勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 日本経済ニュース時評

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    日本製鉄が、150億ドル(約2兆1100億円)で米鉄鋼大手USスチールを買収する件が、米国政府の承認段階で不透明になっている。理由は価格ではない。条件でもなければ、株主でもない。今年が大統領選イヤーであることから、政治の思惑が絡んでいることだ。一時は、バイデン大統領が合併拒否姿勢と伝えられるなど混乱したが、結論は大統領選後に持ち越されそうである。つまり、政治的決定から免れるのだ。

     

    今回の合併をもつれさせている裏に、もう一つの「事情」が存在する。USスチールとの合併を狙っていた米鉄鋼2位のクリーブランド・クリフスである。USスチールとの合併で日鉄に競り負けたことで反撃しているのだ。全米鉄鋼労組(USW)を反対派に巻き込んでいる。だが、肝心のUSスチール労組は、日鉄との合併賛成派である。このねじれた関係が、事態を複雑にさせている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月17日付)は、「クリフスと日鉄の因縁、停滞招く保護主義」と題する記事を掲載した。

     

    USスチール買収合戦が本格化したのは2023年8月だ。米鉄鋼2位のクリーブランド・クリフスが名乗りをあげた。その後、日鉄が上回る価格を提示しクリフスは競り負けた。クリフスはその後もUSスチール買収に執念を燃やす。日鉄が買収したUSスチールに規模で抜かれることへの危機感が背景にある。

     

    (1)「クリフスとはどのような会社なのか。創業は1847年と古いが、製鉄参入は比較的最近だ。もともとは資源会社で鉄鉱石を米国の鉄鋼会社に販売してきた。一貫製鉄所の運営を本格化したのは20年にオハイオ州の鉄鋼大手、AKスチールを買収してからだ。成長の原動力の一つとなったのは同年に欧州アルセロール・ミタルから米国事業を買収したことだ。実はこのときに買収した2つの工場はミタルと日鉄の合弁で日鉄も出資していた。買収でクリフスは付加価値品である自動車鋼板にも本格的に参入した」

     

    クリフスは、合併を繰返して規模が大きくなった企業である。それだけに、「中身」が伴わない憾みがあり、USスチールが合併先として忌避したのであろう。日鉄であれば、同年の創立で「社格」にも不満はない。当然の選択であったに違いない。

     

    (2)「日鉄を批判し続けるクリフスだが、日本企業との縁は実は深い。ローレンコ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)は、かつてJFEスチールが出資していた鉄鋼会社の出身だ。クリフスが買収したAKスチールも、過去にJFEの前身の川崎製鉄が出資していた。買収を繰り返し、売上高は過去5年で10倍に膨らんだが、市場の目は厳しい。時価総額は米鉄鋼大手で最下位であり、足元ではUSスチールにも抜かれた。巨大化を急ぐあまり、構造改革が遅れている」

     

    クリフスの社歴からみても、日本の鉄鋼界の事情に詳しいはずである。日鉄が、どういう企業であるかを十分に理解しているであろう。この日鉄が、USスチールと合併すれば、クリフスの出る幕がなくなる。そういう危機感の裏返しが、日鉄批判には潜んでいる。強敵という認識だ。

     

    (3)「9月5日には、日鉄による買収が失敗したらUSスチールの資産を買収すると表明したが、株価は翌日に年初来安値を更新。16日も1.%安だった。シティーグループは、「特に付加価値の高い鋼板の利益貢献が想定を下回っている」と分析する。停滞の焦りからクリフスが傾注しているのが輸入鋼材の締め出しだ。トランプ政権時から政界への影響力を高め、輸入関税を強化するよう働きかけてきた。政治力が強い全米鉄鋼労働組合(USW)との結束もこうした背景と無関係ではない」

     

    クリフスの「体力」のなさは、市場が見透かしている。日鉄による買収が失敗したらUSスチールの資産を買収すると表明して以来、株価が下落し続けている。クリフスには、USスチールを合併する力がないと判断されているのだ。

