勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 英国経済ニュース

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    日英間で、「円滑化協定(RAA)」が結ばれた。自衛隊と英軍が、それぞれの相手国で演習できる内容だ。日英同盟の調印は120年前。再び、両国が大西洋と太平洋の安全保障で手を携えることになった。次期戦闘機も共同開発も決まった。日英のほかにイタリアも加わる。

     

    次期戦闘機は、日本が開発主体となるが、他国への輸出も視野にある。これによって、日英伊は、次期戦闘機輸出を通して他国への外交強化できるというメリットが期待される。戦闘機を輸出すると、30年間程度は機体整備や部品供給面で密接な関係が維持できるという外交関係が生まれる。日英伊が、米国と連携しながら友好国づくりを行なえば、安全保障面でも大きく輪が広がるはずだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月12日付)は、「『日本、インド太平洋のハブに』日英安保 識者に聞く」と題する記事を掲載した。

     

    日本と英国は11日、自衛隊と英軍の往来をしやすくする「円滑化協定(RAA)」に署名した。昨年12月にはイタリアとともに次期戦闘機の共同開発を進めることでも合意した。進展する日英間の安全保障協力が両国関係やインド太平洋地域の安全保障環境にどのような効果をもたらすか、米欧の専門家に聞いた。

     

    英国際戦略研究所ジャパン・チェア、ロバート・ウォード氏

     

    日英伊の次期戦闘機の共同開発は、西側の安全保障の連合体づくりの一部分と捉えるべきだ。中国の軍拡による挑戦の規模は巨大で、米国もインド太平洋地域の安全保障の維持には複数の国が参加する必要があると認識している。

     

    (1)「欧州各国の関心や軍事的な資源は、進行中のウクライナ危機に集中し、他地域への余力が制約される懸念もある。日本はこの共同開発により、英国やイタリアのインド太平洋地域への関与や関心が高まることを期待していると思う。ロシアや中国の動きを踏まえれば、日米同盟にとどまらない重層的な安全保障のネットワークは不可欠だ。そうした意味で、日本がオーストラリアに続き英国と円滑化協定を結ぶのは、この広大なインド太平洋地域で志を同じくする国が機動性を持って共同活動するための促進剤となる。日本にとって英国がこの地域で存在感を発揮しようとしている状況は好ましい。関係国で交渉中の環太平洋経済連携協定(TPP)に英国が加盟することも、英国にインド太平洋への関与を続けてもらう一つの要因になる」

     

    日本が、安全保障面で欧州との関係を強化したことは画期的なことだ。日英伊は、海洋国家であり価値観が同一であることが関係性を安定化させるであろう。英国はTPPにも加盟する。23年中には結論が出る見込みだ。こうなると、日英関係は「隣組」という関係になる。これによって、中国へ安保面での抑止効果が期待できる。英国は、中国のTPP参加を「絶対阻止」と強い姿勢だ。

     

    (2)「日本にとっては、フランスも円滑化協定の交渉相手となり得る友好国だと思う。英仏はともにインド太平洋地域に関心を持つ軍事大国だ。日本もこの地域の安全保障の安定に貢献できる国をできるだけ多く引き込みたいと思っているだろう。中国に台湾への軍事侵攻を思いとどまらせる抑止力を高めるためにも、こうした日本を軸とした安保協力の広がりが重要だ」

     

    日本は、フランスとも円滑化協定を結ぶことを提案している。1月9日の日仏首脳会談で、2023年前半に外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2を開催する方針で一致した。これを契機に日仏間も安保面で緊密化するはずだ。

     

    英王立防衛安全保障研究所プロフェッソリアル・リサーチ・フェロー、トレバー・テイラー氏 

     

    日英伊の3カ国が、次期戦闘機開発に共同で取り組むという決定は驚くべきことだ。特に今まで日本は英国から装備を購入したことはあっても、このような性質の共同開発は米国以外のどの国とも行ってこなかった。

     

