勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

    あじさいのたまご
       


    中国当局は、不動産開発企業の倒産整理に消極的である。香港大法院で「企業整理」に判決が出ても、大陸では「のらりくらり」して整理の進行を邪魔している形だ。倒産が現実化すると、新たな倒産企業を発生させるという思惑からだ。これでは、住宅関連の不良債権は、いつまでも根雪のように残るだけだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月16日付)は、「中国不動産、不況の出口見えず 積み上がった住宅在庫5年分」と題する記事を掲載した。

     

    中国の不動産市場が低迷から抜け出せない。経営が厳しい不動産会社の延命措置など抑え込み政策で金融システム危機に発展する懸念はいったん後退。銀行株は堅調に推移する。対照的に不動産株自体は政府が取り繕った市場の「安定」への警戒感が強く、株価はさえない。肝心の不動産販売額は落ち込み、市場には5年分の住宅が在庫として残り、中国経済の足かせになりかねない。

     

    (1)「不動産は関連産業も含めれば国内総生産(GDP)の約3割を占めるとされる中国経済の支柱だ。2023年以降は負債総額が2兆3882億元(約49兆円、23年6月末時点)に達した中国恒大集団などの信用不安が深刻化。巨額の債務問題が金融システムや経済全体を揺るがすとの懸念から海外マネーが「中国離れ」に動く事態を招いた。政府は24年秋に財政出動を決めて不動産市場の支援を強化した。金融システム危機へつながる懸念は後退し、中国の銀行株で構成する香港市場の「ハンセン中国本土銀行指数」は足元で上昇傾向が鮮明だ」

     

    中国GDPは、3割が不動産開発関連事業関連とされる。このエース格が、半身不随状況に陥っている。政府は、対策に逃げ腰だ。これでは、経済も回復するはずもない。

     

    (2)「一方で、「ハンセン中国本土不動産指数」は19年末に比べ8割安の水準。底ばいから抜け出せない。取引先の連鎖倒産などの危機を防ぐため、不動産会社が「ゾンビ」のように延命されているに過ぎないと、投資家らは弥縫(びほう)策を見透かす。不動産会社の主要債権者である銀行と不動産の株価の連動性は薄れ、チャートはワニの口のように差が広がった。不動産市場にリスクはくすぶり続けている。恒大は24年1月に香港高等法院が任命した清算人のもとで法的整理(清算)手続きが始まった。しかし、中国当局の裁量が及ぶ本土側の主要資産に手をつけられていない。香港高裁では恒大以外にも複数企業が債権者から法的整理を申し立てられている。22年に業界トップだった碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)も24年12月末時点で社債などのデフォルト(債務不履行)の総額が1881億元に上った」

     

    債務不履行の不動産大手2社が、倒産整理もされずに存在している。不思議な現象だ。政府が「生き延びさせて」いる最大の理由は、最終的に不良債権確定を恐れているからだ。国が,率先して逃げ腰である。こういう国の経済が、回復軌道に乗るはずはない。

     

    (3)「こうした企業は、香港で債権者から突き上げにあう一方、本土ではゾンビ化して在庫物件を売り続ける。みずほリサーチ&テクノロジーズの試算によると、24年の中国の住宅在庫は約44億平方メートルと年間販売面積の5.4倍にのぼる」。

     

    ゾンビ化しても「生かして」おけば、不良債権にならないという理屈付であろう。「ウミ」を出さずに「自然治癒」を狙っているのだろう。これでは、在庫一掃に5年以上の歳月がかかるであろう。

     

    (4)「同社の月岡直樹主任エコノミストは、「人口減少で25〜34歳の住宅購入層が減っている。実需がどれだけ減るか見通せない」と警戒する。中国の調査会社、克而瑞研究センターが発表した不動産大手100社の4月の販売額は前年同月比8.%減の2846億元(約5兆6000億円)だった。24年9月以来の2カ月連続でのマイナスとなった。5月は「回復が弱い状況が続く」とし、大きな改善は望めない。需給の引き締めは一筋縄ではいかない」

     

    25〜34歳の住宅購入層は、これからますます減って行く。企業整理の時期を先へずらせばずらすほど、不動産開発業界は「衰弱」していくであろう。

     

