勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 米国経済ニュース時評

    あじさいのたまご
       

    海外の「物言う株主」(アクティビスト)は、これまで株主総会で増配や株主還元など目先利益を主張する集団と警戒されてきた。だが、最近のアクティビストは長期的視点から株主利益を高める「理論派」が増えている。国内の機関投資家も、「物言う株主」として会社側提案を拒否するケースが増えた。企業統治(コーポレート・ガバナンス)は、確実に浸透している。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月26日付)は、「日本株『外圧』が起爆剤、物言いは還元から稼ぐ力へ」と題する記事を掲載した。

     

    日本企業は本当に変わるのか。6月の株主総会シーズンに関心が高まっている。強まる株主からの「外圧」は日本株が再点火する起爆剤になりうるからだ。

     

    (1)「企業に改革を迫るアクティビストは異端ではなくなった。CLSA証券の日本担当ストラテジスト、ニコラス・スミス氏は米バリューアクト・キャピタルのオリンパス投資を例に「最近はアクティビストが投資前より会社を良くすることを実証した。価値をもたらすと理解されたことで他の投資家の支持を受けるようになった」と解説する」

     

    日本企業は、「アクティビスト」と聞いただけで震え上がったものだ。コーポレート・ガバナンスという認識のなかった日本企業には、異質のものにみえたのである。

     

    (2)「2000年代に米スティール・パートナーズが、サッポロHDを標的にした。不動産依存やビール事業の低迷を追及した。だが、改革要求は賛同を得られず、「日本企業を啓蒙したい」などの発言は世論の反発も浴びた。時を経てガバナンス改善が社会的課題となり、そこに真剣に向き合うファンドの外圧を見る目は変わってきた。米モルガン・スタンレーのアジア株担当チーフ・ストラテジスト、ジョナサン・ガーナー氏は「企業統治の進化がよりよい資本配分につながり、収益性重視に大きく転換してきた」と語る」

     

    企業統治論によって、株主は従業員や下請け企業などと同様に企業活動の重要な役割を果すことが理解されるようになった。企業経営者が、経営権を一人占めできないことがハッキリしたのである。

     

    (3)「投資家の関心は一時的な株主還元から事業の見直しで稼ぐ力をどう伸ばすかに移ってきた。UBS証券の守屋のぞみ株式ストラテジストは「事業戦略に踏み込んだ提案も出てきている」と指摘する。注目するのは事業構成の見直しで評価を高めた先行組の堅調さだ。経済産業省の「事業再編ガイドライン」が好事例に取り上げた日立製作所ソニーグループなど7社の合計時価総額は19年末比で2.2倍と、主要100社で構成するTOPIX100(1.7倍)を大きく上回る」。

     

    アクティビストも洗練されてきた。日本企業が、容易に受入れないことを知ると共に、一時的な株主還元から事業の見直しで稼ぐ力をどう伸ばすかに移ってきた。こうなると、企業も聞く耳を持つようになったのである。

     

    (4)「先行事例では外圧を構造改革に生かした企業が目立つ。09年に巨額赤字で公募増資に動いた日立製作所は調達資金をインフラ事業の成長につなげただけでなく、積み重ねた海外投資家との対話を経営改善に役立てた。日立建機など20社強あった上場子会社を無くして選択と集中を進め、23年秋には35年ぶりに上場来高値を更新した」

     

    日立製作所は、アクティビストの意見をうまく利用して成功したケースである。本業に特化して、傍系事業を売却する大手術が行われた。「選択と集中」である。東芝は、アクティビストに振り回されたケースであろう。経営者に、主体性がなかった結果だ。

     

    (5)「アクティビストの提案が、経営を進めるうえでの正解とは限らない。ほかの株主やステークホルダー(利害関係者)の賛同が得られない提案は通らないのは従来と同じだ。ソニーは米サード・ポイントによる映画・音楽事業の分離要求を拒み、逆にエンタメを核とする複合経営で成長している。14日に発表した新たな中期経営計画では「利益ベースの成長重視」を宣言し、ゲームとイメージセンサーを軸とするシナリオを市場も好感した」

     

    昨年6月のトヨタ自動車の株主総会は、EV(電気自動車)進出が遅れたとして、環境アクティビストが豊田彰男社長(当時)の役員就任反対を提案した。これは否決されたが、「EV信仰者」が引き起した例だ。トヨタのEV慎重論は、結果として大成功であった。

     

