勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ:経済ニュース時評 > 韓国経済ニュース時評

    テイカカズラ
       

    韓国総選挙は、4月10日である。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権への支持率は最近、40%台へ回復してきた。与党「国民の力」支持率も、最大野党「共に民主党」を僅差でリードするなどの変化はみられるが、薄氷を踏む状態である。総選挙で、与党が勝利を収め得られなければ、韓国は政治も経済も危機打開の道筋も求められない最悪事態へ落込むであろう。

     

    『聯合ニュース』(3月9日付)は、「韓国総選挙まで約1カ月、政権の命運分ける尹大統領の「中間評価」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権にとって今後の国政運営を左右する正念場となる総選挙が、尹大統領の就任2周年を1カ月後に控えた4月10日に実施される。今回の総選挙の意味を巡ってはさまざまな意見があるが、5年任期の折り返しを前に行われる選挙だけに「中間評価」という性格を帯びざるを得ない。さらに、今回の総選挙はそれ以上の政治的含意を持つことになるというのが政界全般の認識だ。

     

    (1)「大統領室の高官は8日、聯合ニュースの取材に対し「立場の異なる政党が多数党になり、事あるごとに衝突すれば国政は足を引っ張られるしかない」とし、「与党が勝利すれば今後の国政運営が根本的に変わる可能性がある」と述べた。尹大統領は就任後、野党が過半数の議席を握る「与小野大」の高い壁に阻まれてきた。不利な構図の中で、女性家族部の廃止など大統領選での主要公約すら守れていない状況だ。巨大野党はコメの超過生産分の政府買い上げを義務付ける糧穀管理法改正案、看護法改正案、労働組合法改正案のほか、韓国教育放送公社法・放送法・放送文化振興会法の「放送3法」改正案などの可決を主導し、尹大統領を圧迫した」

     

    韓国国会は、野党が過半数の議席を握る「与小野大」である。尹大統領は、この高い壁に阻まれて公約はほとんど実現できないままの状態だ。唯一、日韓関係が正常化しただけだ。

     

    (2)「新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)以降、世界的に景気が悪化し、ウクライナ戦争やイスラエルとイスラム組織ハマス間の衝突など大きな悪材料も重なった。さらに、北朝鮮もミサイルの発射実験や軍事偵察衛星の開発など挑発の度合いを高め、現政権を苦しめた。国政運営の両軸である多数党のバックアップも、国民からの支持も得られなかった尹大統領にとっては、文字通り「弱り目にたたり目」となった2年間だった」

     

    韓国経済は、パンデミック後の世界的な調整の波にのまれて輸出不振が続いた。こうした、不運によって、高金利下での停滞状態にある。

     

    (3)「与党はこのような二重苦を打開するため、総選挙に総力戦で挑む構えだ。総選挙で勝利すれば、これまで遅々として進まなかった尹政権の国政課題である医療・教育・労働・年金の「4大改革案」を軌道に乗せることができる。尹大統領は今月5日、今年の業務報告を兼ねて開催した国民との討論会で、企業が労働者に支給する出産支援金を全額非課税とするための所得税法改正や各種開発事業の推進を約束したが、このような国民生活・経済回復策にも弾みがつくとみられる。一方、総選挙で敗北して巨大野党との対立を続けることになれば、これまで進展のなかった国政課題は有言不実行に終わる公算が大きい。そうなれば任期後半に入る現政権の国政掌握力はさらに落ちざるを得ず、早期にレームダック(死に体)に陥る恐れもある」

     

    与党が勝利できれば、尹政権の国政課題である医療・教育・労働・年金の「4大改革案」を軌道に乗せられる。韓国が少子化で消えるかどうかの瀬戸際に追い詰められている以上、「4大改革」は不可欠である。だが、左派勢力によって阻まれている。

     

    (4)「ここで手本になるのは、任期中盤に総選挙が行われた文在寅(ムン・ジェイン)・朴槿恵(パク・クネ)両政権だ。文政権は就任から約3年後の2020年4月に実施された総選挙で、当時の与党「共に民主党」と比例向け系列政党で定数300のうち合計180議席を確保する大勝を収め、安定した任期後半を送った。文大統領退任直前の22年5月には、検察の捜査権を大幅に縮小する法案を公布して任期を終えることができた」

     

    文政権は、与党の絶対多数支配によって、文氏が退任後も捜査されないようにする万全の準備をする余裕まであった。

     

