勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 日本経済ニュース時評

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    日本と中国の30年物国債の利回りが11月末、月末ベースで初めて逆転した。中国経済の足取りの重さなどを反映している。20年物国債も利回り差が縮小している。日中の国債利回り逆転が他の年限にまで広がれば、金融市場は、中国経済への深刻な判断を示すことになる。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(11月23日付)は、「『日本化』が影落とす中国国債市場、デフレ圧力強く」と題する記事を掲載した。 

    中国の長期債利回りが、初めて日本を下回った。中国が、隣国日本を長らく悩ませてきたデフレに陥るとの見方が投資家の間で広がっている。

     

    (1)「中国の30年物国債(ベンチマーク債)価格が上昇し、利回りは20年代後半の4%から11月29日には2.21%まで低下した。低迷する経済のてこ入れ策として当局が金利を引き下げたことや、中国の投資家が安全資産の国債へ逃避していることが背景にある。一方、長年1%を割り込んでいた日本の30年物国債利回りは中国を上回り、2.27%まで上昇している。数十年にわたるデフレを経て金融政策が正常化に向かっているためだ」 

    中国の30年物国債利回りは11月29日、2.21%まで低下した。日本の30年物国債利回り2.27%を下回り、「日中が逆転」した。中国経済の先行き不安が、高まっていることを意味しているのだ。 

    (2)「中国当局が、利回りの維持に奔走するなかで日中の利回りが逆転したことは、市場が急反転すれば金融全般の安定を脅かす可能性があるという警告を発している。だが一部の投資家は、中国のデフレは財政・金融政策で簡単に是正できないほど経済に定着しているとみている。(中国長期債の)利回りはさらに低下する余地がある。スイスの富裕層向け金融大手ロンバー・オディエ・グループのアジア最高投資責任者(CIO)、ジョン・ウッズ氏は「中国国債の進む方向として利回りの一段の低下は避けられない」との見方を示した。当局がどうすればデフレを食い止められるのかは「よくわからない」という。「中国は低利回り環境に突入し、おそらくはその状態が続くとみられる」とウッズ氏は語った」 

    中国国債利回りは、一段の低下が避けられないとみられている。デフレや金融不安が重なって、安全資産である国債へ資金が移動しているのだ。

     

    (3)「投資家の間では、中国経済のある症状が、不動産バブル崩壊で長期的な経済停滞に陥った1990年代の日本に共通するとの見方も出ている。中国の消費者物価指数(CPI)は、エネルギーと食品を除くコア指数が10月に前年同月比0.%の上昇にとどまった。一方、日本のCPIは(エネルギーと生鮮食品を除いた)いわゆるコアコア指数が同月に前年同月比2.%の上昇と6カ月ぶりの高水準を記録し、追加利上げの根拠が強まった。トランプ次期米大統領は、中国からのほぼ全ての輸入品に10%の追加関税をかけると表明しており、これも成長への脅威とみなされている」 

    中国の30年物国債利回りが日本を下回ったのは、不動産バブル崩壊で長期的な経済停滞に陥った1990年代の日本に共通するとの見方を示唆している。国債利回りが、すでに中国経済を先読みしているのだ。 

    (4)「英RBCブルーベイ・アセット・マネジメントの新興国ソブリン債ストラテジスト、ゼンボ・ホウ氏は、住宅市場や株式市場の支援策が利回りの一時的な押し上げにつながったとしても、中国の金融政策は「緩和的な状態が当面続く」可能性が高いとの考えを示した。「引き続き90年代の日本が『指南書』になる」とホウ氏は続けた」 

    中国経済は、90年代の日本が「指南書」になると指摘している。中国は、日本経済の辿った苦しい道を歩むとみられている。

     

    (5)「米金融大手ゴールドマン・サックスのアナリストは、7月のリポートで「一部の(中国の)政策当局者は、長期債利回りの低さを国内の成長期待やインフレ期待の低さの兆候とみなしており、こうした悲観的な見方を覆したいと考えている」と指摘した。当局が、新型コロナウイルス禍以降で最大の金融刺激策と10兆元(約210兆円)規模の財政支援を打ち出したにもかかわらず、国内投資家が低調な中国株式市場や不動産市場の代替投資先を探しており、債券利回りは低下し続けている」 

