勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    中国の李強(リー・チャン)首相は7日、訪中しているイエレン米財務長官と北京で会談した。中国外務省によると、李氏は米中両国が「互いに尊重する必要がある。敵対関係ではなくパートナーであるべきだ」と述べた。 

    イエレン氏は現在、中国に対してEV(電気自動車)や太陽パネルの過剰輸出を警告すべく訪中している。何副首相は、米国との協議に応じる姿勢へ転じるなど「対米融和姿勢」をみせている。この裏には、中国経済の窮迫がある。さらに、米国を怒らせる不利益を勘定に入れているもようだ。 

    日本経済新聞 電子版』(4月7日付)は、「中国首相『米中は敵対せず相互尊重を』、米財務長官と会談」と題する記事を掲載した。 

    米財務省は会談が「率直で、生産的だった」と説明した。イエレン氏は中国に進出している米企業が不当な扱いを受けているという問題意識を念頭に「企業の公平な競争条件」を求めた。

     

    (1)「太陽光パネルや電気自動車(EV)など「工業生産能力の過剰」も問題視した。中国が最大の貸し手となっている途上国の債務問題に対する協力を引き続き要求した。李氏は生産能力の問題を巡り「市場の観点や経済ルールから客観的に見なければならない」と唱えた。「米国が中国と協力して公正な競争を堅持し、経済・貿易問題を政治や安全保障の問題にしないよう望む」と強調した」 

    李氏は、下線部に本音が現れている。これ以上、中国を追込まないでくれという気持ちが表れているからだ。米国が、安全保障問題から中国規制をしないでくれという「哀願」に聞こえるのだ。 

    (2)「イエレン氏は米中関係に関し「まだやるべきことはあるが、この1年でより安定した基盤をつくれた」と評価した。「複雑な関係を責任をもって管理し、差し迫ったグローバルな課題に対処するために協力し、指導力を発揮する義務がある」と力説した。イエレン氏は56日、中国の経済・金融分野を担当する何立峰(ハァ・リーファン)副首相と会談した。米中で均衡ある経済成長などを協議すると合意した。会談後、イエレン氏はEVなどを念頭に中国の過剰生産能力を議論する意向を示した」 

    イエレン氏は、正論を述べて中国の過剰輸出問題を解決するように迫っている。それに対する李氏の回答は、何とも弱々しいものだ。中国は、米国に追込まれている。それは、次の点をみれば明らかだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月6日付)は、「米中、軍事海洋協議を再開 偶発的衝突の回避へ対話」と題する記事を掲載した。 

    米中両政府は34日、海軍が中心となって海洋安全保障を話し合う協議(MMCA)をハワイ州ホノルルで開催した。米インド太平洋軍が発表した。偶発的な衝突を回避するための対話の場が本格的に再開した。 

    (3)「今回は、「軍事海洋協議協定」に基づく作業部会として開いた。バイデン大統領と習近平(シー・ジンピン)国家主席が2023年11月の首脳会談で再開すると合意した軍同士の対話の枠組みの1つとなる。開催は21年12月にオンラインで開いて以来となる。米代表団のイアン・フランシス氏(米インド太平洋軍北東アジア政策局長)は声明で、「中国軍とのオープンで直接的なコミュニケーションは事故や誤解を避けるために最も重要だ」と強調した」 

    中国が、米国との軍事協議に応じたこと自体が「弱気」になっている証拠だ。強気であれば、協議には応じないのが中国のパターンである。 

    日本、米国、オーストラリア、フィリピンの4カ国は7日、南シナ海で海上自衛隊と各国海軍による本格的な訓練を初めて実施した。11日には初の日米比3ヶ国首脳会談を米国で開催される。海洋進出を強める中国を念頭に、米国と同盟関係にある各国の結束が、内外に鮮明に示される事態になっている。中国としては、米国と同盟国をこれ以上、刺激しないとい配慮があったはずだ。

     