    (5)「一方、朴政権は発足から3年後の16年の総選挙で与党「国民の力」の前身・セヌリ党が第1党から転落し、党の内紛が激化。翌年の朴氏の弾劾にまでつながった。導火線となったのは朴氏の長年の知人、崔順実(チェ・スンシル)氏の国政介入事件だったが、少数与党の構図の中でセヌリ党のガードが崩れたことが決定打となった。したがって、今回の総選挙でも与野党に分かれて陣営が結集したこれまでの大統領選の構図が再現される可能性が高いとみられる。明知大の申律(シン・ユル)教授(政治学)は「与小野大になれば、(現在の)第21代国会よりさらに劣悪な環境になるだろう」と述べ、政治評論家のパク・サンビョン氏は「少数与党になればレームダック化するだろう」との見通しを示した」

     

    朴政権は、「親朴」と「反朴」がいがみ合い小数与党へ転落し、それが弾劾への引き金になった。今回の総選挙で与党敗北という事態になれば、韓国は改革もできずに落勢を強めることになろう。今回の総選挙は、韓国の未来がかかったものとなる。

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    日米韓台は、米国主導で「チップ4」として半導体において結束を強化する動きだが、韓国は孤立の方向だ。日本が、米国や台湾との関係を強化しており、日米台の連携が深まっている結果である。日本は、台湾のTSMCが熊本第1工場に続いて第2工場建設計画を発表した。日本の国策半導体企業ラピダスは、米IBMと提携して最先端半導体生産計画を着々と進めている。27年に試作品を作り29年から量産化体制へ持ち込む。韓国が、焦燥感を深めている背景がこれだ。 

    『中央日報』(3月8日付)は、「韓国半導体、油断してすべて追いつかれた」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のイ・サンリョル首席論説委員である。 

    韓国半導体の成功秘訣は大きく3つにまとめられる。スピード、投資、国際情勢。

    (1)「まず、スピード。サムスン電子の最初の半導体工場である器興(キフン)第1工場は1983年9月に着工してから6カ月で完工した。早くても1年半はかかるという通説を完全に跳び超えた。ヒーターを付けてコンクリートを乾かす奇想天外な方法まで動員された(『李健熙半導体戦争』イ・ユンウ元サムスン電子副会長回顧)。技術採択はいつも「速く、もっと速く」だった」 

    従来の韓国は、自力で半導体王国になったという認識であった。今や、危機意識を深めており、客観的に自国をみるようになっている。

     

    (2)「日米半導体協定がなかったとすれば、後発走者である韓国が日本に追いつくのは容易ではなかっただろう。米国は安保・価値同盟である日本の半導体産業を力で押さえ込んだ。日本のメモリー半導体のシェアが80%に上昇し米国代表企業のインテルがDRAM市場から撤退したころだった。日本は結局、生産原価を公開し低価格攻勢を中断した。急落したDRAM価格が上がり始め、韓国に機会が訪れた」 

    日米半導体協定によって、日本半導体は競争力を失い、代わって韓国が浮上した。 

    (3)「日米半導体協定が1986年7月、マイクロンがNECなど日本企業をダンピングで提訴したのが85年6月、サムスン電子の器興第1工場完工が84年3月、器興第2工場竣工が85年3月だった。すべてが映画の脚本のように合致した。その後日本は半導体製造市場から押し出され、韓国と台湾がその穴を埋めた」 

    84年3月から86年7月までのわずか2年4ヶ月が、韓国半導体がトップに立てる条件を作り出した。これと同様に現在、半導体の浮沈が始まっている。日本再浮上へのチャンスが到来している。

     

    (4)「韓国の3大成功要素は、韓国の専有物ではない。最近、世界1位のファウンドリー(半導体委託生産)会社である台湾TSMCが日本の熊本県に新しい半導体工場を竣工した。2年間「365日24時間工事」をしながら工期を2カ月以上繰り上げた。速度戦は韓国の武器だったが日本と台湾がまねている。各国の投資支援も総力戦だ。米国も、欧州も、日本も半導体投資に莫大な補助金を与える。日本はTSMCの熊本工場投資額の約3分の1に当たる1.2兆円を支援する。だが韓国は半導体投資に税金減免の優遇を与える。投資誘因効果で見れば現金補助金が税金控除より大きい。いま、日本は半導体復活に「本気」だ」 