    (6)「足元の市場では自社株買いだけでは株価上昇につながらないケースも目立つ。丸井グループは14日、200億円を上限とする自社株取得枠の設定を発表したものの、株価反転にはつながらず24日に年初来安値をつけた。資本効率の改善だけでなく、いかに稼ぐ力を高めるか。日経平均株価の3月の最高値更新を経て「株主総会に向けて個別銘柄に再び焦点が移っていく」(BNPパリバ証券の奥山史取締役グローバルマーケット統括本部長)。日本株高の原動力となってきた企業の変化は始まったばかりだ」

     

    丸井は、自社株取得を発表したが株価の下落に見舞われた。稼ぐ力の方針がなかったからだ。市場の受け止め方は、ここまで変わってきた。

     

     

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    中国国営テレビ(CCTV)は24日夜、台湾周辺での軍事演習が終了したと報じた。事前の発表通り、23~24日に行われた。今回の演習は、「連合利剣2024A」となっている。今後も「B、C、D」などと称する軍事演習をするのであろう。中国は、台湾の頼総統を「分離主義者」とみなし、総統に就任した3日後に軍事演習を実施した。中国の理屈づけでは、頼氏の就任演説が「分離主義者」と決めつけたが、中国軍の演習ははるか事前に予定されていたことは明らかだ。 

    問題は、演習と称して台湾を油断させて奇襲攻撃することだ。今回の演習でも戦闘機に実弾を装着さえていたことが判明している。何かを仕掛ける意図であろう。米国防総省高官は、中国軍の2日間にわたる演習を分析している。それによると、「作戦は不可能」としている。米軍は、中国の手の内を観察する良い機会になった。 

    『日本経済新聞 電子版』(5月25日付)は、「中国軍『台湾全域包囲』の能力誇示、頼政権と対決姿勢」と題する記事を掲載した。 

    中国軍は1996年の台湾海峡危機の際に台湾周辺で大規模演習をした。このときの演習区域は海峡側が中心だった。台湾本島を取り囲むようにして演習したのは22年8月のペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問時が初めてだったとみられる。

     

    (1)「今回の演習の特徴は、ペロシ氏訪台時と似た台湾の包囲にある。飯田将史・防衛研究所理論研究部長は「台湾を全面封鎖できる能力や意図があると頼政権に知らしめる狙いがある」と分析した。演習期間はペロシ氏訪台時よりも短い。当時は中国軍が台湾東方の海域へ弾道ミサイルを発射し、5発が日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。今回、弾道ミサイル発射は確認されていない」 

    中国は、台湾を全面封鎖できる能力や意図があることをみせつけた。たが、台湾海峡封鎖は、他国の干渉を招く理由になる。気をつけるべき点だ。 

    (2)「もっとも、演習規模を縮小し圧力を弱めたわけではない。22年8月の演習にはなかった内容や変更点が含まれるからだ。1つ目が演習の区域だ。22年8月は台湾本島周囲6カ所だった。今回は5カ所に減ったものの、前回はなかった台湾西部の澎湖諸島周辺にも設定した。台湾の離島である金門島や馬祖列島の周辺も対象に加えた。中国軍直属の国防大学の専門家は23日、中国国営中央テレビ(CCTV)の取材に「台湾当局と台湾軍の活動空間を圧迫する」と語った」。 

    金門島や馬祖列島の周辺も封鎖したことは、中国軍がもっとも占拠しやすい戦術とみられている。

     

    (3)「2つ目が事前予告の有無だ。22年8月は軍がペロシ氏の訪台を受けて2日深夜、演習区域を表示した地図とともに4日昼から開始すると予告した。一方、今回の演習は23日朝に軍で台湾方面を管轄する東部戦区が実施を公表した時点ですでに始まっていた。予告なしの演習は台湾側により大きな衝撃をもたらした可能性がある」 

    今回は、事前予告がなかった。ただ、中国艦船の動きは事前にキャッチされている。「急襲」は不可能である。 

    (4)「3点目が軍と海上警備を担う中国海警局の共闘だ。同局は24日、台湾本島東部の海域で船隊を編成し、パトロールの訓練をした。23日には馬祖列島の周辺で演習した。いずれも軍が設けた演習区域の付近とみられる。海警局は18年、軍の最高意思決定機関である中央軍事委員会の一元的な指導を受ける人民武装警察部隊の指揮下に入った。同年には海軍出身者が海警局トップに就任した。今後、対台湾で軍と海警局の一体運用が深まる可能性がある。中国海軍の艦艇と海警局の船の合計27隻の合同訓練も確認した」 

