勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    早くも脱炭素化で挫折

    「三種の神器」が元凶

    発展途上国への裏切り

    夏の無人地帯が出現へ

     

    中国経済は、不動産バブル崩壊により内需低迷が続いている。習近平国家主席は、この状況を打開すべく「三種の神器」とも呼ぶべきEV(電気自動車)・リチウム電池・太陽光発電パネルの増産によって、輸出へ活路を求める政策を推進している。 

    実は、これら三種の神器が、いずれも製造過程で多くの二酸化炭素を排出しているという大問題を抱えている。世界的な潮流である「脱炭素」と、完全に逆行した動きである。中国は、言わずと知れた世界一の二酸化炭素排出国である。それにもかかわらず、脱炭素に逆行した経済政策は、世界に脅威であるだけでなく、中国自体へ異常気象をもたらす元凶になるはずだ。 

    米マサチューセッツ工科大学の研究チームは2018年、中国の中枢部である華北高原(北京など)が気象変動と集中灌漑によって、生命に危険を及ぼす猛暑に脅かされるとの研究を公開している。その危機は、2070年以降に到来するとの予測だ。詳細は後で取り上げるが、現実は三種の神器などと浮かれている状況にない。

     

    中国のあるべき経済政策は、不動産バブル崩壊による過剰債務の処理を優先することだ。これによって、早く不良債権を処理して身軽になるのが正統派政策である。IMF(国際通貨基金)も、こういうオーソドックスな政策採用を呼び掛けている。中国は、聞く耳持たずで、不良債権を棚上げし「凍結」する政策を採用している。これが、「中国式社会主義金融」と称しているのだ。 

    不良債権の処理は、主義主張という思想と無関係で純粋な技術論である。医師に喩えれば、患者の患部を摘出するという外科的対応が生命を救うケースであるにも関わらず、内服薬で済ますような事例である。これが、社会主義金融論とうそぶいているのだ。実は、「三中全会」(経済政策の骨格を決める)を未だ開催できない理由が、不良債権処理を巡る内部の意思統一ができない結果とされている。経済専門家にとっては、とうてい飲めない案であろう。 

    三種の神器の産業を増産し、中国経済をテコ入れする現在の政策は、脱炭素と逆行している。ますます異常気象を激化させ、自らも甚大な被害を受けることが不可避となった。天に唾する行為である。

     

    早くも脱炭素化で挫折

    中国は、21~25年にエネルギー単位消費量(一定のGDPを創出するために必要なエネルギー量)を13.5%、単位炭素排出量(一定のGDPを創出するために必要なCO2排出量)を18%引き下げる目標である。最終的には、30年までにCO2排出量をピークアウトさせ、60年までに実質ゼロにするのが政府公約である。 

    23年のエネルギー単位消費量は、0.5%の低下に止まり目標の2%低下に届かなかった。だが、この「0.5%低下」は後記のように計算基準を変えたもので、従来の計算法では「0.5%上昇」という驚くべき事態に見舞われている。前記の5カ年計画で3年経過になる23年において、早くも狂いが生じている。 

    当局は、23年の目標未達のあとを受けた24年の目標で、エネルギー単位消費量を2.5%の引き下げるだけで、単位炭素排出量についての新たな目標は設定されなかった。最も温暖化への影響が大きい化石燃料の石炭は、使用の抑制に向けた新たな動きもなかったのだ。これでは、30年までにCO2排出量をピークアウトさせる目標達成が怪しくなっているとみるほかない。 

    中国は、「統計操作」を始めている。当局は24年2月、原子力や再生可能エネルギーといった非化石燃料をエネルギー単位消費量の算定基準から除外した。23年のエネルギー単位消費量算定の際には、すでにこの手法変更をさかのぼって適用している。23年に計算手法に変更がなければ、エネルギー単位消費量は前述のように0.5%上昇だった。『ロイター』(3月16日付)が、このように内情を指摘している。

     

    ここでも、中国得意の「統計操作」が行われている。見かけをよくするためだ。この操作は、中国の二酸化炭素排出量が、目標値と異なって下がるどころか増えているという「異常状態」へ突入している現れである。 

    日本の環境省は23年12月、中国の二酸化炭素(CO2濃度)の年間増加量が、中国が公表している排出源などの情報を基に計算された数値の約1.5~3倍に上るとする報告書をまとめた。中国の情報が、不正確な可能性がある証拠だ。国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で発表された。 

