勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    韓国は、儒教社会ゆえに「長幼の秩序」が厳格である。企業で、先輩が後輩の部下になることなどあり得ない。先輩は永遠に先輩であり、後輩の下風に立つことはメンツが許さないのだ。こういう年功序列が、技術漏洩の動機になっている。出世できなかった恨みとして、会社に機密情報を持ち出し漏洩させるのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月26日付)は、「サムスンなど技術流出、5年で96件 中国に漏れる競争力」と題する記事を掲載した。

     

    サムスン半導体部門の元常務(66)らが半導体工場の図面資料を入手して中国に流出させた。検察は韓国の産業技術保護法違反にあたるとして2023年6月に元常務ら7人を起訴した。

     

    (1)「元常務はサムスン退職後、ライバルのSKハイニックス(当時はハイニックス半導体)に移って最高技術責任者(CTO)まで務めた人物だ。中国・陝西省で半導体工場を建設するために、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業から8000億円規模の資金を受ける約束を交わしていた。さらに200人ほどの韓国人技術者を採用していたとされる。半導体が米中対立の焦点となり、鴻海は資金拠出を断念して計画は頓挫した。中国に台湾資本によるサムスンのコピー工場が稼働していた可能性もある。3月20日の第9回の公判まで被告らは一貫して無罪を主張し、裁判の行方は見通せない。国家が技術者の外国就業を制限できるのかといった論点も浮上している」

     

    サムスン出身の元役員は、鴻海からの出資によってサムスン中国半導体工場の近くに、全く同じサイズの半導体工場を建設する計画であった。これが現在、技術漏洩で裁判が行われている一件である。

     

    (2)「サムスンは技術流出に目を光らせてきた。社内の複合機で使う印刷用紙には特殊な金属箔を埋め込み、情報を印刷して持ち出そうとするとゲートで探知機が作動する。新型コロナウイルスの感染拡大期でも技術職の在宅勤務を認めなかった。それでも転職者などを介しての技術流出は止まらない。米政府主導で対中包囲網が狭まり、正攻法で技術の蓄積が難しくなった中国企業が暗躍しているためだ」

     

    サムスンは、技術流出阻止に全力を挙げている。かつてサムスンは、日本の半導体技術者をソウルへ招き、「闇アルバイト」という形で直接指導を受けた。こういう「のどかな時代」と異なって、現在の中国はスパイもどきの戦術を使ってくる。油断も隙もならないのだ。

     

    (3)「韓国産業通商資源省によると、23年まで過去5年間で半導体や電池、有機ELパネル、造船分野など産業技術の海外流出案件は96件にのぼった。うち半導体は38件と最も多く、ディスプレー(16件)、自動車(9件)が続く。流出先の大半は中国だ。所属企業で出世競争に敗れた技術者らが中国に渡る。液晶パネルで世界首位に立った京東方科技集団(BOE)は100人超の韓国人が在籍し、有機ELパネルの技術開発を担った。摘発された技術流出は「氷山の一角である可能性が高い」(同省関係者)」

     

    韓国技術漏洩先の大半は、中国である。韓国技術者を大量に採用して、ノウハウを習得している。

     

    (4)「韓国が、基幹産業と位置付けてきたディスプレーや造船、石油化学、電池、鉄鋼など幅広い産業で中国企業が世界首位に立つ。国家主導で規模拡大にまい進する中国製造業と同じ土俵で戦っていては勝ち筋が見えない。韓国の貿易統計には長期停滞の予兆が表れる。最大貿易相手国である中国向けの輸出23年に1248億ドル(約19兆円)で、前年比20%減と過去最大の減少幅を記録した。半導体不況や中国の景気低迷という要因もある。それでも自動車や鉄鋼、化学などで中国企業が技術力を高め、韓国製品を必要としなくなった構造変化は見逃せない」

     

    中国と韓国の産業構造は極めてよく似ている。だが、これまでは相互補完であった。現在は競争関係へと変わっている。中国の技術力が上がってきたからだ。違法な摂取方法であろうと、韓国の技術をマスターしている。

