勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 日本経済ニュース時評

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    レアアース(希土類)は、中国が世界に誇る重要鉱物である。鄧小平はかつて、「中東に石油、中国にレアアース」と豪語し、資源国家を標榜してきた。だが、中国はレアアース製品で約9割の世界シェアを持つものの、その製法は至って「原始的」である。環境破壊を厭わず、ひたすら量産化と低コスト化を追求しており、日本の化学的精錬法の前に「兜を脱ぐ」事態になっている。

     

    『ロイター』(6月1日付)は、「『レアアース学士号』 中国の大学専門課程に年500人超 人材で圧倒的優位に」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ロイターの調査によると、中国は最先端の研究を生み出す40超のレアアース専門研究所から成るエコシステムを築いてきた。これを補完する形で、少なくとも11の大学・専門学校がレアアース学位課程を設け、毎年合計500人超を受け入れている。この蓄積された専門知識が、中国政府による加工済みレアアースの世界的な供給支配を支えている。ロイターが確認した限りでは、中国以外でレアアースに特化した学士課程を設ける教育機関は見当たらなかった。米アイオワ州にある同国エネルギー省傘下のエイムズ国立研究所は、研究対象が鉱物科学にとどまらないものの、レアアース研究で高い評価を受けている」

     

    中国の研究者は、 体系的な化学的理解よりも、「工程の反復・最適化に偏る」という危険性が指摘されている。レアアース精錬の本質は、 化学反応のを理解し、微妙な条件調整を積み重ねる技術とされている。これは、温度、pH、酸化還元、不純物の挙動、反応速度、結晶化の癖など、数十年の経験でしか蓄積できない暗黙知が支えている。日本の精錬技術(住友金属鉱山、三菱マテリアルなど)は、70年以上の蓄積があり、大学を増やしても再現できる問題ではない。中国の研究所がいくら増えても、 暗黙知の壁は越えられない。つまり、中国文明の「粗さ」では、日本の「精緻さ」に及ばないのである。

     

    (2)「ロイターは今回初めて、中国のレアアース研究・教育システムの規模を集計した。調査は研究論文、授業資料、中国に長く滞在した西側の鉱業幹部・研究者11人への取材に基づく。その結果、学術界と産業界の緊密な関係が明らかになり、これが中国企業による迅速かつ低コストのレアアース生産を支えていることが浮かび上がった。レアアース企業ネオ・パフォーマンス・マテリアルズとモリコープの元最高経営責任者(CEO)、コンスタンティン・カラヤンノプロス氏は「中国では大学を出たばかりの若者を採用しても、すぐに戦力になった」と語った。「他の国では3年訓練しなければならない」と指摘する」

     

    レアアース精錬の本質は、 化学反応の「癖」を理解し、微妙な条件調整を積み重ねる技術である。これは、日本文化の特色である「繊細さ」に通じている。最適例は、中華料理と日本料理の違いである。中華料理は、具材を強烈な火力と油で短時間に炒める。日本料理は、全く異なる。具材の良さを引出しその微妙な味を楽しませもの。レアアース製法の違いは、中華料理と日本料理の差でもある。

     

    (3)「中国指導部は今、この専門知識を厳格に守っている。長年にわたり、レアアース関連技術や設備の輸出規制を強化してきたほか、業界関係者と外国人との接触も制限している。この業界に詳しい3人によると、一部の技術者はパスポートの提出を命じられた。パスポートを没収した政府機関名は明らかにしなかったが、取り締まりはトランプ氏が25年4月に「解放の日」関税を打ち出した後に強まったという」

     

    中国の精錬は、廃液処理を甘くする、汚染を外部化する、労働安全を軽視する、などでコストを下げている。これは技術の優位ではなく、制度の欠陥である。こういう「ラフ」な技術を守っても意味がない。日本の精錬は、廃液ゼロ、高純度分離、省エネ、高歩留まり、という「化学としての合理性」で成立している。中国は、この領域で日本に追いつけないというのが世界的評価である。(つづく)

     

     

