勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 英国経済ニュース

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    トランプ米大統領が5月8日、慌ただしく発表した英国との貿易交渉合意は、米国にとって多少のメリットがある程度の内容と報じられている。ロイターもウォール・ストリート・ジャーナルも、ほぼ同じ見方である。だが、米英貿易協定には鉄鋼や医薬品で、中国を排除する項目が含まれているとの報道が出てきた。これが、今後の相互関税撤廃における交渉でひな形になるとフィナンシャル・タイムズが指摘する。

    『フィナンシャル・タイムズ』(5月9日付)は、「米英貿易協定、中国を供給網から締め出しか」と題する記事を掲載した。

    英国は、米国との2国間貿易協定を結ぶことで合意した際、鉄鋼および医薬品業界に対する米国の経済安全保障上の厳しい「条件」を受け入れた。外交関係者は、米国が中国を他国の戦略的に重要なサプライチェーン(供給網)から締め出すためのひな型にしようとしていると見ている。


    (1)「8日の合意では、両業界への関税措置が緩和されるが、英国がサプライチェーンの安全や「関連する生産施設の所有権」について「米国の要求を満たすため迅速に行動する」ことが条件となっている。英政府関係者は、この条項が一部の第三国に適用されると話したが、トランプ米大統領が中国を標的にしていると示唆したことを認めた」

    米国は、生産施設が中国企業に買収されて、製品が米国へ輸出しないようにと警戒している。

    (2)「今回の協定は、トランプ政権が、戦略的に重要な輸入品への中国の関与を制限するという長年の要求を強めていることを示すものだと貿易の専門家らは指摘している。英ビジネス貿易省の元職員アリー・レニソン氏は、「米国は英国をはじめ各国に貿易の詳細を公開し、特に鉄鋼など重要分野で中国との貿易や投資から距離を置くよう求めている」と述べた」

    米国は、鉄鋼などの戦略産業が中国支配下に入ることを警戒している。中国資本が英国籍企業に入り込むと、米国が選別できなくなるリスクを抱えることになるからだ。


    (3)「4月2日にトランプ氏が関税政策を発表した後、米英両政府は1カ月あまりという短期間の交渉を経て5ページの確認文書を作成した。英国製品への関税引き下げは、特定の輸入品が米国の安全保障に影響を与えるかについての調査の結果次第だとされる。調査は、米国通商拡大法第232条に基づき行われる。また、英国製品への関税引き下げは、「共通の安全保障上の優先事項」と両国の「バランスの取れた貿易関係」に基づくとされている」

    米国が、英国企業製品の関税を引下げても、中国資本が英国企業を買収すれば「元の木阿弥」になる。

    (4)「英コンサルティング会社フリント・グローバルの貿易実務責任者のサム・ロウ氏は「他国、特にベトナムやカンボジアなど東南アジアの輸出拠点との合意でも同じような条件が課されるだろう」と予想する。だが、欧州連合(EU)の貿易担当高官は、米英合意の中国に関する条件がEUと米国との貿易協定交渉に予期せぬ深刻な影響を及ぼす可能性があるとしている。トランプ政権との交渉に携わる2人の関係者は、フィナンシャル・タイムズ(FT)に対し、米英合意に含まれる経済安全保障の要素をEUが米国との協定に取り入れるのは難しいとの見方を示した」

    米国と英国との協定内容は、ベトナムやカンボジアなど東南アジアの輸出拠点にも適用されるとみられている。EU企業への適応可能性も議論されている。一方、EUへの適応は困難との見方も。


