勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 米国経済ニュース時評

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    中国は、レアアースなど重要鉱物でダンピング輸出を行い、海外のライバル企業を淘汰してきた。米国が、これに対抗すべく重要鉱物の価格をめざして価格下限制度を構築することになった。これに、日本など50ヶ国超が署名した。価格下限制は、最低価格を設定して重要鉱物の買取り・販売をするもの。生産国と需要国が参加することで、世界市場とは異なる米国中心の一大マーケットが形成される。

     

    中国は、この影響を最も強く受けるので、ダンピング輸出が不可能になるほか、国内の過剰設備が一挙に表面化するという事態となろう。これまでのように「レアアース主権」などと言える状況が、しだいに消えていくことになる。

     

    『ロイター』(2月4日付)は、「米、重要鉱物価格の下限設定制度を構築へ=副大統領」と題する記事を掲載した。

     

    1)「バンス米副大統領は4日、ワシントンで開催された重要鉱物のサプライチェーン強化に向けた初の閣僚級会合で、米国は重要鉱物価格の下限を設定するシステムの構築を目指すと表明した。さらに、米国が重要鉱物に関する貿易圏の形成を提案しており、多くの国がすでにこの計画に署名していると明らかにした。同会合は米国が主催し、日本など50カ国以上が参加した」

     

    世界の重要鉱物市場は事実上、中国の支配下にある。レアアース(希土類)など戦略物資は、中国の差配のままに動かされるという状況だ。今回の国際的な重要鉱物価格の下限制度を設けることで、西側諸国だけで市場を構成して需給の安定を図ることになった。これは、中国の「恣意的行動」に枠が嵌められるという大きな状況変化が生まれる。

     

    米国は、レアアース・リチウム・ニッケル・グラファイトなどの重要鉱物の国際価格に「最低価格」を設定する制度を作る方針だ。市場価格が暴落しても、一定価格で買い支えるので、生産国が安定して採掘・精製を続けられるようになる。中国の「低価格輸出による市場支配」を抑制する狙いだ。米副大統領は、この制度を軸に「重要鉱物の貿易ブロック」を形成する構想も示した。

     

    なぜ、「最低価格下限」が必要なのか。米国は次の問題意識を持っている。中国が重要鉱物市場を支配することで、価格を意図的に下げ、他国の採算を悪化させるからだ。結果として、中国以外の鉱山・精製企業が撤退させられてきた。

     

    中国経済は今後、どのような影響が及ぶのか。中国の「価格支配力」が弱まることが期待されている。中国は現在、重要鉱物の多くで圧倒的なシェアを持っている。レアアース精製で世界の約9割。グラファイトは、世界の7割以上。太陽光パネル用素材で世界の8割前後のシェアを占める。これは、「低価格で市場を席巻し、他国の産業を撤退させる」という戦略に立っている。

     

    米国が、これから「価格下限」を設定するとどうなるか。中国が仮に価格を下げてきても、米国・同盟国の企業は最低価格制に守られて撤退しない点が重要だ。中国の「価格攻勢」が効かなくなるので、中国の市場支配力が徐々に低下する。つまり、中国の価格戦略が無効化される方向になることだ。こうして、中国の輸出産業である重要鉱物の価格に「利益圧迫」が起きるであろう。

     

    要約すると、次のようになろう。価格下限制度が導入されると、中国は「安売り」で市場を奪えなくなる。つまり、価格競争力が低下するので利益率が悪化する。過剰生産が処理できなくなる結果、中国の鉱物産業は薄利多売による世界シェア維持が不可能になるのだ。

     

    特に影響が大きいのは、レアアース、グラファイト、太陽光パネル素材、電池素材(リチウム・ニッケル)などである。これらは、中国の輸出産業の柱である。利益圧迫は、中国経済全体に波及するであろう。このように、米国の重要鉱物の最低価格制とブロック化は、これまでの中国一強体制を突き崩す可能性が強まる。大転換点に差し掛かった。

     

    あじさいのたまご
       

    韓国の李大統領は、日韓間では過去を棚上げした「実利外交」を標榜している。米国トランプ大統領も同じ「実利外交」を標榜しているが、中身は異なっているようだ。トランプ氏は、国益にならない外交を格下げするというドライなものである。このことに最近、韓国は気付かされて慌てている。