    日本は、半導体の失地回復に全力を挙げている。政府が音頭をとって財政支援をしている。 

    (5)「国際情勢はどうだろうか。米国が、日本の半導体を倒してから30年以上、設計は米国が、生産は韓国(メモリー)と台湾(ファウンドリー)が担った。この国際分業の構図に亀裂が入っている。何より米国が最先端半導体の直接生産に速度を上げている。米国政府が後ろ盾となり米国会社同士で調達する「チームアメリカ」が稼動中だ。マイクロンが最近次世代メモリー半導体「HBM3E」の量産を発表した。サムスンとSKハイニックスより早い。その製品が人工知能(AI)半導体市場を掌握した米エヌビディアの製品に搭載される。ファウンドリー市場に参入したインテルはAIトップ企業のマイクロソフトの注文を受け最新半導体を生産することにした。インテルはあっという間にファウンドリーの強者に浮上している」 

    米国は、最先端半導体(2ナノ以上)の生産基地を日本に作ろうとしている。米国政府は、IBMが日本へ技術供与することを承認しているからだ。TSMCも、日本へ依存し始めている。半導体生産の条件(水資源・人材・技術)を全て満たしている結果だ。

     

    (6)「日米は、半導体同盟復元を加速化している。昨年5月に半導体・先端技術分野協力に向けた共同声明を採択した。トヨタやソニーなど日本企業8社が設立した半導体企業ラピダスは2ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の半導体量産目標時期を2027年とした。成功すれば韓国と台湾に追いつく。ラピダスはこの技術開発に向け米IBMに100人以上の技術陣を派遣した。第2次大戦後に米国企業が日本に半導体特許を公開し技術を伝授したのを連想させる。「チップ4同盟」(米国・日本・台湾・韓国)と言っていたが韓国だけ孤立しそうな局面だ」。 

    2ナノ半導体は、日本が半導体先進国へ復帰できるかどうかの試金石だ。しかも、短納期によって同業を圧倒する戦術を用意している。 

    (7)「(韓国は)寝て起きたら先進国になっていたという。半導体なくしてその成就を語ることはできない。しかし、半導体の奇跡を作り出した危機感と切実さは以前と同じではない。政治も、政府も、企業も、現状維持に汲々としている。慢心し、油断していればすべてに追いつかれるようになった」 

    日本は、韓国に半導体の座を奪われた。再び、奪回の機会が巡ってきた。 

    次の記事をご参考に。

    2024-03-07

    メルマガ547号 日本経済再生「2024年」、半導体追撃で頂点可能 秘策は「チップ

     

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    韓国は、総選挙のたびにインフラ投資が公約に登場する。これまでは、地方への空港建設であり、政府が採算度外視で認めてきた。4月10日に迎える総選挙では、路面電車敷設競争で、公約が乱発されている。少子高齢社会を迎えての地道な政策は棚上げして、相変わらずの「線香花火」選挙を行っている。

     

    『東亜日報』(3月5日付)は、「総選挙控え各地で路面電車ポピュリズム、税金無駄遣いの軽電鉄の二の舞を踏むのか」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「第22代国会議員選挙で京畿道(キョンギド)水原戊から出馬した最大野党「共に民主党」の廉泰英(ヨム・テヨン)候補と、現在予備選中の与党「国民の力」の金沅載(キム・ウォンジェ)、朴宰諄(パク・ジェスン)候補らが、「水原網浦(スウォン・マンポ)駅~華城東灘(ファソン・トンタン)間トラム(路面電車)を早期開通させる」とトラムの早期開通を公約に掲げている。また、候補を確定した「共に民主党」と「改革新党」は、京畿道華城でもトラム公約を掲げた。分区された京畿道華城丁でも、与野党の候補者らは、網浦駅から東灘駅まで連結する34キロ区間に東灘都市鉄道(東灘トラム)の開通を早めようと訴えている」

     

    与野党候補が、トラム(路面電車)の早期敷設を公約している。トラムは、欧州の都市交通として定着し、風物詩になっている。韓国でトラム敷設を叫んでいるのは、「票になる」という思惑からだ。

     

