだろう。市場が注視するはずだ」と述べた」

     

    製造業PMIが、4月以降で節目の50を超えたのは9月だけだ。非製造業の景況感指数でも11月のサービス業は49.3と、前月より0.8ポイント下がった。新型コロナウイルスの感染急拡大で経済活動が停滞した22年12月以来の50割れである。これは、軽視できない動きだ。頼みのサービス業が停滞すれば、個人消費の落込みとなって現れてくるであろう。

     

    (3)「中国は不動産不況や地方政府の債務リスク、世界経済の減速、地政学的緊張を背景に、新型コロナウイルス禍後の景気回復がもたつく状況が続いている。製造業PMIは過去8カ月中7カ月で50を割り込んだ。50を上回ったのは9月のみ。PMIが3カ月を超えて連続して50を下回ったのは新型コロナ流行前の2019年10月までの6カ月間が最後。非製造業PMIも10月の50.6から50.2に低下した。広範なサービス部門と建設部門の低迷が続いていることが浮き彫りになった。PMIの発表を受け、朝方のアジア市場では原油価格が下落。オフショア人民元も値下がりしている」

     

    中国の11月PMI統計が予想を下回ったことで、原油価格が下落している。日本時間午前9時24分時点で北海ブレント先物は0.28ドル(0.3%)安の1バレル=82.90ドル。米WTI先物は0.24ドル(0.3%)安の77.68ドルだ。石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなどの非加盟国で構成する「OPECプラス」の会合を控え警戒ムードが広がっている。『ロイター』(11月30日付)が伝えた。

     

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    強面の中国が、人口280万人のリトアニアに外交面で屈した。経済制裁を撤回したのだ。これで、リトアニアの「台湾代表部」は大手を振って存在できる。中国が、屈辱の撤回をした背景は、中国が進めるEU(欧州連合)への接近で、リトアニア制裁が障害になってきたからだ。追い詰められる中国経済の現状が浮き彫りになっている。 

    『朝鮮日報』(11月30日付)は、「中国の屈辱、『台湾』代表部を認めた 小国リトアニアへの経済制裁を解除」と題する記事を掲載した。 

    台湾との協力を強化した欧州国リトアニアに対して全方位的に加えられていた中国の経済制裁が、2年ぶりに解かれた。人口280万人の小国が14億の大国との神経戦で全く押されない様子を見せつけ、中国のプライドに少なからぬ傷を負わせたという評価がなされている。

     

    (1)「ベルギーのブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)外相会議に出席したリトアニアのガブリエリウス・ランズベルギス外相は11月27日(現地時間)の記者会見で、中国がリトアニアに加えていた貿易制裁を解除したと明かした。ランズベルギス外相は「中国とリトアニアは交流再開のための話し合いを進めている」とし「貿易が完全に回復してはいないが、世界貿易機関(WTO)などによる外交的手続きに基づき、リトアニアに対する経済的圧迫措置の大部分は解除された」と述べた。中国税関の統計によると、今年10月までにリトアニアの対中輸出は前年同期比53%増の1億1000万ドル(現在のレートで約162億円)を記録し、回復傾向にある。中国国営の環球時報が「ハエを捕まえるように罰しなければならない」(2021年11月)とののしるほどリトアニアを目の敵にしていたが、2年を経て気勢は完全にそがれた格好だ」 

    中国の大言壮語が、惨めな結末を迎えた。「ハエを捕まえるように罰しなければならない」リトアニアに対して「白旗」を掲げる結果になった。退勢中国を印象づける一件だ。

     

    (2)「両国の対立は2年前に湧き起った。中国と国交を結んでいるほとんどの国は、台湾との非公式交流のために大使館の役割を果たす代表部を置き、通常は「台湾」ではなく、首都の「台北」の名を付けている。台湾は自国の一部であるという中国の主張に考慮して、国名は使わないのだ。ところが2021年11月、リトアニアが首都ビリニュスに「駐リトアニア台湾代表部」を設立し、中国は激しく反発した。欧州の国々の中で「台北」ではなく「台湾」という名で代表部設立を承認したのはリトアニアが初めてだからだ」 

