勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 韓国経済ニュース時評

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    韓国政府は、米国が原潜保有を承認したことが、どういう意味であるかを全く理解していないようである。黄海と日本海の警備だけが任務と解釈しているからだ。米国が、核拡散防止条約という壁を乗り越えて韓国へ原潜保有を認めるのは、米国の世界戦略の一端を担うという意味である。韓国は、驚くほど国際情勢への認識を欠いている。

     

    『ハンギョレ新聞』(11月18日付)は、「韓国に対中・対ロ前哨基地の役割を求める在韓米軍司令官」と題する社説を掲載した。

     

    ザビエル・ブランソン在韓米軍司令官が17日、中国とロシアの脅威への対抗における朝鮮半島の地政学的重要性を強調し、(韓国に)事実上米国の覇権維持のための「前哨基地」になることを求めた。さらに韓米日の三角軍事協力を越えて韓国・日本・フィリピンが手を携えた時の利点も強調した。

    (1)「米国から見ると朝鮮半島は、中国の下に位置した「軍事基地」のように見えるかもしれないが、ここは5千万人を越える同盟国市民の大切な生活の場だ。ブランソン司令官は「軍事的効率性」だけを掲げて同盟国に無理な役割を押し付けようとする言動をやめ、韓米の政治指導者たちが下す決定を後押しする本来の役割に忠実であることを望む」

     

    ブランソン在韓米軍司令官は、国連軍司令官であるはずだ。韓国が、自主性を強調するならば、国連軍の手を借りずに韓国軍だけで防衛すべきである。集団安全保障の中で現在、韓国の安全が維持されているという「恩恵」を考えるべきだ。

     

    (2)「ブランソン司令官はこの日、在韓米軍のホームページに掲載した文章で、東アジアの地図を(従来の北が上になっている図の方向を)東を上にしてみると、朝鮮半島と関連した「全く異なる戦略的地形があらわれる」とし、「在韓米軍は遠距離で増員を必要とする待機戦力ではなく、米軍が危機状況や有事の際に突破しなければならない防衛線の内側にすでに配置された戦力であることが明らかになる」と主張した」

     

    韓国が、集団安全保障の一員という位置づけになれば、ブランソン司令官の発言は当然である。

     

    (3)「ソウルと平壌(ピョンヤン)、北京、ウラジオストクまでの距離を列挙し、「韓国はロシアの北方からの脅威に対応すると同時に、韓中間の海域(西海)で中国の活動に対応しようとする西欧に接近性を提供する」、「北京の視点から見ると、烏山(オサン)空軍基地に配置された米軍戦力は遠距離戦略ではなく、中国周辺で直ちに効果を発揮する隣接した戦力」だと綴った。朝鮮半島を米国の軍事的便宜によっていくらでも使える「発進基地」にすべきという主張だ。さらに、韓国・日本・フィリピンの間に「戦略三角形」を描く必要があるとし「3国協力を強化することで、米国が利益を得ることができる」と指摘した」

     

    韓国が、米軍=国連軍によって安全が保障されている現状から言えば、朝鮮半島を米国の軍事的便宜によっていくらでも使える「発進基地」にすべきという主張は当然である。朝鮮戦争は現在、法的に「休戦状態」である。国連軍が、韓国でいかなる布陣を敷こうが自由であるのだ。ただし、日本やフィリピンが、米国の利益のために一方的な立場に立たされることはない。日本の場合、日米安全保障条約に縛られるからだ。

     

    (4)「韓国は1950年初め、米国の防衛線である「アチソンライン」から除外されたため、朝鮮戦争という凄惨な悲劇を経験した。朝鮮半島の戦略的重要性を強調し、同じ過ちを防ごうとするブランソン司令官の善意を受け入れるとしても、今回の発言は一介の軍人が口にするレベルをはるかに越えたものだ。ブランソン司令官の提言が現実化すれば、朝鮮半島は在韓米軍の「発進基地」に転落し、中ロの報復攻撃に耐えなければならない」

     

    ブランソン司令官は、国連軍司令官である。一介の軍人ではない。韓国を軍事的に防衛している最高司令官である。

     

