勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 韓国経済ニュース時評

    テイカカズラ
       

    韓国では、犬用カートの販売が急増している。犬用カートの販売台数は昨年、ベビーカーの販売台数を初めて上回った。この傾向は、今年上半期も続いている。韓国の合計特殊出生率は、世界最悪を記録している。昨年は、「0.72」まで低下した。「2.18」を維持できれば、その国の人口は横ばいを維持できる。韓国の現状は、この人口横ばいラインの3分の1まで落込んでいる。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月17日付)は、「『超少子化』韓国、犬用カートの販売急増に揺れる」と題する記事を掲載した。

     

    子どもを持たないことや子どもを産むことへのためらいについて、米国など世界で議論が起きている。しかし懸念が最も強いのは、出生率が先進国で最低の韓国かもしれない。韓国にはもう一つ、激論を巻き起こしていることがある。それは犬用カートの販売急増だ。

     

    (1)「犬用カートがあまりにも普及したため、1月には「もやもやしているのは自分だけ? 犬用カートを巡り激論」という特集が放送された。米国など多くの先進国では、大人がペットを甘やかされた子どものように扱い、ぜいたくな誕生会を開いたり、立派な家を用意したり、プライベートジェットで一緒に旅行したり、犬用カートに乗せたりしている」

     

    韓国では、犬用カートが大流行という。韓国の方が、犬が大事にされ「赤ちゃんの代用」になっている感じだ。日本では、愛犬は飼い主と散歩している例が多く、カートに乗っているケースは珍しい。

     

    (2)「韓国の政府当局者は、危機感をあらわにしている。韓国の出生率は0.72で、人口を維持するために必要な水準の3分の1しかない。昨年の「若者ラウンドテーブル」の場では、今の雇用労働相の金文洙(キム・ムンス)氏が出席者の若者に苦言を呈した。「私が心配しているのは若者が愛し合っていないことだ。若者は犬を愛し、連れ歩いている。結婚せず、子どもも持たない」。左派系少数政党のメンバーは、最近の記者会見で金氏の発言に抗議し、低出生率をペットの飼い主のせいにする前に、過酷な労働条件や低賃金についてよく考えるべきだと主張した」

     

    若者は、結婚しないで犬を可愛がっている。考えさせられる問題だ。良い悪いという答えを出す前に、なぜだろうかと問い直すことだろう。

     

    (3)「最新の世論調査では、20~49歳の韓国人女性の2人に1人が子どもを持つつもりはないと回答した。これらの回答者は、子どもを必ず持たなければならないものではないとの認識で、経済的な制約を理由に挙げた。人間と一緒にペットが入れる施設が全国で急増する一方で、レストランやカフェは迷惑になる行動をするとして「子ども禁止ゾーン」を宣言している。中央政府は若い世代にペットより子どもを選ぶよう呼び掛けているが、実は尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は結婚しているが子どもはおらず、犬と猫を合わせて少なくとも10匹飼っている」。尹氏は6月、韓国の低出生率を巡り「人口国家非常事態」を宣言。省庁に「存亡の危機」を回避するため低出生率を解決するよう求めた」

     

    徳川15代将軍綱吉は、生類憐れみの令を20年に以上も続けた。動物愛護と言えば聞こえは良いが、江戸庶民は困惑した。現在の韓国では、庶民が率先して「生類憐れみの令」を実行している。社会異変の起こる前兆なのかも知れない。

     

    (4)「韓国では子どもの数が減る一方で、昨年の犬の登録頭数は過去最高を記録し、2018年の2倍余りとなった。韓国最大のペット用品通販サイト「ペット・フレンズ」のユン・ヒョンシますます明確になっている

    ン最高経営責任者(CEO)によると、犬用カートの販売台数は2019年以降に4倍となった。「エアバギー」は犬用カートの「メルセデス・ベンツ」と言われ、約1100ドル(約15万7000円)の秋冬用特別モデル「グレイツイード」にはスコットランド製の生地が使われ、オフロードタイヤが採用されている」

     

    犬用カートは、15万円以上もする。ますます、韓国版「生類憐れみの令」に近くなっている。

     

