勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    中国の25年GDP成長率は5.0%と、政府目標の「5%前後」を達成した形である。立役者は、輸出の急増である。トランプ政権復帰を見込んで、駆け込み輸出が増えた結果である。トランプ氏は、「中国へ最大60%関税をかける」と発言しただけに、これを忌避するために輸出を繰上げたものだ。

    中国税関総署が13日発表した2024年の貿易黒字は前年比21%増の9920億ドル(約156兆30000億円)。輸出が過去最高を記録する一方、輸入が伸び悩んだことが背景にある。輸出は昨年、ほぼ毎月増加し、年間ベースで新型コロナウイルス流行期の22年に付けた従来の最高記録を上回った。長引く住宅危機と消費低迷で苦戦している中国経済が、力強い外需によって支えられた。25年は、こうした輸出下支えが「トランプ・リスク」にさらされている。

    『ブルームバーグ』(1月17日付け)は、「中国経済、25年は米追加関税が成長率の脅威にー昨年の目標達成でも」と題する記事を掲載した。

    中国の2024年のGDP成長率は5%と、5%前後に設定されていた政府目標を達成した。当局が昨年後半に講じた土壇場での刺激策に加え、堅調だった輸出の後押しで景気が押し上げられた。だが、トランプ次期米大統領は対中関税を引き上げる考えを示唆しており、中国経済にとって主要な成長のけん引役である輸出の勢いが奪われる恐れもある。

    (1)「17日発表された24年のGDPは前年比5%増加。ブルームバーグ調査のエコノミスト予想中央値(4.9%増)をやや上回った。習近平国家主席は昨年末に24年のGDP成長率目標を達成するとの見通しを示していた。昨年10~12月のGDPは前年同期比5.4%増と、6四半期ぶりの高い伸び。市場予想の5%増を上回った。前期比では1.6%増と回復ぶりが顕著で、伸び率としては23年1~3月以来の大きさだった」

    昨年10~12月のGDPが、前年同期比5.4%増と6四半期ぶりの高い伸びをみせたのは、輸出の駆け込み需要であろう。昨年12月の輸出は、前年同月比で約11%増の3360億ドルと、月間ベースで21年12月に次ぐ過去2番目の高水準を記録した。

    (2)「BNPパリバの中国担当チーフエコノミスト、ジャクリーン・ロン氏は、「昨年の中国経済にとって最大の明るい材料は輸出で、特に価格要因を除くと非常に堅調だった」と指摘。「これは今年最大の問題が米国の関税になることも意味する」と話す。トランプ次期米政権の発足を控え、共産党指導部は今年に金融緩和を進め、公的支出を拡大する方針を示している。トランプ次期大統領は中国製品に最大60%の関税を賦課する考えを示唆しており、対中貿易に大きな打撃となる可能性がある。こうした状況はグローバル企業に出荷の前倒しを促し、昨年の成長率を押し上げた」

    企業は、トランプ氏の最大60%関税を回避すべく、繰上げ輸出を行った。これが、24年のGDP成長率を押上げたとみられる。

    (3)「中国のGDP成長率目標は、これまでほとんどの場合で達成されており、これについては疑問視されることが多い。だが、昨年9月下旬からの当局の政策転換が長引く不動産不況や物価低迷による逆風に対抗するのに寄与したことを示唆する幅広いデータもある。24年12月の工業生産は前年同月比6.2%増と予想を上回り、昨年4月以来の高い伸びとなった。内需の動向はまちまちだ。失業率は昨年8月以来の上昇となり、不動産販売も引き続き低調だったが、消費は刺激策による後押しを受けたカテゴリーで持ち直しの兆しを見せた」

    昨年12月の工業生産が、前年同月比6.2%増と予想を上回り、昨年4月以来の高い伸びとなった。これは、輸出急増に支えられている。

    (4)「マッコーリー・グループの中国経済責任者、胡偉俊氏は「輸出受注の前倒しが確かに寄与したが、輸出だけでなく、消費にも改善が見られた。これは主に購入補助金による成果だ」と語る。モルガン・スタンレーの邢自強氏率いるエコノミストチームは、年間成長率の持ち直しの約60%は消費と製造業投資を促進する政策によるもので、残りは出荷の前倒しによるものだと推計した」

