勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    先のG7首脳会議は、ロシアへさらなる経済制裁を見送った。効果は確実に出始めた。資源高騰で外貨を稼いでいるが、経済制裁で部品や技術の供給が止まっている。これにより、国内の鉱工業生産に大きな影響が出る。4月は、3.0%のマイナス成長に落込んだ。これから、マイナス幅が拡大されるはずだ。

     

    『日本経済新聞』(6月30日付 経済教室欄)は、「ロシア経済の強さと弱さ 制裁に伴う在庫不足、大打撃」と題する記事を掲載した。筆者は、ロシア・ユーラシア政治経済ビジネス研究所代表の隈部兼作氏である。

     

    2月24日に始まったウクライナ侵攻により、ロシア経済を取り巻く環境は激変した。西側諸国は外貨準備の凍結、ロシア主要行の国際銀行間通信協会(SWIFT)排除、エネルギー資源の一部禁輸、半導体などの輸出制限、対ロ新規投資の禁止など、ロシアを国際金融システムや世界経済から孤立させる措置を次々と導入した。ウクライナは欧米諸国から供与される重火器などで反撃しており、紛争は長期化が予想される。

     


    (1)「貿易に関しては、ロシア税関庁は侵攻後に通関統計の公表をやめている。対ロ輸出入の60%以上を占める欧州連合(EU)、米国、日本、中国、インドの統計から、これらの国の対ロ貿易が侵攻前後でどう変化したかを見る。34月の対ロ輸入は米国を除き前年比で増えた。資源価格の高騰が主因だ。ただし、制裁に参加している米国、EU、日本は減少傾向で、いち早くエネルギーを禁輸した米国は4月に前年同期比15%減少した。一方、制裁に参加していない中国は4月に57%、インドは253%増加させており、制裁参加国と非参加国の違いが鮮明だ」

     

    インドと中国は、ロシアからの原油輸入が激増している。対ロ制裁で西側諸国は減少し、好対照である。

     

    (2)「特筆すべきは制裁に参加していないインドで、割安なロシア産ウラル原油の輸入を急増させており、ロシアの原油輸出に占める割合は侵攻前の1%から18%に拡大した。インドは輸入した原油を精製し、その一部を米国、フランス、イタリア、英国などに輸出している。インドや中国が制裁の抜け道になると懸念していた欧米諸国は、ロシア産原油が原料であることを知りながら、インドからの石油製品輸入を増やしている。EUはロシア産石油を輸送する船舶への保険提供を禁止し、制裁を科していないインドなどへの輸出を制限する効果に期待するが、こちらも6カ月間の猶予期間があり即効性はない」

     

    インドは、急増するロシア原油を精製して第三国へ輸出して利益を上げている。この便乗商法は、秋に船舶への海上保険付保が禁止されるので、不可能になる。西側諸国は、インドを陣営へ取り込もうとしており、見て見ぬ振りをしている。

     


    (3)「6月に入りロシアから欧州へ天然ガスを輸送するパイプライン「ノルドストリーム」の輸送量が60%減少した。ロシア側の報道によれば、西側企業の撤退で出荷基地の保守・点検・修理ができなくなった。制裁による西側企業の撤退は、エネルギー禁輸よりも早くロシアのエネルギー産業に影響を与えそうだ」

     

    下線部は、極めて重要だ。ロシアの原油出荷基地では、保守・点検・修理業務の6割を西側企業が担ってきた。西側企業の撤退で、前記業務が大幅に滞っている。これにより、ロシアは原油の生産減に追い込まれる。

     

    (4)「各国の対ロ輸出をみると、3月以降大幅に減少した。制裁を科していない中国やインドも減少している。SWIFT除外の影響による海外送金の停滞、半導体などの先端技術の輸出制限強化、サプライチェーン(供給網)の分断などにより、ロシアのビジネス環境は急速に悪化し、企業の撤退や工場の操業停止が相次いでいる。これらの制裁は即効性が高く、ロシアは原材料、設備、部品、高度な技術などを西側から調達することが困難になった。現時点で電子部品などを海外から輸入する自動車工場はすべて操業を停止している」

     

    ロシアの輸入ビジネスが、禁輸の影響を真っ正面から受けている。ロシアは、モノカルチャー経済ゆえに、禁輸の影響は甚大である。想像を超えるマイナス効果が及ぶはずだ。

     


