勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    捨てる神あれば拾う神あり。この格言通りのことが起こっている。中国は、福島原発処理水排出に反対して、日本産海産物の全面禁輸措置に出ている。中国は、日本のホタテを輸入して皮剥きし、米国へ輸出してきた。ホタテは、この中国輸出ルートが消えて混乱したが、メキシコで皮剥きを行い米国へ輸出可能なことが分った。しかも、メキシコでは「生」で米国へ輸出するので鮮度が保たれ、価格は中国向けの2倍になるという。 

    日本産ホタテは、メキシコ経由で米国へ輸出可能となったことで、さらなる販路拡大が可能である。結果論だが、中国の禁輸措置はホタテ業界にラッキーであった。 

    『日本経済新聞 電子版』(3月18日付)は、「ホタテ、メキシコ加工で価格2倍 中国禁輸で狙う米市場」と題する記事を掲載した。 

    中国による禁輸で行き場を失った北海道産のホタテをメキシコで加工し、米国の高級品市場に売り込む試みが本格的に始動した。中国への依存度を減らす一方、価格は中国で加工していた当時の2倍程度に跳ね上がる。高級食材として、まずは米西海岸で独り立ちさせるのが目標だ。

     

    (1)「日本貿易振興機構(JETRO)が、主催した16日までの現地ツアーには8都道県から14社の日本企業が参加し、メキシコ北西部エンセナダ(バハ・カリフォルニア州)の現地3社によるホタテのからむき加工を視察した。JETROが1社に1トンずつ、北海道産の冷凍ホタテを支給し、手法や設備にも助言した。現地企業、アテネア・エン・エル・マルのミネルバ・ペレス社長は、「本格的にやるとなれば人も増やす。3シフトで対応したい」と意欲を見せた。ミル貝やアワビなど月間40トン程度を輸出しているが、日本産ホタテを扱うのは初めて。米国内で流通する可能性のある新たな高級食材としてホタテに注目する 

    メキシコは、日本から冷凍のホタテを受入れ、すぐに皮剥きし陸路で米国へ供給する。こういう新たなルートが開けそうだ。日本海産物が、高級食材として米国へ輸出される。中国の全面禁輸が、思わぬ形で日本へ福音をもたらしそうである。 

    (2)「本産ホタテの輸出金額は、2023年、8万1000トンあまりと前年比4割弱減った。東京電力福島第1原子力発電所からの処理水放出に中国が態度を硬化させ、日本産水産物の全面禁輸に踏み切った。輸出の8割を占めていた中国向けは5万3700トンあまりと5割減。多くを中国に輸出していた北海道ホタテは大打撃に遭った。北海道産の養殖ホタテは人件費の安い中国に冷凍の状態で輸出され、からをむき、貝柱を再冷凍させて米国に再輸出されてきた。中国ではリン酸塩水を入れた水につけて膨張させる「加水加工」処理が一般的で、見た目を良くして米国に出荷されていた。この加工をすると生食はできず、すしネタとしての可能性は閉ざされていた」 

    これまでの「中国輸出ルート」は、ホタテにリン酸塩水を入れた水につけ膨張させる「加水加工」処理をしてきた。これでは、生食として不可能である。すしネタには使えないのだ。

     

    (3)「エンセナダは、水産国メキシコでも屈指の規模で加工工場が集積し、米輸出に必要な米食品医薬品局(FDA)の認証を取得済みの施設も多い。米西海岸、ロサンゼルスの飲食店なら加工後24時間以内に納品可能で、ニューヨークなど他の米大都市向けにも冷凍の物流ルートがすでに確立されているアドバンテージがある。メキシコでは加水加工をせず、「ドライスキャロップ」として米国に運ぶ。「加水加工した『ウェットスキャロップ』に比べ、ドライの価格は2倍程度」(JETROメキシコ事務所の志賀大祐氏)。米国での最終消費者はこれまで低価格の中華料理店が8割以上を占めていたが、メキシコ加工によって高級スーパーやすし店に照準が移る」 

    メキシコは、米食品医薬品局(FDA)の認証を取得済み工場が、ホタテの皮剥きをするので衛生面の懸念はない。しかも、加水加工をせずに「ドライスキャロップ」として米国へ輸送する。中国輸出が止まった結果、ホタテは新たな需要地を得られることになったのだ。これまでの日本産ホタテは、米国では中華料理店の食材にすぎなかったが一躍、高級スーパーやすし店の食材へ格上げである。価格が、2倍に跳ね上がるのは当然であろう。皮肉にも、「習近平ありがとう」だ。

