勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 米国経済ニュース時評

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    日本製鉄が、150億ドル(約2兆1100億円)で米鉄鋼大手USスチールを買収する件が、米国政府の承認段階で不透明になっている。理由は価格ではない。条件でもなければ、株主でもない。今年が大統領選イヤーであることから、政治の思惑が絡んでいることだ。一時は、バイデン大統領が合併拒否姿勢と伝えられるなど混乱したが、結論は大統領選後に持ち越されそうである。つまり、政治的決定から免れるのだ。

     

    今回の合併をもつれさせている裏に、もう一つの「事情」が存在する。USスチールとの合併を狙っていた米鉄鋼2位のクリーブランド・クリフスである。USスチールとの合併で日鉄に競り負けたことで反撃しているのだ。全米鉄鋼労組(USW)を反対派に巻き込んでいる。だが、肝心のUSスチール労組は、日鉄との合併賛成派である。このねじれた関係が、事態を複雑にさせている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月17日付)は、「クリフスと日鉄の因縁、停滞招く保護主義」と題する記事を掲載した。

     

    USスチール買収合戦が本格化したのは2023年8月だ。米鉄鋼2位のクリーブランド・クリフスが名乗りをあげた。その後、日鉄が上回る価格を提示しクリフスは競り負けた。クリフスはその後もUSスチール買収に執念を燃やす。日鉄が買収したUSスチールに規模で抜かれることへの危機感が背景にある。

     

    (1)「クリフスとはどのような会社なのか。創業は1847年と古いが、製鉄参入は比較的最近だ。もともとは資源会社で鉄鉱石を米国の鉄鋼会社に販売してきた。一貫製鉄所の運営を本格化したのは20年にオハイオ州の鉄鋼大手、AKスチールを買収してからだ。成長の原動力の一つとなったのは同年に欧州アルセロール・ミタルから米国事業を買収したことだ。実はこのときに買収した2つの工場はミタルと日鉄の合弁で日鉄も出資していた。買収でクリフスは付加価値品である自動車鋼板にも本格的に参入した」

     

    クリフスは、合併を繰返して規模が大きくなった企業である。それだけに、「中身」が伴わない憾みがあり、USスチールが合併先として忌避したのであろう。日鉄であれば、同年の創立で「社格」にも不満はない。当然の選択であったに違いない。

     

    (2)「日鉄を批判し続けるクリフスだが、日本企業との縁は実は深い。ローレンコ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)は、かつてJFEスチールが出資していた鉄鋼会社の出身だ。クリフスが買収したAKスチールも、過去にJFEの前身の川崎製鉄が出資していた。買収を繰り返し、売上高は過去5年で10倍に膨らんだが、市場の目は厳しい。時価総額は米鉄鋼大手で最下位であり、足元ではUSスチールにも抜かれた。巨大化を急ぐあまり、構造改革が遅れている」

     

    クリフスの社歴からみても、日本の鉄鋼界の事情に詳しいはずである。日鉄が、どういう企業であるかを十分に理解しているであろう。この日鉄が、USスチールと合併すれば、クリフスの出る幕がなくなる。そういう危機感の裏返しが、日鉄批判には潜んでいる。強敵という認識だ。

     

    (3)「9月5日には、日鉄による買収が失敗したらUSスチールの資産を買収すると表明したが、株価は翌日に年初来安値を更新。16日も1.%安だった。シティーグループは、「特に付加価値の高い鋼板の利益貢献が想定を下回っている」と分析する。停滞の焦りからクリフスが傾注しているのが輸入鋼材の締め出しだ。トランプ政権時から政界への影響力を高め、輸入関税を強化するよう働きかけてきた。政治力が強い全米鉄鋼労働組合(USW)との結束もこうした背景と無関係ではない」

     

    クリフスの「体力」のなさは、市場が見透かしている。日鉄による買収が失敗したらUSスチールの資産を買収すると表明して以来、株価が下落し続けている。クリフスには、USスチールを合併する力がないと判断されているのだ。

     

