勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 日本経済ニュース時評

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    次期大統領選で有力候補に上がっている野党「共に民主党」前代表の李在明氏は、韓国を武器輸出の「世界4大国」にすると気炎をあげている。この李氏を支援する左派メディの『ハンギョレ新聞』は、韓国の安全保障では「洞ヶ峠」を決め込む姿勢を明らかにした。米中対立に巻き込まれまいという「虫の良さ」である。

    在韓米軍の主力基地は日本にある。韓国の安全保障では、日本へ多大の負担を掛けているにもかかわらず、韓国だけは「圏外に立ちたい」という身勝手さが目立つ論調を展開している。

    『ハンギョレ新聞』(4月18日付)は、「日本の『一つの戦域』構想、議論さえ容認してはならない」と題する社説を掲載した。

    日本の防衛相が米国に、日米が朝鮮半島・東シナ海(台湾)・南シナ海を一つの「シアター(戦域)」として把握し、この地域の友好国との軍事協力を強化すべきとする構想を伝えたと日本メディアが報じた。


    (1)「この案が現実化されれば、ただでさえ緊迫している米中対立をさらに増幅させ、在韓米軍の性格の変化など韓国の安全保障にとって致命的となる影響を及ぼす議論を加速化させうる。韓国軍が台湾や南シナ海の紛争にかかわるリスクも高まる。日本は中国との無駄な対立だけを扇動する「無理な構想」はやめ、相互に共存の領域を広げる対話により多くの力を注ぐべきだ」

    平和共存のためには対話が必要である。その通りである。だが、中国の一方的な領土拡張(南シナ海占拠はその一例)は、対話で止められる段階を超えている。中国のこういう意図を抑制するには、周辺国が協力して防衛体制を固める以外に道はない。南シナ海や台湾海峡が、中国の軍事力によって封鎖される事態になれば、韓国も甚大な被害を受けるのだ。空想的平和論では、事態の発生を抑制できないことに思い至るべきだろう。

    (2)「朝日新聞の15日付けの報道によると、中谷元防衛相は先月30日、日本を訪れた米国のピート・ヘグセス国防長官に「日本は『ワンシアター』(一つの戦域)の考え方を持っている。日米豪、フィリピン、韓国などを一つのシアターととらえ、連携を深めていきたい」という考えを伝えた。ヘグセス国防長官は「歓迎する」と明らかにし、その後の石破茂首相との会談の場でふたたびこの話に言及し、友好国間が「連携する重要性」を強調したという」

    戦術論からいえば、「ワンシアター」は当然であろう。中国から受ける被害が想定される国々が、団結して阻止に立ち上げるのは自衛権の問題である。被害を食止める権利は、国家固有の権利である。韓国も同じである。


    (3)「シアター(戦域)は戦争の際に一つの作戦が実行される地域を意味する軍事用語だ。最終的には、朝鮮半島から台湾がある東シナ海に加え、中国が海域全体に対する領有権を主張している南シナ海までを「一つの戦域」とみなし、みんなで力を合わせて中国に対抗しようという主張だ。この構想が現実化されれば、「韓国防衛」を目的とする在韓米軍の性格が「対中国けん制」の方向に急激に変わることになりかねず、韓国も同じく東シナ海や南シナ海での紛争に協力を要求される可能性がある」

    韓国は便益を受けたいが、その負担を回避したいという、極めて身勝手な理屈を並べている。関ヶ原の合戦で、「洞ヶ峠」を決め込んでいた故事と瓜二つの話である。韓国は、先進国になりたいとしているが、これでは他国からの尊敬は得られまい。

    (4)「韓国は、すでに2023年にキャンプ・デービッドで開かれた韓米日首脳会談を通じて、「共同の利益と安全保障に影響を及ぼす地域的挑戦、挑発、そして脅威に対する対応を調整するため、各国政府が相互に迅速な形で協議する」ことを公約している。実際に、朝鮮半島と台湾が同じ戦場として結ばれることになれば、「協議」を越えて「共同対応」の義務を負う可能性がある」

    中国は、台湾攻略の際に米軍の戦力を分散する意図で、北朝鮮に韓国を攻撃させるというシナリオも想定されている。こういう緊迫した状況下で、韓国は逆に侵略される側になりかねない。となれば、広域防衛体制が必要になる。韓国は、これに加わることで自らの安全を確保できるメリットも考えるべきだろう。