    (5)「ロシア中央銀行の調査では、ロシアの製造業の約4割が代替サプライヤー(部品会社など)を見つけるのが困難で生産に支障を来している。夏以降の生産に不安を抱く企業も多い。
    ロシアは資源価格の高騰で外貨を稼げても、必要な物資や技術を海外から調達できない状況にある。エネルギー資源の生産・輸出についても、今後は西側企業の撤退により保守・点検・修理などが困難となり、生産量が減少する可能性が高い。中長期的にはエネルギー禁輸や船舶保険の提供禁止の発動により輸出も減少していくと考えられる

     

    ロシアは資源価格高騰で外貨を稼いでいるが、その外貨を使った肝心の輸入ができないのだ。モノカルチャー経済最大の弱点である。中長期的には、海上保険の付保禁止の影響が、これからのし掛ってくる。

     

    (6)「4月以降のロシア経済は景気後退が一段と鮮明になった。1~3月の実質経済成長率は3.%に達したが、4月は3.%のマイナスとなった。鉱工業生産は1.%減、小売売上高は9.%減など、経済指標は軒並み悪化している。1~5月の経常収支は資源価格の高騰による輸出増加と輸入激減から1103億ドルの黒字を計上し、一時暴落したルーブル相場は侵攻前よりも強くなった。だが、外貨があっても必要な物資や技術を海外から調達できない結果ともいえる」

     

    外貨があっても、必要な物資や技術を海外から調達できない結果、下線部のように経済指標は軒並み悪化している。インドや中国では、その代役ができないのだ。

     


    (7)「ロシアの連邦財政をみると、14月は歳入が前年比34%増えた。資源価格の高騰で石油ガス収入が91%増えたことが大きい。他方、非石油ガス収入は制裁による景気後退で5.%の増加にとどまり、侵攻後の34月は単月で前年よりも減少した。一方、歳出は3月以降急増し、4月は前年比40%増えた。ロシア財務省は侵攻後、歳出の内訳を公表せず詳細は不明だが、一部報道から算出すると4月の国防費が前年比約150%増えたことが原因とみられる。4月の連邦財政は赤字となった。22年の国防予算は3.5兆ルーブル(約9兆円)が計上されていたが、4月時点で4割強の1.5兆ルーブルが使われたことになる」

     

    歳入は、石油関連が増えても非石油関連が減少し、トータルでは減っている。歳出は、国防費関連が激増し、財政赤字に陥っている。

     

    (8)「今後も国防費が膨らむのは確実だ。ロシア政府は4月に国民福祉基金の資金の繰り入れと使途に関するルールを変更した。同月だけで基金残高は約2兆ルーブル減っており、戦費流用の可能性を指摘する専門家もいる。今後問題になる失業対策や年金などの社会保障についても、国防費が財政を圧迫する中で手当てせねばならない。原材料や部品の在庫が底をつき始める夏以降に、経済は厳しい状況になるだろう」

     

    国防費激増分を賄うべく、国民福祉基金を流用し始めている。財政も悪化は必至である。輸入の原材料や部品の在庫が、夏以降に底をつく。これから、ロシア経済の危機が表面化するだろう。



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    ドイツ経済は、1990年の東西ドイツの統合後、経済成長失速に見舞われた。だが、EU(欧州連合)発足の1993年を機にして、ドイツにとって割安なユーロを武器に輸出急拡大を実現した。特に、ロシアや中国への接近が、ドイツ経済の起死回生につながった。

     

    その中ロが、西側諸国にとって安全保障上のライバルになった以上、ドイツのロシアや中国への政策は抜本見直しを迫られている。大きな衝撃である。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月28日付)は、「ドイツの牧歌的状況の終わり」と題するコラムを掲載した。

     

    先週末、ドイツは平常通りに見えた。柔和なオラフ・ショルツ首相は他の先進7カ国(G7)首脳やゲストたちを、バイエルン州のアルプス山脈に囲まれた豪華なエルマウ城に迎え入れた。しかし、外見は当てにならない。ドイツは第2次世界大戦後の連邦共和国の建国以来、最大の試練に直面している。

     