    (5)「在庫水準が高止まりすれば、価格は下がっていく。不動産は中国の家計資産の約5割を占めるとされる。資産価格の低下で消費意欲が減退する「負の資産効果」によってデフレ圧力が強まる可能性が高い。中国共産党は4月25日に中央政治局会議を開き、不動産市場について「重点領域のリスクを予防・緩和する」と言及。政府による不動産在庫の買い取りなどを続ける方針を確認した。丸紅中国の鈴木貴元・経済研究総監は「当局が大手不動産会社を潰さずリスクの連鎖を防ぐという『神話』が消費者の購入意欲を一定程度支えている効果はあるものの、なお厳しい地域はある」と語る」

     

    在庫整理の極意は、十分な価格下落によって「底入れ感」を形成することだ。いつまでも,ズルズルと値下がりし続ければ、需要も供給も際限ない落込みとなろう。市場機能に背を向ける習近平氏は、目を覚まさなければダメなのだ。

     

     

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    トランプ支持派は熱狂的で、米国は対中国政策で強硬対応すべきという点で結束している。それだけに、米国が対中関税を30%以下に下げることに大きな不満をみせるだろうと予測されている。この30%関税が続けば、中国の打撃は大きい。ブルームバーグが、エコノミスト調査をした結果、以上のような内容が浮かび上がった。

     

    『ブルームバーグ』(5月16日付)は、「トランプ政権、対中関税率30%に据え置きへ-アナリストら半年先予想」と題する記事を掲載した。

     

    米国と中国は、90日間の関税率相互引き下げで先に合意した。ブルームバーグが実施した最新調査では、米関税率はこの期間が終了後も、中国の対米輸出を大幅に抑制すると見込まれる水準にとどまる公算が大きいとの見通しが示された。

     

    (1)「アジアや欧州、米国の資産運用会社や銀行、調査会社のアナリストや投資家ら計22人を対象とした14、15両日の調査によれば、中国産品に対する米関税率は2025年終盤まで現行の30%に据え置かれると予想(中央値)されている。12日の合意発表前の145%を大幅に下回るものの、中国の中期的な対米輸出を優に70%減らす高水準だとブルームバーグ・エコノミクス(BE)は推計。米中貿易交渉が早期の米関税政策見直しにつながる期待は低く、中国の経済的痛手が続く可能性を示唆するものだ」

     

    関税引下げは、米中貿易問題解決の入り口にすぎない。米国は、中国の対米黒字削減の具体的な輸入計画の提示と、その実現性の検証が控えている。さらに、米国は中国の過剰輸出を食止める内需充実策を要求している。こういう一連の問題を抱えているだけに今後、半年以内に問題がすべて解決するとは思えない。となると、現状の対中30%関税は維持されるどころか、引上げられる可能性まである。

     

    (2)「DNBバンクのエコノミスト、ケリー・チェン氏は来年11月の米中間選挙が合意期限となる可能性を指摘した上で、「米中の相対的な立場が本質的に変化するには、十分な時間が残されていない」との見方を示した。半年後には関税率が30%を下回ると予想する回答者が7人いた一方で、一段と高い関税率を見込む回答者も6人いるなど、将来に向けた見通しは一層分かれており、両国が対立を解消できるかどうかに対する不確実性が浮き彫りとなった。なお、米中が最終的な貿易合意に達した場合、関税率は20%まで引き下げられる可能性があるとの予想が中央値で示された」

     

    来年11月の米国中間選挙まで、米中合意が引き延ばされるという見方もある。これは、米国が中国へ強気姿勢を取る結果だ。

     

    (3)「幾人かの回答者は、トランプ大統領の関税政策の予測不可能性を理由に、予想すること自体に慎重な姿勢を示した。EFGアセット・マネジメントのエコノミスト、サム・ヨキム氏は「トランプ政権1期目を教訓とすれば、状況はまだ完全に好転したわけではなく、合意が必ずしも維持されるとは限らない」とし、「米通商政策の高度の不確実性に伴うリスクは引き続き高い」と指摘した」

     

    トランプ氏の「不確実性」によって、見通しは付けがたいとする意見も出されている。

     

    (4)「トランプ氏の対中関税政策は、今年の世界経済と市場に影響を与える最大級の変数の一つだ。関税や景気刺激策を巡る不確実性が影を落とし、中国資産は年末まで現在の水準付近で狭いレンジ内の取引が続く公算が大きいと回答者はコメントした。調査結果によれば、人民元は25年末までに1ドル=7.2元前後で推移するとの予測が回答者17人の中央値で示された。中国当局主導の元安誘導に関する臆測が和らぐ状況にあって、当局は急激な資本流出や過度な流入を防ぐとみられており、人民元は安定した水準で推移する可能性がある」

