捨てる神あれば拾う神あり。この格言通りのことが起こっている。中国は、福島原発処理水排出に反対して、日本産海産物の全面禁輸措置に出ている。中国は、日本のホタテを輸入して皮剥きし、米国へ輸出してきた。ホタテは、この中国輸出ルートが消えて混乱したが、メキシコで皮剥きを行い米国へ輸出可能なことが分った。しかも、メキシコでは「生」で米国へ輸出するので鮮度が保たれ、価格は中国向けの2倍になるという。
日本産ホタテは、メキシコ経由で米国へ輸出可能となったことで、さらなる販路拡大が可能である。結果論だが、中国の禁輸措置はホタテ業界にラッキーであった。
『日本経済新聞 電子版』(3月18日付)は、「ホタテ、メキシコ加工で価格2倍 中国禁輸で狙う米市場」と題する記事を掲載した。
中国による禁輸で行き場を失った北海道産のホタテをメキシコで加工し、米国の高級品市場に売り込む試みが本格的に始動した。中国への依存度を減らす一方、価格は中国で加工していた当時の2倍程度に跳ね上がる。高級食材として、まずは米西海岸で独り立ちさせるのが目標だ。
(1)「日本貿易振興機構(JETRO)が、主催した16日までの現地ツアーには8都道県から14社の日本企業が参加し、メキシコ北西部エンセナダ(バハ・カリフォルニア州)の現地3社によるホタテのからむき加工を視察した。JETROが1社に1トンずつ、北海道産の冷凍ホタテを支給し、手法や設備にも助言した。現地企業、アテネア・エン・エル・マルのミネルバ・ペレス社長は、「本格的にやるとなれば人も増やす。3シフトで対応したい」と意欲を見せた。ミル貝やアワビなど月間40トン程度を輸出しているが、日本産ホタテを扱うのは初めて。米国内で流通する可能性のある新たな高級食材としてホタテに注目する」
メキシコは、日本から冷凍のホタテを受入れ、すぐに皮剥きし陸路で米国へ供給する。こういう新たなルートが開けそうだ。日本海産物が、高級食材として米国へ輸出される。中国の全面禁輸が、思わぬ形で日本へ福音をもたらしそうである。
(2)「本産ホタテの輸出金額は、2023年、8万1000トンあまりと前年比4割弱減った。東京電力福島第1原子力発電所からの処理水放出に中国が態度を硬化させ、日本産水産物の全面禁輸に踏み切った。輸出の8割を占めていた中国向けは5万3700トンあまりと5割減。多くを中国に輸出していた北海道ホタテは大打撃に遭った。北海道産の養殖ホタテは人件費の安い中国に冷凍の状態で輸出され、からをむき、貝柱を再冷凍させて米国に再輸出されてきた。中国ではリン酸塩水を入れた水につけて膨張させる「加水加工」処理が一般的で、見た目を良くして米国に出荷されていた。この加工をすると生食はできず、すしネタとしての可能性は閉ざされていた」
これまでの「中国輸出ルート」は、ホタテにリン酸塩水を入れた水につけ膨張させる「加水加工」処理をしてきた。これでは、生食として不可能である。すしネタには使えないのだ。
(3)「エンセナダは、水産国メキシコでも屈指の規模で加工工場が集積し、米輸出に必要な米食品医薬品局(FDA)の認証を取得済みの施設も多い。米西海岸、ロサンゼルスの飲食店なら加工後24時間以内に納品可能で、ニューヨークなど他の米大都市向けにも冷凍の物流ルートがすでに確立されているアドバンテージがある。メキシコでは加水加工をせず、「ドライスキャロップ」として米国に運ぶ。「加水加工した『ウェットスキャロップ』に比べ、ドライの価格は2倍程度」(JETROメキシコ事務所の志賀大祐氏)。米国での最終消費者はこれまで低価格の中華料理店が8割以上を占めていたが、メキシコ加工によって高級スーパーやすし店に照準が移る」
メキシコは、米食品医薬品局(FDA)の認証を取得済み工場が、ホタテの皮剥きをするので衛生面の懸念はない。しかも、加水加工をせずに「ドライスキャロップ」として米国へ輸送する。中国輸出が止まった結果、ホタテは新たな需要地を得られることになったのだ。これまでの日本産ホタテは、米国では中華料理店の食材にすぎなかったが一躍、高級スーパーやすし店の食材へ格上げである。価格が、2倍に跳ね上がるのは当然であろう。皮肉にも、「習近平ありがとう」だ。
(4)「エンセナダは、すし店も多く立地する米ロサンゼルス(カリフォルニア州)まで陸路で5時間程度、からをむいた貝柱を再冷凍せずに届けられるメリットがある。視察した日本企業からも「米国市場で新たなニーズが出てきた時、一番早く対応できる」(ハイブリッドラボ=宮城県=の石橋剛社長)と期待する声が出ていた。16日、ロサンゼルスで開いた食材のバイヤーとの商談会では、24時間前にメキシコで加工された生ホタテが振る舞われた。米国内で魚介類の会社を経営するドン・サブリーさんは「味は申し分ない。日本企業と長い関係を築きたい」と意気込んだ」
メキシコのエンセナダから米国ロサンゼルスまで、陸路で5時間程度である。これは、生ホタテの鮮度維持の上で大きな優位性を持つ。
(5)「築地で仲買人経験もある横田清一さんは、「24時間以内に届けたとは思えない。生食用として十分に合格点」と評価した。JETROによると、カリフォルニア州の日本食レストランの数は約5000店(22年)と全米一の規模で、2010年と比較すると1000点以上増えている。ホタテも、寿司ネタとして人気が上がり、高品質品の引き合いが強い」
カリフォルニア州には、日本食レストランが約5000店もあるという。日本産の食材がますます必要になろう。