勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ: 欧州経済

    サンシュコ
       


    習近平氏にとって逆風が吹き付けている。欧州では、中国政府による新疆ウイグル族への弾圧を「大虐殺」と定義づけているからだ。2月4日の北京冬季五輪は、厳重な新型コロナウイルス感染予防戦術下で開催されるが、各国の首脳出席の情報は消えたまま。スポーツ祭典のムードは全く聞えてこない。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月24日付)は、「欧州『ウイグル』大量虐殺、決議相次ぐ 台湾接近も」と題する記事を掲載した。

     

    欧州各国の議会で、中国の新疆ウイグル自治区での人権弾圧が「ジェノサイド(民族大量虐殺)」だと認定する決議が相次いでいる。フランス国民議会(下院)も20日の決議で中国に厳しい対応をとるよう政府に求めた。

     


    (1)「仏下院は1月20日、賛成多数でウイグル自治区の人権弾圧を非難する決議を採択した。「ウイグル族社会を破壊する意思が多くの文書で明らかになっている。中国政府が計画した組織だった暴力であり、ジェノサイドに該当する」と指摘する。野党中道左派の社会党が提出した決議案だが、マクロン大統領が率いる与党共和国前進の議員も賛成した。元内相で与党下院代表のカスタネール議員も賛成票を投じており、2月の北京冬季五輪まで間もなくというタイミングながらマクロン氏も採択を容認したもようだ」

     

    「ジェノサイド」とは、ナチスのユダヤ民族虐殺をもたらした人類への犯罪である。習近平氏は、この大事件を自ら指揮した証拠が暴露されている。平和の祭典「北京冬季五輪」の趣旨と全く相反する行為だ。米英豪カナダなどが、「外交的ボイコット」するのは当然であろう。日本は、表現を変えたがこの動きに同調した。だが、EU(欧州連合)では、首脳の出席の可否が明らかにされていない。

     


    (2)「マクロン氏は19日、仏東部ストラスブールの欧州議会でウイグル問題について問われ「欧州は強制労働によってできた物品の輸入を禁止しなければならない」と演説した。イスラム教徒が多いウイグル族の人権問題は多くの同教徒が住むフランスで関心が高い。4月の大統領選挙まで3ヵ月を切ったが、与党は決議が世論から支持されると読んでいる。似た決議は2021年以降欧州で相次いでいる。英下院は同年4月、超党派の賛成多数で「少数民族が人道に対する犯罪とジェノサイドに苦しんでいる」などとの決議を認定した。ベルギーとオランダの議会も同年に似た決議を採択した。いずれも政府に解決に向けた行動を促すなどの中身だ」

     

    英仏の議会が、中国政府を「ジェノサイド」として非難したが、ドイツは音無しである。ナチスの犯罪を引き起した国だけに、率先して意思表示すべきだが、中国への輸出依存度の高さで躊躇しているのであろう。

     


    (3)「ウイグルの人権弾圧を裏付ける証拠が相次いで明らかになったことに加え、新型コロナウイルスへの対応、香港の民主化運動弾圧などで中国への不信感が欧州で高まっているのが理由だ。経済的な利益が大きいとみて欧州は中国との関係を深めてきたが、風向きは変わっている。批判は議会レベルが中心だ。決議は拘束力がなく、象徴的な意味合いが強い。英独仏など主要国政府はジェノサイドの認定に慎重で、中国との決定的な関係悪化を避けている。フランスは気候変動問題で世界をけん引したいと考えており、世界2位の経済大国である中国の協力は欠かせない。ドイツは自動車産業などの対中輸出への経済依存度が大きい」

     

    ドイツについては、芳しくない情報が出て来た。次のパラグラフで取り上げる中国とリトアニアの台湾をめぐる紛争で、ドイツは中国側について、リトアニアへ圧力を加えているというのだ。

     


    「(ドイツ首相)ショルツ氏は、年間1500億ドル(約17兆円)に上るドイツの対中輸出を何としても維持する意向を固めているようにみえる。このことは先ごろ、台湾の代表機関を開設したことで中国との貿易戦争に苦しめられているリトアニアに対する姿勢で明らかになった。ドイツ産業界は、民主的な隣国を支援するのではなく、リトアニアに対して中国の要求を受け入れなければリトアニアへのドイツの投資が停止されると警告した」(『ウォールストリートジャーナル』1月24日付寄稿「ドイツは信頼できる米同盟国ではない」筆者のトム・ローガン氏は、米ニュースサイト・週刊誌『ワシントン・エグザミナー』の国家安全保障担当ライターである。

