軍最高幹部二人の粛清
焦る習氏が「悪手」へ
忠誠心競う軍隊の欠陥
米が見透かす中国の裏
中国経済は、静かに坂を下っている。上り坂の時代は終った。それは、経済成長率が低下するという意味だけでなく、社会全体が萎縮しつつあるからだ。その具体例の一つを示せば、中国の大学ランキングで上位30位内に入っている国立大学が、相次いで芸術系学部を廃止している。卒業生が、不況で就職できない結果だ。
芸術系学部卒業生が就職する先は、広告、映像、舞台、教育、観光、出版などのサービス業である。サービス産業は現在、不況で経営不振に陥っている。これら業種は、社会にとって「感性の受け皿」である。その受け皿へ、新たな血が不況ゆえに入らず消えていくのは、中国にとって感性の泉が枯渇することを意味する。こうして、無味乾燥な社会が広がっていくのだろう。これにより、活力が確実に消えていくことを示す。極めて危険な兆候とみるべきであろう。
政府が、芸術系学部の廃止とAI(人工知能)系学部への転換を指図していることは言うまでもない。国家主席の習近平氏が、「高質量で十分な就職の促進」と発言している。経済停滞と若年層の高失業率を受けて、製造業やIT、医療などの分野の人材育成を強調したものである。だが、15次五カ年計画(2026~30年)では、個人消費増大が経済成長のカギを握る状況になった。過去に例のない時代環境になる。芸術系学部が、これから必要になるのだ。習氏は、時代の先行きを見誤っている。
2025年のGDP統計では、インフラ投資や企業の設備投資の伸び率が軒並みマイナスへ落込んだ。個人消費では、モノの需要よりもサービスの需要が伸びている。この結果、15次五カ年計画では、サービス需要を増やすべきという見方も多い。こうなると、芸術系学部の廃止が極めてチグハグな動きになる。今は、不況でサービス需要が停滞していても、時間を掛ければ増加する。政府が一方的に決める政策が、いかに現実の動きを無視しているかを示す好例が、ここにも現れているのだ。
習近平氏の巨大な権力から言えば、大学の学部の存在を左右することなど「取るに足らない」ことであろう。だが、「蟻の一穴が堤防を崩す」の喩え通り、蟻=芸術系学部廃止=若者の不満増大=社会不安爆発という連鎖になることを知らなければならない。中国は今、そういう危機に向って進んでいる。習氏に特徴的な点は、目先の判断に拘って大計を見誤っているのではという危惧だ。
具体的には、その時の勢いで進み10年先20年先を疎かにしている点だ。「一帯一路」もその好例である。経常収支黒字が豊富であることで有頂天になり、発展途上国へ無秩序に貸し付け「焦げ付け債権」をつくっている。台湾侵攻計画も、勢いに乗ってぶち上げて国家主席3期目を実現したが、現実問題としては極めて危険な案件になっている。習氏の政治生命はもちろん、中国の国家としての将来に大きな禍根を残す時限爆弾的要素を濃くしているのだ。こうして台湾侵攻問題は、習氏を悩ます最大の政治課題になった。
軍最高幹部二人の粛清
習氏が、中国のみならず世界を驚かせたのは最近、中国人民解放軍の二人の最高幹部を粛清したことだ。中国国防省は、軍制服組トップの張又俠・中央軍事委副主席と劉振立・軍統合参謀部参謀長が、「重大な規律・法律違反」の疑いで調査すると公表した。張氏については、中国の核情報を米国へ手渡したとの米紙報道も出ている。だが、中央軍事委副主席という軍における最高ポストの人物へ、米国のスパイがどうやって接近できるのか。身辺護衛が厳しいはずだ。中国当局の「作り話」の臭いもするのだ。
習氏は、これまでに中央軍事委員7人中(習氏を含む)、5人を規律違反の容疑で追放している。習氏が、これぞと見込んで任命した中央軍事委員5人が、揃って規律違反を犯したとはにわかに信じがたいことである。それは多分、台湾侵攻作戦をめぐる意見の相違であろう。習氏は、軍へ空母3隻も与えたのだから、米軍と十分に対抗できるはず、と侵攻作戦を押しつけているのでなかろうか。習氏は、「功」を焦っている。台湾へ侵攻し統一できれば、習氏の終身国家主席は確実である。こういう幻想に取り憑かれているのだ。
習氏にとって「不運」なことは、ロシア軍がウクライナへ侵攻して、すでに4年にもなろうとする「長期戦」であることだ。作戦当初の計画では、たったの「1週間」で決着するはずだった。それが、4年かかっても勝利できないのは、ウクライナ軍が欧米の戦闘形態によって、最前線に指揮命令権を委ねていることだ。ロシア軍は、指揮命令権を後方の司令部が握っている。こうして、ウクライナ軍が最前線の判断で戦いを進めるという優位な立場にある。
中国軍は、ロシア軍同様に後方の司令部が指揮命令権を握っている。米軍や台湾軍の指揮権は、最前線に任せてある。こういう戦闘形態の違いを残したまま、中国軍が台湾侵攻をすればどういう事態になるか。ロシア軍以上の犠牲が出ることは確実である。ならば、中国軍も最前線へ指揮権を移譲すれば、米軍や台湾軍と互角に戦えるのでは、という質問も出て当然であろう。
実は、それが不可能である。辛亥革命(1911年)では、清国軍兵士が孫文の革命軍に買収されて、革命軍に帰順してしまったという苦い経験がある。こういう寝返りを防ぐべく、中国軍は兵士の訓練時間の4分の1を政治教育に当てている。寝返り防止だ。これは、人民解放軍が中国共産党に忠誠を誓う「党軍」であるゆえに起こっている点である。もし、「国軍」へ性格を変えれば、中国共産党へ忠誠を尽くすという大義名分が消える。中国共産党は、人民解放軍を「党軍」のままにしておかなければならない切実な理由がこれだ。(つづく)
この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です。
https://www.mag2.com/m/0001684526




