勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 米国経済ニュース時評

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    ドル=円相場は150円で推移(2日午後18時30分)している。これからどう動くか。12月のドル相場は、過去10年で8回も安値になっているという。「トランプ・トレード」でドル買いは盛り上がったが、次第に熱気も冷めつつある。 

    『ブルームバーグ』(12月2日付)は、「ドルにとって危険な12月、トランプ氏投稿や金利決定で乱高下も」と題する記事を掲載した。 

    ドル強気派は、ドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利によって勢い付いているが、12月は歴史的にドルにとって不利な月だ。 

    (1)「11月5日の選挙以来、ドルは約2%上昇しているが、季節的にここから先は不利な状況となる可能性が高い。過去10年のうち8回、ドルは12月に下落している。その多くはポートフォリオのリバランスフロー(注:投資ポートフォリオの資産配分を元の目標に戻す)や、いわゆる「サンタラリー」(注:米国で年末の5営業日から新年の第2営業日にかけ株価が上昇しやすい現象)のようなリスク志向でドルを売る動きが要因だった」 

    例年、12月はドル売りの季節である。リバランスフローや「サンタラリー」が背景にあると指摘する。

     

    (2)「今年は、例年よりも大幅かつ急激な変動が起こる可能性が高い。トランプ次期米大統領のソーシャルメディアへの投稿が、市場とトレーダーを動揺させるリスクがあるほか、主要9中央銀行の政策決定や大量の重要経済データ発表が予定されているためだ。ネガティブなサプライズの匂いが漂うだけで、究極の避難通貨への殺到が起こり「ドル売り」というシナリオがなくなる可能性もある。「しっかりつかまっていた方がいい」と言うみずほ銀行の経済・戦略責任者、ビシュヌ・バラサン氏(シンガポール在勤)は、12月は「通常はリスク志向でドルを売るという動きになるが、トランプ氏が政権を握るとなると、どうなるか分からない」と話した」 

    今年の12月は例年の季節変動に加えて、トランプ氏の「不規則発言」が加わっている。これが、ドル相場へ与える影響も大きい。 

    (3)「ニューヨークから東京まで、世界の投資家が今後4年間の外国為替市場のトレンドを予測しようとする中で、米大統領選挙以降、為替のボラティリティーは急上昇している。議論の中心は、トランプ大統領の下でのドルの行方だ。米国でインフレが加速し、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ見通しが複雑になることが予想される」 

    今後4年間、外国為替市場はトランプ氏の政策が与える影響を基に、トレンド予測を展開している。ドル高かドル安かである。 

    (4)「最近の市場の動きは、ドル取引の難しさを浮き彫りにした。ブルームバーグのドル指数は9月まで3カ月連続で下落した後、上昇に転じた。JPモルガン・チェース、ゴールドマン・サックス・グループ、シティグループは、トランプ氏が計画する関税が米国の物価上昇を招くととともに、他の国・地域経済に打撃を与えることで、ドルが今後も強くなると予想している。チャールズ・シュワブの債券戦略責任者、キャシー・ジョーンズ氏は「結論から言えば、何かが変わるまでは、ドルにとって最も抵抗の少ない道は上昇だ」とした上で、「2025年のドルの鍵となるのは関税政策だろう」と述べた」 

    トランプ氏の計画する関税が、米国の物価上昇を招くととともに、他の国・地域経済に打撃を与えることで、ドルが今後も強くなると予想スルグープがある。

     

    (5)「モルガン・スタンレーは、投資家の焦点が貿易リスクからFRBの利下げへと移るにつれ、ドルの強さは年末までにピークに達し、25年にかけて弱まっていくとみている。ニューバーガー・バーマンのシニアポートフォリオマネジャー、ウーゴ・ランチオーニ氏(ミラノ在勤)も同様の見方だ。「当社はドルに対してわずかながらポジティブなポジションを保有しているが、ドル高が進んでいるためポジションを縮小している」と述べ、「ドルは底固めの時期に入る可能性がある。実際、市場はかなりロング(信用買い)な状態だ」と語った。商品先物取引委員会(CFTC)の最新データによると、資産運用会社はドルに対して16年以来の強気ポジションを組んでおり、利益確定によってドルが下落する可能性がある」 

