勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    韓国は、日本を非難するときの常套句として、自国を「道徳の国」と称して日本を下に見て満足する風潮がある。その道徳の国で、最大野党「共に民主党」代表の李在明氏は、検察からいくつかの罪名で起訴されている。毎週、法廷に通わざるをえない被告の身だ。前の大統領選で、候補者にもなった人物である。

     

    李氏は、日本では全く想像もできない行動を取っている。党代表を辞任するとか、党を離党するとか、そういう行動を取らずに、過激な反日言動で自らの疑惑を覆い隠す勢いである。韓国の政治倫理では、こういう政治行動が容認されるのか。自ずと限界というものがあろう。

     

    『中央日報』(3月23日付)は、「起訴された韓国野党代表、もう自身の進退を真剣に悩む時と題する社説を掲載した。

     

    検察が、慰礼(ウィレ)新都市・大庄洞(テジャンドン)開発特恵不正と城南(ソンナム)FC後援金の疑惑で、共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表を昨日裁判にかけた。主な容疑は背任と収賄だ。

     

    (1)「大庄洞に関しては、城南市長時代に民間業者に有利な事業構造を承認し、城南都市開発公社に4895億ウォン(約498億円)の損害を与え、その過程で内部秘密を民間業者に流して7886億ウォンを手に入れた疑いだ。慰礼新都市事業では民間業者に内部の情報を知らせて不当利得211億ウォンを得た疑い、城南FC球団のオーナーとして4社の後援金133億5000万ウォンを受け取る代価として各種便宜を提供した疑いだ」

     

    背任と収賄という罪名である。李氏は、与党の政治報復として済ませている。すべて、他人のせいにする韓国である。しかし、これだけ巨額資金が、本人の預かり知らぬところで動くとは思えないのだ。本人は、ともかく逃げ切る方針のようだ。

     

    (2)「大庄洞事件関連起訴は、2021年9月本格的な捜査開始以来1年6カ月ぶりだ。李代表としては選挙法(違反)に続き、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政府発足後2度目の起訴だ。李代表は「家宅捜索、逮捕令状ショーを政治的に活用して決まった答えどおりに起訴した」と反発した。全国を騒がせた事件の真実は、今や法廷で明らかになっている」

     

    韓国は、こういう疑惑を引き起している人物が、政党代表に止まっていることの非常識さを認識することだ。日本から見た韓国政治は、決して褒められた状況にない。これが、日本人の韓国観に反映されている。

     

    (3)「問題は、169議席の巨大野党を率いる李代表の進退だ。民主党党務委員会は「政治報復捜査なので党役員停止の対象ではない」と議決した。党役員が不正腐敗の疑いで起訴された場合は党職を停止するが、該当捜査が政治報復として認められれば党務委議決でこれを取り消すという党憲第80条によるものだ。従来の党憲は、「外部の人々が主軸である中央党倫理審判院が政治報復の可否を判断する」とした。しかし、昨年8月の李代表就任直前、党代表が議長を務める党務委に判断の主体を変えた。当時「特定人のための防弾改正」という批判が出てきたが、その心配が7カ月ぶりに現実化した。このようなやり方では、党憲第80条を放っておくことに何の意味があるだろうか」

     

    李氏の行動は、「絶対多数に胡座をかいている」というものだ。「共に民主党」は、国会で300議席中169席を占める。56.3%にもなるので、多少の造反が出ても李氏は守られるという計算をしているのであろう。だが、来年4月には総選挙を迎える。議席が増えるよりも減る公算の方が強い。その際に、李氏の責任が問われる場面がくるだろう。そこまで辞任時期を引き延ばすとすれば、余りにも無責任という非難を浴びるに違いない。

     