    (4)「クリフスとUSWは、「日鉄が中国などから安価な鋼材を流入させ、米国の労働力を脅かしている」との主張を崩していない。日鉄が米国の輸入材への関税措置を阻害していると懸念する米政府の主張とも重なる。米国の鉄鋼業界は、米政府が断続的に打ち出す貿易管理など保護主義的な政策で輸入品から国内雇用や生産を守ることに終始した結果、抜本的な改革が遅れた歴史がある。政府による過度な産業保護は結果的にUSスチールの身売りにつながった。保護主義に傾注するあまり改革が遅れれば、クリフスも第2のUSスチールになりかねない。株価の低迷はそうした懸念を如実に示している」

     

    クリフスとUSWは、日鉄とUSスチールの合併反対論を唱えている。この反対論が通れば、米国鉄鋼界は「終わり」となる。保護主義で競争力を失うからだ。バイデン政権は、今こそ米鉄鋼100年の計に思いをいたすべきであろう。

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    グローバル企業の多くが、投資先として中国の優先順位を引き下げ、事業を整理統合している。主な理由は景気減速と利益率の低下である。先週発表された在中国欧州連合(EU)商工会議所と在上海米国商工会議所による二つの報告書は、こうした先行き不安な投資動向を浮き彫りにした。中国は、もはや「世界の工場」の地位を失い始めた。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月16日付)は、「外資の中国離れ鮮明、投資意欲が後退」と題する記事を掲載した。

     

    在上海米国商工会議所の鄭芸(エリック・ジャン)会頭は、「中国でビジネスを行うリスクはここ数年で高まり、それと同時に市場が減速している」と、こう述べた。同会議所のアンケート調査によると、本社の最重要投資先が中国だと答えた企業の割合は、25年前に年次調査が始まってから最も低い水準に落ち込んだ。

     

    (1)中国も既に気づいている。上海市政府は8月、最も切迫した経済課題の一つは「フルーツチェーン」(果物のサプライチェーン)の空洞化だと述べた。これは米アップルが、一部の電子機器の生産拠点をインドやベトナムなどに分散する動きを指す。こうした決断を後押しするのは、長引く経済の低迷に加え、国内競争の激化、地政学的緊張、アジアの代替生産地が台頭していることだ。欧米の商工会議所によると、もはや中国市場の利益率が他市場を上回るわけではないという」

     

    中国撤退の象徴的な事例は、アップルが、一部の電子機器の生産拠点をインドやベトナムなどに分散していることだ。アップルが、生産拠点の分散を始めたことは、地政学的リスクの重視である。

     

    (2)「米小売り大手ウォルマートは先月、8年前から保有していた中国電子商取引大手、京東商城(JDドットコム)の株式を36億ドル(約5100億円)で売却した。米IBMは中国にある研究開発拠点を閉鎖することを決め、1000人余りの雇用に影響する見通しだ。自動車メーカー各社は中国事業の縮小を進めている。今や乗用車市場の6割近くを中国車が占めるからだ。中国で販売される新車は、今夏の時点で大半が電気自動車(EV)かプラグインハイブリッド車(PHV)となっており、外国自動車メーカーが長く優位を保ってきた純粋なガソリン車ではない」

     

    米ウォルマートは、京東商城(JDドットコム)の株式を売却した。株価の上昇が見込めなくなったからだ。

     

    (3)「日本のホンダは最近、中国3工場を一時稼働停止にしたほか、希望退職を通じた人員削減も進めている。ホンダの中国での4~6月期新車販売台数は、前年同期比32%減の20万9000台にとどまった。2023年の中国に対する外国直接投資(FDI)は人民元ベースで前年比8%減少した。国連のデータによると、中国よりはるかに人口が少ないインドネシアは「グリーンフィールド投資」を呼び込んだ額で上回っている。グリーンフィールド投資とは、新しい施設を一から作り上げることを指す」

     

    中国自動車市場は、政府補助金を得た地元企業が、大乱売合戦を続けている。外資系企業もこれに巻き込まるほどだ。中国よりも人口の少ないインドネシアは、外資系企業が投資を盛んに行っている。地政学リスクのないことが投資を促進させている。

     