    消費は、購入補助金が支えた。製造業投資増は、企業の過当競争を反映したもので、この跳ね返りが25年GDPを押下げるであろう。

    (5)「消費の喚起を最優先課題とする中国当局が、年内に拡充する方針を示している消費財の下取りプログラムにとって、こうした改善は良い兆しとなる。ブルームバーグが公式データを基に計算したところ、中国の24年の名目GDP成長率は4.2%だった。20年以降で最も小さな伸びにとどまり、物価低迷による影響を反映した。GDPデフレーターは2年連続のマイナスとなった」

    24年の名目GDP成長率は4.2%だった。20年以降で最も小さな伸びにとどまり、GDPデフレーターは2年連続のマイナスとなった。名目成長率が、実質成長率を下回る「名実逆転」が起こっている。要するに、デフレ経済下にあるのだ。

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    中国の2024年のGDP成長率は5%と、政府目標の5%前後と一致した。昨年後半の刺激策が寄与した形である。だが、有力エコノミストが昨年秋、「実態は2~3%成長」と発言して、習国家主席から発言を禁じられている事実と重ね合わせると、「はてな」という疑問符がつくのだ。5%成長という経済の勢いではない。その証拠として、相変わらず「無駄な」インフラ投資や住宅投資を続けているからだ。瞬間的にGDPを押上げても、継続的な付加価値を生まないので「線香花火」に終っている。

    『日本経済新聞 電子版』(1月17日付)は、「中国、未完インフラ野ざらし GDP減速の現場を行く」と題する記事を掲載した。

    中国の2024年の実質経済成長率は5.0%と、23年の5.2%から減速した。住宅不況が景気の足を引っ張った。不動産収入に依存してきた地方政府の財政難は極まり、停止に追い込まれた公共事業も多い。未完成のままのインフラが放置された地方都市の現場を取材した。

    (1)「中国南部に位置する広西チワン族自治区の柳州市。市街地にある公園内の展望台から見渡すと、市中心部を走る幹線道路に鉄道用の橋脚が数キロメートルにわたって等間隔で並んでいた。肝心の線路はない。近くに住む女性、李さん(76)は「何年もこのままの状態でさらされている。何の役にもたたないまま、遺構になっちゃったね」と憤った。市中心部を走る全長45キロメートルの鉄道建設は16年に始まった。25年に運行開始を予定していた。同市は総工費126億元(約2700億円)と見積もったが、市の予算不足で21年に工事が止まり、橋脚や駅だけが残された。「毎朝通う公園を整備した方が安上がりだし、たくさんの人に使ってもらえたのにね」。李さんはあきれ顔だった。鉄道建設の効果と言えば、「遺構」をSNSで紹介しようと展望台を訪れ撮影する観光客が少し増えたくらいだと笑う」

    25年に運行開始を予定していた鉄道が、橋脚建設まで済ませて野ざらしである。柳州市は総工費126億元(約2700億円)の予算が息切れしたのだ。「もったいない」話である。橋脚まで建設が進んだ以上、あとわずかな資金が続かなかったのだろう。

    (2)「広西チワン族自治区に隣接する貴州省にも財政難で行き詰まった公共事業がある。省都の貴陽市には、21年に完成するはずだった幹線道路が建設途中のまま残っていた。アスファルトはところどころはがれ、雑草が生えたり水たまりが点在したりしていた。同市は当初、市中心部と新たな開発区を結ぶ全長12キロのバイパス道の完成に、52億元の費用を見込み建設を始めた。資材高でコストが膨らみ工期が遅れるなか、マンションバブルが崩壊した。税収に匹敵する規模だった不動産収入が大きく落ち込み、追加費用を捻出できなくなった」

    貴陽市には、21年に完成するはずの幹線道路が未完成のまま放置されている。不動産バブル崩壊で土地売却益が急減し、建設資金を調達できなくなったのだ。

    (3)「土地が国有である中国では、地方政府が国有地の使用権を不動産開発会社に売り渡す。不動産バブルに沸いた頃は使用権の価値も右肩上がりで、売却収入は地方税収に並ぶ規模まで拡大した。地方政府はその不動産マネーを公共インフラの整備などに充てた。21年半ばに住宅不況へ陥ると、状況が暗転した。バブル崩壊から3年あまりがたち、国有地使用権の売却収入は半減した。かつてインフラ開発のために発行した地方政府の「隠れ債務」の返済負担も重くのしかかり、財政が逼迫。未完成のまま放棄された公共事業が増えた」