    (1)「これは突然起きたことだ。2020年の時点では、ほぼ全世界がドイツの独善的な自己評価に同意していた。つまり、ドイツは世界で最も成功した経済モデルを構築し、世界で最も野心的な気候変動対策に着手しておおむね成功し、極めて低コストで自国の安全保障と国際的な人気を確保する「価値に基づく外交政策」を完成させた、というものだ」

     

    これまで、ドイツの経済成長は順風満帆であった。対米外交では、独自性を主張して「我が道を行く」スタイルであった。中ロに太いパイプを築いてきたからだ。防衛費も対GDP比1%と最低に抑制してきた。この状況が、ロシアのウクライナ侵攻で、根本から引っ繰り返った。

     


    (2)「そのいずれも真実ではなかった。ドイツの経済モデルは世界政治に関する非現実的な想定に基づいており、現在の混乱を乗り切れる可能性は低い。ドイツのエネルギー政策は大混乱しており、他の国々にとって何をすべきでないかを示す格好の例となっている。ドイツの「価値に基づく外交政策」への評判は、ウクライナ支援をめぐる煮え切れない対応によって大きく傷ついた。そして、ドイツの安全保障専門家らは、非常に不愉快な真実を受け入れつつある。攻撃的なロシアと対峙(たいじ)すると、ドイツは欧州全体と同様に、安全保障面で米国に完全に依存するということだ」

     

    ドイツは、ウクライナ侵攻後に大慌てで米国から防空システムを購入した。防衛費も対GDP比2%へ引上げると発表し、「歴史的転換点」と国際情勢急変に驚愕した。日本と比べて、極めてナイーブであり過ぎたのだ。それまでのドイツは、日米一体化を日本外交の独自性喪失とみていたほど。ドイツは、目を覚ましたのだ。

     


    (3)「ショルツ氏と同氏の連立政権は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻を受け、ドイツの基準で見れば一連の「革命的な変化」で対応してきた。ドイツは再軍備を始めているほか、出だしでつまずきながらもウクライナに兵器を供与している。野心的な気候変動政策を犠牲にしてまでも、ロシアからエネルギー面で独立するための第一歩を踏み出した。石炭火力発電所を徐々に復活させ、新たな天然ガス処理工場を建設する予定だ。欧州全体に対しては、もはや現実的に思えなくなった脱炭素の義務化の先送りを求めている」

     

    このパラグラフのように、ドイツは空想的世界でうたた寝を愉しんでいた。エネルギー政策は、ロシア(天然ガス)とフランス(原発)に依存し、自らは手を汚さずに気候変動政策に熱中してきた。これらの人任せのエネルギー安保政策が破綻したのだ。かねてから、米国が厳しく批判して来た点である。

     

    (4)「しかし、本当の仕事はまだなされていない。現代ドイツの国づくりは、何よりも経済プロジェクトだった。1949年に再建された瞬間から、中心的な目標は経済成長だった。経済成長は戦争による破壊を修復し、平和的な西欧への統合を促進し、共産主義の魅力を低下させた。国民の多大な努力、政治家の現実的な政策、企業経営陣の技能と決意、そして米国主導の世界秩序の形成がもたらした望ましい国際環境により、ドイツ経済は最高潮に達した」

     

    ドイツは、米国主導の世界秩序(NATO)の下で、経済的繁栄を謳歌してきた。この批判は、安倍政権登場までの日本へも向けられた批判である。世界の安全保障政策に責任を分かち合わないという共通の批判だ。

     


    (5)「近年のドイツの経済的な奇跡は、工業力、ロシアから調達する安いエネルギー、世界市場(とりわけ中国市場)へのアクセスという三つの要素に依拠してきた。現在、これらの全てが脅威にさらされている。1世紀にわたる産業界の取り組みを通じてドイツが身に付けてきた自動車の技術は、電気自動車(EV)へのシフトによる挑戦を受けている。19世紀以降、自国の技術で世界をけん引してきた化学業界は、世界的な競争が激化する中、環境面での試練に直面している」

     

    ドイツの経済的な奇跡は、次の三つの要素に依存してきた。

    1)高い工業力水準

    2)ロシアから調達する安いエネルギー

    3)中国市場へのアクセス

     

    ドイツは、前記の「成長三要素」のうち、ロシアを失い、中国はセーブされる。大きな痛手になることは避けられまい。

     