    (4)「もちろん、大半の企業は中国から完全に撤退するわけではない。大多数は既存事業を継続させようとしており、中には、中国の技術を常に把握していれば自らの競争優位を磨くことに役立つと話す企業もある。ウォルマートは、会員制倉庫型店舗「サムズクラブ」の中国での出店数を増やしている。EU商工会議所が5月に実施した年次調査では、15%の企業が中国を最重要投資先だと答えた。そう答える企業は長年にわたり20%前後だった。米国商工会議所が実施した別の調査では、回答した企業306社のうち約20%が今年は中国への投資を減らすと答えた。景気減速への懸念や、インドやベトナムなどに投資を振り向ける動きを理由に挙げた」

     

    ウォルマートは、会員制倉庫型店舗「サムズクラブ」の中国での出店数を増やしている。低販売合戦で勝てる見込みがあるのだろう。

     

    (5)「多国籍企業は10~20年前に、豊富な安い労働力と人口14億人が秘める購買力に引かれ、中国に大挙して押し寄せた。内需が回復すれば、中国は多国籍企業の投資先の優先順位でトップに返り咲くだろう、と在上海米国商工会議所のアラン・ガボール会長は言う。「それは経済の問題だ。需要サイドの要因がより大きい。企業は中国のために中国にいる」と指摘する」

     

    中国は内需が回復すれば、多国籍企業の投資先として復活するだろう。問題は、その可能性があるかだ。習氏の経済政策が、転換しない限り不可能である。

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    16日午後22時過ぎ、ドル円相場は一時140円を突破して「円買い」勢力が強くなっている。この結果、市場では年内に135円や137円といった声が聞かれるほどだ。目先の関門は、17~18日にFRB(連邦準備制度理事会)が利下げ幅を0.25%か0.50%にするかによって、円相場の動きは異なる。今回の利上げが、米国の中立金利を早く4%以下にする政策意図があれば、0.5%利下げもありうるという。微妙なところである。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月13日付)は、「FRBの利下げジレンマ『大きく始めるか小さく始めるか』」と題する記事を掲載した。 

    米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は、FRBが17~18日の利下げに備える中、難しい判断を迫られている。それは小さく始めるか、大きく始めるかということだ。 

    (1)「FRBは、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で2020年以来となる利下げに踏み切ることが確実な情勢だ。FRB当局者らは、今後数カ月間に複数回の利下げを実施できるとの自信が高まっていることを示唆しているため、利下げ幅を伝統的な0.25ポイントにするか、さらに幅広い0.5ポイントにするかという問題に直面している」 

    .25%か、0.5%の利下げか。市場は固唾を飲んで見守っている。

     

    (2)「来週のFOMCで公表される四半期に一度の経済見通しが、問題をさらに複雑にする可能性がある。この見通しは、当局者が年内に何回の利下げを予想しているかを示す。FRBは年内にあと3回の会合を残している。来週と11月と12月に1回ずつだ。市場はFRBが年内に1ポイントを超える利下げをすると見込んでいるため、それよりも小幅な見通しが示されれば、市場の期待が後退して金融環境が引き締まり、FRBがまさに利下げしようとしている時に借り入れコストが上昇しかねない」 

    市場は、年内1%の利下げを見込んでいる。この想定が崩れると金利が跳ね上がるリスクが生まれる。市場との対話を重視するFRBが、市場の期待を裏切れないであろう。 

    (3)「FRBは通常、0.25ポイントの幅で動くことを好む。小幅の調整であれば、政策変更の影響について調べる時間を多くとれるからだ。一部の当局者は、景気が一層減速しているように見えるようになってからペースを上げる方が良いとの見方を示している。一方で、11月と12月に0.5ポイントの利下げが実施される公算が大きいと考えているのなら、金利が最終的な目標からより遠い今こそ動くべきだ、と当局者が結論付ける可能性もある。現・元当局者によると、より小幅で始めることを支持する意見は、経済が基本的に好調だとみなしている。彼らは、0.5ポイントで利下げを始めると、経済についてより大きな警告を発することになり、市場がより速いペースの利下げを見込むようになる可能性があると指摘する。それは市場が上昇するきっかけとなり、インフレとの戦いを終えるのをより困難にする恐れがある」 

    利下げが、0.25%から始まれば社会は安心する。だが、0.5%から入ると、景気が危ないのかと警戒観を持つようになるので、さらなる大幅利下げを求められると危惧する。

     

