北朝鮮は、これまでの例であれば米新政権の発足後に派手な徴発行為を行なってきた。今回は、なぜか抑制気味である。北朝鮮国内で、何か過去にない「異常事態」が持ち上がっていることを覗わせる。実は、瀕死の事態が起こっているのだ。
ロシア国営RIAノーボスチ通信が21日(現地時間)報じたところでは、北朝鮮の新型コロナウイルス感染症検疫のため、最後まで北朝鮮に残っていた人道国際機関職員が撤収した。
ロシア外務省の国際機関局長ピョートル・イリイチョフ氏が、RIAノーボスチ通信とのインタビューで、次のように語っている。『中央日報』(4月22日付)から引用。
「北朝鮮の国境閉鎖により、人道主義的国際機関は、職員を交替させる能力を失い、人道的支援物資の供給も遮断された。昨年8月以降、北朝鮮はたった1つのコンテナも受け取ることができなかった。物資が途絶えたことから倉庫が空になり、燃料供給も中断されて人道主義的機関の期待効果が実質的に無効化された」。燃料不足で、援助した食糧を食べることもできないという意味だろう。
『中央日報』(4月23日付)は、「見たところ普通だが危ない北朝鮮、3つのドミノ」と題するコラムを掲載した。筆者は、ジョン・エバラード元平壌駐在英国大使である。
(1)「北朝鮮専門家たちは、4月7~8日の北朝鮮労働党第6次セポ秘書大会での金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の演説に非常に驚いた。執権後初めての公式演説で「もう二度と1990年代の苦難の行軍に戻らない」と約束した彼が、今回は「苦難の行軍を決心した」と明らかにしたからだ。正恩氏は現状況を「極難の状態」と表現して「理念的結束」の強化を促した。演説内容と語調から推察すると、北朝鮮首脳部は食糧不足などの経済問題と新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)、北朝鮮の理念的結束の弛緩を懸念していることが明らかだった」
北朝鮮は、次の3つの危機に直面している。
1)食糧不足などの経済問題
2)新型コロナウイルス感染症
3)理念的結束の弛緩
前記のうち1)と2)はこれまでも報じられてきた。3)の理念的結束の弛緩は、チュチェ思想という北朝鮮の民族思想が揺らぐ事態が起こっていると指摘している。まさしく、建国思想の揺らぎであり、北朝鮮最大の危機である。文政権はチュチェ思想を信じているが、北朝鮮民衆は貧困ゆえに「花より団子」を欲しがっている事態に直面している。
(2)「今月14日、ロシア大使のタス通信インタビューによると、現在北朝鮮は1990年代末の状況ほどは厳しくはない。しかし深刻な問題がある。ロシア大使館によると、北朝鮮は医薬品をほぼ手に入れることはできず、肥料工場団地は運営中断状態にあるようだ。公式・非公式貿易は大幅に減り、海外北朝鮮労働者の送金額も急激に減少した」
北朝鮮は、経済制裁によって医薬品が手に入らない状態である。貿易も闇貿易も含めて大幅に減っている。
(3)「北朝鮮に肥料がないなら、今年の収穫量は深刻で、これは飢謹につながるおそれがある。北朝鮮は新型コロナの拡大を極度に警戒している。ロシア大使の発言によると、歩道まで殺菌している。現在では北朝鮮の徹底した孤立戦略がコロナ拡大を防いでいるようだ。しかしウイルスが流入する場合、とりわけそれが変種株なら、北朝鮮の貧弱な医療体系ではほぼ耐えることができないほどのスピードで拡大する可能性がある。北朝鮮のワクチン確保も順調でない」
肥料不足で食糧生産が細っている。一方で、歩道まで殺菌するという異常事態だ。医薬品不足で、コロナ感染を極度に恐れている結果だ。ワクチン確保も困難を極めている。文政権は、こういう事態を見て支援を訴えているが、北は肝心の核にしがみついている。
以上は、1)と2)の問題である。次が、3)の理念的結束の弛緩である。
(4)「秘書大会で最も驚いた事実は北朝鮮当局が理念的結束の弛緩を懸念している点だった。初めてのことだ。どの国の政府でも党員の忠誠心弱化は心配するべき問題だが、北朝鮮は理念で固く団結しているだけに理念体系にひびが入れば手の施しようがなくなる。北朝鮮外部からはその程度について推し量ることはできないが、正恩氏が直接この問題に言及したという事実が状況の深刻性を暗示している」
正恩氏が直接、理念の結束が弛緩していると言及した事実が、状況の深刻性を浮き彫りにしている。
(5)「北朝鮮の経済、新型コロナ状況、理念的結束問題は相互依存的だ。例えば、ウイルス拡大問題を解決するには、経済的安定と忠誠にあふれた正直な幹部が必要だ。経済が崩壊すれば1990年代のように食料を手に入れようとする人民の移動を統制できなくなり、ワクチンプログラムを管理することも不可能になる。理念的結束が弱まった幹部は、自分の家族のためにワクチンを盗んだり売ったりする可能性も出てくる。腐敗は、すでに北朝鮮で大きな問題で、理念的結束の崩壊は状況を悪化させるだけだろう」
北朝鮮は、貧困とコロナ禍が重なって、極度の緊張状態に陥っている。こうなると当然、北朝鮮労働党の理念的結束が揺らぐ事態を招く。
(6)「3つのうちどれか1つでも大きくなれば、一瞬で北朝鮮政権を混乱に陥れることができる。問題が1つでも大きくなれば他の2つもドミノ倒しのように連鎖して問題が大きくなる。外から見る分には普通のようだが、内部は足元がおぼつかない北朝鮮の現状況が、突然、あるいはたった数週間のうちに悪化する可能性を認知しなければならない。災難は予告なしに近づいてくるものだ。中国は北朝鮮が中国に妥当な態度を取る時だけ支援するという立場を北朝鮮に知らせた。もう唇亡歯寒(お互いに助け合う)の関係ではなく取引外交の関係だ」
前記3つのドミノのうち一つでも倒れれば、北朝鮮は「終わり」になる。中国は、北朝鮮を犠牲にして、米国と取引に出るかもしれない。想定外の事態が起こっても不思議はない。
(7)「筆者は、以前も北朝鮮の突然の変化の危険について何回も言及してきた。危険はますます大きくなっている。正恩氏が現状況を率直に認めている以上、われわれ皆が北朝鮮の状況を注目しなければならない」
北朝鮮危機が、雪だるま式に膨らんでいる。最大の警戒感を持つべきである。