    (3)「この計画は、日英伊の(防衛関連の)ビジネスのつながりを生み出す。一般的にこうしたプロジェクトの寿命は30年以上と長く、長期間にわたり官民の双方で人的に密接な関係と交流の増加をもたらす。これは3カ国の防衛政策にとって非常に重要な効果だ。米国がこの計画に参加しないことは大きな困難ではないし、米政府は3カ国の共同開発を興味深く見守るだろう。2035年までのスケジュールで新しい戦闘機をつくり上げることは、技術的にも経済的にも大きな挑戦となる。失敗に終わる可能性は非常に低いと思うが、計画の遅延やコストの超過の可能性は現実的に見込んでおかなければならない」

     

    米国は、日本が広く欧州と安保面で協力関係強化を期待している。日英伊も次期戦闘機は2035年頃を目標にしている。下線部は、戦闘機輸出での副次的な外交メリットを指摘している。日英伊三ヶ国だけでなく、輸出先との関係強化という効果が期待される。

     

    (4)「ウクライナ危機の状況や英国の軍備・財政の現状を考えると、英国が東アジアに展開する莫大な軍事資源を持っているとは思えない。しかし、ある国の軍隊が他国に駐留するための後方支援や法的な枠組みを規定する円滑化協定の締結は、日英双方の共同行動を容易にする重要なものだ。現行の安全保障秩序に友好的ではない国に対し、日米協力だけでなく、他の先進国もインド太平洋地域の安保のために協力しようとしている印象を与える点でも意義があるだろう

     

    下線部は、主として中国を指している。英軍が、日本領で演習しているとなれば、抑止効果になろう。

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    英国は目下、次期首相になる保守党党首を巡って選挙運動中である。世論調査では、対中強硬論者のトラス外相が有利とされる。新政権が誕生すれば、対中政策は強硬姿勢に転じると見られている。

     

    中国へ進出している英国企業は、すでに欧米での反中感情の高まり見込んで、中国脱出の準備を始めていることが分った。英国産業連盟事務局長が、英国企業の動きをこのように解説する。英国は、歴史的に「負け戦」に加わらない嗅覚を持っている。自由世界は、中国とのデカップリング(分断)が進むと判断しているのだ。

     


    『大紀元』(8月2日付)は、「英数千の企業、中国とデカップリング進めるー英国産業連盟」と題する記事を掲載した。

     

    英国産業連盟(CBI)のトニー・ダンカー事務局長は、欧米での反中感情の高まりを見越して、英国内の数千の企業が中国との経済を切り離す「デカップリング」を進めていると述べた。

     

    (1)「ダンカー氏は、『フィナンシャル・タイムズ紙』の取材に応じ、コミュニケーションを取っているすべての企業は「サプライチェーンの見直しを行なっている」と強調。その理由として企業は「英国の政治家たちが中国から切り離された世界へと向かって進んでいくことは避けられない、と予測しているからだ」と述べた。また、中国との緊張が高まるなか、英国は「世界における新たな戦略的同盟関係」を必要としていると発言した。米国では、中国との切り離しに備え、企業の「レジリエンス(強靭さ)」構築の必要性が「話題の中心になっている」という。ダンカー氏によれば、中国の関係が悪化するにつれ、英国は新しい貿易相手を見つけ、欧州連合(EU)などとの関係を再構築する必要があるという。「再び良き友人となる必要がある」と語った」

    英国政治が、大きく「脱中国」へ向かっている以上、英国経済もこれに従って行動するというもの。これに伴い、英国は新たな戦略的同盟関係を必要とするとしている。EUとの関係復活も大きな課題になりそうだ。TPP(環太平洋経済連携協定)への加盟も目前にしており、アジアへ軸足を拡大する。日英関係が、一段と強化されるであろう。

     


    (2)「ジョンソン英首相の後任を選ぶ与党・保守党の党首選でも、対中国政策は主要な争点となっている。決選投票に進むリシ・
    スナク前財務相とリズ・トラス外相はともに、中国共産党政権がもたらす国家安全保障と経済安全保障の脅威に向けた対中戦略を公約に掲げている。トラス外相は、新首相になった場合、「北京の悪意ある影響力の拡大」に対抗するため、英連邦諸国との貿易を優先させるなど対中強硬姿勢で臨むと強調した。英連邦とはコモンウェルズと呼ばれ、旧大英帝国領土からなる56カ国の経済同盟。議長は英国首相が就く。スナク氏は、中国共産党を「英国と世界の安全保障上の今世紀最大の脅威」と呼び、英国に30カ所ある孔子学院をすべて閉鎖するほか、中国からのサイバー脅威に対抗するために「自由主義国の新しい国際同盟を構築する」と主張している」