    (2)「FRBが、広範なコンセンサスの形成を好むことや、大統領選直前に通常より大幅な利下げを行う理由の説明が難しいことを考えれば、0.25ポイントの利下げから緩和を始めるのが最も抵抗感の小さい手法になる。2011~2023年にカンザスシティー地区連銀総裁を務めたエスター・ジョージ氏は「0.25ポイントが最初の利下げとしてはやりやすい」と指摘。「『しばらくは金利を高めに維持するとか、経済がさらに弱まるように見えればもっと積極的な利下げができるとか』言うことができる」と語った」 

    11月の大統領選を控えて、0.25%利下げが穏当としている。 

    (3)「通常より大幅な利下げで緩和をスタートさせるのを正当化する主な理由は、これまでの利上げで成長がさらに鈍化するリスクに対して保険をかけるというものだ。現在ジョンズ・ホプキンズ大学金融経済学センターの研究員を務めているファウスト氏は「今われわれは、予防的な0.5ポイントの利下げを声高に求めるような状況にないと思う。しかし、私個人としては0.5ポイントの利下げから始める方がやや好ましいと思う。私は依然、FOMCでもそうした決定が下される可能性は十分あると思っている」と語った。ファウスト氏は、FRBが大幅利下げに踏み切る場合、「それを怖く見せないために、多くの文言を」費やすことで、投資家をおびえさせかねないという懸念を抑制できると思うと述べ、「それが不安な状況の兆しになってはならない」と付言した」 

    .5%利下げが、先行き経済を悲観しているのでないことを十分に説明して行うべきである、としている。

     

    (4)「ファウスト氏はまた、年内に計1.00ポイントの利下げがあるとの見通しを何人かのFRB当局者が示すと思うと語った。その場合、0.25ポイントの利下げからスタートすると、その後今年末までにより大幅な利下げを予想しているのに、なぜ初回にそれをしなかったのかという、変な疑問を生じさせるリスクが出てくるという。 

    年内に1%ポイントの利下げ論が有力である。この場合、初めに0.5%引下げ後2回で、0.25%づつ引下げれば理屈にあうとしている。 

    (5)「2009年から2018年までニューヨーク地区連銀総裁を務めたウィリアム・ダドリー氏は、FRB当局者がそうだと考えていると述べている通りに、本当にインフレ率上昇と労働市場軟化の間でリスクが均衡しているなら、FRBは金利を中立的な水準により大きく近づけたいはずだとの見方を示した。すべてのFRB当局者が中立金利は4%を下回るとみていることをふまえると、0.25ポイント刻みの利下げは理にかなっていない。同氏は「論理的には、より速いペースで引き下げる必要がある」と述べた」 

    FRBが、中立金利(好不況に関係ない金利水準)を4%以下にする計画ならば今回、0.5%利下げしてその意思を見せるべきとしている。

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    韓国の現代自動車は、米国ゼネラルモーターズ(GM)と戦略的分野での協力を探る覚書(MOU)に署名した。自動車の共同開発に向けた戦略関係の深化につながる可能性も取り沙汰されている。両社が12日発表した合意は、電動や水素パワートレインなどクリーン技術に加え、ガソリン車と同エンジンの共同開発・生産を探る準備段階を設定するものだ。発表資料によると、部品のほか、バッテリー向け重要鉱物や鉄鋼といった原材料の調達でも連携する可能性がある。現代自動車は世界3位、GMが同5位である。

     

    『ハンギョレ新聞』(9月13日付)は、「世界3位と米国1位が手を握る、現代自動車とGM 包括的協力MOU締結」と題する記事を掲載した。

     

    世界3位の完成車メーカーである現代自動車が、米国1位かつ世界5位のゼネラルモーターズ(GM)と手を握る。生産から技術開発に至るまで、あらゆる領域にわたる一種の同盟関係の構築を決めたのだ。電気自動車(EV)の大衆化が遅れている中、低価格モデルを前面に押し出した中国EVメーカーなどとの競争に直面している現代自動車が、「ライバル会社との同居」で突破口を開けるかが注目される。

     