    地方政府のインフラ投資が、21年以降に滞る事態になったのは、不動産バブル崩壊の結果だ。不動産バブルが、どれだけ中国経済を支えてきたかが分る。

    (4)「それでも中央政府は景気下支えのため、地方政府に「公共事業を加速せよ」と指示する。地方政府にインフラ建設のために地方債を発行させて、公共事業を上積みするようせかす。バイパス道の建設を停止した貴陽市も23年に79億元のインフラ債券を新規に発行した。調達した資金を使って、ダムや病院など61件の開発に着手した。そのうちの一つにオフィスと住居を一体開発した省エネ企業向けの開発区がある。雪がちらつくなか労働者らが工事を急いでいたが、1月初旬時点で入居予定の企業はないという。地元住民の反応は冷ややかだ。タクシー運転手の雷さん(35)は「どうせ借金するなら、今ある道路を舗装してほしい。道路がきれいになれば速く走れてお金も多く稼げるのに」とぼやいた」

    中国政府は、惰性で政策を進めている。インフラ投資と企業補助金の継続である。政策見直しが、全く行われないという「不思議な国」である。

    (5)「借金を抱えてまでインフラ整備を進めても、景気回復という実感は市民に生まれない。国有地使用権の売却収入という自主財源が細るなか、地方政府には将来の返済リスクだけが残る」

    今後も、雪だるま式の負債残高を抱えて行く中国経済に展望があるわけでない。習氏は、自己の国家主席継続が最大目標になっている。



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    中国自動車業界の平均稼働率は、5割見当と最悪局面である。政府補助金を貰い、生残りを賭けた死闘を続けている。何とも資源の無駄使いで時間を空費している。習近平国家主席は、生き残った企業が世界企業になれると「公認」しているのだ。ここだけは、「市場競争派」である。すべては、中国の世界覇権の前哨戦という見立てなのだろう。

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月16日付)は、「中国の自動車業界、『淘汰』の段階に」と題する記事を掲載した。

    中国の自動車メーカーが過剰生産能力を抱えた結果、世界最大の自動車市場が淘汰の段階に入っている。中国乗用車協会(CPCA)が、9日発表した昨年の国内自動車販売台数は、前年比5.5%増の2290万台だった。しかし、この需要は各社が構築した生産能力をはるかに下回っており、メーカーは生き残りをかけて値下げや国外市場への進出を迫られている。

    (1)「中国の電気自動車(EV)メーカー、小鵬汽車(シャオペン)の何小鵬CEO(最高経営責任者)は昨年12月31日付けの社内文書で、「自動車業界は2025~27年に淘汰の時期を迎える」とし、「2025年の競争はかつてないほど激しいものになる」と述べた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はこの文書を確認した。早々に「負け組」に名を連ねているのは外国ブランドだ。米ゼネラル・モーターズ(GM)や独フォルクスワーゲンは、地場メーカーにシェアを奪われている。CPCAによると、中国市場では昨年、国産ブランドのシェアが61%となり、前年から8.6ポイント上昇した」

    中国の地場メーカーは、補助金に助けられて値下げ競争を行っている。海外メーカーは、この煽りを食ってシェアを奪われている。

    (2)「とはいえ、国産ブランドも試練に直面している。コンサルティング会社アリックスパートナーズのマネジングディレクター、スティーブン・ダイヤー氏によると、昨年、23のEVブランドが中国市場から撤退したか他のブランドに統合された一方で、12の新ブランドが市場に参入した。昨年の1~9月に少なくとも1台のEVを販売したブランドは112に上るという。同氏の推計では、中国の自動車メーカーは24年、生産能力の半分程度しか使用しなかったとみられる」

    国産ブランドも過激な競争を繰り広げている。これが、生産者物価指数をマイナスへ引き込む逆効果を生んでおり、デフレマインドを増幅する事態へ落込んでいるのだ。この一方で、国債を発行して耐久消費財購入促進を行っている。中国に、総合的視点の経済政策が存在しないのだ。

    (3)「調査会社オートフォーキャスト・ソリューションズで世界の自動車生産・販売予測を担当しているサム・フィオラニ氏は、「国有企業や大手民間企業は生き残れるだろうが、小規模企業、特に輸出実績のない企業の間では再編と淘汰が進むだろう」と指摘する。こうした淘汰は、中国政府の産業政策の結末としてよくあることだ。中央・地方政府はまず、補助金や政策支援で特定の産業を奨励する。一定の規模に達すると、生存競争を繰り広げさせる。同様の動きは、最近では太陽光パネルや風力タービンで、過去には鉄鋼や電子機器でも見られた」