    (2)「総選挙を約1ヵ月後に控え、このように全国各地でトラム公約が掲げられていることが分かった。4日、東亜(トンア)日報の取材を総合すると、ソウル松坡(ソンパ)乙と京畿道高陽(コヤン)丙・水原戊・華城乙・華城丁、仁川延寿(インチョン・ヨンス)甲・中-江華(カンファ)・甕津(ウンジン)、慶尚北道浦項北(キョンサンプクト・ポハン・プク)、大田西(テジョン・ソ)甲、忠清南道天安(チュンチョンナムド・チョンアン)乙、全羅南道順天(チョンラナムド・スンチョン)・光陽(クァンヤン)・谷城(コクソン)・求礼(クレ)甲・木浦(モクポ)、慶尚南道金海(キョンサンナムド・キムヘ)乙、釜山南(プサン・ナム)乙など少なくとも13地域にある14の選挙区で、候補たちがトラム事業を公約として提示した」

     

    トラム騒ぎは、韓国全土に広がっている。少なくとも13地域にある14の選挙区で、候補者が公約に入れている。

     

    (3)「トラムは地下鉄に比べて建設コストが低く、建設期間が短いため、効果的な交通手段として評価されている。さらに、水素燃料を使用するなど環境にやさしい交通手段という点で、気候変動対応に適した公共交通手段として注目されている。世界的に380以上の都市でトラムが運営されている」

     

    日本では、宇都宮市がトラムを敷設したが成功例になっている。トラム沿線にはマンションが建設され、人口が増えているのだ。ただ、地方自治体が主体で建設する話である。韓国のように国会議員が、国政レベルで議論するのは、政府補助金依存を前提にしているのだろう。

     

    (4)「国土交通部によると、トラム事業を推進する多くの地域では、事業を中止したり、事業の妥当性を見直したりするなど難航している。政府の都市鉄道網計画に含まれている全国トラム事業は今年2月現在、29ヵ所。全体の事業費は9兆1858億ウォンにのぼるが、このうち実際に工事を開始したのは、事業費2614億ウォンが投入される慰礼(ウィレ)線1路線だけだ」

     

    韓国では、トラム事業が花盛りである。出生率急低下で、交通の便が良くなれば改善するという思惑かも知れない。だが、工事開始へ結びつく例が少ない。こういう狙いとすれば、ソウルと地方を結ぶ鉄道建設の方が、一極集中を防ぎ人口分散化に資するはずだ。そういう大所高所の議論は出ないだろうか。

     

    (5)「このため、総選挙の公約として出されたトラム事業が無分別に推進される場合、毎年赤字を記録している地方自治体の軽電鉄事業の二の舞を踏むのではないかと指摘されている。釜山大学都市工学部のファン・ジンウク教授は、「総選挙を控えてトラム公約が乱発されている。実現可能な公約かどうか点検しなければならない」と指摘した」

     

    韓国には、合理的な判断が不足している。冷静さが足りないのだ。その時の勢いで、「ワー」と事を進めて後から「ほぞをかむ」思いをしている。韓国には、大所高所論がないのだ。

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    乗用車と言えば、若者が乗り回す憧れの存在である。だが、韓国で異変が起こっている。若者の需要が減って、高齢者の購入が増える「逆転現象」が始まっているからだ。人口高齢化が、乗車需要に影響を及ぼしている。この裏には、若者が多額の住宅ローンを抱えており、新車購入の余裕を失っている面もあろう。

     

    『中央日報』(3月5日付)は、「60代の母が車買うのに30代の息子は免許もない 韓国自動車業界に高齢化の悩み」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の自動車市場にも高齢化が影を落としている。新車を購入した消費者のうち20~30代の割合は減るのに対し60~70代の割合は毎年増える傾向だ

     

    (1)「韓国自動車モビリティ産業協会が、まとめた世代別新車登録台数(乗用車基準)統計によると、60代の自動車オーナーの割合は2019年の8.76%から昨年は11.39%に大きく増えた。新車登録統計で60代の割合が10%を超えたのは昨年が初めてだった。このままならば、今年末に60代の新車登録割合が12%を超える見通しだ」

     

    60代の新車購入が、増えるとは不思議な現象である。韓国自動車市場の縮小を予告しているとみるのが妥当だろう。

     

    (2)「これに対し新車を登録する20~30代の割合は明確に減っている。同じ統計で20代の自動車オーナーの割合は2019年の7.06%から2021年が6.71%、2023年が5.82%と減少した。所得安定期に入り新しい車を購入する30代でも似た現象が見られる。30代の新車登録の割合は2019年の15.88%から2021年が14.97%、2023年が14.05%と毎年下落している。40代の場合、2019年の18.86%から2023年に17.24%と小幅に下落した。同じ期間に50代は19.56%から19.15%で同水準を維持した」

