勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 米国経済ニュース時評

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    米連邦準備制度理事会(FRB)は22日、政策金利を0.25%ポイント引き上げ、政策金利が4.75~5.00%になった。政策金利は、2007年以降で再び最高水準を記録した。米韓金利差は、これで1.5%ポイントへ拡大する。金利差拡大は、ウォン相場の下落を招き消費者物価上昇を招くが、韓国国内の金融情勢が不安定であることから、当面の追随利上げを見送る方針である。

     

    『中央日報』(3月24日付)は、「FRBの速度調節で余裕生まれた韓銀、来月 金利凍結か」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米連邦準備制度(FRB)が22日(現地時間)、「ベビーステップ(基準金利0.25%ポイント引き上げ)」を断行し、通貨政策を運用する韓国銀行(韓銀)も、ひとまず一息つくことになった。韓米金利逆転幅が1.5%ポイントまで広がったが、2月に基準金利を3.5%に凍結する時に予想してきた水準のためだ。市場では韓銀が4月に再度基準金利を凍結し、物価と不動産など市場状況を点検する余裕が生まれたという評価が出ている」

     

    FRBは、米国内の金融不安が地方銀行止まりと判断して、予定通り利上げを行なった。ただし、利上げは0.5%でなく0.25%と小幅に止めた。韓国は、米国が小幅利上げに止めたので追随利上げを見送る。


    (2)「23日、韓銀によると、2月の消費者物価上昇率は10カ月ぶりに4%台(4.8%)に下がり、下半期になるほど上昇率が鈍化するものと予想される。輸出不振で1月の経常収支が過去最大の赤字(-45億2000万ドル)を記録するなど景気下降の兆しがはっきりしているという点も、2カ月連続で基準金利凍結の可能性を裏付けている」

     

    韓国が利上げを見送る背景は、2月の消費者物価上昇率が落ち着いてきたことや、輸出不振で景気下降が鮮明になっていることだ。

     

    (3)「米国の高強度通貨緊縮が、シリコンバレー銀行(SVB)破産にともなう金融市場の不安定要因によって、金利引き上げ負担が大きくなった。国内銀行のウォン延滞率や健全性指標はまだ良好な水準だが、「弱い輪」の貯蓄銀行・相互金融で不良が生じた場合、SVB事態のように韓国でも「バンクラン(預金の大量引き出し)」が起こる可能性を排除できないためだ」

     

    韓国にとって、米国のシリコンバレー銀行破綻は他人事でない。国内には、貯蓄銀行・相互金融に脆弱部門を抱えているからだ。金融破綻は、最も弱い輪から崩れるだけに警戒を怠れない。

    (4)「金融市場の不安感も依然として残っている。金融安定に影響を及ぼす実物・金融指標を基に算出された金融不安指数(FSI)は、今年1月と2月にそれぞれ22.7、21.8だった。昨年10月(23.5)から5カ月連続「危機」段階(22以上)が維持されている。韓国銀行のイ・スンホン副総裁は、この日「対外環境の変化と国内価格変数、資本流入・出入動向を綿密にモニタリングしながら、必要があれば積極的に市場安定化措置に取り組む」と述べた」

     

    韓国の金融不安指数は、昨年10月から5カ月連続「危機」段階(22以上)になっている。こうした状況が起こっている以上、さらなる利上げは躊躇せざるを得ないのであろう。

     

    (5)「韓銀の「利上げ凍結」が、長期化するかは未知数だ。米国の物価・雇用状況などを考慮すればFRBが5月に0.5%の利上げへ踏込む可能性があるためだ。現代経済研究院のチュ・ウォン経済研究室長は、「米国がもう一度0.5%利上げになれば、韓米の金利格差が過去最大幅に広がる。韓銀が、すぐ4月ではなくても年内にさらに基準金利の追加引き上げを行う可能性がある」と述べた」

     

    米国は、さらに利上げする姿勢を見せている。このことから言えば、韓国がいつまで利上げを見送れるか疑問である。少なくも年内の利上げは不可避とする指摘もある。韓国経済は、綱わたりが続くのだ。