     

    スナク前財務相は当初、中国融和姿勢を見せていたが党首選で不利であることが分かり強硬派へ転じた。トラス外相は、根っからの反中でありこの差を埋められないようだ。スナク氏は、中国共産党を「英国と世界の安全保障上の今世紀最大の脅威」と呼び、英国に30カ所ある孔子学院をすべて閉鎖すると強気を打ち出している。英国産業連盟は、こういう選挙戦を見て、どちらの候補が当選しても、対中離別は決定的と見ているに違いない。

     


    (3)「こうしたなか、英国の政府関係者や政治家は、英国における中国の経済的影響力の拡大に警戒感を強めている。クワシー・クワルテン商務長官7月20日は、1月4日に施行された国家安全保障・投資法に基づき、中国企業がマンチェスター大学からスマートカメラ技術を取得することを阻止したと発表した。同法に基づきクワルテン氏は、中国電子機器大手ウィングテック(
    聞泰科技)の子会社による、英半導体最大手ニューポート・ウェハー・ファブの買収に関する審査も主導している」

     

    英国は、すでに国内政策面で中国警戒姿勢をはっきりさせている。中国企業が、マンチェスター大学からスマートカメラ技術を取得することを阻止した。中国企業が、英国半導体最大手を買収する案件にも厳しい姿勢を見せているのだ。

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    「週休3日制」が、英国で試行する動きがはじまった。「最初は在宅勤務だった。今度は週休3日制だ。新型コロナウイルスの感染拡大前にはほとんど想像できなかった働き方が、現実のものとなりつつある」。英紙『フィナンシャル・タイムズ』(1月24日付)はこう報じた。いよいよ、その「想像もできなかった働き方」テストが始まったのだ。

     

    ビジネスマパーソンにとって、良いことかそうでないのか。人によって、受取り方は様々だろう。仕事を持つ「ママさん社員」にとっては、休日が一日増えて助かることは確かだ。その分、日常勤務の密度は上がる。日本でも、週休3日制議論が始まるであろう。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(6月8日付)は、「週休3日で生産性は変わるか、英で大規模実証実験」と題する記事を掲載した。

     

    英国の多数の企業が給与据え置きのままの週休3日制度を試験導入する。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受け、経営者が従業員の働き方の見直しを模索しているためだ。

     

    (1)「英企業約70社の労働者3300人以上は、週休3日でも生産性が落ちないかどうかを検証する6カ月の実証実験を始めた。ロンドン証券取引所の新興企業向け市場「AIM」に上場するIT企業「ワンディスコ」や新興デジタル銀行「アトムバンク」などは既に似た制度を導入しており、労働日数を減らすことで就業中の生産性を向上させ、従業員の士気向上にもつなげる狙いがある」

     

    週休3日制のカギは、生産性が上昇するかどうかであろう。生産性が落ちれば、企業は減益要因をつくるようなことになる。社員の士気を高め、生産性が上がる方法を見つけられれば、週休3日制は定着するであろう。

     


    (2)「柔軟な働き方の実験として、過去最大とうたうこのプロジェクトは、非営利組織「4デイ・ウィーク・グローバル」が立ち上げた。英シンクタンクのオートノミーや英ケンブリッジ大、英オックスフォード大、米ボストンカレッジも参画する。実証実験は、一部の経営者からの柔軟な働き方に対する反発に対応するものともなった。ロイター通信によると、米テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏は5月末、少なくとも週40時間のオフィス勤務を復活させるよう従業員にメールを送った。英官庁街ホワイトホールの公務員も閣僚にオフィス回帰を指示された」

     

    週休3日制が柔軟な働き方改革になれば、在宅勤務と組み合わせて、どういう結果が出るだろうか。テスラのイーロン・マスク氏のように、少なくとも週40時間のオフィス勤務が必要という見方もある。週休3日制が定着すれば、マスク氏も逆らえなくなろう。

     