     

    この寄稿によれば、ドイツ新政府はリトアニアへ圧力をかけるという恥ずべき行動に手を貸していることになる。ドイツの誠意を信じている者には失望させられる。

     


    (4)「東欧では、中国の圧力を受ける台湾と接近する動きがある。リトアニアでは21年11月、国内に台湾の事実上の大使館となる代表機関ができた。同国政府は欧州に置く代表機関としては初めて「台北」ではなく「台湾」の表記の採用を認め、中国政府の猛反発を招いた。台湾はリトアニアへの支持を示すため、同国への投資を目的に2億ドル(約230億円)の基金をつくると発表した。スロベニアのヤンシャ首相は17日、同じく台湾代表機関の国内設置を認める検討をしているとメディア取材に明らかにした。中国の反発を「恐ろしく、ばかげている」と批判し、台湾との貿易関係強化に意欲を示した」

     

    フランス外相は、リトアニア問題で中国へ対抗措置をとると明言している。EU加盟国への理不尽な扱いは、EU全体への挑戦であるとしている。ドイツよりも正論に立っているのだ。

     

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    中国が、「戦狼外交」で威張り散らしている間に、EUの対中国観は一変した。EUの大国・ドイツは、これまでメルケル首相の「親中政策」でEUを牽引してきた。そのメルケル氏の退任で,中国を応援する国はなくなった。

     

    EUは、代わって台湾へ熱い眼差しを向けている。台湾は、半導体生産で世界トップを行く。民主政治でありながら、中国から軍事的に威嚇されている。こういう台湾に対して、EUは「中国より台湾」というムードが高まってきたのだ。中国にとっては、思っても見なかった事態が展開している。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(11月17日付)は、「中国の怒りを買おうとも EUの台湾への急接近は 経済的にも合理的な判断だ」と題する記事を掲載した。

     

    去る11月3日、欧州議会の公式代表団が史上初めて台湾に足を踏み入れた。欧州議会の「外国の干渉に関する特別委員会」の面々は台湾に3日間滞在し、総統の蔡英文(ツァイ・インウェン)や行政院長(首相)の蘇貞昌(スー・チェンチャン)、立法府(立法院)を代表する游錫堃(ヨウ・シークン)らとの協議に臨んだ。

     


    (1)「10月末にも、やはり史上初めて台湾外交部長(外相)の呉釗燮(ウー・チャオシエ)がブリュッセルで、9カ国を代表する欧州議会議員や複数のEU本部当局者(個人名や肩書は公表されていない)と「非政治的レベル」の協議をしている。こうした相互訪問は前例のないもので、欧州の台湾政策における大きな変化を示唆している。これまで欧州議会や加盟国の一部が主張してきた路線を、欧州委員会や(加盟国全体の外交政策などを調整する)欧州対外行動庁も支持するようになってきた」

     

    EUと台湾の交流が、軌道に乗り始めた。経済面での協力関係がスタートする。EUと中国の包括的投資協定の批准が棚上げされる一方で、EUと台湾の投資問題が取り上げられる雰囲気になっている。

     

    (2)「その背景には、民主主義の友邦である台湾を支えるためなら政治的にも経済的にも投資を惜しまないという欧州側の意思がある。それは経済的な利益にもなり、台湾海峡の現状を守り平和を保つことにも役立つ。台湾にも欧州にも攻撃的な姿勢を強める中国に対し、ひるまず剛速球を投げ返す姿勢だ。10月には欧州議会が、台湾との関係を強化し「包括的かつ強化されたパートナーシップ」の確立を求める決議を採択している。そこにはEUと台湾の投資協定や、各種の国際機関で台湾が果たす役割を強化することへの支持、科学や文化、人材面での交流の拡大、メディア・医療・ハイテクなどの分野での協力推進などが含まれる

     

    中国が、EUと台湾と対立している間に、これら両者は幅広い協定を結ぼうとしている。中国は、威張り散らしている間に、果実を台湾にとられてしまった感じだ。

     