    (5)「エアバギーは、ベビーカーメーカーとして創業したが、同社の韓国部門は近年、犬用カートだけを扱うようになった。韓国部門を率いるパク・スンジェ氏は「当社のカートには犬も子どもも乗せることできる」が、「韓国市場はペット用カートを求めている」と話した。小型で健康な犬を乗せて運ぶカートは、デパートやレストラン、歩道、娯楽エリアで見かける日常風景の一部だ。ソウルの森公園(ニューヨークのセントラルパークより広い)では、犬用カートが歩行者用の小道をふさぎ、施設管理者のリ・ソンギュ氏(62)は困惑している。「カートには子どもが乗っているはずなのに」とリ氏は話した

     

    韓国では、価値観がひっくり返ってしまったのかもしれない。子どもを持たないで犬を可愛がる。何か重大なポイントが、抜け落ちている感じがする。社会が、余りにも硬直化していることへの「息抜き」であろう。

     

     

    a0960_008532_m
       

    尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は、20%台の低支持率であったが、これを支えてきた核心支持層に崩壊の兆しを見せ始めた。70代以上の尹大統領支持率が、3週間で23ポイントも下落しているからだ。長期化する医療ストによって、急患が「救急室たらい回し」され結局、死亡するという痛ましい犠牲者が出ている。健康問題に敏感な高齢層が、尹氏支持を撤回したのであろう。 

    問題は、医学部定員増加に反対する医師や医学部が既得権益を「死守」する姿勢にもある。絶対に妥協せず、犠牲者が出てもストを継続する状態は正常な感覚ではない。生涯高賃金を確保するためには、医師の数を増やさず競争を避けるという自己保身が見え隠れしているのだ。最大の犠牲者は一般国民である。

     

    『東亜日報』(9月14日付)は、「尹大統領支持率が20%、就任後最低」と題する記事を掲載した。 

    尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の国政支持率が過去最低の20%を記録した。与党支持率も同時に下落し、尹政権発足後の最低の28%だった。与党が医学部定員の増員をめぐる医政葛藤の解決策を示すことができず、医療空白が長期化することに対する批判的世論が反映されたものと分析される。

    (1)「韓国ギャラップが、9月10日から12日にかけて全国の成人1002人を対象に実施した調査結果(詳細は中央選挙世論調査審議委員会ホームページ参照)によると、尹大統領の職務遂行に対する肯定的な評価は先週より3%ポイント下落した20%だった。否定評価は先週より3%ポイント上がった70%で、5月第5週と同じ最高だった」 

    最新世論調査では、尹大統領支持率が20%、不支持率70%という数字が出た。これは、極めて危険なデータである。

     

    (2)「韓国ギャラップは、「否定評価は『医学部定員拡大』(18%)、『経済・民生・物価』(12%)、『疎通不十分』(10%)、『独断的、一方的』(8%)、『全般的に間違っている』(6%)などを理由に挙げた」と明らかにした。これに先立って総選挙惨敗後、尹大統領の職務遂行評価は5月第5週に肯定評価が21%、否定評価が70%だったが、支持率が徐々に回復した。7月第3週には29%まで上昇したが、その後、医学部定員問題が議論になり、引き続き下落傾向を示したのだ」 

    尹大統領は、医学部定員問題が足かせになって支持率が低下している。尹氏の「正論」が通らない以上、さらなる妥協策も必要だろうが、医師側の「頑迷固陋」ぶりも見逃せない事態だ。結局、韓国では巨大な既得権益層があらゆる改革を阻止していることがハッキリしたことである。

     

    (3)「大統領室は、「支持率については言及しない」として公式反応を示さなかった。しかし、秋夕(チュソク=陰暦8月15日の節句)連休の直前に発表した世論調査で最低を記録すると、少なからず戸惑っている様子だ。特に与党内部では、心理的マジノ線である20%台まで崩れる場合、国政の動力喪失が加速化する懸念する声が出ている」 

    支持率が、20%を割込む事態となれば、下線部のように野党を勢いづかせて「弾劾」という無法な要求を実現させる恐れもゼロではない。「弾劾癖」のついている左派にとっては、「尹氏追放」という夢を抱く可能性を強めている。そうなると、韓国政治は麻痺状態に陥るであろう。すでに、その前兆が出ている。国会で最大野党の共に民主党から「ニューライト論」が仕掛けられている。「新右翼」とでも解釈するのだろうが、反日と結びつけているのだ。