    FRBの利上げが今回、0.25%ポイントに止まったので、韓国銀行は一息ついた形である。しかし、FRBが5月に再びベビーステップ(0.5%)に踏み切れば、米韓の金利差は1.75%ポイントまで広がり、韓国金融政策に負担が大きくなる。23日の対ドルウォン相場は、FRBの緊縮終結への期待で前取引日(1307.7ウォン)より29.4ウォンとドルが急落し1ドル=1278.3ウォンで取引を終えた。25日のオンショア相場は、1ドル=1299.17ウォン(1時31分)と再びウォン安へ動いている。

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    EV(電気自動車)テスラは、革新経営を続けている。マスク氏は、向こう数年でテスラの次世代モデルEVコストの半減宣言を出して、競合企業を驚かせている。マスク氏は、「より小型なEVを『モデル3』の約半分の生産コストと難易度で生産する明確な道筋がある」と言明した。業界では、かねて確約してきた2万5000ドル(約330万円)の新型モデル投入がついに可能になるとの見方が出ている。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月24日付)は、「マスク氏のEVコスト半減、宣言競合に手痛い一撃」と題する記事を掲載した。 

    電気自動車(EV)開発競争でテスラの背中を追う主要メーカー各社は、イーロン・マスク氏から変化球を投げ込まれた。向こう数年でテスラの次世代モデルの生産コストを半減させるとの目標をぶち上げたのだ。

     

    (1)「テスラの主力モデルはすでに、競合勢よりもコスト面で数千ドルの優位性を確保しているとされ、ライバル各社はその差を埋めようと必死だ。マスク氏は今月、モルガン・スタンレー主催の会議で「より小型なEVを『モデル3』の約半分の生産コストと難易度で生産する明確な道筋がある」と言明した。マスク氏の発言は、テスラのインベスターデー(投資家向け戦略説明会)で掲げられた目標を改めて確認するものだった。テスラ幹部は垂直統合や工場の自動化、部品数の削減などを通じてコスト削減を進める考えを示している」 

    テスラは、「モデル3」の約半分の生産コストで新型EVを開発すると宣言した。垂直統合や工場の自動化、部品数の削減などを通じてコスト削減を進めるという。電池コストの引下げとは無関係のようだ。これは、他社にとって脅威だ。

     

    (2)「マスク氏は、具体的な数字や低コストモデルの投入時期など詳細については明らかにしていない。これまで自ら設定してきた価格引き下げの野心的な目標を幾度となく達成できなかった同氏だが、アナリストの間では、こうしたテスラのコスト削減努力により、業界トップを走る2桁の利益率を損なうことなくかねて確約してきた2万5000ドル(約330万円)の新型モデル投入がついに可能になるとの見方が出ている」 

    生産コストの半減で、1台2万5000ドル(約330万円)の新型モデル投入が間近担ったと見られる。

     

    (3)「メーカー各社は、ラインアップをEVに転換するため2026年末までに合計5260億ドルを投じる計画だ。メーカーの多くは、EV販売のスケールメリットを達成できる前の段階で、こうした巨額投資を先行している。EV需要は急速に伸びているとはいえ、世界販売に占める割合はなお小さい。14日開催された独フォルクス・ワーゲン(VW)のアナリスト・投資家向け会議でも、マスク氏の発言を受けて競合各社がさらに厳しい状況に追い込まれていることが鮮明になった。UBSのアナリスト、パトリック・ハメル氏は、「VWが向こう数年で利益を確保しながら、手頃な価格のEVを販売できるとは想像しがたい」と述べている」 

    既存メーカーにとって、利益を確保しながらの価格引き下げは、極めて高いハードルである。

     

    (4)「VWは共通の部品を使用する次世代EVについて、いずれ時間とともにコストを削減できると読んでおり、VWのアルノ・アントリッツ最高財務責任者(CFO)アントリッツ氏も2万5000ユーロ(約350万円)未満のEVを投入する考えを改めて強調した。同社は先週、新型モデルのコンセプトカーを発表しており、欧州で2025年に発売するとしている」 