     

    (4)「クリフスとUSWは、「日鉄が中国などから安価な鋼材を流入させ、米国の労働力を脅かしている」との主張を崩していない。日鉄が米国の輸入材への関税措置を阻害していると懸念する米政府の主張とも重なる。米国の鉄鋼業界は、米政府が断続的に打ち出す貿易管理など保護主義的な政策で輸入品から国内雇用や生産を守ることに終始した結果、抜本的な改革が遅れた歴史がある。政府による過度な産業保護は結果的にUSスチールの身売りにつながった。保護主義に傾注するあまり改革が遅れれば、クリフスも第2のUSスチールになりかねない。株価の低迷はそうした懸念を如実に示している」

     

    クリフスとUSWは、日鉄とUSスチールの合併反対論を唱えている。この反対論が通れば、米国鉄鋼界は「終わり」となる。保護主義で競争力を失うからだ。バイデン政権は、今こそ米鉄鋼100年の計に思いをいたすべきであろう。

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    尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は、20%台の低支持率であったが、これを支えてきた核心支持層に崩壊の兆しを見せ始めた。70代以上の尹大統領支持率が、3週間で23ポイントも下落しているからだ。長期化する医療ストによって、急患が「救急室たらい回し」され結局、死亡するという痛ましい犠牲者が出ている。健康問題に敏感な高齢層が、尹氏支持を撤回したのであろう。 

    問題は、医学部定員増加に反対する医師や医学部が既得権益を「死守」する姿勢にもある。絶対に妥協せず、犠牲者が出てもストを継続する状態は正常な感覚ではない。生涯高賃金を確保するためには、医師の数を増やさず競争を避けるという自己保身が見え隠れしているのだ。最大の犠牲者は一般国民である。

     

    『東亜日報』(9月14日付)は、「尹大統領支持率が20%、就任後最低」と題する記事を掲載した。 

    尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の国政支持率が過去最低の20%を記録した。与党支持率も同時に下落し、尹政権発足後の最低の28%だった。与党が医学部定員の増員をめぐる医政葛藤の解決策を示すことができず、医療空白が長期化することに対する批判的世論が反映されたものと分析される。

    (1)「韓国ギャラップが、9月10日から12日にかけて全国の成人1002人を対象に実施した調査結果(詳細は中央選挙世論調査審議委員会ホームページ参照)によると、尹大統領の職務遂行に対する肯定的な評価は先週より3%ポイント下落した20%だった。否定評価は先週より3%ポイント上がった70%で、5月第5週と同じ最高だった」 

    最新世論調査では、尹大統領支持率が20%、不支持率70%という数字が出た。これは、極めて危険なデータである。

     

    (2)「韓国ギャラップは、「否定評価は『医学部定員拡大』(18%)、『経済・民生・物価』(12%)、『疎通不十分』(10%)、『独断的、一方的』(8%)、『全般的に間違っている』(6%)などを理由に挙げた」と明らかにした。これに先立って総選挙惨敗後、尹大統領の職務遂行評価は5月第5週に肯定評価が21%、否定評価が70%だったが、支持率が徐々に回復した。7月第3週には29%まで上昇したが、その後、医学部定員問題が議論になり、引き続き下落傾向を示したのだ」 

    尹大統領は、医学部定員問題が足かせになって支持率が低下している。尹氏の「正論」が通らない以上、さらなる妥協策も必要だろうが、医師側の「頑迷固陋」ぶりも見逃せない事態だ。結局、韓国では巨大な既得権益層があらゆる改革を阻止していることがハッキリしたことである。

     

    (3)「大統領室は、「支持率については言及しない」として公式反応を示さなかった。しかし、秋夕(チュソク=陰暦8月15日の節句)連休の直前に発表した世論調査で最低を記録すると、少なからず戸惑っている様子だ。特に与党内部では、心理的マジノ線である20%台まで崩れる場合、国政の動力喪失が加速化する懸念する声が出ている」 