    (5)「米英合意では、英国のアルミニウム製品への関税が引き下げられる。ある英政府関係者は、「英国の輸入関税は他国より大幅に低くなるため、米国は他国や企業が英国から米国への輸出を利用して規制をかいくぐることを警戒している。この点については今後詳細を詰める」と述べた。現在、イタリアのコンサルティング会社SECニューゲートに所属するレニソン氏は、米国の要求は勢いを増している経済安全保障の傾向に沿っていると見ている。同氏はバイデン前政権も1期目のトランプ政権が導入した鉄鋼製品への関税を撤廃する前に、中国系鉄鋼会社に関して英当局による監査を要求していた点に言及した。また、さらなる交渉を経て締結される最終合意が英国をより包括的に米国の対中貿易政策と連動させるものになった場合、中国が英国に何らかの報復措置を取るとの見方を示した」

    米国は、英国のアルミニウム製品への関税引下げでも、中国企業に利用されることを警戒している。


    (6)「英鉄鋼業界団体のUKスチールは、合意文書が不明瞭だと指摘している。関税をゼロにするという記述はなく、サプライチェーンへの条件についても疑問がある。またクオータ(輸入枠)が設定される可能性も指摘されている。UKスチールは、「英国の鉄鋼業界が米国との貿易協定で利益を得るには多くの難題があることが合意に向けた条件で明らかになった。当業界への影響を十分に評価するためには、満たすべきサプライチェーンへの条件やクオータの定義、またこれらがいつから実施されるのか全面的に理解する必要がある」と指摘した」

    英国のUKスチールによれば、米国との貿易協定で利益を得るには多くの難題があると指摘する。それほど,きめ細かい規程があるのだろう。米国が抱く中国への警戒心の強さを示している。


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    英国で4日に投開票された総選挙は、労働党が6割を超える議席(412)を獲得して圧勝した。保守党から14年ぶりに政権を奪還した。労働党のスターマー党首が5日に新首相に就き、閣僚を任命して
    新内閣が発足した。保守党は190年の歴史で最少の議席数(121)に終わった。欧州連合(EU)離脱が助長した生活費高騰などで国民から見放された形だ。

     

    保守党の不人気から、早くから労働党優勢が取り沙汰されてきた。労働党政権になれば、財政立直しの一環で富裕層増税が必至とみられてきた。このため、富裕層は早くから移民する準備をしてきた。こうした予想が的中した形である。

     

    『ロイター』(7月5日付)は、「英労働党、大勝がもたらす力と落とし穴 問われる経済立て直し」と題するコラムを掲載した。

     

    圧倒的勝利には大きな責任が伴う。英国で4日に投開票された総選挙(下院、定数650)は、出口調査でスターマー党首率いる野党労働党が410議席を獲得する勢いで、政権交代が実現する見通しとなった。

     

    (1)「労働党の議席は他党の合計を170議席上回る見込みで、新首相に就くスターマー氏は英経済立て直しへ速やかに動ける。だが、英国が自ら課す財政ルールや党の選挙公約を踏まえると、対応には時間がかかる見通しで、富裕層増税が必要になる可能性もある。投資家は混乱に満ちた14年間の保守党政権後の新たな政局安定を歓迎するだろう。しかし、ここからが正念場だ。新政権は英経済の成長を取り戻す必要がある」

     

    労働党は,下院議席の6割を占めるという圧倒的多数を握った。政権の安定度は抜群となるが、英国経済の立直しが求められている。

     

    (2)「国際通貨基金(IMF)によると、今年の英国内総生産(GDP)成長率見通しはわずか0.5%と、2020年の新型コロナ流行前10年間の年平均(2%)を大きく下回る。スターマー氏は最近のインタビューで年2.5%の成長について語っている。問題は、同氏と財務相に就く見通しのレイチェル・リーブス氏には経済活性化に十分な資金がないことだ。労働党は有権者や市場の不安を回避するため、公的債務がGDPに占める割合を5年間で低下させるという財政ルールの順守を誓った。英予算責任局によると、これは2028~29年までに追加公共支出を90億ポンド以下に抑えることを意味する。労働党は所得や企業に対する主要な税を増やさないことなども公約している」

     

    スターマー氏は、年2.5%成長を目標にするが、肝心の財源が不足している。財政ルールの順守を公約している以上、残るは富裕層増税である。

     