    VWも、2万5000ユーロ(約350万円)未満のEV投入を目指している。2025年が目標である。 

    (5)「テスラを主力メーカーに押し上げたセダン車「モデル3」の価格は米国で約4万5000ドルからとなっている。モデル3が発表された2016年当時は、3万5000ドルの価格設定を目指していたが、生産が始まった17年には同価格での提供は見送られた。マスク氏によると、その水準では採算が取れないためだ。もっとも、テスラはコスト削減の取り組みを続け、2018年以降、生産性の向上やエンジニアリングの変更など、さまざまな面を通じて30%の改善を達成したと述べている。幹部らは次世代EVのコスト削減を達成する上で、これらがひな形になるとみている」 

    マスク氏は、かねてから3万5000ドルの価格設定が夢であった。この目標からさらに30%のコスト引下げのメドが立ったのだろう。2万5000ドルに引下げれば。EVが爆発的な売行きを見せると踏んでいるのであろう。

     

    (6)「テスラに対する主要メーカー各社の競争能力については、すでに懐疑的な見方がくすぶっている。ウルフ・リサーチのアナリスト、ロッド・ラシュ氏は2月の会議で、フォード・モーターのジム・ファーリーCEOに対して、投資家100人を対象に行った自社調査の結果を伝えた。調査では、伝統的な自動車メーカーがコスト面でテスラに追いつけるとは考えていないとの回答が92%に上ったという。ファーリー氏に驚いた様子はなかった。同氏は変革の必要性について語る際、テスラが持つ1台当たり1万ドル余りのコスト優位性によく言及する」 

    既存企業は、テスラへ価格的に対抗できるか疑念を持たれている。テスラはすでに、1台当たり1万ドル余りのコスト優位性を持っているという。これは、他社にとって脅威そのものだ。どのように対抗するかだ。

     

     

     

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    ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本が3回目の世界制覇を成し遂げた。これは、スポーツの世界で起こったことだけでなく、日本全体が過去30年間「彷徨の旅」から眼を醒まして、次なるステージへ向かう予兆と見たい。

     

    日本が誇る総合商社5社は今、一斉に国内事業への再開発に向けて国内回帰している。総合商社と言えば、海外が活躍の主力舞台である。だが、地政学的リスクを考えれば、日本国内の眠れる資源の再開発こそビジネスに適うという視点だ。その一つが、洋上発電への取り組みである。すでに秋田県能代市沖合で昨年末に、大規模洋上発電が操業を開始。これから、日本国内はもとより、アジア地域への普及を目指して動き出す。英国政府も提携を申込んできたほどだ。

     

    これ以外にも昨年、日本が先端半導体製造企業「ラピダス」を設立した。周回遅れの日本半導体が一挙に、世界最先端に立つ。27年から操業開始だ。これは、日本再生の起爆剤になる。岸田政権が進める地域再生の柱は、半導体を利用した産業の振興である。総合商社は、この辺りの状況変化を読み取っているのであろう。お膳立ては整った。WBCで大谷選手をはじめとする各選手の活躍は、日本復興への手がかりになろう。

     

    米『ブルームバーグ』(3月23日付)は、「WBC制覇、日本はソフトパワーで勝ち抜け」と題するコラムを掲載した。

     

    日本の過去30年間は停滞や衰退、国際的な影響力低下というイメージで語られることが多い。しかし、大谷翔平選手がワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で圧倒的な存在感を示すなどスポーツは例外だ。

     

    (1)「米国生まれのスポーツである野球の世界大会WBCで、侍ジャパンは3度目の優勝を果たした。だが、日本と同じようにトップクラスのプロ選手を送り込み真剣に大会に取り組む米国チームと、日本代表が対戦するのは、おそらく今回が初めてだっただろう。ブルージーンズやウイスキーと同様、野球もまた、日本が発祥の地を超えていくことになるのかもしれない。わずか四半世紀前に野茂英雄氏が米大リーグに挑戦してから、ロサンゼルス・エンゼルスに所属する二刀流の大谷選手を「史上最高」の野球選手とみるアナリストもいる」

     