    支持率が、20%を割込む事態となれば、下線部のように野党を勢いづかせて「弾劾」という無法な要求を実現させる恐れもゼロではない。「弾劾癖」のついている左派にとっては、「尹氏追放」という夢を抱く可能性を強めている。そうなると、韓国政治は麻痺状態に陥るであろう。すでに、その前兆が出ている。国会で最大野党の共に民主党から「ニューライト論」が仕掛けられている。「新右翼」とでも解釈するのだろうが、反日と結びつけているのだ。

     

    『中央日報』(9月17日付)は、「韓国政界を揺さぶる『ニューライト』」と題する記事を掲載した。 

    「首相は『ニューライト』をご存知ですか」〔申栄大(シン・ヨンデ)共に民主党議員〕

    「『ニューレフト』もあるのですか。どうか“色塗り”はしないでほしい」〔韓悳洙(ハン・ドクス)首相〕 

    2日の韓国国会予算決算特別委員会全体会議で、申議員と韓首相が交わした舌戦だ。3日、安昌浩(アン・チャンホ)国家人権委員長候補人事聴聞会でも「もしかしてニューライトですか」〔徐美和(ソ・ミファ)共に民主党議員〕、「ニューライト史観が何ですか」(安昌浩国家人権委員長候補)のような攻防が続いた。 

    (4)「いわゆる「ニューライト」論争が9月政界を飲み込んだ。野党圏は金文洙(キム・ムンス)雇用労働部長官や安昌浩国家人権委員長候補ら、最近尹錫悦政府の主要人物と韓日関係をはじめ独島(トクド、日本名・竹島)造形物撤去や歴史教科書問題などを前面に出して「ニューライト」総攻勢をしかけた。与党は、「理念主義に持っていこうとするな」と対抗した。尹大統領は先月29日、国政会見で「正直、ニューライトとは何かよく分からない」とまで話した。政界関係者は「80~90年代『セッカル論(理念論)』攻防を連想させる」とし「変化したのは保守と進歩側の攻守が逆になったこと」と話した。 

    国会での理念論争を否定しないが、反日を搦めて政府を批判して、肝心の議案審議を棚上げしている。この裏には、文前大統領「疑惑」をニューライト論で消そうという思惑があるのかも知れない。だが、党利党略もほほどほどにすべきだろう。

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    16日午後22時過ぎ、ドル円相場は一時140円を突破して「円買い」勢力が強くなっている。この結果、市場では年内に135円や137円といった声が聞かれるほどだ。目先の関門は、17~18日にFRB(連邦準備制度理事会)が利下げ幅を0.25%か0.50%にするかによって、円相場の動きは異なる。今回の利上げが、米国の中立金利を早く4%以下にする政策意図があれば、0.5%利下げもありうるという。微妙なところである。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月13日付)は、「FRBの利下げジレンマ『大きく始めるか小さく始めるか』」と題する記事を掲載した。 

    米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は、FRBが17~18日の利下げに備える中、難しい判断を迫られている。それは小さく始めるか、大きく始めるかということだ。 

    (1)「FRBは、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で2020年以来となる利下げに踏み切ることが確実な情勢だ。FRB当局者らは、今後数カ月間に複数回の利下げを実施できるとの自信が高まっていることを示唆しているため、利下げ幅を伝統的な0.25ポイントにするか、さらに幅広い0.5ポイントにするかという問題に直面している」 

    .25%か、0.5%の利下げか。市場は固唾を飲んで見守っている。

     