    (4)「中国国防省によると、中国側は米軍による台湾海峡や南シナ海への艦船や航空機の派遣に反発した。「航行と飛行の自由の名のもとに中国の主権と安全保障を危うくするいかなる行為にも断固反対する」と表明。「中国軍は法に基づいてあらゆる危険で挑発的な行為に対応し、領土主権と海洋権益を守り、地域の平和を維持する」と強調した。過去数年、空域や海域では両軍の軍用機や艦艇が異常接近するなどの事案が発生した。両軍が遭遇した際の安全な運用を話し合った。 

    中国の主張は、国際仲裁裁判所で100%否定されている。中国が、南シナ海へ軍事進出する法的根拠はゼロである。それだけに、弱みがあるのだ。 

    (5)「米国防総省によると、両軍から18人がそれぞれ参加した。南シナ海では、中国船がフィリピンの船に放水銃を発射するなどの妨害行為を繰り返す。台湾周辺でも中国軍による威圧的行為が続く。一方、米側の説明によると、中国軍が米軍に異常接近するなどの危険な事案は23年11月の首脳会談後に減っている」 

    米中が会談を重ねることは、誤解を解く意味で重要である。こういう地味な会談が、軍事衝突を回避することになろう。

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    中国は、EV(電気自動車)で過度の輸出依存体制をつくり挙げたことで、米国やEU(欧州連合)から極度に警戒される事態になった。米国のイエレン財務長官が、昨年から二度も訪中して過剰輸出を警告しているのは強い危機感の表れだ。

     

    調査会社によると、中国製EVの平均価格は3万ドル(約440万円)前後と、欧米メーカーの半分程度である。中国政府は、2016~22年に計570億ドルの補助金を投入した。地方政府も、減税などの支援策を講じている。中国の人件費が欧米よりも大幅に低いことも、価格競争力を高めている。『時事通信』(1月22日付)が報じた。

     

    中国が、半導体成熟品でもこうした「破壊価格」で輸出してくると、世界の半導体サプライチェーンが大混乱に陥る。そこで、米国とEUは、中国の半導体成熟品に過度に依存しない体制構築で協力することになった。中国に代わる供給地は、日本が担うことになるであろう。日台では、すでに暗黙の了解事項になっているとみられる。

     

    『時事通信』(4月6日付)は、「米EU、中国半導体対策で連携強化 旧世代品、過度な依存懸念」と題する記事を掲載した。

    米国と欧州連合(EU)は、先端技術を使っていない旧世代半導体のサプライチェーン(供給網)強化に向け、連携を強める。巨額の補助金を背景にした中国の過剰生産が市場をゆがめている恐れがあるとみており、同国製品への過度な依存を懸念。中国の補助金政策や企業の供給網に関する情報を共有し、共同での対応策も検討する。

     

    (1)「対中半導体規制はこれまで先端品や技術が中心だったが、旧世代品にも広げられる可能性がある。米EUの双方は4~5日にベルギーで開かれた「米EU貿易・テクノロジー協議会(TTC)」の閣僚級会合で合意した」

     

    中国は昨年、成熟品半導体製造装置を大量に輸入した。また、中古半導体製造装置も輸入するなど目立った動きをしている。これによって、世界成熟品半導体の3割近いシェアを目指していると推測されている。こうなると、中国がこの分野で大きな影響力を持つことになるので、米国は輸入国としてとうてい容認できないリスクである。そこで、日本が新たな成熟品半導体でも供給センターになれる準備が始まっていると見られる。

     

    台湾TSMCの熊本工場進出は、その一環とみるべきだ。TSMCは、熊本第二工場計画も発表している。27年操業開始予定である。TSMCは、九州で第三、第四の工場計画も伝えられている。日本が、台湾の半導体企業を受入れ、世界の半導体サプライチェーンになる可能性を強めているのだ。日本は、半導体装置・素材からの世界唯一の総合生産体制を構築している。この強みを生かせば、日本が世界の半導体サプライチェーンになるのは自然な流れである。

     

    (2)「声明では、「同じ意見を持つ国々とのさらなる政府間協議を近く開催する」と説明し、他国の参加を促す方針を示した。レモンド米商務長官は会見で「中国は旧世代半導体へ極度に注力している」と指摘し、中国製品の急激なシェア上昇を警戒。EUのベステアー上級副委員長は、半導体供給網の強化に向けた「次のステップ」を検討していると話した」