    日米決戦は、手に汗握らせる大接戦であった。日本の勝利は、20年前には想像もできなかった。それが現実になったのだ。だが、日本選手は謙虚に振舞った。これが、さらに勝利を引き立たせた。

     

    (2)「中国の習主席がロシアのプーチン大統領と会談するタイミングで、G7サミットに招待したウクライナのゼレンスキー大統領と握手を交わしことも岸田首相にプラスに働くだろう。米国のエマニュエル駐日大使は、岸田首相が「あらゆる場所の人々のためにより明るい未来」を求めているのに対し、習主席は「自由の灯を消そうとしている」とはっきり対比させた。これも日本の役割が国際的にいかに拡大しつつあるか物語る。スポーツ分野での成功が伝えるのは、決して変わらないと不当なレッテルを貼られている日本の新しい現実だ」

     

    日本も敗戦から80年近く経ち、外交とスポーツの両面で世界から注目される存在になった。外交とスポーツは、似た側面を持つ。それは、相手国へ好印象を与えて自国の理解度を高める効果である。WBCの日本勝利は、世界中に日本の好イメージを残してくれた。スポーツ・パーソンは、外交官の役割を果たしている。

     

    (3)「中国の習近平国家主席は自国のサッカーW杯出場に加え、中国でのW杯開催、そして優勝を目標に掲げる。しかし、約10年前に示されたこうした目標のいずれも達成できていない。カタールやサウジアラビアが世界的チームを所有することで影響力を買おうとしたり、人権問題を「スポーツウォッシュ」したりすることには理由がある。スポーツは強力な外交手段であり、ソフトパワーの勝利が一段と重要になっているためだ

     

    スポーツウォッシュとは、興奮と共感と感動を呼ぶ大規模スポーツ大会のもたらすソフトパワーをテコにして、開催地に都合の悪い事実を隠そうとする行為である。北京五輪は、新疆ウイグル族の弾圧事件をもみ消す狙いも指摘された。スポーツウォッシュである。

    (4)「スポーツ分野での成功は、ただではない。過去15年で日本のスポーツ予算は倍になった。国民がより長くより健康でいられるようにすることが明確な目標で、医療費が急増する高齢化社会では必要不可欠と見なされている。そうした厳しい状況にあっても、大谷選手ら国民的ヒーローが教えるのは、日本が末期的衰退に陥っているというストーリーとは相いれない自らを信じる力だ。WBCの決勝に先立ち、大谷選手はトップに立つために米国の有名選手への憧れを1日だけ捨てようとチームメートに呼びかけた。日本に必要なのはまさにこうした姿勢だ

     

    日本では、野球の母国・米国選手への憧れが強い。だが、この米国と戦うには、憧れを一時封印して堂々と戦うことだ。大谷選手は、選手に潜む憧れを封印して戦うべく鼓舞した指揮官の発言である。日本は、一連の大谷発言から大きな勇気と指針を貰った。

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    前触れだけで和平案見送り

    中国はロシアの従属化狙う

    中ロは経済的な苦境に悩む

    ロシアすでに人口衰退過程

     

    中国国家主席の習近平氏は、3月21~22日の2日間にわたり国賓として訪ロした。出発前、「和平の旅」と発言していたので、ウクライナ侵攻停止への具体的話し合いがあるのかと見られた。だが、両国発表からは、そのような動きを感じ取れなかった。

     

    中国は、ロシアのウクライナ侵攻からちょうど1年になる2月24日、12項目「ロシア・ウクライナ仲裁案」を発表した。早期の停戦や和平交渉の再開を促す内容だが、当たり障りのない内容であった。一見して、ロシア寄り内容であったことから、米国やNATO(北大西洋条約機構)は強く警戒した。

     

    中国は、形の上でイランとサウジアラビアの仲介を成功させた。ただ、サウジアラビア側は、米国へ逐一情報提供して了解を求めていた。米国が、この仲介はいつまで有効かと疑念を持っている。中国は、それとも知らずに意気揚々としており、次の仲介外交としてウクライナ侵攻を取り上げたと見られる。

     