    中国は、他産業でも過当競争させて生き残った企業を保護するというスタイルとっている。自動車も同じだ。

    (4)「競争に生き残った企業は世界トップ企業になることも多く、国の誇りの源となる。EV大手の比亜迪(BYD)をはじめとする中国の自動車メーカーは、すでに世界のEVメーカーの上位に入っている。中国の新車販売台数の半分超を占めるのは、フルEVかPHV(プラグインハイブリッド車)だ。同国の習近平国家主席は新年の演説で、2024年にこれらの車両の生産台数が1000万台の節目に達したことを強調した」

    民間企業BYDが、EV勝者になったことは確実だ。だが、支払手形の期限を延長するなど、苦しい経営事情も伺わせている。

    (5)「テスラは、欧米や日本の競合他社の多くよりも健闘している。調査会社グローバルデータによると、テスラの昨年の中国での販売台数は前年比8%増の約66万2000台だった。それでも、BYDをはじめとする国内ライバルに後れを取っている。BYDは昨年、中国で約400万台を販売した。GMの中国合弁会社の販売台数は、2018年から24年にかけて5割余り減少した。オートフォーキャストのフィオラニ氏は、GMの工場は中国に6カ所あり、過剰だと指摘する。GMは先月、中国事業の不振により50億ドル超の非現金費用を計上するとの見通しを示した」

    GMは、中国国内に工場を6カ所も持っている。過剰と指摘されている。

    (6)「資金力のある後ろ盾があっても、(中国)企業の将来は保証されない。中国のソーシャルメディアに昨年12月、国内のあるEV新興企業の従業員が上司を取り囲み、給与などが確実に支払われるのか懸念を伝える動画が投稿された。中国の高級EVメーカー、上海蔚来汽車(NIO)のウィリアム・リー(李斌)CEOは先月、「自動車会社には欠点が許されない」とし、自動車業界は「最も激しく残酷な競争の段階に入った」と述べた」

    中国EVでは、賃金未払いが起こっている。それでも、販売競争を続けている。補助金政策の空恐ろしさを感じるのだ。市場競争の限界をはるかに超え、「野蛮な競争」へ突入している。

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    習近平国家主席が、金融部門まで介入している。経験豊かな金融専門家を排除して、自らに忠実な官僚を登用しているからだ。中国は、数兆ドルに上る地方政府の簿外債務の処理や、銀行に蓄積された不良債権(不動産ローン)処理問題を抱えている。この解決には、高度の金融知識を持つ金融専門家が不可欠である。こうした微妙な時期に、金融部門の幹部を入れ替えるリスクが指摘されている。

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月16日付)は、「中国が金融セクターの統制強化、大物幹部も追放」と題する記事を掲載した。

    中国の習近平国家主席が金融業界への統制を強めている。一度に1人ずつというやり方で、だ。中国は何十年もの間、欧米の金融部門から学ぼうとしてきた。それが今では、自国の経済発展を導いた国際経験豊富な金融専門家の多くを追放する一方で、共産党の指令実行や資本主義の行き過ぎの否定に熱心な新世代の忠実な官僚を登用している。

    (1)「習政権下で追放された金融業界の大物には、中国大手企業の上場を支援してきたドイツ銀行の元実力者、中国大手資産運用会社の最長在任会長、1990年代から2000年代にかけて中国金融業界の発展に多大な役割を果たした複数のバンカーなどがいる。大物の追放と並行して、中国の金融業界における市場志向を弱め、業界をより直接的に習氏の管理下に置くための措置も実施されている」

    習氏は、金融界の実力者を「汚職追放」の名目で追放している。金融業界における市場志向を弱め、習氏が金融業界を管理下に置くための措置とされている。習氏は、ここまで「疑心暗鬼」になっている。中国経済の苦境ぶりを物語っている。

    (2)「共産党は、銀行関係者の高額な報酬パッケージの抑制、政治学習会の強化、金融問題に関する意思決定の一元化に取り組んでいる。中国人民銀行(中央銀行)の総裁職はこの数十年、国際経験を持つテクノクラート(実務家)が務めてきたが、党内での地位は低下している。多くの経済学者や銀行関係者は、この改革によって、中国の台頭を支えてきたアニマルスピリットが失われることを懸念している。金融専門家や規制当局者が、トラブルに巻き込まれかねない過ちを避けようとして保守的になるからだ」