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    (4)「中国のレアアース産業は、198090年代にかけて手厚い税優遇と豊富な低賃金労働力の恩恵を受けた。政府とその関連組織は、現在も研究機関に資金を提供し、国有系金融機関は重要鉱物を採掘する企業に優遇条件で融資している。中国では研究者、大学、産業界が今も緊密に連携している。北京の国家レアアース工程研究センターの科学者らは新技術を開発し、国有企業の甘粛レアアース新材料は2023年、年間5万トンの高度処理レアアースを生産できる精錬施設にこの技術を導入した。これは、中国以外で最大のレアアース企業である豪ライナス・レアアースが25年度に生産した量の5倍に相当する」

     

    中国の研究体制は、「権威主義の限界」を抱えている。中国が、技術者のパスポート没収、外国人との接触制限、技術の輸出規制などを行っている。これは、 知識の自由な交流を阻害する権威主義の典型だ。化学的精錬のような高度技術は、失敗の共有、データの公開、国際共同研究、批判的議論が不可欠である。ところが、中国は全くの逆の囲い込みである。中国のような権威主義体制下では、 失敗が隠蔽され、技術の進歩が止まるのだ。

     

    (5)「ロイターが確認した複数の大学の授業資料からは、産業界の需要に応えることを強く意識した内容もうかがえる。江西理工大学の講義スライドによると、学生はレアアースの地政学的重要性や、中国産材料が米国の主要兵器システムに組み込まれている実態について学んでいる。江西理工大学の講義スライドのスクリーンショット。学生がレアアースの地政学的重要性や、中国産材料が米国の主要兵器システムに組み込まれている実態について学んでいることを示している」

     

    中国は、巨大な研究エコシステムを持っていても、 化学的精錬の核心技術では日本に追いつけないというのが、世界の評価である。その理由は三つ指摘されている。暗黙知の蓄積がない。環境汚染を前提にした「非合理的技術蓄積」、権威主義が知識の進化を阻害する、という点だ。つまり、 文明としての日中の「合理性の差」が、「技術の差」として現れている。

     

    (6)「内モンゴル科技大学でレアアース工学を専攻する学生は、レアアース化学や材料科学などの授業で100時間超の教育を受ける。基礎科目の1つはレアアース研究所や企業と連携して実施され、学生は企業施設での講義を受ける選択肢もある。江西理工大学(JXUST)が国営メディアに明らかにしたところによると、新設したレアアース学位課程には70人が入学する見通しで、加工、冶金から磁石までサプライチェーン全体を学ぶ。卒業前には企業と共同で研究プロジェクトにも取り組む」

     

    中国の量的優位 vs 日本の質的優位 をどう評価するか。これが核心部分である。 車に喩えれば、中国は、「車のスピードは速いが、ルールを守らず、ドライブ・テクニックも低い」国に喩えられる。これは、中国のレアアース精錬を説明する上で、最適の言葉であろう。

     

    日本の化学的精錬法は、「環境制約の中で進化した技術」である。中国の精錬は、 汚染を外部化(公害を引き起す)することで成立している「粗い技術」だ。日本は、汚染を「内部化」(生産工程内で解決)する技術。中国は、汚染外部化によって本来、必要なコストを払わずに等しく、それだけ環境を破壊しているのだ。西側諸国は、こうした中国製法のレアアースは、「ESG基準」で不適合として2~3年後に西側市場から排除することになった。すでに、「排除宣言」は発せられており、後は執行時期が問われるだけである。

     

     

     

     

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    アジア安全保障会議(シンガポール)で5月31日、小泉防衛相は中国の度重なる日本への「新型軍国主義論」へ反論した。「核兵器や戦略爆撃機という強大な軍事力を保有する国がある一方で、日本にはそうしたものは何一つない。それにもかかわらず、日本を『新たな軍国主義』と呼ぶのはおかしいのではないか」というものだ。

     

    アジア各国は、中国の南シナ海不法占拠によって圧力を受けているだけに、中国の「軍国主義」に脅かされている。その中国が、ASEAN(東南アジア諸国連合)への支援を惜しまない日本を非難しているだけに違和感を強めている。

     

    『江南タイムズ』(6月4日付)は、「『核も爆撃機もない日本を軍国主義扱いか』小泉防衛相、中国の主張に痛烈反論」と題する記事を掲載した。

     