     

    トランプ氏は、韓国に対して現行15%関税を25%に戻すと発言した。これは、韓国が対米4500億ドル投資について、国会議決を遅らせていることへの怒りである。米国は、すでに昨年11月、25%関税を15%へ引き下げたにもかかわらず、韓国国会が議決しないことへの苛立ちである。明らかに、韓国の甘えである。こうして、米国は「ユートピア的同盟」を拒否して、米国の国益に資する同盟こそ大事という認識である。

     

    『中央日報』(2月2日付)は、「韓国が米国の国防戦略で見落としていた真実」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ政権の国防戦略(NDS)は、安全保障のアプローチ原則を「ユートピア的理想主義ではなく実用的現実主義」と規定した。目標は「米国人の安全保障、自由そして繁栄」だ。こうした目標の下にトランプ大統領は、インド太平洋地域を安全保障の「重要地域」と分類した。一言で「安全保障は当事者が処理せよ」という基調の中でそれなりに韓国が属するアジアの安全保障を捨てなかった点に安心する気流もある。

     

    (1)「トランプ大統領は、なぜこの地域が重要だとしたのだろうか。NDSは「インド太平洋地域が近く世界経済の半分以上を占めることになるため」という明確な理由をつけた。その上で「遠く感じられるかもしれないが、世界最大の市場に対する米国のアクセス性維持は重要だ」と強調した。インド太平洋が、「金」になるのでアジアの安全保障を守らなければならないという論理だ。これは米国の伝統的同盟である欧州に対する記述でより明確になる。NDSは、欧州に対し「世界経済で占める割合が小さくなっている。欧州に関与はするが、米国本土防衛と中国抑止を優先しなければならない」と指摘した。これにより「欧州の平和確保と維持は欧州の責任」と結論を出した」

     

    米国にとって、インド太平洋が重要なのは世界覇権維持に不可欠な地域という認識である。これは、「脱モンロー主義」に立ち、海洋国家として発展をめざして以来のことである。急に、インド太平洋戦略に立ち戻った訳でない。

     

    (2)「中国を抑止しようとする理由も明らかだった。NDSは対中安全保障原則について「中国を支配したり抑圧するのではなく、中国が同盟国を支配できないように保障すること」と記述した。爆発するインド太平洋地域経済の主導権を中国ではなく米国が持たなければならないという論理だ。トランプ大統領は、NDSでこうした安全保障の原則を明らかにした直後に韓国に対する関税を25%に引き上げると通知した。韓国国会が、対米投資を実行するための法案処理を遅らせているという理由だった」

     

    米国が、インド太平洋覇権を維持する上で、中国と対立するのは当然のことである。中国が、それを知らないはずがない。米中対立は、宿命的なものである。

     

    (3)「国務省の経済担当次官は、シンクタンク対談で関税引き上げの背景について「われわれは各国の話をそのまま信じず、信頼した上で検証する」とした。その上で「米国が望む確信を提供する具体的安全装置とシステムまで備える、厳格な基準を実際に履行することを要求する」と強調した。トランプ大統領が、新たに作っている米国の国家安全保障の根幹である経済で、韓国はひとまず「欠格」判定を受けたという意味だ。特にトランプ大統領が安全保障を純粋にお金で考える点から、次は安全保障と直接関連した請求書が飛んでくる可能性もある」

     

    韓国は、朝鮮戦争で米国に救って貰ったという「恩義」が足りない国である。恩義があれば、軽々に中国へ接近することを控えるはずだ。そういう意味では、思慮が足りないであろう。

     

    (4)「トランプ大統領が、韓国に関税引き上げを通知した直後、当局者の間では「試合中にゴールポストが消えた」という反応が出てきた。しかし韓国が鉄壁のような韓米同盟を掲げてこれまで存在すると信じていたゴールポストは、もしかするとトランプ大統領が言及したように「ユートピア的同盟関係」にだけ存在する虚像だったかもしれない」

     

    韓国は、米国へ甘えてきた。「経済は中国、安保は米国」と分けてきたからだ。これは、もはや通用しない時代になった。韓国には、そういう厳しさがない。同盟への「気配り」がないのだ。同盟維持は、ただ=無料とみているからだろう。