    (3)「他党に対する議席数での優位を踏まえれば、スターマー、リーブス両氏は理論上、これらの公約を破棄することもできるが、実際には当面そうした可能性は低い。英投資家は22年910月のトラス政権による財源の裏付けのない財政拡張で金融市場が混乱した経験に今も取りつかれている。次期政権の最初の優先課題はおそらく、スナク政権が残した公共支出の不足を埋めることだろう。財政問題研究所(IFS)によると、その額は年間200億ポンドに達する可能性がある」

     

    スナク前政権が残した公共投資不足は、年間200億ポンドに達する。この資金調達が課題である。

     

    (4)「新首相は速やかに歳入を確保する必要がある。富への課税は選択肢になる。キャピタルゲイン税や相続税など富裕税が現在もたらす税収は年間400億ポンドにとどまり、5800億ポンドを超える所得税収を大きく下回る。IFSの計算ツールによると、キャピタルゲイン税の上限税率を現行の20%から25%に引き上げ、死亡時まで資産を保持した人に対する現行の免税措置を廃止するとともに、事業売却に対する減税措置を打ち切れば、年60億ポンドの税収増が見込める

     

    財源確保策として、富裕税の確保が取り上げられる。相続税やキャピタルゲイン税の免税措置を廃止案が有力である。

     

    (5)「英国の年間公共投資は、現在の対GDP比2.4%から28~29年には1.8%に低下すると予想されている。これを防ぐには年260億ポンド以上の歳出が必要になる。この穴を埋めるために財政ルールからの解放が必要になるのはほぼ確実だ。スターマー氏にその気がなければ、総選挙での大勝で約束された安定も結局は停滞に終わるかもしれない」

     

    公共投資の維持が,景気対策の柱になる。年260億ポンド以上の歳出が必要である。この財源を財政赤字に頼らずに確保するには富裕層増税に依存するしかない。これを実行できるか。新政権の前途は、これにかかっている。

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    中国不動産業界は、これまで国内の不動産バブルで集めた資金を海外物件購入へ向けてきたが、ついに撤退の羽目となっている。中国の投資家とその債権者が、世界中で保有する不動産資産を売りに出している結果だ。中国国内の不動産危機が深刻化する中、不動産相場下落を承知で「売り出し中」の看板を掲げている。

     

    世界の商業用オフィスは、パンデミックを契機に在宅勤務が普及して需要減に見舞われている。高金利下という悪条件も重なり、世界不動産業界は最悪局面に遭遇している。中国不動産業界は、こうした悪条件下で物件処分を迫られている。

     

    『ブルームバーグ』(2月9日付)は、「世界の不動産市場、ダメージ判明へ 中国勢の不良資産売り始まる」と題する記事を掲載した。

     

    中国勢が資産売却で確保できる資金が、業界全体がどれほどの苦境に陥っているのか、明確かつ最終的な数値を示すことになるとみられる。

     

    (1)「米不動産投資会社スターウッド・キャピタル・グループのバリー・スターンリヒト最高経営責任者(CEO)は最近、金利上昇に端を発した世界的な不況により、オフィス不動産の価値だけでもすでに1兆ドル(約149兆円)余りが失われたと述べた。しかし、売却された資産が非常に少なく、最近のデータをほとんど鑑定士が持っていないため、そのダメージの正確な大きさはまだ分かっていない。世界の商業用不動産成約件数は昨年、10年ぶりの低水準となったが、資産売却の遅れが巨額の含み損を隠しているのではと規制・監督当局や市場は神経をとがらせている」

     

    世界の不動産業界は、高金利と需要減で深刻な事態だ。物件を売りに出してもすぐに成約できないほどだ。中国不動産業界は、海外物件の処分で苦闘中である。

     