     

    (4)「エンセナダは、すし店も多く立地する米ロサンゼルス(カリフォルニア州)まで陸路で5時間程度、からをむいた貝柱を再冷凍せずに届けられるメリットがある。視察した日本企業からも「米国市場で新たなニーズが出てきた時、一番早く対応できる」(ハイブリッドラボ=宮城県=の石橋剛社長)と期待する声が出ていた。16日、ロサンゼルスで開いた食材のバイヤーとの商談会では、24時間前にメキシコで加工された生ホタテが振る舞われた。米国内で魚介類の会社を経営するドン・サブリーさんは「味は申し分ない。日本企業と長い関係を築きたい」と意気込んだ」 

    メキシコのエンセナダから米国ロサンゼルスまで、陸路で5時間程度である。これは、生ホタテの鮮度維持の上で大きな優位性を持つ。 

    (5)「築地で仲買人経験もある横田清一さんは、「24時間以内に届けたとは思えない。生食用として十分に合格点」と評価した。JETROによると、カリフォルニア州の日本食レストランの数は約5000店(22年)と全米一の規模で、2010年と比較すると1000点以上増えている。ホタテも、寿司ネタとして人気が上がり、高品質品の引き合いが強い」 

    カリフォルニア州には、日本食レストランが約5000店もあるという。日本産の食材がますます必要になろう。

     

     

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    世界1位となった台湾半導体企業TSMCは、AI(人工知能)半導体需要の急増に合わせ、台湾で10工場の増設を検討していると伝えられた。その後、「後工程」について日本が技術的に進んでいることから、日本での生産を新たに検討している模様だ。これは、従来の日本における半導体工場建設と別プランみられる。

     

    米インテルも、日本での開発拠点設置を検討しているという。サムスンは、すでに開発拠点設置にむけて動いている。こうして、日本の持つ半導体総合力(製造設備・素材・後工程)に注目して、世界の半導体企業が日本へ集結し始めている。

     

    『ロイター』(3月18日付)は、「日本に先端半導体『後工程』の生産能力、TSMCが検討ー関係者」と題する記事を掲載した。

     

    半導体受託生産大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、人工知能(AI)向け半導体の生産に不可欠な先端パッケージング工程を日本に設置する検討をしていることが分かった。AI半導体の需要急増でTSMCは同工程の処理能力が不足しており、製造装置や材料メーカーが集積する日本を候補として考えている。事情に詳しい関係者2人が明らかにした。検討は初期段階で、規模や時期など詳細は決まっていない。

     

    (1)「同関係者らによると、TSMCは「CoWoS」(チップ・オン・ウェーハ・オン・サブストレート)という同社独自のパッケージング工程を日本に導入することを選択肢の1つに入れている。回路を微細化する前工程の技術による性能向上が限界に近づく中、複数のチップを1パッケージに実装するチップレットや立体的に重ね3次元実装して性能を向上させる先端パッケージング技術の重要性が後工程の中で高まっている。TSMCは2022年、パッケージング工程の研究開発拠点を茨城県つくば市に設立したが、CoWoSの本格的な生産設備は、台湾だけにとどまる」

     

    TSMCは22年、筑波に研究開発拠点を設けた。これには、日本の大学や半導体製造設備メーカーや素材メーカーなどが参加する大掛かりなものだ。TSMCはすでに、日本技術を利用している形である。この延長で、日本においてAI半導体の後工程を生産するのはごく自然な流れであろう。日本企業も、ここで「技」を磨いているので遅れを取ることもない。

     

    (2)「同社は1月の会見で、CoWoSの生産能力を24年に前年比で約2倍にする計画を公表し、25年以降も増強する方針を示した。先端パッケージングは半導体各社が注力しており、別の複数の関係者によると、米インテルも日本での開発拠点の開設を検討している。インテルはコメントを控えた。韓国サムスン電子は、すでに横浜市に先端工程の試作ラインを新設することを決めた」

     