    (2)「来週のFOMCで公表される四半期に一度の経済見通しが、問題をさらに複雑にする可能性がある。この見通しは、当局者が年内に何回の利下げを予想しているかを示す。FRBは年内にあと3回の会合を残している。来週と11月と12月に1回ずつだ。市場はFRBが年内に1ポイントを超える利下げをすると見込んでいるため、それよりも小幅な見通しが示されれば、市場の期待が後退して金融環境が引き締まり、FRBがまさに利下げしようとしている時に借り入れコストが上昇しかねない」 

    市場は、年内1%の利下げを見込んでいる。この想定が崩れると金利が跳ね上がるリスクが生まれる。市場との対話を重視するFRBが、市場の期待を裏切れないであろう。 

    (3)「FRBは通常、0.25ポイントの幅で動くことを好む。小幅の調整であれば、政策変更の影響について調べる時間を多くとれるからだ。一部の当局者は、景気が一層減速しているように見えるようになってからペースを上げる方が良いとの見方を示している。一方で、11月と12月に0.5ポイントの利下げが実施される公算が大きいと考えているのなら、金利が最終的な目標からより遠い今こそ動くべきだ、と当局者が結論付ける可能性もある。現・元当局者によると、より小幅で始めることを支持する意見は、経済が基本的に好調だとみなしている。彼らは、0.5ポイントで利下げを始めると、経済についてより大きな警告を発することになり、市場がより速いペースの利下げを見込むようになる可能性があると指摘する。それは市場が上昇するきっかけとなり、インフレとの戦いを終えるのをより困難にする恐れがある」 

    利下げが、0.25%から始まれば社会は安心する。だが、0.5%から入ると、景気が危ないのかと警戒観を持つようになるので、さらなる大幅利下げを求められると危惧する。

     

    (2)「FRBが、広範なコンセンサスの形成を好むことや、大統領選直前に通常より大幅な利下げを行う理由の説明が難しいことを考えれば、0.25ポイントの利下げから緩和を始めるのが最も抵抗感の小さい手法になる。2011~2023年にカンザスシティー地区連銀総裁を務めたエスター・ジョージ氏は「0.25ポイントが最初の利下げとしてはやりやすい」と指摘。「『しばらくは金利を高めに維持するとか、経済がさらに弱まるように見えればもっと積極的な利下げができるとか』言うことができる」と語った」 

    11月の大統領選を控えて、0.25%利下げが穏当としている。 

    (3)「通常より大幅な利下げで緩和をスタートさせるのを正当化する主な理由は、これまでの利上げで成長がさらに鈍化するリスクに対して保険をかけるというものだ。現在ジョンズ・ホプキンズ大学金融経済学センターの研究員を務めているファウスト氏は「今われわれは、予防的な0.5ポイントの利下げを声高に求めるような状況にないと思う。しかし、私個人としては0.5ポイントの利下げから始める方がやや好ましいと思う。私は依然、FOMCでもそうした決定が下される可能性は十分あると思っている」と語った。ファウスト氏は、FRBが大幅利下げに踏み切る場合、「それを怖く見せないために、多くの文言を」費やすことで、投資家をおびえさせかねないという懸念を抑制できると思うと述べ、「それが不安な状況の兆しになってはならない」と付言した」 

    .5%利下げが、先行き経済を悲観しているのでないことを十分に説明して行うべきである、としている。

     

    (4)「ファウスト氏はまた、年内に計1.00ポイントの利下げがあるとの見通しを何人かのFRB当局者が示すと思うと語った。その場合、0.25ポイントの利下げからスタートすると、その後今年末までにより大幅な利下げを予想しているのに、なぜ初回にそれをしなかったのかという、変な疑問を生じさせるリスクが出てくるという。 

    年内に1%ポイントの利下げ論が有力である。この場合、初めに0.5%引下げ後2回で、0.25%づつ引下げれば理屈にあうとしている。 

    (5)「2009年から2018年までニューヨーク地区連銀総裁を務めたウィリアム・ダドリー氏は、FRB当局者がそうだと考えていると述べている通りに、本当にインフレ率上昇と労働市場軟化の間でリスクが均衡しているなら、FRBは金利を中立的な水準により大きく近づけたいはずだとの見方を示した。すべてのFRB当局者が中立金利は4%を下回るとみていることをふまえると、0.25ポイント刻みの利下げは理にかなっていない。同氏は「論理的には、より速いペースで引き下げる必要がある」と述べた」 