    (4)「李代表は、すでに選挙法違反で2週間に1回は裁判を受けている。今回の起訴でもっと頻繁に法廷に立つことになった。サンバンウルグループの北朝鮮送金疑惑、柏ヒョン洞(ペクヒョンドン)特恵疑惑など捜査線上に上がっている他の事件も数え切れない。裁判と捜査で席を随時空けるしかない代表が、(国会議席)数字の力を背負って主要法案の運命を決める現実が果たして正しいのか疑問に思うばかりだ」

     

    李氏は毎週、法廷に通う身である。未だ疑惑事件が控えている。北朝鮮送金疑惑など捜査線上に上がっている事件は数え切れないという。これもすべて、「他人のせい」にする積もりであろう。世にも不思議な党代表が生まれたものだ。

     

     

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    韓国左派は、旧徴用工賠償問題で反発し、ソウル都心で反対集会を繰り広げている。日本の謝罪がないことで、韓国の自尊心が傷つけられたという理屈である。日本は、過去40回も謝罪してきたが、それでも満足できないというのだ。

     

    経済面から見た韓国は、日本へ度重なる謝罪を要求するほど余裕ある状況にない。主力産業の半導体が、米中対立で厳しい局面に立たされているのだ。韓国は、中国で数兆円を投資してきた半導体が、今後の満足ゆく操業が不可能になったことだ。先端半導体は、10年間で5%の増産枠を認められただけだ。当然、採算悪化は間違いない。

     

    米中関係は、10年後に改善する見通しがある訳でなく、逆になる可能性の方が大きいであろう。となると、半導体は最終的に中国撤退すら起こり得る。韓国は今、それに備えた動きを始めた。日韓融和への動きである。

     

    『韓国経済新聞』(3月25日付)は、「韓日輸出規制解除の意味『ビジネス同盟復元』半導体サプライチェーン構築に役立つ」と題する日本大経済学部教授の権赫旭(クォン・ヒョクウク)氏へのインタビュー記事を掲載した。

     

    韓国は、日本から多くの素材、部品を輸入している。2019年以降の輸入規模は、再び増加に点じている。韓国は現在、米国の主導で再編されるサプライチェーンに注目しなければならない。日本による輸出手続き規制の解除は、韓国が主要プレーヤーとして参加できることを意味する、と強調する。

     

    (1)「韓国は包括的および先進的なTPP協定(CPTPP)に事実上、日本の反対で加入できなかった。今回の措置の効果が国際協定でも有効に作用して、近くCPTPPや米国主導のクアッド(日米豪印)にも参加することになるはずで、発言権を持って主要プレーヤーとして活躍することができる」

     

    韓国が、TPP参加をためらった理由は二つある。一つは、中国への遠慮である。もう一つは、日本製造業との競争に敗れることを懸念したものだ。農水産物の競争力も日本より劣っている。福島産などの海産物を未だに輸入禁止している理由だ。TPPに参加するとなれば、韓国産業は「丸裸」になる。対日貿易に限れば、韓国の輸入赤字はさらに膨らむであろう。

     

    クアッドへ参加する前に、先ず韓国海軍艦艇が行なった海上自衛隊哨戒機へのレーダー照射に対して謝罪することだ。旭日旗を蛇蝎のごとく嫌う韓国が、クアッドへ参加できるだろうか。クアッドの問題は、韓国がひっくり返るほどの反対論が出るだろう。

     

    (2)「韓国は、米国と中国の間のあいまいな戦略的位置でなく、米国側でオーストラリアや日本と共に重要な軸になることを意味する。これを確実にするのが、韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の回復だ。中国と対立するのではなく、中国が圧力を加えてきた場合の交渉カード、バーゲニングパワー(交渉力)が生じる。韓国が今回、日本へ先に握手の手を出したのは、米国側に立ったものと解釈できる」

     

    韓国は、長年にわたり「二股外交」を行なってきた。韓国は、ここから「足を洗い」米国の陣営に馳せ参じるというのである。これは、左派が猛烈な抵抗するだろう。左派は、親中朝ロ路線である。先ずこれを国内で解決することだ。

     