     

    20代や30代の自動車購入が減少傾向である。最近の住宅高騰を反映した動きとみるべきだろう。50代は、住宅ローンは減るから新車購入の余裕が生まれる。

     

    (3)「20~30代の新車購入割合下落は軽く薄くなった財布のためとみられる。統計庁によると39歳以下の青年層の平均資産(純資産+負債)は2022年基準で3億6300万ウォン(約4000万円)。40歳以上の中高年層の5億8400万ウォン(約6400万円)より低い。両グループ間の格差は毎年拡大している。ここに最近部品価格上昇により自動車価格が急に上がった影響もある。大林(テリム)大学未来自動車工学科の金必洙(キム・ピルス)教授は、「コロナ禍を経て急に上がった価格と人口減少により車の購入年齢が上がっているのがひとつの流れ」とみた」

     

    平均資産について、「純資産+負債」と定義づけているが意味不明である。39歳以下の青年層の平均資産が約4000万円もあって新車購入を躊躇するはずがないからだ。多分、平均資産の定義を間違えている。実際は、「資産+負債」であるから純資産は負債分差し引かれて減る計算だ。つまり、約4000万円から大幅に減る。多額の住宅ローンを抱えて、新車購入の経済的なゆとりがないのであろう。

     

    (4)「人口高齢化は自動車企業にも悩みだ。人口が減り高齢化が進めば絶対的な販売台数も減るためだ。最近では運転免許を取る人が減り廃業する自動車教習所も増加している。警察庁によると、2017年に108万人だった運転免許新規取得者は2022年には96万人に減少し100万人を割り込んだ。現代自動車の鄭義宣(チョン・ウィソン)会長は2019年の対談会で「ミレニアル世代(1980~2000年出生)は自動車を所有するより共有することを望む。息子は運転免許を取るつもりがない」として市場変化にともなう危機感を示したりもした。自動車産業大国に選ばれる日本でも運転免許取得に関心すらない青年が増える傾向だ。

     

    韓国自動車業界は、人口高齢化と住宅価格高騰という二大構造問題を抱えている。若者が、自動車共有で経済的負担を減らすという選択をし始めたのは、住宅価格高騰と無関係ではない。

     

    (5)「自動車企メーカーは新車購入年齢を引き下げる方策に苦心している。商品開発初期からこれを念頭に置いたモデルも増えている。自動車メーカーの間で若年層の人気が高いCUVを発売し続けているのも同じ理由と解釈できる。今年、起亜が発売する低価格電気自動車「EV3」もこうした悩みの延長線にある。価格を下げた電気自動車で若年層を攻略し停滞する電気自動車市場に活力を吹き込むという意図だ。現代自動車が高性能ブランドの「N」に集中するのも似た脈絡だ。現代自動車Nブランドマネジメント室のパク・ジュンウ室長は「運転に関心のない人たちに運転の面白さを贈るのがNブランドの目標」と話した」

     

    EVは、若者需要を引きつける格好の対象である。そのEVは、リチウムイオン電池による火災などが発生して、一時の熱気が冷めてしまった。こうなると、若者をターゲットとする販売戦略は難しくなろう。

     

    あじさいのたまご
       

    韓国株の割安状態は、「コリアディスカウント」と呼ばれている。現在の韓国の株主対策は、日本に比べて10年遅れていると指摘されている。日本は、「アベノミクス」の一環で2014年から証券市場の改革努力を重ねてきた。それが今、日本証券市場の魅力度を高めている。世界的投資家の立場から言えば、韓国は日本と比較対象にならないと突き放されているほどだ。

     

    『ブルームバーグ』(34日付)は、「日本のように企業価値を解き放てるか、韓国が直面する長い道のり」と題する記事を掲載した。

     

    世界の投資家が韓国の企業価値向上策を精査する中、株価の過小評価が続く要因として批判されることの多い「チェボル(財閥)」のまん延が重要なハードルに挙げられている

     

    (1)「サムスン電子から現代自動車に至るまで、韓国のコングロマリットは創業者一族によって経営されており、複雑な株式持ち合いを通じて強大な権力を振るうことができる。こうした物議を醸す構造と少数株主を二の次にする傾向は、韓国企業が長年にわたり国外の同業他社よりはるかに低い評価で取引され、投資家が「コリアディスカウント」と呼ぶ現象が起きている理由の一つとなっている」