     

    『中央日報』(9月17日付)は、「韓国政界を揺さぶる『ニューライト』」と題する記事を掲載した。 

    「首相は『ニューライト』をご存知ですか」〔申栄大(シン・ヨンデ)共に民主党議員〕

    「『ニューレフト』もあるのですか。どうか“色塗り”はしないでほしい」〔韓悳洙(ハン・ドクス)首相〕 

    2日の韓国国会予算決算特別委員会全体会議で、申議員と韓首相が交わした舌戦だ。3日、安昌浩(アン・チャンホ)国家人権委員長候補人事聴聞会でも「もしかしてニューライトですか」〔徐美和(ソ・ミファ)共に民主党議員〕、「ニューライト史観が何ですか」(安昌浩国家人権委員長候補)のような攻防が続いた。 

    (4)「いわゆる「ニューライト」論争が9月政界を飲み込んだ。野党圏は金文洙(キム・ムンス)雇用労働部長官や安昌浩国家人権委員長候補ら、最近尹錫悦政府の主要人物と韓日関係をはじめ独島(トクド、日本名・竹島)造形物撤去や歴史教科書問題などを前面に出して「ニューライト」総攻勢をしかけた。与党は、「理念主義に持っていこうとするな」と対抗した。尹大統領は先月29日、国政会見で「正直、ニューライトとは何かよく分からない」とまで話した。政界関係者は「80~90年代『セッカル論(理念論)』攻防を連想させる」とし「変化したのは保守と進歩側の攻守が逆になったこと」と話した。 

    国会での理念論争を否定しないが、反日を搦めて政府を批判して、肝心の議案審議を棚上げしている。この裏には、文前大統領「疑惑」をニューライト論で消そうという思惑があるのかも知れない。だが、党利党略もほほどほどにすべきだろう。

    caedf955
       

    韓国は、高学歴化社会である。4年制大学進学率は、64、69%(2020年)で、世界2位である。とりわけ、医師志望が顕著である点で世界でも異色だ。医師希望の理由が、高収入で定年と無関係と極めて「俗っぽい」点にあるように、「医は仁術」という崇高な意識でないのが気懸かりな点である。これは、韓国の就職事情と深く関わっている。ホワイトカラーが就職難である一方、ブルーカラーが人手不足というミスマッチを引き起している。労働力配分の「平準化」が起こらないという不思議な構造になっている。雇用の二重構造が起こっている。これが、韓国最大の弱点である。

     

    高学歴者の就職難は深刻である。大学を卒業して就職できるまでの期間が、平均で14ヶ月もかかるのだ。終身雇用制によって、転職市場が未発達であるのも大きな要因であろう。第一志望でなくても、とりあえず第二志望の企業へ就職し、機会をみて転職する選択もある。韓国では、こういう選択をしないのだ。大企業・公企業・公務員が最大の就職希望先である。大卒は、他を「雑魚」扱いで見向きもしないのである。

     

    こういう労働のミスマッチが起こっている中で、AI(人工知能)は、労働力不足を補うとの認識だけが一人歩きしている。

     

    『中央日報』(9月16日付)は、「製造業人員不足の韓国』AIを活用すべき、『100年企業』CEOの助言」と題する記事を掲載した。米国ハネウェルのヴィマル・カプール最高経営責任者(CEO)の発言だ。

     

    AIは産業界で確実にチャンスだ。我々はAIソリューションを通じて企業がさらに効率的に意思決定ができるようサポートしている。

     

    (1)「企業の生産性はAIで高まる。もちろんソーシャルメディアや個人に及ぼすマイナスの要素は懸念すべき点だが、ビジネスの観点でAIの利点は確実だ。我々はAIソリューションをビジネス全般に拡大するために生成AI委員会を設置した。特に韓国では製造業の人材不足現象が深刻化している。AIが、労働力不足問題の解決に一定レベルで役立つと考える

     