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    カリブ海の社会主義国キューバは、トランプ米大統領によって締め付けを強化され、あらゆる階層の市民が、生き残れるかどうかの瀬戸際に追い込まれている。停電時間は伸び、食料や燃料、交通の価格は急騰している。「反米チャンピオン」キューバは、社会主義革命(1959年)を起こして以来、最大の危機に見舞われている。盟友中国は、何らの支援もできず、口先だけで支援を叫んでいるに止まっている。

     

    『ロイター』(2月2日付)は、「米圧力で燃料不足深刻化 キューバ、生活防衛は限界に」と題する記事を掲載した。

     

    ロイターは、首都ハバナ周辺で露天商から民間部門労働者、タクシー運転手、公務員に至る30人余りを取材。燃料供給に依存する商品やサービスが不足し、価格も上昇する中で、人々が限界まで追い詰められている状況が浮かび上がってきた。

     

    (1)「キューバの地方部の多くでは、こうした状況は決して目新しくない。老朽化し、脆弱な発電システムは何年も前から徐々に機能不全に陥っており、市民は電気やインターネット、水道用ポンプが何時間も使えない状態に慣れている。一方、1950年代製の車が走り、老朽化しながらも色彩豊かなスペイン植民地時代の建物が並ぶハバナは、最近まで比較的恵まれていた。しかしながらキューバは今、ベネズエラに続きメキシコからの石油供給も止まって燃料不足が深刻化し、ハバナも危機に飲み込まれようとしている」

     

    キューバ革命からすでに67年も経った。社会主義革命を標榜したが、1950年代製の車が走っているという。時間が止まった感じだ。資源の何もないキューバが、社会主義を標榜するとはこういう結果を生むのであろう。

     

    (2)「トランプ氏は、キューバに石油を供給する国からの輸入品に関税を課すと発言。今年1月初めにキューバの重要な同盟国であったベネズエラのマドゥロ大統領を拘束し、長年の宿敵であるキューバへの圧力を一段と強めている。他の多くの国なら、こうした状況に陥れば抗議行動が起きたはずだ。しかし長年にわたり反体制的な動きが抑え込まれてきたキューバでは、これまでのところ大規模な反政府行動はほとんど見られない。ただし、市民がどこまで耐え続けられるのかは不透明だ」

     

    国民の抗議行動も起きないほど、政府によって国民が「飼い慣らされた」状況だ。

     

    (3)「マドゥロ氏拘束直後にキューバへの米軍介入の可能性について問われたトランプ氏は「キューバは崩壊寸前」のため、攻撃は必要ないと思うと話した。キューバのロドリゲス外相は1月30日、米国の関税警告に対して「国際的な緊急事態」を宣言。米関税を「異常かつ特別な脅威」と表現した。だが、キューバ政府は人道危機の深刻化にどう対処するのかについてはほとんど言及していない。ロイターが取材した多くのキューバ国民は、日常生活は以前から厳しかったものの、最近は食料、調理用燃料、水などの確保といった最低限のことまでひっ迫していると証言。ここ数日で明らかに状況が悪化したと訴えた」

     

    最近は、食料、調理用燃料、水などの確保すらままならなくなってきた。異常事態の勃発である。まさに、「風前の灯火」になっている。

     

    (4)「燃料供給のひっ迫は、公共と民間の両交通機関を直撃した。一部のバスや個人タクシーは営業を停止し、残る事業者も運賃の値上げを余儀なくされている。ハバナで個人タクシーを手配しているダイラン・ペレスさん(22)によると、バスが減ったことで、人々は民間交通の値上げを受け入れる以外の選択肢がなくなったと話す。「値段を払うか、家にいるかだ」。燃料不足の都市で切り札と考えられていた電気自動車(EV)でさえ、8~12時間以上続く停電の影響を受けている」

     

    ガソリン不足で、一部のバスや個人タクシーは営業停止状態である。交通機関の麻痺現象は、非常時到来である。

     