    (3)「韓国が、日本とビジネスパートナーになる場合の利益について、半導体産業を例に挙げてみよう。中国は原油の輸入よりも半導体の輸入による赤字がはるかに大きい。中国が半導体産業育成に注力する理由だ。半導体産業で頭角を現した韓国も悩みは同じだ。韓国は他国に比べて今でも製造業の比率が高いが、中国のおかげで維持されてきた側面がある。それだけ中国への依存度が高く、中国の立場に従うしかない状況もあった。これが韓国のジレンマだった」

     

    韓国の輸出トップは、中国である。対中輸出は、昨年後半からマイナスが続いている。これは、一時的な減少でなく、中国の素材生産が増えてきた結果、輸入代替が進んでいると見るべきだ。韓国は、対日貿易で赤字を出し、対中貿易で黒字を出すという構造が変わってきたのだ。

     

    (4)「米国が、中国排除政策を進めるこの時期、韓日ビジネス同盟に向かっていけば、半導体産業のサプライチェーン、次世代技術の側面で優位の競争力を確保できるとみる。世界最大半導体ファウンドリー企業TSMCと深い関係を結ぶ日本とのシナジー効果を期待できる」

     

    韓国は、日本が台湾のTSMCと密接な関係を構築していることに危機感を見せている。そこで、韓国にも「利益を分けて欲しい」というのが率直なところだ。韓国を巡る国際情勢は急変している。左派は、それを全く理解しようとしないのだ。 

     

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    韓国では、国会会期中の国会議員に対する不逮捕特権が憲法で認められている。これは、軍事政権当時に行なわれた国会議員逮捕が議会会期中はできないようにする自衛策であった。先に最大野党「共に民主党」代表の李在明氏が、刑事事件での逮捕を免れるべく、不逮捕特権を利用する例が出て問題になった。李氏は、その後に在宅起訴されて、被告の身分である。

     

    与党「国民の力」議員の51人は、このほど不逮捕特権放棄を宣言した。「国民の力」所属議員が最近、選挙違反容疑で検察から逮捕請求が出されたことへの回答でもある。前記の議員らは、不逮捕特権の濫用が国民の信頼を失うという危機感から出たものである。

     

    『東亞日報』(3月24日付)は、「与党51議員が国会議員の不逮捕特権放棄を誓約」と題する記事を掲載した。

     

    与党「国民の力」所属の国会議員51人が23日、憲法44条に保障された国会議員の不逮捕特権を放棄すると誓約した。同日、国会本会議に同党の河栄帝(ハ・ヨンジェ)議員に対する逮捕同意案が報告された中、同党議員らが「防弾放棄」を宣言して、最大野党「共に民主党」と李在明(イ・ジェミョン)代表をけん制した。

     

    (1)「51人の議員らは国会で記者会見を開き、「会期中に逮捕同意案が提出された場合、不逮捕特権を放棄し、逮捕同意案の通過を国会議員らに要請することを国民に約束する」と明らかにした。また、「政治の既得権益を断ち切る最初の改革課題は、大韓民国の政治の辞書から『防弾国会』という用語を削除することだ」とし、「不逮捕特権は憲法条項なので憲法改正でなければ取り除くことができないため、不逮捕特権の死文化に向けて不逮捕特権放棄の対国民誓約をする」と強調した」

     

    李在明氏は、先の大統領候補者である。選挙運動中、「落選すれば逮捕されて刑務所入り」と発言するなど、これまで逮捕の可能性がつきまとっていた。これを避けるために、国会議員に立候補し当選したとさえ言われている。メディアでは、「防弾用」に国会議員になったと酷評されているのだ。こうなると、不逮捕特権が不純な動機に利用されていることは間違いない。国民の政治家不信に繋がる大きな要因だ。


    (2)「誓約書には、朱豪英(チュ・ホヨン)院内代表や李喆圭(イ・チョルギュ)事務総長、親尹(親尹錫悦)の中核である権性東(クォン・ソンドン)、尹漢洪(ユン・ハンホン)議員をはじめ、安哲秀(アン・チョルス)議員などが名を連ねた。同党は、30日の本会議での逮捕同意案の採決も、党論を事実上の「可決」とする方針だ」