    (5)「中国けん制を最大の目標に掲げるドナルド・トランプ政権の立場としては、これほど都合のいい話はないが、韓国と日本は東アジアで発生する事実上「すべての対立」にかかわるリスクが高まる。韓国と日本の間にも差がある。日本は平和憲法の制約のために、完全な「集団的自衛権」を行使できないが、韓国は違う。韓国の若者が戦場で血を流すことになる可能性もある。「一つの戦域」構想は議論さえ容認してはならない話だ」

    日本も緊迫した事態に遭遇すれば、米軍支援に立ち上がる規程になっている。韓国は、日本との対立を理由にして、日本と共同歩調を取りたくないようだが、緊急事態下でそのような感情論を言っていられる余裕があるのか。在韓米軍の主要基地は、日本にあるのだ。朝鮮戦争時に、反日闘志の李承晩大統領(当時)が、韓国臨時政府を日本に移す案を検討していた。緊急時には、反日どころの話でなくなることを自戒すべきだろう。


    あじさいのたまご
       

    日米関税交渉が、17日(現地時間16日)からホワイトハウスで始まった。トランプ大統領までが、交渉に加わるほど力が入っている。米国は、日本との間で交渉成果を上げて、PR手段に使いたいことが明白だ。米国が、交渉に焦っていることを示している。赤沢亮正大臣は、「ウイン・ウイン」の成果を上げたいと強調した。

    米国には、日本との決着を急ぐ理由がある。国債市場が、相変わらず不安定であることだ。国債が投売りされて、10年債利回りは一時的4.6%近くまで上昇。週間ベースで1980年代以来の大幅な上昇(相場は暴落)を記録した。現在は、4.3%と落ち着いてきたが、まだ安定はしていない。国債市場の混乱は、米国の政策に対する信頼感の喪失や、貿易戦争の影響が原因である。これを、早く抑えるには日本との間の「妥結」が不可欠である。

    トランプ氏は、SNSで「大成功」と自画自賛した。朝日新聞によると、トランプ氏は、1)在日米軍の駐留経費負担 2)米国製自動車の販売 3)貿易赤字――の三つの柱を具体的に示し、改善を要求したという。

    1)は、難しい問題ではない。在日米軍の駐留経費負担は、過大な日本負担になると、駐留米軍は「日本の傭兵」になるという論法で退けられる。2)は、技術規制の問題である。3)の貿易赤字は、農産物とLNGが焦点である。とりあえずは、1)と2)を解決しておき、3)は「継続審議」とする。こういう方法もあるだろう。


    『日本経済新聞 電子版』(4月17日付)は、「安保握る米国、糸口探る日本 関税『車・鉄鋼』除外に壁」と題する記事を掲載した。

    トランプ米政権は、訪米した赤沢亮正経済財政・再生相との関税交渉で安全保障のカードを切り、日本は自動車関税などの個別テーマで合意への糸口を探った。トランプ米大統領自ら交渉に乗り出して、成果を急ぐ米国に日本の主張を丁寧に伝える努力が欠かせない。

    (1)「トランプ氏は交渉の席で、かねて関心を示す在日米軍の駐留経費に言及したもようだ。関税交渉の過程で日本側の負担額の増額を迫られる可能性がある。日本政府は、関税交渉を安保と切り分ける方針で臨み、防衛省は幹部を派遣しなかった。トランプ氏が、日本との関税交渉に出席し、安全保障を議題にしたことは想定外だった。日本は米軍の駐留に必要な人件費や光熱費などの一部を負担する。「思いやり予算」と呼ばれ、2025年度予算では2274億円を計上した」

    トランプ氏は、在日米軍の駐留経費について関心を持っている。故安倍首相が、この議論を封じた手法を使えば良いであろう。


    (2)「現行の協定は27年3月に期限を迎える。トランプ政権が29年1月まで続くことを考えると、前回と異なりトランプ政権との本格交渉を余儀なくされる。外務・防衛両省は交渉の本格化を26年後半とみるが、当面の関税交渉の取引材料になる可能性はある。日本政府内には駐留経費負担の増額に慎重論が強い」

    現行の協定が、27年3月に期限を迎えるので、交渉の本格化は26年後半からだ。まだ先の話である。

    (3)「防衛省の試算によると、15年度の在日米軍駐留経費の日本側の負担割合は86%で、韓国やドイツと比べて高いとされる。長島昭久首相補佐官は15日のBSフジ番組で「これ以上、日本が負担するとなると米兵の給料を日本が全部出すということになる。『傭兵(雇い兵)』になってしまう」と主張した。防衛省内には、今回も光熱費といった単純なコスト負担でない形で増額するしかないとの考えがある。当時の交渉に携わった元政権幹部は、「米軍の艦船や航空機の整備費を駐留経費に含めて、同盟強靱化につなげると説明するのも一案だ」と話す」