    モルガン・スタンレーは、ドルの強さは年末までにピークに達し、25年にかけて弱まっていくとみている。また、資産運用会社はドルに対して16年以来の強気ポジションを組んでおり、利益確定によってドルが下落する可能性がある、としている。

     

     (7)「投資家が、すべてのニュースや経済データを分析するにつれ、ドル相場はこれまで以上に大きく変動する可能性が高い。ブルームバーグ・ドル・スポット指数の今後半年間の予想変動率は、過去18カ月で最も高い水準で推移している。カルミニャックのマネーマネジャー、アブデラク・アジュリウ氏も新たな乱高下に対し身構えている1人だ。FRBが、今月金利を据え置くことでトレーダーの意表を突いた場合は、特に大きな変動に見舞われると予想している」

    ドル相場は、これまで以上に大きく変動する可能性が高いという。今後、半年間の予想変動率は、過去18カ月で最も高い水準で推移している。これは、ドル相場が波乱含みであることを示している。要注意である。

     

     

     

     

     

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    トランプ氏が、次期米国大統領に決まって以来、「トランプトレード」なる言葉が流行っている。トランプ氏が選挙運動中に公約した「減税、規制緩和、関税引き上げ」を材料に株価が上昇したからだ。問題は、この一連の流れのなかでどの項目から崩れるかだ。いずれの項目もインフレを呼ぶのは確実。それが、金利引上げへ繋がれば「トランプトレード」は一巻の終わりだ。要するに、最後は市場がトランプトレードを「裁く」のである。 

    こういう視点を強調する意見が現れた。2008年のリーマンショックを予告して「悪魔の博士」と言われる経済学者ヌリエル・ルービニ氏が、トランプ政策の限界を指摘する。 

    『日本経済新聞 電子版』(11月30日付)は、「トランプ氏は市場が正す、『破滅博士』ルービニ氏と題する記事を掲載した。

     

    米国でトランプ氏が次期大統領に返り咲くことが決まった。世界を見渡せば分断が深まり、様々な危機の火種が連なってみえる。不確実性が高まる世界はどこへ向かうのか。米国のサブプライムローン問題を言い当て、「破滅博士」と呼ばれる米経済学者ヌリエル・ルービニ氏に聞いた。 

    (1)「(質問)トランプ次期大統領は米国第一主義や関税引き上げを明言している。世界は今後4年間、不確実性に直面する。(答え)リスクは広く知られるところだ。中国に最大60%の関税をかけると脅しており、全面的な経済戦争に陥るリスクを伴う。移民を制限し強制送還となれば米国のインフレを高めかねない。減税の恒久化など一連の施策は10年間で最大7.5兆ドルの費用がかかる。財政赤字が膨らみ、国債の調達コストが跳ね上がるかもしれない。米連邦準備理事会(FRB)に圧力がかかる事態もありうる」 

    減税の恒久化など一連の施策は、10年間で最大7.5兆ドルの財政赤字を生む。当然、インフレ要因になる。FRBは、利上げするはずだ。

     

    (2)「トランプ氏は破壊者であり、確かに破壊が必要な部分もある。ただ私が言いたいのは、トランプ氏は市場を気にしていることだ。株高であれば自分の政策が支持されているシグナルになる。成長率が落ち雇用が冷えれば株価は下がる。経済成長のためには金利を低く抑えたい。インフレを高める政策には、債券市場が金利の上昇を通じて『自警団』としての警告を発するだろう。つまり市場の規律こそが、トランプ氏に極端な政策による失政を避け、より正統的な政策を取るよう促す役目を果たす」 

    トランプ氏は破壊者であるが、市場動向をもっとも気にしている。無軌道な政策をとれば、市場が赤信号を出す。トランプ氏と言えども従わざるを得ない。 

    (3)「(質問)トランプ氏の政策は、スタグフレーションや通貨暴落のような世界の脅威に火を付けるのではないか。(答え)我々はまだ危機には陥っていないが、世界にスタグフレーションを引き起こす潜在的なショックの火種があちこちにある。脱グローバル化や保護主義の台頭、地政学リスクの高まり、過剰な債務、気候変動、パンデミック、サイバー戦争、不平等への反発、米ドル安、移民の制限。どれもが経済成長を抑制し、生産コストを押し上げる」 

