勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 米国経済ニュース時評

    a0960_008417_m
       

    習近平国家主席が描いた「一帯一路」事業は、米国へ対抗して世界覇権を握る大構想に基づいていたことは間違いない。アジア・アフリカ経由で中南米まで地球一周するという構想自体にそれが窺える。毛沢東が、大躍進運動(1958~61年)で「15年後に米英に追いつく」と豪語していたこととなんら代わりないからだ。中華民族特有の「大風呂敷」であろう。 

    『朝鮮日報』(9月30日付)は、「アジア・アフリカ経由で中南米まで、地球を一周した『一帯一路』」と題する記事を掲載した。 

    孔子学院は中国政府が自国の言語・文化などソフトパワーを広める趣旨で世界各地に設けた機関だ。しかし、米国、カナダ、欧州など主な西側諸国は、孔子学院が中国共産党と連携し、安全保障を脅かす宣伝・諜報機関だとして、積極的に撤退させ、これまでにほとんど姿を消した。 

    (1)「中南米の状況は異なる。ブエノスアイレス孔子学院だけで年間2000~2500人が中国関連の講座を受講しており、コルドバ大、ラプラタ大など拠点国立大学にも孔子学院が設置されている。地域の経済大国ブラジル(10カ所)、チリ(2カ所)をはじめ、中南米だけで40カ所余りが運営されている。ユーラシアと二つの大洋(太平洋・大西洋)を隔てて離れた中南米も中国の一帯一路プロジェクトの影響圏に編入されている。特に中国は孔子学院を前面に掲げ友好的世論を現地に形成し、莫大な資金力を動員してこれまで米国が裏庭と考えていた中南米で道路、港湾、鉄道など大規模なインフラ整備事業を相次いで受注し、経済的影響力を高めている」 

    中南米では、孔子学院が活動している。欧米やカナダの孔子学院は姿を消したが、中南米は中国の経済支援をあてにして生き残っている。

     

    (2)「中国が特に狙っているのは港湾だ。米シンクタンクの「安全な自由社会センター(SFS)」「ラテンアメリカ経済観測所(OBELA)」などによれば、中国が国有企業と民間企業で運営権を確保したか新しく建設を決めた中南米の港湾は約40カ所に達する。このうち最近注目されているのはペルーに建設中のチャンカイ港だ。ペルーの首都リマから北に60キロ離れた同港に中国国営の中国遠洋運輸集団(COSCO)が30億ドル以上を投資し、60%の権益を確保した。同港は最大水深が16メートルに達し、年間500万TEU(20フィート標準コンテナ換算)以上のコンテナを処理でき、パナマックス級の船舶も停泊できる南米最大規模の貿易港だ。同港が供用を開始すれば、中国・南米間の貿易航路の所要時間を現在の45日間から35日間に短縮できる」 

    中国は、中南米で港湾を狙っている。中国海軍がここまで出っ張ってこようというのだろう。米海軍の餌食されることは間違いない。力量を弁えない振舞である。米海軍が、世界一という実力を忘れた行為だ。

     

    (3)「中国は、国有企業の招商局港口(チャイナ・マーチャンツ)を通じ、ブラジルのパラナグア港の権益67.5%も確保した。同港はブラジルで最大規模の農産物輸出港で、大豆などブラジル南部の穀倉地帯の農産物輸出ルートとなる。このほか、中国のメキシコのベラクルス、エンセナダ、マンサニージョ、ラサロカルデナスの各港、ジャマイカのキングストン港、バハマのフリーポート港、パナマのバルボア港などの権益も確保した」 

    中国は、中南米を食料基地にしようと企んでいる。それには、米海軍に邪魔されないように軍港を持とうとしている。 

    (4)「中国が中南米の一帯一路を通じ、軍事的影響力まで高めようとしているとの観測もある。そうした懸念の呼び起こしているのが中国人民解放軍傘下の中国衛星発射追跡制御総局(CLTC)が管理するアルゼンチン中西部のネウケン宇宙基地だ。特にネウケン宇宙基地は「基地で遂行される活動を干渉したり妨害しない」という両国政府の契約に基づき、秘密裏に運営され、中国のスパイ活動、その他軍事活動に対するうわさが増幅されている。ベネズエラ、ボリビアなどにも人民解放軍と連携した国有企業が運営する10カ所余りの衛星基地がある」 

