現場AIが日本の推進力
ラピダス成功要因は何か
ビジネスを知らない妄言
日本製造業強化の切り札
目前に迫った中国の窮地
2026年は、日本にとってどういう年になるか期待がかかる。日経平均株価は、5万円台に乗せて越年した。製造業と金融業の復活が買い材料とされている。これまで30年間の日本経済にはなかった復活劇だ。製造業と金融業は、経済を軌道に乗せる基本的条件である。この背後には、アベノミクスによる「コーポレートガバナンス」(企業統治)が、世界標準になったことで企業経営の透明感が増し、世界の投資マネーを呼び込んだ側面も大きい。だが決め手は、製造業と金融業が自律的回復条件を備えたことにつきよう。
製造業の復活は、新技術の開発とそれに伴う波及効果に依存する。時代は、まさにAI(人工知能)だ。部分的に人間に代る機能を備え始めたことが、人々を熱狂させている。AIブームか,AIバブルかという論争を生むほど加熱し始めている。だが、生産現場やビジネス現場でどれだけ「実装化」されているかと言えば、未だ初歩的な段階だ。現状は、大量な情報処理がクラウド型で集中処理されている段階である。「クラウド」で、雲の上の存在である。未だ、身近な現場のAIにより人間に代って作業する状況にないのだ。
ここで必要なのが、「現場AI」である。現場の状況に応じて作業するには、AIが小型化して、端末上で判断・指示を与えることができなければならない。それには、小型・軽量・低コストの3条件が不可欠である。となれば、現在の「クラウドAI」は間尺に合わないという決定的悪条件を抱えている。
ここに、登場しようとしているのがラピダスの現場AIである。ラピダスは、日本の国策半導体企業である。日本政府が、資金援助をして立ち上げた、次世代半導体「2ナノ」製造を目的にする企業である。ラピダスは、これまで国内世論の多数を占めた悲観派の根拠を打ち破って、25年7月に2ナノ試作品を発表した。こうして、国内で支配的であった「諦めムード」が一挙に、前向きに変ってきたのである。これは、「失われた30年」の陰鬱としたムードを一掃させる上で、「日本復活論」への足がかりとなり勇気を与えたのだ。
現場AIが日本の推進力
現場AIには、2ナノ半導体が不可欠である。前述の通り、小型・軽量・低コストでなければならい。こういう条件をクリアするには、ラピダスの単独技術だけで追いつけぬことは明瞭だ。日本半導体技術は,これまで20ナノが限界であった。それが、一挙に2ナノへの挑戦である。国内外では当然、無謀とみられ反対論の嵐に見舞われた。私の場合、一貫して成功すると応援してきた。それは、日本半導体が世界制覇したにも関わらず、その後のグローバル経済という激変に対応できなかった「産業の悲劇性」をみてきたからだ。
それは、恐竜が地球の急冷化に対応できなかったという一面が示唆している。大型コンピュータ時代の半導体は、20年の寿命を保証しなければならなかった。日本半導体は、こういうハイレベルの技術水準であった。それが、1990年代に入ってグローバル経済化が始まった。同時に、パソコンや携帯の出現で、技術は低レベルで品質寿命が3~4年という「安物半導体」需要が激増した。日本半導体は、こうした環境激変に対応できず、折からの急速円高で競争力を失い、サムスンなどの出現を許す結果となった。
歴史に、「if」はない。だがあのとき、日本半導体がプライドを捨て「安物半導体」へ転換し、米国主導の急速な円高がなかったならば、サムスンは存在できなかったであろう。日本半導体は、技術劣位で敗れたのではない。逆に、技術優位の高いプライドが安物半導体への転換を邪魔したのだ。こういう日本半導体の歴史と技術水準の高さを理解すれば、ラピダス失敗論は歴史を無視した議論であった。繰返せば、日本半導体の失墜は経営戦略の失敗である。技術水準の低さにあったわけでないのだ。
ラピダス成功要因は何か
ラピダスは、過去の経営戦略の失敗を徹底的に潰していった。「国内技術」に拘らず、技術の門戸を世界へ広げたことだ。
2ナノの基幹技術は、米IBMの基本特許である。実は、IBMは自社特許による製品を製造したことがなかった。製造委託先が、失敗したからだ。サムスンは,IBMの「5ナノ」半導体技術の量産化ができなかった。こうした事情で、IBMは切羽詰まった形で日本へ製造提携話を持ち込んだ。ラピダス発足の経緯がこれだ。
ラピダスは、ベルギーの国際半導体研究機関imecと提携した。imecは,日本へ研究センターを設けるなど全面協力である。もう一つ、見落としていけないのはカナダが発祥のテンストレントである。半導体製造で特異の技術を保有している。AIでは、GPU(画像処理中央装置)が不可欠としている。テンストレントは、CPU(中央演算処理装置)にアクセラレータ(加速装置)を接合してAI機能を持たせるというアイデアである。GPU登載のAIは、大型で高価格になる。CPU登載のAIは、小型で低価格なのだ。
ラピダスは、IBMやimecによって自らの半導体製造技術を磨くと同時に、テンストレントによるAI半導体技術のとり入れで提携している。このように、技術面では自らの足らざる部分は、海外技術に依存するという「広角打法」を採用している。海外機関が、ここまでラピダスへ協力している裏には、日本政府が全面支援しているという「信頼度」の高さがある。政府は、半導体が経済安全保障の切り札であることから全面支援しているのだ。
以上のような諸条件を計算に入れれば、ラピダスが技術的に失敗するとみてきたメディアや財務省の眼力が鈍っていたことは疑いない。さらに、ラピダスは設立当初から現場AIの製造目標を高く掲げてきた。こうした認識があれば、「ラピダス失敗論」という大合唱に加わらなかったであろう。ラピダス失敗論は、日本半導体失敗の経緯を分析することなく、その結果だけを「オウム返し」にしたと言うほかない。(つづく)
https://www.mag2.com/m/0001684526