    トランプ政策だけでなく、世界中にスタグフレーションを引き起す種は転がっている。これをどのように抑制するかだ。

     

    (4)「リスクはスローモーションで確実に高まっている。各国政府の財政赤字は一段と大きくなるだろう。国防や安全保障に多くの資金を費やさざるをえない。グローバル化やテクノロジーに取り残された人たちを支援し、不平等を是正するにはセーフティーネットを厚くする必要がある。膨張する国の借金にどう対処するのか。借金の実質価値を下げて帳消しにするのがインフレだ。インフレを招き入れる誘惑はいっそう強まる」 

    各国で財政赤字が膨らんでいる。借金の実質価値を下げるには、インフレへの誘惑が強まるが、それは破滅的結果をもたらす。 

    (5)「インフレを抑える唯一の救いの手はイノベーション(技術革新)だ。トランプ政権が新設する『政府効率化省』は政府サービスを改善できる。例えば民間のスペースXなら低廉なコストで衛星を打ち上げられる。将来の技術革新を刺激すれば、低インフレにつながる技術的優位を持てる。生産性を高め、潜在成長率を押し上げ、家計が得る収入を増やしていく。人工知能(AI)の活用はもちろん、ロボットや自動化の広がりは大きな革命になるだろう。健康で過ごすためのバイオメディカルも注目だ」 

    インフレ抑制には、技術革新が不可欠である。AI活用がその手段になる。日本のラピダスは、「CPUとアクセラレータ一体化」した世界初のAI半導体開発を進めている。来春には、試作品が登場する。世界の生産性を引上げるはずだ。

     

    (6)「気候変動対策で私の大きな希望は、核融合の技術が実現することだ。温暖化ガスの排出がゼロで安価なエネルギーを手に入れる道が開く。米中、日本も研究に取り組んでいる。欧州では10〜12年以内に商業化が可能との議論がある。安価に海水を淡水化できれば食糧問題も解決できる。新しい技術によって経済成長していけば、勝者に課税をし、それを再分配する策がとれる。もちろん同時に副作用を管理する。それは火や蒸気機関、電気、インターネットの発明でやってきたことだし、AIと関連技術はそうした発明を超える革命になりうる」 

    核融合技術が、気候変動対策の切り札になる。欧州では10〜12年以内に商業化が可能との議論もある。技術革新こそ、人類が生き延びる最後の手段だ。

     

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    世界では、トランプ次期米大統領の財政出動に期待する「トランプトレード」が拡散したが、韓国は「トランプストーム(嵐)」という暴風雨に見舞われた。例の関税引き上げ論による悪影響である。最大の不安は、トランプストームが半導体や自動車、バッテリーといった韓国産業をけん引する虎の子を直撃することだ。これだけでない。多額の補助金受領問題が危うくなってきた。

     

    バイデン米政権によるCHIPS・科学法のもとで、韓国企業の半導体は、米政府の補助金を当てにしながら対米投資を拡大してきた。だが、トランプ氏は高率な輸入関税を軸に国産回帰を進め、補助金の拠出は絞る方針である。この「逆転の発想」で、サムスンやSKハイニクスは青ざめている。

     

    『ハンギョレ新聞』(11月29日付)は、「半導体補助金『ばかげた話』扱いの米国、国際的信頼は気にも留めないのか」と題する社説を掲載した。

     

    来年1月に任期が始まる第2次トランプ政権で中心的な役割を果たすことになる長官候補者が、サムスン電子などが米国に半導体生産工場を作る対価として支給することにした補助金を「浪費」と呼び、再考する意向を表明した。

     

    (1)「(バイデン政権は)半導体などの先端技術産業で、中国の挑戦を振り切るために、「価値を共有する」同盟国が団結しなければならないと言っていた。それにもかかわらず、政権が変わると「ばかげた話」だと言う。ドナルド・トランプ前大統領がこのように約束を反故にするならば、米国の国際的信頼は大きく失墜し、企業は苦労して準備した投資計画を変更せざるをえなくなる最悪の状況に追い込まれる可能性がある。韓国政府は米国の次期政権を強く説得し、互いに不必要な被害が発生しないよう最善を尽くさなければならない」

     