    (2)「中国では地主やデベロッパーが、国内事業の立て直しや債務返済のため、たとえ財務面で打撃を受けることになっても、今すぐ現金が必要だと判断。過剰な借り入れに対する政府の取り締まりにより、かつて大手とされていたデベロッパーでさえ、無傷でいられるところはほとんどない。例えば、広東省広州に本社を置く中国奥園集団は60億ドルの債務再編計画の真っただ中だが、データプロバイダーのアルタス・グループによると、傘下の部門がカナダのトロントで持っていた区画を2021年の購入価格から約45%割り引いて昨年後半に売却した」

     

    中国不動産開発企業は、国内事業の再編を迫られている。海外物件の処分によるキャッシュ化が、債務返済で不可欠になっているのだ。海外物件は、大幅値下げをしなければ処分できず、にっちもさっちもいかない状態だ。

     

    (3)「世茂集団のロンドンのオフィスビルが昨年、売却された。事情に詳しい関係者によれば、22年に売却で合意していたが実際には売れ残っていた物件で、売値はその時から約15%引き下げられた。欧州ではこれまで、中国勢が所有する資産の売却は限られていたが、ここに来て増え始めている。広州富力地産(広州R&F)はロンドンで手がけている不動産プロジェクトを売却する。6日遅くに香港で提出された届け出によれば、広州R&Fはロンドンにある高層ビルの持ち株会社を売却する同意書に署名。このビルは13億4000万ポンド(約2500億円)と評価されてきたが、代価として求めているのは、広州R&Fのドル建て債務の一部引き受けと現金わずか1香港ドル(約19円)だ

     

    下線だけの説明では、理解不能であるので以下に補足する。

    富力地産は、ロンドンにある高層ビル「マーケット・タワーズ」の持ち株会社を売却する同意書に署名した。買い手は香港の不動産会社、中渝置地(CCランド)の特別目的事業体(SPV)ロンドン・ワン。同社は名目手数料として富力地産に1香港ドルを支払い、少なくとも8億ドル相当のドル建て債務を引き受けるというのだ。13億4000万ポンドの評価を受けている物件が、8億ドル債務の肩代わりを条件に投げ売りされるのだ。『ブルームバーグ』(2月7日付)が報じた。

     

    (4)「オーストラリアを含め、欧州以外でも不良資産売りが加速している。豪州の市場ではほんの数年前まで野心的な中国のデベロッパーが主要プレーヤーだったが、今はそのほとんどが買収をやめ、代わりにプロジェクトの売却に軸足を移している。地元メディアによると、多額の負債を抱え中国不動産危機の象徴となっている碧桂園傘下のリスランドがメルボルン郊外の用地を2億5000万豪ドル(約242億円)で売却。また、別の現地報道によれば、同社は最近、シドニーの開発資産を約2億4000万豪ドルで手放した」

     

    中国不動産は、豪州でも物件を買いあさってきた。それが今、一転して売却に回っている。資金繰りを付けるべく現金化を迫られているのだ。

     

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    歴史は繰り返すとされるが、日英同盟(1902~23年)解消から100年、再び日英は「準同盟」の関係を結ぶ。日英同盟は、旧ロシアの軍事的進出に対抗するものであった。今回の「準同盟」は、中ロの膨張政策を抑止すべく日英伊の三カ国が次世代戦闘機の共同開発で合意したことだ。戦闘機では約40年間、日英が共同歩調を取ることになるので、「準同盟」とされる理由だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月25日付)は、「日英安保で接近、40年先へ準同盟 次期戦闘機で『結婚』」と題する記事を掲載した。

    「短い恋愛ではなく結婚する。40年のプログラムで後戻りはできない」。ウォレス英国防相は3月の来日時にこう語った。

     