     

    (5)「弘益大学のシン・ミンヨン教授は「中国が質的な経済成長をなし遂げたため、韓中は補完関係から競争関係へと変貌した」と指摘する。韓国では労働組合を支持基盤とした文在寅(ムン・ジェイン)前政権下で法整備された「週52時間労働」によって仕事への姿勢、働き方が大きく変わった。財閥大手の幹部は「働く意欲を持つ若手には帰宅を促さなければならず、定時帰りに慣れて『時間を会社に売る』意識も根付いてしまった」と話す。かつての出世競争を戦い抜く「モーレツ文化」は様変わりした」

     

    「週52時間労働」は、韓国の長時間労働を是正する手段であったが、弾力的な運用ができず、「紋ギリ型」になっている。繁忙期に残業時間を延長することが困難になっているからだ。

     

    (6)「輸出産業を多く抱える財閥企業の競争力が低下すれば韓国経済も減速する。23年の国内総生産(GDP、実質ベース)成長率は1.%にとどまり、日本の成長率(IMF見通しで2.%)を25年ぶりに下回った。1970年代から急速に経済発展を遂げた韓国も成長率12%の停滞期に入ったとみるアナリストも多い。日本以上に少子高齢化が進む5170万人の内需は力強さを欠き、このままでは2020年の名目GDP世界10位をピークに後退していく懸念もある」

     

    韓国経済は、技術的な行き詰まり問題も抱えている。GDP世界10位が、韓国の最高位であってこれからは、13位以下に落ちる可能性が強まっている。

     

     

    テイカカズラ
       

    企業経営では、「三代目」はリスクを伴うものとされる。日本には、「売り家と唐様で書く三代目」という言葉がある。初代が苦心して財産を残しても、3代目にもなると没落してついに家を売りに出すようになる。その売り家札の筆跡は唐様でしゃれているというのだ。 

    韓国サムスン電子が、まさに「三代目」である。二代目の猛烈経営者であった李健熙氏の後を受けた三代目の李在鎔氏は、朴槿恵大統領(当時)の失脚に絡む贈賄罪で長く被告の身であった。これが、経営の空白を生んだのだ。 

    『日本経済新聞 電子版』(3月25日付)は、「サムスン、細る先代の遺産『前例ないとGo出せない』」と題する記事を掲載した。 

    サムスンで働く30代の研究開発職の社員は、昨秋に直属の上司に告げられた言葉が忘れられない。「その改善案に前例はあるのか、そうでなければGoサインは出せない」。この社員は製造工程での歩留まり(良品率)改善のアイデアを「前例がないからこそ挑戦したい」と訴えたものの、役員の耳には届かなかった。

     

    (1)「サムスンの常務以上の役員任期は1年だ。短期間で成果を出さなければ再契約はない。出世競争の中で役員らは短期成果を求め、現場の技術者らが腰を据えて研究開発に挑む気風は乏しい。サムスンもまた「大企業病」を患っている。そんなサムスンに見切りをつけて、ライバルのSKハイニックスに転じる技術者もいる。エリートぞろいで失敗を過度に恐れるサムスンに対して、SKは「新しいアイデアも積極採用しないとサムスンと渡り合えない」(技術者)ため現場発の挑戦を推奨する社風がある。この企業文化が花開いたのが、人工知能(AI)浸透で需要急増中の「広帯域メモリー(HBM)」と呼ばれる次世代DRAMだ。SKはAI半導体で独走体制を築く米エヌビディアと関係を深めてHBMでサムスンに先行した」 

    常務以上の役員任期は1年では、中長期の経営方針は出るはずもない。しかもトップが、長く被告の身である。サムスンの経営が10年間、横ばいであったのは当然であろう。 

    (2)「AIブームを読み誤ったサムスン社内の動揺も大きく、23年7〜9月期はSKに追い上げられた。10〜12月期は巻き返しに向けた大号令がかかり、在庫を吐き出してシェアを取り戻したものの、かつてのメモリー王者の余裕はなくなった。競争力の低下は半導体メモリーに限った話ではない。スマートフォンでは10年以上堅持してきた世界首位の座(出荷台数ベース)を23年にアップルに明け渡した。自社スマホの出荷低迷は、部品供給を担う半導体やディスプレーなど他部門の販売減にもつながる」 