    (3)「さらに注目すべきは、長年にわたり中国政府の怒りを買うことを懸念して台湾との関係強化に消極的だった欧州委員会や欧州対外行動庁が、この決議に賛同したことだ。外相に当たる外交安全保障上級代表のジョセップ・ボレルもマルグレーテ・ベステア上級副委員長(競争政策担当)も支持に回った。これは欧州議会における親台勢力、とりわけドイツ選出のラインハルト・ビュティコファー議員らにとって目覚ましい勝利だ。中国政府は激しく反発するだろうが、彼らの提案は伝統的な「一つの中国」政策の枠組みを全く崩していない。台湾の独立を支持しているわけではなく、むしろ台湾海峡の現状の維持を唱えている」

     

    欧州でいう「一つの中国」は、本土と台湾の「共存」である。本土が台湾を威嚇することは、「一つの中国」の精神に反するという見方だ。欧州は、この見解に立って台湾海峡の現状維持に務めなければならない、という論理の展開をする。中国は見事に一本、EUにとられた感じだ。

     

    (4)「欧州議会の採択した決議の内容は全て、従来の「一つの中国」政策の範囲内に収まる。要は今までの解釈が狭すぎただけだ。ビュティコファー議員は2020年9月に同僚議員や有識者と連名で発表した寄稿で、欧州が「一つの中国」を支持すべき理由をこう述べている。今は中国政府が「新たな台湾政策を通じて、現状の維持を極めて危うくしている」が、だからこそ「欧州諸国は従来の台湾政策を変え、(台湾海峡の)現状維持に努めなければならない」と。ビュティコファーらに言わせると、台湾はこの数十年で「開かれた複数政党制の統治形態へと進化し、個人の尊厳を重んじる」民主主義の友邦となった。だから欧州の支持・支援を得るに値する」

     

    EUは、台湾が民主主義の友邦であるという認識である。中国にとっては,痛いところだ。今回の中国「歴史決議」では、中国が欧米民主主義を採用しないと宣言している。これでは、EUと台湾の密着を非難する根拠がなく、自ら漂流する道を選んだに等しい。

     

    (5)「実は経済的な理由もある。台湾の人口は2400万、市場として小さくはない。それにハイテク産業の基盤があるから、協力すれば経済的にも科学的にも双方に利がある。いい例が台湾積体電路製造(TSMC)だ。この会社は半導体の世界生産の半分以上を占めている。だからこそEU幹部のボレルもベステアも、台湾は「欧州半導体法の目標達成にとって重要なパートナー」だと言っている。この法律は半導体の設計から製造に至る全過程(バリューチェーン)で欧州勢のシェア拡大を目指している」

     

    EUにとって台湾の存在は、半導体製造において願ったり叶ったりである。台湾は、EUにとって半導体の重要パートナーになる。

     

    (6)「皮肉なもので、欧州の台湾接近を主張するビュティコファー議員に共鳴する仲間が増えたのは、中国政府のおかげでもある。中国のこれまでにない攻撃的な姿勢こそが、欧州各国にビュティコファー議員の望むアプローチを支持させた最大の要因だ。例えば中国が香港における「法の支配」を踏みにじったこと。あれを見れば、台湾に「一国二制度」が適用されるとは思えなくなる。今では多くの政治家が、こう考えている。もしも台湾海峡の現状を変えるために武力を行使すれば欧州との政治的・経済的な関係は壊滅的な打撃を受けるぞ、と中国に警告し、軽率な行動を慎むようクギを刺す必要がある、と。一方で最近の中国政府は欧州に対し、これまでになく敵対的な姿勢を見せている。こうなるとEUとしても台湾支援を急がざるを得ない

     

    EUの中には、中国に対して台湾海峡の現状変更に反対する旨を警告すべき、という議論を生んでいる。下線部は、従来見られなかったEUの姿勢である。

     

    (7)「この先に必要なのは、欧州議会の決議を支持するよう加盟各国に働き掛けること。そして仮に中国が台湾に攻撃を仕掛けた場合には団結して強力に対応する用意があると表明することだ。既に中東欧の一部加盟国は台湾政策を大きく転換している。この動きに、欧州の諸大国も続くべきだ。中国寄りだったアンゲラ・メルケル首相が去り、新たな枠組みの連立政権が誕生するドイツには、主導的な役割を果たすチャンスがある。連立協議中の3党は全て、台湾との関係拡大を公約している