    (5)「2019年から24年にかけて経済が12%縮小したにもかかわらず、直近で大規模な抗議行動が起きたのは新型コロナウイルス禍の最中の21年だった。反体制的な動きに対する厳しい取り締まりと、パンデミック以降に100万~200万人が国外へ移住したことにより、国内の組織的な反政府勢力はほぼ消滅。ロイターが取材したキューバ市民の多くは抗議行動の可能性についての質問に答えるのを避けた。それでも、取材に応じた全員が「変化が必要だ」という点では意見が一致した。「神様が、この苦境から抜け出す道を見つけてくれるよう祈るしかない」と語ったのは、ハバナ郊外グアナバコア地区の露天商、ミルタ・トルヒーヨさん(71)。食料が買えなくなったと話し、涙を流した」

     

    パンデミック以降に100万~200万人が国外へ移住した。これにより、国内の組織的な反政府勢力はほぼ消滅したという。現在、キューバにとどまる人たちは、熱烈な愛国者か「諦観派」だけとなった。

     

    (6)「カストロ革命直前に生まれたというコバスさんは、トランプ氏が状況を好転させてくれるとは全く期待していないと打ち明ける。その上で「私が生まれてからずっと、(米国は)私たちを脅し続けてきた。私たちは毎日苦難と向き合っているが、生き延びてきた」と振り返った。ハバナ近郊レパルト・エレクトリコ地区に住むアイメー・ミラネスさん(32)は、キューバ政府にも米国政府にも希望を見いだせないでいる。「私たちは完全に追い詰められている。だが、打つ手はない。これはもう、生き残れるかどうかの問題だ。それ以外の話ではない」

     

    カストロの念願した社会主義革命はどうなったか。最大の被害者は、キューバ国民である。大量の国外脱出者を生んだのは、政治の貧困にほかならない。

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    中国軍部における最高幹部追放事件は、今後の米中の軍事関係に大きな影響が出るという指摘が出ている。人民解放軍の制服組トップである張又俠・中央軍事委員会副主席が失脚したことで、米国は人民解放軍との重要な連絡窓口を失ったと元米政府高官やアナリストらが指摘しているもの。習氏が、張氏を粛清したのは米軍のベネズエラ急襲との関連を疑った点も否定できまい。

     

    米国が、ベネズエラを急襲した際に米軍の作戦行動を支えたものに、「ダイナミックオントロジー」といわれる人工知能(AI)を活用した技術があったという。米軍は、大量の諜報、衛星データからベネズエラ大統領マドゥロ氏と周辺人物の所在や動き、会話をリアルタイムで把握していたとされる。

     

    この背後では、パランティア・テクノロジーズという、米国企業が米中央情報局(CIA)や国防総省、米軍と契約し、解析にあたっていたとされる。この情報システムでは、異なる軍、情報機関のデータと衛星からの音声、画像、動画を統合的に解析し、正確な位置情報や指示を現場に絶え間なく送る。スペイン語や中国語も方言を含めて判別してしまうというから、米国の敵方にされる国は、米軍へ対抗手段を失うほど高度の情報戦である。習氏は、こういう背景を理解せずに、米国通とされる張氏を疑い粛清したのかも知れない。

     

    『ロイター』(1月31日付)は、「中国軍制服組トップ失脚、対米パイプ喪失で高まる誤算リスク」と題する記事を掲載した。

     

    中国人民解放軍の制服組トップである張又俠・中央軍事委員会副主席が失脚したことで、米国は人民解放軍との重要な連絡窓口を失ったと元米政府高官やアナリストらが指摘する。

    習近平国家主席が人民解放軍の汚職取り締まりを進めている中で中国国防省は24日、張氏らが規律と法律の重大な違反の疑いで調査対象になっていると発表した。

     

    (1)「世界最強の軍隊を持つ米中間の衝突を避けるため、歴代の米政権は高官との連絡網構築に努めてきた。それだけに複数の元米政府高官はロイターに対し、張氏の失脚が衝撃だったと打ち明けた。ペロシ前米下院議長の台湾訪問に反発し、中国は人民解放軍と米軍の間の連絡を約1年5カ月間にわたってほぼ全て遮断した。習氏はその後、張氏に対してバイデン前政権下(民主党)の米国と連絡することを許可していた」

      

    張氏は、米中間のパイプ役であったという。習氏は、これを疑って米国へ情報を流していたと邪推したのであろう。最も信頼すべき副官を追放する。何やら、悲劇の幕が開き始めた不吉な感じもする。

     

