人事停滞が示唆する守り
経済より政権安泰を重視
中国の日韓へ接近裏事情
中ロ関係が希薄化すると
米国トランプ大統領は、同盟国も巻き込んだ関税戦争を仕掛けている。こうした混乱を横にみて、中国の習国家主席はロシアやイランと連携を深め、着々と勢力拡大に乗り出しているとする見方さえ出てきた。
例えば、『ウォール・ストリート・ジャーナル』のコラムでは、中国が今、鄧小平の時代なら国際危機につながるような大胆な外交措置を取ることが可能な状況と指摘している。西側諸国は現在、そうした中国の動きにほとんど気付かないと悲観的になっている。習氏は果たして、西側諸国の混乱に付け入って、大胆な措置に打って出られるであろうか。これは、中国経済の混乱ぶりを知らない外交評論と言うべきだろう。
中国は現在、経済状況が深刻な事態にあり、西側の虚を突く余力がゼロである。習氏は、香港企業が米企業主導の企業連合に、パナマ運河両端(大西洋と太平洋)にある港湾の管理権益の売却計画に激怒したと伝えられている。逆に、トランプ戦略で先手を打たれているのだ。「トランプ礼賛」をする訳でないが、米国は中国封じ込みへ全力を挙げている。習氏は、ハッキリと守勢に立たされている。その理由は何か。
外交戦略とは、国内問題で懸念がないときこそ、本領を発揮できるものである。国内経済がガタガタの状態では満足な手を打てないものである。「外交は内政の延長」と言われるごとく、国内基盤が盤石であって初めて外交戦略が実を結ぶ。中国は、不動産バブル崩壊後の混乱が未だ終息せず、地方政府の行政能力は経済面から極端に制約されている。これが、庶民生活を混乱に落とし入れている。今の中国には、外交で西側をきりきり舞いさせる実力がないのだ。
中国は不動産バブルによって、誰でも不動産さえ買えれば豊かになれる「チャイニーズ・ドリーム」が存在した。それが現在、完全に崩れ去った。中国にとっては、歴史の「ボーナスタイム」であったのだ。これからは、「ゴミ時間」が始まるとSNSで自虐的に語られている。ゴミ時間とは、「歴史において、個人が状況を逆転することは難しく、失敗が運命づけられているゴミのような期間」とされる。中国にとっては、「暗闇」という意味に理解されている。
人事停滞が示唆する守り
中国共産党内部は、見えにくいカーテンに覆われている。外部からほとんどその動きを伺い知ることができないのだ。その中で唯一の手掛かりが、人事動向とされている。今年の全人代では、目立った人事異動がなかった。これは、習政権の世代交代で若返りが当面、進まないことを示している。「人事停滞」は、なぜ起っているのか。
習氏が、絶対的権力を握っているならば、人事は自由に行えるものだ。内部で多少の不平不満があっても、任命権者習氏の「威光」に逆らえないからだ。その威光が、末端まで届かなくなっているから、人事停滞は起こるのであろう。もう一つの理由は、習氏自身の人事である国家主席4期目を実現させるには、人事で波風立てずにおくことが誰からも不満を起こさない「最善の策」との解釈もできる。だが、人事停滞は行政の停滞を招くという大きな代償を伴うのだ。
習氏は、3月の「全人代」(国会:年1回開催)直前の集団学習会(2月)で取り上げたテーマが、「国家政権の安全維持」であった。集団学習会とは、月に1回ほど計24人いる党政治局メンバーが大集合する会議と共に開く公式の勉強の場とされる。全人代開幕前の最後となる会合テーマが、経済問題でなく国家政権の安全・安定だった。これは、極めて意味深長であると指摘されている。習氏が、経済問題よりも政権の安全維持を重視していると受け取られているからだ。
中国は、25年経済成長率目標を「5%前後」として据え置いた。国債などの公的債務が、25年名目GDPに対して8.6%と推計される事態だ。25年も、昨年同様に名目GDP成長率4.2%と仮定すれば、前記のように公的債務の対GDP比は8%台に乗る計算である。ここで改めて気付くことは、8.6%の公的債務によって4.2%の名目成長率しか達成できない経済の疲弊ぶりである。債務という資金供給が、名目GDP成長率よりも2倍も多く投入される事態は、中国経済が「ザル状態」で水漏れしている状況にあることを示している。
「8.6%-4.2%=4.6%」の4.6%は、途中で消えてしまった計算だが、どこへ消えたか。それは、金利として消えたのであろう。この推測が正しいとすれば、中国経済は完全な「ゾンビ状態」へ落込んでいる証拠である。冒頭に掲げた、「習氏がロシアやイランと連携を深め、勢力拡大に乗り出す」状況には全くないのだ。
習氏は、こういう中国経済の実態を認識させられているはずだ。だから、米国が中国の要求する「4つのレッドライン」を踏みにじっても、立ち向かう姿勢をみせないで静観を余儀なくさせられている。過去の例から言えば、米国へ「烈火」のごとく怒り猛反撃したはずである。それが、全くの「音なし」であるから驚くのだ。
経済より政権安泰を重視
習氏が、国内経済の疲弊ぶりを認識した結果の反応はどうであったのか。それが、「国家政権の安全維持」へ向っていることに現れている。話題が、経済保全から国家安全へ切替ることで、習氏が責任を回避し同時に、国家安全確保による「習氏の権力安泰」へ移しているのだ。(つづく)
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