    中国は、台湾侵攻では海警船も使うことが分った。小島の封鎖に動員するのだろう。主戦場では足手まといになる。

     

    (5)「台湾国防部(国防省)の発表によると、24日は中国軍の戦闘機「スホイ30」や「H6」爆撃機など合計62機の飛来を確認した。うち47機が台湾海峡の暗黙の「休戦ライン」である中間線とその延長線を越えて台湾北部、中部、南部の空域に入った。CCTVによると2日目の24日は艦船が編隊を組み、戦闘機や爆撃機と連携しながら海上や陸上の目標物を模擬攻撃した。中国軍の艦船を追跡した台湾軍艦が、およそ1キロメートルの距離まで近づく場面もあったという」 

    中国は、まず本土からミサイル攻撃をかけ同時に空爆を実施するであろう。艦船による上陸作戦はその後だ。艦船は、台湾海峡を渡航中に潜水艦攻撃を受ける。どれだけが上陸できるかが勝負だ。「AUKUS」(米英豪)の潜水艦部隊が迎え撃つ。 

    『日本経済新聞 電子版』(5月26日付)は、「国防総省高官、中国の軍事演習『実際の成功は難しい』」と題する記事を掲載した。 

    (6)「米国防総省の高官は25日、中国軍が台湾を包囲する形で実施した軍事演習を巡り「演習しているような作戦を成功させることがいかに難しいかを示した」との声明を発表した。「彼らがこの種の演習をするたびに、私たちは彼らがどのように機能するかさらに深い洞察を得ることができる」と説明した。米軍が中国軍の演習での動きを分析し、対応策を練っていると示唆した。米国防総省のライダー報道官は25日、インド太平洋地域の米軍の態勢変更の可能性について「現在の米軍の態勢と作戦に引き続き自信を持っている」との声明を出した」 

    米軍は、今回の中国軍演習をつぶさに観察している。盲点を探しているであろう。通常は、図上演習で敵の攻略法を試すが、中国軍は「実物演習」を見せて米軍を助けている。

     

     

     

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    日本では、円高不況論が呪文のように唱えられている。株価の値下がりも「円安の影響」と一直線に結びつけて報道されているほどだ。今、こうした状況認識を根本的に変える局面にきている。日本製造業が、従来にないペースで海外へ移転しているからだ。円安によって、国内失業率を引下げる必要性もなくなった現在、円高による交易条件改善へ本格的に取組む時期になった。王道復帰である。

     

    『ロイター』(5月26日付)は、「円安メリット生かせぬ日本経済、競争力低下で続く貿易赤字」と題するコラムを掲載した。筆者は、同社の田巻一彦記者である。

     

    4月貿易統計で象徴的だったのは2カ月ぶりの赤字だったことよりも、輸出数量が前年比マイナス3.2%だったことだ。ドル/円の月中平均レートが151円台と、1年前より円安だったメリットを生かせなかった。この輸出競争力の低下を反転させなければ、当局の介入で円安を止めても一時的な現象となるだろう。

     

    (1)「岸田政権は米バイデン政権のインフレ抑制法(IRA)に代表されるような国内への投資還流策を強く打ち出し、輸出競争力の回復を図ることで円安を止める中長期プランを打ち出すべきだ。4月の貿易収支は4625億円の赤字となり、ロイターがまとめた民間調査機関の予想中央値の赤字幅である3395億円を上回った。注目されるのは、大幅な円安進行にもかかわらず、輸出数量が低下したことだ。4月のドル/円は151.66円と前年比14.7%の円安だった。通常、大幅な円安は輸出数量を押し上げ、輸出額を大幅にかさ上げする効果を持つ。ところが、4月の輸出数量は前年比マイナス3.2%と落ち込んだ

     

    円安が、輸出数量を減らす事態は深刻である。日本製品の競争力が、低下しているという危機感を持つことは重要だ。日本企業は、海外へ生産機能を大量に移転している。この結果、貿易収支が赤字で所得収支は大幅黒字という「成熟した国際収支構造」になっている。だが、油断は禁物である。国内産業の空洞化は、絶対に阻止すべきである。それが、日本経済の若々しさを維持する秘訣であるからだ。

     

