人型ロボットに格段の困難
補助金へ群がる新興企業群
余剰人員抱え市場開拓困難
日本は人型ロボット不可欠
中国では、人型ロボット人気が過熱状態にある。ネット上に氾濫するのは、ロボットがダンスを踊ったり、マラソンを走ったり、家事をこなしたりする動画である。市民はこれによって、中国が世界最先端の「人型ロボット国」と信じているほどだ。習近平国家主席には、国民を喜ばせるまたとないニュースとなっている。
政府の15次五カ年計画(2026~30年)では、ロボティクス(人間生活に役立つロボット研究)を中国経済の新たな成長エンジンに位置付けている。25年のロイター報道によると、当局は24年以降、人型ロボット開発支援に少なくとも200億ドル(約3兆2000億円)を拠出している。政府は、人型ロボットをEV(電気自動車)に次ぐ成長産業へ育てる計画だ。この政府の熱気を受けて、新興ロボット企業が続々と名乗りを上げ、証券市場で資金調達を始めている。
人型ロボットに関わる動画の氾濫は、投資家に夢を持たせている。新興企業が、これを資金調達に利用していることは明らかだ。公式推計によると、知能ロボティクス分野の登録企業は、24年末時点で45万社を超える。4年前の3倍以上に膨らんだ。6月時点で、人型ロボット関連の新興企業約50社が、香港での新規株式公開(IPO)計画を提出した。この一連の動きから、中国がロボット大国として台頭する、と憶測を生むまでになっている。
人型ロボット分野の登録企業が、45万社を超えているのは明らかに「バブル」である。儲かりそうだということで、ロボットと無関係な企業が名乗り出ている結果とみられる。半導体企業の勃興時でも、無関係な不動産業や極端な例では理髪業までが「半導体」へ群がった。この伝で言えば、人型ロボットでもこういう無関係な筋が、投機的な意味で名前を出して、補助金に与ろうということであろう。
見落としていけないケースは、既存の産業ロボット企業が、人型ロボットへ名乗り出ないという現実だ。これこそ、中国での人型ロボット製品化がいかに困難であるか。また、収益見通がつかないかを示唆している。結論として、現状では人型ロボット需要が見込めないのだ。この裏には、中国の不規則な産業発展構造の歪みが災いしている。全産業が、「不完全雇用」状態にあるので、人型ロボットの導入が必然的に失業者を生むのだ。この点についての詳細な説明は後で行う。極めて重要なポイントである。
この点で、日本とは事情が大きく異なっている。日本は、各産業が完全雇用による「人手不足」状態にある。これに加えて、企業データが完備している。人型ロボットを導入できる基盤が整っているのだ。日中では、このように人型ロボット需要の違いが明確である。人型ロボットについて、中国を日本と同列に論じるのは間違いである。日本は、中国からみれば異次元の世界である。
人型ロボットに格段の困難
中国は、新規事業において半導体産業で何とか成功させた。この調子で資金さえつぎ込めば、人型ロボットも成功すると思い込んでいる。両者は、全く別の技術体系である。人型ロボット製造は、高度の部品企業群の存在が不可欠である。中国には、精密な部品企業が存在しないのだ。中国政府は、全くこれに気付かずにいる。
半導体は、極端に言えば 資本・設備・人材を大量投入すれば、一定レベルまで到達できる産業である。設備投資の巨大化(数兆円)が前提である。工程は、標準化されている。設計は、米国依存でも製品化できる。こうした背景によって、政府が巨額補助金を出せばキャッチアップは可能である。中国は、こういう半導体の「資本集約型モデル」の強みを生かして成功の域へこぎつけた。
ロボットは、半導体と違って資本を大量投入すれば、成功できる産業でない点が大いに異なる。ロボットは、「現場 ・ 精密機械・
制御・ 社会実装」の統合が必要である。さらに、必要な技術分野の特許は、すでに日米欧が先行取得している。後発の中国が、先発国の特許網を潜り抜けることはかなり困難である。こういう技術面での制約が大きいのだ。
例えば、精密機械加工では、日本・ドイツが圧倒的地位にある。サーボ・減速機は、日本が世界シェアの60%を占めている。制御工学は、日本・米国が支配している。データによる現場改善は、日本の独壇場である。安全規格・社会実装は、欧米・日本が強みを発揮している。さらに加えれば、中国企業は長期的な製品への信頼性で苦闘している。「メード・イン・チャイナ」の人型ロボットは、信頼性の面で海外販路が絶望的である。
こうして ロボットは「文化・現場・制度・技術」が全部揃わないと成立しない産業である。半導体のように「資金を大量に投入すれば追いつく」構造でないのだ。半導体は、設備を購入すれば製造できるが、
ロボットは 減速機・精密加工・制御 が基盤になる。 この分野は、日本が世界トップであり、中国も日本へ依存しているのだ。
中国の人型ロボット企業は、ほとんど新興企業で補助金依存である。これでは、長期の信頼性試験や社会実装ができず、これが根本的な弱点になる。こうして、「飛んだり跳ねたりする」こと以外に、社会的訴求できない悩みを抱えている。メディアは、この限界を無視して、話題性だけを追って持ち上げているのだ。
日本の人型ロボットは、既存の産業ロボット企業が蓄積した技術を基盤にして開発している。中国は、既存企業が参入しないという全く「アベコベ」現象である。
中国の産業ロボット企業は、人型ロボットが「儲からない」ことを知っている。産業用ロボットが、すでに激しい価格競争で利益率の低下に見舞われているからだ。また、人型ロボットの技術的難易度が高いことや、耐久性の低いことも熟知している。加えて、生産コストが高いこと、実用化時期の遠いことも知っている。こうして、既存企業は総合的にみて人型ロボットの「採算が困難」と判断しているのだ。(つづく)
https://www.mag2.com/m/0001684526





