勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 韓国経済ニュース時評

    あじさいのたまご
       

    韓国政治は、感情丸出しの「報復合戦」に陥っている。特に、最大野党「共に民主党」は、国会の最大議席を利用して「占領軍気取り」であり、暴言の数々を発している。世論調査で、与党「国民の力」の支持率が「共に民主党」と拮抗し始めると、世論調査会社を「不正調査」容疑で告発するなど、目に余る振舞をしている。こうした「暴走」が、若者から反発をうけており、最新の世論調査では、「国民の力」が「共に民主党」を逆転する事態になっている。のべつ幕なしで繰り広げてきた野党の「弾劾戦術」が、明らかに行き詰まりをみせている。

    『朝鮮日報』(1月17日付け)は、「韓国20・30代の与党支持率、1カ月間で急上昇 最新世論調査」と題する記事を掲載した。

    尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、今月15日に高位公職者犯罪捜査処(公捜処)に拘束される前、訪ねてきた人物に対して、最近の与党・国民の力の支持率上昇を話題にし、20~30代の与党支持に言及したとのことだ。

    (1)「最近の世論調査の推移を見ると、国民の力の支持率は昨年12月3日の非常戒厳宣布前の水準に回復し、共に民主党を誤差の範囲内でリードする結果も出ている。世論調査の専門家らは「政党支持率が変動している主な要因の一つは20~30代の変化だ。20~30代は、非常戒厳宣布という局面で野党支持の傾向が強まった。それから1ヶ月たって野党離れの流れが見えてきた」と話す」

    韓国政界は、絶えず「喧嘩腰」で相手陣営を批判している。冷静な議論は、極めて少ないのだ。こういう政治土壌で起こった今回の大統領弾劾→大統領拘束では、野党が政権を奪還したような興奮に陥っている。韓国政治の混乱を憂えるという雰囲気はゼロなのだ。こうしたことに、若者が反発するのは当然であろう。韓国政治が、正常化できるかも知れないわずかな希望はここにあるようだ。

    (2)「今月13日~15日に電話面接100%で実施された全国指標調査(NBS)では、20台(満18歳・19歳を含む)の31%が共に民主党を、22%が国民の力を支持しているとの結果が出た。30代では、共に民主党支持が31%、国民の力支持が28%だった。先月16~18日のNBS調査では、20代の37%が共に民主党、19%が国民の力を支持していた。30代では37%が共に民主党、20%が国民の力を支持していた。つまり、この1カ月間に20代の共に民主党支持は6ポイント減り、国民の力支持は3ポイント増えたということだ。また、30代の共に民主党支持は6ポイント減り、国民の力支持は8ポイント増えたことになる」

    ここ1カ月間で、与野党の支持率の顕著な変化が起こっている。電話面接100%の調査では、20代の共に民主党支持が6ポイント減り、国民の力支持は3ポイント増えたこと。また、30代の共に民主党支持は6ポイント減り、国民の力支持が8ポイント増えた点である。韓国政治の未来は、若者に託すほかない。与野党の支持率が変動していることは、問題の本質がどこにあるかを冷静にみつめようとしている結果であろう。

    (3)「こうした傾向は、積極的な支持層の回答傾向が強いとされる自動回答(ARS)世論調査よりも顕著になっている。世論調査会社リアルメーターが、エネルギー経済新聞の依頼で実施した今月9~10日の調査と先月12~13日の調査を比較すると、20~30代の国民の力支持は1カ月間に20ポイント以上も上昇した。20代の国民の力支持は21.6%から43.0%へと21.4ポイントも上がり、共に民主党支持は53.7%から31.7%へと22ポイント下がった。また、30代の国民の力支持は16.5%から38.5%へと22ポイント上がり、共に民主党支持は54.4%から46.9%へと7.5ポイント下がっている」

    世論調査会社リアルメーターが、ここ1ヶ月間に行った自動回答(ARS)世論調査でも、若者の間で支持率が大きく変動している。20~30代の国民の力支持は、1カ月間に20ポイント以上も上昇した。共に民主党支持は22ポイント下がった。30代の国民の力支持は、22ポイント上がった。共に民主党支持は7.5ポイント下がっている。