    報告書によると、日本の温室効果ガス観測衛星「いぶき」が、中国の約7万7000地点で、2009~22年のCO2濃度の年間増加量を観測したところ、0.6~1.2ppm(1ppmは1万分の1%)だった。これに対し、国際的なデータベースによると、中国のCO2濃度の年間増加量は0.2~0.8ppmで、衛星観測の値が約1.5~3倍に上った。一方、日本と米国についても同様の条件で調べたが、衛星観測とデータベースの数値に食い違いはなかった。(つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

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    インド南部では、190万平米もの拡張計画を持つ工業団地への引き合いが殺到している。これは、中国からの脱出企業とインドの成長を見込んだ投資が急増しているからだ。中国は、外資企業の引き留め策として、データの海外移転を促進する規定を施行する。グローバルな生産や販売活動、貿易などで収集したデータに限り、移転の安全審査を免除するもの。この緩和策が、どれだけの効果を持つか。大きな「脱中国」の流れには対抗できまい。

     

    『ロイター』(3月23日付)は、「インドで倉庫建設ラッシュ、成長期待と『中国回避』で国際企業が注目」と題する記事を掲載した。

     

    インド南部に広がる工業団地グリーンベース・インダストリアル・パークでは、インドの経済成長や中国からのサプライチェーン(供給網)分散化の動きを見越して新たな倉庫や工場が次々に建てられ、用地の取得は難しさが増す一方となっている。

     

    (1)「アップルのサプライヤー、鴻海精密工業やドイツ自動車大手ダイムラーの工場に隣接し、米大手投資会社ブラックストーンとインドの不動産王ニランジャン・ヒラナンダニ氏が運営するこのグリーンベースの幹部S・ラグラマン氏は、「ここは欧州や米国の企業にとってインドで最も手に入れたい場所の一つだ」と胸を張る。ラグラマン氏によると、グリーンベース内の区画リースには、問い合わせが殺到している。「われわれは中国から拠点を移すことを検討している顧客少なくとも3件と商談中だ」という」

     

    インド南部の工業団地は、引き合い殺到という。脱中国企業の需要である。中国には痛手だ。

     

    (2)「グリーンベースは増大する需要に対応するため、8億ドル(約1193億円)を投じて敷地面積を今の4倍の190万平方メートルに拡大することを目指している。これはインドの経済成長率が8%強と先進各国を上回る中で、2023年1012月に倉庫用賃貸用地の面積が過去2年で最高に達したという流れの一端に過ぎない、というのが不動産サービス大手コリアーズの分析だ」

     

    工業団地は、さらに4倍へと強気の拡張計画を持っている。それだけ、需要が大きいという意味だ。中国にとってはマイナス材料である。

     

    (3)「彼らが主な顧客として狙っているのは、米国などとの対立で地政学リスクが高まっている中国とは別の場所に製造拠点を広げたいと考えている製造業だ。電子商取引拡大の波に乗る企業なども、輸出拠点として、また人口14億人の巨大消費地としてインドに熱い視線を送る。世界最大級の不動産開発会社パナトニのインド担当マネジングディレクター、サンディープ・チャンダ氏は「インドに進出する上で適切な局面だと考えた。向こう1520年で非常に大きな成長余地があるからだ」と語った」

     

    工業団地は、中国の地政学リスクを嫌った製造業の需要が目立っている。

     

    (4)「不動産サービス大手コリアーズの分析に基づくと、インドの上位5都市で23年1012月にリースされた倉庫は71万5000平方メートルと、過去2年で最大を記録。この間、グリーンベースに近いタミルナド州の州都チェンナイの「グレードA」倉庫供給量は336%も増加し、この5都市では最も高い伸びとなった。5都市平均伸び率の55%もはるかにしのいでいる。自動車やエンジニアリング、小売り、電子商取引などの企業がさらなる成長をけん引する、とコリアーズは予想している」

     

    倉庫用土地の需要も盛んである。自動車やエンジニアリング、小売り、電子商取引などの企業がさらなる成長をけん引している。

     

    (5)「用地取得には複雑な権利関係を解決しなければならない上、賃貸料が追い着かないほど地価が高騰していることが不動産開発会社の収益に響いている。不動産コンサルティング会社CBREの調べでは、グリーンベース付近の23年の地価は、バッキンガム宮殿の半分ほどの広さに当たる4ヘクタールで360万ドルと、20%も増加。ニューデリー近くの土地は上昇率が50%を超えたケースもある」

     