    (2)「急激な円安進行を止める対応策として政府・日銀のドル買い・円売り介入があるが、中長期的なドル買い需給を調整する力がないことは、広く市場参加者に認識されている。背景にある日本企業の輸出競争力を回復させなければ、ドル買い需給を大幅に変化させることは難しい。22日付日本経済新聞朝刊で神田真人財務官は「短期的な市場動向の要因ではないが、競争力低下には強い危機感がある」と述べている」

     

    政府の為替相場介入は、時に必要でもある。だが、それは緊急時に限られる。本筋論は、円高へ移行させる経済政策の樹立が大前提である。

     

    (3)「現実には、その危機感とは正反対の動きが活発化している。財務省によると、2023年の製造業の対外直接投資額は8兆9936億円と前年の7兆1576億円から25.6%増となっている。特にインフレ抑制法などで国内投資を優遇している米国を含む北米向けは4兆0244億円と全体の約45%を占めた。一方、23年の製造業の対内直接投資額は1兆5827億円と前年比マイナス2%と伸び悩んでいる。製造業の中には、米中対立やコスト増などを理由に中国から他のアジア諸国への生産拠点シフトが目立ち出しているものの、日本国内への還流という動きにはつながっていない。日本国内での人手不足や電力安定供給への不安、大地震など自然災害リスクなどマイナスの要因を挙げる企業が多いと筆者も聞いている」

     

    現状では、23年の対外直接投資は25.6%増だが、対内直接投資はマイナス2%と大きく開いている。日本企業は海外へ直接投資しても、海外企業は日本で直接投資を増やすどころか減らしているのだ。ただ、海外企業の半導体やデータセンターへの国内直接投資が、今年から増えることは確実である。これが、どこまで増えるのか見定めなければならない。

     

    (4)「足元で続く大幅な円安は輸出企業にとって日本での生産に関する採算の急激な好転を意味し、数年前とは環境が激変しているはずだ。そこで筆者は、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県への生産拠点の誘致などを先行事例とした日本企業を含めた幅広い製造業を対象にした日本国内への生産設備誘致を促進する法律を岸田首相の音頭で制定することを提案したい」

     

    経済産業省は、海外半導体企業などにも補助金を給付している。この効果が、これから、しだいに出てくるであろう。

     

    最大の意識転換は、日本全体が「円高不況論」から脱することだ。円安は、海外から高く仕入れて海外へ安く売ることである。そうではなくて、円高で海外から安く仕入れ海外へ高く売る道へ帰るべき時期だ。日本にその条件が、再び整ったのである。まさに、発想の転換をすべきであろう。

     

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    世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツ創業者のレイ・ダリオ氏が、日米経済の将来を語った。ダリオ氏は、2008年のリーマンショックを事前に予告した人物として著名である。そのダリオ氏は今、第一線を離れて、世界の金融史の分析に余念がない。 

    『日本経済新聞 電子版』(5月25日付)は、「米国は衰退期『混乱の瀬戸際』歴史に学ぶ投資家が予測」と題する記事を掲載した。 

    歴史は大きなサイクルで動くので、国家の盛衰についても詳細に分析した。オランダや大英帝国などかつての覇権国は、興隆期から絶頂期に至り、衰退期に入るというサイクルを繰り返してきた。国家のサイクルは全体では6つのステージに分類できる。新たな秩序が始まって政府の官僚制が整うステージ12、平和と繁栄を迎え、支出と債務が過剰になるのが34、財政状況が悪化し内戦・革命に向かうのが56だ。 

    (1)「米国は衰退期に属するステージ5の典型例だ。貧富の差や価値観の相違が拡大し、左派と右派が妥協せずに何が何でも勝とうと争うポピュリズムを特徴とする。過剰債務や大国間の紛争、大きな技術革新、病気のパンデミック(世界的大流行)、干ばつや洪水といった破壊的な自然現象などによって、国際秩序が脅かされることもステージ5の特徴だ。ステージ6では内戦や革命がおこる。米国は大混乱に陥る瀬戸際にいる。ギリギリの線を越えるかどうかは指導者次第だ」 

    米国は、1929年の世界恐慌と2008年のリーマンショックを「不死身」のように乗り越えた世界唯一の國である。その原動力は、イノベーション(革新)にある。このイノベーション能力にいささかの衰えもないことを見失ってはならない。原点は、米国哲学のプラグマティズムにある。

     