    (4)「インサイトケイ研究所のペ・ジョンチャン所長は、「韓悳洙(ハン・ドクス)首相に対する弾劾訴追、安保問題政争化、『カカオトーク検閲』など、李在明(イ・ジェミョン)共に民主党代表が主導する対与党攻勢、同代表に対する反感、『共に民主党は親中派だ』という認識などが若者層の支持率変動に影響を与えたようだ」と話す。世論調査会社オピニオンズのユン・ヒウン代表は、「20~30代における非常戒厳宣布に対する否定的認識や弾劾賛成の割合は依然として高い。今後、与野党がどうするかによって変動性があるだろう」と語った」

    尹大統領による「戒厳令」は、民主主義の破壊である。だが、最大野党「共に民主党」は、それを誘発するような行為を繰返していたことも事実だ。両者は、ともに国民の審判を受けなければならないであろう。「共に民主党」には、そういう反省はゼロであり、次期政権が近い」と小躍りしている。不健全な現象をみせているのだ。支持率が下がるのは、やむを得ないことであろう。

    あじさいのたまご
       

    尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が15日、身柄を拘束された。この直後に文在寅(ムン・ジェイン)前大統領は、フェイスブックに「平凡な市民たちの巨大な連帯が成し遂げた勝利」と投稿した。勝利感が溢れた文面である。ここは本来、沈黙するべきであろう。こうした不幸な事件が起こったことに、前大統領として忸怩たるものがあるはず。それを感じないとしたならば、もはや言うべき言葉を失う。韓国の民族的悲劇であるからだ。

    『中央日報』(1月16日付)は、「米シンクタンク『尹大統領逮捕で韓国は未知の領域へ 経済楽観は逆効果招く』」と題する記事を掲載した。

    尹錫悦大統領が、高位公職者犯罪捜査処に逮捕された。これが、韓国社会にさらに深刻な不確実性を引き起こすという、米国シンクタンクの分析が出てきた。

    (1)「聯合ニュースによると、米戦略国際問題研究所(CSIS)のビクター・チャ氏らは15日、CSIS傘下の北朝鮮専門サイト「ビヨンド・パラレル」に掲載された分析文で、「尹大統領の逮捕は戒厳令宣布から43日ぶりに発生した前例のない事件で、韓国社会を未知の領域に追いやった」と診断した。続けて「戒厳令宣布から逮捕に至る過程は韓国民主主義の回復力と脆弱性を同時に表わし、韓国の分裂をさらに深めさせた」と説明した。チャ氏らは「長引く政治的危機はもっと大きな危険を招く。政治的混乱と経済的悪影響を最小化するために安定化に集中する時」と提言した」

    現職大統領が身柄拘束される事態は、民族的な悲劇とみるべきだ。左派が、右派大統領を追放したという感覚であれば、韓国は救われまい。文在寅前大統領は、「平凡な市民たちの巨大な連帯が成し遂げた勝利」と喜んでいるが、この事件を引き起した責任の一半は左派にもあるからだ。そういう認識を欠いて左派が喜んでいれば、韓国の分裂をさらに深めるであろう。これが、4回目、5回目の大統領弾劾事件を引き起すであろう。

    (2)「チャ氏らは、特に韓国政府が経済に対し楽観している点を指摘した。チャ氏らは、「韓国政府は2004年の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領弾劾と2016年の朴槿恵(パク・クネ)大統領弾劾当時の経済関連成果を提示して、現在のガバナンス危機から韓国経済が回復力を維持できると自信を示している。こうした評価は投資家に信頼を与えるためのものだが2つの理由でむしろ逆効果を呼ぶ」と指摘した。最初の理由では「経済に対する誤った信頼を投影すれば政治家らに自己中心的内部闘争から抜け出し効果的ガバナンスに戻る最も速く効果的な道を探させる圧迫が失われる」とした」

    左右両派は、今回の事態を重く受止めて会談を開くなど対策を立てるべきである。現状は、互いに「流言飛語」の渦中で、相手陣営を非難して「満足」している状態だ。

    (3)「また、「中国の経済成長と半導体輸出実績が、弾劾危機から韓国を回復させるのに助けになった2004年と2016年と違う。尹大統領弾劾をめぐる現在の経済状況は、はるかに不利だ」と評価した。チャ氏らは韓国の現在の経済状況に対し、「欧州と中東で行われる2つの戦争、停滞する中国の経済成長、差し迫る米国の関税、半導体輸出統制などがある。時間(早急な収拾)は政治的危機を解決するのに絶対的に重要だ」と強調した」