    中国は、最大の金融刺激策として10兆元の国債を発行する。これにもかかわらず、30年物国債利回りは下げ続けている。効果なしと見限っているのだ。 

    (6)「仏金融大手BNPパリバの中国為替・金利担当チーフストラテジスト、ジュ・ワン氏は、こうした動きが「米中のデカップリング(分断)と中国のデフレリスクに起因する国際金融市場の新たな現実を映している」と述べた。「世界の他の国々がインフレリスクに直面する一方で、中国には過剰生産能力を解消できるだけの需要がない」という」 

    国際金融市場は、米中のデカップリング(分断)と中国のデフレリスクに起因する経済停滞を織り込んでいる。

     

     

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    ドル=円相場は150円で推移(2日午後18時30分)している。これからどう動くか。12月のドル相場は、過去10年で8回も安値になっているという。「トランプ・トレード」でドル買いは盛り上がったが、次第に熱気も冷めつつある。 

    『ブルームバーグ』(12月2日付)は、「ドルにとって危険な12月、トランプ氏投稿や金利決定で乱高下も」と題する記事を掲載した。 

    ドル強気派は、ドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利によって勢い付いているが、12月は歴史的にドルにとって不利な月だ。 

    (1)「11月5日の選挙以来、ドルは約2%上昇しているが、季節的にここから先は不利な状況となる可能性が高い。過去10年のうち8回、ドルは12月に下落している。その多くはポートフォリオのリバランスフロー(注:投資ポートフォリオの資産配分を元の目標に戻す)や、いわゆる「サンタラリー」(注:米国で年末の5営業日から新年の第2営業日にかけ株価が上昇しやすい現象)のようなリスク志向でドルを売る動きが要因だった」 

    例年、12月はドル売りの季節である。リバランスフローや「サンタラリー」が背景にあると指摘する。

     

    (2)「今年は、例年よりも大幅かつ急激な変動が起こる可能性が高い。トランプ次期米大統領のソーシャルメディアへの投稿が、市場とトレーダーを動揺させるリスクがあるほか、主要9中央銀行の政策決定や大量の重要経済データ発表が予定されているためだ。ネガティブなサプライズの匂いが漂うだけで、究極の避難通貨への殺到が起こり「ドル売り」というシナリオがなくなる可能性もある。「しっかりつかまっていた方がいい」と言うみずほ銀行の経済・戦略責任者、ビシュヌ・バラサン氏(シンガポール在勤)は、12月は「通常はリスク志向でドルを売るという動きになるが、トランプ氏が政権を握るとなると、どうなるか分からない」と話した」 

    今年の12月は例年の季節変動に加えて、トランプ氏の「不規則発言」が加わっている。これが、ドル相場へ与える影響も大きい。 

    (3)「ニューヨークから東京まで、世界の投資家が今後4年間の外国為替市場のトレンドを予測しようとする中で、米大統領選挙以降、為替のボラティリティーは急上昇している。議論の中心は、トランプ大統領の下でのドルの行方だ。米国でインフレが加速し、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ見通しが複雑になることが予想される」 

    今後4年間、外国為替市場はトランプ氏の政策が与える影響を基に、トレンド予測を展開している。ドル高かドル安かである。 

    (4)「最近の市場の動きは、ドル取引の難しさを浮き彫りにした。ブルームバーグのドル指数は9月まで3カ月連続で下落した後、上昇に転じた。JPモルガン・チェース、ゴールドマン・サックス・グループ、シティグループは、トランプ氏が計画する関税が米国の物価上昇を招くととともに、他の国・地域経済に打撃を与えることで、ドルが今後も強くなると予想している。チャールズ・シュワブの債券戦略責任者、キャシー・ジョーンズ氏は「結論から言えば、何かが変わるまでは、ドルにとって最も抵抗の少ない道は上昇だ」とした上で、「2025年のドルの鍵となるのは関税政策だろう」と述べた」 