    サムスンが、AIブームの見誤りをしたのは決定的なミスであった。これが、半導体戦略の躓きの原因になった。スマホでも高級化路線の定着で、サムスンはアップルの後塵を拝する結果になった。

     

    (3)「受託生産などのシステム半導体は、19年時点で「2030年世界首位」を掲げたが、TSMCの背中は遠のく。米政府の国産回帰策に呼応した米インテルも受託生産の本格展開を表明しており、2位サムスンが追われる立場となる。家電とディスプレーは中国の競合企業がシェアを高めており、サムスンの主力4事業(スマホ・半導体・家電・ディスプレイ)の収益力がじわじわと弱まっているのが現状だ」 

    非メモリー半導体メーカーのTSMCは、業績が絶好調である。日本へ工場進出するなど、日台を基盤にして、次の発展を目指している。サムスンは大きく水を開けられている。 

    (4)「かつてのサムスンは、「日本に学べ」が経営戦略の軸だった。ただ00年代にテレビや半導体、ディスプレー、携帯電話で日本の電機大手を打ち負かし、世界トップに駆け上がったことで手本となる先行企業を失った。先代の李健熙(イ・ゴンヒ)前会長が率いたサムスンは既存事業を「種」「苗木」「古木」などと分類し事業刷新を繰り返して成長を続けた。10年には「10年後、現在の事業がすべて市場から消える」と訴えて社内に危機意識を植え付けようとした。もっとも同氏が育てた4事業体制は有効だ。問題は、事業構成の変化が乏しい点にある。14年、李健熙氏が病に倒れた後の10年間で、サムスン電子の売上高と営業利益はほぼ横ばいとなってしまった」 

    李健熙氏が、病に倒れた2014年以降、サムスンは業績横ばいという「停滞局面」に陥っている。

     

    (5)「2014年5月に李健熙氏が心筋梗塞で倒れ、急きょ代役を務めることになった長男の李在鎔(イ・ジェヨン)現会長。医薬品の受託生産事業の育成に注力し、16年に米車載部品メーカーの買収を決めるなど変革を模索してきた。しかし、17年の韓国の政権交代後に贈賄罪や資本市場法違反などに問われて逮捕・収監された。拘束は計1年半に及び、その後も裁判対応に追われて思うように経営を主導できなかった。242月には最後に残る裁判の一審判決で無罪となり、司法リスクからようやく解放されるメドが立った。李会長が実質トップとなって間もなく10年。幹部人事を掌握し、自由に差配できる条件が整いつつある。裁判の最終尋問では「サムスンを世界一流企業に跳躍させるためにすべてを尽くす」と誓った。売上高50兆円規模の巨大財閥の浮沈が双肩にかかる」 

    李在鎔氏は、前会長に比べて性格的に荒々しいことは不向きに見える。この経営者のもとで、サムスンは難局突破ができるのか。

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    米国は、半導体で中国包囲網を強化している。半導体製造設備では、日本やオランダに対して先端半導体製造設備禁輸のほかに、過去に輸出した装置のメンテナンスや部品供給も中止するように迫っているほどだ。こういう流れの中で、韓国へも厳しい対応を求めている。韓国は、半導体製品輸出の4割(2022年)が中国だ。それだけに、苦しい立場に追込まれている。

     

    韓国通信社『聯合ニュース』(3月13日付)は、「半導体『中国包囲網』に韓国も参加検討打撃懸念も米の圧力強まる」と題する記事を掲載した。

     

    米国は2022年10月、自国企業に中国への半導体関連の輸出を制限する規制措置を取った。米国のように半導体製造装置で高い技術を持つオランダや日本にも中国への輸出規制を求めた。

     