    韓国のサムスンやSKは、バイデン政権による補助金支給を頼りに、米国での工場建設に踏み切ったが、トランプ政権への「代替わり」で、補助金受給が怪しくなってきた。

     

    (2)「第2次トランプ政権で、イーロン・マスク氏とともに「政府効率化省」(DOGE)のトップを共同で務めることになったビベック・ラマスワミ氏は26日(現地時間)、自身のX(旧ツイッター)に「米インフレ抑制法(IRA)やCHIPS法(半導体および科学法)による浪費の補助金が、(トランプ大統領が政権に就く2025年)1月20日より前に急いで支給されている」としたうえで、「このようなすべての土壇場での手法を再検討し、監察官に最後の瞬間に行われた契約を綿密に調査するよう勧告する」と明らかにした。ジョー・バイデン大統領が、米国の立ち遅れている半導体生産能力を引き上げるために超党派的な法律まで作って出した約束を、次期政権の長官候補者が調査を必要とする「不適切なもの」だと断定し、反故にする可能性があるという意向を公然と明らかにしたわけだ」

     

    次期閣僚候補のビベック・ラマスワミ氏は、補助金の支給に目を光らせている。これは、韓国企業にとって青天の霹靂であろう。

     

    (3)「米国を信じて困難な投資決定を下した同盟国と主要企業を裏切るようなものだ。トランプ氏はこれに先立ち、CHIPS法について「貧しい国々に金をばら撒くきわめて悪いディール(取引)」だとし、「高関税を課せば、彼らが来てただで半導体工場を作るだろう」という見解を示した。その後、市場が大きく動揺すると、ジーナ・レモンド商務長官が乗り出し「離任する日まですべての補助金を支給することが目標」だと強いけん制球を投げた」

     

    レモンド商務長官は、バイデン政権の責任において任期中に補助金を支給するとしている。

     

    (4)「米商務省は4月、サムスン電子と補助金64億ドル(約9700億円)、8月にはSKハイニックスと補助金4億5000万ドル(約690億円)、政府融資5億ドル(約760億円)を支給する予備取引覚書をそれぞれ交わした。予備取引覚書は現時点では法的効力がない。これに対して、米国のインテルと台湾のTSMCは今月、法的効力のある最終契約を結んだ。このまま放置しておくと、韓国企業が真っ先に標的になりかねない」

     

    米国のインテルと台湾のTSMCは今月、法的効力のある最終契約を結んだ。サムスンとSKは、未だ予備取引覚書である。大急ぎで、最終契約を結ばなければならない。そうしないと、契約が水の泡になる。

    実業家のイーロン・マスク氏は、前記のビベック・ラマスワミ氏と共に、トランプ次期大統領の歳出削減の取り組みを主導するよう任命された。この取り組みは新設される「政府効率化省(DOGE)」を通じて行われる。マスク氏は、政府の支出を少なくとも2兆ドル削減できるとの考えを示しているものの、それが年間なのか、あるいは一定期間における数字なのかは明言していない。

    直近の2024会計年度(9月30日まで)の連邦政府歳出は6兆7500億ドル(約1028兆円)だ。このうち、2兆ドル削減は不可能とされている。となる、少額補助金削減に焦点をあわせ「戦果」にすることも考えられる。

     

     

     

     

     

     

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    何か、西部劇を見ているような展開だ。トランプ次期米国大統領が、中国へ10%関税引き上げを予告した途端に、中国は米国人3人を解放した。米国も、中国人3人を開放した。中国はこれまで、バイデン大統領が正規の外交交渉で開放を要求しても応じなかった。それが、トランプ氏の「一喝」で開放したのだ。「トランプに弱い習近平」という構図を、世界中へ知らせることになった。だが、「拍手喝采」しているだけで済まない事態でもある。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月28日付)は、「中国拘束の米国人3人解放、トランプ次期政権を警戒」と題する記事を掲載した。

     

    米ホワイトハウスは27日、中国で長期間不当に拘束されていた米国人3人が解放されたと発表した。3人は帰国し、近く家族の元に戻る。米政府が中国に解放を強く求めていた。来年1月に退任するバイデン大統領にとって外交成果となる。

     