    韓国経済は過去、中国への輸出で経済危機を乗り越えてきた。だが、この便法はすでに消えている。中国の安値輸出攻勢にさらされているからだ。経済の立直しには、政治不安を早急に払拭することである。それには、国会で最大議席を占める野党「共に民主党」が率先すべきは、与党と協力して残された議案を審議して早急に成立させることだ。勝ち誇った態度で横柄な姿勢をみせれば、国内政治不安は消えるどころかさらに激化するだろう。



    サムスン衰退の引き金
    日本半導体復活への証
    TSMCは日本を軽視
    韓国経済は漂流化危機

    韓国経済は、24年12月3日の大統領「非常戒厳」によって、政治も経済も止まったのも同然な状況に陥っている。現職大統領の弾劾訴追は、今回を含めて3回目という異常事態で1月15日には「内乱罪」容疑で尹錫悦大統領が拘束された。韓国民主主義の本質が問われている事態だが、左右両派の対立は一段と先鋭化している。経済的混迷は、今後も不可避の状態だ。

    こうした背景による経済の停滞は、一時的な状況で終るであろうか。実はここ30年ほど、韓国経済を牽引してきたサムスン半導体が、技術的な壁によって付加価値の高い非メモリー半導体が挫折する事態に見舞われている。最先端半導体「5ナノ」で、歩留まり率が20~30%と超低率にとどまり大赤字状態である。製品の70~80%が不良品という最悪事態だ。サムスンは、操業するほど赤字を作ることから、先端半導体から「撤退姿勢」をみせている。

    その象徴的な事例は、米国テキサス州での半導体工場建設において、米政府から補助金支給過程で明らかになった。当初計画では、2026年から「2ナノ」工程を稼動するとして、最大64億ドル受け取る見返りに、400億ドル以上を現地に投資する見込みであった。これが、最終的に26%減と大幅に縮小され約47億4500万ドルの補助金で本契約を結んだ。サムスンが、最先端半導体生産を確約できなかった結果である。

    サムスン電子ファウンドリー事業部のハン・ジンマン事業部長は24年12月、職員に電子メールを送った。その内容は、「他の大型メーカーに比べて技術力が劣ることを認めなければならない」とし、「成熟(旧型)ノード(工程)の事業化拡大のためのエンジニアリング活動に努めてほしい。新たな顧客の確保に全力を傾けなければならない」と苦悩に満ちたものだった。サムスンは、台湾のTSMCと並ぶ世界的半導体企業でないことを自ら明かしたのである。

    サムスン衰退の引き金
    サムスンは、技術の壁によって成熟半導体メーカーに止まらざるを得ないと宣言したが、なぜこういう事態に陥ったのか。それは、サムスン半導体が日本半導体技術を「窃取」して始まった、沿革史まで遡らなければならない。サムスンは、日本半導体技術者を高額アルバイトでソウルへ招き、技術を伝授させたのだ。非合法なもので、日本企業へ正式なロイアリティーを払うことはなかった。

    こういう形で始まったサムスン半導体が、メモリー半導体は生産できても、技術的に一段上の非メモリー半導体に手が届かなかったのも当然であろう。技術的蓄積がないからだ。

    サムスンの技術的脆弱性は、これまで30年以上も改まることなく推移してきた。これ自体が驚きで、サムスン技術陣の「不勉強」を証明している。これは、木造船から鉄鋼船へ飛躍できないようなケースであろう。サムスンは創業以来、必要な技術を外部から導入すれば事足りるとするのが基本方針である。サムスンの出自は商社だ。これが、「必要な技術は仕入れる」という感覚なのだろう。これが、サムスンの半導体寿命を縮めた。非メモリー半導体製造を諦めたからである。

    サムスンが、メモリー半導体から非メモリー半導体へ技術的に発展できなかった「壁」とはなにか。それは、製品歩留まり率に現れている。メモリー半導体の製造過程は平易であって、歩留まり率は平均70%とされている。これが、非メモリー半導体になると、製造過程が途端に複雑化する。サムスンの「5ナノ」歩留まり率は、20~30%と推測される。これでは、ビジネスとして成立しないのだ。ライバルのTSMCは、70%見当とみられている。大きな差なのである。