     

    ドイツの次期政権を担う3党は、台湾との関係強化を公約している。ドイツの「親台姿勢」は、中国にとってショックであろう。

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    世間では、ガソリンエンジン(内燃機関)からEV(電気自動車)へ転換すれば、それで「脱炭素」が実現すると誤解している。EVを動かす電源が、火力発電依存では意味がないのだ。中国は今、EV先進国を目指して「脱炭素」でも先進国のような振る舞いをしているが真実でない。中国の電源構成では63%(2020年)が石炭である。この石炭からつくった電気で動かすEVでは、空気を浄化しないのだ。

     

    自然エネルギーへの依存度の高い国では、EVによって脱炭素が進む。スウェーデンのように自然エネルギー69%(2020年)の国ではEV効果が顕著である。こういう国では,EVの価値は上がる。

     


    『ロイター』(11月13日付)は、「意外と低いEVのCO2削減率、電源構成で大きな差」と題する記事を掲載した。

     

    電気自動車(EV)は地球温暖化と戦うための強力な武器だ。しかし、EVが温室効果ガスの排出量を減らす効果には国ごとに大きなばらつきがあり、ガソリン車よりも排出量が多い場合もあることがデータ分析で明らかになった。

     

    (1)「欧州では、EVの販売が世界で最も急速に増えている。だが、調査会社レイディアント・エナジー・グループ(REG)がまとめたデータによると、ポーランドやコソボでは発電システムが石炭に依存しているため、実際の排出量はEVの方が多い。欧州の他の国ではEVが効果を上げているが、削減量は電源構成や充電のタイミングに左右される」

     

    EV宣伝では、脱炭素の切り札のような説明をしているが、その国の電源しだいである。全ての国に当てはまる話でない。

     

    (2)「ガソリン車に対するEVの二酸化炭素(CO2)排出量削減率が最も高いのは、電力を原発と水力で賄っているスイスの100%で、以下ノルウェー(98%)、フランス(96%)、スウェーデン(95%)、オーストリア(93%)となっている。一方、削減率が低いのはキプロス(4%)、セルビア(15%)、エストニア(35%)、オランダ(37%)など。欧州最大の自動車生産国であるドイツは、電力を再生可能エネルギーと石炭の両方に頼っており、削減率は55%だ」

     

    欧州諸国が、EVに熱心であるのは高い自然エネルギーへ依存という事情による。そうでなければガソリン車もEVも大差はなくなる。

     


    (3)「REGの調査は、今年1月1日から10月15日までのデータに基づいている。米EV大手テスラの「モデル3」と同等電費のEVと平均的なガソリン車について、それぞれ100キロ走行するのに必要な電力とガソリンによるCO2排出量を比べた。ドイツやスペインなどは、太陽光と風力に多額の投資を行っている。ところが、再生可能エネルギーの貯蔵設備が不足しているため、EVによる排出量削減率は1日のうち、いつ充電するかで大きく変わる」

     

    太陽光や風力という再生可能エネルギーでは、バッテリーが不足しているのでいつ充電するか,その時間帯によってCO2排出量削減率が異なるという。

     

    (4)「英北部グラスゴーで開催の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で10日に行われる運輸協議を前に、欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)と欧州環境機関(EEA)が公表したデータによると、太陽光と風力が潤沢な午後に充電すれば、天然ガスや石炭を燃料に発電することが多い夜間よりも削減効果が16-18%高まる。このデータによると、自動車産業が排出量を削減できるかどうかは、電力の脱炭素化と再生可能エネルギー貯蔵方法の改善にかかっている。欧州の多くの国はまだ、この課題を克服できていない。リチウムイオン電池がフル充電の状態を維持できるのは4時間程度に過ぎず、昼間に太陽光や風力で大量の電力を生み出している国でも、夜間の充電のためにこうした電力を確保するのは難しい」

     

    下線部のように、太陽光と風力が潤沢な午後に充電すれば、夜間よりもCO2削減率が16から18%高まるという。こうなると、充電時間によってCO2削減率が異なる訳で、単純に「EV万歳」とは行かない。

     