    (5)「韓国軍の活動範囲も南シナ海まで一気に拡大される。このような話はブランソン司令官にとっては斬新な「戦略的提案」かもしれないが、我々にとっては生死にかかわる問題だ。あえて地図を逆さまにしなくても、朝鮮半島はあまりにも戦略的に敏感な地域であるため、韓国人としては慎重にならざるを得ない」

     

    朝鮮戦争の当事者は、米国・国連軍・韓国vs中国・北朝鮮である。米国が中国へ対抗すべく南シナ海まで「戦域」を拡大することは、国連軍という立場にたてば可能だ。このように、韓国は、米軍の広い庇護下にあることを認識することだ。現在が、「休戦下」という異常状態にあることを再確認する必要がある。そうなれば、韓国が原潜を持つことの意味が明らかになる。米軍=国連軍という視点にならざるを得ないのだ。それが嫌ならば、原潜を持つべきではない。

     

     

    あじさいのたまご
       

    李大統領は、「二枚舌外交」を鮮明にしてきた。これまで、「日米韓三カ国は安全保障の砦」としてきたが、にわかに始まった日中対立激化を背景にして、中国寄り姿勢を明らかにし始めた。尹前大統領は、北東アジア3ヶ国を「韓中日」ではなく「韓日中」と改めていた。理由は、「価値と自由の連帯を礎に米国・日本と一層緊密な協力がされている」(韓国大統領室関係者)と23年9月に説明していたものだ。

     

    李氏は、日米韓が「価値と自由の連帯を基礎にする」という基本を否定するもので、中国側へ身を寄せた方が利益になるという判断であろう。韓国の唱える日韓友好論などは、この程度のものだ。こうした転換の裏には、米国から原潜保有を認められることが韓国を強気にしているのであろう。米国には、次のような思惑がある。

     

    『ブルームバーグ』(11月17日付)は、「米海軍作戦部長、韓国原潜に中国海軍の抑止期待-地球規模の展開望む」と題する記事を掲載した。

     

    コードル米海軍作戦部長(海軍大将)は、米政府の承認を得て、韓国が新たに建造する原子力潜水艦について、主要同盟国の責任として、中国海軍力の急速な増強に対抗する目的で配備されることに期待を表明した。

     

    (1)「コードル海軍作戦部長は14日ソウルで、「潜水艦を中国の抑止に用いることは、その種の能力を巡る自然な期待と考える」と語った。原潜建造への米政府の同意を文書化したファクトシートがその数時間前に公表された。コードル氏は、「韓国にはそれらの潜水艦を世界規模で展開し、地域海軍から地球規模で活動する海軍に脱皮する責任が生じると私は思う」と述べた。原潜導入を長年目指してきた韓国にとって、米国による承認は大きな成果だが、コードル海軍大将の発言は、両国の立場の違いを浮き彫りにした。韓国側は原潜の目的は北朝鮮の抑止としている。事情に詳しい関係者によると、両国の間では潜水艦の建造場所や艦種、取引の一環として米国が無償で艦艇を受け取るかどうかを巡り意見が分かれているもようという」

     

    韓国は、日本海と黄海でのみ原潜を運用するとしているが、米海軍は「地球規模で活動する海軍に脱皮する責任が生じる」とダメ押しをしている。これは、韓国が原潜を持てば米海軍と行動を共にするという意味だ。韓国の思惑は100%崩れる。韓国は、中国へ身を寄せようとしていても、原潜を持つことで結果として、中国へ弓を引く形になろう。大変な思惑違いになってきた。

     

    『朝鮮日報』(11月17日付)は、「尹政権時代が使用した『韓日中』表記、李在明政権は『韓中日』で統一…中国に配慮か」と題する記事を掲載した。

     

    北東アジア3カ国の表記順序を「韓中日(韓国・中国・日本)」に統一することを李在明政権が決めた。尹錫悦前政権では「韓日中」と「韓中日」が混用されていた。

     

    (2)「韓国大統領室関係者は16日、「北東アジア3カ国の表記順序を韓中日に正式に統一する」とした上で「以前から韓中日だったので無用な混乱をなくすためだ」と説明した。尹錫悦前政権は発足直後「韓中日」としていたが、2023年9月のASEAN(東南アジア諸国連合)サミットから「韓日中」に変更した。その背景について尹錫悦前政権の関係者は当時「韓米日協力が進展しているため、自由民主主義の価値を共有する日本を前にする」と説明していた」

