文政権の登場で、韓国軍の「主敵」なる言葉が削除された。韓国軍には、法的に主敵が存在しないのだ。代わって、自衛隊が「主敵」代わりにされるという、倒錯した国防意識になっている。これによって、韓国軍の緊張感が大幅に低下している。南北の軍事境界線が、北朝鮮によって簡単に飛び越えられるという異常事態を招いているのだ。
新年早々から前方の鉄柵が突破された。元旦だった1日午後、江原道(カンウォンド)東部の高城(コソン)地域を担当している陸軍第22師団最前方鉄条網が、民間人(推定)1人によって破られて北朝鮮に越えられたのだ。
『中央日報』(1月3日付)は、「越北3時間過ぎても分からなかった韓国陸軍第22師団」と題する社説を掲載した。
韓国軍当局は、越北者が非武装地帯の南側鉄条網(GOP鉄柵)を越えるとき、韓国軍の監視装備で捉えられていたがこれを見逃した。監視カメラの監視兵が、録画された内容を再生する過程で鉄柵を越える姿を確認したという。韓国軍のずさんな前方警戒が再び明らかになった。
(1)「今回の警戒に失敗した部隊の措置過程はさらに深刻だ。鉄柵越え当時、鉄柵に設置されていた科学化警戒システムの光網体系で警報が稼働し、初動措置部隊が現場に出動したという。ところが出動した部隊は鉄柵に異常がないと判断して撤収したという。毎日点検している鉄柵は小さな問題が生じても即座に把握することができる。しかも第22師団地域の鉄柵は2012年ノック亡命(注:亡命者が韓国へ入国して、民家の戸をノック)以降、2回以上鉄柵を補強している。このため越えることすら難しいが、たとえ鉄柵の上を越えたとしても毀損された跡が残るようになっている。動物などによって頻繁に起こる誤警報だと考えて見過ごしてしまった可能性がある。普段の警戒心の緩みからきた結果とみられる」
北朝鮮には、韓国との間に設けられている軍事境界線など、なきに等しい存在であろう。韓国へ「亡命」して、また北朝鮮へ「帰る」という極端なケースまで発生している。こういうケースが、文政権になって激増している。韓国軍は、北朝鮮のご機嫌取りに汲汲としている文政権を見れば、真面目に職務を敢行しようという気持ちも失せるのであろう。
(2)「軍の警戒の失敗は一回や二回ではない。今回突破された第22師団は2012年ノック亡命から始まり、2020年11月柵越え亡命、昨年2月にはフィンを使った水泳亡命など、毎年潜入が発生している地域だ。相次ぐ警戒の失敗で第22師団長をはじめ多くの指揮官が職務解任された。そのような敏感な地域にもかかわらず警戒にまた失敗した。いったい精神をどこに置いているのかと非常に心配になる。しかも越北者が監視装置に捉えられた後、3時間以上も分からずにいたという。そもそも警戒勤務にあたっていたのだろうか」
文政権になってからの軍事境界線を突破された事件では、船で韓国領へ入りこみ、民家の電話を借りたという噓のような本当の話しまである。これが、「ノック亡命」事件である。韓国は、陸軍だけでなく海軍まで,北朝鮮への警戒感が薄れている。北朝鮮軍が、この機に乗じて軍事境界線を突破しようとすれば簡単に実現しそうな雰囲気である。韓国軍の警戒心が緩み、北朝鮮軍から自衛隊へ代わっている。この裏には、文政権の「反日」が大きな影を落としている。
(3)「文在寅(ムン・ジェイン)政府で警戒の失敗が大きくなった。過去2年間、前後方を含めてこのような警戒の失敗は11回に及ぶ。三陟(サムチョク)港で「海上版」ノック亡命をはじめ、鎮海(チンヘ)や済州(チェジュ)海軍基地への侵入、首都防衛司令部防空部隊への侵犯、泰安(テアン)地域への中国人密入国などが代表的だ。文字通り深刻な水準だ。過去のどの時期にも前後方の境界線が今回の政府ほど繰り返し突破されたことはなかった」
北朝鮮は、経済破綻にもかかわらずに核開発を続けている。韓国軍は、そういう不穏な北朝鮮軍へ心理的に無防備状況である。これだけ見ても、文政権が北朝鮮へどれだけ強い思い入れがあるか分るであろう。
(4)「警戒の失敗原因は、韓国軍が敵のいない軍隊になっているためだ。韓国政府の南北関係改善や終戦宣言の推進などに便乗し、北朝鮮軍を敵と思わなくなっている。弱り目にたたり目で、軍が政治に振り回されて軍人事に対する外部介入がひどくなった。軍幹部は政界を意識して強い訓練や軍規の確立よりも責任の負担が少ない安全中心に運営しているのが現実だ。しかし、軍隊が本分を忘れれば安保が危うくなる。その最大の被害者は国民だ。強い軍隊に生まれ変わることを願う」
下線部は、国防上において重大な目標喪失に陥っている。韓国軍の存立基盤は、対北朝鮮防衛である。そのよって立つ精神性が剥がされてしまったのだ。これに代わって、自衛隊を仮想敵にしている。この狂った意識をどのように正常化させるのか。日本は、2018年12月に起こった韓国艦艇による海上自衛隊機へのレーダー照射事件が、韓国軍への信頼感を根底から打ち崩した。韓国軍は、自衛隊にとって友軍でなく、「敵軍」になっている。レーダー照射は、ロケットによる撃墜意思表示であり、敵国機扱いした証拠である。こういう経緯から、自衛隊は韓国軍との共同演習を避けている。自衛隊は、米英豪印や独仏の軍隊のほうにはるかに強い「親和性」を感じている。