     

    与党「国民の力」は、同党所属議員の逮捕に同意する意向を見せている。これは、李在明氏が不逮捕特権を利用した一件と比べて際立っている。最大野党「共に民主党」の李在明代表の逮捕同意案の採決の時、「否決を総意で決めた」同党が、与党「国民の力」の議員の逮捕同意案の採決を前に、全く別の基準を持出しているのだ。党として、可決か否決かいずれの立場も示さず、自主投票の方針にするというのである。ダブルスタンダードである。こういう政党が現在、反日の先頭に立って煽っている

    (3)「これをめぐって民主党では、非明(非李在明)系を中心に「ジレンマに陥った」という懸念が出ている。李代表と盧雄来(ノ・ウンレ)議員の逮捕同意案を否決させた同党としては、河氏の逮捕同意案に賛成することは重荷となる状況だ。だからといって否決票を投じることは、「国民の力議員も賛成するのに民主党は汚職を擁護するのか」という批判を免れないためだ。非明系の趙応天(チョ・ウンチョン)議員はMBCラジオ番組で、「今回賛成して、今後あるかもしれない李代表に対する逮捕同意案の時にまた反対する場合、その基準をどう説明するのか」と述べた」

     

    「共に民主党」は、党利党略を臆面もなく前面に出している。支持者も、これをとがめ立てする訳でもなく、同じ穴の狢(むじな)でつるみあっているのだ。韓国政治の前近代性を余すところなく見せつけている。

     

     

     

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    米連邦準備制度理事会(FRB)は22日、政策金利を0.25%ポイント引き上げ、政策金利が4.75~5.00%になった。政策金利は、2007年以降で再び最高水準を記録した。米韓金利差は、これで1.5%ポイントへ拡大する。金利差拡大は、ウォン相場の下落を招き消費者物価上昇を招くが、韓国国内の金融情勢が不安定であることから、当面の追随利上げを見送る方針である。

     

    『中央日報』(3月24日付)は、「FRBの速度調節で余裕生まれた韓銀、来月 金利凍結か」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米連邦準備制度(FRB)が22日(現地時間)、「ベビーステップ(基準金利0.25%ポイント引き上げ)」を断行し、通貨政策を運用する韓国銀行(韓銀)も、ひとまず一息つくことになった。韓米金利逆転幅が1.5%ポイントまで広がったが、2月に基準金利を3.5%に凍結する時に予想してきた水準のためだ。市場では韓銀が4月に再度基準金利を凍結し、物価と不動産など市場状況を点検する余裕が生まれたという評価が出ている」

     

    FRBは、米国内の金融不安が地方銀行止まりと判断して、予定通り利上げを行なった。ただし、利上げは0.5%でなく0.25%と小幅に止めた。韓国は、米国が小幅利上げに止めたので追随利上げを見送る。


    (2)「23日、韓銀によると、2月の消費者物価上昇率は10カ月ぶりに4%台(4.8%)に下がり、下半期になるほど上昇率が鈍化するものと予想される。輸出不振で1月の経常収支が過去最大の赤字(-45億2000万ドル)を記録するなど景気下降の兆しがはっきりしているという点も、2カ月連続で基準金利凍結の可能性を裏付けている」

     

    韓国が利上げを見送る背景は、2月の消費者物価上昇率が落ち着いてきたことや、輸出不振で景気下降が鮮明になっていることだ。

     

    (3)「米国の高強度通貨緊縮が、シリコンバレー銀行(SVB)破産にともなう金融市場の不安定要因によって、金利引き上げ負担が大きくなった。国内銀行のウォン延滞率や健全性指標はまだ良好な水準だが、「弱い輪」の貯蓄銀行・相互金融で不良が生じた場合、SVB事態のように韓国でも「バンクラン(預金の大量引き出し)」が起こる可能性を排除できないためだ」