     

    韓中日は、明らかに韓国が共産主義国家を民主主義国の日本よりも重視するという意味であろう。あえて、前政権の呼称を変えたのは、中国重視という外交路線を示している。

     

    (3)「李在明政権による「韓中日」への統一は中国に配慮するためとみられる。特に14日に発表された米国との関税・安全保障に関するファクトシートに「台湾海峡の平和と安定の維持」など中国けん制と受け取られかねない文言が記載されたことも影響したようだ。中国は、日本の高市早苗首相によるいわゆる「有事に台湾海峡介入」という趣旨の発言に強く反発している」

     

    韓国が,原潜を持つこと自体が米国の中国包囲網へ加わるという意味である。それを頑ななに否定しているのは、韓国の真意がどこにあるか疑わしい。明らかなことは、最終的に日本へ対抗するという意思表示であろう。韓国が、中国包囲網に参加しないのは、原潜を持って日本へ対抗しようという狙いがあるからだ。

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    韓国は、世界で8番目の原潜保有国になれると喜んでいる。これにより、米国への依存度合いを少なくした「自律軍隊」になれるとしている。だが、韓国が原潜を保有できるまでには米議会の承認が必要という。来秋、米中間選挙で民主党が議会の主導権を握れば、韓国原潜の審査には大きな壁が生じる。原潜が、朝鮮半島周辺防衛でとどまれるはずがなく、インド太平洋戦略へ引っ張り出されるというのだ。

     

    『中央日報』(11月14日付)は、「韓国は原子力潜水艦保有国になれるのか」と題するコラムを掲載した。筆者は、マイケル・グリーン/豪シドニー大米国研究センター長/CSIS副理事長である。

     

    10月、トランプ大統領は韓国の原子力潜水艦建造を承認した。これが実現する場合、韓国は世界で8番目の原子力潜水艦保有国になる。原子力潜水艦は戦略的価値が非常に大きい。海上艦艇はミサイル攻撃に脆弱だが、潜水艦はいくら技術が発展しても探知が容易でない。また原子力潜水艦は潜航距離が長いため、数カ月間も水面に浮上する必要がなく、速度も速い。


    (1)「世界主要国の海軍は潜水艦乗組員出身者が参謀総長を遂行している。米国、オーストラリア、日本、英国は潜水艦の建造を船舶建造の最優先順位に置いている。今後、強大国間の海上紛争で戦艦の役割を潜水艦が代わりにすることになるだろう。中でも原子力潜水艦が最高の位置を占めるはずだ。いくらトランプ大統領とはいえ、彼の承認が直ちに政府の公式政策決定や米議会の承認を意味するわけではないからだ。AUKUS(オーカス)協定で自国内において原子力潜水艦を建造する予定のオーストラリアの場合も、必要な輸出統制、技術移転および技術力量改革過程が順調でなかったのを筆者は実際に見てきた。オーストラリアが経験した過程に韓国を代入してみよう」

     

    海軍において、原潜は最高の地位を占めている。それだけに技術移転は、最高の機密を要する。壁が厚いのだ。

     

    (2)「まず、専門家らは韓米原子力協定に注目する。この協定に基づくと韓国は高濃縮ウランを使用できない。韓国内の核管理問題に対する米国の懸念から過去の韓米原子力協定改定は順調でなかった。たとえトランプ政権が協定を改定して米上院が批准するとしても、韓国は米国のITAR(国際武器取引規定)輸出統制再整備のための協議に入らなければならない。完ぺきな核管理・監督履歴と敏感な極秘情報保護履歴を持つオーストラリアも改編交渉に数年かかった。ITAR改定を通じてAUKUS協定の履行が可能になったが、米議会は暗黙的にこうした改定が韓国や日本に拡大しないと前提にした」

     

    完ぺきな核管理・監督履歴と敏感な極秘情報保護を要求される。その折衝が数年かかるというのだ。

     