    (1)「2022年12月にイタリアを含む3カ国で次期戦闘機を共同開発すると合意した。日本は同盟国の米国以外と初めて戦闘機をつくる。英国とは次期戦闘機の共同開発で、40年先まで続く結束を打ち出す。日英首相は23年1月に自衛隊と英軍が共同訓練しやすくする円滑化協定にも署名した。日本と欧州の安全保障での協調が目立つ。岸田文雄首相は7月、日本の首相として初参加だった22年に引き続いて北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席した。「日NATO協力を新時代の挑戦に対応し、新たな高みに引き上げる」。首相は12日にNATO首脳会議やストルテンベルグNATO事務総長との会談を終え、こう強調した」

     

    従来、アジアと欧州は遠い関係にあった。それが、ロシアのウクライナ侵攻と中国のロシア支持が、アジアと欧州の距離を縮めている。英国はEUを離脱して、TPP(環太平洋経済連携協定)へ正式加盟するという環境変化もあり、日英が「準同盟」へ進む条件が熟した。英国は、中国から香港に関する「一国二制度」の協定を破棄されたこともあり、中国へは格別の警戒心を向けている。その点でも、日英が共同歩調とる理由になった。

     

    (2)「日欧接近の象徴が日英伊による次期戦闘機となる。24年までに基本設計を固めて35年の配備を目指す。そこから30年ほどは主力戦闘機として使う。あわせて40年先を見据える。各国の投資額も今後10年で計250億ポンド(およそ4兆5000億円)規模に達する見込みだ。途中で物別れするわけにはいかない。地理的に離れた日欧が安保で連携するのは武力による一方的な現状変更をウクライナ侵攻で眼前にしたためだ。首相は「欧州とインド太平洋の安保は不可分だ」と唱え、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化へ日欧協力を急いだ」

     

    次世代戦闘機の共同開発は、戦闘機の補修や部品の供給もあるので長期の協力関係が前提になる。100年前の日英同盟は、米国が執拗に英国へ終了を迫った背景がある。米国が、日本の軍事的プレゼンスを警戒した結果だ。そのときすでに米国は、日本との開戦を前提に準備をしていた。

     

    (3)「防衛省幹部は、「日英には一時代をともにする覚悟が双方にある」と語る。第1次世界大戦の開戦から第2次世界大戦の終結までが30年程度、第2次世界大戦終結から冷戦終結までが40年超だった。最重要装備を通じた40年先を見据えた協力は切っても切れない「準同盟」を意味する。岸田首相は21年10月の就任後、最初の外国訪問先に英国を選んだ。戦後最長の連続在任期間だった外相時代に最も気が合ったというジョンソン氏が当時英首相だった。個人的な信頼関係をテコに日英を経済だけでなく安保でも欠かせない関係に育てた」

     

    日英は、ともに皇室(王室)制度を擁していることや、日本の政治制度は英国を模範としたこともあり親近感が強い。

     

    (4)「英国にとっても欧州連合(EU)離脱後に「グローバル・ブリテン」を掲げてインド太平洋地域への関与を強める流れに沿っていた。5月に広島市で会談した岸田首相とスナク英首相は広島アコードを出し「我々は傑出して緊密なパートナーだ」とうたった。ロシアと対峙する米欧の軍事同盟のNATOとの間ではサイバー分野などでの新たな協力計画を策定した。この後にEUとの定期首脳協議も開き、安保に関する外相級戦略対話の創設を決めた。軍事力を増強する中国の抑止のために日本は欧州各国とも距離を詰める」

     

    日本は、中国への抑止力を強めるためにも英国を初めNATOとの関係強化が必要になっている。共同防衛構想は、防衛が経済的に「安上がり」で済む手段である。NATOは結成以来、一度も戦闘行為に巻き込まれていないことが、それを証明している。

     

     

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    環太平洋経済連携協定(TPP)に参加する11カ国は、英国の加盟を認める方針を固めた。3月31日にオンラインで閣僚会議を開き合意する見通しという。

     