    (3)「実験に参画する企業は教育、企業コンサルタントから銀行、IT、小売、人材紹介など幅広い分野に及ぶ。各社とも、研究者が生産性、福利厚生、環境や男女格差に与える影響を調査することに同意している。年内には、スコットランドやスペインでも週休3日の試行が始まる予定だ」

     

    実験に参加する業種は、各分野にわたっている。注目すべきは教育である。日本で実施されれば、義務教育に携わる教員の過剰労働は軽減されよう。年内に、英国のほかにスコットランドやスペインでも実施される。

     

    (4)「4デイ・ウィーク・グローバルのジョー・オコナーCEOは、英国は「週休3日を目指す世界的な潮流の最先端にいる」と話す。「競うべき新たな領域は生活の質であり、労働時間の短縮と生産性の向上に焦点を当てた働き方こそが競争力を高める手段となる」と認識する企業が増えているという。実験では休日の増加で労働者がどう変わるかを調べる。調査の要素となるのはストレス、仕事・生活への満足度、健康、睡眠、エネルギー消費や通勤などだ」

     

    週休3日制の狙いは、「競うべき新たな領域は生活の質であり、労働時間の短縮と生産性の向上に焦点を当てた働き方こそが競争力を高める手段」という認識だ。日本のように少子化が進む社会では、女性の負担を軽減する社会改革と同時に行なわれれば、意外に「日本再生」のカギになる可能性を見出すことになろう。

     


    (5)「実験に参加する「チャリティー銀行」のエド・シーゲルCEOは、柔軟な働き方の「ゴールポストをパンデミックが動かしてしまった」と指摘する。「20世紀的な週5日労働は、もはや21世紀の企業に適しているとは言えない。給与や福利厚生を維持した週休3日制は労働者の幸福度を上げ、企業の生産性や顧客体験、企業の社会的使命に等しくプラスの効果を与えるのは間違いない」と指摘」

     

    週休2日制は、20世紀の産物である。21世紀は、週休3日制によって人間らしい働き方=生き方を模索する時代である。このパラグラフでは、こう指摘している。皆さんの感想はいかがであろうか。 

     

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    ロシアが、ウクライナ侵攻を始めてすでに2ヶ月を経た。ロシア軍は、当初の軍備が25%も損耗していると報じられている。一方のウクライナ軍は、NATO(北大西洋条約機構)から武器弾薬の補充を受けている。ウクライナが、相対的に有利な立場になってきたと伝えられている。

     

    こうした状況を受けて、英国外相はこれまでの慎重論から一歩出て、ウクライナからロシア軍を押し出せとまで発言するようになった。

     


    英『BBC』(4月28日付)は、「トラス英外相、ロシアを『ウクライナ全土から押し出すべき』」と題する記事を掲載した。

     

    イギリスのリズ・トラス外相は4月27日、ロシア軍を「ウクライナ全土から」押し出さなければならないと発言した。

     

    (1)「ロンドン市長の官邸「マンション・ハウス」での基調講演でトラス外相は、ウクライナの勝利は西側諸国にとって「戦略的急務」となっていると語った。イギリスはこれまで、ロシアのプーチン大統領のウクライナ侵攻を「失敗させ、そう見せる必要がある」と述べるにとどまっていた。この日のトラス氏の発言は、ウクライナでの戦争をめぐるイギリスの目標を、これまでで最も明確に示したものといえる」

     

    イギリスは、これまでウクライナ戦争について慎重な見方に立ってきた。それが、ロシア軍をウクライナから押し出せと目標を明確化した。

     


    (2)「トラス外相は、西側の同盟諸国はウクライナへの支援を「倍増」しなくてはならないと強調。「ロシアをウクライナ全土から押し出すために、これまで以上に、より早く行動し続ける」と述べた。これは、ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退すべきとの考えを示唆したものとみられる。侵攻開始から1カ月の節目に、ロシアはその目的を「ドンバスの解放」と位置付けた。ここでいうドンバスとは主に、ウクライナのルハンスクとドネツクの両州を指している。これらの地域の3分の1以上はすでに、2014年に始まった紛争で親ロシア派の武装組織が制圧している」