     

    下線部は、重要な指摘である。「他国の参加」とは、日本や台湾を指しているのであろう。台湾は、TSMCの日本進出によって日に日に日本との半導体関係が密接になっているとされる。

     

    台湾国立大学の楊光磊兼任教授(元TSMC研究開発理事)は、「TSMCは今後ファウンドリー分野で業界を支配し続け、日本は半導体装備と材料を強みに(露光装備メーカーである)オランダASMLに対抗する機会を持つようになるだろう」と両国の協力が緊密になるとみた。鈴木一人東大教授も、「日本企業は台湾をすでに半導体生態系に編入させており、台湾に対する日本企業投資が増加している」と指摘する。以上は、『中央日報』(3月26日付)が報じた。

     

    このように、TSMCの日本進出は、日本半導体にとって大きな成長要因になることを示唆している。

     

    (3)「旧世代半導体は、自動車や家電、携帯電話、医療機器など幅広く使用され、中国製品への依存度が高いとみられている。米商務省は昨年末、旧世代品に関する米企業の供給網を調べ、安全保障上の課題などを分析すると発表。EUも同様の調査に乗り出す」

     

    中国の抱える台湾侵攻という地政学的リスクは、皮肉にも日本半導体発展の大きなテコになっている。日本には、過去の半導体で得た栄光を再び取戻すチャンスが巡ってきたと言えよう。 

     

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    中国では、EV(電気自動車)普及で充電施設の不足がネックになっているとされている。だが、国有石油大手2社が設置した充電施設は低稼働率に悩んでいる。一方、洗車や飲食の提供、休憩エリアなど、付加サービスが拡充している充電施設は高稼働率という。EVは、長時間の充電が必要であるので、その時間を楽しく過ごそうという人々の選択によって、充電施設の稼働率に差を生じさせているとみられる。 

    『ロイター』(4月7日付)は、「中国石油大手、EV時代に向け充電施設事業に注力 設備過剰も」と題する記事を掲載した。 

    世界最大の自動車市場である中国でのEV販売は、今年販売される約2300万台の自動車のうち40%を占めるとみられている。一方で、中国のガソリン需要は2025年までにピークを迎え、45年には半減する可能性もあると予測されており、同国の石油精製・販売最大手であるシノペックと中国石油天然ガス(ペトロチャイナ) は経営戦略の転換を迫られている。 

    シノペックとペトロチャイナは合計で、国内10万カ所以上あるガソリンスタンドの約50%を運営しており、その収益の半分近くを燃料販売が占めている。「両社は失速の予兆を目の当たりにしている。だからこそ、低炭素経済に合わせたサービスステーションの設置に取り組んでいる」と、米コロンビア大学グローバルエネルギー政策センターの研究者、エリカ・ダウンズ氏は指摘する

     

     

    (1)「中国の公共EV充電セクターは市場の細分化や設備過剰、使用率の低さや損失に悩まされ、ビジネスモデルの転換を目指す石油会社は幾つもの課題を抱えている。最近のある平日の午後、小武基バッテリー充電スタンドでは70台ある充電器のうち54台が空き状態だった。タクシー運転手が利用客のほとんどを占め、その一人は、ここでの充電スピードは速いが、自宅で充電するよりも少し高くつくと語った」 

    公共充電センターは、赤字に悩んでいる。これは、立地条件を誤った結果だ。「お役所仕事」で、ただ充電施設を増やしたからだろう。 

    (2)「シノペックは、2023年末時点で2万1000カ所の充電ポイントを運営する、今年は、複合エネルギーステーション網の建設のため、流通部門の予算を前年から17.2%増の184億元(約3860億円)に拡充した。同社は、25年までに5000カ所の充電施設を新設する計画を進めている。ペトロチャイナは、昨年9月に買収した子会社のポテビオ・ニューエナジーを通して2万8000カ所の充電ポイントを運営している」 

    シノペックには、充電施設の決定で最適条件を把握していないのだ。ただ、充電施設を設置すれば「計画遂行」とみているのではないのか。

     