    (2)「張氏は、中国がベトナムに侵攻したことで勃発した1979年の中越戦争で実戦経験を持つ数少ない軍高官の1人だった。中央軍事委員会を率いる習氏の有能な助言者だというのが米国側の認識だった。第1次トランプ政権で国務次官補(東アジア・太平洋担当)を務めたデービッド・スティルウェル氏は、2012年5月に1週間にわたって米国に派遣された軍事代表団に参加した張氏が中国人将校で唯一、米軍の輸送機オスプレイへの搭乗を希望したと回想。スティルウェル氏は「張氏は他の人民解放軍将校とは大きく異なる。米軍に非常に良く溶け込めただろう」とし、米軍の兵士との対話と兵器を試すことに熱心な姿勢から、政治的ではない職業軍人であるとの印象を受けたとして「張氏がいなくなることで失われるのは理性の声だと思う」と嘆く」

     

    張氏は、米軍の実態を理解しようとしていた。その意味では、軍人には珍しい「リアリスト」である。冷静に米中の軍事力を比較していたから、台湾侵攻へ慎重であったに違いない。習氏は、これが気に入らなかったのだ。

     

    (3)「張氏の失脚を受け、中央軍事委員会に制服組で残るのは張昇民副主席だけとなった。米国防当局者として張氏と関わった経験を持つシンガポールのS・ラジャラトナム国際研究院上級研究員ドリュー・トンプソン氏は「中央軍事委員会の(制服組)メンバーがたった1人しかいない場合、習氏は危機対応時に誰を招集するのか」と疑問を投げかけた上で、「習氏は聞きたいことを言うおべっか使いから誤った助言を受けるリスクがある」と指摘。「それは誤算のリスクを生む」と警鐘を鳴らした」

     

    習氏は、最も危ない状態へ自ら身を置くことになった。あるいは、これを好条件として、台湾侵攻を急ぐのか。前記の「ダイナミックオントロジー」といわれる人工知能(AI)を活用した技術が、習氏の周りにも張り巡らされていることを想定すべきであろう。

     

    (4)「米首都ワシントンに拠点を置く安全保障コンサルティング会社ブルーパスラボの中国軍事専門家、エリック・ハンドマン氏は、習政権下の軍隊間交流は中央軍事委員会のレベルであっても台本通りになる傾向があるとして「人民解放軍は自らの能力をかなりうまく把握しており、準備が整う前に台湾有事へ動くことに関心はない。私の疑問点は、習氏が軍の意見をどこまで聞いているかだ」と話す。その上で「習氏が、もっとたちの悪い助言を受けていないかが心配だ」と打ち明けた」

     

    習氏は、軍事問題についてまともに相談する相手を失った。質の悪い助言を真に受けて、台湾侵攻すれば、大変な事態を招く。自らの政治生命も失う結果になるからだ。

     

    (5)「米政府高官は、トランプ政権(共和党)が中国の「体制内陰謀に関する報道」についてコメントする立場にないとした上で、米国が「(中国の海洋防衛ライン)第一列島線の全域で侵略を阻止できる軍隊を構築している」と解説した」

     

    米軍は、第一列島線内で中国軍を殲滅する態勢を強化している。習氏が、空母3隻の幻想にひきづられると、大変な悲劇を招く。

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    中国経済は、不動産バブル崩壊後遺症によって金融危機へ発展しかねないリスクを抱えている。不動産不況の長期化が、地方政府債務を累増させ、投資の停滞と家計消費の不振を招いているからだ。中国経済の実体は、改革以来の後退局面に陥っている。これと歩調を合わせるように、政治面でも、習氏が人民解放軍中央軍事委員会副主席の張又侠氏ら二人を粛清した。こうした経済不振と軍事における人事の混乱は、中国にとってどういう意味を持つのか。国家として、極めて危険なシグナルである。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月27日付)は、「中国の退廃と軍幹部粛清」と題する記事を掲載した。

     

    粛清の波によって人民解放軍の高位の人物が次々に失脚する中で、張又侠氏は手出しできない存在に見えていた。張氏は習近平国家主席に抜てきされ、共産党政治局員を務めるとともに、軍の序列で習氏に次ぐナンバー2に当たる中央軍事委員会副主席の地位にあった。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が最初に報じた24日の軍最高幹部向け会合で、張氏が家族との不正共謀から核兵器を巡る米国への機密漏えいに至るまで、ありとあらゆる疑惑で告発されたことが報告された。