    (1)「聯合ニュースが取材したところ、米国が昨年後半以降、韓国に対しても圧力を強めていることが分かった。消息筋の話によると、最近では韓国の特定の企業名も挙げながら中国向け半導体製造装置輸出を問題視している。米商務省と韓国産業通商資源部はこれに関連した協議を今年2月にも行ったばかりだ。消息筋は「ワシントンとしては韓国が半導体技術の対中輸出規制の穴になるのではないかという懸念がある」と伝えた」

     

    米国主導による半導体製造設備の対中輸出規制が、韓国にも及んできた。韓国の半導体製造設備は、まだ初歩的段階である。米国は、それでも目を光らせている。

     

    (2)「米国は、自国同様に韓国に対しても立体構造トランジスタ(FinFET)技術などを用いたロジックチップ回路線幅18ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下のDRAM128層以上のNAND型フラッシュメモリー――を生産できる装置・技術の中国向け販売について事実上の禁止を望んでいるとされる。別の消息筋によると、韓国企業が実際にこうしたレベルの装置を中国に販売しているかに関しては韓米の見方に違いがあるものの、米国は韓国企業の将来的な技術発展の可能性も念頭に置いている。韓国政府の反応について同筋は、「米国の立場は十分に理解するが、国益の観点からすると米国の要求を全て聞き入れることが正しいのか、悩んでいる」と話した。決定には至っていないながら、米国の要求を「ある程度」聞き入れる方向だと伝えた」

     

    韓国は、18ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下のDRAM輸出へも規制の網がかかりそうだ。このレベルは、「レジェンド半導体」と称される旧世代に属する。米国がここまで神経を使っているのは、中国が旧世代設備を使って、先端半導体を作り始めていることへの警戒である。

     

    (3)「韓国政府をためらわせるのは、対中輸出規制が韓国半導体産業の競争力に及ぼす影響の大きさだ。韓国企業が生産する半導体製造装置の技術レベルは米国や日本、オランダには及ばないとはいえ、主要市場の中国への輸出が規制される場合、韓国の半導体製造装置産業の自立化を妨げかねない。米国の産業団体は、米政府の輸出規制により中国市場から米国企業が抜けた穴を韓国などの競合他社が埋めていると主張。米メーカーが半導体製造装置の販売競争で不利な立場に立たされているとし、韓国や台湾なども米国と同じ品目・形式で輸出を規制する必要があると米商務省に1月に申し入れた。韓国側はこれが米政府の政策に反映されることを危惧する

     

    米国の半導体製造設備メーカーは、自国だけが厳しい対中輸出規制を受けている中で、韓国や台湾の企業が「放置」されていれば不利になると危惧している。

     

    (4)「韓国の半導体製造装置メーカーの競争力は、その装置を購入する韓国半導体大手サムスン電子とSKハイニックスのコスト競争力にも直結する。韓国政府としては対中輸出規制に慎重にならざるを得ない。中国の華為技術(ファーウェイ)は昨夏、先端半導体を搭載した新型スマートフォンを発売した。これに衝撃を受けた米国が汎用品の半導体製造装置まで輸出規制対象に含めるなど規制を強化する場合、韓国半導体産業へのさらなる打撃は避けられない。一方で、中国への輸出規制は同国半導体産業の成長の抑制につながり、追い上げる中国を振り切りたい韓国にとって長期的にはプラスになるとの見方もある

     

    韓国はジレンマに立たされている。中国へ製造装置の輸出をしなければ、中国企業との技術格差が広がって、さらに有利な立場を維持できるというメリットだ。

     

    (5)「米国は、中国に関しても半導体や人工知能(AI)など先端技術を持つ同盟国が、別途に輸出規制体制を持つ必要があると主張している。韓国の政府内外では、米中の技術覇権争いが一時的な現象でなく構造的要因になりつつあり、半導体産業での米国の影響力を考慮すると、形式はどうあれ韓国が半導体製造装置の対中輸出規制に参加するのは時間の問題という見方も出始めている」

     