    米国のドナルド・トランプ大統領は、NATO(北大西洋条約機構)に対して厳しい姿勢を取っている。前日には、シャングリラ・ダイアローグで米国のピート・ヘグセス国防長官が、欧州の同盟国は防衛費の負担が不十分だとして改めて批判した。小泉進次郎防衛相は、インド太平洋地域への強いコミットメントを示したヘグセス長官を評価したうえで、世界規模での強固な連携が依然として必要だと訴えた。

     

    (1)「小泉防衛相は、アジア安全保障会議で「分裂は抑止力を弱め、結束は抑止力を強める」と述べた。さらに、「米国、欧州、同盟国、そして価値観を共有する国々の間に亀裂が生じれば、それを好機と捉える勢力が必ず現れる」と指摘し、「そのような事態を防がなければならない。我々の協力関係を維持し、さらに強化していく必要がある。今こそ協力を一段と強固なものにすべき時だ」と強調した」

     

    小泉氏は、同盟国と同士国が団結することの必要性を訴えた。カントの『永遠平和のために』という名著(1795年)以来、民主国が独裁国へ対抗する唯一の手段が同盟としている。カントは、無防備の単独平和論を説いていたのではない。

     

    (2)「中国が軍事力を急速に拡大・近代化する中、国内では防衛政策の見直しを進めている。先月には、高市早苗首相率いる政権が殺傷能力のある兵器の輸出禁止措置を解除し、戦後の平和主義路線に大きな転換をもたらした。これに対し中国は、「新たな軍国主義へと向かう日本の無謀な動きだ」として強く反発した。こうした中国の批判に対し、小泉防衛相は「核兵器や戦略爆撃機という強大な軍事力を保有する国がある一方で、日本にはそうしたものは何一つない。それにもかかわらず、日本を『新たな軍国主義』と呼ぶのはおかしいのではないか」と反論した」

     

    集団的自衛論は、日本国憲法9条に違反しないというのが解釈として成立している。中国の言う「軍国主義論」は、中国そのものに当てはまるものであり「天に唾する」行為である。

     

    (3)「『透明性は議論と対話から生まれる』と語った小泉防衛相は、中国がこのフォーラムに国防相を派遣しなかったことは残念だと付け加えた。一方、米国のヘグセス国防長官は、中国に関する発言のトーンを昨年より抑えた。昨年は、中国の脅威が急速に高まっていると警告し、中国が台湾侵攻に向けた訓練を積極的に進めていることを認識すべきだと述べていた。

     

    中国が、アジア安全保障会議へ国防相を派遣しなかったのは、米国との摩擦を恐れたとされている。万一、米国が対中批判すれば反論せざるを得ず、米中間に溝を作ることを恐れたとも言われている。今の中国は、米国との対立を恐れている。経済面へ波及するからだ。

     

    (4)「この日、フィリピンのギルベルト・テオドロ国防相は少人数の記者団に対し、「最も重要な同盟国である米国の姿勢の変化を懸念してはいない」と語った。フィリピンは南シナ海の領有権問題をめぐり、中国とたびたび対立している。同氏は、「中国が行動を変えない限り、我々の姿勢も変わらない」と強調した。また、オーストラリアの閣僚は、防衛問題には原則に基づいて対応する必要があると訴えた。前日、ヘグセス長官はアジアのパートナー諸国が欧州の同盟国とは異なり防衛費の増額を進めていると評価する一方、欧州の同盟国については「国境管理を緩め、防衛力を弱体化させながら、『ルールに基づく国際秩序』という空虚なグローバリズムのレトリックに惑わされている」と批判した」

     

    中国の南シナ海不法占拠こそ、ASEANとの摩擦を引き起こしている元凶である。フィリピンが対中警戒を強めるのは当然である。豪州の閣僚も原則に応じて対応としている。相手国の対応に応じて軍備を揃えるということだ。

     

    (5)「この日、フォーラムの合間に記者団の取材に応じたオーストラリアのリチャード・マールズ国防相は、「ルールに基づく国際秩序には力による裏付けが必要だ」というヘグセス長官の指摘に同意しつつも、「同時に、原則そのものがかつてないほど重要になっている」と述べた。さらに、「我々がルールに基づく国際秩序にコミットしているのは、それがオーストラリアのような中堅国や、より小規模な国々に実際の行動力を与えるからだ」と語った。そのうえでマールズ国防相は、同盟体制が地域の防衛と安全保障に不可欠だと強調した。また、「これは集団的な課題であり、集団的な対応が求められる。そして、その集団的対応こそが、まさにルールに基づく国際秩序が重視するものだ」と付け加えた」