    (6)「ショルツ氏は、リベラルな価値観の重要性や気候変動の危険性に関して、理論上はジョー・バイデン米大統領に賛同するかもしれない。しかし、ドイツの実情を踏まえて計算するはずだ。当然ながら、それはロシアや中国との関係をいかに修復すべきか、という考え方につながる。バイデン氏の仕事は、ショルツ氏とともに西側の価値観を賛美することではなく、米国による安全保障の傘には代償が伴うことを独政府に理解させることだ。世界中で危機が拡大し深刻化している今、米国の政治的現実を考えれば、ドイツは米国を支えるためにさらに行動しなければ米国からの支援継続を期待することはできない」。

     

    ドイツは、いずれ自国の国益追求でロシアや中国の関係修復に動き出すかも知れない。だが、ドイツは安全保障で米国を助ける行動が求められる。そうでなければ、米国から安保上のメリットを受けられないことを知るべきである。日本は、すでに日米安全保障で同一歩調を取っている。ドイツも、同じことが求められるであろう。

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    中国の高利貸し手法による融資は、発展途上国の財政を悪化させている。こうした被害拡大を防ぐべく、G7(先進7ヶ国)が6000億ドルの融資で健全なインフラ投資を支援することになった。遅ればせながら、中国の野望を食止める防壁がまた一つ増える。

     

    『ハンギョレ新聞』(6月28日付)は、「G7、中国の一帯一路に対抗し 途上国などに6千億ドル投資」と題する記事を掲載した。

     

    米国をはじめとする主要7カ国(G7)が中国の一帯一路事業に対抗し、開発途上国のインフラに6000億ドルを投資すると発表した」

     


    (1)
    「ドイツ南部バイエルン州エルマウ城で開かれている主要7カ国首脳会議に出席した米国のジョー・バイデン大統領は26日(現地時間)、米国がアジアやアフリカなどの途上国と中進国のインフラ開発に5年間2000億ドルを投入する計画だと明らかにした。さらに、他のG7構成国と欧州諸国まで含めた投資目標額は6000億ドルだとし、このような内容の「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」の発足を宣言した」

     

    今後5年間で、米国が2000億ドル、他のG7やEU(欧州連合)まで含めれば、合計6000億ドルのインフラ投資を支援する。中国の高利で担保を必要とする「商業的融資」と区別した、受益国本位のインフラ投資支援だ。中国は、自国利益の視点から融資先を選んでおり、受益国の利益を無視した融資である。

     


    (2)「バイデン大統領は、「途上国はパンデミックのようなグローバルな衝撃を乗り越えていくのに必要な基盤がない場合が多い」として、「これは単に人道主義の面で懸念すべきことではなく、我々皆の経済と安全保障の面での懸念事項だ」と述べた。また「我々は世界各地の主なインフラ投資で、各国とその市民により良い選択肢を提供している」とし、「透明性やパートナーシップ、労働と環境保護」を追求すると明らかにした。「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」は気候変化と清浄エネルギー▽安全で開放的なインターネットと情報システム▽性平等と公正性▽保健インフラの改善を4大軸としている」

     

    下線部で、融資の目的を明らかにしている。西側諸国にとっての安全保障に資するという視点が強調されている。これは同時に、中国が狙っている地域でもあり、先手を打って中国の進出を食止める狙いである。中国の「一帯一路」は、中国の国益確保が前面に出ている。

     


    (3)「ホワイトハウスは説明資料で、同事業の財源は政府資金と民間投資から作られると明らかにした。 ホワイトハウスは、米国機関が参加する初期事業として、アンゴラの太陽電池パネル事業やセネガルのワクチン製造施設、シンガポールから東アフリカを経てフランスにつながる通信網、インド農村投資ファンドなどを挙げた」

     

    具体的なプロジェクトも上げられている。中国が手がけられないようなプロジェクトが入っている。ワクチン製造施設や通信網、農村投資ファンドなど民間資金も導入した大掛かりなものが予想される。中国の一帯一路プロジェクトでは、橋・空港・トンネル・港湾・建物といった土木事業が主体である。これよりもはるかに高度な内容のプロジェクトが見込まれる。

     


