習近平中国国家主席が、高市首相の「台湾問題」をめぐって、執拗なまでに批判を繰返している。一方では、反日デモも日本商品排斥もしない「中途半端」ぶりである。だが、日本人タレントのコンサートでは、出演中に強制的に止めさせる強硬手段を使って、国民に「反日」をアピールしている。こういうチグハグな動きを見ていると、習氏の狙いがどこにあるかハッキリする。高市発言を利用して危機感を煽ると同時に、台湾侵攻が軍事的・経済的に困難であることをカムフラージュしながら、国家主席4期目へなだれ込む戦術であろう。実に巧妙である。
『ブルームバーグ』(12月2日付)は、「よみがえる岸田氏の警句、中国の好機到来」と題する記事を掲載した。
ロシアとウクライナの戦争を巡りトランプ米政権がまとめた28項目の「和平案」から、中国が教訓を引き出そうとしている。台湾の行方が、ロシアのウクライナ侵攻と結び付けられた例は過去にもある。2022年に岸田文雄首相(当時)は「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と語った。
中国共産党の習近平総書記(国家主席)はこの機会を利用し、かねてから掲げてきた台湾を支配下に置く目標をさらに明確にしている。米国が一段と曖昧なシグナルを発する一方、習氏の意図はますますはっきりしており、台湾は危険な立場に置かれている。オーストラリア軍の退役少将ミック・ライアン軍事ストラテジストで、中国がこの局面を利用して独自の構想を提示する可能性があると警鐘を鳴らす。
(1)「ライアン氏は習氏について、これまで軍事行動を伴わずに台湾を掌握することを好んできたと指摘した上で、「近い将来から中期にかけて、中国共産党がトランプ政権に対し、台湾を巡る28項目の計画を秘密裏または公に提示する可能性がある」と見方を示している。その戦略はすでに中国政府が22年に公表した白書「台湾問題と新時代の中国統一事業」で明示されている。同白書は、台湾は歴史的に中国の一部だとし、国際社会の関与を拒み、統一は国家復興に不可欠だとしている。中国は目標達成のために武力行使も辞さない姿勢を示している」
中国が、台湾を巡る28項目の計画を秘密裏または公に提示する可能性を指摘している。問題は、台湾の意思を無視してそのようなことを米国が決められるかだ。ウクライナと台湾は、米国に取っての重要性は「天と地」ほどの違いがある。地政学的に、ウクライナ=台湾という認識が間違っている。台湾は、米国の覇権に絡む問題だ。
(2)「習氏は自身を第2次世界大戦後に構築された国際秩序の擁護者として位置付け、台湾、さらには台湾を支持するあらゆる国を不安定化要因として描こうとしている。これを受け、台湾は400億ドル(約6兆2100億円)を追加で投じる防衛支出計画を発表した。頼清徳総統は、資金は米国からの新たな兵器調達や、中国との「非対称」な戦力の強化に充てると表明した」
中国の、昔の「古証文」を持ち出して、中国がアジア情勢を取り仕切るという意向をみせている。だが、共産主義によって人権弾圧を平気で行う中国に、そういう資格はない。第2次世界大戦後に構築された国際秩序の擁護者の中国は、当時の中華民国であった。西側と同じ価値観を有していたのだ。共産主義の中国が、国際秩序の擁護者とは不思議な主張である。
(3)「これには、有事の際、米軍が台湾に到着するまで中国人民解放軍に多大な損害を与えることを想定した小型で比較的安価な兵器も含まれる可能性がある。台湾が発したこのメッセージは、北京と同時にワシントンにも向けられている。頼氏が不安を抱くのも無理はない。台湾の安全保障にとって今後数カ月が極めて重要になる可能性がある。トランプ氏が中国との関係改善に関心を向けているように見える一方、習氏は統一を巡る発言で一段と強気の姿勢を示している」
習氏は、高市発言を利用しているのだ。強気を装って台湾侵攻の構えをみせて米国へ妥協を迫っている。それが、冒頭に上げた中国の「台湾28カ条」と言われる想像である。中国は、経済混迷で台湾海峡侵攻は不可能である。台湾侵攻は、1944年の連合軍によるフランス・ノルマンディー上陸作戦(ドーバー海峡:約30km)と比較しても、数倍の距離と困難さを伴う「軍事的な悪夢」とも言われている。まともに考えれば、台湾侵攻作戦は自殺行為である。こういう条件を前提にすれば、習氏が「台湾28カ条」を出しても一笑に付されるだけだ。
習氏は、自らの国家主席4期目を狙って、今回の高市発言を100%利用する。国内不況をカムフラージュしながら、台湾強硬論で高市発言を使うのだ。見え透いた戦術である。そうなると、日中対立は相当の期間は続くであろう。日本側は、好景気で乗切らなければならない。そのカギは意外と、利上げ=円高による物価安定が、政局安定化をもたらすに違いない。自民党敗北は、物価高にあったからだ。
(4)「日本や豪州、韓国、フィリピンといった米国のアジア同盟国も、協力を深め、台湾防衛を地域安全保障の中心に据える必要がある。台湾海峡での航行継続は、中国を刺激するリスクがあるものの、国際法の重要性を改めて示す上で大きな意義がある。トランプ大統領のウクライナ和平案は、台湾周辺で起きている事態から遠いものに思えるかもしれない。だが、中国政府はこれこそ好機だと見ている。
中国は、利用できるものは何でも利用するという方針だ。インド太平洋戦略で、日本・米国・豪州・インドのほかにフィリピンも守りを固めている。中国の「甘言」に揺さぶられるようなものではない。