    FRBが、中立金利(好不況に関係ない金利水準)を4%以下にする計画ならば今回、0.5%利下げしてその意思を見せるべきとしている。

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    困った隣国が現れたものだ。中国は、アジアの軍事覇権を確立すべく、日本の防衛能力に探りを入れている。最近は、意図的に領空侵犯を行い日本の反応をみたのだ。中国にとって日本は「目の上のたんこぶ」である。日清戦争で大敗したことがトラウマになっており、日本への雪辱に燃えている。中国が、尖閣列島で執拗なまでの領海侵犯を続けている背景は、国内向けのジェスチャーである。「強い中国」を演出しているが、危ない振る舞いだ。いつ、「実戦」へ移行するか分らない不気味さを抱えている。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月11日付)は、「太平洋での米国の重要な第1防衛線」と題する寄稿を掲載した。筆者のジョン・ボルトン氏は、2018~19年に米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、2005~06年に米国連大使を務めた。 

    中国が最近行った日本の領空・領海への侵入は、インド太平洋地域の国々を威嚇して支配しようとする中国政府の取り組みを著しくエスカレートさせている。これに対して日本政府は、こうした侵犯行為に対する検知能力を強化するため、数千億円規模の衛星網整備計画を発表した。中国の「漁船」は過去に、日本・台湾・中国が領有権を主張している尖閣諸島周辺を定期的に航行した。その後、中国の海警局船や軍用艦船が現れるようになり、中国政府の強硬姿勢が強まった。

     

    (1)「中国の海洋進出はエスカレートしているが、同国はそれ以前から台湾の領空・領海に侵入し、南シナ海の大半の領有権を主張していた。係争中の島や浅瀬、岩礁を巡る中国海軍とフィリピンとの衝突は大きく報じられた。ベトナムなどの国も頻繁に中国の挑発を受けている。これらはいずれも偶然の出来事ではない。中国政府は間違いなく第1列島線の支配権を勝ち取ろうとしている。このさまざまに表現されてきた地勢図は、カムチャッカ半島から千島列島、日本、尖閣諸島を経て台湾、フィリピン、そしてボルネオ島とマレー半島にまで至る。米国の次の大統領は、中国のこうした好戦姿勢から導かれる戦略的な結果に向き合わざるを得なくなるだろう」 

    中国は、カムチャッカ半島・千島列島・日本・尖閣諸島を経て台湾・フィリピン、そしてボルネオ島とマレー半島を「国防圏」としている。戦時中の日本が、「絶対国防圏」していた模倣である。中国は、前記の地域を支配下に収めようとしている。思い上がった振る舞いだ。その経済力が消えつつあるにもかかわらず、野望だけが残っている。 

    (2)「中国が第1列島線に沿った全域で圧力をかけている中で、その影響を受けている日本や台湾などの国・地域と米国との現行の2者間協力は、明らかに不十分になっている。標的となっている国・地域でそうした取り組みが行われなければ、中国にとって第1列島線のどこかに情報網や防衛網の継ぎ目を見つけることは、はるかに簡単になる。中国が第1列島線を1カ所でも突破すれば、この線上や太平洋にある他の国々がより大きな危険にさらされることになる。各国・地域の領空・領海の保全には多国間協力、特に日本、韓国、台湾、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランドの空・海軍と情報機関の協力が必要であることを米政府は認識すべきだ。利害関係の大きさを考えれば、他のアジア・太平洋諸国や、英国など欧州の重要な同盟国を巻き込むことが極めて重要かもしれない」 