    地価が急騰している。裏返せば、これまでが「二束三文」と安かったことだろう。これだけ急騰しても採算にあうのだから、いかに安値であったかを示している。

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    中国商務省が3月22日発表したデータによると、1~2月の新規の対内直接投資(FDA)は前年同期比19.9%減の2151億元(約4兆5120億円)であった。ブルームバーグの試算によれば、2月の新規対内直接投資は1020億元(約2兆1400億円)で、前年同月27%減である。2月の落込み幅が大きくなっているのだ。中国経済の停滞と地政学的リスクを忌避した結果である。

     

    こうした事態を打開すべく、習近平国家主席は3月27日に米企業トップと会見する予定である。中国への対内直接投資を呼び掛けるものとみられる。

     

    『中央日報』(3月22日付)は、「『チャイナランに焦る中国』、習近平主席 米企業代表に会う」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席が来週、米グローバル企業の関係者に会う予定だという海外の報道があった。米中間の葛藤、中国経済の沈滞などで外国系資本が中国を離れる「チャイナラン」(チャイナとバンクラン=銀行取付けの合成語)が続く状況で、習近平主席が自ら外資誘致に動き出すという解釈が出ている。

     

    (1)「米『ウォールストリートジャーナル』(WSJ)は21日(現地時間)、ある消息筋を引用し、習主席が27日に保険会社チャブのエバン・グリーンバーグ最高経営責任者(CEO)、米中関係全米委員会(NCUSCR)のスティーブン・オーリンズ委員長、米中ビジネス評議会(USCBC)のクレイグ・アレン会長らに会う予定だと報じた。昨年11月、習主席がアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するため米サンフランシスコを訪問した当時、米中関係全米委員会と米中ビジネス評議会が夕食会を主催したことに対する後続措置だと、WSJは伝えた」

     

    習氏は、昨年11月に訪米の際に夕食会へ出席した経営者と「返礼」の意味を含めて面会するという。これをテコに、米企業の対中直接投資を増やしたい意向であろう。

     

    (2)「習主席が自らグローバル企業関係者に会うのには「チャイナラン」に対する中国当局の悩みが反映されていると解釈される。中国国家外貨管理局が先月18日に発表した「2023年国際収支」によると、23年、外国人の対中国直接投資額は300億ドル(約4兆5400億円)と、前年比で82%も減少した。ブルームバーグ通信は1993年(275億ドル)以降で最も少ないと伝えた。ピークだった2021年(3441億ドル)と比較すると10分の1にもならない」

     

    「チャイナラン」とは、言い得て妙である。中国から逃げ出す海外資本の実態を示しているからだ。ロシアのウクライナ侵攻では、西側企業は大損を被った。中国の台湾侵攻が起っても、その二の舞にならぬように事前に資本逃避しようという構えだ。習氏は、こういう西側企業をどのようにして説得するのか。まさか、いまさら「台湾侵攻しません」とも言えないだろう。この件は、沈黙するほかあるまい。

     

    (3)「原因には、不確かな投資環境が真っ先に挙げられる。中国当局は昨年、反スパイ法を改正し、対外関係法を制定しながら、外国企業の調査活動などに対してスパイ容疑で処罰、取り締まりを行っている。これに先立ち米国系ローファームが中国事業を撤収し、世論調査機関ギャラップが中国事務所を閉鎖した。在中国欧州連合(EU)商工会議所は20日(現地時間)の報告書で「不確実性と厳格な規制で中国国内の外国企業のリスクが急激に高まった」と明らかにした。報告書は「事業環境が政治化されて予測が難しく、信頼性、効率性が落ちる」と指摘した」

     

    習氏は、国内を政治的に引締める手段として「反スパイ法」を使っている。これが、海外企業にとって不気味なのだ。日本企業でも、この法律によって拘束・起訴された犠牲者が出ている。中国は、対内投資をわざわざ減少させる原因を作っている。

     

    (4)「中国当局は、外国人投資ネガティブリストを見直して、遺伝子診断や治療技術など革新分野に進出する道を開くと明らかにした。また無関税製品の比率を増やしてサービス貿易を拡大し、外国人投資家、外国企業の職員、その家族に対するビザの便宜も図ると伝えた。中国国家発展改革委員会の事務総長は今回の案について「中国が外国人投資誘致を重視し、高いレベルの投資を通じて世界経済との相互作用を強化することをもう一度立証した」と評価した」

     

    「反スパイ法」自体が存在している以上、外国人の身の安全は保障されない。中国は、こういう障害物を認識しない限り、対内直接投資が増えることはあるまい。

     

     

     