    インテルは、非メモリー半導体でサムスンへ挑戦している。TSMCに次いで世界2位になることを宣言し、米国政府も後押しする。こうなると、インテルはTSMCが日本で展開する戦術を傍観している訳にいかず、日本で研究開発拠点を設けるほかないと判断したのかも知れない。サムスンも横浜で先端工程の試作ラインを新設する。

     

    (3)「各社とも、半導体の素材や製造装置に強みを持つ日本企業と連携し、開発力を強化したい考え。とりわけTSMCは、年内に稼働する熊本県の前工程の工場建設が順調に進んだことから、労働文化が似た日本を有望視していると、前出の関係者2人は言う。 半導体産業の復興へ多額の補助金を投入してきた経済産業省の幹部は、日本で先端パッケージングの生産能力が確保される場合、「支援したい意向がある」と話す。AIの普及により、急速に高まる先端パッケージングの需要に対して「タイムリーに対応していく」とも述べた」

     

    AI半導体は、世界的な供給不足に陥っている。生産の主力は台湾である。日本が、その製造工程の半分を担うとなれば、これまで予想もしていなかった「半導体展開」が始まる。1980年代後半、世界半導体の頂点に立った日本が、再び脚光を浴びる環境が整い始めた。

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    大企業製造業は8割満額

    国内はM&A時代へ突入

    GDP3位転落巻返しへ

    日本経済取巻く環境好転

     

    24年春闘は、日本経済の将来を占う試金石となった。これまで、賃金をコストとしてみてきた企業が、180度の転換で「人材投資」という認識に変わったことだ。賃金が、コストであれば切下げるほど企業の利益になる。今や、本格的な労働力不足に直面して、賃金は人材投資であることに気づかされたのである。優秀な人材を集めて能力を発揮させるには、よりよい待遇が前提条件になった。賃金は、将来を見据えた投資なのだ。

     

    24年春闘は、3月15日現在の連合による第一次集計で、平均賃上げ率が5.28%となった。前年同時点を1.48ポイントも上回った。昨年に引き続く2年連続の高い賃上げ率は、一過性でないことを示している。日本企業が、賃金コスト論を脱却して人材投資という視点に転換したことを意味している。その意味では、日本企業の「経営革命」と呼んで差し支えなかろう。

     

    連合は、従業員数300人以下の中小企業の賃上げ率も発表した。それによると、4.42%に達し、32年ぶりの高水準となった。前年同時期を0.97ポイント上回ったのだ。賃金引き上げ機運は、こうして中小企業にも広がっており、物価と賃金が持続的に上がる好循環の基盤が形成されてきたとみてよかろう。

     

    24年春闘は成功した。問題は、零細企業の賃上げがどこまで可能か、である。下請け企業の場合、発注先の企業が人件費上昇分を受入れるかがポイントになる。政府は、「下請法」によって正当な人件費上昇を受入れるように公正取引委員会が監視している。先頃、下請法違反の企業10社の社名が公表された。「一罰百戒」の意味を込めた発表だが、こうした違反は絶対に防がなければならない。

     

    年央の実質賃金は、プラスに転じる可能性が強まっている。長かった「冬の季節」が終わりを迎えるであろう。

     

    大企業製造業は8割満額回答

    大企業製造業は、24年春闘で8割が労組要求に対して満額以上の回答をした。中でも圧巻は、日本製鉄である。月3万円の賃金改善要求を上回る、月3万5000円と回答した。この結果、定期昇給(定昇)などを含めた賃上げ率は14.%である。回答の狙いについて、日鉄は「今後の生産性向上を前提とした、将来に向けた人への投資」と説明している。

     

    鉄鋼業界は、これまで他社と「横並び」の賃上げを行ってきた。だが、日鉄はこの慣例を破って14%もの大幅賃上げへ踏み切った。狙いは何か。一つは、同業間での競争である。従来は、同業間では暗黙の了解で横並びの賃上げであった。これでは、日鉄に優秀な人材を集められないという危機感であろう。もう一つは、他産業との競争である。その一つが日本の半導体勃興である。台湾半導体企業TSMCの熊本進出が導火線になった。

     

    TSMCは、大卒で28万円の初任給を出す。日鉄は、TSMCへ流れる人材も取り込みたいのであろう。それには、これに対抗する初任給引上げが必要である。日鉄の24年初任給は、賃上げで26万5000円だ。前年よりも18.3%増になる。初任給が、2割近い引上げは高度成長期並みである。日鉄は、今後とも賃上げできる企業体質強化への青写真を持っているはずだ。