    (1)「現代自動車は12日、GMと包括的協力に向けた業務協約を結んだとし、「両社は今後、主要戦略分野で協力し合うことを決めた」と述べた。両社は乗用・商用車、内燃機関車とエコエネルギー、電気・水素技術の共同開発・生産の分野で協力することとした。バッテリーの原材料、鉄鋼、その他の素材などの原材料を共同発注する統合ソーシングも検討する。完成車の開発と生産、未来技術の開発、原材料の調達に至るまで、事実上すべての領域を協力対象としているかたちだ」

     

    GMと現代自動車は、世界各地で競争激化に直面しており、特に低価格車を販売する中国勢との競争が激しい。両社とも、ガソリン車や電気自動車(EV)向け投資が急増。経費抑制策も模索している。現代自動車が、他の自動車メーカーと大規模イニシアチブで手を組むのは今回が初めて。GMは既にホンダとEVや燃料電池で協業している。ホンダはGM自動運転部門クルーズの少数株主でもある。このように、ライバル企業が協力するのは「フレネミー」(フレンド+エネミー)と呼ばれている。

     

    (2)「現代自動車が、グローバル完成車メーカーと協力関係を結んだのは今回が初めてではない。2000年にはダイムラークライスラーと、同社による現代自動車株の所有やエンジンの共同開発などを骨子とした戦略提携を結んでいる。しかし、今回のように包括的な協力を約束したのは初めてで、これほどの協力は世界の完成車メーカーの中では類例を見ない。EVのコスト削減が切実となっている現代自動車と、ハイブリッド技術の確保を必要とするGMの利害関係が合致した結果だとみられる

     

    今回のような包括的覚え書きは、類例をみないという。それほど、両社が先行きに危機感を募らせているのであろう。現代自に必要なEVコスト削減と、GMが欲しいHV(ハイブリッド車)技術が両社を結びつける大きな理由である。GMは、長いことHVに無関心を装っていた。トヨタへの対抗心であったのだろう。それも、ついに限界に来た感じだ。

     

    (3)「主要市場である米国と欧州でEVの需要が鈍化するとともに、低価格モデルを前面に押し出した中国のEVメーカーが欧州市場に食い込んでいることで、現代自動車の苦悩は深い。原価競争力を高めるには、EV価格の40%ほどを占めるバッテリー価格を下げなければならない。GMと共同で原材料調達を行えば、物量増加による交渉力の強化でコストを削減できる。サムスン証券のイム・ウニョン研究員は、「GMはリチウム、ニッケルなどのバッテリー(の原材料の)バリューチェーンを非常にうまくセッティングしているので、ソーシングを共にすれば互いの原価競争力の向上に役立つだろう」と述べた」

     

    現代自にとっては、EVコストの引下げが課題である。GMと共同で電池の原材料調達を行えば、それが可能になるという読みである。

     

    (4)「独自のハイブリッドモデルを持たないGMの立場からすると、現代自動車とハイブリッドモデルの開発に必要な技術を共同開発したり、ライセンスを取得したりするといった方法で、自国の内需に素早く対応することができる」

     

    GMは、HV技術が欲しいのだ。ホンダと提携しているGMは、これが満たされなかったのだろう。

     

    (5)「GMの北米工場を現代自動車が使用できるかどうかにも関心が集まっている。現代自動車は現在、米国で販売しているEVの大半を韓国で生産しているため、米インフレ抑制法(IRA)に則った補助金支援が受けられない。米国ジョージアに建設中のEV専用工場にGM工場の生産余力が加われば、米国市場での存在感を拡大する足場となりうる。ただし、具体的な協力領域と方法はさらなる議論を経て確定される予定だ」

     

    現代は、GMの北米工場でEVが生産できるか関心を寄せている。

     

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    米通商代表部(USTR)は9月13日、中国からの輸入品に対する制裁関税を27日から引き上げると発表した。電気自動車(EV)には4倍の100%を課すことになった。中国製EVへの関税は、現行の25%から100%と4倍に引き上げられる。電動二輪車と電動自転車はEVとは別種の品目だとして、引き上げ対象から外れるという見解も示した。

     

    中国製EVは100%関税率になれば、米国で輸入できなくなるだろうか。だが、1万ドル(約142万円)という最低価格のEVならば輸出可能という見方もあるほど。その実態をみておきたい。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月14日付)は、「中国EV、100%関税でも競争力 最安値1万ド」と題する記事を掲載した。