    金融の生命線は、成長分野へ融資して企業を育成し経済成長へ貢献させることだ。バンカーの腕の見せ所はここにある。習氏は、こういう金融の機能を否定して、単なる「資金配給所」に格下げしようとしている。こうして、中国経済は、発展の芽を摘まれるのだ。

    (3)「中国はまた、複雑な金融リスクに直面している時期に、国際経験と専門知識を持つバンカーや規制当局者を失っている。これらのリスクには、数兆ドルに上る地方政府の簿外債務の処理や、銀行のバランスシートに蓄積された不良債権(不動産ローン)の消化などが含まれ、高度な監督が必要とされる。習氏は、金融業界は自己利益に重点を置き過ぎだと考えている。銀行とその顧客の利益ではなく、共産党と国家のニーズに奉仕すべきとの立場だ。習氏の説明によると、その目標は経済発展の柱に対する党の支配を確立し、国家の復興という「中国の夢」に向けて政府によるリスク管理や効果的な資本の誘導を可能にすることにある」

    中国は、不動産バブル崩壊という「国難」に遭遇している。海外から多額の債務を背負っている状況下で、金融専門家を排除すればどうなるか。分りきった過ちを犯している。

    (4)「習氏は昨年、当局者らに対し、「実体経済に奉仕することが金融の義務だ」と語った。「金融が自己循環と自己拡大に集中すれば、源のない水、根のない木となり、遅かれ早かれ危機が起こる」と強調した。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が共産党の規律検査機関の開示情報を調べたところ、中国当局は2022年以降、規制当局・銀行・保険会社といった金融セクターの関係者500人超を調査対象としてきた。その一部は何年も前に退職していた。昨年の調査対象者のうち少なくとも85人は、中央政府管理下の金融機関に勤務していた。マクロ経済コンサルティング会社ガベカル・ドラゴノミクス(龍洲経訊)によると、2019年より前は、調査対象となる金融セクター関係者は毎年10人に満たなかった」

    習氏は、不動産バブルの責任を金融業界へ押しつけようとしている。習氏自らの責任を回避しているのだ。習氏こそ最大の不動産バブルの「受益者」である。地方財政が、土地売却益で潤い中国軍の拡大を実現し、自らの国家主席3期目を実現させたからだ。こうした事実を棚上げして、金融界をやり玉に挙げている。

    (5)「習氏の汚職一掃への取り組みを追跡している専門家らは、この取り組みはおおむね、権力ネットワークを解体し、誰が監督者であるかを警告することの方に軸足を置いていると語る。追放されたバンカーの後任は、欧米での経験はほとんどないが、政治的な信頼性が高いために登用されたケースが多い。外資系銀行の元中国人幹部は、「過去20年間の行動を調査すれば、清廉潔白な人など見つかるはずがない。習氏はこの世代のバンカーを見せしめにしたいのだ」と述べた。「選択的な法執行だ。これは政治だ」と指摘」

    習氏は、人事面で大きな間違いを犯している。中国軍では、軍務よりも習氏への忠節度で昇進させている。この手法を金融業界へ持ち込んだ。金融のベテランより、素人でも忠義だてする人物が昇進の基準になった。中国の危機へ向う足音が、聞こえるようだ。

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    人の子であれば、中国で就職もできずに巷を彷徨する若者の姿に胸を痛める人が増えるのは自然であろう。口先でイデオロギーを唱えていても、空腹が満たされる訳でないからだ。中国共産党内部では、「人の子派vsイデオロギー派」が暗闘を始めている。当然のことが起こっているのだ。

    『日本経済新聞 電子版』(1月15日付)は、「中国政局に波風、『主流・不動派』『声なき声派』が暗闘と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集委員である。

    2025年初め、長く凪(なぎ)続きだった中国政局に波風が目立ち始めた。中国共産党総書記で国家主席の習近平が13年かけて築き上げた「一強体制」。その内側から聞こえてくる不協和音の正体は、中国の政治、経済、社会政策を巡る将来を見据えた路線闘争である。

    (1)「共産党中央委員会の理論雑誌「求是」が1月1日に掲げた「重要文章」は、何と2年近く前の習講話そのものだった。国営中央テレビも報道した表題は、「中国式現代化によって強国づくりと民族復興の偉大な業を全面的に推進する」である。その中身は、「中国式現代化」「強国」「共同富裕」などを含め従来方針でしかない。それは22年10月、習が党総書記として異例の3期目入りを決めた後の23年2月7日、党幹部らを前に大々的に披露した抱負である」