    (3)「原子力潜水艦は米海軍の核心的な差別点であり、こうした技術を共有するというのは今まで韓国の政府や産業が経験したことがない徹底的な検証を踏むことを意味する。さらに費用の問題もある。英国・オーストラリア海軍は原子力潜水艦建造、乗船人員補充、潜水艦維持に全体の海軍予算を投入しなければならない。原子力潜水艦は北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイルに対応する韓国海軍の優位を強化するだろう。しかしこれだけでは米議会の承認を受けるには足りない。特に来年の中間選挙で民主党が議会を掌握すればなおさらだ。もちろん韓国の原子力潜水艦導入が対中国集団抑止力強化のための措置ということに米議会の確信があれば不可能なことではない」

     

    原子力潜水艦は、北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイルに対応する韓国海軍の優位を強化するだろう。ただこれだけでは、米議会の承認を受けるには不足している。プラスαの交渉条件が課されるであろうという。

     

    (4)「こうした議論は、今まで韓国国内でなかった。在韓米軍の「戦略的柔軟性」を韓国政府が公式的に認めるのが難しい状況で、中国の攻撃に対する連合対応に投入される可能性があるという前提で韓国が原子力潜水艦を導入できるだろうか。米議会と海軍は疑いを抱くしかない。トランプ大統領の原子力潜水艦承認後に表れた状況のアイロニーはまさにこの点にある。韓国の業界とメディアはあたかも原子力潜水艦が容易に韓国に渡り、米国からの独立が可能というような大きな関心が続いている」

     

    韓国が、原潜を保有する目的は単一ではない。中国の攻撃に対する連合対応という前提で、は、韓国が原子力潜水艦を導入できないと示唆している。

     

    (5)「しかし、英国とオーストラリアの場合は違った。英海軍は、原子力潜水艦管理技術を米国に大きく依存していて、米国真珠湾を出港するバージニア級原子力潜水艦には遠からずオーストラリア乗船員が搭乗する予定だ。米原子力潜水艦は保守のためにオーストラリア基地に停泊できることになる。オーストラリアが今後、戦争に共にするという予測があったため、原子力推進技術の移転決定も相対的に容易だった。「一緒に行こう」として知られる韓米連合軍の朝鮮半島連合態勢は有効だが、朝鮮半島を越える域内に範囲を広げれば状況は変わる」

     

    豪州が、原子力潜水艦保有が認められたのは、AUKUSで米英と一緒に戦うことが条件であった。

     

    (6)「筆者が見るに、原子力潜水艦は韓国により大きな抑止力と地政学的影響力を与えるだろうが、それが自律性を意味するわけではない。原子力潜水艦保有国に入ることは域内およびグローバル同盟の強化を意味する。トランプ大統領と李在明(イ・ジェミョン)大統領の原子力潜水艦に対する熱意は歓迎するが、現実的に越えるべきヤマはこのように多い」


    韓国が原潜を許される条件は、インド太平洋戦略で米国などと共に戦うことが前提になるだろう。「半島主義」で朝鮮半島周辺の防衛では、許されないに違いない。

     

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    韓国銀行(中央銀行)は、これまで歯に衣着せぬ分析によって、韓国経済の盲点を指摘してきた。今回は、韓国が完全競争状態にないことを指摘。GDPは毎年、0.5%ポイントも下回っているとしている。理由は、営業利益で金利を満足に払えない「ゾンビ企業」が生き残っていることにあるという。韓国は、財閥企業が頂点に立ち系列が形成されている。これが、もたれ合い経済を生み出している背景だ。戦前の日本財閥制度を「移植」したもので、非効率を温存している。

     

    『東亜日報』(11月13日付)は、「限界企業を淘汰させていればGDP0.5%押し上げ 韓銀が分析」と題する記事を掲載した。

     

    利子の返済もできず倒産の危険が高い「限界企業」(いわゆるゾンビ企業)がこれまで適切に淘汰されていれば、韓国の国内総生産(GDP)は0.4~0.5%成長していたとの分析が示された。1990年代以降、韓国が主要な経済危機に直面するたびに、経営難の企業が政府の金融支援によって延命した結果、民間投資が萎縮したという。

     

    (1)「12日、韓国銀行(韓銀)は「経済危機以降、なぜ我が国の成長は構造的に鈍化したのか」と題した報告書で、韓国経済の構造的な成長鈍化を緩和するには、生産性の低い企業は市場から自然に淘汰する必要があると主張した。新興企業の円滑な参入も欠かせないと付け加えた。韓銀が2200社余りを分析したところ、2008年の世界金融危機以降、大多数の企業で投資が停滞または減少しており、この投資不振は収益性悪化と密接に関係していると説明した」