     

    韓国にとって、米国のシリコンバレー銀行破綻は他人事でない。国内には、貯蓄銀行・相互金融に脆弱部門を抱えているからだ。金融破綻は、最も弱い輪から崩れるだけに警戒を怠れない。

    (4)「金融市場の不安感も依然として残っている。金融安定に影響を及ぼす実物・金融指標を基に算出された金融不安指数(FSI)は、今年1月と2月にそれぞれ22.7、21.8だった。昨年10月(23.5)から5カ月連続「危機」段階(22以上)が維持されている。韓国銀行のイ・スンホン副総裁は、この日「対外環境の変化と国内価格変数、資本流入・出入動向を綿密にモニタリングしながら、必要があれば積極的に市場安定化措置に取り組む」と述べた」

     

    韓国の金融不安指数は、昨年10月から5カ月連続「危機」段階(22以上)になっている。こうした状況が起こっている以上、さらなる利上げは躊躇せざるを得ないのであろう。

     

    (5)「韓銀の「利上げ凍結」が、長期化するかは未知数だ。米国の物価・雇用状況などを考慮すればFRBが5月に0.5%の利上げへ踏込む可能性があるためだ。現代経済研究院のチュ・ウォン経済研究室長は、「米国がもう一度0.5%利上げになれば、韓米の金利格差が過去最大幅に広がる。韓銀が、すぐ4月ではなくても年内にさらに基準金利の追加引き上げを行う可能性がある」と述べた」

     

    米国は、さらに利上げする姿勢を見せている。このことから言えば、韓国がいつまで利上げを見送れるか疑問である。少なくも年内の利上げは不可避とする指摘もある。韓国経済は、綱わたりが続くのだ。


    FRBの利上げが今回、0.25%ポイントに止まったので、韓国銀行は一息ついた形である。しかし、FRBが5月に再びベビーステップ(0.5%)に踏み切れば、米韓の金利差は1.75%ポイントまで広がり、韓国金融政策に負担が大きくなる。23日の対ドルウォン相場は、FRBの緊縮終結への期待で前取引日(1307.7ウォン)より29.4ウォンとドルが急落し1ドル=1278.3ウォンで取引を終えた。25日のオンショア相場は、1ドル=1299.17ウォン(1時31分)と再びウォン安へ動いている。

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    韓国尹(ユン)政権による旧徴用工賠償解決策は、左派の猛烈な反対運動を引き起している。特に、最大野党「共に民主党」代表の李在明氏が、背任・収賄の容疑で在宅起訴になって、一段と反日運動に力を入れているところだ。

     

    韓国左派にとっても、この解決策をひっくり返しところで先行きの展望がある訳でない。日韓関係はさらに悪化し、韓国が西側諸国から外交的に孤立するリスクを高めるだけである。となると、左派はどこかで反対運動を沈静化させなければならないのだ。そのきっかけが、岸田首相の「シャトル外交」訪韓である。夏頃と予想されているが、岸田訪韓は旧徴用工賠償で大きなカギを握っている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月24日付)は、「元徴用工問題で韓国の『ちゃぶ台返し』はあるのか」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙編集委員の峯岸博氏である。

     

    韓国政府が6日に、元徴用工問題の解決策を発表してから、尹氏の初来日まで一連のイベントが終わった。日韓最大の懸案は解決策の履行に焦点が移った。日本には韓国側の「ちゃぶ台返し」を警戒する声がなお聞かれるが、果たしてどうか。

     

    (1)「尹氏が、2027年5月までの大統領の任期中に、自ら合意をほごにするとはまず考えられない。万が一、解決策が頓挫する場合があるとすれば、韓国内で反対論が沸騰して実行できなくなるか、尹氏の次の政権で葬られるかのいずれかだろう。発表直後に韓国内で実施された主な世論調査は、週刊誌「時事ジャーナル」(賛成37.%、反対59.%)、韓国ギャラップ(賛成35%、反対59%)、KBSテレビ(評価する39.%、評価しない53.%)など。いずれも反対(評価しない)が賛成(評価する)を上回っている」