    日本側が負担する、米軍の艦船や航空機の整備費を駐留経費に含めれば、在日米軍駐留経費は増えるという。説明の仕方を工夫することだ。日本が、米兵の給料を全部出すことは、米国のメンツにかかわる問題だ。ここも、トランプ氏に懇々と説明することだ。


    (4)「日本は、自動車や鉄鋼・アルミニウム製品への25%の追加関税の見直しを重視する。米国は強硬姿勢を崩しておらず、壁は高い。ラトニック米商務長官は11日に出演した米テレビ番組で、自動車や鉄鋼・アルミ製品への追加関税については「相手との交渉の余地がない」と説明した。米国は日本の安全基準など「非関税障壁」を問題視し、電気自動車(EV)の補助金制度は「主に日本メーカーが最も恩恵を受ける」と指摘する。ホンダのように一部の生産を日本国内から米国に切り替える動きもあるものの、生産拠点の整備には時間がかかる。トランプ氏は14日に「自動車メーカーの一部を支援する何らかの方法を検討している」と明らかにしたが具体的な内容は不明だ」

    ラトニック米商務長官は、完全な「関税男」になっている。彼が、トランプ氏を突き上げている。ただ、日米交渉の主任格は、ベッセント財務長官である。ベッセント氏は、関税に柔軟である。彼は、為替に関心を持っている。ドル高修正である。

    (5)「米国は貿易赤字の縮小を掲げ、関税政策による産業構造の転換を目指す。特に米自動車産業は象徴的な存在で、妥協を求めるには相応の材料が必要になる。例えば、アラスカ州での液化天然ガス(LNG)の開発事業への日本の協力に米国は関心を示す。日本側には採算性などの面で懸念が根強い。日本の基幹産業である自動車は産業の裾野が広く、素材や部品など関係する業界は多岐にわたる」

    LNGは、韓国やインドネシアが関心を持っている。日本と米国を含めた4ヶ国の共同開発へ持ち込めれば大成功だ。


    (6)「日本自動車工業会の片山正則会長は8日、武藤容治経済産業相との面会で追加関税などについて「サプライヤーの皆様と築き上げてきた産業基盤が根底から瓦解しかねない」と危機感を示した。野村総合研究所の木内登英氏は米国が自動車に課す25%の追加関税は国内総生産(GDP)を0.2%低下させると試算する。赤沢亮正経済財政・再生相は17日の交渉で「(関税措置により)日本の自動車メーカーが米国で新たな投資をする余力がそがれ、極めて残念だとする石破茂首相の話をトランプ大統領に伝えた」と話した」

    日本の自動車メーカーは、関税によって米国で新たな投資をする余力がそがれるのだ。この石破茂首相の説明は、説得的であろう。強気のトランプ氏も考え込む事例だ。



    テイカカズラ
       

    韓国は、これまでの円安相場を笑っていたが、「事態急変」に緊張している。トランプ相互関税で、韓国経済の弱点があぶり出されているからだ。日本は、急速な円高に向っている中で、ウォンが揺さぶられるという対照的な動きだ。理由は経済面だけでなく、政治の不安定化も災いしている。左右両派の対立が、ユン前大統領の弾劾によって長期に続くとみられているのだ。先進国入りを熱望していた韓国は、すっかり状況が変わってしまった。

    『中央日報』(4月17日付)は、「韓銀、政策金利2.75%据え置き…関税戦争中の為替レート不安定を憂慮」と題する記事を掲載した。

    韓国銀行(韓銀)が、政策金利を年2.75%に据え置いた。米中関税戦争が激化して韓国経済にも暗雲が漂う状況だが、今後の交渉過程を見守った後に対応するという意図と解釈される。為替レートが最近乱高下する状況で利下げが変動性をさらに高めるという負担も作用した。


    (1)「韓銀金融通貨委員会(金通委)は17日、通貨政策方向会議を開き、政策金利を年2.75%に据え置くと明らかにした。韓銀は昨年10月と11月に2回連続で引き下げた後、今年1月には据え置きを選択した。2月には景気浮揚のため追加引き下げを断行したが、その後、通商政策の不確実性が高まって景気はさらに冷え込んだ」