     

    今年のノーベル経済学賞は、創造的破壊の重要性を指摘したが、まさに韓国経済に当てはまる。技術革新による「創造」(企業進出)と「破壊」(企業倒産)が行われていないのだ。もたれ合い経済のままで、「その日暮し」である。

     

    (2)「韓銀は、韓国経済が1990年代以降、国際通貨基金(IMF)による通貨危機や2008年の世界金融危機、2020年のコロナ禍による危機などを経るなかで成長傾向が鈍化したのは、主に民間消費と民間投資の萎縮が原因だと分析した。危機の際に限界企業の淘汰が遅れたため、新興企業が参入できず、投資も拡大しなかったことで、成長が鈍化する結果を招いたという意味だ」

     

    「民間消費と民間投資の萎縮」が、韓国経済の成長率を引下げている。民間投資の萎縮は、企業の「破壊」が不十分な結果、「創造」も生まれなかった結果である。

     

    (3)「韓銀の調査によると、淘汰リスクの高い企業は2014~2019年に約4%だったが、実際に淘汰した企業は2%にとどまった。コロナ禍後から明けた2022~2024年には、「淘汰リスクの高い」企業の割合が3.8%だったのに対し、実際の淘汰企業の割合は0.4%と大きく低下した。韓銀は、淘汰リスクの高い企業が適切に整理され、健全な企業がその空白を埋めていれば、国内投資は2014~2019年に3.3%、2022~2024年には2.8%増加していたと推定した。また、GDPはそれぞれの期間に0.5%、0.4%ずつ増加していたと分析した」

     

    2014~2019年の間で、淘汰リスクの高い企業は約4%だった。実際に淘汰された企業は2%にとどまった。倒産を奨励しているのでなく、倒産すれば新たな企業が生まれて新陳代謝する。この「交代」が、経済を発展させるのだ。韓国は、ぬるま湯に浸っていただけである。

     

    (4)「これは、淘汰リスクの高い企業が正常企業に比べて投資を著しく抑えているためだとみられる。企業の市場参入や淘汰が円滑に行われていれば、かなりの投資増加効果があったはずだ。こうした投資拡大は直接効果にとどまらず、2次的波及効果を生むことができる。韓銀は、投資拡大による雇用増加が家計所得の向上と消費の活性化につながるとみている。特に研究開発(R&D)投資の増加は、技術革新と生産性向上を通じて成長の潜在力を高めることができると分析した」

     

    淘汰リスクの高い企業は、生き延びるために設備投資を控える。これが、経済成長を鈍化させる原因である。ゾンビ企業の増加は、自動的に設備投資の伸び率を引下げる。

     

    (5)「限界企業の構造調整は、個別企業よりも産業全体の健全性を守るという観点から選択的・補完的に進めるべきだとの助言も出ている。韓銀のイ・ジョンウン調査総括チーム次長は、「限界企業の淘汰は、個別企業よりも産業全体の健全性保護に重点を置く方向で推進することが重要だ」とし、「主力産業である半導体、自動車に加え、規制緩和によって新産業への投資を促進し、新たな製品・サービス需要を創出することで、韓国経済の将来の成長エンジンを継続的に拡充することが重要だ」と強調した」


    ここでは、業界再編という業界ぐるみの合理化を主張している。いわゆる「護送船団方式」である。この背後には、政府の支援が隠されているが、まずゾンビ企業がスムーズに退出(倒産)できる環境を整えることだ。それには、失業者が転職できる労働市場の流動化が不可欠になる。この場合,終身雇用制や年功序列制賃金がブレーキだ。韓国は、幾重にも取巻いた「制度的桎梏」が障害になっている。結論を言えば、絶望的である。

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    米国では、AI(人工知能)普及にともないホワイトカラーに就職に異変が起っている。単純作業はAIが代替することから、テック産業中心に解雇が始まっているのだ。こういう動きを目の当たりにして、若者の職業意識が変ってきたようだ。労働現場で技術を身につける選択を始めている。造船工として、大卒や修士号の保持者が入社しているのだ。これは、職業観の変化と米国の造船業復活を信じる若者の職業選択を象徴している。