    中国は、日本がなぜ太平洋戦争で敗れたかという教訓生かしていない。やたらと広い地域へ圧力をかければ、これら国々が結束して対抗することを忘れている。清が、周辺地域を併合した時代背景と現代とでは異なるのだ。

     

    (3)「そうした協力に、北大西洋条約機構(NATO)の東アジア版の創設や、中国を封じ込める決断の受け入れは必要ない。少なくとも今の段階では、だ。それでもなお、第1列島線に沿って、早急に複数の国と地域で、より断固たる対応を取ることが必要だ。幾つかの分野では既に多国間協力が行われているが、もっとなされなければ、中国が他の国・地域を互いに対立させ、周辺で好戦的な活動の調整をし、自国の利益を推し進めようとするだろう」 

    日本がリードしたインド太平洋戦略は、中国の野望を食止める上では重要な防波堤になる。これを砦にして、米国・日本・豪州・フィリピン・台湾が共同歩調を取ることだ。 

    (4)「誰も触れたがらないが、極めて重要な場所は台湾だ。台湾を失えば、中国に脅かされている他の国・地域が、平和を乱す中国の行動を効果的に排除できる可能性はほとんどなくなる。現在の状況下で米国の支援を求めているのは台湾ではなく、台湾と同じくらい支援を必要としているこの地域の国々だ。ダグラス・マッカーサーが「沈むことのない空母」と評した台湾の実質的支配権を中国に渡してしまえば、第1列島線が決定的に突き破られることになる。ましてや、中国が台湾を併合すれば、こうした状況は一層深刻になる。台湾を巡るジレンマについて、中国をいら立たせる対応はいろいろある。しかし、中国が政治的危機を起こす決意を固めない限り(その場合はそれ自体が敵対的意図の表明となるが)、こちらからあえて危機を誘発する必要はない」 

    台湾は、民主主義の防衛の要である。ここを失えば、中国は太平洋を支配下に収めるべく、米国の権益を奪うにちがいない。米国にとっても死活的な問題になろう。米国の世界覇権は、著しく低下する運命だ。

     

    (5)「中国は、アジア太平洋諸国に対する影響力を強化し、情報収集の取り組みを拡大するとともに、領空・領海への侵入を増やすだろう。侵入のペースと範囲を決めるのは同国政府であり、そのことは中国の標的となっている国々が協力を強化する必要性を明確にする。それだけでも抑止力を高める効果を持つが、われわれには時間を無駄にする余裕はない」 

    現状は、中国が米国覇権へ挑戦する準備期である。日に日に衰える、自国経済力の低下に焦りながら「一か八か」の大勝負に出るか。自重するか。アジアの諸国が結束することで、中国への抑止力を高めるほかない。

     

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    韓国半導体は汎用品

    後工程技術で出遅れ

    サムスン日本で研究

    素材企業は後押し役

     

    半導体は現在、パソコンやスマートフォン向けから、生成人工知能(AI)や自動運転向けへと需要先がシフトしている。半導体が、パソコンやスマホに多く使われて段階では、メモリー半導体(記憶)が主力であった。だが、AIや自動運転向けへと需要が拡大している現在、非メモリー(演算・制御)半導体が主体になりつつある。半導体世界の主役は、非メモリーへ移ってきたのだ。 

    サムスン電子は、世界半導体の代表企業である。だが、その製造している半導体がメモリーという汎用品であることで、経営は周期的に大きく揺さぶる「難点」を抱え込んでいる。 

    もう一度、半導体について整理しておきたい。

    1)メモリー半導体  汎用品 安い価格 周期的循環 サムスン

    2)非メモリー半導体 受注品 高い価格 比較的安定 TSMC

     

    サムスンが、周期的に経営が揺さぶられる一方、台湾のTSMCは高い利益率を上げている。非メモリー半導体が主体である結果だ。サムスンは、こうして収益力でTSMCに引離されている。日本のラピダスは、2)の非メモリー半導体進出を目指している。 