     

    世論調査では、賛成論4割弱で反対論6割弱である。反対論が上回っている。理由は、日本企業が資金提供しないことと謝罪のない点を上げている。

     

    (2)「これらの数字には別の解釈も成り立つ。韓国では歴史問題について、日本=加害者、韓国=被害者という想定で「100%日本が悪い」ととらえられるのが一般的だった。韓国ギャラップの質問も「日帝(=日本帝国主義)強制動員被害を第三者が弁済する方策は韓日関係と両国の国益のため賛成」か「韓国政府の方策は日本の謝罪と賠償がなく反対」のいずれかを尋ねていた。KBSも同様だ。このような聞き方は回答にバイアスを与えかねないのに、各調査で解決策への肯定的な評価が30%台半ばから後半に達した。これは「それなりに高い数字」(日本の外務省幹部)だと受け止めることもできよう」

     

    世論調査での設問が、二者択一という反対論を誘導し易い点に注意する必要がある。設問の仕方を変えれば、反対論が減るという面もあるのだ。日本の世論調査でも同じ傾向が認められる。調査側が、反対論を多くしたい意図であれば、そういう設問になるのだ。

     

    (3)「尹政権が逆風を受けているのは間違いないが、大きな打撃になっているわけではないようだ。韓国ギャラップが10日に発表した尹氏の支持率は34%(不支持率58%)で、前週比2ポイント減にとどまった。17日発表の支持率は33%(不支持率60%)だった。韓国政府の損得勘定からみても、ちゃぶ台返しは考えにくい。もし4年後に誕生する韓国の次期政権が解決策をほごにしても、ひとえに韓国の国内問題として、自身の手で新たな対策を講じなければならなくなる」

     

    尹氏の支持率は減っているが、「激減」という状態ではない。今後、「ちゃぶ台返し」が起こるとすれば、これまで以上の日韓関係悪化を招くことは必定だ。韓国国民は、それに耐えられる覚悟があるかを問われている問題でもある。

     

    (4)「相手国の首脳に伝えた政府の解決策を、後に覆せば国際的な信用が傷つく。日韓慰安婦合意について、大統領選の最中から「再交渉が必要だ」と主張していた韓国の前大統領、文在寅(ムン・ジェイン)氏は最終的に「政府間の公式合意」だったと認めざるを得なくなった。今回の日韓首脳会談に合わせて創設が決まった両国の経済界による「未来パートナーシップ基金」には日本側も経団連などが資金を拠出する。基金の行方には不透明な部分も残るが、経済分野を中心とする共同事業や若手人材の交流を促す取り組みなどにあてられるため、韓国側がこれを否定するのは難しいだろう」

     

    両国の経済界による「未来パートナーシップ基金」は、双方が1億円を負担して両国の交流促進をはかる。若者の留学も含まれているのだ。この具体的内容がはっきりすれば、理解も深まるであろう。

     

    (5)「日本が、5月に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)に尹氏を招待し、その数カ月後の夏ごろに首相が訪韓するアイデアも浮上している。韓国では、24年4月の総選挙(一院制の国会議員選)に向け、事実上の選挙戦が熱を帯び始めているころだ。総選挙で尹氏を支える保守系与党が敗れれば、尹政権の求心力は一気に低下する。その先にある27年大統領選まで見据え、岸田氏は尹政権を戦略的にアシストするのか。尹政権にとっても、日韓関係の将来にとっても首相の訪韓は大きな意味を持つ」

     

    岸田首相は、「シャトル外交」で訪韓が決っている。夏頃に実現と予想される。この岸田訪韓が、どのような効果を上げるかである。両国の未来への夢を語り、韓国国民の人心を掴めるかだ。

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