    前触れだけで和平案見送り

    中国が、12項目の「ロシア・ウクライナ仲裁案」を発表した裏に、中国人民解放軍直属の軍事科学院が、今夏までにロシア軍が勝利を収めるとの予測があったとされる。習氏は、この予測に基づいて早めに和平交渉への段取りを始めたというのだ。だが、中国軍事科学院の現実を無視した予測には驚くほかない。戦況は全く異なっており、ロシア側が不利な状態になっているからだ。

     

    米国とEU(欧州連合)は、習近平・プーチンの首脳会談にあわせて、ウクライナへの強力な軍事支援を発表した。中国軍事科学院の誤った予測を訂正させる目的でもあろう。

     

    米国防総省は、ウクライナに対する3億5000万ドル規模の追加軍事支援計画を明らかにした。EUは、ウクライナに今後1年間に、155ミリ砲弾100万発を追加支援することを決めた。米国とEUが、ウクライナへ軍事支援を強化するので、ロシアは勝利できないので撤退せよというシグナルでもあろう。無益な戦争を止めるには、戦況に対する正しい認識が不可欠であるからだ。

     

    中ロ首脳会談では、ウクライナ侵攻がどこまで話合われたか不明である。このことから、習近平氏の訪ロした真の目的は何であったのかが改めて問われている。米シンクタンク「ブルッキングス研究所」ライアン・ハス上級研究員は、習氏の訪ロ前に「中国指導者の対ロシア外交には3つの目的がある」と指摘していた。

     

    1)ロシアを中国のジュニアパートナーとして長期的に固定化すること。

    2)モスクワが、ウクライナで客観的に負けることがないようにすること、すなわちプーチン氏が倒れないようにすること。

    3)ウクライナを台湾から切り離すこと。中国の指導者たちはウクライナ問題と台湾問題は別の問題という認識に固執している。ウクライナは主権国家であるが、台湾は中国の一部であり主権がないという視点だ。

     

    中国はロシアの従属化狙う

    前記の3点は、中ロの会談中ないし会談後の動きからほぼ裏づけられた。

    1)は、中ロがパートナーを強化することで合意した。貿易・投資・通貨決済などで関係強化する、としている。これは一見、中国が経済制裁に喘ぐロシアを支援する動きに見えるが、中国は長期的にロシアを中国経済に括りつけようという狙いを持っている。

     

    ロシアは、中国に急場を救って貰う立場であるので「感謝」しているが、長期化するとロシア国内の民族派が黙ってはいないだろう。ロシア国民の感情論に訴えて、「ロシア優越論」が復活してくる。中ロは、民族的に微妙なやり取りがあるだけに楽観はできないのだ。

     

    2)は、習氏がプーチン氏との会談中に来年のロシア大統領選で、プーチン氏の再選を期待する旨を堂々と発言していることに現れている。これは中国が、常日頃から言っている、他国の内政干渉をしないとの宣言とはかけ離れている。習氏にとって、プーチン氏がいつまでも政権を握っていることが、習氏の長期政権保持の上にも極めて好都合なのだ。中国国内を納得させる理由の一つになるのであろう。

     

    習氏にとって、米国覇権へ対抗するにはプーチン氏が欠かせない「相棒」である。だが、ここに思わざる事態が起こった。プーチン氏は3月17日、ICC(国際刑事裁判所)から、ウクライナからの子供の拉致に関与した疑いがあるとして、逮捕状を出されたことだ。現実問題として、プーチン氏が在任中に身柄拘束を経て、公判に至る可能性は低いとされる。

     

    だが、国連加盟国の6割(123ヶ国)はICC加盟国である。プーチン氏は、これら加盟国へ足を踏み入れれば「逮捕」という事態にもなるのだ。ICCの締結国は、「グローバルサウス」と呼ばれる南半球を中心とする途上国の多くを含む。ロシアの途上国外交は、ここに大きな足かせになろう。(つづく)

     

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    米国バンガードは、最強の投資信託として有名である。低コスト運用を武器にしており、他社の追随を許さない存在だ。バンガードは、2018年に中国へ進出したが、2年前に中国での投資信託免許取得計画を撤回した。中国の将来性に問題点を見出したからだ。今回は、中国から完全撤退することになった。