    結局、韓国は米国の要請に応じるほかないという見方も出ている。半導体の基本特許は、ほとんど米国が握っている。これが、米国の強みである。

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    日本の半導体国策会社ラピダスが、最先端半導体「2ナノ」(10億分の1メートル)の製造を手がけていることに、韓国メディア『朝鮮日報』記者が「疑問」の声を投げかけている。これまでの日本が、40ナノの半導体までしか製造した経験がないので、「2ナノ」は無理という前提である。だが、日本の半導体は1980年代後半まで、世界半導体の5割のシェアを占めた実勢を持つ。半導体製造設備・半導体素材を一貫生産している世界で唯一の国である。その潜在的能力は、決して韓国に引けを取らないだろう。 

    『毎日新聞』(3月24日付)は、「『ラピダス』が背負うリスク、日本国民は理解しているか」と題する記事を掲載した。筆者は、朝鮮日報東京支局長の成好哲記者である。 

    「ラピダス」。周りの日本人にこの会社の話を持ち出すと、ほとんどの人が知らない。関心すら示さない。それは、日本の国会議員でも大差なかった。「半導体会社ですよね」という薄い反応だ。質問を変えてあれこれ聞くと、ようやく関心を示してくる程度だ。

     

    (1)「ラピダスは2022年11月、トヨタ自動車、NTT、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、キオクシア、NECの7社がそれぞれ10億円、三菱UFJ銀行が3億円を出資して設立した民間の半導体会社だ。日本政府はこの新生会社に補助金3300億円を投じ、さらに国の基金に最大6773億円が積み増される。合わせて1兆円余の資金を日本の人口で単純に割ると、1人あたり8000円強負担することになる。4人家族なら3万2000円つぎ込む計算だ」 

    政府の補助金目的は、ラピダスによって新規雇用が生まれることだ。地域の賃金水準を押し上げる効果もある。日本経済の成長に重要なテコ入れだ。同時に、新しい技術の伝播効果もある。最先端半導体の供給によって新産業が生まれる可能性だ。 

    (2)「ラピダスは今後4兆円の資金が必要だが、これも日本政府が負担する可能性が少なくない。ラピダスに出資する民間投資家がほとんどいないからだ。ラピダスの目標は、27年初めに最先端レベルの回路線幅である2ナノメートル(ナノは10億分の1)の半導体を生産することだ。半導体工場の設立及び量産にかかる総費用は約5兆円の見通しだ。23年9月、北海道千歳市で工場起工式が行われた。岸田政権は「半導体の復権を導く会社」と補助金支給の理由を説明するが、失敗するリスクが伴う大きな挑戦だ。国家予算1兆円がかかったプロジェクトであるにもかかわらず、国会で主要争点になっていないのは不思議だ」 

    記事では、失敗のリスクを指摘している。日本の半導体産業が、総合的に世界トップの位置にあることを忘れては困る。日本にとっては、後発のサムスンやTSMCに可能なことが、日本で不可能であろうか。

     

    (3)「匿名を求めた韓国のある半導体専門家は、ラピダスが成功するかどうかについて「不可能ではないが、四つの壁をすべて乗り越える必要がある」述べた。一番目は、ラピダスには2ナノ技術がないため米IBMと提携しているが、その水準がTSMCやサムスン電子に追いつかなければならない。しかし、もともと半導体製造企業ではないIBMの2ナノ技術はまだ実験室レベルで、製造現場では検証されていないという。TSMCとサムスン電子の量産水準でも現在3ナノ台だ。ラピダスが2ナノの生産ラインを実現するかは未知の領域だ」 

    日本半導体が、グローバル経済下で大きく出遅れたのは事実だ。だが、これからは地政学リスクが全面化して保護主義の時代に移る。世界の半導体研究所が、一斉に日本支援で体制を組んでいる事実を認識すべきだ。IBMのほかに、ベルギーの半導体研究開発機関であるimec(アイメック)と提携している。ラピダスや東大など国立大学、理化学研究所が参画する研究機関「最先端半導体技術センター(LSTC)」と、フランスのLeti(レティ)が昨年10月、協業検討に向けた覚書を結んだ。次世代品でも日米欧で連携し、将来のサプライチェーン(供給網)の安定につなげる。 