     

    米国では、造船業が消滅し掛っている。世界シェアは、たったの1%にまで零落した。こうした中で、韓国の造船大手ハンファオーシャンが昨年、米国東部のフィラデルフィアにあるフィリー造船所を買収した。同社は、米国きっての名門造船所である。創業は、米国独立宣言前にまでさかのぼり、米海軍の創設に不可欠な存在だった。この名門が、韓国企業にわずか1億ドル(約154億円)で買収されたのだ。

     

    現在、フィリー造船所が1年間に建造する商船は1隻である。これは、ハンファが韓国で1週間に建造する数とほぼ同じだ。ハンファは、フィリー造船所の年間建造数を20隻に引き上げ、従業員数を数千人規模で補強し、大型クレーンを増やすほか、ロボティクス技術を導入し、訓練施設を開設する構想を発表した。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月13日付)は、「米造船業の再生賭けたプロジェクト、一段と険しく」と題する記事を掲載した。

     

    フィリー造船所は、今夏に大きな支援を得た。ハンファの海運子会社が中規模のタンカーと液化天然ガス(LNG)運搬船、計12隻をフィリー造船所に発注したのだ。これは、米国の造船所の単一の受注案件としては、数十年ぶりの大型契約だった。このうち最初の船舶の引き渡しは、2028年になる予定だ。

     

    (1)「ハンファによる買収を受け、フィリー造船所の複数年にわたる研修プログラムへの今年の応募者はこれまでに3倍に増えている。今後の各期25人の採用枠に対し、現在は数百人の応募がある。研修生には労組基準が適用される職への道が用意されており、初任給は年間約4万8000ドル(約740万円)だ。研修プログラムを監督するメーガン・ハイルマン氏によると、同社には今年、研修生が120人余り入社する予定で、将来は年間500人まで採用を拡大する見込みだという。「応募者の多くは学士号や修士号を持っている。彼らは何か違ったものを探している」とハイルマン氏は語った」

     

    米国は、地縁・人縁を大切にする社会である。フィリー造船所が古い歴史を持っているので,地元では祖父の代から働いていた人たちも多いはずだ。その憧れのシンボルの造船所が復活するということで、関係者が造船工として働くことに誇り持っているのだろう。初任給は、年間約4万8000ドル(約740万円)だ。日本からみれば、好待遇である。AIの嵐を避けて、地道ながら明るいキャリアを選択したのであろう。

     

    『中央日報』(11月13日付)は、「AI発の雇用ショック…米国では週1万件の職が消滅」と題する記事を掲載した。

     

    米国の雇用市場に冷たい風が吹いている。11日(現地時間)、米オートマチック・データ・プロセッシング(ADP)は、先月25日基準で直前4週間の平均として、週あたり1万1250件の雇用が減少したと発表した。

     

    米国で解雇が増えているという調査はこれだけではない。チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス(CG&C)によると、先月、米企業は合計15万3074人の解雇を発表した。前月9月(5万4064件)と比べ約183%、1年前の昨年10月(5万5597人)に比べ約175%急増した数値だ。CG&Cは、10月の解雇規模としては、いわゆる「ドットコムバブル」が崩壊した2003年以来、22年ぶりに最大となったと付け加えた。


    (3)「この背景には、人工知能(AI)技術の拡散がある。最近、米国のテクノロジー企業は莫大な資金をAI投資に注ぎ込む一方で、不要な人件費を削減するため、大規模な人員調整に踏み切っている。IBM、アマゾン、メタ、セールスフォース、チェグなどが相次いで事務職の大規模削減を発表した。米人員削減情報サイト「Layoffs.fyi」によると、米国のテック企業218社で今年だけですでに11万2732件の雇用が失われたという」

     

    IBM、アマゾン、メタ、セールスフォース、チェグなどが、相次いで事務職の大規模削減を発表している。定型業務は、AIが代行する時代である。こういう動きを見れば、ホワイトカラーで働くことが、どれだけ不安定かを示している。造船工として、地元で働くことを選択する若者が増えるのは、ごく自然な時代になってきたのであろう。

     

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