    日本の半導体産業は、日本製造業の歴史から分るように、高い品質と生産効率の追求が求められてきた。そのため、技術開発とともに、歩留まりを如何に向上させるかが、企業戦略の重要な柱の一つとなっている。先端技術を駆使した製造プロセスの最適化、微細な欠陥を検出するための高度な検査技術の開発などが挙げられる。

    ラピダスは、「2ナノ」操業開始1年で80~90%の歩留まり率が見込める状況だ。前工程と後工程を全自動化できた結果である。この事実が、世間では全く知られていない。TSMCの歩留まり率を抜く見通しであることが、さらに正しい「ラピダス認識」を妨げている。TSMC幹部ですら、ラピダスを「実験企業」程度で軽視しているから驚く。かつてのサムスン同様に、TSMCもすでに「天狗」になっている気配だ。

    要約すると、日本半導体は重電機や通信機のメーカーが手がけた関係で、高い品質と生産効率の維持を最大の目標にしている。サムスンには、幅広い製造業発展の歴史がない韓国という「荒野」の中で、ぽつんと始まった企業だ。関連産業が皆無である。日本は、半導体製造装置・素材など関連産業がワンセット揃っている。半導体製造の環境が、全く異なるのだ。

    こうした良好な環境から生まれた日本半導体と、関連産業のないサムスン半導体では、製造環境が100%異なる。サムスンは、製造業の歴史のない韓国で、宿命的ハンディキャップを背負っていたのである。ただ、残念ながらその自覚がなかったのだ。

    サムスンが、非メモリー半導体を諦めざるを得ない背景には、韓国経済の前近代制が抱える限界による面も確かにある。TSMCは、このことに気づき日本へ接近して熊本工場を建設。筑波に研究所まで開設済みである。日本製造業が、蓄積する高い成果を利用しようとしているのだろう。IBMも日本製造業の高い水準を理解して、「2ナノ」技術をラピダスへ移植した。(つづく)

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    尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が、「非常戒厳」宣言を発したことから、内乱容疑などで15日、尹氏の身柄が拘束された。現職大統領の身柄拘束は憲政史上、初めてである。世界中が韓国政治の未成熟さを見せつけられたであろう。不幸な事態だ。非常戒厳宣言を発して軍隊を動かしたことが内乱容疑とされている。ただ、この事件の背後には、韓国政治における左右両派の抜き差しならぬ対立がある。この点を見過ごして現象面だけをみていると大きな誤りとなろう。

    『中央日報』(1月14日付)は、「韓国、弾劾後にも変化がなければ」と題するコラムを掲載した。筆者は、康元沢(カン・ウォンテク)/ソウル大政治外交学部教授だ。

    世間を揺るがした戒厳事態に対する問責で尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の弾劾訴追案が可決されてから1カ月が経過した。ひどい政治が生み出した混乱だが、実際、政治は以前とほとんど変わっていない。2つの巨大政党はこのような危機状況でもむしろ政派的利益ばかりを追って見苦しく争っている。これに便乗した敵対と憎悪、分裂の政治が路上を埋めている。状況は悪化するばかりで、彼はいったいどういう考えでこうした事故を起こしたのか、理解しがたい。

    (1)「今回の事態を見てつらく思うのは、いかなる形で終わっても韓国の政治は今後も何も変わらないという点だ。2016年には朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾が終われば危機が終わり、とにかく新しい政治秩序につながるという希望を多くの人たちが抱いていた。しかし今回の事態ではそのような期待感が生じない。憲法裁判所で弾劾が当然認容されると期待するが、仮にそうでない場合、全国は深刻な混乱に陥ることになるだろう。国民の大多数がその適法性と権威を認めない大統領が2年余り統治する場合、国は一日も穏やかな日がないはずだ。弾劾が、認容されるとしても昨今のこの事態を招いた根源的問題を解決し、新しい政治の出発点になるとは期待しがたい」

    朴槿恵氏の弾劾後、韓国政治は制度的改革を行わなかった。左派は、念願の権力を握って「反日」に勤しんだ。韓国政治は、「恨み辛み」を晴らす場になっている。

    (2)「多くの人たちの予想通り弾劾が認容され、早期大統領選挙が実施されれば、誰かが大統領に選出されるが、顔が変わるだけで政治状況は以前と変わらないと予想される。当選した大統領は得票率が50%にもならず、またライバル候補との差がわずかであっても、国民が自分に100%権力を委任したと受け止めるだろう。勝者独占の政治が再現されるということだ。さらに巨大議席で議会を掌握した政党が帝王的と呼ばれる大統領まで輩出すれば、深刻な権力集中が生じる。こうした状況はまた別の葛藤を生み出すはずだ。半面、敗れた候補の支持者は以前に尹大統領にそうしたように、当選直後から大統領を弾劾するために虎視耽々とその機会を狙うはずだ」