    トランプ氏の計画する関税が、米国の物価上昇を招くととともに、他の国・地域経済に打撃を与えることで、ドルが今後も強くなると予想スルグープがある。

     

    (5)「モルガン・スタンレーは、投資家の焦点が貿易リスクからFRBの利下げへと移るにつれ、ドルの強さは年末までにピークに達し、25年にかけて弱まっていくとみている。ニューバーガー・バーマンのシニアポートフォリオマネジャー、ウーゴ・ランチオーニ氏(ミラノ在勤)も同様の見方だ。「当社はドルに対してわずかながらポジティブなポジションを保有しているが、ドル高が進んでいるためポジションを縮小している」と述べ、「ドルは底固めの時期に入る可能性がある。実際、市場はかなりロング(信用買い)な状態だ」と語った。商品先物取引委員会(CFTC)の最新データによると、資産運用会社はドルに対して16年以来の強気ポジションを組んでおり、利益確定によってドルが下落する可能性がある」 

    モルガン・スタンレーは、ドルの強さは年末までにピークに達し、25年にかけて弱まっていくとみている。また、資産運用会社はドルに対して16年以来の強気ポジションを組んでおり、利益確定によってドルが下落する可能性がある、としている。

     

     (7)「投資家が、すべてのニュースや経済データを分析するにつれ、ドル相場はこれまで以上に大きく変動する可能性が高い。ブルームバーグ・ドル・スポット指数の今後半年間の予想変動率は、過去18カ月で最も高い水準で推移している。カルミニャックのマネーマネジャー、アブデラク・アジュリウ氏も新たな乱高下に対し身構えている1人だ。FRBが、今月金利を据え置くことでトレーダーの意表を突いた場合は、特に大きな変動に見舞われると予想している」

    ドル相場は、これまで以上に大きく変動する可能性が高いという。今後、半年間の予想変動率は、過去18カ月で最も高い水準で推移している。これは、ドル相場が波乱含みであることを示している。要注意である。

     

     

     

     

     

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    韓国経済がふらついている。与野党の対立によって、国内世論が殺気だっていることも影響している。再び、ユン大統領弾劾運動も始まっており、左派の反政府運動が消費者に不安感を与えているのだ。韓国企業の半数が、25年に緊縮経営をする計画であることもわかった。韓国経営者総協会によると、従業員30人以上の企業239社を調査した結果、49.7%は25年の経営計画基調を「緊縮経営」と答えている。 

    『東亜日報』(12月2日付)は、「OECD『韓国は6年連続で潜在成長率を下回る』」と題する記事を掲載した。 

    韓国銀行が来年と再来年の経済成長率の予測値を1%台に下げている中、韓国経済の成長率が来年まで6年連続で潜在成長率に達しないだろうという予測が出た。経済生産性の低迷が長期間続き、構造的景気低迷への懸念も高まっている。


    (1)「韓銀が12月1日、国会に提出した資料によると、5月、経済協力開発機構(OECD)は韓国の実質国内総生産(GDP)と潜在GDPの格差を示すGDPギャップが、2020年から来年まで連続マイナスを示すものと予想した。GDPが、潜在GDPを長い間下回るということは、生産設備と労働力など一国が保有している生産要素がまともに使われていないという意味で、長期的な景気低迷の可能性を示唆する」 

    韓国経済は、OECDによれば2020~25年まで、潜在成長率を下回る成長率であることが分った。韓国が、長期的構造不況に陥っているとみられる。「克日」(日本に勝った)ムードに水を差すことになろう。 

    (2)「韓国のGDPギャップは、2001年から2019年までは2年連続でマイナスを示したことがなかった。しかし、年度別GDPギャップ率は、2020年のマイナス2.5%を皮切りに、2021年(マイナス0.6%)、2022年(マイナス0.3%)、2023年(マイナス1.0%)などマイナス行進を続けており、2024年と2025年もそれぞれマイナス0.4%とマイナス0.3%を示すと試算された」 

