日米関税交渉は、7月20日の参院選後の10日間で精力的に行なう見通しが出てきた。米国が通告してきた自動車関税25%が、鉛のように重く日本経済へのし掛っている。こうした事態に、米国で余裕設備を持つ日産自動車が、ホンダ車の肩代わり生産する案が浮上している。日産とホンダにとって、双方がプラスの話である。
『日本経済新聞 電子版』(7月11日付)は、「日産、米国でホンダ車生産へ協議 工場の稼働率上げ関税影響を緩和」と題する記事を掲載した。
日産自動車は、米国でホンダに自動車を供給する協議を始めた。稼働率が落ち込む日産の米国工場を活用し、ホンダ向けの大型車を生産する方向で検討している。自動車関税を巡っては日米の政府間交渉の溝が深い。日本車メーカーが連携して米国生産を増やし、関税影響を抑える。
(1)「両社は、世界3位の自動車連合を目指して経営統合の協議に入ったが、条件で折り合いがつかず破談した。中国勢の台頭や自動車関税など経営環境の厳しさが増す。協業を進めて関係を再構築する。日産は、米国に2カ所ある完成車工場のうち、ミシシッピ州のキャントン工場でホンダ向けのピックアップトラックを生産する方向で協議している。同工場では、商用向けの中型ピックアップトラック「フロンティア」などを生産している。日産が、ピックアップトラックにホンダのブランドロゴを取り付けて生産し、ホンダが自社ブランドとして米国で販売する」
日産が、ピックアップトラックにホンダのブランドロゴを取り付けて生産するもの。ホンダは、販売の穴を埋められる。
(2)「ピックアップトラックは、運転席後方に開放型の荷台を備える小型貨物車。実用性の高さから米新車販売の2割を占める。ホンダは、米国で日常生活で使いやすいピックアップトラックしか手掛けていない。日産工場から車両を供給してもらうことで、本格的なトラック性能を求める消費者の需要を開拓できる」
ホンダはこれまで、米国の日常生活で使いやすいピックアップトラックしか手掛けていなかった。今回の関税問題で急遽、この分野で販売の落込みをカバーする。
(3)「米国での協業は、両社にメリットが大きい。米国の自動車関税を受けて、ホンダは2026年3月期に6500億円、日産も最大4500億円の営業利益の下押し要因になる。米国で販売する、日本車の米国輸入比率は高い。日産は米国販売車の47%、ホンダも32%を米国外から輸入している。4月から発動した25%の自動車関税の影響を回避するために現地生産が重要になっている」
米国での協業は両社にメリットになる。日産は、操業度引上げ。ホンダは、新分野開拓である。こうし「相互支援」が、協業への足がかりになるかどうかだ。
(4)「ホンダは、米国に5カ所の工場を持つが、新たな車種を現地生産するには時間がかかる。日産から車両を供与してもらうことにより、関税影響や開発費を抑えながら短期間で米国生産車を増やせる。一方、日産は販売不振を受けて世界で工場の稼働率が低迷している。調査会社のマークラインズによると、キャントン工場の24年の稼働率は57%にとどまり、一般的に80%前後とされる損益分岐点を大きく下回る。日産はホンダ向けを生産することにより、稼働率が高まり収益力の改善につながる」
日産キャントン工場は、24年稼働率が57%程度だ。これを、ホンダ向けのピックアップトラック生産によって、稼働率を引上げられる。広大な米国市場では、両社の製品がバッティングすることもないのだろう。
(5)「トランプ政権は、関税政策で強気の姿勢をみせている。日本などに対して、4月に公表した相互関税とほぼ同じ税率を8月1日から課すと表明した。自動車関税を巡っては日米両政府の溝は深い。自動車メーカーが連携して米国生産の増産を表明すれば、交渉材料の一つになりうる。日産とホンダは、24年末から経営統合の協議を進めてきた。ホンダは日産が大規模なリストラ案の策定に踏み込まないことに不満を抱き、日産に子会社案を突きつけた。日産からも「ホンダとは統合できない」と不信感が高まり、統合協議は破談した。話し合いは振り出しに戻り、協業は検討を継続することになった」
米国で、両社が相互支援することにより理解が進むというメリットも期待できる。不信感を取り除くことは良いことだ。
(6)「4月に日産が、経営陣を刷新したのを機に、両社は幹部による協議の場を定期的に開いてきた。両首脳ともすぐの経営統合協議の再開は否定している。まずは、メリットがある分野で協業し、関係を再構築していく」
それにしても、いったんは協業を決意した両社が、感情のもつれで分かれてしまった。資本の論理の前に、感情が先行したもの。冷却期間をおいて、再び協業へのムードが出るか。