    (4)「二番目は、半導体の製造過程で、不良品を除いた歩留まりがどの程度かという技術力が問題だ。現在、日本で製造する半導体は40ナノにとどまっており、最先端の半導体を製造した経験が全くない。いわば、40ナノ半導体を経験した50、60代のエンジニアが独学しながら、2ナノの生産ラインを設置、運用しようとしている状況だ」 

    下線部は、全くの誤解である。全員が、米国IBMへ派遣されており、現地で新技術の研修を受けている。独学ではない。

     

    (5)「三番目は資金だ。工場設立後も、設備投資と研究開発に膨大な資金を投じ続けなければならない。TSMCとサムスン電子の設備投資額は22年、それぞれ363億ドル(約5兆4700億円)と320億ドル(約4兆7000億円)だった」 

    ラピダスは、25年に「2ナノ」試作品を発表してから、株式上場の意向だ。これで、資金調達が可能になる。 

    (6)「四番目が技術や資金よりもっと高い壁だが、顧客を得られるかだ。ファウンドリーは顧客の企業からチップ設計図を受け取り、製造して納品する企業だ。TSMCはアップルにiPhone(アイフォーン)のチップを供給している。日本には2ナノ半導体を必要とする企業がない。2ナノの顧客はアップル、エヌビディア、グーグル、マイクロソフト、クアルコム、サムスン電子のように、スマートフォンや人工知能、データセンター関連で先端を走る巨大テック企業だ。新生企業が工場を新設したからといって、大企業が取引先を変えるだろうか」 

    ラピダスは、「チップレット」と言って、異種の半導体も組み合わせる世界最先端技術でサムスンやTSMCへ対抗する。これによって、短納期を実現してユーザーを引きつけられると試算している。ユーザーにとって、ビジネスチャンスを逃さないためにも、短納期は有力な手段である。

     

    (7)「世界的ベストセラー『半導体戦争』の著者で、米タフツ大准教授のクリス・ミラー氏は米経済メディア「ビジネスインサイダー」とのインタビューで、「ラピダスは、小規模の生産でもビジネスとして成り立つということ、そのようなマーケットが存在するのだということを、身をもって証明しなくてはならないでしょう」と述べている」 

    下線部は、まさに「チップレット」という世界初の技術で開拓可能である。

     

    次の記事もご参考に。

    2024-03-07

    メルマガ547号 日本経済再生「2024年」、半導体追撃で頂点可能 秘策は「チップ

     


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    韓国は、出資と経営が同一という非近代経営である。これは、財閥と呼ばれるものだが、日本が戦後の経済民主化で捨てた制度を採用している。端的に言って「時代遅れ」であることは言うまでもない。これからの激動期に、韓国財閥は試練にさらされよう。 

    『ハンギョレ新聞』(3月22日付)は、「カリスマをまとった韓国の財閥3・4世経営実績もなく血筋だけ」と題する記事を掲載した。 

    好きか嫌いかにかかわらず、財閥グループは韓国経済で占める割合が非常に高く、その財閥グループを牛耳る存在がまさにトップだ。現在は創業主の34世たちがCEOになっている。彼らは会社を設立しておらず、起業家精神があるわけでもなく、経験が豊富でもない。しかも、激しい競争を経てCEOの座に伸し上がったわけではない。彼らが最高の地位に就くためには、厳格な評価などの手続きは別にしても、正当化できる論理は必要だ。

     

    (1)「ここで登場するのがカリスマだ。お世辞ではない。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が財閥トップたちと釜山(プサン)でトッポッキを食べたエピソードを見てみよう。サムスンのイ・ジェヨン会長は「しっ」という滑稽な表情のミームが拡散し、おでん屋の前には「イ・ジェヨン会長が立っていたところ」という表示も登場した。この些細なこのエピソードから、イ会長に人とは違うカリスマがあると考える大衆の心理がうかがえる。サムスン関係者たちが「わが会長」に対する評価をする時、他のことはともかく、「オーラ」は確実にあるという話をたびたび聞く。すなわち財閥3~4世の(地位を)正当化する根底にはカリスマがあるというのが関係者たちの言葉だ」 

