中国不動産業界は、これまで国内の不動産バブルで集めた資金を海外物件購入へ向けてきたが、ついに撤退の羽目となっている。中国の投資家とその債権者が、世界中で保有する不動産資産を売りに出している結果だ。中国国内の不動産危機が深刻化する中、不動産相場下落を承知で「売り出し中」の看板を掲げている。
世界の商業用オフィスは、パンデミックを契機に在宅勤務が普及して需要減に見舞われている。高金利下という悪条件も重なり、世界不動産業界は最悪局面に遭遇している。中国不動産業界は、こうした悪条件下で物件処分を迫られている。
『ブルームバーグ』(2月9日付)は、「世界の不動産市場、ダメージ判明へ 中国勢の不良資産売り始まる」と題する記事を掲載した。
中国勢が資産売却で確保できる資金が、業界全体がどれほどの苦境に陥っているのか、明確かつ最終的な数値を示すことになるとみられる。
(1)「米不動産投資会社スターウッド・キャピタル・グループのバリー・スターンリヒト最高経営責任者(CEO)は最近、金利上昇に端を発した世界的な不況により、オフィス不動産の価値だけでもすでに1兆ドル(約149兆円)余りが失われたと述べた。しかし、売却された資産が非常に少なく、最近のデータをほとんど鑑定士が持っていないため、そのダメージの正確な大きさはまだ分かっていない。世界の商業用不動産成約件数は昨年、10年ぶりの低水準となったが、資産売却の遅れが巨額の含み損を隠しているのではと規制・監督当局や市場は神経をとがらせている」
世界の不動産業界は、高金利と需要減で深刻な事態だ。物件を売りに出してもすぐに成約できないほどだ。中国不動産業界は、海外物件の処分で苦闘中である。
(2)「中国では地主やデベロッパーが、国内事業の立て直しや債務返済のため、たとえ財務面で打撃を受けることになっても、今すぐ現金が必要だと判断。過剰な借り入れに対する政府の取り締まりにより、かつて大手とされていたデベロッパーでさえ、無傷でいられるところはほとんどない。例えば、広東省広州に本社を置く中国奥園集団は60億ドルの債務再編計画の真っただ中だが、データプロバイダーのアルタス・グループによると、傘下の部門がカナダのトロントで持っていた区画を2021年の購入価格から約45%割り引いて昨年後半に売却した」
中国不動産開発企業は、国内事業の再編を迫られている。海外物件の処分によるキャッシュ化が、債務返済で不可欠になっているのだ。海外物件は、大幅値下げをしなければ処分できず、にっちもさっちもいかない状態だ。
(3)「世茂集団のロンドンのオフィスビルが昨年、売却された。事情に詳しい関係者によれば、22年に売却で合意していたが実際には売れ残っていた物件で、売値はその時から約15%引き下げられた。欧州ではこれまで、中国勢が所有する資産の売却は限られていたが、ここに来て増え始めている。広州富力地産(広州R&F)はロンドンで手がけている不動産プロジェクトを売却する。6日遅くに香港で提出された届け出によれば、広州R&Fはロンドンにある高層ビルの持ち株会社を売却する同意書に署名。このビルは13億4000万ポンド(約2500億円)と評価されてきたが、代価として求めているのは、広州R&Fのドル建て債務の一部引き受けと現金わずか1香港ドル(約19円)だ」
下線だけの説明では、理解不能であるので以下に補足する。
富力地産は、ロンドンにある高層ビル「マーケット・タワーズ」の持ち株会社を売却する同意書に署名した。買い手は香港の不動産会社、中渝置地(CCランド)の特別目的事業体(SPV)ロンドン・ワン。同社は名目手数料として富力地産に1香港ドルを支払い、少なくとも8億ドル相当のドル建て債務を引き受けるというのだ。13億4000万ポンドの評価を受けている物件が、8億ドル債務の肩代わりを条件に投げ売りされるのだ。『ブルームバーグ』(2月7日付)が報じた。
(4)「オーストラリアを含め、欧州以外でも不良資産売りが加速している。豪州の市場ではほんの数年前まで野心的な中国のデベロッパーが主要プレーヤーだったが、今はそのほとんどが買収をやめ、代わりにプロジェクトの売却に軸足を移している。地元メディアによると、多額の負債を抱え中国不動産危機の象徴となっている碧桂園傘下のリスランドがメルボルン郊外の用地を2億5000万豪ドル(約242億円)で売却。また、別の現地報道によれば、同社は最近、シドニーの開発資産を約2億4000万豪ドルで手放した」
中国不動産は、豪州でも物件を買いあさってきた。それが今、一転して売却に回っている。資金繰りを付けるべく現金化を迫られているのだ。