    米大陸はすべて、他国の軍隊が進出することを防ぐ「モンロー主義」を取っている。これは、中国軍といえども適用される。欧州の軍隊が、米大陸へ進出できなかったのは、この「モンロー主義」の成果だ。中国は、こういう歴史を理解していないようである。いつか、米海軍に叩かれるだろう。

     

    (5)「こうした基地は事実上、中国の諜報施設ではないかと懸念されている。実際に中国の研究陣は19年、スウェーデンが運営するチリのサンティアゴ衛星基地で軍事目的の活動を行ったと疑われ、退去させられた前歴がある。中南米各国では、一帯一路に対する警戒の声も出始め、事業が保留される例も出ている。アルゼンチンでは最近、陝西化工集団が南米最南端のティエラデルフエゴに12億5000万ドルを投資し、石油化学団地を含む多目的港を建設するプロジェクトが契約成立直前に保留となった。中国は南極へのアクセスが優れているという地政学的重要性を着目していたが、国家安全保障に重大な脅威になりかねないという反対世論が噴出した」 

    中南米各国では、一帯一路に対する警戒の声も出始め、事業が保留される例も出ている。これは、その背後に中国軍の影を感じるからだ。モンロー主義は、歴史的な北米中南米の共通理念である。

     

    a1320_000159_m
       

    韓国で9月15日、大邱市で客を乗せたEV(電気自動車)タクシーが、時速190km近いスピードで暴走し、信号待ちの車に激突する事故があった。タクシー運転手と乗客の男性が頭や肋骨に大けがを負うなど、7人がけがをすする大事故になった。

     

    暴走したタクシーの運転手は、「最初に車と衝突した後に突然車が暴走した」「ブレーキが利かなくなった」などと話しているという。事故当時のドライブレコーダーの映像を見ると、時速50キロメートルで正常に走行していたタクシーは、衝突直後に急に速度を上げ始めている。加速36秒で車の速度は、時速188キロメートルに達した。映像で、車の速度が上がるとタクシー運転手は慌てた様子で「うわあ」「大変なことになった」と何度も叫び続けた。乗客が運転手に向かって「ブレーキを踏んで」「エンジンを切って」と急いで言うと、タクシー運転手は何をやってもまともに作動しないと答えるなど緊迫した雰囲気になった。『朝鮮日報』(9月28日付)が報じた。

     

    『レコードチャイナ』(9月29日付)は、「『大変だ、電源も切れない』 韓国でまたEV急加速事故 衝撃の映像に韓国ネット『欠陥認めて』」と題する記事を掲載した。

     

    今年に入り、韓国ではEVが急加速する事故が相次いで発生している。韓国警察は、事故当時の車の速度やアクセルペダルの変位量、ブレーキペダルの操作有無などについて詳しく調べる方針だという。

     

    (1)「韓国のネットユーザーからは、「EVには絶対に乗らないと決めている」「後ろの車がEVタクシーだと不安になる」「この事故もまた『運転技術未熟者』で済まされてしまうのだろうか」「こんなにも急加速事故が相次いでいるのだから、メーカーはそろそろ車の欠陥であることを認めてほしい」「加速し始めてから激突するまでかなり時間があり、運転手はあの手この手を使って車を止めようとしている。これは意図しない急加速事故に決まっている。証人までいるのだから今回は認めざるを得ないだろう」「車の欠陥でないことをメーカーが証明するように、早く法律を変えてほしい。なぜ個人が欠陥を証明しなければならないのか理解できない」などの声が上がっている」

     

    韓国でEVを製造しているのは、現代自と起亜の二社である。今回の暴走EVタクシーの事件は、メーカーからリコール申請が出るべきだが、沈黙したままである。だが、前記の二社は米国ではエンジン車で330万台のリコール申請を行っている。韓国では頬被りしながら、自動車事故には厳しい米国ではリコール申請と使い分けしている感じも否めない。

     

    『レコードチャイナ』(9月29日付)は、「発火の恐れ、韓国車ヒョンデとキア 米国で330万台をリコールー韓国ネットからは不満続出」と題する記事を掲載した。

     