    リトアニアは、EUの中国批判で先頭に立っていた。ロシアのウクライナ侵攻を非難しない中国に、警戒論を掲げてきたのだ。中国にとっては、喉に刺さったトゲになっていた。 

    (3)「中国は「『一つの中国』原則を無視する、とんでもない行為で、この先起こるあらゆる結果についての責任はリトアニアにある」として報復を開始した。駐リトアニア大使を本国に召還し、リトアニアの駐中公館を代表処へ格下げした。中国税関はリトアニアを税関の電算システムの輸入対象国リストから削除した。両国間の技術交流・協力も中断した」 

    中国は、メンツにかけてもリトアニアへ強力な圧力をかけた。輸入全面禁止の手段に出た。EUは、リトアニアを支援する形でこれに対抗した。リトアニア対中国の問題が、EU対中国の問題へと拡大したのである。

     

    (4)「こうした中国の全方位的圧迫に、リトアニアは全く動じなかった。2021年12月に駐中大使館の職員全員を本国へ撤収させ、中国の制裁を「WTOの規則に違反する不当な脅迫」だとして欧州連合(EU)の共同対応を求めた。台湾との関係は、これ見よがしにむしろ強化した。1年後には、台湾に自国代表部を開いた。今年1月にはリトアニア議員代表団が台湾を訪問して蔡英文総統と会うなど、高官級交流を続けた。今年9月には台南に台湾・リトアニア超高速レーザー開発センターをオープンし、10月にはリトアニア立法部トップのビクトリア・チュミリーテニールセン議長が台湾立法院(国会に相当)で演説した」 

    リトアニアは、ロシアに対しても臆せず対抗している。民族としての根強い「抵抗思想」が、今度は中国に向けられた。國を上げて台湾との交流に踏み出したのだ。この流れが他国へ伝播すると、中国は面倒なことになるのだ。 

    (5)「リトアニアに、中国発の打撃がないわけではなかった。ギターナス・ナウセーダ大統領は今年6月、本紙のインタビューで「対中輸出は実に80%も減少して大きな苦痛に直面したが、危機から脱した。特定国に過度に依存しないサプライチェーンの多角化は極めて重要だ」と語った。しかし中国は、米中競争の中で欧州との関係改善が急務となり、リトアニアと台湾の関係が深まるや、経済報復を撤回したものと分析されている」 

    中国は、ドイツの自動車メーカーにリトアニア製部品を使うなと要求するまでエスカレートした。リトアニアは工業国であるだけに、中国から受けた打撃も大きかった。 

     

    (6)「ランズベルギス外相は、両国関係の雪解けのため中国に屈従はしなかった、と強調した。ランズベルギス外相は、リトアニアに設立された台湾代表部の名称は変わらないだろうと強調し「台湾代表部問題は中国と議論すべき部分ではない」とした。リトアニアは台湾との経済協力強化に伴う利益も享受している。ラジオ放送「ボイス・オブ・アメリカ」によると、最近2年間で台湾とリトアニアの貿易規模は50%増え、リトアニアのIT企業テルトニカは2027年までに台湾の技術を利用して半導体を生産する協約を台湾の研究所と結んだ」 

    リトアニアは、台湾政府から半導体生産の資金・技術の支援を受ける取り決めをしている。27年までに半導体生産に着手する計画だ。

     

     

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    中国には、相手を力づくでも屈服させようとする悪弊がある。「一寸の虫にも五分の魂」で、必ず反発を受けることが分らないのだろう。同じ誤りを繰返しているからだ。現在再び、台湾に対して関税引上げをちらつかせ始めている。来年1月の台湾総統選に揺さぶりを掛けて、国民党候補を当選させようという意図は明瞭である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月29日付)は、「中国、関税見直しで台湾揺さぶり 総統選で国民党支援か」と題する記事を掲載した。

     

    台湾総統選を前に、中国が台湾への経済的圧力を強めている。台湾が中国に貿易障壁を設けているとして投開票日の前日を期限に調査しており、結果次第で台湾への関税優遇の停止を検討する。政権与党・民主進歩党(民進党)を揺さぶり、最大野党・国民党を支援する狙いとみられる。

     