     

    人民元は、25年末までに1ドル=7.2元前後で推移するとの予測が多かった。中国当局主導の元安誘導は困難としている。資本流出が起こるからだ。中国が、もっとも神経を使っている問題だ。

     

    (5)「回答者の大多数は、トランプ政権1期目に導入された関税が維持されると予測している。これを引き下げることは大きな譲歩と受け取られ、政権支持層の怒りを招く可能性があるためだ。BEの推計によれば、これらの関税率は平均約12%となっている。アバディーン・インベストメンツの新興市場担当シニアエコノミスト、ロバート・ギルフーリー氏は対中関税率が50%前後で落ち着くと予想する。「関税に関する好材料があれば、中国の政策緩和の動きは抑制される可能性が高く、それは市場の上昇余地を限定的なものにすることを示唆している」とギルフーリー氏は分析。「ダメージの実態が明らかになり経済が減速する中で、最終的には当局が為替の下落を容認すると予想している」と論じた」

     

    対中関税率が引下げられたとしても、トランプ政権1期の平均約12%を下回らないとみている。関税率の極端な引下げによって、中国の内需充実策が中途半端になるというリスクが生じる。となると、高めの関税設定となる。

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    中国は、米国の関税爆弾に対する報復として、米ボーイング製の旅客機3機を受領せず送り返した。塗装まで終えた厦門航空のボーイング737MAXが米シアトルに戻ってきた様子が報じられた。中国政府は5月13日、国内の航空会社に対して輸入停止措置を解除し、ボーイングによる機体の納入再開を認める通知を出している。

     

    受領拒否されたボーイングは、慌てるどころか「欲しがる先は山ほど」と悠然たる構えであった。何しろ、ボーイングの民間機受注残は5643機に上る。米証券のジェフリーズは、「現在の受注量は約8年分の生産量に相当する」と指摘しているほど。中国が受注をキャンセルしても「痛くもかゆくもない」のだ。中国の空回りであった。

     

    『朝鮮日報』(5月16日付)は、「中国の受領拒否でも悠然とする米ボーイング…中国旅客機が関税の犠牲になった理由とは」と題する記事を掲載した。

     

    中国の航空各社は、米国の関税爆弾に対する報復として、最近ボーイング製の旅客機3機を受け取らずに送り返しました。ボーイングが今年、中国に引き渡す旅客機は計50機ですが、中国の航空会社はそれをすべて受領しない立場とされました(注:その後受領方針へ転換)。

     

    (1)「ボーイングは、悠然と構えています。同社のケリー・オルトバーグ最高経営責任者(CEO)は4月23日、米エアデータニュースのインタビューに対し、「中国の受領拒否が経営に大きな影響を与えることはないだろう。(送り返された)機体を皆が欲しがっている」と発言しました。マレーシア航空などが既に購入意向を表明しています。ボーイングは最近、旅客機の発注が殺到し、目が回るほど忙しい状況です。737MAXも納期を短縮するため、月間の生産を30機から38機に引き上げようとしています」

     

    中国は、後先のことを考えずにボーイング製旅客機を受領せず、送り返す「異常行動」に出た。米国を困らせる目的であったが、逆の結果になった。欲しがる国がいくつも名乗り出たからだ。これに慌てて、引き取り方針に変わった。

     

    (2)「中国が、独自開発した中型旅客機「C919」が、米中による関税戦争の犠牲になりかねないとの報道が相次いでいます。中国はC919の国産化率を60%以上と説明していますが、航空機エンジン、運航システム、電子設備など重要部品は全て欧米から輸入しています。アメリカが本気になって輸出を阻めば、C919の生産は中断されかねない状況です」

     

    中国は、欧米の協力で商用機C919の製作を行っている。主要部分は、すべて欧米製が担っている。中国国産とは、名ばかりの飛行機だ。

     

    (3)「トランプ米大統領は、政権1期目に米国とフランスが合弁で生産するC919用ジェットエンジンの輸出中断を検討したことがあります。中国は米国に対する報復として、米ボーイング製の旅客機を受け取らずに相次いで送り返しましたが、米中関税戦争の犠牲になるのはボーイングではなく、中国が独自開発した中型旅客機C919になるのではないかというのが国際専門家の分析です。ボーイングはただでさえ発注が積み上がっている状態なので、中国による旅客機受領拒否は大きな打撃ではないと言っています。中国が送り返したボーイング737MAX旅客機は、マレーシア航空やエアインディアなどが購入意向を表明しています」