    中国共産党理論雑誌『求是』は、今年1月号に掲載した習近平論文が、23年2月7日、党幹部らを前に大々的に披露した抱負であったという。「焼き直し」論文でお茶を濁しているところに、政策の行き詰まりを感じざるを得なくなっている。

    (2)「(これを)どう解釈すればよいのか。「新しいことは何もないし、出すこともない。従来の大方針を推し進めるだけだ。そういう意味だろう」。共産党政治に精通するある識者は「頑固一徹、何も変えないというメッセージ」と読み解く。中国では党内外で「この十数年間の政策失敗をきちんと反省して大方針を転換せよ」という圧力が一昨年、昨年と徐々に強まってきた。背景には、民生が向上するどころか、生活は厳しくなっているという実態への不満がある」

    党内の多数派の雰囲気は、政策の検証を求めているという。習近平派は、これを怠っているのだ。自派に不利な動きになっているからだ。

    (3)「こうした非主流派は、現体制で隅に追いやられた各派閥の面々、1980年代に加速して長く続いた歴史ある「改革・開放」政策の時代から活躍した長老らを含む。非主流の一連の勢力は名目ではなく実体的な改革、そして開放的な雰囲気の持続で中国の政治・経済体制、安定成長を維持したいと望んでいる。そして「集団指導」「党内民主」など、かつての共産党の伝統への回帰も志向している。それでも彼らは、この10年あまり声高に自らの主張を叫ぶことなく、様子見に徹してきた。「反腐敗」の名の下、時に政敵をつぶす習体制下では、集団指導といった主張が一種の政治的タブーだったからだ」

    共産党非主流派は、「改革・開放」政策の時代から活躍した長老らを含んでいる。「集団指導」「党内民主」など、かつての共産党の伝統への回帰も志向している人々だ。

    (4)「彼らは「声なき声派」といってよい。いわば「サイレントマジョリティー」である。主要メディアへの露出が一切ないため目立たないが、裾野はかなり広い。「声なき声派」の立場からみれば、今の主流派の姿勢は「2年前からの思考ストップにすぎず、目の前にある危機を無視している」「やる気のなさの象徴」という解釈になる。一方、習政権中枢にいる主流派は「政治・経済その他の大方針が揺らぐことはあり得ない」として、抜本修正を求める圧力を押し返そうとしている。動かずに現状のまま押し切ろうとする「不動派」だ」

    非主流派は、「声なき声派」でもある。習政権中枢にいる主流派は、改革開放など抜本修正を求める圧力を押し返そうとしている。

    (5)「この路線闘争は、習近平長期政権の今後に大いに関わっている。次期共産党大会があるのは27年秋だ。そこまで残り2年半あまり。「不動」を主張する主流派は、今後2年半あまりの間、「現政権の政策、大きな方針は全て大成功だった」という一種の「神話」を維持しようとしている。昨年から一段と広がった不満は、習周辺を固めているコアな人々とは距離がある党内勢力である」

    次期共産党大会があるのは27年秋だ。そこまで残り2年半あまり、活発な路線闘争が始まる気配である。

    (6)「この問題を考える際、欠かせない勢力が、中国共産党の統治を守護する人民解放軍だ。24年12月、中央軍事委員会の機関紙、解放軍報は「集団指導」「党内民主」などを大々的に訴える論評を連続して掲載した。「党書記が一人で勝手に決めてはいけない」という主張もあった。「習一強」体制への批判を含むと解釈される一連の論評が出たのは、同11月末に習派主流の「軍内代表」と目される中央軍事委メンバー、苗華が重大な規律違反の疑いで停職処分になった直後だった」

    中国人民解放軍内部は、「集団指導」「党内民主」などを大々的に訴える論評を連続して掲載している。こうした事態は、11月末に習派主流の「軍内代表」と目される中央軍事委苗華が、重大な規律違反で停職処分になった直後からだ。明らかに、軍内部での動きも変わってきた。

    (7)「これは苗華の事実上の失脚が、反主流派の「声なき声派」の指弾によって追い込まれてから渋々とらざるをえなかった防御的な措置だったのは明白だ。苗華への停職処分で新たな段階に入った軍内闘争はなお続いている。実力組織である軍の中で、これほど目に見える形の闘争が繰り広げられるのは、歴史的に見ても異例である」

    一枚岩とみられてきた中国人民解放軍が、改革開放路線への復帰を求めて動き出している。これは、習近平氏にとって要注意点である。



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