     

    豪州の国防相は、「集団的対応こそが、ルールに基づく国際秩序の重視」としている。カントの『永遠平和論』である。

     

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    1~3月の世界新車自動車販売台数が明らかになった。トヨタ自動車は、断トツの1位を維持した。中国の比亜迪(BYD)が、前年同期の6位から11位へ転落した。中国市場の不振が響き、2024年1〜3月以来8四半期ぶりに10位圏外になった。インドが好調なスズキホンダなどを上回って、10位から8位へ浮上した。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月4日付)は、「13月世界新車販売ランキング、BYD6位11位 中国内の競争で劣勢」

     

    各社の発表やS&Pグローバルモビリティのデータを基に集計したデータである。トヨタ自動車は前年同期比1%減の267万台で首位を維持した。独フォルクスワーゲン(VW)が2位、韓国・現代自動車グループが3位で続いた。

     

    (1)「BYDは、70万台と30%減った。日産自動車やホンダなどの日本勢に抜かれた。四半期ベースでBYDの販売が100万台を割るのは24年4〜6月以来。急成長にブレーキがかかった。中国市場の競争激化で、民営大手の浙江吉利控股集団などに小型の電気自動車(EV)などでシェアをうばわれている。26年1月から中国政府がEVなど新エネルギー車の購入に対し、車両取得税の減免額を半額に縮小したことなどで販売不振に拍車がかかった。5月は輸出が伸び9カ月ぶりに前年同期を上回った。通年でどこまで巻き返せるかは国内市場の立て直しにかかる」

     

    BYDは、EV(電気自動車)単体である。過去の積極政策が祟って支払手形の長期化(240日)の短縮を求められている。そのために、キャッシュフローの赤字に苦しむ状況である。今でもなお、海外工場を新設しており海外へ活路を求め始めている。BYDが、25年に政府から受け取った補助金は業界2位である。手厚い保護を受けている裏には、海外進出による政府の外貨獲得戦略がある。

     

    (2)「スズキは、3%増の90万台と好調で、BYDとホンダを抜き8位へ浮上した。インドが4%増の51万台で販売全体の6割弱を占めた。アフリカやパキスタンなどの新興市場でも販売を伸ばし、トヨタに次ぐ日本車2位の座についた。S&Pグローバルモビリティによれば、13月の新車販売(一部大型商用車除く)で中国が17%減の449万台、米国が6%減の371万台だった。スズキは米中で事業を展開しておらず、販売が伸びる新興市場に軸足を置く地域戦略が奏功した」

     

    スズキが、堂々の8位である。インドが、主戦場である。ここを足がかりにして、中東やアフリカ市場を固めている。トヨタの出資を受入れており、「トヨタ・イズム」が影響しているのであろう。

     

    (3)「米中の需要減退で上位20社のうち15社が前年割れとなった。日本車メーカーではホンダが9%減の82万台、マツダが10%減の30万台となるなどスズキ以外の全乗用車メーカーで販売が減った」

     

    ホンダ・日産・マツダという「老舗」は、振るわなかった。EV後遺症に悩まされている。ホンダは、創業者・本田宗一郎の「精神棒」がたるんでしまった形だ。スズキが、インド市場を断固として守り抜く気概がある一方で、日本の老舗組は混迷している。

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    新たな供給網確立時代

    日米比合意で中国対抗

    比越が日本協力で一致

    中国古代外交は限界へ

     

    中国は、外交的に言えば「台湾回収」が最大の政策目標である。これを妨害する国家は、中国の「敵」という位置づけだ。中国の言葉を使えば、中国の意図する「地域秩序」(天下秩序)を乱す国は、異端国家(軍国主義)というレッテルを貼られることになる。さしずめ、日本がこの立場である。しかし、中国のこうした「古代外交」は、周辺国にとっては何とも鬱陶しい存在である。どの国も、中国が目指す地域秩序に従う義務はない。中国の意図する台湾回収計画自体が、地域の平穏な秩序を乱す元凶である。