    (4)「『グローバル・インフラ投資パートナーシップ』は、ユーラシア各地を鉄道や道路、港湾と5世代(5G)通信網で自国と連結する中国の一帯一路に対応する事業だ。米政府高官はブリーフィングで「(一帯一路事業として)支援を受け、いわゆる投資を受ける国々は数年後、借金がさらに増えたことに気づく」とし、「その投資というのはその国の人々に届かない」と主張した。また、米国などが参加した事業は負債を増やす方式にはならないとも述べた」

     

    中国の「債務漬け融資」は、実に巧妙な形で行なわれている。先ず政治家を賄賂で抱き込み、過剰な融資で返済不能にさせ、担保を取り上げる「悪徳商法」そのものだ。こういう悪例から見れば、今回の先進国のインフラ投資支援は、受益国本位の投資内容になっている。

     


    (5)「主要7カ国の首脳は同日、ウクライナへの支援やロシアへの圧迫強化策についても話し合った。参加国の首脳らは、ロシア産の金の輸入禁止も発表する予定だ。ロシアの最大輸入源である石油に価格上限制を適用することも議論されている。購買者がカルテルを形成し、ロシア産石油価格を制限しようという内容だ。ウクライナ戦争で悪化した食糧とエネルギー供給、インフレへの対処も主要テーマとなっている」

     

    G7首脳は27日、ロシアとの戦闘が続くウクライナへの支持を長期的に継続する姿勢を強調した。G7首脳は、将来の平和的解決はウクライナの決断次第との考えを示しつつ、ウクライナが緊急に必要とする軍装備品などの供給で協力を継続する方針を示したものだ。G7内では、ウクライナ支援について温度差のあることが伝えられていたが、最終的に「支援継続」「和平はウクライナの決めること」と決定した。ウクライナ側は、「この冬までに和平を考える」としている。

     

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    先進国では、領土拡大を意味する植民地主義が、19世紀の遺物として清算済である。ロシアは、未だにこれにしがみついており、世界の平和にとって大きな障害であることが浮き彫りになった。こういう「時代遅れ」の国に対して、どのように対応するのか。悩みは深い。

     

    ロシアの領土拡大の欲望は、止まるところを知らないようだ。6月初め、プーチン氏はウクライナについて、第一歩にすぎないと述べ、他の多くの領土も潜在的な標的とみていることが分かった。9日には初代ロシア皇帝のピョートル大帝の生誕350周年を記念する展覧会に出向き、ピョートル大帝がスウェーデンから獲得した領土について、「彼は私たちの領土を取り戻し、強化しただけだ」と笑みを浮かべて説明した。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月27日付)は、「プーチン氏『帝国の野望』 どこまで目指すのか」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「初代ロシア皇帝のピョートル大帝の生誕350周年を記念する展覧会で、プーチン氏は次のように語った。「(土地を)取り戻して強化することがわれわれの運命のようだ」と述べ、ウクライナ戦争がピョートル大帝の戦争のように、20年以上続く可能性を示唆した。大統領補佐官のウラジーミル・メジンスキー氏はさらに露骨で、モスクワが地球の表面の6分の1を支配していたときより領土が大幅に縮小したと嘆き、不運な後退は「いつまでも続かない」と述べた」

     

    領土拡大を歴史の使命とするプーチン氏は、歴史を動かす原動力が「イノベーション」であることの認識がない。領土重視=資源重視=モノカルチャー経済という必然的な衰退コースを歩んでいる。この意味で、20年後のロシアは確実に弱小国へ転落するに違いない。科学革命の経験がない国家の悲劇である。

     


    (2)「領土の回復を訴えるこうした発言は1991年のソビエト連邦崩壊を巡る積年の憤りによるところが大きい。プーチン氏が20世紀最大の惨劇だとするソ連崩壊で、ロシアは歴代皇帝が積み上げた人口と領土のほぼ半分を失った。これをきっかけに世界の超大国は権威を失って、貧困や汚職、反乱に悩まされる破綻国家となった。ロシア政府はエストニアやリトアニア――両国ともNATOと欧州連合(EU)に加盟している――やモルドバ――ロシア軍高官が標的として最近引き合いに出した――などの隣国に新たに脅しをちらつかせている」

     

    ロシアは、1991年のソ連崩壊で領土も人口も失った。正確に言えば、これまでの支配が異常であり、正常化されたにすぎない。これを歴史の屈辱と捉えているが、大きな間違いだ。

     