    ロシアが、2014年にクリミアを占領して以来、行なってきたウクライナの領土奪取に対し、すべて取り戻すという目標設定である。英国が、ここまで高い目標を掲げたのは、軍事的に可能という前提があるのだろう。ロシア軍は、それだけ弱体化しているということかも知れない。

     

    西側諸国からの経済制裁で、ロシアは軍需部品が輸入できなくなっている。遅くも来年初めには、ロシアの軍需品生産がストップする見通しという。こういう詳細な情報を積み立てていけば、ウクライナ軍に有利な展開になるのだろう。

     


    (3)「トラス氏の野心的な目標は、全ての西側諸国と共有されているわけではない。武力によってであれ交渉によってであれ、達成は難しいとの懸念があるためだ。フランスやドイツの政府関係者からは、戦争の目的を明確にすればロシアを挑発するリスクがあるという慎重な声も出ている。それらの関係者は、ウクライナ防衛という表現に絡めて話をすることを好んでいる。トラス外相の発言は、目標を高く設定することで、ウクライナが今後、交渉の場に立った際に、政治的和解についてより有利に立てるようにしたいという西側諸国の思いを反映している」

     

    英国が、仏独の慎重な言動に比べて積極的なのは、英国防省が軍事情報を収集している結果であろう。前線の詳細な動きを把握しているのだ。

     


    (4)「トラス外相はまた、西側諸国は「経済的影響力」を使って、ロシアを西側の市場から排除すべきだと述べた。「グローバル経済へのアクセスは、ルールにのっとっているかで決められるべきだ」とトラス氏は指摘した。最大野党・労働党のデイヴィッド・ラミー影の外相は27日、トラス氏の演説は、保守党政府の10年超にわたる防衛・安全保障政策の「失敗を認めたように思える」と指摘した」

     

    ロシアが、再び周辺国を侵略しないようにするには、長期にわたり経済制裁を続けることだ。軍需生産の息を止めなければ、安全保障面で周辺国は安心できないだろう。

     


    (5)「トラス氏は演説の中で、西側諸国はロシアのさらなる侵攻を防ぐための対策を講じるべきだと訴えた。これには防衛費の増額も含まれるとし、北大西洋条約機構(NATO)が各国の拠出目標として設定している国内総生産(GDP)2%という数値は「上限ではなく下限と見るべきだ」と述べた。さらに、ロシアから脅威を受けている国々に対する武器供与にも積極的な姿勢を示した。「ウクライナだけでなく、西バルカン諸国やモルドヴァ、ジョージアといった国々が、主権と自由を維持する耐久力と能力を持てるようにするべきだ」

     

    NATO諸国が、国防費を増額することも大事である。だが、根本的にはロシアの軍需産業を復活させないことだ。ロシアは、世界45ヶ国へ武器輸出している。中国はその第二位である。日本の安全保障面からも、ロシアの武器輸出を止めなければならない。

     


    (6)「スウェーデンやフィンランドがNATO加盟を選んだ場合には「迅速に統合させることが必要だ」と述べた。「ウクライナの戦争は我々の戦争、全員の戦争だ。ウクライナの勝利は、我々全員の戦略的急務になっているからだ」、「重火器、戦車、戦闘機……倉庫の奥まで探し回って、生産能力を高める必要がある。そのすべてをする必要がある」、「私たちは慢心できない。ウクライナの運命はまだ拮抗(きっこう)している。はっきりさせておきたいのは、もしプーチン大統領が成功すれば欧州全体に甚大な悲劇が起こり、世界中に恐ろしい影響が出るということだ」と指摘した」

     

    スウェーデンやフィンランドがNATOへ加盟するとなれば、ロシアがウクライナ侵攻した意味がゼロになる。21世紀の現在、ロシアのように周辺国を侵略することは、これを以て最後にすべきだ。

     

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    日本政府は2月18日、TPP(環太平洋経済連携協定)への加盟を希望する英国の審査でルール分野の協議をほぼ終えたと発表した。データ流通や知的財産で、高いルール水準を堅持し、英国がこれをクリアしたという意味だ。今後は、最後の関税率引下げ交渉に入る。

     