     

    これまでのASEAN(東南アジア諸国連合)は、中国の目指す天下秩序に組入れられてきた。南シナ海が、中国に占拠されている上に、技術的欠陥のある高速鉄道建設を強いられてきた。インドネシアやタイが、その被害国である。だが、現代外交は国際法・条約・手続き・相互利益を重視する。中国の古代外交が、いつまでも生き残れるはずもない。現状は、古代外交と現代外交のせめぎ合いのピークで、中国の天下秩序から脱しようと動き始めている。中国が慌て慄いているのは、その天下秩序が揺れているからだ。

     

    中国の天下秩序から逃れる方法は、各国が経済力を付けて、中国の影響力を遮断することである。日本は今、その旗振り役になってASEAN経済の「イノベーション」を推進しようと組織化を始めている。一国発展モデルの「技術→経済→防衛→外交」を実現するには、まず技術を磨き経済体力を付けて防衛力を備える。これらを基盤にした外交力によって、中国の威圧を跳ね返せるのだ。

     

    ベトナムの最高指導者ラム共産党書記長兼国家主席は5月29日、シンガポールで開幕したアジア安全保障会議で基調講演した。その際、注目すべきものとして「アジア太平洋が必要としていることは、大国の存在でも不在でもない。責任ある関与だ」と訴えた。これは、言外に「日本がアジア太平洋でリーダーになれ」という主張でもある。日本は、すでにASEANの期待に応えるべく、日本が世界に誇る「技術基盤」によって、ASEANを21世紀の経済発展地域へ押し上げる準備を始めている。

     

    新たな供給網確立時代

    現在、西側諸国まで中国の天下秩序編入の余波を浴びているのは、世界のサプライチェーンが中国へ集中している結果である。ここから脱する道は、西側諸国が独自技術によって「新たなサプライチェーン」を形成することだ。一方、グローバルサウスは自らの賦存資源を使って素材をつくり、工業製品へ繋げる一貫生産体制の樹立である。これは、資源国・工業国の統合化であり効率的である。その有力「生産基地」として今、フィリピンが選ばれることになった。フィリピンが、自らの資源を工業製品化する道である。

     

    フィリピンは、米国の同盟国である。同時に、日本の「包括的戦略的パートナーシップ」(同盟国に次ぐ高度の関係性)という濃い外交関係を生かして、日米が共同で次世代型産業育成に乗り出すことになった。フィリピンにはかつて、広大な米軍基地が存在した。クラーク(旧空軍基地)とスービック(旧海軍基地)だ。これらを利用して、一大サプライチェーンを構築する。軍事インフラが、産業インフラに転用する例は世界でも稀とされている。

     

    米国が、あえて軍事基地を復活させずに産業インフラへ蘇生させるのは、米軍の軍事力でフィリピンを恒久的に防衛する手法を捨てたことである。ASEANの経済力育成が、ASEANの自力防衛力を高めるという迂回的戦略の採用である。同時に、脱中国のサプライチェーン形成に資するので、これこそまさしく一石二鳥の策であろう。

     

    米国は今年4月、フィリピンとハイテク産業ハブ(拠点)を設置することで合意した。中国の世界サプライチェーン(供給網)支配力を弱める狙いである。ルソン島の旧米軍基地の約1600ヘクタールに建設される。米国は、同敷地を無償で占有し、経済特区として管理する。この拠点は、米国の法制度の下で運営される。2年間のリース契約は、99年間の更新が可能である。米国が、いかに力点を置いているかを浮き彫りにしている。『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』(2026年4月17日付)が報じた。

     

    フィリピンには、生産量世界2位のニッケルを初め、銅、クロム、コバルトなどの資源が豊富で、これらの製品化は現地で操業する企業が使用するほか、米国へも輸出される。だが、肝心のこれら鉱物の精錬技術は、無公害が原則である。となると、採用する技術は日本の化学的精錬法しかなく、自動的に日本企業に限定される。米国企業も応募しているが、住友金属鉱山が最有力視されている。スービック(旧海軍基地)が、工場用地になる。(つづく)

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