    韓国左派は財閥を批判するが、一般は「名家」意識でみている。朝鮮李朝時代からの連綿として続く崇拝意識が働いているのだ。日本では戦後に、こういう「名門意識」は一掃されている。 

    (2)「カリスマCEOは、果たして企業の業績を改善するだろうか。様々な研究の結論は「断定するのは難しい」である。その中で代表的なのはカリスマのタイプによって実績改善の可能性が影響を受けるという解釈だ。過去の経営実績と華やかなキャリアなど客観的に観察できる事実に基づいて形成されたカリスマと、客観化されず漠然とした心理や期待を背景にしたカリスマはその結果も異なる可能性がある」 

    カリスマCEOは、世間がつくり挙げた虚像である。韓国は未だに、この虚像が生き延びる社会的な雰囲気が残っているのだ。

     

    (3)「財閥の3~4世トップたちのカリスマには、客観的実体があるだろうか。過去の経営実績はない。実績があっても失敗が多く、創業者の故チョン・ジュヨン現代グループ会長の苦難、逆境、失敗とは比べ物にならない。高速昇進をしても、それを34世の能力だと考える人はほとんどいない。結局、カリスマの根源は財閥家という血筋に基づいたレガシーだけだ。創業者のカリスマと34世のカリスマはその種類が違う。後者のカリスマが実績改善に肯定的な影響を及ぼすとは期待し難いだろう」 

    韓国の財閥家のルーツは、李朝時代からの大地主とみられる。サムスンは地主であった。他の財閥もルーツを辿るべきだろう。 

    (4)「問題はここにとどまらない。まず、会社の経営が危機に陥れば、間違いなくカリスマCEOを求める声が高まる。財閥でいえば、カリスマ3~4世が会長の座に就くチャンスが生まれる。危機の時に現れた最高経営者は、組織を揺さぶるものだ」 

    財閥3~4世に、経営手腕があるとは限らない。実務経験がないからだ。ただ、家柄でカリスマ性を感じるだけだ。

     

    (5)「二番目の問題点として、カリスマCEOは実績と関係なく莫大な報酬を受け取る。財閥の34世たちは典型的にカリスマに対する補償を受ける人たちだ。カリスマのある人がCEOを務めるべきだとし、超高速で会長の座までたどり着き、職級ごとに報酬を押し上げる。全知全能のスーパーマンであるかのように、複数の系列会社で役員を兼職し、報酬を重複受領する人もいる」 

    カリスマCEOは、事実上の「名誉職」である。トップとして、「座り」が良いということだろう。実務能力は、問われていないのだ。 

    (6)「三番目の問題として、カリスマCEOには大衆の関心を追い求め、会社内部に留まらない傾向がある。他の組織の仕事を受け持ったり、どこかで講演をしたりもする。最近は職務以外のことといえば、断然ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)だ。SNSを通じてあらゆることに口を出すのがイーロン・マスク氏だ。韓国ではチョン・ヨンジン会長がこのようなタイプに当てはまる。もちろん個人的あるいは社会的活動そのものが問題であるわけではない。それが行き過ぎて本業がおろそかになる時に問題が生じる」 

    カリスマCEOは、大衆人気があるから多方面へ関心を示す。それは、大衆が欲していることでもあるのだ。

     

    (7)「四番目の問題は、カリスマCEOに対する外部の評価は概して肯定的だが、問題は評価の正確性が劣るという点だ。アナリストがカリスマCEOに注目し、会社の成長可能性を肯定的に評価して投資を勧誘したものの、会社の実績が期待に及ばなかった事例は少なくない。このようなカリスマCEOに対する外部の評価とこれに基づいた生半可な予測が、財閥問題を深刻にさせる主なチャンネルの一つだ。専門家集団のほうが、一般国民よりむしろ財閥トップのカリスマを称賛する場合が多い」 

    下線部は、韓国社会の前近代性を雄弁に物語っている。「名門」をありがたがる崇拝意識が、未だにあるからだ。

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