    戦後の日本も同じ境遇に陥った。後に総理になる石橋湛山(当時:東洋経済新報社社長)は敗戦の年、『東洋経済新報(週刊東洋経済)』8月25日号社説)で、「更正日本の針路」と題し、日本は領土を失っても悲観することはない、技術でこれを補えると鼓舞した。その後の日本経済は、現実に復興を果たした。ロシアには、石橋湛山のような思想も人物もいないのだろう。ロシアが今後、発展できない理由はこれだ。

     


    (3)「ウクライナでのぶざまな後退こそが、プーチン氏を戦争の拡大に追いやる可能性があると警告するのは、ロシアの野党政治家でかつてはプーチン氏に助言したマラト・ゲルマン氏だ。「国内で大統領の支持率が脅威にさらされている。大統領は自分が拡大し、資金を注いできた偉大な軍隊がなぜウクライナの抵抗に対応できないかを説明できない」と同氏は言う。「従って大統領はウクライナとだけでなく、世界全体と戦う新たな次元に全てを移行させる必要がある。それゆえプーチン氏は別の犠牲者を選ぶ危険がある」。戦争が拡大すれば、民間人の軍への動員と、ロシアにまだ存在する数少ない市民的自由の排除が正当化される可能性がある、と同氏は指摘する」

     

    プーチン氏が、ウクライナ敗北で引き下がる男ではない。戦線を拡大して勝つまで戦うだろう。これは、見過ごしにできない重要な点である。

     


    (4)「ロシアが軍事的な問題を抱えているにもかかわらず、ウクライナ戦争の終結はほど遠い。ロシアは年単位の戦争に備えながら、ドンバス地方で前進を続けており、ウクライナ併合という当初の目標を変えていない。国家安全保障会議の副議長を務めるドミトリー・メドベージェフ前大統領は今月、「ウクライナが2年後に世界地図に残っていると誰が言ったか」と述べた。一部の欧州の指導者にとってこれらの発言が意味するところは、ウクライナの大部分がロシアに支配された状態で停戦が実現し、ロシアが消耗した軍を再編・再建して、新たな攻撃に向けて準備をすることができれば、最終的に他の欧州の国がプーチン氏の標的になる、ということだ

     

    ウクライナ戦争は、簡単に終わらないだろうという見方である。プーチン氏が、敗北を受入れない男であるからだ。

     

    (5)「エストニアを含むバルト3国は、建前上はNATO加盟によって保護されているが、NATOが現在、この地域を含めた東欧に配置している兵力は少なく、ロシアの全面侵攻を軍事的に撃退するには十分ではない。東欧最大の国ポーランドでさえ、軍隊はウクライナ軍ほど強くはなく、戦闘で鍛えられてもいない。一部の西側の軍事専門家によると、ロシア軍はエストニアの首都タリンをわずか1日で占領できるという。ポーランド国防省が2021年に実施した軍事演習では、同国軍は5日間でロシアに完敗するとの結論に達した」

     

    バルト3国は、ロシアの戦闘拡大に最も警戒している。エストニアの首都タリンは、わずか1日で占領されるという。米軍が、バルト3国へ常駐するので、ロシア軍も簡単に手を出せない状況だ。

     

    (6)「元駐NATO米大使でシンクタンク「シカゴ・グローバル評議会(CCGA)」会長のイボ・ダルダー氏によれば、ロシアがNATO加盟国に対して軍事侵攻した場合、現状では米国は間違いなく迅速に対応するという。ウクライナでの経験とは違って、ロシアの空軍は数日で破壊され、地上部隊はNATOの優れた空軍力に太刀打ちできないだろう。しかし、米国でより孤立主義的な政権が成立すれば、状況は変わるかもしれない」

     

    米軍とNATO軍がロシア軍と戦えば、帰趨ははっきりしている。ただ、米国でトランプ氏のような孤立主義者が政権につくと状況は変わる。欧州はその場合、悲劇再現となるリスクが高まる。

     

     

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    6月26日を以て、ロシア国債のデフォルト(債務不履行)が最終確定した。1918年以来の「歴史的事件」である。ロシアは、今回デフォルト状態に陥ったことで、経済、金融、政治の面での孤立が急速に進むという厳しい現実を示している。

     

    いかなる国といえども、世界覇権を握る西側諸国と軍事対決すると、このような冷酷な事態が起こることを示す象徴的な事例であろう。中国が軍事侵攻をすれば、ロシアと同様の結果を招くという意味で、重大な警告になる。