    (1)「米政府は中国側への見返りや、拘束者の身柄交換をしたのかどうかについて明らかにしていないが、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、米国で禁錮20年の刑を言い渡され服役していた中国の情報機関職員と関係者の計2人が27日時点で釈放されていたと報じた。バイデン氏は、今月16日にアジア太平洋経済協力会議(APEC)が開かれたペルーで中国の習近平国家主席と会談した際にも米国人の解放を要求した。ブリンケン国務長官やサリバン大統領補佐官もそれぞれ中国側への働きかけを続けていた」

     

    中国は、トランプ氏の米国大統領就任前に、米中の懸案事項を解決しておこうとしている。トランプ氏が就任すれば、どんな難題を吹っかけられるか分らないと警戒しているのだ。トランプ氏の「目には目、歯には歯を」という強硬策に怯んでいるようにみえる。

     

    (2)「発表によると、解放されたのはマーク・スウィダンさん、カイ・リーさん、ジョン・リアンさんの3人。米メディアによると、スウィダンさんは麻薬関連の罪で死刑判決を受け、リーさんとリアンさんはそれぞれスパイ罪で服役していた。来年1月に就任するトランプ次期大統領は、世界各地で拘束されている米国人について「私が大統領になる前に解放しなければ、大きな代償を払うことになる」と警告していた。既に、中国への追加関税を課すことも発表し、対中圧力を強める構えで、中国側は次期政権の出方をうかがっているとみられる」

     

    中国は、相手が強硬策を取らない限り対応しないことを示している。これは、極めて教訓的だ。中国の軍事侵攻を抑止するには、中国を上回る軍事力を持つしか解決策のないことを示している。中国へ軍事的に対抗する術は、「合従連衡」でしかないのだ。同盟を組むことで、中国の侵攻を防げる。

     

    「強面」のトランプ氏は、こういう力の信奉者である。それだけに、「独断政治」の危険性が指摘されている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月28日付)は、「トランプ関税の意味『経済政策は自分で決める』」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ次期米大統領が22日にヘッジファンドマネジャーのスコット・ベッセント氏を財務長官に指名すると、ウォール街や米経済界の多くは安堵した。

     

    (3)「ベッセント氏は財政タカ派で、ドルの基軸通貨としての地位を擁護し、最近まで関税に慎重だった。同氏の起用は、トランプ氏が市場寄りの政策を優先し、経済成長を後押ししてインフレと金利を抑制する意思があることを示唆した。だがその安堵(あんど)は72時間しか続かなかった。トランプ氏は25日、大統領就任初日にカナダとメキシコに25%の関税を、中国に10%の追加関税を課して、不法移民と合成オピオイド「フェンタニル」の流入が止まるまで続けると発表。これで同氏が選挙戦で示した通り、破壊的ポピュリスト(大衆迎合主義者)として統治する方針であることがはっきりした」

     

    トランプ氏は、カナダとメキシコに25%の関税を、中国に10%の追加関税を課すと発表した。これで、トランプ氏が自分で経済政策を決めるスタイルであることを明白にした。

     

    (4)「ここから得られる教訓は、トランプ氏の経済チームの最重要メンバーは同氏自身、ということだ。「トランプ氏の1期目は、多くの大言壮語が最終的に撤回された」。パイパー・サンドラーの政策アナリスト、アンディー・ラペリエル氏は26日の顧客向けメモでこう指摘した。「2期目も大言壮語は多いだろうが、実行に移されることも多くなるだろう。スタッフの大半はたいてい、トランプ氏にこうした政策を思いとどまらせようとはしないからだ」と指摘」

     

    トランプ氏が一人で物事を決めることは、極めてリスキーである。「大衆政治論」の危険性を予告しているのだ。中国が震え上がる前に、世界も同じ時限爆弾を抱えていることに気付くべきだろう。

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    石破茂首相が、バイデン米大統領に書簡を送り、日本製鉄のUSスチール買収計画を承認するよう求めたことが分かった。事情を知る関係者2人が明らかにした。岸田文雄前首相は、民間企業の案件だとして関与しない方針を示していた。石破氏は、一歩踏み出した形だ。

     

    『ロイター』(11月16日付)は、「石破首相がバイデン米大統領に書簡、日鉄のUSスチール買収に承認求めるー関係者」と題する記事を掲載した。

     