    韓国のGDPギャップは、2001~19年まで2年連続でマイナスになることはなかった。それが、2020年代へ入ってから「連続化」しているのは、文政権時代の大幅な最低賃金引上げが、経営者に罰則を伴って強行された影響を無視できない。さらに、年功序列賃金による上昇で、中高年社員解雇が雇用構造を破壊している。こうした「政策ミス」が、韓国経済を追込んでいる。

     

    (3)「主要7ヵ国(G7)のうち、6年連続でGDPギャップのマイナスが予想される国は、フランスが唯一だ。日本と米国は、2023~2025年の3年連続の実質成長率が潜在成長率より高いと予測された。韓国経済成長に対する警告音が相次ぎ、構造的長期低迷がすでに始まっているという評価も出ている。高麗(コリョ)大学経済学科のカン・ソンジン教授は、「6年連続のマイナスということは、すでに韓国が構造的不景気に直面しているという意味だ」とし、「今は本当に既存の製造業中心の経済成長戦略が限界に達したのではないか、という根本的な質問をする時になっている」と説明した」

    G7では、日本と米国が2023~25年の3年連続で、実質成長率が潜在成長率を上回ると予測されている。日本の場合は、従来にない高い賃上げが個人消費を刺激し、設備投資を促す好循環過程へ入っていることを示している。韓国は、頑なに年功序列賃金体系を守っており、これが中高年社員解雇という悲劇を生んでいる。

     

    『東亜日報』(11月21日付)は、「『経済の腰』40代の雇用が過去最大の減少幅」と題する記事を掲載した。 

    今年第2四半期(4~6月)は30歳未満の若年層と「経済の腰」を担当する40代の雇用が、それぞれ過去最大幅の減少を記録した。建設業などを中心に内需業況が不振だったためと分析される。一方、60代以上の雇用は全体賃金労働雇用の増加幅を上回り、雇用が高齢層に偏る現象が一段と強まっている。 

    (4)「20日、統計庁が発表した「2024年第2四半期の賃金労働働き口の動向」によれば、今年5月基準で全体賃金労働者雇用は2083万9000人で、1年前より25万4000増えた。これはコロナ禍だった2020年第2四半期(21万1000)以来、最も少ない増加幅だ。年齢別に見ると、30歳未満の雇用が13万4000減り、関連統計を取り始めた2017年以降、最大幅の減少を示した。40代も5万6000が減り、同様に史上最大幅の減少となった。一方、高齢層である60代以上の雇用は26万1000が増え、全体賃金労働雇用の増加幅を上回った。50代と30代の雇用も、それぞれ12万4000と5万9000が増えた」 

    驚くべきことに、30歳未満と40代の雇用が過去最大の減少である。一方、60代以上の雇用が増えている。これは、何を意味するかだ。賃金上昇率が高くなる年代を解雇していることだ。60代以上は低賃金の短期雇用増である。こういう歪な雇用構造の韓国が、構造不況へ落込むのは不可避であろう。

     

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    日産自動車は11月、米国や中国市場の販売不振で悪化した収益構造を改善するため、世界で生産能力20%、人員9000人を削減すると発表した。不振の日産が、再び輝きを取り戻す具体策はあるのか。ここで、浮上してきたのが、ホンダとの統合論である。すでに、『フィナンシャル・タイムズ』が報じて注目されている。

     

    『ロイター』(11月29日付)は、「日産とホンダ 苦境克服に統合の選択肢」と題する記事を報じた。

     

    トヨタ自動車の国内最大の競合2社は、力を合わせて現在抱える問題に打ち勝つ時が来たのかもしれない。日産自動車の苦境はより鮮明で、業績不振を受けて生産能力と人員を削減する緊急再編策打ち出した。ホンダの四輪車事業も精彩を欠いている。

    2社を統合すればコスト削減や収益立て直しのほか、電気自動車(EV)やその他の技術への効率的で効果的な投資が可能になる。

     