    TPPへ加盟申請している中国にとって、良い知らせではない。英国が現行TPP規定をパスした以上、中国だけに規定緩和が許されないからだ。すでに、林芳正外相は2月12日、訪問先のオーストラリアで豪州のペイン外相と会談した。中国が加盟申請するTPPについて「基本的価値を守る」ことで一致した。これは、中国が国有企業の優遇などでTPPの基準を満たしていないことを指している。日豪は、TPP加盟基準を下げないと確認したのだ。

     


    『日本経済新聞』(2月19日付)は、「
    TPP ルール水準堅持 英加盟で協議 中国けん制」と題する記事を掲載した。

     

    政府は18日、TPPへの加盟を希望する英国の審査でルール分野の協議をほぼ終えたと発表した。今後、関税交渉に入る。同日、TPP加盟国の交渉官らがオンライン形式の会合で合意した。

     

    (1)「英国のトレベリアン国際貿易相は、「力強いTPPに加わるための画期的な節目だ。交渉のフィニッシュラインも見えてきた」とコメントした。英政府はトレベリアン氏が21日の週に日本やシンガポールなどを訪問すると発表した。市場アクセスといったTPPの残りの課題などについて話し合う見通しだ。作業部会の議長国である日本は、30日以内に関税撤廃率など市場アクセスの条件を提示するよう求めた。英国がいまの加盟国並みに高い水準の撤廃率を示せるかが焦点だ」

     

    英国は、TPPのハイレベルの諸規定にパスしたので、後は関税撤廃率などについて30日以内に高い撤廃率を提示できれば最終合格となろう。英国がここまでこぎつけてきて、関税率撤廃で立ち往生することにはなるまい。すでに、国内で調整済と思われる。

     


    (2)「TPPが定めるルール水準は、日中韓など15カ国が参加する東アジアの地域的な包括的経済連携よりも厳しい。中国のTPP加入を巡って、加盟国側は英国の適合審査を通じ、高いルール水準を堅持する姿勢を示した。山際大志郎経済財政・再生相は18日の記者会見で「例外なくハイスタンダードなレベルでなければ交渉は先に進まない」と強調した」

     

    TPP加盟国側は、英国審査に当たり中国の加盟申請の扱いが頭にあったはず。仮に、中国を加盟させたい国があったとすれば、対英国の審査でも条件緩和を提案した筈だ。それがなかったことは、中国加盟を暗黙裏に「否定」していると見られる。

     

    当の英国はTPPへ正式加盟後、中国の加盟審査を行なう側になる。その英国は、中国のTPP加盟阻止を旗印にしている。

     


    『日本経済新聞』(21年6月29日付)は、「『中国の途上国扱い是正を』 英貿易相インタビュー要旨」と題する記事を掲載した。

     

    (3)「中国は不透明な政府補助金や進出企業に対する強制的な技術移転政策、強制労働などの問題がある。TPPの取り決めはWTO(世界貿易機関)のルールよりも透明性の基準が高い水準にある。(TPP参加には)中国はもっと努力し、WTOルールを守る必要がある」

     

    英国が上げる中国のTPP加盟を困難視する理由。

    1)不透明な政府補助金=輸出を支援している

    2)進出企業に対する強制的な技術移転政策=違法な技術窃取

    3)強制労働=新疆ウイグル族への強制収容に伴う強制労働

     

    前記の3点は、致命的な問題である。中国が、これらを是正すると約束すれば、中国経済はもとより国家としての中国が成り立たなくなろう。新疆ウイグル族問題は、他の少数民族弾圧とも絡んでいるからだ。

     


    (4)「WTOの途上国の地位は、貿易を通じて人々を貧困から救い出すために支援を必要とする国にだけ活用されるべきだ。その点で中国は明らかに途上国ではない。WTOが創設された1995年時点では中国経済は米国の1割の規模だったが、今は状況が全く異なる」

     

    WTOの地位で、中国が自主申告によって、途上国に止まるのは不合理としている。中国は、TPP加盟交渉の際に、このWTOにおける「途上国枠」を利用し加盟条件の引下げを要請するに違いない。英国は、この中国式策略を見抜いて、「反対」姿勢を打ち出しているのであろう。英国は、香港問題で中国から「一国二制度」を破棄された苦い経験がある。「江戸の仇は長崎で討つ」で、TPP加盟阻止に全力を挙げるはず。そのように広言しているのだ。



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