    最大野党「共に民主党」が、次期大統領を当選させれば、巨大議席を利用して帝王的政治を始めるであろう。

    (3)「任期初期には、世間がすべて自分を支持するように感じるが、任期中班になると大統領の支持率は落ち、その時に選挙を迎えれば大統領と与党は苦戦する。その選挙で敗れれば大統領は政治的に窮地に追い込まれ、統治力も弱まる。さらに国会議員選挙で敗れて少数与党政局になれば、野党は共に民主党が昨年見せたのと同じ形で大統領に圧力を加えるだろう。実際、民主化直後の1988年の第13代国会以降、少数与党が頻繁に生じたが、それが政局の破綻にまでつながることはなかった。これは野党が大統領と与党の政策主導権を認め、自身の役割を政府-与党を批判して牽制することにとどめていたからだ。このため大統領の人事に問題があっても国務委員解任建議案を可決する程度であり、予算案も大統領の公約のような象徴的政策を政治争点化して一部削減する水準だった」

    過去の韓国政治史をみて、現在の最大野党は異質の動きをみせていた。大統領の弾劾に早くから動いていたからだ。これは、李在明代表が刑事被告人であるため、自分が早く大統領に就任したいという焦りが生んだ「暴走」であろう。韓国政治混乱の責任は、李氏にもあるのだ。

    (4)「昨年、野党はこうした自制力を失った。野党は自らが望む政策を立法化し、解任建議案でなく多くの弾劾で大統領、そして司法府の人事権に圧力を加えて介入した。予算案も象徴的な水準でなく、一部の項目はすべてなくす水準でその威力を発揮した。野党が牽制と批判を越えて国政を主導するもう一つの権力として登場したのだ。大統領と議会が国政の主導権をめぐって互いに争う韓国の政治史で初めての状況が発生した。そしてその争いは大統領の軍動員と議会の弾劾という極端な形で終わった。今後、少数与党になれば、いつでも政局の主導権をめぐる両機構間の深刻な争いが再発しかねない。議会を掌握した野党がその力を自制せず、その結果、大統領と議会の力比べが今回のような破局的な状況にまでつながるということだ」

    このパラグラフは、今回の韓国政治大混乱の原因が、野党にもあることを鋭く指摘している。

    (5)「結果的に我々はこうした騒ぎを経験しても何も変えられず以前と同じ対立と葛藤の政治の中にまた入ることになる。ただ、無謀で時代錯誤的な決定をした一人をその場から追い出すことで終わってしまい、こうした事態をもたらした我々の政治の慢性的弊害は何一つ解決されない。子どもが幼い時に痛みを経験すれば後に成長する姿を見ることができるが、我々はこうした大きな痛みを経験しても改善が見られないという事実はさらに苦痛だ。いつまでこのような政治に耐えて生きなければいけないのだろうか。これ以上は機能しない87年の政治システムを本当に改めるべき時を迎えている」

    韓国が、制度改革に対して極めて消極的であるのは、既得権益への憧れが類い希なほど強い社会特性による。今後も、こうした不幸が続くのであろう。

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    インテルはかつて、米国を代表する革新的大企業として栄華を極めた。だが今は、収益を確保する上で不可欠な複数の分野で市場シェアを失いつつある。競合相手は数多く、AI(人工知能)業界の巨人エヌビディアだけでなく、より小規模なライバル企業、さらにはマイクロソフトのような、かつて蜜月関係にあった企業とシェア争いを演じているのだ。

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月9日付)は、「インテルの問題、言われる以上に深刻」と題する記事を掲載した。

    不穏な兆候の一つは、長年インテルの後塵を拝してきた米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)が、データセンター向け半導体の売上高でインテルを逆転したことだ。両社の最新の四半期決算で明らかになった。2022年にはインテルの同売上高は、AMDの3倍だったため、驚くべき逆転劇と言える。