     

    韓国産業界は、財閥支配下にある。創業家が、経営権を握るという古いタイプだ。株式会社制度は、出資と経営の分離が目的である。韓国財閥制度は、本来の株式会社制度に反するのだ。

     

    (2)「韓国当局は、企業改革の推進が世界を上回る株高の主な原動力の一部となっている日本からヒントを得て、このほど韓国の「企業価値向上プログラム」を発表した。だが、市場の反応は鈍く、貧弱なガバナンス(企業統治)にしっかりと対処するには不十分なことを示唆した。また、韓国株は対策を期待して数週間にわたり上昇しており、投資家の間では改革と株式の再評価が実を結ぶには日本の場合と同様、数年かかるとの見方に変わりつつあるようだ」

     

    韓国当局は、日本株の高騰に刺激されてコーポレートガバナンス(企業統治)対策を発表したが、反応は鈍い。日本も成果が出るまで10年かかったのだ。短兵急に成果を求めてはならない。

     

    (3)「フェデレーテッド・ハーミーズの日本以外アジア株のリード・ポートフォリオマネジャー、ジョナサン・パインズ氏は、「支配株主の力をそぐ以外にコリアディスカウントを縮小する効果的な方法はないことを規制当局は理解しなければならない」と指摘。「一部の支配株主が相続税を減らすため低めの株価を好み、少数株主を安い市場価格で追い出す機会を提供し続けている」と付け加えた。指標の韓国総合株価指数(KOSPI)は予想株価収益率(PER)が10倍強にとどまっており、東証株価指数(TOPIX)の16倍付近や台湾の加権指数の17倍近辺とは対照的だ」

     

    韓国は、支配株主と少数株主の利益差が大きい。財閥は、支配株主として振る舞い小数株主の利益を踏みにじっていると批判されている。東証株価指数のPERが約16倍であるのに対し、韓国総合株価指数は10倍程度である。

     

    (4)「韓国の企業価値向上策は自発的な努力に頼るもので、懲罰的な措置はない。企業は税制上の優遇措置を見返りにガバナンスや株主還元などの分野の改善を自己評価するよう奨励されている。ただ、同プログラムは4月の総選挙を前にリテール(小口)投資家の票を獲得するための政治的な動きで、選挙後は勢いを失う恐れもあるとして、懐疑的な向きもある。企業行動に変化をもたらす当局の決意は、税制優遇措置やその他のガイドラインの詳細が発表される6月に試されることになる」

     

    韓国は何かに付けて、その指標が日本である。コーポレートガバナンスは、6月以降に詳細な対策メニューが出るという。企業が、それを実行するかだ。

     

    (5)「財閥の事業構造を巡って韓国は、数十年にわたり議論されてきた。集中的なリーダーシップは迅速な意思決定を可能にし、韓国を産業大国へと変貌させる上で極めて重要だった一方で、透明性の欠如や株主の利益をないがしろにする意思決定が批判されてきた。韓国最大のコングロマリットを巡る画期的事件としてガバナンスウオッチャーらは、株価操作や会計不正の罪で起訴されたサムスン電子の李在鎔会長に無罪判決が言い渡されたことに懸念を表明している」

     

    韓国は、日本が戦後に捨てた財閥制度を採用した。資本蓄積の乏しい段階では財閥の意義もそれなりにあったが、弊害は明らかであった。歴代の大統領選でも「経済民主化」の名前で財閥対策が登場してきた。朴槿恵氏は、財閥の民主化を訴え大統領に当選したが、実際はこれを骨抜きにする事態になった。財閥の懐柔があったのだろう。朴氏が失脚した裏には、この問題が影響した。こういう歴史的事件があっても、財閥制度はまだ生き残っている。

     

    (6)「ブルームバーグ・インテリジェンスによると、韓国でもアクティビズムが増加しており、少数株主の利益保護に向けた改革を求める動きに拍車がかかる可能性もある。個人投資家の発言力向上も改革に向けた取り組みに追い風となろう。三井住友DS私募基金管理上海の橋爪謙治・最高投資責任者は、「コリアディスカウントの最大の要因はガバナンスにあると、私は昔から考えてきた」と述べ、統治改革が加速すれば韓国株市場の再評価の余地は大きいとの認識を示した」

     

    韓国の小数株主が、支配株主の影響で虐げられているのは、株価上昇にマイナスである。アクティビストが、動き出すであろう。

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