    以上のように、サムスンの経営実態を分析すると、その基盤は決して強固なものでないことが分る。それどころか、周回遅れとなった日本の半導体ラピダスが非メモリーで再興するので将来、その座を脅かされるリスクすら抱えている。 

    サムスン半導体の弱さは、半導体総合力(製造装置・素材)において脆弱であることだ。日本は、半導体製品では競争力を失い各国の後塵を拝したが、総合力では今なお優位を保っている。特に、今後の非メモリー半導体の象徴になる「2ナノ」(10億分の1メートル)では、半導体製造工程の「後工程」の優劣が、競争力を左右するとみられる。日本は、この後工程で圧倒的な力を備えているのだ。ラピダスが、将来性を備えている理由はここにある。 

    こういう状況から言えば、ラピダスがサムスンやTSMCと十分に対抗可能という筋書きが生まれて当然であろう。世界3大半導体企業のTSMC・サムスン・インテルが、この事実を痛いほど知り抜いており、相次いで日本へ研究施設や研究組合を設置している。

     

    韓国半導体は汎用品

    韓国の非メモリー半導体シェアは、主要国の中で最下位である。韓国産業研究院によると、22年の世界の非メモリー半導体市場の国別シェアは次の通りである。

    1位 米国 54.5%

    2位 欧州 11.8%

    3位 台湾 10.3%

    4位 日本  9.2%

    5位 中国  6.5%

    6位 韓国  3.3%

    出所 韓国産業研究院 

    米国は、コンピュータCPU(中央演算装置)とスマートフォン用AP(アプリケーションプロセッサ)、GPU(グラフィック処理装置)などほとんどの市場を独占している。欧州は、自動車・産業用ロボットに必要なMCU(マイクロコントローラーユニット)などに強みがある。日本は、特定需要を対象にした離散型半導体(ダイオード・トランジスタ・サイリスタ)などで競争優位性を持っている。

    韓国の非メモリー半導体シェアは、3.3%に過ぎない。韓国には、非メモリー半導体のユーザーが少ないという致命的欠陥を表している。サムスンが、非メモリー半導体の技術蓄積が少ない背景には、ユーザーが存在しなかったことも影響している。 

    サムスンは、メモリー半導体で世界トップシェアだが、汎用品特有の価格が勝負という商品特性から強い経営的影響を受けている。サムスンは、不況期にもなかなか減産に踏み切らず、修羅場の中でシェアを高める戦術を採用してきた。こういう点で、ビジネス巧者である。だが、非メモリーは受注品で技術レベルが販売面で最大の影響力を持っており、メモリーとは全く異なる商品特性である。これが、サムスンの経営的肌合いとは根本的に異なっている点だ。

     

    TSMCは、非メモリー専業である。サムスンは汎用品が主体だけに、非メモリーへ向ける経営資源配分を誤った。これが、非メモリー半導体で韓国シェアの低い背景であろう。経営体質の異なるサムスンが、非メモリーで競争力を付けることは生やさしいことではあるまい。 

    サムスンは次の通り、非メモリー販売シェアでTSMCに大きく引離されている。

    TSMC 51.8%

    サムスン 18.5%

    2023年 

    サムスンは、2020年の世界シェアは17%であり、その後の推移をみると伸び悩んでおり、TSMCとの差を目立って縮められずにいる。この背景には、製品歩留まり率の悪化が指摘されている。日韓の政治対立で、日本が韓国への半導体主要3素材の輸出手続き強化を行った(2019年)ことの影響が指摘されている。日本からの半導体素材輸入が遅れて他国製品を使用した結果、歩留まり率が低下したとされる。 

    韓国半導体は、日本半導体の素材供給に大きく依存している。サムスンの歩留まり率低下が表すように、韓国半導体は日本素材の影響下にある証拠になろう。(つづく)

     

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