     

    国際専門家は、中国がボーイングへ高飛車に出たとみている。欧米が、C919用ジェットエンジンの輸出を止めれば、中国は打つ手がないのだ。こういう「力関係の差」を忘れて突飛な行動に出たのである。中国は、米国が報復しないうちに、ボーイング受領に転じて「命拾い」した形だ。

     

    (4)「英『フィナンシャルタイムズ』(FT)は今月6日、「ボーイングとエアバスが支配する世界の旅客機市場に挑戦した中国初の国産旅客機C919が貿易戦争の混乱に直面した」と報じました。国営の中国商用飛機(COMAC)が開発したC919は、2023年に初の商業運航を始めました。これまで中国の国営航空会社に計17機を引き渡し、今年も30機以上供給する予定です。主要部品サプライヤー88社の内訳は、米国が48社、欧州が26社、中国が14社だということです。中国メーカーで高価な重要装備を供給している企業はないそうです」

     

    中国は、「虎の子」であるC919が、欧米の協力で生産している事実を忘れて高飛車に出たのだ。お笑い種である。

     

    (5)「中国が、レアアースの輸出を規制したように(注:その後解除の方向)、米国がC919部品の供給中断に乗り出すのではないかとの見通しが示されています。英国の航空・防衛産業アナリスト、サッシュ・トゥサ氏はFTに対し、「米国はまだ供給中断について言及していない。恐らく次の段階の措置になるだろう」と述べました」

     

    中国が今後再び、レアアース輸出禁止策に出たならば、米国がC919部品の供給中断に乗り出せば「お相子」になるほどだ。中国も弱点を抱えているのだ。

     

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    中国は、今回の米中関税交渉で米国が115%もの関税率を引下げたことで「大勝利」を宣伝している。中国政府系シンクタンク、中国社会科学院で米国経済を研究する羅振興氏は、中国メディアへ「中国が対抗措置をとるなか、米国が先に降りてきて積極的に中国との話し合いを求めた」と指摘するほどだ。

     

    その有力根拠が、中国が生産で世界シェアの約7割を占めるレアアース(希土類)という武器を持つことだ。レアアースの製錬で、中国は世界シェアの約9割も占める。レアアースは、兵器やハイテク製品に搭載する高性能磁石などに必要なジスプロシウムやテルビウムなどは、世界が中国に依存している状態だ。それだけに、中国の優位は揺るがないという「自信過剰」に陥っている。

    中国へレアアース精錬技術を教えたのは日本企業だ。国内での精錬が、公害問題を引き起すことから日本から鉱石を運び精錬させたのが始まりである。中国が,それだけ環境破壊に無頓着であったとも言える。この中国が、今やレアアースで世界トップになった。実は,レアアース鉱石は、地球上に多く分布している資源である。中国が輸出禁止すれば、他国での生産が可能という現実を知っておくべきである。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月15日付)は、「それほど希少ではない中国のレアアース」と題する寄稿を掲載した。

     

    ドナルド・トランプ米大統領の関税引き上げに対し、中国は一連の報復措置で対抗した。4月4日には他の措置とともに、米国の防衛、エネルギー、自動車産業にとって不可欠な17種類のレアアース(希土類)の一部と、磁石類の一部の輸出を停止した。その事態を受けたメディアの論説では、欧米が抱える脆弱(ぜいじゃく)性に対する深い不安が露呈したと主張した。

     

    (1)「米メディアは苦悶に満ちた反応を見せたが、米国は以前にも同じ状況に置かれ、この事態を乗切っているのだ。中国は15年前、日本と中国が互いに領有権を主張する海域(注:尖閣諸島)を巡り日本と論争になった後、日本に対してレアアースの輸出停止措置を取るとともに、日本を除く世界全体に割り当てるレアアース輸出枠を40%削減した。中国の動きは、先進国全体に警鐘を鳴らすものだった。レアアース価格は急騰し、米製造業者は、風力タービンから精密誘導ミサイルまであらゆるものに重要な役割を果たすレアアースの代替品を求めて奔走した」

     

    当時の日本は、冷静に対応した。ユーザーがレアアースの単位当たり使用量を減らしたのだ。レアアースを使わない磁石まで考案するなどの対策を考案した。

     