     

    (1)「このニュース自体が衝撃的なものだったが、これに関する論説記事はさらに不気味だった。有力な中国ウオッチャーのビル・ビショップ氏が自身のニュースレター「シノシズム」に掲載した翻訳によると、人民解放軍の日刊紙「解放軍報」の論説記事では、両容疑者は「政治的問題や腐敗を深刻なまでに助長し、軍に対する党の絶対的指導力に影響を与え、党の統治基盤を危険にさらした。(中略)彼らは軍の政治構造や政治体系、戦闘能力の構築に甚大な打撃を与え、党・国家・軍に極めて悪質な影響を及ぼした」と書かれていた」

     

    追放された2人の軍最高幹部は、「悪人」扱いである。真相はどうなのか。習氏が、経済疲弊と台湾侵攻問題で行き詰まった結果と読むべきだ。これが、専制主義国家の最後の「あがき」として浮上するありふれた事態である。習氏の焦りである。

     

    (2)「この文言からは、習氏の最も信頼する側近の1人が金銭的な不正行為に関与しただけでなく、習氏に対して陰謀を企てていたことが示唆されている。軍事クーデターが未然に防がれたのか。最高指導者を中心に固く結束しているイメージを常に打ち出している中国指導部だが、実際は派閥争いがあり、分裂しているのか。一般市民よりもはるかに多くの情報を持つ高官らは、習氏が導く中国の未来に懸念を抱いていたのだろうか」

     

    人民解放軍は、統一と団結が特色である。真相は、漏れてこない。ただ、何十年後には「習氏の独断」という形で暴露されるに違いない。

     

    (3)「米大統領の予測不能さ、多くの西側諸国の首脳の無能さ、そして多くの民主主義社会における政治不安や社会的対立が、自由な政治体制の持続可能性や有効性に疑問を投げ掛ける中、中国の粛清は他の政治体制にも欠点があることを思い起こさせてくれる。中国のような体制では、健全で自浄的な方策は機能し得ない。党が重要な状況への対応を間違えば間違うほど、当局者やメディアはより大きな声で一斉に党指導部を称賛しなくてはならないからだ」

     

    西側諸国では、トランプ米大統領など日常的に批判の対象になっている。中国では逆だ。賞賛され尽くしている。

     

    (4)「中国のほぼすべての世帯は、破滅的で非人間的な一人っ子政策の影響を受けている。この政策は国全体に人口動態上の危機をもたらした。しかし、誰も反対できなかった。今、それを強制した残酷で誤った考えを持った指導者たちに説明責任を要求できる人は誰もいない。中央政府の数十年にわたる誤った政策がもたらした、当然予想できたはずの不動産バブル崩壊によって、何百万もの世帯が生涯の貯蓄を失った。中央政府は、腐敗した地方政府の当局者や強力な利益集団にけしかけられて政策を実行していた。これについても誰も何も言うことができない」

     

    専制主義国家は短期的には成功しても、長期的には腐敗する。批判することが許されないからだ。米国のトランプ批判は、中間選挙という関門によって「浄化」される。中国には、こういう自浄組織が存在しないのだ。

     

    (5)「専制主義の官僚政治体制は短・中期的にはうまく機能することが多かった。ルイ14世、ナポレオン、ドイツ帝国、ヒトラー、東条英機、スターリンには、いずれも好調な時期があった。しかし、絶対的権力者に付きものの有害な孤立が彼らの洞察力を鈍らせ、社会の能力を損なうといった流れが何度も繰り返されてきた。中国に現在突き付けられている問題は、張又侠氏が軍事機密を米国に売り渡したかどうかではない。これまで破滅と敗北に追い込まれてきた歴史上の多くの専制主義体制と同様に、中国共産党が専制主義的退廃の犠牲になりつつあるのかどうかだ」

     

    中国共産党は、これまで敗北に追い込まれてきた歴史上の多くの専制主義体制と同様に、専制主義的退廃の犠牲になりつつあるのか。客観的言えば、そういう危険性が高まっている。経済危機という時限爆弾が、中国の専制主義を追詰めるのだ。

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