    (1)「台湾の王美花・経済部長(経済相)は、日本経済新聞の取材に応じ「(調査は)政治的な意味合いが大きい」と述べた。「中国は総統選にあらゆる手段で影響を及ぼそうとしている」と述べ、総統選への介入をけん制した。中国商務省は台湾が対中輸入規制を設ける農産品や工業製品など2509品目について、貿易障壁の観点から調査を進めている。同調査が注目されるのは、中台が2010年に結んだ経済協力枠組み協定(ECFA)に定めた、台湾への関税優遇の停止につながる可能性があるためだ」

     

    米中首脳会談で、バイデン米国大統領は習中国国家主席に対して、台湾総統選への介入をしないように釘を刺した。中国は、これを無視して「関税引上げ」の可能性を示唆して揺さぶりを掛けている。

     

    (2)「中国で台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室トップの宋濤主任は9月、台湾の輸入規制がECFAの関連規定に違反しているとの見方を示し、調査結果に基づいて「関税優遇の停止や一部停止を検討する」と語った。さらに総統選まで3カ月あまりとなった10月に発表された調査期限の延長が台湾で波紋を呼んだ。中国商務省は「案件の状況が複雑なため」として、当初は10月だった期限を24年1月12日まで延長した。これは総統選の投開票日の「前日」にあたる。台湾では総統選に向けた中国の揺さぶりとの受け止めが広がる。中台関係に詳しい台湾師範大学の范世平教授は「政権与党の民進党を攻撃するもので(同党の総統候補である)頼清徳氏を不利に追い込む狙いがある」との見方を示す」

     

    中国の狙いは、中国との融和路線を掲げる国民党候補への支援が明らかだ。

     

    (3)「総統選はいままでのところ、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の路線を引き継ぐ頼氏が支持率調査でリードを保っている。対中融和路線で中国との経済交流にも積極的な最大野党・国民党の侯友宜・新北市長は劣勢にある。ECFAは2010年、中国との関係強化を推し進めた国民党の馬英九・前総統の政権で締結された。先行措置として中国側では農産品や機械、プラスチック製品など539品目の関税が段階的に撤廃された。将来の協定範囲の拡大も盛り込まれていたが、台湾社会での対中警戒感の高まりや、16年の民進党への政権交代を機に、協議は頓挫した経緯がある」

     

    中国は、農産品や機械、プラスチック製品など539品目の関税を段階的に撤廃している。これを再び、引き上げるジェスチャーをみせて牽制している。

     

    (4)「国民党の総統候補である侯氏は27日、台北市内で開いた経済9団体主催の会合に出席し「ECFAの問題を解決し、ただちに(中台)両岸の対話と交流を再開する」と話した。中国の動きと呼応するように、「ECFAカード」による経済界の支持取り込みに動いている。中国が関税優遇を停止した場合の影響はどれほどか。台湾側の統計によれば、台湾の輸出総額に占める中国(香港含む)向けの割合は4割前後の高水準で推移している。22年の対中輸出総額(約27兆円)のうち、ECFA関連は1割強に相当する。台湾経済のけん引役である半導体などハイテク製品の多くは関税優遇の対象品目でないため、同分野への影響は限られる見通しだ」

     

    中国が牽制している品目は、台湾の対中輸出の1割強とされる。半導体などハイテク製品は対象になっていない。

     

    (5)「台湾の有力経済団体・工商協進会の呉東亮・理事長は「(中台)両岸交流の重要なプラットフォームであり、(産業界などへの)心理的な影響は大きい」として懸念を示す。経済部長の王氏も「石油化学や機械、繊維といった業界への影響が比較的大きくなる」と話す。「我々は最悪の事態を想定して動く」とも述べ、対中輸出の減少などの影響が出れば企業の支援に動くとした。王氏はこうした中国の経済的圧力が「過去の総統選と比べても強まっている」と指摘した。中国の経済的圧力について、台湾師範大学の范氏は「直接的で荒っぽいやり方で、台湾の人々の反感を買う可能性もある」と指摘する。

     

    前回の総統選前は、香港の中国化(本土の国家安全保障法適用)によって、「中国恐怖論」を巻き起こして国民党候補が敗北した。今回の関税引上げの揺さぶりは、台湾世論にどのような影響を与えるかだ。

     

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