     

    バイデン米政権は27日から、中国から輸入する電気自動車(EV)への制裁関税を100%に引き上げることを最終決定した。現状はほとんど輸入がなく将来の流入に備えた予防措置だが、関税を引き上げてもなお中国製EVの競争力は米国勢を上回っている。

     

    (1)「米通商代表部(USTR)は、13日に公表した関税引き上げの最終決定通知で「中国政府の産業政策が、米政府による(EV産業育成に向けた)投資を脅かす可能性がある」と強い危機感を示した。需要者からは、EVのバスや自動車用バッテリーの一部、バッテリーに必要な重要鉱物などを税率引き上げ対象から外すべきだという要望が寄せられていた。USTRは、そのいずれも「供給網を多様化し、中国が覇権を狙う産業分野での中国依存を減らす目的と矛盾する」という理由ではねつけた。甘さを見せると中国勢に席巻されるという焦りのあらわれだ」。

     

    USTRは、関税率引上げで例外を設けると、中国は必ずその穴を見つけて輸出攻勢をかけてくると警戒している。中国全土を襲う「イナゴの大群」を警戒するような姿勢である。

     

    (2)「米国もインフレ抑制法(IRA)の税優遇などを通じ、EVやバッテリーの生産拠点育成を急ぐ。それでも、国を挙げて10年がかりで産業育成をしてきた中国の背中は遠い。調査会社マークラインズによると、米国のEV販売比率は24年7月時点で10%超と約5割の中国や世界平均(約2割)を大きく下回る。充電インフラの不足に加え、普及価格帯のEVが少ないことが背景にある。電池を含むEV供給網全体を抱え込む中国勢は、2万5000ドル(約350万円)以下の低価格EVで攻勢に出ている。米国の自動車メーカーは、テスラですら3万ドル以下のEVは開発していない。ガソリン車並みの価格帯のEVはまだ出ていない」

     

    中国EVは、2万5000ドル(約350万円)以下の低価格EVで攻勢に出ている。ガソリン車並みの価格帯である。それだけに、USTRの警戒はひとしお強い。

     

    (3)「米調査会社オート・フォーキャスト・ソリューションズのジョー・マッケーブ最高経営責任者(CEO)は、「比亜迪(BYD)の最安値は1万2000ドルだ。100%関税をかけられても2万5000ドル以下であり米市場では最も安い。中国勢は採算性など気にしない」と話す。米国はメキシコなどを経由した迂回輸入を警戒している。レモンド商務長官は「例えばBYDは拠点がメキシコにあったとしても、中国企業に変わりない」と話す。EVのコストの3割を占める電池では、中国依存からの脱却がなかなか進まないことも米国を悩ませる」

     

    BYDの最安値EVは、1万2000ドル(約170万円)である。100%関税率でも2万4000ドル(約340万円)だ。「バッタの大群」同様に米国市場を襲うだろうか。米国人の中国警戒姿勢からみて、ちょっと想像できないのだ。

     

    (4)「米国は、中国からの電池輸入額が、16月で62億ドルだった。2023年(130億ドル)は、22年比で4割増え過去3年で6倍になった。米国内での供給網構築が進まず、米国メーカーは投資の見直しを余儀なくされている。ゼネラル・モーターズ(GM)は、韓国のサムスンSDIと進める北米の電池工場での生産開始を1年延期した。パナソニックホールディングス(HD)は北米を中心とするEV向け電池の生産目標を従来計画から3割引き下げた。日系自動車の北米法人幹部は、「現在は電池材料の採掘や加工のための供給網は、米国にないのが現状だ」と話す。関税引き上げで廉価の中国製品の流入を食い止めつつ、その間に米国内で産業育成をする――。その作戦が奏功するかはまだ不透明だ」

     

    トヨタは、26年に「次世代電池(パフォーマンス版)」を投入する。急速充電20分以下、航続距離1000kmを実現する。これが、トヨタEVのテコになる。トヨタは、このEVで全世界へ攻勢をかける予定だ。パフォーマンス版電池とは、角形電池でトヨタが開発した電池でコストは20%安くなっている。26年以降の世界EV地図が大きく塗り変わるであろう。全固体電池とは異なる。

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