    (5)「自動車メーカーがエンジンの燃費向上に取り組んだため、EVとガソリン車の排出量の差は近年、縮まっている。EEAのデータによると、欧州で新規登録されたガソリン車の炭素強度(一定の国内総生産を創出するために必要なCO2排出量)は、2006年から16年の間に平均25%減少した」

     

    この点を強調しているのが、日本の自動車メーカーである。

     

    『ブルームバーグ』(11月13日付)は、「トヨタら国内自動車・二輪5社、脱炭素燃料や水素エンジンで連携」と題する記事を掲載した。

     

    トヨタ自動車など国内自動車・二輪メーカー5社は11月13日、温室効果ガス排出の実質ゼロ(カーボンニュートラル)実現に向け、内燃機関を活用した燃料の選択肢を広げる取り組みを共同で発表した。

     

    (6)「発表資料によると、トヨタとSUBARU(スバル)はバイオマス由来の合成燃料、マツダは使用済み食用油などを原料としたバイオディーゼル燃料を搭載した車両でレースに参戦する。また、川崎重工業ヤマハ発動は二輪車向けの水素エンジンの共同研究の可能性について検討を開始。今後はホンダとスズキも加えた4社で二輪車の分野で内燃機関を活用したカーボンニュートラル実現への可能性を探っていく予定だという」

     

    日本の自動車メーカーは、内燃機関を活用したカーボンニュートラルを実現する。実は、雇用確保という大きな目的がある。内燃機関がEVに変わると部品点数は3分の1程度に減る。これを避けるには、内燃機関の可能性を120%追求する姿勢が求められる。

     


    (7)「トヨタの豊田章男社長は記者会見で、「敵は炭素であり、内燃機関ではない」と強調。「一つの選択肢に絞るのではなく、いろんな今まで培ってきた技術をベースにした内燃機関もカーボンニュートラルに生き残り、発展させる方法があるのではないか」と続けた。豊田氏は自動車工業会の会長としての立場から、カーボンニュートラル達成のためにはあらゆる選択肢を残しておくべきだと主張してきた。こういった考えから、トヨタは電気自動車(EV)だけでなく、ハイブリッド車や水素と酸素で発電して動力を得る燃料電池車(FCV)なども開発を進める全方位戦略を掲げており、EV重視の欧米勢との違いが鮮明になっている」

     

    このパラグラフは、時流に流されず内燃機関の可能性を追及する実態が浮き彫りになっている。EV重視の欧米勢と異なり、日本は、あくまでも独自の技術を求める。

    ムシトリナデシコ
       

    中国は、強国と発展途上国の二枚看板で利益を上げてきた。他国を威圧するときは、「強国」ぶりを演じる。中国製品の輸出では「発展途上国」の振りをして特恵関税優遇を求めてきたのだ。GDPでは2010年、世界2位になった。それにもかかわらず、利益になると見れば、敢えて「発展途上国」として振る舞い、特恵関税扱いで優遇されてきた。利益になれば、こういう卑屈な行為をしても恥と思わない。日本人の「恥を知る文化」では、理解をはるかに超えている。

     

    『中央日報』(11月3日付)は、「中国『これ以上開発途上国ではない』、EUなど32カ国が特恵関税なくす」と題する記事を掲載した。

     

    欧州連合(EU)、英国、カナダなど32カ国が、12月から中国を開発途上国と認めて付与していた一般特恵関税制度(GSP)を廃止する。中国はすでに2014年にスイス、2019年に日本、今年10月12日にはユーラシア経済連合(EEU)のロシア、カザフスタン、ジョージアからGSPが中断されている。これに伴い、世界最大の開発途上国を自任してきた中国政府の貿易戦略に修正は避けられなくなった。また、中国内の低賃金労働集約的輸出企業の海外移転も速まりそうだ。



    (1)「中国海関総署(関税庁)は先週、EU27カ国と英国、カナダ、トルコ、ウクライナ、リヒテンシュタインなどに輸出する製品にこれ以上「一般特恵関税制度」の適用に向けた原産地証明を添付する必要はないという内容を告知した。海関総署によると、一般特恵関税制度は先進国が開発途上国の輸出品と半製品に付与した普遍的かつ非差別的で非互恵的な関税優遇制度だ。1978年の制度導入から40カ国が中国にGSPの恩恵を付与してきた。今回の32カ国の撤廃により中国に特恵関税を与えている国はノルウェー、ニュージーランド、オーストラリアだけとなった」