    韓国では、製造業の人材不足が深刻化していると指摘している。一方では、大学卒が就職できるまでに平均して14ヶ月もかかっている。このギャップは、韓国経済全体にとっても大きな損失である。韓国は、国を挙げてこの問題を解決しなければならないにも関わらず、そのような動きは皆無だ。他国のことながら、なんとかならないのかと心配するほどである。ハネウェルのヴィマル・カプールCEOは、こういう韓国特有の事情をご存じないから、「AIが、労働力不足問題の解決に役立つ」という原則論を掲げているのだ。

     

    『中央日報』(9月15日付)は、「ある自営業者の男湯乱入 韓国の自営業者の実状短く強く残す」と題するコラムを掲載した。

     

    かつては百貨店に勤務して自営業者が、なぜ大企業を辞めて自営業になったかを語っている。日本では、あり得ないケースであろう。

     

    キム・ドンヒさんは現在、クレジットカード配送業者です。彼の1日の稼ぎは、携帯電話にかかっています。彼は自営業者です。昔は会社員でした。クレジットカード配送料は、「1件当たり1000ウォン(約106円)なので時間がお金」としながら忙しく働いている。

     

    百貨店で昇進できず名誉退職(注:自主退職)を選んで、衣類の自営業に飛び込んだ。突然、営業資金の出し手が資金を引き揚げて倒産した。5年前のことだ。それからが茨の道だ。クレジットカード配送業者に転じた。

     

    韓国では、名誉退職が50代に起こっている。解雇ではなく、「このたび一身上の都合で」という退職願を出した退職である。他企業への転職でなく自営業へ転身する。日本では、ちょっと考えにくいケースだ。大企業から自営業へという変化が、韓国の雇用構造の歪みを示している。中間項がないのだ。韓国では、製造業にAIを導入する以前に、雇用のミスマッチを解決しなければならないのだ。

     

    118
       

    中国のダンピング輸出が、韓国の重厚長大産業を揺さぶっている。中国経済は、不動産バブル崩壊による内需不振によって、過剰生産問題に陥っている結果だ。韓国も、この影響を大きく受けている。韓国は、これまで対中貿易が「ドル箱」であったが逆転した。 

    『ハンギョレ新聞』(9月13日付)は、「中国の供給過剰に『韓国経済の中枢』製造業が傾く」と題する記事を掲載した。 

    韓国経済の中枢を支える「重厚長大」産業が一斉に危機に直面しているという警告音が大きくなっている。中国企業の生産過剰および輸出拡大で、韓国の相当数の製造業種にネガティブな影響が及んでいるというのが骨子だ。このような中国の供給過剰は外部の構造的な問題であるため、その衝撃も長期化しうるという懸念も大きい。

    (1)「LG化学は、今年上半期の石油化学事業で上げた営業利益は、約12億ウォン(約1億2700万円)。上半期の会社の利益全体の0.2%に過ぎない。2022年には同事業利益は1兆ウォン(約1060億円)に迫る規模だったが、業況が180度変わった。サムスンSDIは10日、偏光フィルム事業を中国メーカーに1兆1210億ウォン(約190億円)で売却することにした。中国企業の攻撃的な低価格競争で収益性が悪化し、事業売却を決めたのだ。ポスコの子会社であるポスコフューチャーMも先日、OCIと合弁で設立した二次電池の素材企業であるP&Oケミカルの持分をすべてOCI側に売却することにした。中国の供給過剰などによって本業である鉄鋼と二次電池の業況に影が差し、経営を引き締めることにした」 

    韓国の主要産業である化学工業が、中国のダンピング攻勢で大揺れである。中国との合弁事業の出資持分を中国側へ売却して撤退を余儀なくされている。

     

    (2)「韓国の信用評価会社「ナイス信用評価」は11日、「深まる中国の供給過剰と信用危機」と題するセミナーを開き、「中国の供給過剰が続き、韓国の主要事業の環境も厳しくなるものと見通される」と指摘した。具体的に、鉄鋼・石油化学・太陽光・ディスプレイ・電気自動車(EV)・二次電池など6つの主要業種の需要と供給条件が韓国企業に不利だと予想された。中国製を含めた製品の過剰供給が需要を大幅に上回り、価格下落など企業の実績に悪影響を及ぼすだろうという話だ。特定の要因が国内の製造業全般に衝撃を与えるという懸念が提起されるのは異例のことだ」 