    日本が主導するTPPは、世界で最も自由な貿易協定とされている。英国は、TPPから離脱した米国が再交渉に前向きになる可能性もあると見ているほどだ。EU(欧州連合)から離脱しただけに英国は、TPP加盟にかける期待が大きい。英国が、TPP加盟を求めた理由は明らかである。インド太平洋は、世界で最も急成長している地域であり、経済安全保障の観点からも最も重要な地域であるからだ。英国は、ブレグジット戦略の中核にインド太平洋への傾斜を据えている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月29日付)は、「英国がTPP加盟へ 発足国以外で初めて 31日に閣僚会議」と題する記事を掲載した。

     

    環太平洋経済連携協定(TPP)に参加する11カ国は英国の加盟を認める方針を固めた。31日にオンラインで閣僚会議を開き合意する見通しだ。発足時の11カ国以外で加盟を認めるのは初めて。日本やオーストラリア、シンガポールなどインド太平洋地域が中心だったTPPが、欧州も含めた経済圏に発展する。

     

    (1)「TPPは、2016年2月に米国を含めた12カ国で署名したが、米国のトランプ前政権が17年に離脱を表明した。18年に11カ国が参加する自由貿易協定(FTA)として発効した。英国が21年2月に加盟国以外で初めて参加を申請し、6月に加入交渉の開始を決めた。協定の細部などを詰め、閣僚級が参加するTPP委員会を23年7月に開いて協定への署名を目指す。その後、各国が自国の議会での承認手続きなどをとることで、英国の加盟が実現する」

     

    英国は、EU離脱によって通商政策の独立を維持できるという考えである。EUの過度に保守的な考えや厳格な規制の束縛から解放されたというのだ。英国は、主要7カ国(G7)の一員であり、自由貿易で大きな利益を得られるとしている。

     

    政治的な意味から言えば、日英関係が一層、深まることになろう。日英伊三カ国の次世代戦闘機の共同開発によって、少なくも数十年間の濃密な外交関係樹立の基盤が整ったと指摘されている。日英同盟の復活のような濃密な関係が樹立されると期待されているのだ。

     

    (2)「英政府によると同国の加盟により、世界全体の国内総生産(GDP)に占めるTPP加盟国の合計額は12%から15%に拡大する。英国にとってTPP加盟は、欧州連合(EU)離脱後の外交方針である「インド太平洋地域への関与強化」の目玉政策の一つだった。英国の加盟が認められればTPPの拡大に弾みがつく。21年9月には中国と台湾が参加を申請した。エクアドル、コスタリカ、ウルグアイも申請している」

     

    アジアには、英国の旧植民地が多い。地の利を知り尽くしている訳だ。こういう経緯から言えば、欧州の英国がアジアのTPPへ加盟するのも突飛なことではない。

     

    (3)「今後は、中国と台湾の申請をどう扱うかが焦点になる。中国は不透明な政府補助金や進出企業への技術移転強制などの問題も指摘される。日本やオーストラリアなどは新たに加わる英国とともに、TPPの協定の水準を高いまま維持できるよう中国を厳格に審査する構えだ」

     

    英国は、香港問題で中国に「一国二制度」を破棄された関係上、中国をTPPへ加盟させることに強い感情的な反発を見せている。最近は、そういう反発を隠しているが、TPP加盟が決定すれば、そろりと「中国反対」へ動き出そう。

     

    こういう問題を抜きにしても、中国のTPP加盟は、補助金問題と国有企業の二点で加盟は「アウト」である。審査するまでもないのだ。

     

    (4)「英貿易統計によると、英国の総貿易額に占めるTPP加盟国とのモノ・サービスの貿易比率は7%(21年)で、EU(44%)や米国(17%)と比べると大きくない。英政府は今後のアジアの経済成長を取り込み、得意とする金融や法律サービスの輸出が増やせれば英経済の成長への貢献度が増すとみている」

     

    英国は、ビジネスで欧州からアジアへ引っ越してきたようなものである。これは、アジアの潜在的な経済成長力に注目している「先物買い」といえる。老大国のEUよりも、伸び代ははるかに大きいという判断だ。

     

     

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