     

    日鉄は、米国のUSスチールとの合併を進めていたが、米国バイデン大統領の反対声明で実現に時間がかかりそうな情勢になった。だが、日鉄は海外でのM&A(合併・買収)を積極的に行う意思を示したことで、他産業にも大きな刺激を与えたはずだ。実は、M&A候補が海外だけでなく、日本国内に多数存在している。

     

    国内はM&A時代へ突入

    日本政府は、長年の懸案だった国内企業の統合について、一気に進められる明確なゴーサインを出している。経済産業省が昨年8月、05年以来となる企業買収の行動指針を策定したからだ。今年2月、日本で開催されたM&A関連会議では、世界各地のファンドマネジャーが大挙して押しかける盛況ぶりであった。日本が、M&A市場として有望とみられているのである。

     

    経産省の新たな行動指針では、敵対的買収防衛策が緩和されている。経営陣は、合理的理由がなく買収提案を拒んだり、敵対的として退けたりできなくなったのだ。これまで、高い壁があった敵対的買収に対する防御策が消えたと言えよう。最も大きな効果は、M&Aによって日本経済全体の効率性(生産性向上)が高まることである。非効率な経営を続け、従業員へ満足な賃上げもできない企業は、M&Aによって経営主体が変わる時代になった。M&Aは、こうした重要な役割を果たすのだ。

     

    日本企業はこれまで行き過ぎた経営多角化を行ってきた。ビジネスチャンスを求めた結果である。これが、効率的経営実現の障害になっている。そこで、国内企業同士の事業統合を進める有効手段として、M&Aがテコとして浮上してきた。(つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

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    米国は、日鉄とUSスチールを巡る合併反対論で政治的圧力をかけている。だが、USスチールは15日、日鉄による買収が今年後半に完了する見込みと規制当局に提出した資料で明らかにした。『ロイター』(3月16日付)が明らかにした。日鉄は15日、合併を実現するという強い決意を表明した。 

    『ブルームバーグ』(3月15日付)は、「日鉄、『強い決意』でUSスチール買収完了させると声明で主張」と題する記事を掲載した。 

    日本製鉄は15日、米USスチールの買収に関して「強い決意のもと」で完了させるとの声明を発表した。バイデン米大統領はUSスチールについて、米国資本の企業として存続するよう求めている中でも、退かない姿勢を示した。 

    1)「日鉄は声明で、買収はUSスチールだけでなく労働組合や米国鉄鋼業界、米国の安全保障に明確な利益をもたらすと指摘。投資の拡大と先進技術の提供を通じて競争力がある製品やサービスを生み出し、米国の優位性を高めるとした。これらを独力で実現できる他の米企業はなく、USスチールが今後何世代にもわたり米国の象徴的企業としてあり続けるための最適なパートナーだと確信していると述べた」 

    USスチールは、米国独禁法上で国内有力鉄鋼企業との合併が不可となっている。USスチールを救済できるのは、独禁法上でも日鉄しか存在しないことが明らかだ。

     

    2)「日鉄はまた、全米鉄鋼労働組合(USW)に対し、雇用、年金、設備投資、技術共有、財務報告や買収成立後のUSWとの労働協約に関する義務履行の確保に関する重要な約束事項を提案し、相互に合意可能な解決に向けた努力を継続するとも述べた。日鉄によるUSスチール買収を巡っては、バイデン大統領が先に「USスチールは1世紀以上にわたって米国を象徴する鉄鋼会社だった。米国の鉄鋼会社として国内で保有され、経営を続けていくことが極めて重要だ」と声明で主張。「米国の鉄鋼労働者を原動力とする強力な米国の鉄鋼会社を維持することが重要だ。米鉄鋼労働者には私がついていると伝えた。それが私の本心だ」と述べた」 