    韓国・聯合ニュース(9月27日付)によると、現代自動車(ヒョンデ)と起亜自動車(キア)が米国でそれぞれ約160万台、約170万台をリコールすると、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)が27日(現地時間)に発表した。

     

    (2)「記事によると、起亜自動車側は「車両の油圧式電子制御装置(HECU)がショートを起こす恐れがあり、これにより駐車中や走行中にエンジン部品から発火する可能性がある」と説明した。現代自動車側は「アンチロックブレーキシステム(ABS)モジュールのブレーキ液漏れによりショートが起きる可能性があり、これがエンジン部品からの発火につながる恐れがある」と説明した。両社は油圧式電子制御装置やアンチロックブレーキシステムの交換などを行い、問題を解決する方針だという」

     

    現代自と起亜は、同一資本系列である。技術的にも同じだ。米国では、両社合計で330万台のリコールを申請した。米国の罰則は厳しいので、「危ない」とみればすぐにリコールを申請している。

     

    (3)「この記事を見た韓国のネットユーザーからは「なぜ米国だけでリコールする?」「韓国の消費者には『自分で欠陥を証明せよ』と言うのにね」「米国の消費者の前では何も言えない弱虫企業なのに、韓国の消費者のことはカモ扱い」「韓国内の車も大々的なリコールを実施するべきだ」「韓国で車を売って稼いだお金を全て米国に貢いでいる」「それよりも韓国内での急加速事故問題をどうにかしてほしい」など、韓国内との対応の差に不満を示す声が多数寄せられている」

     

    現代自は、米国で21年にEV8万2000台をリコールした。そのコストは、1兆ウォン(約1000億円)と過去最大規模に達した事例もある。今回のEVタクシーの暴走事故について、会社側から何らかの説明があってしかるべき、と消費者は不満を募らせている。

     

    テイカカズラ
       

    米国が懸念するほどの悪化

    警察が法を犯す異常財政へ

    先端研究の後押しも空回り

    隠れ債務2千兆円の恐怖も

     

    中国経済は、危機の渦中にある。個人消費が落ち込んでも、財政面からテコ入れできない事態に追込まれている。土地売却収入が急減しており、地方政府の財政そのものが大赤字であるからだ。金融面では利下げをしたくても、人民元相場がデッドラインの1ドル=7.3元台へ急落するほど不安定である。為替不安に陥れば、虎の子の資金が流出する騒ぎとなりかねない。こうして、財政面と金融面で手足を縛られた状況に追込まれている。財政と金融の両政策が、機能不全に陥っているのだ。舵を失った船同然である。

     

    中国経済が、ここまで事態の悪化を招いたのは2008年以降の経済成長の不健全さにある。負債をテコとする投資主導経済成長に依存したことだ。住宅・設備・インフラの投資をしゃにむに行い、GDPを押し上げてきた。それが、国威発揚に結びつき人民解放軍の装備充実を行わせた。すべては、台湾解放に向けた準備であったのである。今その政策が、破綻したと言うべきであろう。

     

    米国が懸念するほどの悪化

    米国はすでに、中国経済が容易ならざる事態へ直面していることを把握している。米財務省は9月22日、米国と中国との間で経済・金融分野の作業部会を設けると発表した。イエレン米財務長官が7月に訪中した際、中国の何立峰(ハァ・リーファン)副首相と設置で合意していたものだ。

     

    米財務次官アディエモ氏は9月11日、CNNとのインタビューで中国の経済問題が米国よりも近隣諸国に影響を与える可能性が高いと述べていた。中国経済が、 人口動態悪化や過剰債務といった長期的な構造問題に直面していると指摘したのだ。「このような問題への中国の対応は、時間の経過とともにはるかに困難なものになる」とした。これが、そのまま近隣諸国へ大きな影響を及ぼすと世界的な危機をもたらすという認識である。下線部こそ、中国経済の本質的な危機を物語っている。

     