    (1)「日産の内田誠社長による事業再編計画は9000人の人員削減と生産能力の20%削減が伴う。ビジブル・アルファがまとめた市場予想によると、それでもなお、2026年3月期の自動車事業の営業利益率は0.4%にとどまる見込み。また、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は26日、日産がルノーの保有分に代わる株主として、銀行や保険会社などの長期投資家を模索していると報じ、関係者の話として、ホンダに一部株式を売却する可能性も排除していないと伝えた」

     

    日産の2026年3月期の自動車事業の営業利益率は0.4%に止まるという。9000人の人員削減と生産能力の20%を削減しても、この程度の営業利益率では「死に体」である。自動車産業の営業利益率は、最低で5%が必要である。このラインを割れば、新車開発は不可能とみられている。日産は、再編を決断すべき時期であろう。

     

    (2)「ホンダの四輪事業の営業利益率はわずか3.6%で、二輪事業の18%を大きく下回っており、26年3月期も1%ポイント程度しか改善しない可能性がある。ビジブル・アルファの予想によると、日産とホンダの同年度の合計販売台数は600万台近くになる見通し。主要市場が重なる両社が統合すれば管理、調達から工場・研究まで、あらゆる経費の削減が可能になる。ただ、営業利益率をトヨタの10%に匹敵させるのは並大抵のことではなく、必要となるコスト削減は約120億ドルと、両社の売上高合計の7.5%に相当するという」

     

    ホンダの四輪事業営業利益率はわずか3.6%である。日産と同様に新車開発能力は著しく制約される。日産・ホンダの統合論には、それなりの根拠がある。日産とホンダの合計販売台数は600万台近くになる。主要市場が重なる両社が統合すれば管理、調達から工場・研究まで、あらゆる経費の削減が可能になる。コスト削減は、約120億ドル(約1兆8000億円)という。これは、凄い統合効果である。

     

    (3)「(両社統合で)利益率7%を目指すことは、両社が経営統合してコスト削減なしに達成可能な3%と、トヨタの10%のちょうど中間値で、可能かもしれない。そのためには、売上高の約4%に相当する経費を削減する必要がある。これは、プジョーとフィアット・クライスラーが19年に、合併してステランティスを設立することで合意した際に目標に掲げた2.7%を上回る。一方でコスト削減率は、ルノーと日産、三菱自動車の3社連合が17年に打ち出した事業目標に基づくものに一致する。日産とホンダは金融子会社を統合することで、より多くのコストを削減できるだろう」

     

    両社統合で、営業利益率は7%になるという。これは、「死中に活を求める」話である。大同小異で統合を推進すべきであろう。

     

    (4)「日産とホンダの経営統合はこれまでも取り沙汰されている。FTは、19年に日本政府関係者が両社に経営統合を提案したと報じている。日産のカルロス・ゴーン元会長は過去に、電気自動車(EV)やソフトウエアでの提携について、ホンダによる「偽装買収」と表現している。両社はこれまで、統合する意向を全く示していない。ただ、業績不振や計算上の統合効果を踏まえると、検討する価値はありそうだ」

     

    日産は、メンツを捨ててホンダとの統合を真剣に模索する時期だ。ゴーン元会長は、EVなどの両社提携は、ホンダによる「偽装買収」として暗にホンダの技術力を評価している。

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    AI(人工知能)を用いて疾患リスクを予測するサービスが続々と登場している。AI技術がコモディティー化し、手軽に試せるようになったことが背景にある。AI疾患予測が広がると、利用者はよりデータに基づいて健康管理をするようになり、健康増進や社会全体の医療費削減につながっていく可能性が指摘されている。 

    『日本経済新聞 電子版』(11月29日付)は、「がんや脳卒中リスクをAI予測 MDVや住友生命など」と題する記事を掲載した。 

    医療データ分析のメディカル・データ・ビジョン(MDV)は、がんや脳卒中を含む34の疾患について、3年以内の発症リスクを予測できるサービスを10月31日から開始した。 

    (1)「スマートフォンで同社が提供するアプリケーション「カルテコ」に健診結果を入力すると、発症リスクや同性同世代平均と比較したときの疾患倍率などが算出される。血圧などのバイタルサインや肝機能、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)などの血液検査値が改善すると、各リスクがどのくらい下がるかといったシミュレーションも可能だ。月額550円で提供する」 