    (2)「だが、市場メカニズムが資源をテコにしようとする中国の試みを封じた。2010年代初めに、中国以外からの供給の伸びが加速したのだ。米レアアース生産会社のモリコープが米カリフォルニア州、豪同業ライナスがオーストラリアで既に開発を始めていたプロジェクトが加速し、生産能力は何万トンも増えた。2014年までには、レアアース市場における中国のシェアが90%超から約70%に低下した」

     

    中国は、レアアース市況の急落で苦境に立たされ、逆に日本へ売り込みにきたほど。立場が逆転したのだ。こういう経緯にも関わらず、中国またレアアースを武器に使い始めた。失敗するのは明確である。歴史に学ばない中国の欠陥を表している。

     

    (3)「中国の輸出割当制度にも、驚くほどの穴があることが判明した。生産者は抜け穴を利用し、制限の対象外である最小限の加工を施した合金を出荷した。一方で、生産量の推計15~30%は近隣諸国を通じてこっそり持ち出された。中国政府が何千にも及ぶ小規模の採掘業者を取り締まれなかったことで、禁輸措置は致命的な打撃を受けた。メーカーは、目を見張るほどの適応能力を示した。精錬業者は一時的に代替的な触媒を使い、磁石メーカーはレアアースの使用量を減らせるよう合金を調整した。新たな技術に完全移行するメーカーさえあった。この「需要崩壊」によって、新たな供給態勢の本格稼働が可能になる前に、危機の影響が小さくなった。2011年に急騰していた価格は、急速に危機前の水準に戻った」

     

    中国企業は、あらゆることで「対策破り」の名手である。レアアースでも、「密輸」を始めたのだ。これが、市況低落のテコになった。レアースの「需要崩壊」では、日本企業が先頭に立った。

     

    (4)「この2010年のエピソードは、原材料を地政学的な武器として使う試みの根本的な制約をあらわにした。中国は、レアアースのかなりの市場シェアを維持しているものの、米防衛産業はその依存度を最低限(世界需要の0.1%未満相当)に減らした。武器計画用の在庫は一時的な供給混乱の影響を軽減できる水準で維持されている」

     

    中国のレアアース輸出規制は、原油カルテルと同じで必ず綻びが生じる。「需要崩壊」が起こるからだ。資源カルテルの維持は不可能である。

     

    (5)「レアアースは、比較的希少な鉱物資源になっているため、有用なレアアースを抽出する工程で環境問題が発生する恐れがある。だが、時にはこうした懸念よりも国家安全保障を重視せざるを得ない。米国が半導体、重要鉱物、医薬品原料などのサプライチェーン(供給網)に関する新たな懸念に対処する中で、われわれがより広い視点から思い起こすべきなのは、実態がなかったレアアース危機が、経済的圧力行使の試みに対して、グローバル市場と人類のイノベーションが抵抗できるという証明になったことだ」

     

    米国は、ウクライナと地下資源の共同開発で協定を結んだ。レアアース生産の基地を得たことになる。地下資源の独占化による弊害は、「グローバル市場と人類のイノベーションが抵抗できる」。日本が、すでに証明しているのだ。

     

     

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    米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が、2020年に始めた日本の大手商社5社への投資は、今や約3兆7100億円の価値となっている。そのきっかけは、東洋経済新報社が発行する『会社四季報』であったという。バフェット氏は、12~13歳のころから株式投資に関心を持ち始め、有価証券報告書を読むのが「趣味」というほどデータを重んじる。それだけでない。その企業の経営者にも関心を寄せる、立体的投資スタイルを確立した。

     

    バフェット氏は、中国のEV(電気自動車)企業のBYDに早くから関心を寄せて投資対象にしてきた。だが、2022年8月から持ち株の一部売却を始めた。23年以降も続いている。その理由は説明されていないが、バフェット氏は、「中国に不安を感じ始め、日本へ信頼感を深めた」と述べている。BYD株売却の理由は、この辺にあるのだろう。

     

    『ブルームバーグ』(5月14日付)は、「バフェット氏の商社投資、会社四季報きっかけ」と題するコラムを掲載した。

     

    バフェット氏は、「2000~3000社ほどの日本企業が載っている小さなハンドブックを読んでいたが、その中に、ばかげたほど安値で売られている商社5社があった。それで約1年かけてそれらを買い集めた」。ネブラスカ州オマハで開かれた株主総会で語ったバークシャー・ハサウェイの最高経営責任者(CEO)を年末に退任すると発表する直前のことだ。つまり、日本の個人投資家と同じ方法で銘柄選別をしたわけだ。小さなハンドブックとは『会社四季報』である。