    中国は、米国から経済問題で「心配」される立場になっている。米国が、上から目線で中国経済の危機へ「助言」しようとしていることから、米中の経済対決は終わったとみてよい。その根拠は、前述の下線を付した部分にある。人口動態の悪化(高齢化)と、過剰債務がもたらす「雪だるま式」債務増加である。債務は、返済が遅れれば遅れるほど、金利が金利を生んで身動きできなくなる「ガン」のようなものだ。早く摘出(削減)しなければ、中国経済の寿命を縮める「業病」である。

     

    債務をテコにして経済成長する。こういう安易な「中国式モデル」は、もはや精算すべき段階にあるが、それは容易ならざることでもある。

     

    中国国家統計局の元高官は9月、国内のマンション空室や空き家について、「中国の人口14億人でさえ全てを埋めることは不可能かもしれない」との見方を示した。国家統計局の最新データによると、8月末時点で国内の売れ残り住戸の床面積は、平均的な住宅の広さを90平方メートルと想定した場合、720万戸に相当するという。このほか、2016年以降の住宅投機で買われた未使用住宅が在庫として控えている。一人で、2軒や3軒の住宅を買い込み値上がりを期待してきた投機用住宅である。

     

    国家統計局の元高官発言は、住宅統計について知悉している。だから、「14億人でも埋め切れない住宅在庫」と発言したのであろう。この事実は、住宅販売が「青田売り」であったことが災いしている。住宅が竣工していない段階で、極端なのは設計図の段階で販売契約して頭金と住宅ローンを組ませるという強引な商法である。集めた資金は、さらなる土地購入で地方政府の財政を潤してきた。住宅バブルで、最も利益を得たのは地方政府である。

     

    こういう構図が今や、空中分解しようとしている。地方政府は、住宅不況による土地売却収入の急減で歳入に大きな穴が開いているからだ。土地売却収入のピークは、2021年の8兆7051億元(約157兆円)で、税収の5割に相当した。今年1~7月の土地売却収入は前年比19.1%減の2兆2875億元(約45兆7500億円)である。年率に換算すると、約78兆円になる。21年のピーク時に比べて半減だ。これだけ、地方財政に歳入減が生じる。地方政府が、歳入欠陥でてんてこ舞いしている理由である。

     

    警察が法を犯す異常財政へ

    この穴埋めでは、信じられないことが起っている。国営メディアによると、中国全土の地方警察やその他の法執行機関は、地方政府の財源を潤す方法として、交通違反や営業・安全規則違反、その他の軽犯罪に対して、より高額な罰金を頻繁に科している。

     

    中には、確かな証拠がほとんどないにもかかわらず、地元警察が管轄を越えて容疑者を追うケースもある。弁護士や国営メディアは、不正に得たとされる利益を差し押さえる狙いがあると指摘しているのだ。法の違反を取り締る警察が、法を犯すという事態まで起っている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月18日付)が報じた。(つづく)

     

    この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です

    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

     

     

    30 1025    2
       


    2021年世界AI論文の40%が中国研究者であった。米国スタンフォード大学『AIインデックスリポート』が明らかにした。2位の米国は10%にとどまった。ただ、中国発表の論文数が4割を占めたのには、補助金を貰えるという裏事情がある。特許申請も同じであり、補助金目当てで何が何でも申請する作為性を見落としてはならない。論文数と中身は比例していないのだ。

     

    中国学界の最大関心事は、宇宙開発・半導体・量子コンピュータなどに発展している。この分野の中国論文が急増している。米国で活動していた有力中国人科学者は、2018年以降に大量帰国した。2021年だけで2621人が帰国した。中国の論文が急増した背景には彼ら帰国組(「海亀たち」)の貢献も大きいという。中国政府は、創業資金・住宅・子どもの教育などの支援プログラムを組んで帰国を誘引している。

     

    これだけ、多くの「優秀な研究者」が帰国したとすれば、AI(人工知能)の起業化が進んでいると想像できよう。だが、現実は違うのだ。卓越した研究がないので、過当競争に陥って「自然淘汰」に憂き目に遭いそうだと指摘されている。

     

    『ロイター』(9月25日付)は、「中国の生成AI企業 熾烈な競争が収益圧迫 淘汰は必至か」と題する記事を掲載した。

     

    中国では生成人工知能(AI)の熱狂的な流行を背景に、新興企業から大手情報技術(IT)企業に至る多様な業者がほぼ連日、生成AIに関する新商品を発表している。だが投資家は、熾烈な競争により収益が圧迫されるため、淘汰は必至だと警鐘を鳴らしている。