    (3)「中国乗用車協会(CPCA)のデータによると、国内に設置された充電器の数は22年下半期時点で、電気自動車7台につき1基という比率だ。米国では14.6台、欧州では17.6台につき1基という割合だった。中国のEV充電市場は非常に細分化されている。中国電気自動車充電インフラ促進連盟(EVCIPA)によれば、上位5社が市場シェアの65.2%を占める」 

    中国の充電施設は、EV7台に1基である。米国は、14.6台である。中国の方がはるかに高密度である。これは、中国が充電施設で過剰競争に陥っているデータと読める。 

    (4)「中国は、少ないEV利用者を巡って大規模な競争が行われているため、多くの充電地点で使用率が少なく、1日のほとんどは使われていない状態に陥っている。エネルギー調査会社ライスタッド・エナジーの推定では、中国最大手スターチャージが運営する充電設備の収益でも1日あたり9.58~9.94ドル(約1450~1500円)程度、国内2位で青島TGOOD 子会社のTELDで12.77~13.25ドルだという。TELDは、2022年の損失額は2600万元と公表した。また、中国EV市場は成長を続けているとして、充電器の使用率は増加するとの見込みを示した」 

    ここに上げられたデータは貴重だ。充電設備の利益(正確には売上であろう)が、1日当たり10ドル前後である。多額の赤字が出ているのは、稼働率が低いからだ。つまり、売上が少ないのだ。

     

    (5)「国営・中国長江三峡集団(CTG)との合弁で1万10000カ所の充電ポイントを運営するトタルエナジーズ・チャイナは、「使用率は中国平均水準の2倍以上だ」と言う。洗車や飲食の提供、休憩エリアなど、付加サービスの拡充から着手した。顧客体験を向上させ、eモビリティという観点でのニーズに応えるためだ」。シェルが運営するEV充電施設の利用率も約25%と、従来車のガソリンスタンド利用率の2倍近くに上る。ライスタッド・エナジーのシニアアナリスト、アビシェーク・ムラリ氏は、EV充電事業で利益を生むのは世界中どこであれ厳しいと指摘。中国のEV充電網で事業者の統廃合が進めば、送配電事業会社が最大の勝者になる可能性があると予測した」 

    EVユーザーは、充電の待ち時間を有効に使える充電センターが人気を集めている。単独の充電施設では、他にすることがなく無駄な時間になるのを嫌われているのだ。もう一つ重要なことは、地方の充電設備の不足が指摘されている。EVユーザーが最大の後悔は、この点にある。となれば、充電設備が過密と過疎の2極に分かれている証拠だ。 

    中国製EVは、広告が示す走行距離と実際に運転した走行距離で、大きな食い違いが起っていることを示唆している。未だ走れるはずが、突然の「電池切れ」でアウトになる。だが、その近辺に充電施設はない。ドライバーは立ち往生するのだ。この困惑が、充電スタンド不足という不満を生んでいるのであろう。

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    中国では、EV(電気自動車)の激しい値下げ競争が続いている。これまで、テスラは値下げでシェアを高める戦術であったが、大きな限界にぶつかっている。値下げが、販売増に結ぶつかなくなったのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月6日付)は、「テスラ、低価格EVから撤退か 中国勢との競争激化で」と題する記事を掲載した。

     

    米テスラが低価格の電気自動車(EV)開発プロジェクトから撤退を検討していることが分かった。ロイター通信が報じた。中国のEVメーカーなどとEVの価格競争が進む中で、採算確保が難しいと判断したとみられる。一方、低価格EVのプラットフォームを活用した自動運転タクシーの開発は続けるとしている。

     

    (1)「開発中の低価格EVは、2万5000ドル(約380万円)以下と、同社の車種の中で最も安いEVとされてきた。ロイター通信は複数の関係者の話として、2月下旬に従業員が参加する会議で、このEVの投入計画を取りやめることが伝えられたと報じている。テスラの現行モデルで最も安価なのは「モデル3」で、米国では約3万9000ドル(約590万円)で販売されている。新たな車種は安価な中国製EV対抗するラインアップとみられてきたが、計画の詳細は明らかになっていなかった」