    韓国GDPは、25年に1%台前半の予測が増えるなど下振れ予想が増えている。こういう状況下だけに利下げが期待されていた。だが、ウォン安状況が続いているので見送るほかなかった。

    (2)「景気状況に重点を置いて、追加利下げをすべきという意見も少なくなかった。しかし今月利下げするには為替レートがあまりにも不安定だった。トランプ政権の相互関税発表後に一時1ドル=1480ウォン台まで進んだウォン安ドル高が足かせになった。その後、相互関税猶予、ドル安基調などで1ドル=1420ウォン台まで値を戻したが、いつまた1ドル=1500ウォン台に迫るか分からないという見方が多い。1月にも国内政治問題などが重なって1ドル=1400ウォン台後半までウォン安ドル高が進み、これが据え置きの主な根拠となった」

    ウォン相場は、1ドル=1400ウォン台に低迷している。海外情勢次第では、1500ウォンへ下げる危険性も強く、利下げには極めて慎重な姿勢だ。


    (3)「5月の米国の政策金利引き下げも現在のところ不透明な状況だ。相互関税による景気沈滞と物価上昇の懸念が同時にあるからだ。これに先立ち米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長はトランプ大統領の関税発表以降、「関税の規模が予想より大きく米国のインフレに持続的な影響を与えるだろう」とし、これによって利下げ開始はさらに難しくなると明らかにした。半面、クリストファー・ウォーラーFRB理事は相互関税が実際に課されれば利下げが避けられないと述べた。現在、米国(年4.25-4.5%)との政策金利の差は最大1.75%ポイント。LG経営研究院のチョ・ヨンム研究委員は「為替レートの安定が確認され、米国の追加利下げがあった後、韓銀も引き下げを考慮できるだろう」と話した」

    FRBは、相互関税によるインフレ・リスクを警戒している。利下げには慎重になるほかなく、韓国もこれにならい利下げができない状況である。米国との金利差拡大は、ウォン安を招くからだ。

    (4)「膨らむ家計負債も、韓銀が金利を据え置いた背景だ。土地取引許可区域解除期間(2月13日-3月23日)に増えた住宅取引が1、2カ月の時差を置いて貸出残額に反映されているからだ。11日基準でKB国民・新韓・ハナ・ウリィ・NH農協の5大都市銀行の家計貸出残額は739兆8744億ウォン(74兆円)と集計された。今月に入ってすでに1兆3233億ウォン増え、先月の家計貸出増加規模(1兆7992億ウォン)に近づいた。韓銀と金融当局は過度な家計負債が金融の安定を脅かすほか消費を制約するとみて、当分はマクロ健全性管理基調を維持する方針だ」


    韓国の家計は、「火の車」である。家計負債が増えているからだ。韓国の家計負債は、対GDP比で100%を上回っている。債務に対して警戒心が薄く、安易な借入れ依存症が起っている。これは、朝鮮李朝時代からの慣わしだ。一朝一夕には改善不可能である。この家計債務の増加も利下げを渋る理由である。

    (5)「ただ、景気下降の懸念から韓銀が5月には政策金利引き下げにまた踏み切るとの見方が今のところ優勢だ。韓銀は2月の経済見通しで、今年の成長率予測値を従来の1.9%から1.5%に下方修正した。一部の海外投資銀行(IB)の予測値は1%にもならない。6月の大統領選挙以降、補正予算執行など財政政策の強度を見た後、通貨政策に対応するという見方もある」

    企業の資金繰りが悪化している。利下げを待っている状態が続いているのだ。この面では、早い利下げが必要になっている。


     

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    トランプ米大統領は、関税と軍事支援費を巡る交渉で日本政府代表が16日(現地時間)に米国に到着するとし、自身も交渉会合には出席すると明らかにした。自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿。「日本は今日、関税、軍事支援の費用、そして『貿易の公正性』を交渉するためにきょう来る」とし、「財務・商務長官とともに私も出席する。日本と米国にとり良い(素晴らしい)解決策が見つかることを願っている」と述べた。『ロイター』(4月16日付)が報じた。

    『ロイター』(4月16日付)は、「米関税『見直し』求め閣僚協議へ、先陣切る日本 長期戦も視野」と題する記事を掲載した

    赤沢亮正経済再生担当相が訪米し、世界に先駆けて米関税措置の見直しに向けた交渉に臨む。米側が問題視する非関税障壁の見直しでは、交渉カードの乱発を避けたい考えを崩しておらず、結論を得るまでの曲折も予想される。日米首脳間での妥結に向け、7月の参院選をまたぐ長期戦となる可能性がある。