     

    一見すると、中国は資産運用事業で魅力的な存在に映る。だが、将来の中国経済の成長性低下を考慮すると、貯蓄が減って低コスト運用が不可能と判断したのであろう。高齢化の進行による貯蓄率の急速低化を見抜いたのだ。

     

    『ブルームバーグ』(3月22日付)は、「バンガード、中国事業閉鎖とアント合弁からの撤退を計画-関係者」と題する記事を掲載した。

     

    米資産運用会社バンガード・グループは残っている中国事業の閉鎖を決めた。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。同社は2年前、中国で投資信託の免許取得を目指す計画を撤回していた。中国の資産運用市場の規模は27兆元(約515兆円)である。

     

    (1)「情報は非公表だとして関係者らが匿名で語ったところでは、バンガードは上海部門を閉鎖する意向を中国政府に伝えた。さらに同社は、中国フィンテック企業アント・グループとのロボアドバイザー合弁事業からの撤退も計画しているという。関係者によると、運用資産7兆1000億ドル(約930兆円)のバンガードは、中国から完全撤退することになる。同社はかつて中国事業拡大を計画していた」

     

    バンガードは、2018年に中国の投信運用へ新規参入した。当時、中国の投信運用企業と比べ、「コスト面で明確な優位」に立つことを目指した。中国で、同社の指数連動型ファンドが受け入れられるまでには時間がかかるかもしれないが、中国市場がより効率的になり、安定的運用である投資の魅力が高まると予想した。

     

    だが、こうした前提が崩れたのだ。中国の人口高齢化が急速に進むことから、貯蓄率は急激に下がることを見抜いたのである。バンガードは、最低の資産運用コストで顧客に報いる経営方針であるゆえ、これが実現不可能と見たに違いない。低コスト運用という「看板」に傷がつくことを恐れ、2年前に投信事業の申請を取下げたのであろう。そして今回は、全面的な事業撤退という決断に至ったと見られる。中国の投信事業に、将来性がないという最終判断である。

     

    (2)「中国の景気回復や年金改革で、資産運用業界の見通しが改善する中、なお中国事業拡大を急ぐブラックロックやフィデリティ・インターナショナルなどの競合企業にとってバンガードの撤退は教訓となる可能性がある」

     

    バンガードは、世界最大規模の投信運用会社である。そのバンガードが、人口減に突入した中国は、低コストでの投信運用が不可能という判断を下した。これに対して、ライバル企業はこれからどのような判断をするのか。バンガードの決断が、影響を与えるかどうかである。

     

    ここで、2年前にバンガードが投信免許申請を取下げた背景を見ておきたい。

     

    『ブルームバーグ』(21年3月16日付)は、「米バンガード、中国事業で予想外の方針転換 投信免許取得目指さず」と題する記事を掲載した。

     

    米資産運用会社バンガード・グループは中国で投資信託の免許取得を目指す計画を撤回し、現地従業員を削減する。

     

    (3)「バンガードの発表資料によれば、同社は中国フィンテック企業アント・グループとのロボアドバイザー合弁事業の構築に焦点を絞る。中国で完全保有の投信会社を持つことはバンガードにとって今後数十年の成長を目指す上で鍵を握る目標と考えられていただけに、今回の決定は予想外。同社はアジア事業の縮小を続けている。昨年は日本と香港から撤退し、中国政府関係の投資家に運用資産を返還した」

     

    バンガードは、2020年に日本と香港から撤退した。この背景には、合計特殊出生率の低下がある。日本も香港も低かったので、将来性を見限ったものだ。合計特殊出生率の急低下は、人口高齢化=貯蓄率低下を意味する。中国は、2020年の国勢調査で初めて合計特殊出生率が1.30(世銀データでは1.28)と発表した。それ以前は、1.60と発表しており、バンガードはこれを真に受けていたのだ。現実は、人口動態の急悪化が起こっていることに気づき、2022年に投信事業を諦めたのであろう。すべては、中国の高齢化が急スピードで進んでいることが理由と見られる。

     

     

     

     

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