     

    EVの販売増加率が当面のピークを付けたのは、EVに関心をもっている層があらかた購入した結果であろう。走行距離の短さや、給電時間が長いというEVの構造上の問題が解決されない限り、再び人気を集めることはない。現在、マーケッティングでの「キャズム」(溝)という販売増加率の落込み状態になっている。EVを値下げしても売れる状態ではない。

     

    (2)「報道によると、テスラは低価格の小型EVをベースにした自動運転タクシー「ロボタクシー」の開発は続ける方針。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は5日、自身のX(旧ツイッター)で「ロボタクシーを88日に公表する」と投稿した」

     

    自動運転タクシーと言っても、レベル5ではない。レベル3~4の水準であろう。ドライバーの負担を軽くするという意味だ。ただ、タクシー会社は中古EVの値段が急落していることからEVを敬遠している。ロボタクシーの販促で障害になろう。

     

    (3)「テスラは2日に発表した13月期の新車販売台数が、前年同期比9%減と4年ぶりのマイナスとなった。中国や欧米で値下げを進めてきたが、販売台数増加につながらなかった。比亜迪(BYD)など中国勢が400万円以下のEV開発を進めている。3月末にはスマホメーカーの小米(シャオミ)が、新たな低価格EVを発表。過当競争が一段と厳しくなっている。激しいコスト競争が進む中で、プロジェクトの選択と集中を進める可能性がある」

     

    シャオミのEVは、試乗会で大変な醜態を演じた。ヨロヨロ運転の実態が、SNSで取り上げられてしまった。安心して購入できない事態に追込まれている。

     

    (4)「中国メーカーは、EVコストを左右する電池をはじめ、基幹部品の調達網を国内に構築している。BYDは電池メーカーから自動車に参入した。調達網を自前で完結し、低コストで開発、生産するノウハウで規模を拡大してきた。一方のテスラは、米中対立の中で中国部材を使わない供給網の構築が難航しているとみられる。2日にはモデル3の改良版の米国工場での生産準備が遅れていることを明らかにしており、商品投入の遅れも、計画見直しの背景にありそうだ」

     

    テスラEVは、車種の少なさや、イーロン・マスク氏の保守派的な発言が、進歩派から好まれていないという調査結果がでている。米国では、民主党支持者がテスラを購入していると言われているので、マスク氏の政治的発言が障害になっているとの指摘もある。

     

    (5)「報道を受けてテスラの株価は5日の米株式市場で一時、前日終値比で6%安となった。マスクCEOは、「ロイターはウソをついている」との反論をXに投稿した。EVの開発計画をめぐっては米アップルも中止したほか、米フォード・モーターも一部の車種の発売を延期し、ハイブリッド車(HV)の拡充を進める方針を示している」 

     

    米国では、EVよりもHVが見直されている。EV逆風をどう乗切るかが問われる。

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    イエレン米財務長官と中国の何立峰副首相は6日、中国の過剰生産能力について正式な協議を開始することで合意した。中国国有メディアは、これまで「米国が保護主義を正当化するため」と非難してきた。中国指導部は、事態を放置しておくと米中対立がより先鋭化すると危惧したのであろう。 

    イエレン米財務長官は4月5日、中国の過剰生産能力が世界経済に及ぼす影響に対する懸念が高まっていると指摘した。広東省広州市の米国商工会議所で語ったものだ。中国が、輸出だけに頼って急速な成長を達成するには、その規模が大きすぎるとした。中国は、他国経済を圧迫している過剰な生産能力を削減することが必要である。これによって、中国自身が利益を得るとの見方を示した。 

    イエレン氏は、製造業に対する中国政府の直接的あるいは間接的な支援は、国内の開発目標と結び付いていることを理解していると発言。だが、こうした支援は中国の国内需要や世界市場の受入れ能力を大幅に上回っていると述べた。以上のような、イエレン長官の指摘に対して、中国国営メディアが早速、批判している。

     