    スマホへ健康診断データを入力すれば、発症リスクを算出する。医師に代わる分析をするのだ。背後には、膨大なデータベースがあるから、「誤診」は起こらないのだろう。

     

    (2)「MDVの強みは、質の高い健康・医療データを大量に持っていることだ。MDVが持つ約5000万人という国内最大級の診療データを活用し、それにひもづいた健診結果を持つ人のデータを基に健診時からその後病気になったかどうかを機械学習し、モデルを構築した。NECソリューションイノベータ(東京・江東)も2024年、健診結果から4年以内の11疾患の発症リスクを予測するAIを開発し、このAIを搭載した製品「NEC健診結果予測シミュレーション」の提供を始めた。匿名化した約45万人分のカルテと約10万人分の定期健診の情報を、AIの学習データとして使用している」 

    MDVは、約5000万人という国内最大級の診療データを活用している。これは、医師の能力をはるかに超えている。NECソリューションイノベータも、健診結果から4年以内の11疾患の発症リスクを予測するAIを開発した。 

    (3)「AIを用いた疾患予測サービスを提供するのは、IT(情報技術)系企業にとどまらない。住友生命保険は23年、保険業界初となる自社で保有するデータや日々の活動データを活用したAI疾患予測サービスの提供を開始した。同社の健康増進をサポートする保険「Vitality(バイタリティー)」で利用するアプリに搭載する。健診結果や日々の活動データから2年以内の5疾患の発症リスクを予測する。同社が保有する約100万件のVitality会員の健診結果などのデータを活用した。自社で自由に機能拡張できるメリットを鑑みて、AIは内製という。生命保険事業は、疾患予測から健康増進を働きかけ、万が一のときには経済的な補償を提供する一連の流れをつくることができるため、AI疾患予測サービスと親和性があるという」 

    住友生命保険は、TVのCMで「Vitality(バイタリティー)」を宣伝している。

     

    (4)「こうした健康・医療データを活用する動きが広がれば、将来的には今まで相関関係が見られなかった生活習慣や検査値と疾患の関連が新たに判明することにもつながりそうだ。人々はよりデータに基づいて健康管理をするようになり、セルフケアの発展は健康増進を促し、医療費の削減も期待できる。 

    検診データから、潜在的な疾病リスクを知ることができれば、日々の生活が安心できる。 

    (5)「AI疾患予測サービスを立ち上げるには、まずは健康・医療データの収集が欠かせない。前述した各社の他、業界横断でもデータ収集に動きを見せている。例えば、NTTドコモ・ベンチャーズと中部電力、YKKAP、大東建託の4社は10月4日、医療系新興企業であるトータルフューチャーヘルスケア(TFH、東京・港)に共同出資し、高齢者の認知症などの兆候を早期発見するプラットフォームを開発すると発表した。建物に設置するセンサーによる転倒検知に加えて、顔画像から血液検査の推定値を手軽に測定できるようにして健康・医療データを収集する」 

    NTTドコモ・ベンチャーズ、中部電力、YKKAP、大東建託4社も建物に設置するセンサーによる転倒検知に加えて、顔画像から血液検査の推定値を手軽に測定できるようにして健康・医療データを収集するという。一斉に「高齢者ビジネス」を開発している。 

    (6)「将来的には、データを蓄積し、NTTドコモが持つ利用者の健康状態や生活習慣などをAIで分析できる基盤を用いて、食事・運動などの予防の提案へ活用したい考えだ。家庭で計測できるような健康・医療データはウエアラブルデバイスなどを通じて収集できる。だがそれ以外のデータ収集は難易度が高い。経済産業省の調べによると、公的保険外のヘルスケア産業の市場規模は20年時点で18.5兆円のところ、50年には59.9兆円と約3倍に拡大する見込み」 

    公的保険外のヘルスケア産業の市場拡大は、疾病を減らす役割を果す。寝たきりになる前の予防策である。日本発の一大ビジネスへ成長するだろう。

     

     

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