     

    (1)「中国の生成AIブームは約1年前、オープンAIの対話型AI「チャットGPT」の成功に触発され、騰訊控股(テンセント・ホールディングス)、百度(バイドゥ)、アリババグループといった大手が相次いで自社商品を発表。テンセントの幹部は今月、生成AIが「百種類ものモデルによる戦争」になっていると述べた。CLSA(投資ファンド)によると、中国では現在存在する大規模言語モデル(LLM)が少なくとも130あり、世界全体の40%を占め、シェアは米国の50%に迫っている」

     

    中国では、生成AIに不可欠な大規模言語モデル(LLM)が130もあるという。言語モデルが多いほど、生成AIの有効性が高まる。この面では、米国へ肉迫しているという。

     

    (2)「投資家やアナリストは、大半の企業は存続可能なビジネスモデルをまだ見いだしていない上、互いの商品があまりにも似通っており、今は費用の急騰と格闘している、と話す。米中関係の緊迫化も、このセクターを圧迫している。初期段階にあるプロジェクトに対するドル建て投資は減り、エヌビディアなどが生産するAI用半導体の入手が困難になっていることが影響し始めている。マッコーリー・グループの中国インターネット・デジタル調査責任者、エスメ・パウ氏は、「最も強い能力を持った業者のみが生き残るだろう」と述べた。同氏は、各社が顧客の獲得を競う中で再編と価格戦争が起きると予想。「向こう6~12カ月にわたり、半導体の制約や高いコスト、激化する競争により、能力が劣るLLMは徐々に排除されるだろう」と語った。


    投資家目線で言えば、中国の生成AI企業は存続可能なビジネスモデルを構築していない状況だ。米国からの投資資金も減っており、先行き不透明な状況である。生成AI用半導体の入手が、米国の規制で困難という事態もある。先端半導体を入手できずに、生成AI企業は生存できないのだ。一方の米国は、生成AI事業で独走状態にある。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月25日付)は、「Amazon、生成AI新興に5900億円出資 Microsoftに対抗」と題する記事を掲載した。

     

    米アマゾンは25日、人工知能(AI)開発の米新興企業アンソロピックと戦略提携し、最大40億ドル(約5940億円)を出資すると発表した。文章や画像を自動でつくる生成AIのサービス展開を強化し、米オープンAIに出資する米マイクロソフトに対抗する。

     

    (3)「巨額の出資となるが、アマゾンはアンソロピックの少数株主にとどまるという。同社には米グーグルも出資している。アンソロピックはAIの学習や推論にアマゾンの手がけるクラウドコンピューティングサービスを活用する。アマゾンが自社開発するAI用半導体も採用して協力を深める。アンソロピックは、グーグルからオープンAIの幹部を経て独立したダリオ・アモデイ氏らが設立した。チャットGPTと似た機能を持つ対話型AIや、生成AIの基盤技術である大規模言語モデルの開発を手がける。アマゾンは、すでにクラウドサービスの顧客企業が自社サービスに生成AIを手軽に組み込めるようにする「アマゾン・ベッドロック」と呼ぶサービスで、アンソロピックの基盤を提供している」

     

    中国の生成AIと比べて、米国は比較にならない発展をしている。米国は、開発資金力と先端半導体を自在に入手できるという「天と地」と言える状況だ。このパラグラフ(3)を(2)と比較すれば、米中のAI競争はすでに決着がついている。中国の敗北である。

    a0960_006618_m
       

    中国の政府や国有企業で、iPhoneなど海外メーカーの電子機器の使用制限が拡大している。中国は、2020年ごろから中央省庁の公務での海外ブランド製品の使用を制限した。政府職員など複数の関係者によると、今年8月ごろから地方政府や国有企業にも制限がかかった。ハイテク分野における米中対立の先鋭化の影響が、スマートフォンなど民生品にも広く及び始めているという。

     

    10月1日から企業秘密にかかわる部門は、海外ブランドの電子機器の使用を禁止され、来年3月1日から全社員に対象を広げる。国有企業の社員は9月初め、社外秘で以上のような通知を受け取ったという。