    (2)「2024年の最大の懸念材料は米国の政治リスクだ。民主党のバイデン氏、共和党のトランプ氏のどちらが大統領になっても、米国内の分断による政治的な紛争と、世界の地政学がもたらす紛争のリスクを抱える。高齢のバイデン大統領が任期をまっとうできなければ、誰が引き継ぐのかという問題に発展する。民主党は穏健左派よりも極左の影響が強い点が心配だ。共和党は極右に支配され、米国ではおそらく大きな政治対立が起こるだろう」 

    今年の米国大統領選は、近年最大の「政治危機」である。過去にも同様の危機はあった。それを乗り越える能力は、米国「草の根」民主主義にある。それが、試されているのだ。 

    (3)「米国や日本、ユーロ圏と、世界の3大基軸通貨すべてで債務が過剰な状態にある。債務増加が通貨の価値低下につながっている。1つの通貨が他の通貨に対して相対的に下落するというよりは、通貨の購買力が落ちるインフレ圧力や、金(ゴールド)の価格上昇という形で表れる。こうした状況は今後、数年間にわたって起こるとみる。もしトランプ氏が大統領に選ばれれば、米国は保護主義に傾き、関税を大幅に引き上げ、インフレにつながるだろう。バイデン大統領が再選されても財政拡張が続く。どちらが大統領になっても、米国は大幅な財政赤字になるとみる」 

    先進国は、いずれも過剰債務を抱えている。その筆頭は日本である。日本は、ケインズ経済学を頭から信じ込む「教室エコノミスト」が招いた事態だ。企業改革(イノベーション)を主張するシュンペーター理論を無視した結果である。今問われているのは、シュンペーターへ戻ることであろう。これは、先進国共通の課題である。

     

    (4)「私が開発したバブル測定システムは、5年ほど前に中国の不動産市場と地方債市場でバブルが発生していることを示していた。この2つの市場はまもなく崩壊した。1980年代に始まった中国経済ブームの間に債務が膨張し、貧富の差が広がった。一人っ子政策による人口減も国の債務拡大につながった。債務再編が必要だが、そのプロセスは政治的にも経済的にも痛みを伴い、きわめて困難なものになるだろう。中国は今後100年間続く嵐に突入しつつある。日本がバブル経済崩壊後、景気が回復するまでに何十年もかかったように、試練が続くだろう。株式相場をみると中国株は割安となったが、構造的な問題は解決されていない」 

    中国経済は、不動産バブル崩壊で深刻な事態だ。市場機能は、政治によって大幅に制約されており、長期不況に伴う「縮小均衡」に立ち至るであろう。それは、マルクスが説いた「恐慌論」を再現する形となる。マルクスを信奉する中国が、マルクスの予告する危機を避けられないとは不思議な話である。 

    (5)「株式市場の観点では、割安株が多い日本株は引き続き魅力的だ。地政学リスクが世界で拡大するなかで、日本は政治的に安定しており恩恵を受けている。金融緩和と円安の追い風もある。日銀は金融引き締めに向かうだろうが、利上げにより日銀は保有する国債に大きな損失を被る。そのため、引き締めのペースは緩慢なものにならざるをえないだろう。一方、日本国債は投資対象としては引き続き最悪の状態となるだろう。日本はインフレ率や名目の成長率に比べて金利を非常に低く抑えている。インフレによる目減りや低金利で、積み上がった膨大な債務の価値は切り下げられていく可能性が高い」 

    日本の正常金利(中立金利)は、IMF(国際通貨基金)によれば、1.5%が限界とされている。これが、日銀利上げの最終到達点である。となると、消費者物価上昇率2%以上を達成すれば、歳入増によって政府債務を徐々に償却できる環境が生まれるだろう。日本は、この「鉄則」を破ると破綻する。

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    米半導体大手エヌビディアの急成長が続いている。2024年2~4月期の売上高は1年前に比べて3.6倍に拡大した。シェアが8割に達する人工知能(AI)向け半導体は奪い合いの状況が続き、高性能な製品の投入で価格も上昇している。だが、AIブームの中心にある同社の立場を弱めかねない脅威が生まれつつある。競合他社や主要顧客は、エヌビディア製品との差を埋めることができる半導体チップの生産を目指しているからだ。その一方で、AI市場は変化しており、エヌビディア製品の人気を低下させる可能性も指摘されている。 