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    中国にとって脱炭素は緊急課題である。脱炭素には、高炉に代わって電気炉による鉄鋼生産が必要だが、原料になる鉄製品のリサイクル率の低さがネックになっている。ほかに、需要不足も足かせになっている。鉄製品のリサイクル率の低さは、中国社会特有の「整理整頓」が不得手という面もある。製品を作るがも回収しない。こういう悪弊が、社会の効率化を阻んでいるのだろう。

     

    『ロイター』(3月22日付)は、「中国の鉄鋼業、脱炭素『目標』25年達成に遅れ 電気炉転換進まず」と題する記事を掲載した

    究者らによると、中国は巨大な鉄鋼産業の脱炭素化で遅れをとっている。需要の鈍化、リサイクル率の低さ、設備過剰の懸念が、脱炭素への移行を妨げているという。鉄鋼業は世界の二酸化炭素(CO2)排出量の約8%を占めており、世界の鉄鋼の半分以上が中国で生産されている。

     

    (1)「中国は、鉄鋼業からの排出削減に取り組むと約束しながらも、鉄鋼生産で使ってきた石炭焚き高炉から電気炉(EAF)技術への置き換えが進んでいない。EAFでは鉄鋼の原料として鉄鉱石の代わりに鉄スクラップを再利用する。中国政府は、2025年までに粗鋼の15%をEAFで生産し、10年後までにその割合を20%まで引き上げるという目標を設定している。しかし、コンサルティング会社ウッド・マッケンジーの調査責任者、デービッド・カショット氏によると、昨年にEAFで生産された鉄鋼の割合はわずか10%と、前年の9.7%から微増にとどまった」

     

    中国鉄鋼業は、脱炭素対策として電気炉による鉄鋼生産を推進中だが成果は遅々としている。リサイクルが定着していないので、原料スクラップが集まらないのだ。中古EVが、野外に放置されている光景は珍しくない。リサイクル概念に乏しい社会なのだろう。

     

    (2)「米国のシンクタンク、グローバル・エナジー・モニター(GEM)は19日に発表した報告書で、中国の既存のEAF生産能力(約1億5000万トン)は政府目標であるシェア15%を達成するのに十分だが、稼働率は低いままだと指摘した。中国の15%目標はさほど野心的ではないと考えられているが、目標が達成されれば中国の鉄鋼業からの二酸化炭素排出量は8.7%減るとGEMは分析する。ただ、スクラップ供給が限定されていること、鉄鋼需要の減少、電力供給の制限により、EAF施設の収益性は悪化しているという。また、資金的な理由から、脱炭素化に逆行するような、石炭ベースの高炉の新設も増えている」

     

    電気炉による鉄鋼生産が15%になると、二酸化炭素排出量は8.7%減になる。効果が大きい。

     

    (3)「現在、中国で供給される鉄スクラップの大半は、従来型の高炉で使用されている。一部のEAFでは、原料を銑鉄に切り替えざるを得ず、炭素排出が抑えられていない。スクラップ供給を増やすか、代替原料として水素ベースの直接還元鉄(DRI)に切り替えることが、中国におけるEAFの成功には不可欠だ。DRIは、鉄鉱石を鉄に還元するクリーンな方法で、還元された鉄はEAFで使用できるペレットに加工できる。脱炭素化の専門家であるクリス・バタイユ氏は「DRIで二酸化炭素排出量を約7080%削減できるが、原料となる鉄鉱石ペレットを十分に確保できるかどうか次第だ。今は供給が限られている」と語った。同氏によると、必要なインフラと原料供給が整えば、2050年までに中国が全鉄鋼量の4分の3をEAFで生産することは可能だという」

     

    直接還元鉄(DRI)では、二酸化炭素排出量が約70~80%も削減できるという。大変な削減効果だ。その前に、必要なインフラと原料供給が整えば、2050年までに中国が全鉄鋼量の4分の3を電気炉で生産可能とされる。それには、スクラップ回収を軌道に乗せなければならない。「ポイ捨て」ではダメなのだ。

     

     

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    台湾が、中国に統一されたらどういう姿になるか。それを如実に示すのは、現在の香港であろう。かつて、アジアの真珠とさえ呼ばれた香港が、「淀んだ姿」に変わったのだ。政治体制が代われば、ここまで活気を失う。香港は、歴史博物館になったようである。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月22日付)は、「香港を包む沈黙、書店は閉まりショーもキャンセル」と題する記事を掲載した。 