     

    中国は、アップルにとって最重要市場の一つである。23年4〜6月期の売上高のうち中国や台湾、香港を含む「中華圏」は約2割を占めている。iPhoneの組み立ても中国の工場が中心となっている。中国でのアップル製品使用が制限されると、アップルにとっての中国の重要性は低下する。そこで、地政学的リスクもからみ脱中国の動きが加速されよう。中国でアップル製品の製造で雇用されている人間は現在、数百万人とされる。この人たちの雇用がこれからなくなるのだ。

     

    これだけでない。次のような指摘もされている。西村友作中国対外経済貿易大学教授に見方だ。「中国国内で海外メーカーの電子機器の使用制限が拡大していけば、将来的には中国製品の海外での使用制限につながる可能性も否定できない。その対象の一つが、足元で輸出が急拡大している自動車かもしれない。自動車のコンピュータ化が進み、スマートEVには多数のカメラ、センサーが搭載されている。さらに、走行中に収集したデータをフィードバックする機能もある。将来的には、通信基地局や監視カメラなどと同じ文脈で、中国製EVの使用を規制する動きが出るかもしれない」(『日本経済新聞 電子版』9月8日づけ)

     

    中国EVが、海外市場で排斥されかねないリスクを中国政府が自らつくっていると指摘する。このほか、アップルも自社製品製造で「脱中国」の動きを加速させることだ。

     

    『ハンギョレ新聞』(9月25日付)は、「『インドのiPhone生産を5年以内に5倍に拡大』アップルの脱中国化に速度」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「アップルが、中国工場の代替として選択したインドの生産量拡大に速度を上げる計画であることが分かった。インド工場におけるiPhoneの生産量が増えれば、アップルの対中国生産依存度を下げる「脱中国化」の速度が速まると見られる」

     

    iPhone製品のインドでの製造が、軌道に乗るまで時間は掛るとみられていた。それが、予想以上に早く進んでいるので、「脱中国化」が早く実現しそうである。

     

    (2)「25日、インドの通信社「PTI」は、あるインド政府高官の話として「アップルが今後5年以内にインドで(iPhone)生産量を5倍以上に増やす計画」と報道した。インド政府の関係者は「アップルのインドでの生産量は昨会計年度に70億ドルを超え、5年以内に生産量を400億ドル以上に増やすことを目標にしている」と話した」

     

    アップルは、今後5年以内にインドで(iPhone)生産量を5倍以上に増やす計画とされる。インドの工業化にも寄与するわけで、インド政府は半導体生産にも着手したいと希望を膨らませているほどだ。中国製造業勃興への大きなテコになろう。

     

    (3)「アップルは中国中心の生産基盤を多角化するため、2017年からインドへの生産工場移転を推進している。アップルの協力会社であるフォックスコンがインドに生産工場を設立し、主にiPhoneの旧型モデルなどを生産してきた。昨年からは新製品のiPhone14を生産し始め、今年はiPhone15を生産中だ。インドでの生産量を拡大すれば、5年以内にiPhone生産全体に占めるインドの比重は40%に迫ると見られる。今年上半期基準では、生産されたiPhoneのうち7%がインド工場で作られた。昨年、中国工場の割合は約85%だった」

     

    iPhone生産全体に占めるインドの比重は、5年以内に40%にまで引き上げる計画のようである。そうなると、中国での生産は補助的なものになりそうだ。中国にとっては衝撃であろう。iPhoneは、いずれ「メード・イン・インディア」が主体になる。

     

    (4)「アップルは、インドの消費市場にも力を入れている。インドの人口は14億2800万人で中国の人口を上回り、急速な経済成長で国民の消費水準も高まっている。400ドル以上のスマートフォンの出荷比重が2020年の4%から今年は10%を超えると見られる。4月、インドのムンバイに初のアップルオフライン売場(アップルストア)を開いた当時、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)も参加し、インド市場の重要性を強調した」

     

    アップルは、インド国内に直営店を2カ所設ける。インド市場が世界一の人口を抱えていることから、有望と折り紙をつけているのだ。iPhone全体の製造で、インドが過半を占めるようになれば、中国はそれだけ痛手を被る。

    このページのトップヘ