     


    『ブルームバーグ』(6月27日付)は、「ロシア国債がデフォルト状態、約1世紀ぶりー利払い猶予26日終了」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアが外貨建てソブリン債のデフォルト(債務不履行)状態に陥った。旧ソ連の初代指導者レーニンが帝政ロシア時代の債務の履行を拒否した1918年以来、約100年ぶりとなる。同国のウクライナ侵攻に対して米国と西側諸国が科した金融制裁が国外債権者への支払いルートを閉ざした結果、2件のユーロ債の利払いが履行できなくなった。

     

    (1)「債権者が5月27日の期日に受け取るはずだった約1億ドル(約135億円)の利払い猶予期間が26日に終了した。期限内に支払われない場合、デフォルト事由と見なされる。ロシア側はこれに対し、いかなる支払い義務も履行する資金があるにもかかわらず不払いを余儀なくされていると主張し、デフォルトの指定に反対する構えを示す。同国政府は先週、発行残高400億ドル相当のソブリン債について、ルーブルでの返済に切り替えると発表。西側が人為的に生じさせた「不可抗力」の状況だと批判した」

     

    ロシア側は、今回のデフォルト措置に反対意向を示している。支払う資金があるにもかかわらず、支払い手段を奪われたとしている。ロシアは、デフォルト判定された後の混乱を恐れている。世界の金融網から遮断されるからだ。

     

    (2)「デフォルトは、正式には格付け会社が通常認定するが、欧州連合(EU)が制裁強化の一環でロシアの発行体への格付けを禁止したため、S&Pグローバル・レーティングなど主要格付け会社は、既存の格付けを全て取り下げた。ロシアが発行したユーロ債は3月初め以降、発行体を破綻状態として扱うディストレスト水準で取引されてきた。中央銀行の外貨準備が凍結され、上位金融機関も国際金融システムから締め出されており、今回デフォルト状態に陥ったことは、ロシアの経済、金融、政治的孤立が急速に進む厳しい現実を浮き彫りにする。ただ、ロシアの経済と市場が既に被っている打撃を考えると、デフォルトは差し当たり象徴的意味合いが大きく、2桁のインフレと数年ぶりの深刻な景気縮小に見舞われるロシア国民への影響は限定的となりそうだ」

     

    デフォルト判定は、世界の主要格付け会社が行なう。EUは、ロシアの債券発行体の格付けを禁止している。「無格付け」の債券発行は不可能ゆえに、ロシアは孤立させられる。ただ、国民生活への影響は当面、限定的とされる。影響が出るのは、ロシア経済が大きく傾いた場合だ。来年以降となろう。

     

    (3)「ルーミス・セイレス・アンド・カンパニーのシニア・ソブリンアナリストのハッサン・マリク氏は、「違う状況なら返済手段を持つ政府が、外国政府によって債務不履行を余儀なくされる極めて珍しい事態だ。歴史の転機となる大きなデフォルトの一つになるだろう」と指摘した」

     

    このパラグラフは、支払う資金があってもデフォルトになるという珍しい事例である。政治的な理由で、今後も他国で起こり得る先例になる。さしずめ、中国が次の候補国であろう。

     

    (4)「猶予期間が終了したユーロ債に関する文書によると、発行残高の25%を占める保有者が「デフォルト事由」が発生したと認めれば、債権者自身でデフォルトと認定できる。同文書によれば、請求が無効になるには、支払期日から3年経過する必要があり、債権者側は直ちに行動する必要はない。経済制裁が最終的に緩和されると期待し、ウクライナでの戦争の今後の展開を見守る選択もあり得る

     

    下線部では、ロシアへの経済制裁が解除される場合を想定している。短期間の制裁で済むだろうか。ロシアが、ウクライナの復興資金を負担させられる事態になれば、絶対に拒否するであろう。となれば、制裁は解除されるはずがない。

     

    もう一つの注目点は、EUがロシはからのエネルギー輸入を他国へ切り変えることだ。ロシアは、大手輸出先を失うので経済失速が続く。ロシア国債の格付けは、低位に沈むだろう。ロシアは今後、ウクライナ侵攻で失ったものが、人命のほかに余りにも大きいことを悟らされるはずだ。

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