習近平国家主席が描いた「一帯一路」事業は、米国へ対抗して世界覇権を握る大構想に基づいていたことは間違いない。アジア・アフリカ経由で中南米まで地球一周するという構想自体にそれが窺える。毛沢東が、大躍進運動(1958~61年)で「15年後に米英に追いつく」と豪語していたこととなんら代わりないからだ。中華民族特有の「大風呂敷」であろう。
『朝鮮日報』(9月30日付)は、「アジア・アフリカ経由で中南米まで、地球を一周した『一帯一路』」と題する記事を掲載した。
孔子学院は中国政府が自国の言語・文化などソフトパワーを広める趣旨で世界各地に設けた機関だ。しかし、米国、カナダ、欧州など主な西側諸国は、孔子学院が中国共産党と連携し、安全保障を脅かす宣伝・諜報機関だとして、積極的に撤退させ、これまでにほとんど姿を消した。
(1)「中南米の状況は異なる。ブエノスアイレス孔子学院だけで年間2000~2500人が中国関連の講座を受講しており、コルドバ大、ラプラタ大など拠点国立大学にも孔子学院が設置されている。地域の経済大国ブラジル(10カ所)、チリ(2カ所)をはじめ、中南米だけで40カ所余りが運営されている。ユーラシアと二つの大洋(太平洋・大西洋)を隔てて離れた中南米も中国の一帯一路プロジェクトの影響圏に編入されている。特に中国は孔子学院を前面に掲げ友好的世論を現地に形成し、莫大な資金力を動員してこれまで米国が裏庭と考えていた中南米で道路、港湾、鉄道など大規模なインフラ整備事業を相次いで受注し、経済的影響力を高めている」
中南米では、孔子学院が活動している。欧米やカナダの孔子学院は姿を消したが、中南米は中国の経済支援をあてにして生き残っている。
(2)「中国が特に狙っているのは港湾だ。米シンクタンクの「安全な自由社会センター(SFS)」「ラテンアメリカ経済観測所(OBELA)」などによれば、中国が国有企業と民間企業で運営権を確保したか新しく建設を決めた中南米の港湾は約40カ所に達する。このうち最近注目されているのはペルーに建設中のチャンカイ港だ。ペルーの首都リマから北に60キロ離れた同港に中国国営の中国遠洋運輸集団(COSCO)が30億ドル以上を投資し、60%の権益を確保した。同港は最大水深が16メートルに達し、年間500万TEU(20フィート標準コンテナ換算)以上のコンテナを処理でき、パナマックス級の船舶も停泊できる南米最大規模の貿易港だ。同港が供用を開始すれば、中国・南米間の貿易航路の所要時間を現在の45日間から35日間に短縮できる」
中国は、中南米で港湾を狙っている。中国海軍がここまで出っ張ってこようというのだろう。米海軍の餌食されることは間違いない。力量を弁えない振舞である。米海軍が、世界一という実力を忘れた行為だ。
(3)「中国は、国有企業の招商局港口(チャイナ・マーチャンツ)を通じ、ブラジルのパラナグア港の権益67.5%も確保した。同港はブラジルで最大規模の農産物輸出港で、大豆などブラジル南部の穀倉地帯の農産物輸出ルートとなる。このほか、中国のメキシコのベラクルス、エンセナダ、マンサニージョ、ラサロカルデナスの各港、ジャマイカのキングストン港、バハマのフリーポート港、パナマのバルボア港などの権益も確保した」
中国は、中南米を食料基地にしようと企んでいる。それには、米海軍に邪魔されないように軍港を持とうとしている。
(4)「中国が中南米の一帯一路を通じ、軍事的影響力まで高めようとしているとの観測もある。そうした懸念の呼び起こしているのが中国人民解放軍傘下の中国衛星発射追跡制御総局(CLTC)が管理するアルゼンチン中西部のネウケン宇宙基地だ。特にネウケン宇宙基地は「基地で遂行される活動を干渉したり妨害しない」という両国政府の契約に基づき、秘密裏に運営され、中国のスパイ活動、その他軍事活動に対するうわさが増幅されている。ベネズエラ、ボリビアなどにも人民解放軍と連携した国有企業が運営する10カ所余りの衛星基地がある」
米大陸はすべて、他国の軍隊が進出することを防ぐ「モンロー主義」を取っている。これは、中国軍といえども適用される。欧州の軍隊が、米大陸へ進出できなかったのは、この「モンロー主義」の成果だ。中国は、こういう歴史を理解していないようである。いつか、米海軍に叩かれるだろう。
(5)「こうした基地は事実上、中国の諜報施設ではないかと懸念されている。実際に中国の研究陣は19年、スウェーデンが運営するチリのサンティアゴ衛星基地で軍事目的の活動を行ったと疑われ、退去させられた前歴がある。中南米各国では、一帯一路に対する警戒の声も出始め、事業が保留される例も出ている。アルゼンチンでは最近、陝西化工集団が南米最南端のティエラデルフエゴに12億5000万ドルを投資し、石油化学団地を含む多目的港を建設するプロジェクトが契約成立直前に保留となった。中国は南極へのアクセスが優れているという地政学的重要性を着目していたが、国家安全保障に重大な脅威になりかねないという反対世論が噴出した」
中南米各国では、一帯一路に対する警戒の声も出始め、事業が保留される例も出ている。これは、その背後に中国軍の影を感じるからだ。モンロー主義は、歴史的な北米中南米の共通理念である。