    USWは、合併反対派の強い影響を受けているとされる。独禁法上の限界を理解せず、政治的に振る舞っているだけだ。 

    3)「バイデン大統領の今回の声明では、買収計画に対する連邦当局による現在進行中の精査については言及しておらず、計画を阻止する方針だとも明言していない。この買収計画の実現には株主の承認が必要だが、市場が注目しているのは対米外国投資委員会(CFIUS)による審査だ。CFIUSには、買収計画を承認するか、国家安全保障上の懸念を理由に阻止する、ないし修正を求める権限を持つ。またバイデン大統領に判断を委ねる可能性もある。バイデン大統領の声明が、この審査に何らかの影響を及ぼすのかは明らかではない」 

    CFIUSは、財務省の管轄下にある。財務省は一切、この問題に言及せず沈黙している。中立を守っているようだ。CFIUSは、政治的思惑を排除して純粋に手続き論で審査している。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月15日付)は、「日本製鉄を巡るバイデン氏の大失態」と題する社説を掲載した。 

    かつて米政界の一致した見方は、外国からの投資は米経済の強さの表れであり、高給の雇用を生み出すというものだった。保護主義者たちは、米国製品と競合する輸入品の流入阻止に焦点を合わせていた。しかし、彼らは今では、友好国が米製造業に投資する場合さえも標的にしている。 

    (4)「それは、日本製鉄がUSスチールに提示した141億ドル(約2兆円)での友好的買収案にも当てはまる。USスチールは老舗の米国企業だが、世界の製鉄会社ランキングで大きく順位を落としてしまっている。日本製鉄の幹部は、USスチールの生産性を高めるために大規模な資本注入を計画している。しかし、この買収案に対してライバルである米クリーブランド・クリフスや全米鉄鋼労組(USW)から反対の声が上がっており、政治家は羊のように従っている」 

    大統領選を前に、合併に伴う経済的利益よりも政治的思惑で反対論が横行している。

     

    (5)「それに新たに加わったのが、バイデン大統領だ。同大統領は14日、日本製鉄への売却に反対する意向を示す声明を出し、「USスチールは1世紀以上にわたって米国の象徴となってきた鉄鋼メーカーであり、国内資本に所有され、国内で操業する米国の鉄鋼メーカーであり続けることが必要不可欠だ」と述べた」 

    バイデン大統領は、大統領選を有利に運ぶために「反対」とは明確にせず、労組側を引きつける戦術を取っている。 

    (6)「世界には鉄鋼があふれているため、なぜそれが米国製でなければならないのかは明確でない。しかし、米国で製造されるとしても、そのメーカーが「国内資本に所有」されることが「必要不可欠」な理由は何なのだろうか。日本製鉄は世界4位の鉄鋼メーカーであり、同社の工場はUSスチールの老朽化した工場よりはるかに効率的だ。日本製鉄の専門技術と資本は、USスチールの事業の競争力を向上させることで、米国の経済力の向上につながるだろう。しかし、日本製鉄の買収提案に対する政治的反対は、経済的利益に関連したものではない。それは、クリーブランド・クリフス、USW、そして11月の大統領選でのブルーカラー労働者票の獲得に絡んだものだ」 

    合併反対論者は、独禁法上の制約を全く理解せずに騒いでいる。USスチールは、米国の有力な同業と合併できないのだ。

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    連合は15日、2024年春季労使交渉の第1回回答の集計結果を公表した。基本給を底上げするベースアップ(ベア)と定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ率は平均5.28%で、前年の同時点を1.48ポイントも上回った。過去の最終集計と比較すると5.66%だった1991年以来33年ぶりに5%を超えた。

     

    韓国はこうした、日本の高賃上げに対して「羨望」の眼差しを向けている。文政権では、「最低賃金の大幅引き上げ」という官製賃上げをテコに、経済成長率のかさ上げを図ったが大失敗した。最賃の引上げに応じない経営者には処罰が与えられることから、零細企業は一斉に従業員解雇策に出たのだ。これが、内需を冷やすという逆効果を招き失敗した。それだけに、日本の高賃金引上げがうらやましいようである。

     

    『東亜日報』(3月15日付)は、「日本はどうやって『所得主導成長論』の悲劇を回避できたか」と題する記事を掲載した。

     

    大企業の労使賃金交渉が真っ最中の日本経済界で、最近最も多く聞こえてくる単語は「満額回答」だ。韓国にはない漢字語だ。労組が出した賃金引き上げの要求案を、会社側が100%受け入れるという意味だ。労組の要求案を一銭も削らないので、交渉と言えることもない。大企業の賃金交渉を「春闘」と呼ぶが、「戦う」の字をつけるのがおかしいほど、平和で和気あいあいとしている。