    中国のダンピング攻勢で、韓国は鉄鋼・石油化学・太陽光・ディスプレイ・電気自動車(EV)・二次電池など6つの主要業種が不利な状況へ追込まれそうである。韓国製造業を支える主要分野だけに看過できない問題である。韓国政府は、関税引き上げを具体的に検討すべきであろう。

     

    (3)「ハナ金融経営研究所も6月、報告書を通じて「中国が2024年に入り半導体、自動車、造船、太陽光など主要品目の価格をさらに引き下げたことで、当該品目の輸出量が前年同期に比べ40~60%急増した。多くが韓国の輸出品目と重複しており、韓国が最も大きな打撃を受けるものと予想される」と述べた。中国の事情に詳しいある証券会社の研究員は「最近は中国の内需が崩壊しているが、中国政府は内需浮揚の代わりに製造業育成に政策焦点を合わせ、過剰供給がますます激しくなっている」とし、「すでに中国製品の品質がかなり高くなっているため、相当数の品目で韓国製との競争が避けられない状況」だと指摘した」 

    中国は、24年にはいって半導体、自動車、造船、太陽光などの輸出価格を40~60%も引下げている。もはや常識を超えた状態だ。これは当然、韓国の関税率引上げを正当化する理由になる。

     

    (4)「実際、LG化学やロッテケミカルなど石油化学企業の実績悪化を招いたのは、中国が「自給率の向上」を掲げて自国製品の生産を大きく増やし、韓国製品の輸入が減ったことが大きく影響した。この5年間、中国の石油化学の基礎原料であるエチレンの増設規模は約2600万トンで、韓国の生産能力の2倍に達する。中国政府の補助金のおかげで高速成長した太陽光とディスプレイ、内需の消費規模の2倍余りにのぼるEVバッテリーの余剰生産量などもグローバルな価格下落を招き、ハンファソリューション、LGディスプレイなど韓国企業の業績悪化につながっている」 

    中国は、石油化学の基礎原料であるエチレンの増設によって、韓国の生産能力の2倍に達している。こうしてコストを切下げる一方で、ダンピング輸出で攻勢をかけられたら、韓国企業は対抗困難である。 

    (5)「先日、構造調整に着手したドイツのフォルクスワーゲングループとは異なり、実績好調を見せている現代自動車・起亜など韓国の自動車部門も「安全地帯」ではない。ナイス信用評価のホン・セジン研究員は「内燃機関自動車の電動化が加速し、中国車のグローバルシェアが高くなれば、新興国を中心にEV部門の競争が激しくなるだろう」とし、「長期的に原価競争力を備えた中国製のEVがグローバル競争を深める危険要因として作用しうる」と指摘した」 

    中国製EVが、低価格を実現しているのは電池の生産コストが低いことだ。原料にリチウムを使わないでコスト切下げを実現した。この製法は、他国も採用し始めている。トヨタ自動車は、中国製EVへ真っ向から対抗する。26年から新方式の電池(全固体電池ではない)を採用した高性能電池(航続距離1000キロ)を登載した新型EVが登場する。世界のEV地図が、塗り変わるであろう。

     

     

    a0070_000030_m
       


    韓国半導体は汎用品

    後工程技術で出遅れ

    サムスン日本で研究

    素材企業は後押し役

     

    半導体は現在、パソコンやスマートフォン向けから、生成人工知能(AI)や自動運転向けへと需要先がシフトしている。半導体が、パソコンやスマホに多く使われて段階では、メモリー半導体(記憶)が主力であった。だが、AIや自動運転向けへと需要が拡大している現在、非メモリー(演算・制御)半導体が主体になりつつある。半導体世界の主役は、非メモリーへ移ってきたのだ。 

    サムスン電子は、世界半導体の代表企業である。だが、その製造している半導体がメモリーという汎用品であることで、経営は周期的に大きく揺さぶる「難点」を抱え込んでいる。 

    もう一度、半導体について整理しておきたい。

    1)メモリー半導体  汎用品 安い価格 周期的循環 サムスン

    2)非メモリー半導体 受注品 高い価格 比較的安定 TSMC

     