     

    中国はWTO(世界貿易機関)に加盟以来、20年間も発展途上国として特恵関税扱いを受けていた。よくぞ、こういう現実に合わないことを認めてきたと驚く。中国は、2013年から一帯一路プロイジェクトを提唱したほか、AIIB(アジアインフラ投資銀行)を2013年に提唱し、2016年1月から営業開始した。こういう中国の行動から見て、発展途上国であるはずがない。それを、世界は見て見ぬ振りをしていたのだ。驚くほど鈍感である。

     


    (2)「海関総署は中国経済が急速に発展し、国民の生活水準が高まっていることから、世界銀行基準でこれ以上は低所得や中低所得経済(1人当たりGDP4045ドル未満)ではないと明らかにした。また「中国がさまざまな国からGSPの恩恵を『卒業』したことは中国の製品が国際市場で一定の競争力を備えたことを証明するもの」とし、「卒業」はある種の「成熟」を意味するものと説明した」

     

    このパラグラフを読むと、中国の「居直り」を感じる。率直に言って、不愉快な感じを与える。ここでは「強国」ぶりを演じているのだ。20年間も、低い関税で優遇されたことに「感謝」を述べるべきだろう。

     

    (3)「EUが、中国にGSPの対象から除外したのは、中国の開発途上国としての主張をこれ以上は認めないという意味と解釈される。実際にEU統計局の資料によると、昨年中国は米国を抜きEUにとって最大の貿易相手国となった。上半期のEUの対中輸入額は2010億ユーロで前年同期比15.5%増加した。EUの対中輸出も1126億ユーロで20.2%増加した。カナダ・ヨーク大学の沈栄欽教授は1日、「すでに中等輸入国である中国はGSPで平均6%の関税恩恵を受けてきた」と話した」

     

    下線部のように、中国は平均6%の関税恩恵を受けてきた。しかも、20年間である。この利益分は、軍拡費用に回されて隣国を圧迫してきたとも言える。これほど、「お人好し」話はあるまい。中国から脅迫される「原資」をつくって、中国へ提供してきたと言えるのだ。



    (4)「今回のGSP廃止による影響は、中国の輸出企業が受けることになりそうだ。台湾の中華経済金融協会の曽志超副秘書長は「最大の衝撃は利潤がとても少ない紡織業など労働集約産業。今回の関税調整後に低利潤・低技術・労働集約産業の海外移転がさらに早まる見通しだ」とラジオ・フリー・アジア(RFA)に話した。特恵関税の廃止で李克強首相の努力が水の泡となったとの指摘も出ている。李克強首相は昨年の両会閉幕記者会見で「中国は人口が多い開発途上国。1人当たり年間可処分所得は3万元(約53万円)だが6億人の中下層の平均月収入は1000元(約1万7785円)前後」と話した」

     

    中国は、関税面で発展途上国扱いが中止される。これで低収益産業は、海外移転を余儀なくされると見られる。6億人の中下層の平均月収入は、1000元(約1万7785円)前後である。この層の人たちの雇用が失われると思えば、胸が痛むことも事実だ。ただ、「共同富裕論」による所得再分配政策で救済すべき問題である。習氏が、軍拡費用を削って税制面で再分配を行うことだ。関税面の優遇策で、軍拡費用を捻出してきたこと自体、間違っている。 

     

     

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    台湾が9月22日、TPP(環太平洋経済連携協定)へ正式な加盟申込みを行った。中国は、例によって猛反発している。理由は、中国大陸と台湾は1つの国に属するという「一つの中国論」である。この結果、中国外務省の趙立堅副報道局長は9月23日、台湾のTPPへの加入申請について「あらゆる公的な協定や組織への加入に断固反対する」と表明した。

     

    中国が、金科玉条にする「一つの中国論」には、綻びが始まっている。前述の「あらゆる公的な協定や組織への加入に断固反対する」という中国の姿勢が、台湾をWHO(世界保健機関)からも排除している理由だ。台湾には、2360万人(2020年)が、日々の自由で民主的な生活を営んでいる。中国大陸の人権弾圧政府の習政権と比較して、はるかに高等な政治体制下にあるのだ。

     