     

    1)「史上初の日経指数4万円台の突破で、「失われた30年」の鉄の蓋を開けた日本は、今や約30年間凍りついていた王の厚い氷を破っている。主要大手企業の賃金上昇率を見れば、景気回復という言葉が足りないほどだ。日本製鉄は14.2%、神戸製鋼は12.8%、イオンは6.4%、パナソニックは5.5%。日本金属労組傘下企業の85%以上が労組の要求案をそのまま受け入れるか、むしろそれ以上に引き上げた」

     

    日本の主要製造業の85%以上が、満額回答というかってない賃上げへの理解をみせた。背後には、労働力不足という深刻な事態が迫っており、人材確保という色彩が強い。

     

    2)「日本企業の賃金引き上げは、一夜にしてなされたわけではない。2012年末に政権を握った安倍晋三元首相がその翌年、3本の矢(金融緩和、財政拡大、成長戦略)を柱にした経済政策「アベノミクス」にさかのぼる。政府と中央銀行が資金を供給して企業に投資を増やし、賃金を引き上げるよう要請した。2010年代から登場したいわゆる「官製春闘」だ。それでも、賃金引上げ率は毎年2%をなかなか越えられなかった。中小企業はさらに低かった。一度落ちたデフレ(景気低迷の中での物価下落)の沼がどれほど深いかをうかがわせた」

     

    日本企業は過去30年、満足な賃上げもしないで利益剰余金(内部留保)を貯め込んで満足してきた。それが、急激な人手不足によって目を覚まされ「高賃金」へと舵を切った背景である。さらに、人件費引上げ発表が、株価を押し上げるプラス効果のあることに気づいたのだ。

     

    3)「それにもかかわらず、日本政府は、少なくとも企業の腕を捻ることはなかった。首相が直接出て、賃金引き上げを要請したが、答えない企業を無理に圧迫はしなかった。大手と中小企業との賃金格差が広がるとして、最低賃金を10%以上無理に引き上げることも、政策方向性を無理に変えることもなかった。ただ、規制緩和を積極的に進めた。東京都心の随所の容積率や高度制限、建ぺい率などの規制を緩和し、建設景気が蘇った。自国企業はもちろん、台湾のTSMCのような企業にも数兆ウォン台の補助金を与え、日本列島全体に半導体工場への投資熱気を吹き込んだ。円安の長期化による輸出競争力の強化は、企業業績の改善へとつながった。そのように10年を粘り強くしがみつくと、株価が上がり賃金引き上げが本格化した」

     

    このパラグラフでは、表面的なことに焦点を合わせているが、労働力不足への対応が高賃金引上げを実現させた。これを実現するには、持続的な設備投資が必要である。こうして、日本経済は賃金引上げを軸とする構造改善に踏み出したのだ。

     

    4)「日本が資金を供給し規制を緩和する時、韓国は最低賃金の引き上げと大企業の規制を選んだ。2018年は16.4%、2019年は10.9%を引き上げ。所得主導成長論を根拠に、最低賃金を上げた当時、「このまま韓国の最低賃金が日本を越えてしまえば、小規模自営業者は打撃を受けるだろう」という主張は無視された。その結果、韓国は経済危機でもないのに働き口の増加幅が10万件を下回る「雇用ショック」を体験した。半導体工場の増設は、水や電気供給の許認可を決める地方自治体の規制に阻まれる。住民の苦情や地域の宿願、選挙公約などを理由に、適法な許可さえ与えない。

     

    韓国の最低賃金の大幅引上げは大失敗であった。最賃引上げが、失業者を増やすという逆効果を招いたからだ。

     

    5)「10年以上、「デフレ脱出」の政策目標に向かって走っていった日本は、ついに「30年ぶりの最大賃金引き上げ」という成績表を受け取った。近い将来「マイナス金利解除」を発表する可能性も高い。乾いたタオルが破れるまで絞り出してばかりいた日本経済の雰囲気は、このように変わりつつある。隣国はあんなふうに走っているのに、私たちは選挙を控えても「経済を立て直す」というスローガンさえなかなか目にできない」

     

    日銀のマイナス金利撤廃も目前である。日本経済が、ようやく正常化する入り口に立っている。

     

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