    サムスンが、周期的に経営が揺さぶられる一方、台湾のTSMCは高い利益率を上げている。非メモリー半導体が主体である結果だ。サムスンは、こうして収益力でTSMCに引離されている。日本のラピダスは、2)の非メモリー半導体進出を目指している。 

    以上のように、サムスンの経営実態を分析すると、その基盤は決して強固なものでないことが分る。それどころか、周回遅れとなった日本の半導体ラピダスが非メモリーで再興するので将来、その座を脅かされるリスクすら抱えている。 

    サムスン半導体の弱さは、半導体総合力(製造装置・素材)において脆弱であることだ。日本は、半導体製品では競争力を失い各国の後塵を拝したが、総合力では今なお優位を保っている。特に、今後の非メモリー半導体の象徴になる「2ナノ」(10億分の1メートル)では、半導体製造工程の「後工程」の優劣が、競争力を左右するとみられる。日本は、この後工程で圧倒的な力を備えているのだ。ラピダスが、将来性を備えている理由はここにある。 

    こういう状況から言えば、ラピダスがサムスンやTSMCと十分に対抗可能という筋書きが生まれて当然であろう。世界3大半導体企業のTSMC・サムスン・インテルが、この事実を痛いほど知り抜いており、相次いで日本へ研究施設や研究組合を設置している。

     

    韓国半導体は汎用品

    韓国の非メモリー半導体シェアは、主要国の中で最下位である。韓国産業研究院によると、22年の世界の非メモリー半導体市場の国別シェアは次の通りである。

    1位 米国 54.5%

    2位 欧州 11.8%

    3位 台湾 10.3%

    4位 日本  9.2%

    5位 中国  6.5%

    6位 韓国  3.3%

    出所 韓国産業研究院 

    米国は、コンピュータCPU(中央演算装置)とスマートフォン用AP(アプリケーションプロセッサ)、GPU(グラフィック処理装置)などほとんどの市場を独占している。欧州は、自動車・産業用ロボットに必要なMCU(マイクロコントローラーユニット)などに強みがある。日本は、特定需要を対象にした離散型半導体(ダイオード・トランジスタ・サイリスタ)などで競争優位性を持っている。

    韓国の非メモリー半導体シェアは、3.3%に過ぎない。韓国には、非メモリー半導体のユーザーが少ないという致命的欠陥を表している。サムスンが、非メモリー半導体の技術蓄積が少ない背景には、ユーザーが存在しなかったことも影響している。 

    サムスンは、メモリー半導体で世界トップシェアだが、汎用品特有の価格が勝負という商品特性から強い経営的影響を受けている。サムスンは、不況期にもなかなか減産に踏み切らず、修羅場の中でシェアを高める戦術を採用してきた。こういう点で、ビジネス巧者である。だが、非メモリーは受注品で技術レベルが販売面で最大の影響力を持っており、メモリーとは全く異なる商品特性である。これが、サムスンの経営的肌合いとは根本的に異なっている点だ。

     

    TSMCは、非メモリー専業である。サムスンは汎用品が主体だけに、非メモリーへ向ける経営資源配分を誤った。これが、非メモリー半導体で韓国シェアの低い背景であろう。経営体質の異なるサムスンが、非メモリーで競争力を付けることは生やさしいことではあるまい。 

    サムスンは次の通り、非メモリー販売シェアでTSMCに大きく引離されている。

    TSMC 51.8%

    サムスン 18.5%

    2023年 

    サムスンは、2020年の世界シェアは17%であり、その後の推移をみると伸び悩んでおり、TSMCとの差を目立って縮められずにいる。この背景には、製品歩留まり率の悪化が指摘されている。日韓の政治対立で、日本が韓国への半導体主要3素材の輸出手続き強化を行った(2019年)ことの影響が指摘されている。日本からの半導体素材輸入が遅れて他国製品を使用した結果、歩留まり率が低下したとされる。 

    韓国半導体は、日本半導体の素材供給に大きく依存している。サムスンの歩留まり率低下が表すように、韓国半導体は日本素材の影響下にある証拠になろう。(つづく)

     

    この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です。

    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

     

    このページのトップヘ