    (1)「訪米に先立ち、赤沢再生相は「準備ができた。何が一番国益に資するのか、何が一番効果的かということを考え抜き、しっかり国益を守る」と報道陣に語った。日本時間17日にベッセント米財務長官、米通商代表部(USTR)のグリア代表と会談、初めての関税交渉に臨む。初回会合では、これまでの米経済への貢献を改めて説明するのと併せ、「非関税障壁を柱とする米国の問題意識を共有し、要求があるなら明確にする」という狙いがあると、複数の交渉関係者は口をそろえる」

    予定外だが、トランプ氏が日米初交渉に顔を出すと本人がSNSで明らかにした。交渉に加わるのでなく、挨拶するのであろう。米国側の期待の大きさを示している。

    (2)「非関税障壁の見直しを巡り、農産品の市場開放や自動車規制の緩和、消費税の還付も含め、「テーブルに乗せられそうな課題への備えは準備した」と政府関係者の1人は語る。とはいえ、今回の協議は「効果的にカードを切っていくためのスタート地点として、赤沢大臣の訪米がある」(経済官庁幹部)との位置付けで、日本が先行して交渉カードを切ることには慎重な声が多い。「米国が何を求めてくるか、様々なケースを想定して準備を整えてきたが、相手の要求に過剰に応じるのは避けたい」と別の政府関係者は言う」

    第1回の交渉では、相手の腹の探り合いから始まる。米国が、何を一番求めているのかを知ることだ。


    (3)「米国は相互関税を表明した直後に、時限的とはいえ措置を凍結した。政府内には「米国も混乱して苦しいし、思惑通りではない部分もあると思う。何に困っていて、日本に何ができるか探っていく必要もある」(閣僚経験者)との声が残る。首相周辺によると、交渉妥結に向けては7月上旬がひとまずの区切りと位置付け、複数回の閣僚協議を想定している。ただ、交渉を重ねても「何をされるか分からないリスクは残る」(元経産省幹部)との指摘もあり、結論を得るまでの曲折も予想される」

    日本は交渉妥結に向けて、7月上旬がひとまず区切りを付ける方針だ。参院選直前であり、結果次第では選挙に大きく響きかねない。この辺は、米国も知っているであろう。

    (4)「焦点の一つとなる農産品の市場拡大では、党内の議論を集約できるかも課題となる。農業分野に支持基盤もある自民党内では、7月の参院選を前に、安易な妥結を警戒する声もくすぶる。赤沢再生相の訪米に先立つ15日の党部会では、農産品を巡る議論も交わされた。「90日の期限が切れるのはまさに参院選の直前。農林水産業は現状でもかなり厳しいし、特に地方に大きな影響がある」と、出席した議員の1人はロイターに語った」


    農産物の輸入問題が、焦点の一つに上がっている。ただ、日本は米価の異常値上がりで困惑状況にある。それだけに、多少の妥協はあり得る状況だ。コメ一粒たりとも輸入を増加させないでは、消費者の反発を招くであろう。従来の「コメ輸入絶対反対」では通らない国内事情も生まれている。

    (5)「この議員は、「選挙前ということもあるし、地方創生の文脈にも逆行する。農産品(の市場開放)は簡単に妥協できない」と言う。国内総生産(GDP)へのインパクトを考慮すれば「最優先事項は自動車関税の引き下げ」(与党幹部)との声がある中、対米交渉と同時に、石破官邸が党内融和を図れるかを不安視する声は強い」

    石破政権は、コメ問題の落とし所をめぐって、神経戦を強いられよう。農村保護の一点張りでは参院選を勝てないであろう。




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    トランプ米大統領が、4月2日を「米国解放の日」と銘打って関税措置を発表して以来、ドルの持続的な値下がりが起っている。これに端を発して米国債が一時的に投売りされる事態を招いた。中国が、米国への報復で米国債を投売りしたのでないかとの憶測まで飛び出した。国家単位での売却はなかった。

    米国市場は、ドルと国債の同時安に襲われて、かつてない不安に襲われた。世界一の経済大国が崩壊するのでないかとの懸念を生んだのだ。今起こりつつあるのは、世界資本の健全なリバランス(再配分)である可能性が高い。円は、ドル高見直しの一環として、再浮上の機会がおとずれたのである。