    (1)「AMDなどは、世界最先端・最高性能の汎用チップ(CPU=中央演算処理装置)を製造するというインテルの主力事業に大きく食い込んでいる。さらに悪いことに、データセンター向け半導体に画像処理半導体(GPU)が占める割合がますます高まっている。インテルはこのようなハイエンド半導体市場でのシェアがごくわずかだ。GPUはAIの学習・運用に利用されている。AMDのマーク・ペーパーマスター最高技術責任者(CTO)によると、同社はチップに投入されるエネルギー単位当たりの性能という極めて重要な指標に焦点を当てることで、サーバーの市場シェアがほぼゼロだった状態から現在の優位な立場に至った。データセンターに必要なエネルギーが一段と増えていくにつれ、この効率性重視の姿勢がAMDにとって重要な優位性となっている」

    AMDは、AI時代に合わせた半導体を供給することでインテルの主力事業へ食い込んでいる。ほんのここ2~3年の激変期に、インテルは乗り遅れるという致命的なミスを冒した。サムスンとよく似ているのだ。

    (2)「注目すべきは、インテルがデータセンター向けCPUの市場でなお約75%のシェアを保持していることだ。この数字と、データセンター向けの広範なチップ販売による売上高シェアとの乖離は、同社が根本的な問題を抱え、それが運命の反転を引き起こしていることを如実に示している。この状況は悪化する可能性が高く、しかも急速に進みそうだ。新たなデータセンターの構築に巨額投資を行っている企業の多くが、インテルの独自アーキテクチャー「x86」とは無関係のチップに切り替えており、代わりに英半導体設計大手アームの競合アーキテクチャーと各社独自のカスタムチップ設計の組み合わせを使用している」

    インテルは、データセンター向けCPUの市場でなお約75%のシェアを握っていながら凋落している。これは、猛烈な勢いでインテル製品が他社製に置き換えられているという意味だ。

    (3)「開発者がインテル製半導体向けのソフトウエアを書くのに費やした数十年間は、インテルの市場シェアが縮小しても同社が巨人であり続けることを意味する。その遺産によってインテルは今後の減収スピードを抑えられるだろう。アナリストらは、インテルの2024年の売上高が約550億ドルと、エヌビディアの約600億ドルをわずかに下回る程度だったと推定している。インテルは今なおデスクトップ・ノートパソコン向けCPUの市場シェアの大部分を握っており、調査会社マーキュリー・リサーチによると、全体で約76%を占める」

    インテルは、デスクトップ・ノートパソコン向けCPUの市場シェアで約76%を占める。「インテル入っている」というCMが作られているほど圧倒的である。だが、AI半導体では完全に出遅れいる。

    (4)「インテルが直面する課題の具体例として、世界最大のクラウドコンピューティングプロバイダーである米アマゾン・ドット・コムを見てみよう。アマゾンのデーブ・ブラウン副社長(コンピューティング・ネットワーキングサービス担当)は最近、過去2年間に自社データセンターに設置したCPUの半分超が、アームのアーキテクチャーに基づくアマゾン独自のカスタムチップだったと述べた。このようにインテル製品を置き換える動きは、クラウドコンピューティングサービスの大手プロバイダーやユーザーの間で広範に繰り返されている」

    アマゾンのデータセンターに設置したCPUの半分超が、アームのアーキテクチャーに基づくアマゾン独自のカスタムチップに置き換えられている。インテルは、技術革新に乗り遅れたのだ。

    (5)「これらの企業は全て、AIワークロード向けに独自のアームベース・カスタムチップも製造しており、インテルはこの分野でほぼ完全に出遅れている。そして、AI業界の巨人エヌビディアがいる。エヌビディアの現行世代AIシステムの多くにはインテル製CPUが搭載されているが、エヌビディアの最先端ハードウエアではアームベースのチップがいっそう中心的な役割を果たすようになっている」

    AI時代の到来を見誤ったのは、インテルだけでない。サムスンも同じである。

    (6)「インテルの元CEOであるアンディ・グローブ氏は、1988年に出版した著書『パラノイアだけが生き残る 時代の転換点をきみはどう見極め、乗り切るのか』で、企業がどのようにして次に来るものを警戒し、自らを破壊し、新しい技術を追求していくべきかを論じた。これは全ての企業に向けられた警鐘だったが、その後、インテルの現在の苦境を示唆する予言となった」

    技術進歩に対する「パラノイア」(偏執症)でなければ、技術進歩から取残される。日本製造業には、このパラノイアが生き残っているとの学術的研究がある。

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