    『ロイター』(4月6日付)は、「米財務長官と中国副首相、中国の過剰生産能力巡る協議開始で合意」と題する記事を掲載した。 

    イエレン米財務長官と中国の何立峰副首相は、中国の過剰生産能力について正式な協議を開始することで合意した。 

    (1)「中国南部の広州市で2日間にわたって行われた会談の後、双方はこの新たな取り組みを「国内・世界経済のバランスの取れた成長を巡る集中的な意見交換」を行うための方法と位置づけた。中国がこのプロセスに同意したのは譲歩なのか、それとも米国による報復を遅らせようとしただけなのかという質問に対し、イエレン氏は米国がこの問題をいかに懸念しているかというメッセージを中国が受け取ったと考えていると答えた」 

    中国が、過剰輸出問題に対して米国との協議を受け入れた背景には、米国だけでなくEU(欧州連合)も中国へ問題提起している事実がある。中国は、米国・EUの市場から締め出されると大変な損害を被ることから話合い路線を受け入れたのであろう。ただ、米国が今秋の大統領選を控えて譲歩するはずがないだけに、中国もそれなりの譲歩を求められるであろう。イエレン氏の主張は、次の通りである。

     

    『ロイター』(46日付)は、「米財務長官の中国「過剰生産能力」批判、 保護主義の口実ー新華社」と題する記事を掲載した。 

    中国を訪問中のイエレン米財務長官が、中国の過剰製造能力に対し懸念を示したことについて、国営新華社通信は、米国が「中国脅威論」を蒸し返し、一段の保護主義政策の口実にしようとしていると指摘した。 

    (2)「イエレン長官は5日、広東省広州市の米国商工会議所で、中国の過剰製造能力が世界経済に及ぼす影響に対する懸念が高まっていると指摘。中国が電気自動車(EV)、ソーラーパネル、半導体などの製品を過剰に生産しており、国内市場の需要低迷に伴って世界市場に流出しているとし、それが中国にとって健全な状態ではなく、他国の企業が不利益を被っていると述べた」 

    中国は、不動産バブル崩壊に伴う過剰な不良債権処理を棚上げして、「三種の神器」(EV・電池・ソーラーパネル)を輸出して、経済の辻褄あわせをしようとしている。これは、自ら負担すべき債務処理コストを輸出で海外へ負担させようという狙いでもある。 

    かつて、日米貿易摩擦が盛んな頃に、米国は日本に対して内需刺激によって過剰輸出を減らせと注文を付けてきた一件がある。今回のイエレン氏の訪中は、日米貿易摩擦の「中国版」である。当時の米国は、日本へ個人消費の引上げを要請したが、中国も同様に国内消費を刺激すべきである。過剰輸出は、相手国の雇用を奪うことにもなるので、中国は再考が求められるであろう。

     

    (3)「新華社は同日夜報じた論説で、イエレン長官の発言は中国の国内成長と国際協力を弱体化させるものだと批判。米政府は恐怖をあおるのではなく、自国での技術革新と競争力の育成に注力すべきだとの見解を示した。「クリーンエネルギー分野における『中国の過剰製造能力』を指摘することは、米国企業を守るための保護主義的な政策を実施する口実を作ることにもなる」と反論し、「米政府は結局のところ、自国の優位性が揺らいでいる分野では国家安全保障を口実に躊躇(ちゅうちょ)せず保護主義的な牙をむく。このことは、今や世界中に知れ渡っている」と記した。イエレン長官は6日に北京に移動後、8日まで李強首相や中国人民銀行(中央銀行)の潘功勝総裁らと会談する予定だ」 

    下線部は、中国の認識が間違っていることを示している。不動産バブル崩壊という事態は、国内政策で処理すべきである。過剰輸出によって、他国雇用を奪ってはならないのだ。自己の痛みを自ら受入れず、他国へ転嫁することは国際協調を破壊するのだ。 

    中国は、過剰債務処理にあたり財政支出を増やすべきである。だが、それによって格付けが引下げられることや、共産党政権の信頼性を傷つけるという国内的理由で忌避している。これは、自分の蒔いた種である以上、中国が国内で処理すべき事柄だ。

     

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