    書簡を送ったのは、石破首相が南米歴訪から帰国した後の11月20日。日本は最大の対米投資国だと説明し、「投資の増勢を維持することが両国の利益となり、同盟の強さを示すことになる」と指摘。バイデン氏の在任中に日米同盟はかつてないほど強固となったとし、「4年間の成果に影を落とさないよう買収計画の承認をお願いする」とした。

     

    (1)「バイデン氏は大統領選挙中、全米鉄鋼労働組合(USW)とともに買収計画に反対し、国家安全保障の観点から米国外国投資委員会(CFIUS)に審査を委ねた。審査期限はトランプ氏が大統領に再登板する前の年内で、CFIUSは計画を承認、阻止あるいは再審査を求める可能性がある。バイデン大統領が、石破首相の書簡に返答したかはどうか明らかになっていない」

     

    石破首相が、バイデン大統領へ書簡を送った。日鉄のUSスチール合併問題だ。株主と従業員が合併に賛成に、USWと政界が反対というねじれた関係だ。間もなく結論が出る。

     

    (2)「石破首相は今月15日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれたペルーの首都リマでバイデン大統領と初めて会談した。書簡の中で同会談に言及した石破氏は、時間の制約で経済関係について深く議論することができなかったとし、今の「重要な局面」で同買収計画に改めて注目するよう求めた。米側に直接働き掛けようとする石破首相の動きは、日本政府のこれまでの姿勢と一線を画す。買収計画は米大統領選の激戦州で政治的な争点になり、岸田文雄前首相は民間企業の案件だとして関与しない方針を示していた」

     

    石破首相は、なんとか合併を実現させたいところ。世論の支持率が低いだけに、クリーンヒットを打って面目を施したいところだ。

     

    (3)「石破首相は書簡の中で、「日本製鉄はUSスチールの従業員を守ることに深くコミットしており、ともに繁栄する未来を切り開くことを目指している」と説明。「日米の鉄鋼メーカーが先進技術を融合し、競争力を高め、米国の鉄鋼生産能力と雇用の増加に貢献するものだ」と強調した」

     

    米鉄鋼大手USスチールは、日鉄による買収が実現するかがなお定まらない。米政府の審査が長引き、全米鉄鋼労働組合(USW)が反対している。USスチールの従業員は、組合に加入しているかどうかで買収への賛否が割れている。非組合員の従業員は買収を支持すると主張した。同社従業員のうちおよそ半数はUSWに加入していない。

     

    買収賛成派のジャスティン・カルデロン氏は、合併メリットを次のよう上げている。『日本経済新聞 電子版』(11月22日付)は、次のように報じた。

     

    合併賛成派の従業員は、米国での鉄鋼製造に長期的なメリットがあることを上げている。「米国の鉄鋼業界では、世界トップ5に入るメーカーは一つもない。日鉄が買収すれば、世界市場で戦える競争力を持つことができる。日鉄は、現在働く従業員だけでなく、将来の世代にも雇用維持を保証したことは大きい」

     

    「日本は最も緊密な同盟国の一つだ。日鉄が買収しても、USスチールが米国企業であることに変わりはない。USWは海外からの輸入品で米国の鉄鋼業が脅威にさらされた歴史を踏まえ買収に反対しているが、世界経済は40〜50年で大きく変化し規制も変わった。世界で競争できる製品をつくるなら、他国と協力しなければならない」

     

    「USWの組合員は、全てが鉄鋼労働者ではない。看護師や図書館司書、大学職員も加盟する産業横断の連合組織だ。USWの主張は、鉄鋼労働者を代表していない。私が一緒に仕事をしているUSスチールの従業員の9割は買収を支持している」

     

    「米国の鉄鋼業は過去も不況を経験したが、その度に米国政府の保護主義的な政策で改革が遅れた。「現実を受け止めなければならない」。前記のUSスチールのカルデロン氏は、中国が世界を寡占する市場で生き残る上で日米連合は不可欠だと見る。USスチールには労組に加盟している製鉄所と加盟していない製鉄所があり、従業員間で価値観や立場の違いも大きい。USスチールの従業員数は約2万人で、そのうちUSWに加入しているのは1万人。半分程度に過ぎない。労組が従業員の総意を代弁しているとは言い切れないのだ。

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