     

    (1)「これまでバフェット氏は主に、投資そのもので語ってきたが、最近の発言からは日本投資について幅広く知られるべき幾つかの教訓がうかがえる。このところ、ソフトパワーやインバウンド観光で日本に注目が集まっているとはいえ、人口動態や医療制度への取り組み、豊富な投資機会など、まだまだ日本には十分認識されていない部分がある。バフェット氏が指摘するように、日本はiPhoneやコカ・コーラの販売だけでなく、音楽では世界2位、映画では3位の巨大市場だ。パチンコ産業でさえ、ラスベガス全体のカジノ収入の10倍を稼ぎ出している」

     

    日本は、創業200年以上の「老舗」が、ゴロゴロ存在していると世界で注目されている。これに共通しているのは、「三方よし」(売り手よし・買い手よし・世間よし)とする近江商法が息づいていることだ。「細く長く」という商法が世間に受入れられてきた。バフェット氏は、こういう近江商法の日本企業に着目したのだろう。インバウンドは、観光公害といわれるほど、急増している。日本への関心が高まっている。

     

    (2)「日本に長年投資してきたミッション・バリュー・パートナーズのアンドリュー・マクダーモット氏によると、バフェット氏は中国投資熱が高まったころ、「日本企業に安心感を深める一方、中国には不安を抱くようになった」という。マクダーモット氏はブログで、バフェット氏が12年に「世界中のどこよりも日本に投資したい」と語っていたと明かした。これだけでは足りないという人は、日本の国際的な立ち位置にも注目すべきだ。日本は自由貿易と公正な司法を掲げる戦略的に重要な国家。今や貴重な一国とも言える。バフェット氏はまた、日本銀行の追加利上げといったマクロ経済的な要因があっても、日本投資を続ける意向を示している。参考にしたいところだ」

     

    バフェット氏が、12年に「世界中のどこよりも日本に投資したい」と語っていたと言う事実が明かになった。バフェット氏は、海外企業を評価する視点にその国の経済的バックグランドを重視していることがわかる。

     

    (3)「日本を知らずに日本に対して不満を抱く多くの人々とは異なり、バフェット氏は日本が独自の文化を持つ国であり、こうした違いこそが日本という国とその企業を魅力的にしていることを理解している。大手日本企業の成功は、独自性があるからこそ成し遂げられたものであり、それが妨げになったわけではない。例えば、トヨタ自動車は投資家が求めた電気自動車(EV)への全面移行に抗い、ハイブリッド車を重視することで5年連続、世界販売トップの自動車メーカーとなった。任天堂もまた、自社製ハードウエアをやめモバイルゲームに注力すべきだとの圧力を退けた。結果、家庭用ゲーム機「スイッチ」で大成功を収め、株価は上場来高値に近い水準だ。これらの企業は、株主最優先でないかもしれないが、長期視点の投資家に報いてくれる持続可能なブランドを築いている」

     

    トヨタ自動車のEVへの取組みは、他国からみれば遅れていた。これは、主流のリチウムイオン電池の技術的欠陥を熟知し、次世代電池「全固体電池」開発に全力を挙げるという王道を歩んだ結果である。この戦略は見事に的中して、世界の名だたる自動車企業が塗炭の苦しみに直面している一方で、トヨタはHV(ハイブリッド車)で高収益を上げている。

     

    (4)「『彼らが築き上げてきたものを変えるつもりは一切ない。大成功しているからだ。われわれの主な役割は、ただ応援して拍手を送ることだ』。日本市場では長期的な視点が不可欠だ。バークシャーのように数十年単位でみる必要はないとしても、急速な変化を期待すれば、失望するだけだ。バフェット氏に続きたいのであれば、優れた経営陣を見つけて、指図するのではなく、「応援して拍手」することが肝心だ。日本は、外部の株主の声を受け入れつつあるが、短期的な利益を狙って経営陣と対立するのではなく、長期的に共に歩む投資家こそ成功しやすい」

     

    日本企業は、長期的視点で経営している。短期志向ではない。「ゴーイングコンサーン」(継続企業の前提)という近江商法が生きている。息の長い技術開発に取組んでいるのは、こういう長期視点の経営方針からだ。

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