    中国が権威主義的な支配を強めるにつれ、かつて喧騒(けんそう)に包まれていた大都市・香港から、その支配の及ばない場所が消えつつある。書店は閉鎖され、ショーはキャンセルされている。かつて人々を団結させていた政府への抗議の声は、人目を忍ぶささやき声に取って代わられた。

     

    (1)「2019年、民主化を求めて街頭を埋め尽くした群衆はとうの昔に姿を消したが、国家安全保障の名の下に反対派を封じ込めようとする政府の取り組みは今も続く。23日に施行される国家安全条例は、扇動などの犯罪を厳罰化し、国家機密の窃取や外国勢力による干渉を犯罪行為として禁じるものだ。香港立法会(議会)が極めて短期間で可決した同条例は、何が違法行為に当たるのかを巡って議論を巻き起こしている。古い日付の民主派の新聞が家に放置されているだけで違反に当たるのか心配する声もある。神聖で個人の空間と考えられていた教会の告解室のような場所さえ安全なのか懸念する人もいる」 

    香港の自由と民主主義は、死滅の危機を迎えている。中国当局にとって、邪魔な存在なのだろう。 

    (2)「取り締まりを強化する一方、香港は近年、厳格な新型コロナウイルス対策が引き金となった観光客の減少に加え、人口流出や中国経済の軟化に打撃を受けており、衰退に歯止めをかけようとしている。国家安全保障に固執する政府の姿勢は、ビジネスより政治を優先している表れだと指摘する外国企業の幹部もいる。国際的な信用を高めるために政府関係者が世界中を飛び回っても、世界のハブとしての香港の地位回復は難しくなると言う。コロナ後の香港の景気回復に勢いはなく、株価は低迷し、企業は中国から資金を引き揚げている」 

    かつて繁栄した香港は、人口流出と経済停滞で不動産相場が下落を続けている。世界のハブとしての香港の地位回復は、もはや難しくなっていると指摘されている。

     

    (3)「中国が、20年に香港国家安全維持法(国安法)を施行して以降、約20万人の香港市民が英国への移住を申請し、すでに多くの人が去った。教育からIT(情報技術)まで幅広い職種で頭脳流出が起きている。人材紹介会社ロバート・ウォルターズ(香港)が昨年9月に発表したリポートによると、調査した香港の専門職従事者の半数以上が、5年以内に香港を離れることを検討または計画していた。同社のマネジングディレクター、ジョン・ムラリー氏は当時、「海外で働いて国際経験を積みたいと思うのは、特に若者では目新しいことではないが、これほど多くの専門職従事者が香港を離れることを検討しているのは気がかりだ」と指摘していた」 

    香港の専門職の半数以上が、5年以内に香港を離れる計画という調査結果が出ている。香港に将来性がないという判断であろう。 

    (4)「中国政府が香港の民主化運動を抑えるため20年に国安法を施行してから、公の場やソーシャルメディアからは反対意見がほぼ消えた。少なくとも290人が同法に基づいて逮捕され、その中には野党議員やジャーナリスト、活動家も多数含まれる。その多くが有罪判決を受けることなく拘束されたままだ。警察はタクシー運転手に対し、暴力やテロ行為など犯罪に関与しているとみられる人物を通報するよう呼びかけている。市民から国家安全保障に関わる情報提供を受け付けるホットラインがあり、これまでに数十万件の通報があった。表現の自由を支持することで知られるいくつかの独立系書店は、土地規制や営業許可証の掲示など政府から頻繁にチェックされ、標的にされていると話す」 

    警察は、タクシー運転手に対して密告を呼び掛けている。外部からの「侵入者」を警戒している証だ。これでは、かつての「国際都市」も形無しである。

     

    (5)「中心部のビジネス街に近い、閑静だが流行に敏感なエリアにある小さな書店「マウントゼロ」は今月で閉店する。店のオーナーは、政府から毎週のようにささいな違反をとがめる手紙が届き、匿名の苦情も寄せられているとソーシャルメディアで明かした。店の入り口の上には「Ideas are bulletproof(信念は弾を通さず)」と書かれ、屋外で詩の朗読会やブックトーク、週末にはマーケットを開催していた。店を訪れていた人によると、時にカメラを持った警官の姿もあった。民主化運動に賛同していたメンバーのいるグループのダンスや演劇の公演が主催者や会場運営者によって相次いでキャンセルされ、理由を告げられないこともあった」 

    香港の民主化運動に賛成派とみられる書店や演劇サークルは、当局の妨害に合っている。現在の香港には、こういう「異物」は邪魔なのだろう。

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