    『ロイター』(4月15日付)は、「ドル安はパニックか、それとも健全な資産再配分かと題するコラムを掲載した。

    (1)「トランプ氏が4月2日に「相互関税」を発表する前、ほぼ全てのエコノミストがこの発表でドルは上昇すると予想していた。関税はインフレをもたらすので、理論的には米連邦準備理事会(FRB)の利下げ回数が減ると予想されて債券利回りが上昇するはずだから、というのがその理屈だった。ドルの利回りが他通貨に比べて大幅に上昇することは、短期的にはドル高をもたらすはずだった。ドルが安くなるのは、米国の貿易赤字が縮小し、それに伴い外国企業のドル需要が減る段階が訪れてからのはずだった。それまでの間、幅広い関税措置はユーロ圏その他、対米輸出国の成長率を押し下げ、ユーロ安につながるはずだった」


    4月2日以前から、米国株の下落の一方、米国債10年物相場が上昇(利回りは下落)していた。株を売って安全資産の国債を買う動きが強まっていた。ここまでは、通常みられる資産の移動である。ところが、相互関税発表以降は、株も債券も同時下落というパニック状態に陥った。資金が、海外流出したのだ。相互関税が、米国経済へ破滅的影響をもたらすと懸念された結果である。

    (2)「関税措置による為替実効レートの変動を予測する当社のモデルは、報復措置がなければドルは1%上昇し、報復措置があれば小幅に下落すると予想していた。ユーロは前者の場合に1%、後者では0.7%、それぞれ下落するはずだった。実際に起こったことは何か。ドルは4%余りも下がってユーロは2.8%跳ね上がったのだ。関税はインフレをもたらすはずなのに。関税は経済成長率を低下させて実質利回りを押し下げるはずなのに、5年物国債の実質利回りは上昇した」

    米国は、関税による単純なインフレでなく、相互関税で物価高の不況という最悪のスタグフレーションに陥るとの見方が強まった。こうして、株価も国債も同時下落という滅多に起こらない事態が発生した。トランプ政権への不安が、一挙に吹き出た感じである。


    (3)「経験豊富な投資家なら、このパターンになじみがあるだろう。これは、投資家がある国の政府とその債務返済能力への信頼を失った時に起こる新興国市場危機の典型例だ。その結果、資本は逃げ出し、国債は激しく売られ、リスクプレミアムは上昇する。こうした現象は先進国ではほとんど見られなかった。2022年9月、当時のリズ・トラス英首相が悪名高い「ミニ予算」を発表して世界の投資家からの信頼を失うまでは。現在のドル安と米国債実質利回りの動きは、トランプ氏も「リズ・トラスの瞬間」を迎える可能性を示唆している。世界の投資家は、資本を振り向けるのに最善の場所としてのドルと米国への信頼を失いつつある」

    国債暴落は、2年9月に英国でも起こった。それが、米国で起こったことにより、米国とドルへの信頼が失われたことを認識させ、連鎖反応をもたらしたのである。

    (4)「資本フローの詳細なデータはまだ入手できないが、日々の上場投資信託(ETF)の資金流出入を見れば、今起こっていることを想像できる。相互関税発表後の米国および欧州の株式ETFを見ると、米国株に特化したETFからは差し引きで大量の資金が流出している一方、欧州株ETFからはほとんど流出していないことが明確に分かる。米国の投資家の間では、米国を除く世界の株式に投資する「国際ETF」への純資金流入さえ起こっている」

    資金は、不安な米国から欧州へ移動している。「国際ETF」への純資金流入でそれが窺えるのだ。


    (5)「われわれは、米国例外主義の終焉をリアルタイムで目撃しているのかもしれない。しかしこれは、世界の基軸通貨というドルの地位の終わりではない。今目にしているのは、国際的な投資ポートフォリオのリバランスである可能性が高い。過去10年間、世界のポートフォリオは米国資産への集中度合いを高めてきた。例えばMSCI世界株価指数に占める米国株の割合は、2010年の48%から今では73%まで高まっている」

    世界の資金が過去10年間、米国へ集中しすぎた。MSCI世界株価指数で、米国株のウエイトは7割強もある。ドル高は、これを反映したものだ。

    (6)「今後数年間、ポートフォリオのリバランス期間が訪れ、欧州およびアジア市場に対する米国市場のアンダーパフォーム(指標を下回る)が続くかもしれない。近年どれだけの外国資本が米国市場に押し寄せたかを考えれば、このリバランスはウォール街に痛みをもたらす可能性はある」

    これからの数年間は、米国へ集中した資金が欧州やアジアへ分散するとみられる。となると、ドル高=円安が是正される局面になろう。




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