    『ウォールストリートジャーナル』(5月24日付)は、「エヌビディアの好調は続くのか、芽生える脅威」と題する記事を掲載した。 

    AI企業は大手、中小を問わず、より小規模なモデルを構築・展開する方法を模索するようになっている。このようなモデルは特定のタスクに有効に機能し、エヌビディア製チップに頼らなければならないほどの演算処理能力を必要としない。状況次第では、この1年好調だったエヌビディアに陰りが見え始める可能性がある。同社の2~4月期売上高は3倍増となり、5~7月期にも倍増が見込まれている。同社の成功は株価を過去最高水準にまで押し上げ、2倍超の増配と1対10の株式分割の発表につながった。

     

    (1)「エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)はインタビューで、課題がある中でも成長する態勢を同社がどうやって整えているかを説明した。エヌビディアの役割は、チップの製造という枠を越え、AIを大量生産する現代のデジタル工場とフアン氏が考えるデータセンターの構築へと拡大しているという。同社はAIチップに加え、AIに不可欠な構成要素であるCPU(中央演算処理装置)やネットワークチップ、ソフトウエアも製造している」 

    エヌビディアは、AI「1強態勢」を守るべくCPUやソフトウエアにも進出している。こうした総合力で、基盤を固めているのだ。 

    (2)「パソコンや携帯電話、インターネットの出現に匹敵し得るAIブームの中で、エヌビディアは時宜を得て最適な位置にあり、市場をリードするサプライヤーとしての役割を果たしている。投資家にとっての大きな疑問は、エヌビディアがこのまま勢いを持続できるのか、それとも、市場の変化とライバルとの競争激化が起きる中で市場自体が縮小してしまうのか、ということだ」 

    AI市場は、もっとも変化の激しい市場である。それだけに、エヌビディアが現在の位置を守ることは困難を伴うとしている。

     

    (3)「エヌビディアと競合する半導体メーカーは攻勢を強めており、独自のAIチップを発売し、少なくとも一部のAI演算タスクにおいてはそれらの方が優れていると主張している。また、エヌビディア製の画像処理半導体(GPU)を利用するために使われるソフトウエア市場で同社の支配を取り崩し、代替品を求める顧客からの要望に応えようとしている。AIチップ市場に占めるエヌビディアのシェアは8割を超えているとみられる」 

    独自のAIチップや、エヌビディア製の画像処理半導体(GPU)を利用するソフトで、代替品として頭角を現そうという動きが目立っている。 

    (4)「アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)のリサ・スーCEOは先月、今年の同社のAIチップ売上高が40億ドル(約6300億円)程度になるとの見通しを示した。インテルは4月に新世代のAIチップを発売。パット・ゲルシンガーCEOはアナリストとの電話会見で、同社は下半期のチップ売上高を5億ドルと見込んでいると述べた。アマゾン・ドット・コムやグーグル、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフトなどのハイテク大手は、独自にチップを設計し、製造は委託することで、エヌビディアに対抗しようとしている。調査会社テックインサイツが今週示した推計によると、グーグルは昨年、データセンター向けチップの設計でエヌビディア、インテルに次ぐ3位につけたとみられる」 

    AMDは、独自のAIチップを販売している。インテルも、4月に新世代のAIチップを発売した。アマゾン、グーグル、マイクロソフトなどハイテク大手は、独自にチップを設計し、製造は委託してエヌビディアへ対抗しようとしている。

     

    (5)「ローゼンブラット・セキュリティーズのアナリスト、ハンス・モーゼスマン氏は、世界のAIチップ市場におけるエヌビディアのシェアは、競争圧力によって低下するとみられると述べている。しかし同時に、AIコンピューティング市場全体でのエヌビディアのシェアは現状を維持する公算が大きく、シェア拡大さえあり得ると予想している。エヌビディアがコンピューティングに関する他の分野およびソフトウエアで事業拡大を図っているためだという」 

    エヌビディアは、世界のAIチップ市場における競争圧力によってのシェアが低下するとしても、ソフトウエアで事業拡大する可能性が指摘されている。エヌビディア「1強」を支えるのは半導体そのものだけではないのだ。 

    エヌビディアのソフトウエア「CUDA」(クーダ)は、画像処理半導体(GPU)でAIを高速に動かすためのソフト基盤になっている。多くの企業がCUDAにあわせてAIのソフトやアプリを作っており、AI半導体を使いこなす際の標準とされている。他社に切り替えるのが容易ではないとの指摘も出るほどである。エヌビディアは、ハードからソフトまで経済圏をつくり、開発者を囲い込んでいるというのだ。

     

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