    人権弾圧の習政権が、
    「一つの中国論」という過去の約束事を盾にとって、民主的な台湾政治に干渉することは許されない。こういう見方が現在、EU(欧州連合)に高まっている。台湾再評価による国際政治の流れが変って来つつあることに注目すべきである。東欧のリトアニアは、台湾との外交復活をめぐって中国と対立している。リトアニアは、中国の圧力に怯まずに計画通りに当初方針を進めている。「一つの中国論」は、形骸化しているのだ。

     

    『大紀元』(9月22日付)は、「米英豪やEU、台湾めぐる言及増加 『インド太平洋で重要な役割』」と題する記事を掲載した。

     

    台湾は米英豪の新枠組み「AUKUS」を歓迎し、今後も米国および欧州連合(EU)との外交関係を深めていくことを望んでいると表明した。この数か月で、3カ国やEUが台湾の安全保障や貿易についての言及が増えている。

     


    (1)「米英豪は15日、インド太平洋の安定に向けた新たな安全保障の枠組みを発表。急速に軍事力を拡大する中国を念頭に、米英が豪の原子力潜水艦導入を支援すると表明した。豪は、原子力潜水艦には通常兵器のみを搭載し、核兵器はないとしている。AUKUSの誕生について、台湾外務報道官は、台湾は長らく3カ国とインド太平洋地域の平和と安定に関する価値観を共有していると強調した」

     

    米英豪が、「AUKUS」(オーカス)を結成して、豪海軍に原子力潜水艦建艦技術を供与することになった。これは、中国にとって最大の軍事的な打撃になる。豪州海軍は、10年間で8隻の原潜を建艦し南シナ海の深海に潜ませるのだ。中国が、台湾侵攻を始めたらすぐに軍事対応するという布陣である。日米豪印の「クアッド」4ヶ国が、共同作戦に参加するであろう。中国にとっては、不利な条件が生まれてきた。

     

    (2)「台湾民進党の王定宇議員は、ラジオ・フリー・アジア(RFA)に対して、AUKUSの動きは南シナ海における中国の軍事拡張を封じ込めや、台湾への武力侵攻といった脅威を想定しているだろうと語った。米国務省で開催された米豪外務・防衛閣僚協議(米豪2プラス2)では、両政府は、インド太平洋地域における台湾の重要な役割を強調し、国際機関への参加を支持すると述べた」

     

    台湾防衛で、周辺国が台湾当事国を含めずに議論するのは、台湾が地政学上において重要な意味を持つからだ。つまり、民主主義国家の安保体制に重要な影響を与えるのである。それゆえ、「台湾防衛の勝手連」という存在になっている。

     

    (3)「EUが4月に発表したインド太平洋地域戦略文書では、EUがインド太平洋地域のパートナーと協力して貿易関係の強化と多様化を図り、半導体のサプライチェーン強化策として日本と韓国、台湾と協力していくと記している。欧州議会外交委員会は9月1日、EUで初となる台湾との政治関係に関する報告書を圧倒的多数(全70票のうち60票賛成)で採択。投資協定や、台湾にあるEU代表事務所に「台湾」の名前をつけることなどを推奨した。この文書には、中国による台湾への圧力について批判する文言も加えている」

     

    下線部は、重要な報告書である。台湾との投資協定や、台湾にあるEU代表事務所に「台湾」の名前をつけることなどを推奨している。これまで、中国に対して「一つの中国論」に縛られて身動きできずにきた。今後は、これに縛られず自由に台湾と交流するとしている。このEU議会外交委員会の報告書は、「中国敗北・台湾勝利」を決定的にしている。時代は、大きく変わろうとしているのだ。

     


    (4)「EUはさらに、中国の「著しい軍備拡大」と「軍事力の誇示」、そして南シナ海や東シナ海、台湾海峡などの緊張の高まりは、欧州の安全と繁栄に直接的な影響を及ぼす恐れがあると指摘した。安全保障において、EUは海賊対策と航行の自由を守るために、多国間演習やインド太平洋のパートナーとの共同演習や寄港を増やし、この地域における海軍外交を強化していくとした」

     

    このパラグラフは、NATO(北大西洋条約機構)が将来、アジア諸国と軍事連携する可能性を示唆している。中国の横暴は、世界が纏まって止めるしかないのだ。

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