軍兵士は自分の家族重視
急低下する成長率の波紋
習氏の4期目は不透明に
中国政治のカギは農村部
香港が2020年、中国の直接統治下に入って以来、中国国内の微妙な政治的・経済的な情報は遮断された。誇張された情報だけが、世界中へ流されている。あたかも、中国が順調に推移しているかのように見えるのだ。注意深く情勢を分析していくと、全く違った状況が浮かび上がる。農村部の経済的疲弊が、中国政治へ深刻な影響を与えている。不動産バブル崩壊による住宅不況の長期化が、地方政府の土地売却収入の急減をもたらし、多方面へ影響している。行政サービスが、満足に受けられなくなっているのだ。
外部から見る中国は、臨海部の華やかさに目を奪われるが、農村部はこの華やかさから完全無縁な「孤島」である。中国の負の部分は、全て農村部へ集約されている。中国人民解放軍は、幹部や兵士の多くが農村部出身だ。自分たちの家族が、昨今の経済停滞で深刻な影響を受けている結果、習近平氏の政策には深い疑念を持ち始めている。中国という国家体制は、最終的に人民解放軍によって守られている。それだけに、農村部の深刻な不況が習近平体制を揺るがす危険性を秘めている。ここに、注意しなければならない。
習近平氏は目下、27年秋に迎える国家主席4期目をどのように乗切るか「秘策」を練っている。4期目が、スムーズに決まるのかどうか、今や大きな焦点になっている。国際的には4期目を「当然視」している。だが、中国の内部事情を見ると、そのような安易な結論を出せないほど、多くの難問が山積している。
冒頭に指摘したように、かつて存在した「香港情報」が消えたので、事態は突然に浮上する「突発型」になるであろう。だが現実において、そのようなことはあり得ない。多くの伏線があって、事態は引き起される。新たに習氏の健康不安が、米国への国賓訪問で急浮上しているのだ。米国メディアが詳細に報道したことにより、習氏がいくつかの悪い状況に陥っている。長時間の歩行や会議に耐えられなくなっている。この状況は、今年5月の米中首脳会談時からみて想像もできないほど「悪化」である。
中国経済は、「不安定領域」へ突入している。立て直す手段がないほど、最悪事態を迎えている。中国政治も習氏の健康問題が加わって、「危険域」へ突っ込んでいる。経済も政治も全て、習近平氏に関わる問題だ。
政治的難問では、肝心の後継者が指名されていないのだ。度重なる粛清によって、信頼する助言者の輪が狭まっている。こういう中で、習氏は健康不安を抱えながら孤独な決断をしなければならない。習氏は、最後に誰の意見を採用するか、という切羽詰まった状況にある。その役割は、習夫人の彭麗媛氏でないか、との観測が出ている。事態は、ここまで悪化している。健康不安問題は、中国政治にこれだけの影響を与える。
習夫人は、人民解放軍所属の国民的ソプラノ歌手であった。軍においては、少将相当の非戦闘系文官幹部階級を保持している。2012年には人民解放軍芸術学院の院長に任命され、2017年の大規模な組織改編に伴い同学院が国防大学へ吸収統合されるまで、軍の文化人幹部に典型的な上級軍籍を維持してきた「高官」だ。それだけに、軍内部の人事情報に詳しいはずである。習氏によるこれまでの軍幹部粛清では、夫人の情報提供があったともみられる。この夫人が、習氏の最後の出処進退の鍵を握っていると観測されている。
軍兵士は自分の家族重視
中国人民解放軍は組織上、中国共産党に属している。だが、意識は国家所属である。国家の危機に敏感である。その危機感の根源は、米中関係悪化や経済情勢悪化といった一般論ではない。軍幹部や兵士の出身地である農村部経済の悪化が、最後の引き金を引くと推測されている。自らの家族の生活基盤を脅かされる事態まで及んだとき、習体制へ反旗を翻すと見られる。それは、自らの家族を守るという危機感から出るものだ。
習近平体制の致命的弱点は、都市でなく農村にある。中国の高齢者の約7割が、農村に住んでいる。だが、農村の介護施設は都市の1割以下だ。農村の医療支出は、都市の3分の1以下であり、農村の年金は都市の5分の1以下という低額である。若者は、都市へ流出し農村は「高齢者だけの社会」になっている。農村は、すでに「GDP2位の国家が支えられない社会」である。中国農村は、都市の「ゴミ捨て場」同然の扱いを受けている。
中国人民解放軍の幹部や兵士の多くは、この農村部出身である。中国経済の長期不況はまず、農村を直撃している。軍の幹部や兵士が、経済苦境を「政治問題」として捉えるのは当然の帰結であろう。経済政策失敗が、習政権にとって致命傷になる。
もともと中国経済は、発展する臨海部都市と停滞する内陸部農村という際だった両極構成である。その実態は、一人当たり名目GDPでみると次のようなものだ。(省略)
沿海部は、東欧から南欧レベルの中進国に相当する経済レベルである。一方内陸部は、東南アジアの中でも低所得国レベルである。まさに、「一国二制度」だ。中国内部は事実上、東ヨーロッパ・クラス国と東南アジア低所得国レベル国が「併存」している状況である。
臨界部と内陸部の一人当たり名目GDPを具体的に見ると、内陸部は上海を基準にすれば4分の1以下である。浙江省を基準にすれば、2分の1以下という大きな格差が生じている。これだけの所得格差がありながら、前述の通り社会福祉関連施設などは臨界部の1割以下という状況だ。経済状況が悪化すればするほど、農村部の落ち込み幅が大きくなるという「泥沼状態」が発生する仕組みになっている。(つづく)
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